( ^ω^)ブーン系小説完結作品集('A`) 〜俺は( ^ω^)のペットのようです 後編〜

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当サイトはブーン系小説の完結作品集 です。 読み物系は嫌いって方はご退場ください


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166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 21:59:55.77 ID:dtE6Oyd50
ツンはなめらかに手をすべらせる。
頬からあご、鼻、それからくちびる、ぐるっと回って頭の方まで。
少し雨の湿気を吸って濡れた俺の髪の毛を
くしゃくしゃとなでる。


ξ゚听)ξ「・・・ナナみたい」


やがてツンは、ぽつりと言った。

俺「ナナ?」

( ^ω^)「ツンが昔飼ってたペットの名前だお」

ξ゚听)ξ「ナナもこんな風にさらさらで綺麗な毛をしてた。
      ナナもこんな風に触らせてくれた・・・・」

ツンは細い指で俺の頭をなでながら
独り言のようにつぶやく。

ξ゚听)ξ「やさしくて賢くて、ナナは私の自慢だった。
      ブーンと一緒にいっぱい遊んだ。陽の光の当たる場所で・・・三人で・・・」


173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 22:16:24.71 ID:dtE6Oyd50

ξ゚听)ξ「・・・かえりたい」

ツンはいつの間にか
光を反射しない目からぽろぽろと涙を流していた。

ブーンと二人でぎょっとして、けれど頭に手を添えられている俺は動けなくて、
どうしていいか判らないのでとにかく黙って固まっていた。

ξ゚听)ξ「帰りたい。ブーン。帰りたいよ。

      またあの公園に行きたい。子供みたいに走り回りたい。       

      ドクオたちにも会いたい。ママとパパの顔が見たい。

      ブーンが見たい。ブーンの顔が見たいよ。ブーン・・・・・・」


ぽろぽろと、とめどなく涙を流してツンは言った。

( ^ω^)「・・・帰れるお」

ブーンはツンの頭をぽんぽんとはたいて、とびきり優しい笑顔で言った。

( ^ω^)「だってお医者さんが言ってたお。ツンの『よくなりたい』っていう
      気持ちが何より大切だって。
      だから、きっともうツンは大丈夫だお!
      注射も手術も怖くないお。退院したらいっぱいいっぱい外で遊ぶお!」


210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 23:15:15.64 ID:dtE6Oyd50
それからツンとブーンは二人でぼそぼそと話し合った。
ちゃんと薬を飲むんだとか、ドクオたちもお見舞いに来たがっているとか、
自分の病気にちゃんと正面から向き合うんだとか、いろいろ。
ブーンはずっとツンの手を握り締めていた。
ツンはブーンのいう事のいちいちに
うん、うん、とうなずいていた。

会話の端々から、
表面上は強がっていてもずっと手術を受けるのを怖がっていて、
ブーンはその臆病風に吹かれたツンをどうにかしたいと思っていたこととかが
俺にもなんとなくうかがい知れた。


( ^ω^)「それじゃあツン、さすがにもう寝なきゃいけないお。
      こんな時間に急に来てゴメンだったお」

ξ゚听)ξ「ううん、いいの。すごく嬉しかった。ブーンのおかげで勇気が湧いたもの。
      きちんと手術を受けて、絶対この目を治すんだって思ったもの。
      ・・・ちょっとくらい感謝してあげてもいいわよ?」

ツンは冗談めかして笑い、それから、俺のほうを見て言った。

ξ゚听)ξ「イチもありがとう・・・。久しぶりにナナに会えたみたいで、楽しかった」


215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 23:23:21.47 ID:dtE6Oyd50
俺は急にこっちにふられて、あたふたと「いや、俺は何も」と手を振って言う。

