一気読み
第一話
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第二話
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第三話
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第四話
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最終話
1 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:11:07.13 ID:a77wlatQ0
それは不思議な人形だった。
人形に向けて刃物を振るうと、苦悶の表情を浮かべ、
再度、突き刺すと、血を周囲に撒き散らす。
心臓の鼓動に合わせて流れ出る血は、人形自身を汚し、
一心不乱に突き刺すワタシの手も、染め上げていく。
助けてくれと、人形は叫び。
楽しませてくれと、ワタシは笑う。
目を見開いた人形は、虚空を見つめ呼吸も荒く。
頬に汗を浮かべたワタシは、人形を見つめ息も弾み。
そして、心臓の鼓動を止め、
力なく崩れた人形を見て、 やっと、ワタシは理解できた。
これは人形では無く、人の形をした人間なのだと。
2 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:11:52.37 ID:a77wlatQ0
1、「Loop」
「ドクオ君、御茶を頼む」
「あ、ドクオさん。これ、コピーして来て下さい」
「ドクオ、これ明日までに集計頼むよ」
('A`)「……わかりました」
様々な命令を、返事一つで引き受ける。
古ぼけたビルの寂れた一室、三流企業には御誂え向きのこの場所で、
確固たる意志も持たない俺は、窓際社員という役柄を演じていた。
毎日、繰り返される雑用の強制。
俺だって、やりたくてこんな日々を過ごしている訳じゃない。
小さい頃は夢だってあったし、その夢が叶わぬものだと分かっても、せめて二流企業には入ろうと努力した。
でも、俺には絶望的に才能が足らなかった。
どんなに努力しても、もともとの能力が低ければ、才能ある人間に追いつくのは難しい。
だから、その差を埋めて人並みの人間になろうと、今まで必死に頑張ってきた。
けれど、俺は、努力すれば追いつけるとかそういうレベルの人間では無かったようだ。
どんなに努力しても追いつけない、才能という壁。
多数の就職試験を受け、唯一この会社だけが合格した時、
生まれた瞬間から負け犬人生が決定していたのだと、やっと俺は気付いた。
5 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:14:01.22 ID:a77wlatQ0
('A`)「ふぅ…」
今日も会社での怠惰な一日が終わり、自宅へと向かう電車に乗った俺は溜息をついた。
雑用以外の仕事など俺には回って来ず、そのおかげで今日のように、家へは定時で帰れる。
そのかわりに、三流企業内でさえも出世の道は閉ざされているけれど。
( ^ω^)「昨日のダイバスターは最高だったお」
(,,゚Д゚)「おまっ、あんな番組見てるやつなんていねぇぞゴルァ」
(#^ω^)「ばっかもおおおおおおおおおん!!」
(;゚Д゚)「ちょ、うるせぇ、急に大声出すな!!」
いつものように電車に揺られていると、すぐ近くから大きな声が聞こえてきた。
何事かと、声のする方に俯いていた顔を向けてみると、二人の青年が言い争いをしているのが見える。
どうやら大声を上げたのは、帰宅途中のその二人の学生のようだ。
いつも俺が帰宅に使っているこの時間帯の電車は、ちょうど学校の下校時間とかぶる為、
その二人以外にも、車内にはちらほらと他の学生の姿が見受けられる。
6 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:15:44.83 ID:a77wlatQ0
( ,,゚Д゚)「それにしても、今日の試合は楽勝だったな」
( ^ω^)「おっおっ、全てはブーンのバッティングのおかげだお」
( ,,゚Д゚)「今日、お前四連続三振じゃねえか」
(;^ω^)「あうあう」
('A`)「………」
普通の大人ならやかましい餓鬼共だと、嫌な顔をするものだが、俺は違っていた。
ただ純粋に、羨ましく思えた。
物心ついた頃から、グズと呼ばれてきた俺だ。
さすがに虐められるという事は無かったけれど、徹底的に無視された。
もちろん部活なんて、どこにも入部した事はない。
そんな俺から見て、友人がいて、他愛のない話をして、毎日を暮らしていく。
それがどれだけ、素晴らしいものか。
俺がもっと友人を作ることが出来ていたら、今の生活も少しは変わっていたのだろうか。
まあ、出来なかったから、こんな風になってしまったのだけれど。
そうこう考えていると、ドアの開く音がする。俺が降りる駅に着いたようだ。
8 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:17:41.26 ID:a77wlatQ0
三⊂二( ^ω^)⊃「今日はそこら辺で買い食いして、祝勝会にするおー」
( ,,゚Д゚)「おい、ちょっと待てゴルァ」
あの言い争っていた二人も同じ駅だったらしい。
電車から降りて、両手を広げ駆けていく青年を、もう一人が追いかけていく。
そんな憧れの姿を眺めながら、俺も電車から降りて改札口へ向かった。
定期券を通し、改札口を抜け外へ。
さっきの二人と違い、立ち寄る所なんて無い俺は、寄り道などせず自宅へと向かう。
昨日とまったく同じ道、同じ空気、同じ空。
変化の無い、いつも通りの景色を見ながら、今日も何事も無く家に辿り着く。
そんな、普遍で退屈な帰り道だと、その時はまだ思っていた。
9 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:21:14.26 ID:a77wlatQ0
しかし、異変はいきなり現れた。
建物の影によって薄暗く、この時間帯では人通りが殆ど無い寂れた住宅街。
本来の大通りから裏路地にに入ったその場所に、自宅のボロアパートがある。
六畳間でトイレ共同、もっぱら洗面台が俺の風呂場だ。
そんな自宅のボロマンションが左に曲がれば見えるという十字路で、俺は異変を見つけた。
赤い模様がアスファルトの上に点々と続き、十字路の右へと向かっているのだ。
不審に思い、近寄ってその模様を確認した俺は、その日常とはかけ離れたものを見て驚愕した。
(;'A`)(おい、これ血じゃねえのか!?)
