109 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:27:40.55 ID:Dx4RVTjx0
出発して一時間ほどで目的地に到着した。
ピクニックコースが近い川沿いの道だ。
本来車は乗り入れ禁止だがそこには目を瞑り
長い直線の道へと入っていく。
車から降りて三人が飛行機を組み立て始める。
今回はブーンがいるので作業が早かった。
組みあがった飛行機を見て感に浸る三人。
早速ドンキで買ってきた飛行服っぽいものを着る。
順番に思い思いのポーズで飛行機と写真を撮っていく。
最後にクーを入れて四人で写真を撮った。
そしてロープで軽トラと飛行機を繋げる。
110 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:33:25.28 ID:Dx4RVTjx0
('A`) 「ついにこの時がきたな。」
ドクオが緊張のためタバコを何本も吸っていた。
ブーンもショボンもクーも緊張していた。
ドクオが運転席に乗り込む。
ショボンは外から携帯電話でブーンに指示を出す役目。
目的地に着いてから少し時間が経っていたためギャラリーがいる。
それが三人を余計に緊張させた。
('A`) 「そろそろ飛ばすぞ。ロープのフックをうまく外せよ。」
111 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:34:27.91 ID:Dx4RVTjx0
ブーンに軽く注意をして軽トラをゆっくり走らせる。
ロープのテンションがあがり引っ張られる飛行機。
そして徐々に軽トラを加速させていく。
時速37キロになった瞬間、飛行機が浮かび始めた。
(´・ω・`)「ブーン、昇降舵のレバー回して。
ゆっくり高度を上げていって。」
飛行機が少しずつ地面から離れていく。
五メートルほど上昇したところでまた指示を出す。
(´・ω・`)「ブーン、フックを外して。そのままその姿勢を保って。」
フックがはずれ、よたよたと滑空する飛行機。
ギャラリーが歓声を上げる。
ドクオが軽トラを端によせ強引に止める。
急いでドアを開け飛行機を見ようとする。
ちょうどそのときドクオの上をブーンが飛んでいった。
はじめて見る真下からの機体。
興奮を隠し切れず叫びだす。
('∀`) 「いけぇ、ブーン!!
どうだ気持ちは?最高か?」
112 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:35:35.64 ID:Dx4RVTjx0
( ゜ω゜)「ふぉおおおおおお。」
初めて見る景色。
ブーンにとって最初で最後のフライト。
フックを外して機体を安定させてから
ドクオとショボン、ギャラリーそしてクーに手を振る。
その後、飛行機は乱暴に着地した。
軽トラでドクオが迎えに行く。
('∀`) 「どうだったブーン、飛べたな、飛べたな。」
誰かが通報したらしくパトカーがやってきた。
エンジンは積んでいないので航空法にはひっかからず
クーを含め四人がその場で厳重注意を受けた。
そして、その日の新聞に小さくブーンたちのことが載った。
お騒がせ少年、ギャラリーの応援のなか飛行機を飛ばす、と。
113 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:36:31.00 ID:Dx4RVTjx0
帰り道、今度はドクオとショボンが荷台に乗った。
往きでやったように、二人が座席に座り叫んでいる。
軽トラは笑いと充実感を積んで走っていった。
115 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:39:45.72 ID:Dx4RVTjx0
翌日、ブーンが自宅でクーを待っている。
クーがいつもの時間にいつもの声で部屋へと入ってくる。
川 ゚ -゚)「さて今日は何の話をする?」
その日は、昨日の興奮が冷めないブーンが空を飛んだときの話をする。
その熱っぽい口調を見てクーが羨ましそうに言う。
川 ゚ -゚)「いいな、私も飛んでみたいもんだ。」
ブーンは空を飛んだときの興奮をしゃべり続ける。
だが、急に声のトーンが下がった。