俺「・・・でも、少しでも役に立てたんなら、よかったよ。早く治るといいな」

ξ゚听)ξ「うん。本当にどうもありがとう」

ツンはブーンの手を借りてまた布団に身を沈める。
さすがに疲れたのか、すぐにとろりとまぶたが下がり始めた。


( ^ω^)「よし!帰るおイチ!看護士さんにつかまらないように!」

俺「またあの泥棒ごっこをやるのか・・・」

ちょっとウンザリしながらも、俺は何となく晴れやかな気持ちで病室を出ようと移動する。

ξ゚听)ξ「気をつけてね・・・雨、上がったみたいよ・・・」

ベッドからツンの眠たげな声がする。

( ^ω^)「お?本当かお?」

俺「みたいだな、雨の音が聞こえない」



ξ゚听)ξ「うん・・・きれいな・・・・お月様・・・・」


221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 23:36:02.25 ID:dtE6Oyd50
俺「・・・・」

( ^ω^)「・・・・」

俺( ゚ω゚ )『・・・・・・・へ?』

ドアの近くまで来ていた俺とブーンは数秒互いの顔を見つめあい、
それから光りの速さでツンのベッドに戻って
おたつきながらも慎重にカーテンを少しめくってみた。
ツンは何事もなかったかのようにすぅすぅと寝息を立てている。
けれど確かに、反対側のカーテンの隙間から、うすいレモン色の月が窓越しに見えた。

俺とブーンは恐る恐るといった感じで囁きあう。

俺「い、今の・・・?」

(;^ω^)「しゅ、しゅじゅちゅ前でも、光を感じ取るとか、少しだけ
      回復することはありえるかもしれないって、でも・・・・でも・・・」

動揺の余り噛んでいることも自覚していないらしいブーン。
だが、俺は先程、一瞬だけツンの顔を正面から見たことを思い出してはっとした。

俺「さ――さっきさ、ツン、ちゃんと俺のほう見て俺に話しかけたよな・・・!?」

(;^ω^)「!!!」

ブーンは思わず叫び声を上げそうになったのだろう、ばっと口を押さえて、
それからがくんがくんとムチウチになりそうな勢いでうなずいた。


234 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 23:50:56.58 ID:dtE6Oyd50
興奮の余り、放っておくとそのまま病室を駆け回らんばかりの勢いだったので、
俺はブーンを羽交い絞めにしてツンの病室から退出した。
ブーンは盆と正月がいっぺんに来たような顔をして、
それでも最後の理性で声だけは控えめに、その分、手足をばたばたさせて
喜びを体中から発散させていた。

( ^ω^)「やったお!やったお!回復の兆しってやつだお、
      ツンは治るお、きっとぐんぐん良くなるお!」

俺「うんうん!」

かく言う俺も興奮していないといえば嘘になる。
だってこんなの奇跡みたいだ。映画や本の中でしかお目にかかれないような奇跡。

( ^ω^)「イチはすごいお!イチのおかげだお!!」

俺「お、俺?はは、いや俺は別に何もしてねーよ」

( ^ω^)「全然してるお、貢献しまくりだお!魔法使いさんにお礼をしなきゃ――」

あ。
ブーンははたとつぶやいて、それから急に顔色を変えた。

( ^ω^)「い、イチ、今何時だお!?」


247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 00:02:31.11 ID:Frw3qVRM0
俺「え?いや、知らん」

言いながら、時計はないかときょろきょろと辺りを見回す。

俺「一階のロビーで見た時はたしか、四時少し前じゃなかったかな――」

(;^ω^)「たたたた・・・・大変だお!!」

ブーンはだらだら汗を流して(正直キモイ)俺のリードを握り締め、

(;^ω^)「ぐずぐずしてたら夜が明けちゃうお!!イチ、急いで屋上に行くお!!」

俺「は?なんで?帰るんじゃねーの?」

(;^ω^)「なんでもいいから早くするお――っ!!」

俺「ちょ待っ、ぅぐえっ!」


何が何だか判らないまま、俺は暴れ馬のように疾走しだしたブーンに
病院の屋上まで一気に引っぱられた。
俺の首が無事だったのもある意味奇跡だと思う。


260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 00:13:54.43 ID:Frw3qVRM0