一見、それは唯の足跡に見える。
だが異常だったのは、この夕日の中でも一際赤黒く目立つ、血でできているという事だ。
(;'A`)(なんだよこれ……)
誰かが走って行ったかのように残るその足跡を見て、俺は気が動転していた。
何故、こんな所に血で出来た足跡があるのか。
何故、何かから逃げる様に足跡が続いているのか。
何故、血で足跡が出来ているのか。
10 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:23:10.70 ID:a77wlatQ0
(;'A`)(何があったんだ?)
ふと、右を見てみる。
日中でさえもあまり日が射し込まないであろう、仄暗い路地裏。
その上に続く足跡は遠く、まるで、この世の果てまで続いているかのように見える。
('A`)「………」
気付けば俺の足は、自然と右の道に向かっていた。
ループのような毎日に突如現れた、この非日常が生み出す刺激に、
その時の俺はすっかり囚われてしまっていたのだ。
それが、俺の運命を左右する分岐点であるとも知らずに。
12 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:25:56.71 ID:a77wlatQ0
(;'A`)(いったいどこまで、続いてんだよ)
歩き続けて数分、想像よりも足跡は長く続いていた。
この路地裏は想像以上に複雑で、広さもなかなかあるのだろう 。
足跡は左に曲がり右に曲がり、また、右に曲がりと複雑に続いていた。
さらに、会社以外は家に引き篭もっている俺にとって、
普段、来たこともないこの道は、未開の惑星と言っても過言ではない。
頼りになるのはこの血で出来た足跡だけだ。
帰りはここまで来たように、この足跡を辿って、もと来た道に戻ればいい。
自分の進むべき道を確かめる為に、もう一度足跡を見てみる。
('A`)(だいぶ、見難くなってきたな)
靴裏にこびり付いた血が落ちてきたのだろうか、
足跡は初めに見た頃より薄くなり、地面と判別しにくくなってきていた。
('A`)(……空も暗くなってきたし、そろそろ引き返したほうがいいか)
自分に問い掛けてみる。
このまま進めば日が完全に沈み、足跡は暗さで完全に見えなくなり、
この迷宮と化した路地裏で、夜明けまで彷徨う羽目になってしまう。
14 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:28:02.09 ID:a77wlatQ0
('A`)(もう少しだけ)
しかし、そう自分に言い聞かせ、進む。
今帰ったら、ここまで来た苦労が水の泡だ。
まあ、数分無駄に歩いただけで、そこまで言うほど苦労した訳では無いが、
せめて、何があったのかは知りたい。もしかしたら、怪我人が倒れているかもしれない。
しかし、次の交差路を足跡に沿って右に曲がった先には、夕暮れ時の海が見えた。
曲がった道の先は袋小路、けれど、海がある。
赤い海、血の海が。
('A`)「…え?」
ふと疑問の声を漏らしてしまう。
海を連想させるほど、その袋小路は血によって赤一色に塗り潰されていた。
そして、その血の海の上には、一つの者と一つのモノが見て取れる。
15 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:30:14.40 ID:a77wlatQ0
者は人だ。
こちらに背を向けて座った姿から、そう判断できる。
右手には刃渡り六寸程の、血に染まったナイフが握られており、
全身も血塗られ、白いセーターだったであろう服は、赤い染め布と化していた。
モノはまるで生ごみ。
男の前に転がった生ごみも、真っ赤に染まっていた。
何カ所にも開いた体の穴からは、この海を作った液体が鼓動と同間隔で吹き出している。
生ごみは人だった。
胴体に残った人の右手と首が、それを雄弁と語っている。
残りの箇所は切り取られ、そこいらに転がっていた。
乱雑に切り取ったのであろうその断面は、所々千切れた血管や、
半ばから折られた骨の断面が見てとれた。
ふと、転がって来た一つの部品と目が合ってしまう。
先程まで胴体に付いていた生首が、振り下ろされたナイフによって分離され、転がって来たのだ。
(;'A`)「っうぅ!!」
急激に湧き出た嘔吐感で、また声を漏らしてしまい、そして、後悔した。
二度も声を出したのだ、目の前の男に気付かれ無い筈がない。
17 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:32:27.10 ID:a77wlatQ0
/ 。゚ 3 「お、二ン、ぎょ。お?」
振り向いた奴と目が合った。
