1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 19:39:12.37 ID:9hSGRbsm0
ここはどこ?
ここは"森"。
かつて全てが存在し、全てを呑み込んだ緑の迷宮。
君はだれ?
君は旅人。
東の国亡き地より流れ出て、遥か西に辿り着いた流浪人。
私は名無しの傍観者。
森の中を彷徨い、旅人の軌跡を書き記す筆者。
ようこそ森へ、時と空間の交錯する地へ。
今から私が語るのは、森を歩いた君の軌跡。
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 19:39:38.36 ID:9hSGRbsm0
( ^ω^)春とブーンと小さな村のようです
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 19:41:43.38 ID:9hSGRbsm0
突然だが、君は行き倒れだ。
ロクな準備もしないで森に踏み入り、何日も道に迷った挙句、倒れてしまったロクデナシだ。
――が、しかし、世の中捨てる神あれば拾う神あり。
君は運良く、付近の住人に助けられた。
「――ここは……?」
君は身体を起こし、辺りを見回す。
台所、テーブル、食器棚、物置、そして君の座るベッド。
君はとても小さな、質素な家にいると分かるだろう。
( ^ω^)「! ……気がつきましたかお?」
傍らから、声。
君は振り向く。
そして、彼と顔を見合わせた。
ニコニコとした、人懐っこい丸顔。
身体はまだ大きくは無く、齢は十四・五だろうか。
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 19:44:11.44 ID:9hSGRbsm0
「君が助けてくれたのか?」
君は少年に、問う。
( ^ω^)「ええ、そうですお。薬草を採りに行ったら、倒れてて、ビックリですお」
少年はニッコリ笑って、答えた。
「ありがとう」
君もニコッと微笑み、礼を言った。
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 19:46:29.85 ID:9hSGRbsm0
君が来たのは小さな、とても小さな村だった。
木々に囲まれた地で、小さな畑を耕し、小さな動物を捕まえて暮らしを得る。
そんな小さな、村。
( ^ω^)「みんな、いい人なんですお」
少年は名を、ブーンと言った。
ブーンは君を外に連れ出し、村を案内してくれた。
ヨボヨボの村長、優しい先生、力自慢の大工、カッコいい狩人。
そして、
ξ*゚听)ξ「ブーン! おかえりー!」
小さな少年の、小さな恋人。
サラサラで、可愛らしく巻かれた金髪。
ほんのり紅く染まった頬。
東に住んでいた君には珍しい、白い人だった。
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 19:48:03.09 ID:9hSGRbsm0
(*^ω^)「おっおっ、ただいまだお。薬草いっーぱいとって来たお!」
少年は顔を綻ばせて、もっていた袋を少女に見せる。
少女がその中身を見て、思わぬ成果に感嘆の声を上げる。
君はその微笑ましい光景を、遠い日の自分に重ねながら、眺めていた。
ξ゚听)ξ「あっ! その人が例の行き倒れの無用心旅人?」
君と彼女は一応、初対面。
予想外の辛辣な言葉が、君の胸にグサグサ、突き刺さる。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 19:49:25.67 ID:9hSGRbsm0
(;^ω^)「ツン……初対面の人にそりゃないお」
少年は良識を持っているようで、君はフォローに胸を撫で下ろした。
君は少女に軽く自己紹介をした。
ξ;゚听)ξ「えっ、あ! その、ゴメンなさい! 私ったらいつものクセで……」
少女はブーンの言葉に慌てて、ペコリと頭を下げた。
君は顔を上げた彼女に手を差し出し、互いに手を握り交わした。
聞くと、彼女の名前はツンというそうで。
この村の医者の娘で、ブーンとは幼馴染だという。
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 19:50:43.75 ID:9hSGRbsm0
互いに信頼し、親密に接しているようでなんとも微笑ましい。
君は小さなカップルに、国がまだ在ったころの自分を重ねる。
『川 ゚ -゚)「今日はいっぱい採れたんだな。よし、腕によりを掛けて、美味しいキノコ雑炊を作ってやろう」』
十何年も昔。
山奥の寒村で共に暮らした、姉と自分の姿を。
ふと、君は空を見上げた。
あの日と同じ、柔らかな陽光が緑を照らしていた。
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 19:51:07.21 ID:9hSGRbsm0
そして微風に揺れる木の葉から、見たことも無い、とても綺麗な虫が飛び立った。
東では見たことの無い、珍しい虫。
旅人の性なのか、君は思わずそれを追い駆けたくなる。
そして君は――
1.村の外へ行こうとするそれを、追い駆けた。
2.グッと堪え、それを見送った。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 19:51:54.65 ID:xHCkgytt0