(;^ω^)「ぜえ、はあ・・・・ど、どうにか間に合ったお・・・」

俺「お・・・お花畑が見えた・・・・・
  一瞬、綺麗な川とお花畑が・・・・・ッ」

俺が酸欠でくらくらした頭で
さっき死んだ筈のじいちゃんに会った気がするな・・・と考えていると、
ブーンはなにやらポケットをさぐり、紙のようなそうでないようなものを取り出した。
ハ○ポタの映画で見た、羊皮紙、というものに似ている。
ブーンはくるくると巻かれたそれのヒモをほどいて、ぶつぶつと中身を読み上げ始めた。

( ^ω^)「えーっと。ショボン魔法会社、魔法使い呼び出しの方法。
      初めての方はこちら、そうでない方はこちらのページを・・・・・」

・・・魔法使い?

俺「なあ、ブーン、それって・・・?」

( ^ω^)「あーイチ、ちょっと黙っててだお。ややこしいから集中したいお」

俺「・・・。はい」


267 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 00:22:56.47 ID:Frw3qVRM0
俺が何となく、少し離れた乾いた場所でちょこんと体育すわりをしている間、
ブーンはしばらく巻物を見てぶつぶつ言って、
それから「よし」と呟いて羊皮紙っぽいものを屋上の濡れた地面に置いてしまった。

( ^ω^)「確認おk!呼び出し準備完了!いざ!降ー臨ーしたまえーーだお!!」

俺「・・・・・」

んばっ、と両手を広げて、薄ぼんやりと明るくなりかけている
東の空に向かってブーンは叫んだ。

俺「・・・・・」

( ^ω^)「・・・・・」

俺「・・・・・」

( ^ω^)「・・・・・」



俺はバンザイをし続けているかわいそうな人を遠くに見つめる。
朝ご飯はフレンチトーストにしよう、と思った。


275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 00:33:05.25 ID:Frw3qVRM0

(´・ω・`)「はい毎度どーもー」


俺「ひいぃっ!?」

朝飯のメニューに気をとられて完全に気を抜いていたので、
突然なんの前触れもなく至近距離でそんな声がして
俺は腰を抜かさんばかりに驚いた。

俺「なっ、なっ、なっ・・・・・!?」

( ^ω^)「あ、魔法使いさん!いつの間にそんな処に!
      人が悪いお、ブーンちょっぴり泣きそうだったお!」

(´・ω・`)「だっていくら二十四時間営業ったって、こんな早朝に呼び出しかけられても
      すぐには対応できませんってー」

俺の座っていた場所(ちなみにひさしのある屋上の出入り口)の
すぐ真後ろに、いつの間にか見覚えのある八の字まゆが膝を抱えて座り込んでいたのだった。

俺「あっ――、お、お前!」

(´・ω・`)「どもー。心を込めてがモットーのショボン魔法会社です」

魔法使いは無表情にへにゃっとしたピースサインを俺に見せた。


285 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 00:43:40.67 ID:Frw3qVRM0

(´・ω・`)「それで?今日はどういった御用向きで」

ブーンは雨の名残の飛沫を飛び散らしながら
俺と魔法使いの傍まで駆けて来て、

( ^ω^)「クーリングオフをお願いしたいんですお!」

と言った。

クーリングオフ。
ああ・・・・
そういやそんな事言ってた気もするな、
俺がアレに連れて来られた最初の日に。
動転しててすっかり記憶から抜き落ちてたけど。
クーリングオフ・・・・


俺「・・・・・え、クーリングオフ?」


304 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 00:57:38.26 ID:Frw3qVRM0

(´・ω・`)「えー。それってキャンセルってこt・・」

俺「そっ・・・・・、それって、帰れるって事か!?
  お、俺の元いた世界へ!?」

俺はどもりながら魔法使いの言葉をさえぎり、
身を乗り出してブーンに言った。

( ^ω^)「そうだおイチ!七日目の朝が期限ギリギリだったんだお。
      危なかったおwwww」

俺はその言葉を聞いた瞬間、
喜びに満ち溢れた天上の音楽が胸の中に響き渡った気がした。

戻れる!
首輪とか首輪とか首輪のない世界へ戻れる!