俺の顔を見たそいつは笑う、新しい人形を貰い喜ぶ子供のように。
純粋な喜び。歓喜。愛情。興奮。
一つだけ子供と違ったのは、殺意があるという事だ。
そして、奴と目が合ってからぴくりとも動けない俺の鼻を、
今更になって血独特の鉄の臭いが刺激した。
それと共に、そいつが笑顔のまま歩み寄ってくる。
(;゚A゚)「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
逃げなければ殺される。
そう頭によぎった瞬間、俺は悲鳴と共にその場所から逃げ出していた。
18 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:34:18.76 ID:a77wlatQ0
/ 。゚ 3 「ヒィ、ヒヒ、待ってェ」
(;'A`)(くそっ!!)
逃げ出してから数分後。
後ろから聞こえてくる奴の足音を聞きながら、俺は闇雲に逃げ出した事を後悔していた。
ここまで来るのに歩いてきた道など既に外れて、唯一の頼りである血の足跡も見つける事が出来ない。
つまり、この路地裏の出口が分からない。
もっと、冷静に行動すれば良かった。
いや、あの状況で冷静に行動するなど、常人には不可能か。
そして、俺は常人以下の人間だ。
(;'A`)(なんとか、しないと)
だからと言って、まだ死にたくない。あんな得体も知れない奴に殺されたくない。
どんなにつまらない人生だったとしても、こんな所で死ぬなんてまっぴら御免だ。
走りながら、後ろに振り返ってみる。
俺を追う奴は、未だに笑っていた、子供のように。
それを見て、また死の恐怖が俺の心と体を刺激した。
(;'A`)(なんとか、しねぇと!!)
俺はろくに無い頭を振り絞り、打開策を考える。
体力の無い俺が奴をふりきる為には、まず奴が俺を見失わなければならない。
19 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:36:11.53 ID:a77wlatQ0
そして、次の道を右に曲がった時、その状況を叶える箇所があった。
曲がったすぐの所に、T字路があったのだ。
奴が来る前に進路を変えて右折すれば、一瞬だが俺を見失う事になる。
その一瞬の間にその道を進んで、また別の道へ曲がれば、奴は完全に俺を見失う。
後はあの足跡を見つけてそれを辿って逃げるか、運良く大通りに出てさえしまえばこっちのものだ。
俺は神にすがるような気持で、進路を右に変えた。
しかし、神は残酷だった。
そこには進める道など無く、曲がってすぐにあったのは、唯の行き止まりだったのだ。
だが、これだけでは捕まった事にはならない。
奴が気付かずに通りすぎるのを祈り、隠れて待てばいいのだから。
けれど、そこで俺が気付いてしまった。
血の足跡が俺の後ろに続いている事に。
俺の足が踏み込んでいたのだ、先程見た血の海に。その足跡を辿って、奴はこちらに来るだろう。
絶望が俺の心から溢れ出てきた。
21 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:37:54.89 ID:a77wlatQ0
奴の足音が聞こえる。
俺の脚が震えた。
奴の足音が止まる。
俺の手が震えた。
奴がこちらを覗き込む。
俺の肩が震えた。
奴が俺を見て頬を歪める。
俺の顔が震えた。
奴が歩み寄って来る。
俺の心が震えた。
奴がナイフを振り上げる。
俺の全てが震えた。
22 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:39:39.59 ID:a77wlatQ0
/ 。゚ 3 「ワタシの、お、人ぎょぉぉおおおおおおおお!!」
そして、奴の奇声を最後に、俺の意識は消失した―――――
23 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:41:33.69 ID:a77wlatQ0
感ジタノハ、肉、を裂く、感触
ミテイタノハ、血、をアビル、自分自身
ワラ、っていた、ヤツの笑顔は、
オレ、のエガオ、に、カワッテ、タ
26 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:43:49.48 ID:a77wlatQ0
―――――ふと、オレに意識が戻った。
目の前には体に多数の穴を開けられた、さっきの男が倒れている。
手には刃渡り六寸ほどのナイフが強く握られており、体の震えはまだ止まらない。
いったい、オレは何をしたんだ。
いや、ちゃんと覚えている。
意識が消失した後、体が無意識の内に動いていた事を。