1
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:03:03.24 ID:9hSGRbsm0
村の外へ行こうとするそれを、追い駆けた。
ブーンが共にいることなど気にせず、ヒラヒラと宙を舞うそれを追い駆けた。
そして、
「……ここはどこだ」
自分の位置に気が付いた。
君は村からかなり遠くに来てしまったのだろう、辺りには鮮やかな緑など、一つも無い。
肝心の虫にも逃げられてしまい、散々だ。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:03:46.34 ID:9hSGRbsm0
「村の外にこんな焼け野原が……」
こんな焼け野原――そう、そこは焼け野原だった。
辺り一面、灰色、灰色、灰色。
生命一つ存在しない、死の空間。
ここで君は一つ、気付く。
「村はなんで無事なんだ……?」
辺り一面、燃え尽きているのだ。
木々をさらに媒介して、もっと燃え広がって、村まで焼き尽くしてもおかしくはない。
むしろ、村が無事なのが不思議。
「村長さんにでも、聞いてみるか」
君は焼け野原を後にした。
幸いにも元来た方向から、煙がモクモクと上がっているのが見えたので、村はあっちだと分かることが出来た。
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:04:32.87 ID:9hSGRbsm0
――目の前に存在した、不思議な光景に困惑していた。
困惑しながらも探究心には火が着き、君はヨボヨボ村長の家に向かった。
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:06:08.13 ID:9hSGRbsm0
/ ,' 3 「……おや、何か用かね? 東からの旅人さん」
村長の家に入るとそこにはヨボヨボ村長――荒巻さん、もう七十を数えるという森の生き字引、らしい。
その人と、もう一人の知らない人が居た。
君は軽く会釈し、もう一人に目を向ける。
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:09:23.03 ID:9hSGRbsm0
( ^Д^)「お、彼が例の旅人さんですか。申し訳ないが、荒巻さんに用なら私の方が先でね、少し待って欲しい」
よく肥えた、顔に張り付いた仮面の様な笑顔の男。
この時点ではまだ、君は面識が無い人間。
( ^Д^)「ああ、自己紹介がまだでしたね。私は商人のプギャー、都と村々を行き来して小銭を稼いでいる男さ。この村の、出身なんだ」
これが商人のプギャーと君の、最初で最後の出会い。
彼は君に値踏みする様な視線を送り――実際に、値踏みをしていた。
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:10:33.48 ID:9hSGRbsm0
( ^Д^)「ふむふむ……東作りの胸当てと手甲に、黒熊毛のマント、業物っぽい長脇差……」
君はこの薄汚い男に嫌悪感を抱く。
思わず、手が長ドスの柄に伸びる。
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:11:38.74 ID:9hSGRbsm0
( ^Д^)「よし! どうですお兄さん、西の果ての森のさらに西! 森に栄えし都の大発明! 誰でも簡単に火を着けられるこの"火付け棒"! 一本如何かな? 勿論タダ!」
プギャーは懐から、何かを摘んでサッと取り出した。
先端の赤い、小さな棒。
君は見た事も無い珍品に、殺意を忘れて釘付けになった。
――でも、君がいくら待っても、火は着かない
( ^Д^)「……あ、実演しないとだめだね! よっ、と」
男は革靴の裏、ザラザラした滑り止めに勢い良く棒を擦り付けた。
――すると、簡単に火が着いた。
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:13:11.96 ID:9hSGRbsm0
( ^Д^)「さっ、あなたもこれをどーぞ。使って見れば、きっと欲しくなりますよ」
この火付け棒、中々の優れ物。
君はこの棒があれば、旅がどれだけ楽になるか、考える。
考えて、より一層欲しくなる。
しかしこの一本を受け取ったら、追加の品でどれだけボッタくられるか、分からない。
この男の目は夜の闇のように暗く、底が見えない。
君は――
1.手を伸ばした。
2.首を横に振った。
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:13:42.69 ID:Hd3AGz4n0
2
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:28:37.77 ID:9hSGRbsm0
首を横に振った。
「大切な商品でしょう。私なんかには勿体無い」
君はなけなしの金と便利な品を天秤に掛け、前者を選んだ。
( ^Д^)「あら、そうですか……それは残念。しかし、あなたもおかしな人ですねえ。この村の人たちは皆この品を手にとって、買って行きましたよ。買わないとかプギャーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ちょっとカチンと来て、君は思わず踵を返してしまった。