( ´ω`)「でも、もうすぐ僕は死んでしまいますお。
もっともっとあんな気持ちを味わい続けたいですお。」
( ;ω;)「いやだお、いやだお、死にたくないお。
まだ生きていたいお。もっと生きていたいお。」
ブーンが突然泣き出す。明るく振舞っていても死が目前に迫っている。
そんな状態で落ち着いてなどいられない。
クーの前でかっこ悪いところを見せたくなかったがどうしようもない。
心臓の奥から冷たい液体があふれ出してくる。
116 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:42:05.52 ID:Dx4RVTjx0
川 ゚ -゚)「落ち着きたまえブーン君。」
一言だけ言う。
クーにかっこ悪いところを見せたと思い
泣きながらもブーンは黙る。
これ以上かっこ悪いところ見せてたまるかと。
心臓にがんばって蓋をする。
川 ゚ -゚)「半年間ブーン君を見てきたが、ブーン君はとても立派だったぞ。
確実に死が迫っている恐怖のなか、自分のしたいことを見つけ
それに向かって努力してきた。普通そんなことはできないぞ。
私はとても立派なことだと思う。」
ブーンを褒める。
慰めでもなんでもなく、クーは思ったことを正直に伝えた。
( ;ω;)「そうですかお。」
川 ゚ -゚)「ああ、君は私が見てきた男性の中で一番かっこいいぞ。」
117 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:48:09.32 ID:Dx4RVTjx0
そう言ったあと、ブーンがクーにお願いをする。
今まで恥ずかしくて言えなかったこと。
拒否されるのがこわかったこと。
( ;ω;)「お願いがあるお、少しでいいから僕を抱いて甘やかしてくれお。」
クーは無言でブーンの近くにより向かい合って座った。
そしてブーンの頭を自分の胸に押し付けた。
川 ゚ -゚)「こんな感じでいいか。」
クーの行動に拒否の感情が見つからなかったので
ブーンはそのままの状態で泣いた。
心臓の音が心地いい。
自分の心臓とはまったく違うものみたいに思えた。
118 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:49:46.81 ID:Dx4RVTjx0
ブーンがまだ聞いてなかったことを、抱きつきながら聞く。
( ;ω;)「そういえば、なんでクーさんはカウンセラーになったんだお?」
ほんの一瞬間クーの体がこわばった。
それを敏感に感じ取るブーン。
聞いてはいけなかったかなと思う。
だがクーが話し始めた。
川 ゚ -゚)「そうだな。私がカウンセラーになった理由か。」
クーにはカウンセラーになった理由があった。
でもそれを誰かに話したことはなかった。
理解してもらえないだろうし、しようともしないと考えたから。
それに説明する過程で相手が自分に引け目を感じると思うような内容だったから。
しかし、ブーンなら理解しようとするんじゃないかという期待もあった。
誰かに理解してもらいたいという感情もあった。
半年間つきあってきて多分ブーンならわかってくれると思ってた。
だから話した。
119 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:53:17.42 ID:Dx4RVTjx0
川 ゚ -゚)「私はな、人間を知りたいんだ。
何でそんな感情になるのか、何でそんな考えになるのか
自分では自分のことしかわからないからな。」
ここまではブーンもおとなしく聞いていた。
だが、ある疑問を口にしてからそれはおこった。
( ;ω;)「わかったお。でも何で半年病患者なんですかお?」
単純な疑問だった。
なぜ普通のカウンセラーではなく半年病のカウンセラーなのか。
患者が恐怖に耐え切れずに、また健康な体のクーを嫉妬して
襲い掛かる可能性もあるのに。
クーの体がまた少しこわばった。
川 ゚ -゚)「それはな半年病患者のほうが都合がいいからだ。
確実に迫る死の中、健康体で死の実感をできず
亡くなっていく人の心の動きが一番身近で見れるからな。
体は健康なのだからその分、心の葛藤が激しいんだ。
私はそんな人の心の葛藤を分解して知りたいんだ。」