オレの体は、振り下ろされるナイフを奴の手の上から掴み、 そのまま、奴の体に突きこんだ事を。
それだけでは飽き足らず、奴の手からナイフを奪い、 奴の体に、何度も何度も何度も何度も何度も。
者からモノに変わる様子を、オレは笑いながら見ていた事を。
「オレがやったのか?」
分かり切った事を、口から漏らしてしまった。
そして、その答えを脳が実感していく内に、オレの心に恐怖が蘇り、
頭の上から足の指先まで、また激しく震え始めてくる。
29 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:46:06.16 ID:a77wlatQ0
否、違う。これは恐怖じゃない。
('∀`)「……フ、フフ、フフヒィ」
だって、返り血を浴びたオレの顔が笑ってる。
この体の震えだって、未知の興奮からきているだけ、そう、唯それだけ。
試しに、目の前で倒れている肉塊の左腕に、ナイフを突き刺してみた。
刃の切っ先は奇麗に左腕に食い込み、その刀身を更に赤く染め上げていく。
もう一度刺すと同時に、肉塊はびくりと反応し、小さな呻き声を上げた。
/ ,' 3 「……うぅ、ぐ」
('∀`)「ヒィ、ヒッヒヒヒ!!」
楽しい。
まるで、自分の思い通りに反応してくれる玩具のようだ。
また刺すと、同じようにびくりと反応してくれる。
その反応を楽しむ為に、何度も何度もナイフを突き刺すと、ついには左腕が取れてしまった。
30 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:47:49.76 ID:a77wlatQ0
壊れやすい玩具だなと思いつつ、今度は左脚へ。
やっぱり切り取るなら、より大きい部品の方が達成感がある。
今度は、大腿筋と上腕骨よりも太い大腿骨が、刃物の侵入を阻害したが、
それでもオレの欲求を満たす前に、砕け、取れてしまった。
次は右脚。
しかし、それも左脚より簡単に取れてしまう。
('A`)「イィィッ……」
オレは苛立ちを覚えて、その肉塊の顔を睨み付けた。
その顔は既に生気を失っており、口から血と唾液の混ざり合った液体が流れ出している。
それを見てさらに苛立ちが増した。
死んでいたら、あの面白い体の跳ねる反応が見れないじゃないか。
31 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:50:28.57 ID:a77wlatQ0
('A`)「ウゥッ、ウゥッ!!」
怒ったオレは、思いっきり首を突き刺した。
目の前の肉塊の息吹が止まるのを感じたオレは、そのまま首を引きちぎり後ろに放り投げる。
その時にはもう、この玩具には飽きていた。
子供が壊れた玩具に興味を示さないように、オレもこのバラバラのモノに興味を無くしてしまったのだ。
('A`)「ア、タラしい。オ、モチャを……」
「うっ」
新しい玩具を探さなきゃ、そう思って立ち上がった時、後ろから人の嗚咽がオレの耳に届いた。
すぐさま後ろに振り返る。すると、そこには一人の女性が紙に包まれた何かを持って立っていた。
どうやら、こんなに傍にいる獲物に気付かないほど、人殺しに熱中していたようだ。
('∀`)「オ、モチャ、あ」
「ひぃッ!!」
ふと、顔面蒼白の彼女と目が合った。
新しい玩具だ。思いがけないプレゼントに自然と顔が笑顔になる。
彼女はそんな俺の顔を見て息を呑み、そして、
「いやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺をその場に残して、悲鳴と共に逃げて行った。
さて、楽しい楽しい鬼ごっこの始まりみたいだ。
33 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:52:45.90 ID:a77wlatQ0
物心つく前、まだ世間の醜さや、他人との差などを気にも止めていなかった頃。
同世代の子供と、ただ純粋に遊び、喜びを感じていた毎日。
劣等感の塊であるオレでも、楽しく過ごせたそんな日々。
その頃に似た高揚感を感じていた。
楽しむこと以外、何も考えなくていい。童心というのは本当に自由だ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
('∀`)「ヒッ、ま、っテェ」
前を走る彼女は我武者羅に逃げていた。
それをオレはつかず離れずの距離で追いかける。
タノシイな、タノシイな、タノシイな。
オレの心は弾み、顔の笑みも一段と増していた。
彼女が怯えた顔で振り返り、その恐怖に染まった横顔を見る度にオレの興奮が高まる。
ハヤク、オモチャ、で、遊びたい。
その心がオレの全てを支配していた。
顔が自然と彼女に微笑みかけている。