とうに村長への用事など、好奇心と怒りで頭の片隅に追いやられていた。
/ ,' 3 「言い過ぎじゃよ、プギャーさん」
戸を閉める直前、そう言う村長の声が聞こえた。
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:29:50.33 ID:9hSGRbsm0
「バカにしやがって……」
外に出て思わず、左手で壁を殴りつけた。
ドン! と大きな音がし、
(;><)y-・~~「!? ひ、ひぃっ!」
見知らぬ若い男がビックリ、何かを捨てて走り去って行った。
その何か、白い細い物体はブスブスと煙を上げている。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:30:06.52 ID:9hSGRbsm0
「……何だろう?」
男に悪いことをしたなと罪悪感を感じつつ、君はその白い物体に近付き、拾い上げる。
――紙巻タバコ、とんでもない高級品だった。
さらに近くには、先程の火付け棒らしき燃えカスもあった。
「……危ないな」
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:30:31.73 ID:9hSGRbsm0
――危ないな、率直にそう思った。
これだけ簡単に火を着けられるのだから、今のようなポイ捨ても簡単に出来るのだろう。
火を大事にしなくてもいいのだ、すぐ着けられるから。
火の後始末は昔からちゃんとしろと言われて来た、が、しかし、今ほどそれを強く感じることもない。
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:32:15.34 ID:9hSGRbsm0
君は村長の家を後にし、ブラブラ歩きながら物思いに耽っていた。
そして、ドン。
ぶつかって初めて、ぶつかったことに気付いた。
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:32:55.19 ID:9hSGRbsm0
J( 'ー`)し「あいたたた、ごめんなさい私ったらまた――あら、旅人さんじゃありませんか。こんにちわ」
倒れたのは、村一番の弓の使い手とブーンから紹介された女性、カーチャンと言う美しい女性だった。
「こちらこそすいません、お怪我は?」
君は尻餅をついた彼女に手を差し伸べ、彼女は君の手を取って立ち上がる。
狩人にしてはスベスベした、滑らかで綺麗な手だ。
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:33:42.96 ID:9hSGRbsm0
J( 'ー`)し「こんなところでどうしたんですか? ブーン君はまたツンちゃんの所に行っちゃったのかしら?」
彼女は首を傾げて微笑み、年に似合わぬ可愛らしさを演出する。
君にはとても、ブーン曰く"熊の額を100m先から鉄の矢で貫く狩人"には見えない。
君は彼女にブーンとは逸れてしまったことを告げ、愛想笑いを返した。
J( 'ー`)し「あらあら……それじゃあ立ち話もなんですし、私の家にいらっしゃいませんか?」
君は普通の男。
カーチャンは普段お目に掛かれない様な、凄い美人。
君は――
1.「それじゃあ、そうしましょうか」
2.「だが断る」
3.「ババア! 結婚してくれ!」
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:36:21.46 ID:xHCkgytt0
3wwwwwwww
42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:37:57.67 ID:9hSGRbsm0
「ババア! 結婚してくれ!」
――叫んだ、心の底から叫んだ、かつて愛した姉のこと等微塵も気にせず叫んだ、反省はしていない。
J( 'ー`)し「あら、冗談がお上手なんですね。それじゃあ行きましょうか」
カーチャンは彼女の流れるような黒髪の如く、軽やかに受け流した。
彼女の家は村の中心から少し離れた所にあり、村の入口から多少歩かなければならない。
だから君は彼女を後ろから観察する時間を持てた。
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:38:43.65 ID:9hSGRbsm0
彼女は、恐らく、狩りから帰ってきたばかりなのだろう、背中に矢筒を、左手に弓を握っているのが見える。
しかし何かが足りない――君はその何かを思い浮かべることが出来ない。
J( 'ー`)し「どうぞ、入ってくださいな。すぐにお茶を用意しますね」
そして君が気付くと、既に君達は目的地に到着していた。
彼女に促され、君は足を踏み入れる。
――女性にしてはシンプルで、飾り気の無い部屋だった。
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:39:22.50 ID:9hSGRbsm0
狩人の家となれば、そこらじゅうに毛皮や骨でも飾ってあるものだと思うだろう。
だが、彼女の家にはそんなものは存在していない。
ふと君の目が、窓の外へと向く――そこには、いくつもの墓が在った。