しかし、感涙の涙が頬を伝う前に、俺はふとブーンに向き直った。

俺「でも、何で帰してくれる気になったんだ?
だってお前俺のこと、世界一のペットだって・・・・」

・・・いや念の為に言っておくが、これは俺がこいつのペットとして傷ついたとか
そんな事では決してなく。
純然たる好奇心であり、真実を見極めたい気持ちの表れであり、うん。


330 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 01:13:26.59 ID:Frw3qVRM0

( ^ω^)「・・・うん。もちろん今でもそう思ってるお」

ブーンはにっこりと、けれど少しだけ淋しそうに笑って言った。

( ^ω^)「料理はうまいし、ゲームは強いし、優しいし、髪はさらさらでかわいいし、
      イチよりいいペットなんてどこにもいないお。
      間違いなく、ブーンの一生ぶんの自慢のペットだったお」

過去形で話すブーンに何故かちくりと胸が痛んだ。
俺は立ち上がってブーンと向き合う。

( ^ω^)「イチ、ブーンは、一週間前のあの日、突然やってきた魔法使いさんに
      こう言われたんだお」


340 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 01:17:34.25 ID:Frw3qVRM0
-------

はい毎度ー。ショボン魔法会社です。

突然ですがこちらではただいまお願いを承っておりまして。
どうですか、どんな願いでも叶えて差し上げますけども。

あ、訂正します、どんな願いと言っても2,3禁止事項がございましてですね、

えーその1、他人の心に関する魔法は御法度。
えーその2、他人の身体に関する願いは御法度。
えーその3・・・・

はい?
病気ですか?・・・君のじゃなくて。・・・友達の?

あー、そういうのはちょっとね、ダメなんだね。
そういう命のやり取りっぽいのはホラ、うちの管轄じゃないからさ。
悪魔さんとことか、死神さんとこの取扱いになっちゃうんだねー。
君自身の病気なら治せたんだけどね。

はいはい、ええ、そうなんですよ。
だからもうちょっと別の願いをね・・・・。


・・・はあ。
・・・・・・ペット?


355 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 01:27:39.44 ID:Frw3qVRM0
---------

(´・ω・`)「判り易く回想シーン入れときました」

俺( ^ω^)『・・・どうも』

一応礼を言ってから、あらためてブーンと俺は向き直る。


( ^ω^)「それで、ブーンは言ったんだお。

      病気の友達を勇気付ける為のペットが欲しいって。

      ツンの病気は手術すれば治るのに、治療に一番必要な「気持ち」を

      ツンは忘れてしまっていたお。

      それでブーンはツンが昔飼ってたナナを思い出したんだお。

      「私にあたたかいものを教えてくれたのはナナだ」って、ツンは昔から言ってたお。

      だから、ナナよりももっともっと素晴らしい、世界中のどんなペットにも負けない、

      ツンにあたたかい気持ちをくれるようなペットが欲しいって」


俺「・・・・・・・・」


382 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 01:42:10.71 ID:Frw3qVRM0
俺「そうだったのか・・・」

こいつは本当にずっとずっと、ツンを一途に想っていたんだろう。
なんでも願いを叶えると言われて、
とっさにツンの事しか思い浮かばなかったぐらいに。
俺は不覚にも涙ぐみそうになってしまった。

俺「なんだよお前・・・ちょっとカッコイイじゃん」

( ^ω^)「うはwww照れるおwwwwっていうか、実は昔から
      ナナを飼ってたツンがうらやましくて
      自分のペットが欲しかったのも本当なんだおwwwww」

俺「そんなこったろうと思ったよw」

( ^ω^)「でも・・・実はナナも、ツンのお家には一週間しかいなかったんだお」

俺「え・・・・えぇっ!?」

( ^ω^)「今回のことがあって、もしかしてと思ったんだけど、まさか・・・・・」

ブーンと俺は揃って魔法使いを見た。
八の字まゆは首をすくめて、

(´・ω・`)「うちは創業二百年の老舗ですからねー。
      帳簿見ないと何ともいえないですけど、まあ、可能性はありますね」


409 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 01:56:35.70 ID:Frw3qVRM0
俺「・・・・」