35 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:55:04.03 ID:a77wlatQ0
そのまま何分か、鬼ごっこが続く。
オレが流石に飽きてきた頃、
彼女が何かを決心したかのように、路地裏を右に曲がった。
オレもそれに続いて、右に曲がる。
だが、そこには彼女はいなかった。
でも、俺はこの状況を知っている。
そこで立ち止まり、足元を見ると、血の足跡があった。
その足跡はさらに右の細い脇道に続いている。
('∀`)「ヒはァ」
顔だけ出してそこを覗き込むと、ウサギの様に怯える玩具と目が合った。
その姿を見るだけでオレの興奮は臨界点に達する。
37 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:56:51.02 ID:a77wlatQ0
オレが玩具に笑いかけると、彼女が震える。
オレが玩具に歩み寄ると、彼女が後ずさる。
オレがナイフを振り上げると、彼女は瞳を閉じた。
(゚∀゚)「ひゃあはああああああああああああ!!」
さあ、イッショニ、アソボウ、オレの、オモチャ。
ナイフを振り下ろしながら、オレはそんな事を思っていた。
心の奥底では、この後の結末が、分かっていたというのに―――――
38 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:58:35.16 ID:a77wlatQ0
カンジタノハ、ムネ、にヒラく、ソウシツカン
ミテイタノハ、血、が吹きダす、ジブン自身
笑、っていた、俺のエガオは、
彼女の笑顔に変わってた
41 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 23:02:07.91 ID:a77wlatQ0
―――――気付いたら仰向けに倒れていた。
振り下ろした手を取り軽く捻られ、そのまま奪われたナイフで胸を貫かれたのだ。
胸を見ると、ナイフがまだ深々と突き刺さっている。
刺された時のショックによるものなのか、音が全く聞こえない。
その無音の中で立ち尽くす彼女の瞳は、驚きに見開かれ、だが、口は笑っていた。
先程までの俺を連想させる、子供の様な悪魔の微笑み。
さらに、徐々に彼女の瞳も、驚きから歓喜へと変化していく。
( A )「ぅぁっ!!」
急にしゃがみこんだ彼女が、俺の胸に刺さっていたナイフを引き抜いた。
と、同時に左腕に激痛が走る。その痛みに反応して、体が激しく仰け反った。
その激痛は一度では、終わらない。
何度も、何度も、何度も、左腕に走り、その度に俺の意識は遠のいていく。
( A )「カハッ、ハッ…」
呼吸が上手くできない、胸からは何かが抜けていく感覚がする。
左腕からはもう何も感じられない。
44 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 23:04:21.48 ID:a77wlatQ0
その代りとでも言うのか、今度は左脚、その後、右脚へ、痛みの発生源が移っていく。
気づいた時には、右脚はおろか、両腕までもが無くなっていた。
何故か、彼女は駄々をこねる子供のような、怒った顔でこちらを見ている。
いや理由はわかっていた。
俺が彼女の期待に応えられていない玩具だからだろう。
怒った彼女の顔は、純粋で、無邪気で、可愛く見え、
そして、残虐で、残酷で、恐ろしく見える。
でも、彼女の期待に答えたくても、俺の体はもうぴくりとも動かせなかった。
|(;゚ω゚)
ξ ー )ξ「………」
怒った顔から一変して微笑んだ彼女が、こちらの首にナイフを近づけてくる。
そんな彼女のすぐ後ろ、曲がり角の位置に、見覚えのある青年が視認出来た。
45 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 23:07:45.02 ID:a77wlatQ0
ああそうか。
その恐怖に体を震わせている青年の姿を見て、やっと分かった。
心では理解していたというのに、なんで脳では認識できなかったのだろう。
これは殺戮のループ、
永遠に続き、
終わる事などありえない。
彼女が振り下ろしたナイフが、俺の首に食い込んだ瞬間、俺の全感覚と意識は完全に途切れた。
死の連鎖の中、魂を吸い続け、尚も血の赤を求める、ナイフだけをこの場に残して。
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一気読み
第一話
-
第二話
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