窓脇には勝手口が設けられており、容易に出入りが出来るようだ。
君は――
1.足を動かし、勝手口のドアに手を伸ばした。
2.あれは誰の墓なのかと、訊ねた。
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:40:22.28 ID:R0qPY8sH0
2
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 20:59:53.97 ID:9hSGRbsm0
あれは誰の墓なのかと、訊ねた。
J( 'ー`)し「……私が殺めて来た、動物さん達のお墓です」
少しの間を置いて、カーチャンが答えた。
女性らしい、と言えば女性らしいのだろうか。
彼女は見た目だけでなく、本当に心優しい女性だった。
道理で部屋に毛皮や骨が無い筈である。
「毛皮と骨は、全部あそこに?」
確認。
J( 'ー`)し「はい……お金に困った時はプギャーさんに買って頂きますが、それ以外は」
正答。
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:00:58.96 ID:9hSGRbsm0
J( 'ー`)し「今日はあそこに入る子が増えなくて、少し安心しました……ウフフ、狩人失格ですね、私」
あそこに入る子、つまり獲物。
君は先程辿り着けなかった答えに今、辿り着く。
「あなた程の名手が、獲物を取り逃がしたんですか?」
しかし、ブーンの話からするとそれは考えられない。
彼女は"1km離れた大虎を一撃で葬り去る"弓手、肩書きが少々大きかろうが小さかろうが、この周辺にいる動物を取り逃がすとは考え難い。
J( 'ー`)し「いえ、今日は一匹も捕まられなかったんです。まるで何かから逃げてしまったように、森にはなんにもいなかったんですよ……こんなこと、この辺りじゃ狼の群がやってくるか、火事でも起きないとないのに。不思議ですよね」
森にはなんにもいなかった。
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:02:43.33 ID:9hSGRbsm0
「なんにも――いなかった?」
森にはなんにもいなかった。
J( 'ー`)し「ええ、なんにも」
森には"なんにもいなかった"。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:03:31.47 ID:9hSGRbsm0
君は気付く。
君が見た森も、"なんにもいなかった"。
それどころか、"なにもなかった"。
「まさか……森が焼けてたりとか、したんですか?」
確認。
J( 'ー`)し「? いえ、森はいつものままですが……? 本当に御冗談がお好きなんですね」
誤答。
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:04:11.87 ID:9hSGRbsm0
カーチャンはクスクス笑い、君は愕然とする。
先程見たあの光景はなんだったのか
そして、
「お、お茶ご馳走様でした! それでは!」
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:04:35.19 ID:9hSGRbsm0
――ついに気付いた。
焼け崩れた森の木々。
火付け棒と紙巻煙草。
自分と村人の、矛盾。
君は気付いた、違和感の正体に――自分から遠ざけられていた真実に。
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:07:15.66 ID:9hSGRbsm0
「ブーン!」
カーチャンの家を飛び出した君は、すぐさまブーンの家へと駆け込んだ。
(;^ω^)「は、はいぃ!?」
彼はタイミング良く、帰宅していた。
鬼気迫る表情の君、ビビッた少年は手にしていたポットを垂直にしたまま――溢れたお茶で火傷した。
(;^ω^)「うぼぁあっぢゃあっ!!」
ああ哀れ。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:08:02.15 ID:9hSGRbsm0
(;^ω^)「ひーひーふー、ひーひーふー……と、突然どうしたんですお? ビックリして手がおっきくなっちゃいましたお」
彼の手は、確かに、赤く腫れ上がっていた。
相当熱かったのだろう――でも、君にはそんなの関係ねぇ。
「はぐらかそうとするな。俺は今、いや――」
「――ここはどこだ? この村はなんなんだ?」
君はブーンの肩を掴み、彼の瞳をじっと見つめる。
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:08:37.73 ID:9hSGRbsm0
そして彼の目の色が、
( ^ω^)「……そうですか、気付いて貰えたんですかお」
――変わった。
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:09:18.29 ID:9hSGRbsm0
「気付いた……?」
ブーンの黒真珠のようだった瞳は今、紅く輝き、もはや人ではない存在であることを君に伝える。
彼はゆっくりと、口を開いた。
( ^ω^)「旅人さん、今からあなたが見聞した物を言い当てますお」
君は少年の超常的な雰囲気に息を呑み、静かに目を見続ける。