( ^ω^)「・・・・・うふふだおwww」

俺「・・・・ははは」

なんだか可笑しくなって、俺とブーンはケラケラ笑いあった。
そんな俺たちをしばらく眺めて、魔法使いはやれやれといったふうに立ち上がり、

(´・ω・`)「で?今ならキャンセルとクーリングオフ、どちらも受け付けておりますが?」

と言った。

俺「どう違うの?」

(´・ω・`)「願い事のキャンセルをすると、願い事自体が「無かった事」になる。
      つまり君はこんな世界へは来なかった。飼い主の彼とも会わなかったし、
      病気の友達の記憶からも消える」

魔法使いは人差し指をついと立てて説明し、
次いで、もう一本指を出して続ける。

(´・ω・`)「品物のみのクーリングオフって事であれば、誰の記憶も消えない。
      君が元いた処に戻るだけ。
      ああ、もう気付いているかもしれないけど、君にとって
      ここはいわゆるパラレルワールドだからね。
      元の世界に戻った時に少し記憶が曖昧になるかもしれないけど、
      まあその辺はご容赦を」

俺「え・・・俺の記憶、消えるのか?」

(´・ω・`)「んー、だからその辺は君の運次第なんだねー。運がよければ消えない。悪いと消える」


431 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:06:18.53 ID:Frw3qVRM0
俺「そっか・・・・」

俺はブーンを見た。ブーンも俺を見ていた。

俺「お前、だから俺とツンを早く会わせようとしてたんだな。
  七日過ぎてからじゃ、せっかくツンを勇気付けても記憶消えちゃうもんな。
  はじめから俺を帰そうと思っててくれたんだな・・・・・」

( ^ω^)「・・・イチ。これで帰れるお。
      イチは、もしかしたらブーンたちのこと忘れちゃうかもしれないけど・・・・
      ブーンは・・・ブーンはイチのこと、絶対に絶対に忘れないお!

      本当に・・・・・・ありがとうだお・・・・・」


くしゃくしゃとブーンの笑い顔がつぶれる。
涙を堪えて。
それでも涙は、堪えきれずに後から後からこぼれていく。


俺「・・・・ばあか。俺だって、絶対忘れないよ」



たぶん、俺も顔がぐしゃぐしゃだったろうけど、必死にかっこつけてそう言った。


449 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:15:15.54 ID:Frw3qVRM0

(´・ω・`)「青春・・・・」

魔法使いが朝日の昇り始めた空を見上げて
馬鹿な事を言っているが、そんな事で雰囲気を壊すのもシャクだったのでシカトした。

( ^ω^)「グスッ・・・じゃ、じゃあ魔法使いさん、クーリングオフでお願いしますお!」

(´・ω・`)「ああはいはい。じゃ行きましょうか」

そう魔法使いが言うが早いか、
魔法使いと俺の身体は淡い薔薇色の光に包まれ、
しかもふわりと風に乗るように浮き上がった。

俺「う、うわっ・・・・」

自力で空に浮かんだことのない俺はかなり面食らってじたばたしたが、
「動くと落っこちますよ」と言われた瞬間ぴたりと身体の動きを止めた。

俺「ブーン!」

ふわふわと落ち着かない体勢で、俺は首だけを必死に動かして
ひとり朝の屋上に佇むブーンを目にしようとした。


474 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:24:35.19 ID:Frw3qVRM0
ブーンは涙でべしょべしょの顔で、それでも馬鹿みたいに笑っていた。
この一週間ずっとそうだったように
おひさまみたいな笑顔をいっぱいに浮かべていた。