120 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:55:24.09 ID:Dx4RVTjx0
何事も簡潔に結論から話すクーの癖があだになった。
誰もがこの話をここまで聞いたら半年病患者を利用しているのかと
思える内容だ。
自分の疑問のために、人の死に向かう葛藤を喜んでいるようにも思える。
ブーンも同じように思った。
自分はクーに利用されていただけだと。
いままでのどんな話もクーが自分のためだけに行ってきたのだと。
クーに抱きついていたブーンだが、途端にクーの体が汚らしいものに思え
体を乱暴に引き離す。
122 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:59:05.16 ID:Dx4RVTjx0
( ;ω;)「ふざけるなお。僕はお前の疑問に答えるために半年病になったんじゃないお。
僕は死にたくないお。なのにお前はそんな人の心で楽しんでるのかお。
今まで話したことは全部、お前の楽しみだって言いたいのかお。」
大声で言い募るブーン。
クーは言い方がまずかったかと思い話を続けようとする。
ここから先は誰にも言ったことがない話。
誰も理解してくれないと決め付けていた話
川 ゚ -゚)「いやブーン君それは違うぞ。
私は昔、だん…」
初めて人に話そうと思ったがクーの言葉をブーンがさえぎる。
( ;ω;)「何がちがうんだお、言い訳なんて聞きたくないお。
出てけ、ここから出てけぇ!!」
123 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 16:02:22.06 ID:Dx4RVTjx0
信じていた相手から裏切られたと思うと、もうその相手の顔も見たくなかった。
ましてや恋心まで抱いていた。
そんな自分が情けなく思いブーンは怒鳴った。
川;゚ -゚)「話を聞いてくれブーン君。私は…」
クーは必死でわかってもらおうとする。
ブーンの前でこんな顔をするのこれまでに一回もない。
だが、怒りと失望感で興奮しているブーンは気づかない。
なおも出てけと怒鳴る。
もうそれしか言わないと決めたように。
川;゚ -゚)「わかった、とりあえず今日は帰ろう。
いつでもいい、落ち着いたら連絡をくれ。」
( ;ω;)「早く出てけぇ!!」
クーが帰っていった。ブーンは見送りもしない。
一人になった部屋で半年病が発覚したときのように
怒りにまかせて物にあたりまくった。
124 名前: 自衛官(愛知県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 16:03:03.29 ID:Dx4RVTjx0
( ;ω;)「信じてたのに、信頼していたのに、信用していたのに。」
大声でわめき散らす。
そしてブーンが薬瓶を壁に投げつける。
粉々になり中の錠剤が床に散らばった。
睡眠薬だ。
それを手でかき集め口に入れる。
ガラス片も混じっていたがお構いなしに噛んで胃に流し込む。
もうどうなってもよかった。どうせあと一週間もあれば自分は死ぬ。
そのままブーンは睡眠薬が効いてくるまで暴れ続けた。
162 名前: 電話交換手(愛知県)[] 投稿日:2007/03/17(土) 06:03:11.97 ID:IJhAbRmk0
その後四日間ブーンは眠り続けた。
買い物から帰ってきたカーチャンが倒れているブーンを見つけ救急車を呼んだのだ。
ブーンが目を覚ます一日前。
ガレージにドクオとショボンがいた。
ドクオは黙々とプロペラを作っていながら、ただブーンが来るのを待っていた。
木を削る音以外何も聞こえない。
先にその空間を壊したのはドクオだった。
('A`) 「ブーンのヤツ連絡もないな。
死んじまったなら親が連絡くれるはずなんだけどな。」
ドクオの言葉に返事はない。
今、ショボンは何もしていない。
ただいつも座るポジションでじっと目をつぶっている。
ショボンはブーンに対して怒りの感情を育てていた。
163 名前: 電話交換手(愛知県)[] 投稿日:2007/03/17(土) 06:05:57.99 ID:IJhAbRmk0
('A`) 「空を飛んだ日からこないな。」
ドクオが呟く。
その声にはまったくと言っていいほど張りがない。