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:09:48.53 ID:9hSGRbsm0
( ^ω^)「先ず一つ目、村の外の森」
一つ。
( ^ω^)「二つ目、ビロードが吸っていた紙巻煙草と、火付け棒」
二つ。
( ^ω^)「最後、外の森が緑に見える村人」
三つ。
全問正解。
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:11:07.33 ID:9hSGRbsm0
「……一体君は」
驚きの色を隠せず、目を見開く君。
( ^ω^)「ブーン。この数日前まで村だった地の、村人の少年だった人間ですお」
ブーンはゆっくり、ゆっくり語りだす
( ^ω^)「数日前、行商人のプギャーさんがこの村に帰ってきましたお」
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:12:15.65 ID:9hSGRbsm0
――プギャーさんは火付け棒をいっぱい買い付けて来て、村のみんなに一本一本配り歩いてたんですお。
みんなは勿論大喜びして、プギャーさんにいっぱい売って貰ったんですお。
でも、プギャーさんは村に喜びと同時に、怒りと悲しみの種もつれて来た。
それがビロード、プギャーさんの息子ですお。
ビロードは小心者のクセに悪ぶって、自分を隠すためにすぐに暴力を振るうわで、それはそれはみんなから嫌われてたんですお。
村の皆はビロードと関わりたくないから、ビロードを見ると避けて通る。
だからビロードはいつも一人、裏を返せばやりたい放題だったんですお。
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:13:14.51 ID:9hSGRbsm0
親のプギャーさんはとってもいい人、でも放任主義で、そんな不良息子を心底溺愛。
欲しいものはなんでも買い与えて、叱ることは絶対に無い。
誰からも叱られなかったビロードは、手の着けられない我侭野郎になってしまったんですお。
そして、ついにビロードが事件を起こしたんですお。
アイツが捨てた紙巻煙草の吸殻と、火付け棒のカスが森に引火――火はたちまち、村を取り囲んでしまいましたお。
村人は逃げることも出来ず、ただ自分の家に、村に火が広がっていくのを見ていることしか出来なかったんですお。
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:13:33.31 ID:9hSGRbsm0
村は全焼、村人はみんな死亡。
悲しい悲しい、春の悲劇。
小さな村で起きた惨事。
( ^ω^)「……そして僕達村人は今、死んだのに、旅人さんの前に立っている。何故なんですかお? それだけが分からないんですお」
死んだはずの少年は、君に問いかける。
彼の最後の質問を君に投げ掛ける。
君は――
1.「伝えるため、じゃないかな」
2.「俺を助けてくれるため、だろう?」
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:13:58.31 ID:pNBv4HJq0
1
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:16:06.61 ID:9hSGRbsm0
「伝えるため、じゃないかな」
――そう、答えた。
( ^ω^)「伝えるため……?」
ブーンは目を丸くした。
「この小さな、平和な村の存在を。火の恐ろしさを。俺に伝えるためさ」
君はニコッと微笑を返した。
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:16:36.73 ID:9hSGRbsm0
( ^ω^)「なるほど……じゃあ、その想いに森が応えてくれたんですおね」
ブーンの体が、淡い光に包まれ始める。
いや、ブーンだけではない。
椅子が、テーブルが、部屋が――村全体が光の粒子となりはじめる。
「森が会わしてくれたんだ、きっと……ああ、最後に聞いていいか?」
そして君の、彼への最後の質問。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:17:06.95 ID:9hSGRbsm0
「都ってのは、どの方角に行けばいいんだ?」
ブーンは光に消える直前、万遍の笑みを浮かべ、
( ^ω^)「フフ、西の果ての森のさらに西! 森に栄えし都有り! ……ですお!」
役目を果たし、この世から去った。
「……ありがとう」
光が見えなくなった後、君の周りに残ったのは焼け野原となった村だった。
君は静かに、涙を流す。
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/08(月) 21:18:18.55 ID:9hSGRbsm0
春の森は人に優しく、生命を包み込む。
しかし、人の営みに直接介入することは適わない。
人が滅びるのは自然の意思ではない、人の意思なのだ。
君は歩く、西へ向かって。
その道中にあるだろう、見知らぬものとの出会いに胸を高鳴らせ、
少しづつ近付いてくる夏の香りに、瞳を輝かせ、
歩く、歩く、遥かな西へ。
( ^ω^)春とブーンと小さな村のようです、完。