( ^ω^)「イチー!楽しかったおー!」

俺「お・・・俺も・・・俺もそれなりに退屈しなかったぞーっ!」

( ^ω^)「きっと帰っても覚えてるおー!」

俺「こんな馬鹿馬鹿しい体験、意地でも覚えててやるよー!」


だんだんお互いの声が届きにくくなっていく。
俺とブーンは精一杯声を張り上げて
別れの挨拶をした。


( ^ω^)「あっ・・そ・・・そうだお・・・・イチ!
      イチの本当の名前は!?元の世界の本当の名前はなんていうんだおー!」


そうして、光がどんどん強くなり、もう消えてしまうという処で、
ブ−ンは最後の声を振り絞って俺にこう問いかけてきた。


511 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:33:08.59 ID:Frw3qVRM0
あのバカ、こんな最後の最後で・・・
勝手に変な名前ばっかりつけてたくせに。

俺もつられて笑ってしまった。
涙と大声で、笑い声はすっかりかすれていた。

俺はもう光の向こうにかすかにしか見えないブーンに向かって
最後の、本当に最後の言葉を叫んだ。


俺「はるかだよブーン!   

  俺の名前! 市ノ瀬春香!

  なあ、覚えててくれよ!


  俺が忘れちゃってもいいようにさあ!

  ・・・今度はペットのイチじゃなくてさあ・・・・!

  友達になりに行くからさあ・・・・!!




  ブーン――・・・・・・・・・・・・・・・!!!」


535 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:37:30.07 ID:Frw3qVRM0



俺「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うぁ」



目を覚ますと、目覚ましの鳴る前だった。
朝の柔らかな光。窓の外からは小鳥の声。
ごく当たり前の休日の朝だ。

俺「・・・・・」

はれぼったい目をごしごしこすって、俺は身体を起こした。



俺「なんだ・・・・夢か・・・」


559 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:42:36.86 ID:Frw3qVRM0
俺「・・・おはよ、お母さん」

母「おはようー」

なんだか目が覚めてしまったので
二階の自室から台所へ降りていく。
そこでは当たり前のように、お母さんがいつものように朝食を作っていた。
ジュウジュウいっているフライパンと甘い匂いからして、
今日のメニューはフレンチトーストだ。

母「どうしたのー、こんなに早起きするなんて珍しいじゃない」

母さんはフライ返しを持ってにこにこと楽しそうに言う。

俺「んー・・・」

俺はパジャマのままテーブルに座って目に付いた朝刊を手に取った。
でも、内容なんかちっとも頭に入ってこない。


なんか・・・
もっとだいじなこと、しなきゃいけないような気がするんだけど・・・


592 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:49:56.21 ID:Frw3qVRM0
俺「・・・・・あーダメだ、思い出せねえ。くそっ」

母「こら春香、その言葉遣い直しなさいよー?
  再来年はもう中学生なんだから。お姉さんでしょ、おねえさん!」

俺「あーい・・・」

生返事をして、俺は新聞にほっぺたをくっつける。
俺がダラダラしている間に
お母さんは手際よく出来上がった料理をテーブルに並べていく。

俺「・・・ねえ、お母さん?」

母「なあに?」

俺「昨日すごく変な夢見た気がするんだけど・・・・」

母「あら、どんな夢?」

お母さんは皿を並べ終えてテーブルに座り、サラダを俺の小皿に
取り分けてくれながら言う。


633 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:57:36.94 ID:Frw3qVRM0
俺「えっと・・・あー・・・たしか・・・」

霞がかかったようにぼやける記憶を、俺はなんとかかき集めようと努力しながら、

俺「・・・そうだ、たしか、ちょっと太った男の子がでてきた。
  それと胡散臭いしょぼーんとした奴と・・・
  金髪の綺麗な女の子がベッドで寝てた。
  でね、俺が男の子にオムライス作ってあげてた」