まるで切れたピアノ線のように。
('A`) 「なあ、そろそろ出場募集の期限がくるんだけどどうする?」
ドクオが話しかけるがショボンは何も言わない。
だが真剣な表情をしている。
自分の信じるものを守るかのような表情を。
また少し時間がたった。
ショボンが急に立ち上がりドクオに向かい宣言した。
(´・ω・`)「僕はもう降りるよ。」
164 名前: 電話交換手(愛知県)[] 投稿日:2007/03/17(土) 06:07:35.63 ID:IJhAbRmk0
突然だった。
('A`;) 「おま、どうした?」
(´・ω・`)「ドックン、何でこの計画をやろうとしたか覚えている?」
急に降りると言い出したショボンがドクオに尋ねる。
('A`;) 「そらお前、ブーンの夢を叶える為だろ。」
ブーンが計画を持ち出したときのことを思い出す。
あの日のことは二人ともよく覚えている。
急に計画を話したブーン。
それを笑う二人。
そしてその後、笑ったことの後悔。
人生の中で一番後悔したことを聞いたら二人はこのことを言うだろう。
165 名前: 電話交換手(愛知県)[] 投稿日:2007/03/17(土) 06:09:13.72 ID:IJhAbRmk0
(´・ω・`)「そうだよ。ブーンの夢をかなえるためだよ。
そのために僕は自分の時間を犠牲にしてやってきた。」
('A`♯) 「お前、犠牲って自分から参加したんじゃねぇか。」
ドクオがショボンの言葉に怒る。
ショボンが時間を犠牲にして、なんて恩着せがましい言い方をしたから。
ドクオは一度もそんなことを思わなかった。
そんなことを思わないためにも参加するときブーンに厳しいことを言った。
自分にも厳しくなるために。
(´・ω・`)「僕はブーンが夢を叶えたいって言ったから参加したんだよ。
目標はコンテストに出て感動を取り戻すことだったんじゃないの。
ブーンがそれをしたいって言うから参加したんだよ。
そのため、いろんなルールを決めたしそれを守ってきた。
でもブーンは空を飛んだ日から来ないんだよ。
もう満足したから来ないと僕たちに思われてもしょうがないよ。
それにもし、そうだったらブーンの言った夢はただ空を飛びたいだけじゃんか。
そのために僕らは利用されただけなんだよ。ブーンのわがままに。
やってるときは犠牲だなんて思わなかったよ。
でもそうとしか思えないから言ってるんだよ。」
166 名前: 電話交換手(愛知県)[] 投稿日:2007/03/17(土) 06:10:56.27 ID:IJhAbRmk0
('A`♯) 「でもあいつだって半年病で苦しんでんだぜ。
ちょっとぐらい許してやろうって思わないのかよ。」
ブーンに言ったことと矛盾しているがそれがドクオの本心だった。
半年病の甘えは見せるなといったが、実際は少しぐらいならいいと思ってた。
(´・ω・`)「思うよ。でもね、僕が参加した理由はブーンの夢をかなえるためだよ。
あの時、僕は別に目標を持っていなかった。少し半年病のブーンが羨ましいと思ったよ。
僕も半年病になれば目標がもてるのかなって。
半年で死んでもそれならいいじゃんって思ったよ。
だけどね、そんな情けない自分が嫌だったよ。
そんな気持ちを抱いたからブーンを手伝おうって思ったよ。
けど、ブーンはもう来ないじゃないか。
僕の目標はブーンの夢を叶えることだったんだ。
ブーンがもう夢を叶えたっていうなら僕はもうやる必要はないよ。」
167 名前: 電話交換手(愛知県)[] 投稿日:2007/03/17(土) 06:11:28.84 ID:IJhAbRmk0
そう言ってガレージから出て行こうとした。
ドクオはショボンを思いとどませる言葉がなかった。
ショボンの言うことは筋が通っていた。
('A`) 「わかったよ。でも俺はブーンのためと自分のためでもあった。
言っただろ。こんなドラマチックなことやってみたかったって。
俺の目標はまだ終わってないんだ。
だからそれまでこのガレージ貸してくんねぇかな。」
(´・ω・`)「それはいいよ。でも僕は手伝わないからね。」
そう言い外へ出て行くショボン。
ドクオは一人では広いガレージでプロペラを削り始めた。
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