母「それはたしかに変な夢ねえ」

お母さんは俺の話を聞いて、楽しそうにころころ笑った。
俺はそれを見るともなく見てサラダをつつく。

俺「それで・・・・
  その夢をね、忘れないようにと思って起きたんだけど・・・・
  気が付いたらあんまり覚えてなくて・・・・

  それが・・・・

  それがなんだか哀しくて・・・・」

母「・・・春香?」


俺「・・・え?」


ぼんやりと喋りながらうつむいていた顔を上げる。
俺はいつの間にか泣いていた。


662 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 03:03:28.58 ID:Frw3qVRM0
俺「あ・・・あれ?お、おかしいな。な・・・なんで・・・・・っ」

壊れた水道みたいに
あとからあとから勝手に流れ出てくる涙。
さっぱり訳が判らなくて、俺はとても困ってしまった。

母「・・・・」

お母さんはもっと訳が判らなかっただろうに、
何も言わずにおっと席を立つと
正面から俺の隣に移動して、黙って俺を抱きしめてくれた。

俺はそれに素直に甘えることにして
しばらくお母さんの胸に顔をおしつけてしくしく泣いた。
小娘みたいでちょっと恥ずかしかった。
まあ・・・俺が小娘なのは事実なんだけど。


母「そういえばねえ。お母さんもそういう夢、何度か見たことがあるわ」

俺「・・・え・・・?」

だいぶたって、俺がしゃくりあげる声も小さくなった頃、
お母さんがふいにそう言った。


699 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 03:10:32.33 ID:Frw3qVRM0
母「お母さんが子供の頃の話なんだけどね。
  金髪の女の子と、その女の子の友達の男の子と仲良くなる夢を見たの。
  花のいっぱい咲いているお庭や公園で遊ぶ夢」

俺「・・・・・」

俺はぽかん、とおかあさんを見つめた。
何かが、心の奥で響いた気がした。
扉の開く音みたいなもの。

母「女の子と男の子、とっても仲が良さそうだったわ。
  そうねえ、男の子は少しふっくらしていたかもしれない」

俺「お・・・っ、おか、お母さん」

母「なあに?」

俺「お母さん、なんて呼ばれてた!?
  その女の子に!その男の子になんて呼ばれてたっ!!?」


するとお母さんはにっこり笑って、ナナよ、と優しく微笑んだ。

あたたかみというのが凝縮されたみたいな、お母さんのとびっきりの笑顔だった。

母「お母さんの名前、奈々花だから、ナナ。
  それで可笑しいのが、お母さんその金髪の子と遊ぶ時は
  いつも首輪をつけているのよ。きっとペットのつもりだったのね」  




747 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 03:22:23.21 ID:Frw3qVRM0
俺「・・・・あは」

俺は止まった筈の涙を流しながら
お母さんの首に飛びついた。

ああ、そうか。
そうだったんだ。

俺「あはははっ!お母さんだった!お母さんだったんだ!」

母「あらあら、なあに?春香ったら」

俺「お母さんだった!お母さんがナナだったんだあっ!」

俺は木漏れ日みたいにあったかい、
しあわせな気持ちでいっぱいだった。

ブーン。
ツン。
ねえ、俺、お前たちの大好きなナナの娘だったよ。
こんなに嬉しいことってあるかな?


754 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 03:23:50.71 ID:Frw3qVRM0
ねえ、びっくりだよ。
お母さんだったんだ。
ツンにあたたかい心を教えてあげたのは。

ブーン、お前、やっぱりすごいよ。
だって俺じゃあ、全然お母さんに敵わないもの。
俺はお母さんを超えるすごいペットなんかじゃなかったよ。
きっとお前の力だよ。
お前のあたたかい心がツンに力をあげたんだ。

ねえ、ブーン。
ツン、早くよくなるといいね。
早く家に帰れるといいね。

お母さんが帰って来れたみたいにさ。
俺が帰れたみたいにさ。


ねえ、ブーン。
二度あることは三度あるっていうしさ、
もしかしたら、今度は俺の娘がそっちに行くかもしれないよ?

その時は仲良くしてやってな。
オムライスぐらい、また作ってやるからさ。  








760 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 03:25:14.42 ID:Frw3qVRM0
はい。

えー・・・・




おしまいですよ




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