( ^ω^)ブーン系小説完結作品集('A`) 〜( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです 3、「Reaction」〜

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当サイトはブーン系小説の完結作品集 です。 読み物系は嫌いって方はご退場ください


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2 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:03:34.93 ID:EO7KUsBK0

人間がこんなに美味かったなんて知らなかった。

噛む度にボクの顎を刺激する、筋繊維の弾力。
飲む度にボクの喉を潤し覆う、赤血球の流れ。

鼻孔に流れ込む彼女の体臭は、ボクの唾液腺を刺激し、
舌の上で彼女とボクを、溶け合わせる。

何よりも嬉しいのは、支えであった彼女と一つになれた事だ。

胃袋の中に重量感として彼女の存在を感じる。
どんどんと彼女そのモノをを摂り込んでいく。

これで永遠に一緒にいられるんだ、ボクと彼女は二度と離れる事は無い。
僕が死んでも、混ざり合った細胞は灰となって広大な青空を舞える。

でも、なんで彼女は一人で死んでしまったのだろう。
なんでボクだけを、この世界に置いていってしまったのだろう。

そう疑問に思った僕は、愛の塊を咀嚼しながら、今までの数日間を少し思い返してみた――――



3 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:05:16.79 ID:EO7KUsBK0

3、「Reaction」

(;^ω^)「お〜、トイレトイレ」

今、トイレを求めて全力疾走している僕は、学校に通うごく一般的な男の子。
強いて違うところをあげるとすれば、ダイバスターが大好きってとこかナ――――名前は、内藤ホライゾン。

そんなわけで、ギコと別れた試合帰りの僕は、家へと向かって全力疾走しているのだ。

(;^ω^)「ぃぃ、ぃっこぉ、ぉちっこ、でちゃぅぅ」

尿意というものは我慢すれば我慢するほど、高まるものである。
このままでは僕の膀胱が破裂してしまう。

よし、あきらめよう。

自分の忍耐力の無さに嫌気がするが、膀胱破裂よりはマシである。
そして、人目の無い脇道に入った僕は、ズボンのチャックをはずし始めたのだ。


5 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:07:00.46 ID:EO7KUsBK0

ふと、小便をしながら前を見ると、遠くに一人の若い女性が歩いていた。

( ^ω^)「ウホッ! 愛しのツン…」

しきりと足元を確認しながら歩くツンの姿は、そのまま横道に入って行き、見えなくなってしまった。
すぐに追いかけようとしたが、溜めに溜めたロックバスターがなかなか止まらない。

放水が完全に終わった頃には、ツンを見かけてから一分ほど経過していた。
それでも、ツンの事が気になった僕は後を追いかけてみる事にする。

( ^ω^)「……確かこの道だお」

チャックも閉めずに駆け出し、ツンが入っていった横道の前で足を止める。

「いやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

そんな僕の耳に、僕の前に続く道の向こうから女性の悲鳴が聞こえてきた。
聞き間違える筈も無い、毎日のように聞いてきたツンの声だ。

( ゚ω゚)「ツンッ!!」

そう認識した僕の足は、たった今叫び声をあげたツンの元へと、独りでに動きだしていた。


6 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:08:59.09 ID:EO7KUsBK0

( ゚ω゚)「くそっ、どこだおツン!!」

声のした方に行ってもツンの姿は無かった。
そこに在ったのは、ここいらでも有名なホームレスである荒巻さんの無残な死体だけだ。

それだけでも重大な事だが、今の錯乱している僕にはどうでも良かった。
どうせさっきのは死体なんだ、警察に通報するなんて、もう少し経ってからでも遅くは無い。

とにかく、今はツンの事が気になる。

ただ死体を見て悲鳴を上げたという考えもあったが、
でも、それなら死体があった場所にいる筈だ。わざわざ逃げ出すなんて事はしない。

もしツンが犯行中の殺人鬼と遭遇して、今なお危険な目にあっているのだとしたら、そちらの方が僕には重要な事だった。

( ゚ω゚)「どこにいるんだお!!」

最悪の事態を想像して焦りの表情を浮かべる。




7 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:12:22.37 ID:EO7KUsBK0

でも、その心配は杞憂に過ぎなかった。

「もう、…ってな……か取れ……な…」

十字路を直進しようとした僕の右側から、ツンの声が微かに聞こえてきた。
しかし、何を言っているのか、良く聞きとる事ができない。

兎に角、ツンが生きてそこにいるのが分かった僕は、ホッと胸を撫で下ろし足をそちらに向けた。
そして、声がした所を覗き込んでみる。

ξ ー )ξ「うふふふふふ、ふひっ」

その時、僕が見たのは、まるでこの世とは思えない光景、言うなれば、地獄だった。

差し詰め、中央で笑うツンは悪魔だろうか。

いつもとは違う、狂気に歪んだツンの姿に、僕は声を出す事も出来ない。

ξ ∀ )ξ「うふふふふふひゃはアあはアハははハッはハははははっはははハッ」

目の前で、見知らぬ男を真っ赤な達磨に変えたツンは突然笑い出した。
けれど、何かに気付いたのかその笑顔も怒りの表情に変わる。



8 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:14:18.71 ID:EO7KUsBK0

ξ )ξ「ちょっとぉ、もう切り落とせる場所が無いじゃない」

狂ってる。

ξ )ξ「もう、つまんないなぁ」

そう呟くツンは子供の頃の彼女と瓜二つだ。
でも、違う。同じなのに違う。いや、本当は全然違うのかもしれない。

じゃあ、何故同じに見えるんだ。

ξ ー )ξ「もういいや、あなたはもういらない。……死ねッ!!」

振り下ろされたナイフが、倒れている男の首筋に食い込み、空中に血が舞い散った。
ナイフによって動脈が断たれたのだろう。吹き落ちる血はまるで、夕暮れ時の雪。

ξ ー )ξ「奇麗ね……」

ツンの顔は血塗られ、彼女の服も赤く汚れてしまっている。
もう死んでいるのだろうか、刺された男はピクリとも動かない。


11 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:16:42.00 ID:EO7KUsBK0

ξ )ξ「……はああ」

(;^ω^)「うぐっ」

ナイフについた血を舐め採り、溜息を漏らしたツンの異常な姿に、ついに嘔吐感を堪える事が出来なくなった。
その僕が出した音に反応して、ツンが首だけを動かし、こちらを確認して、そして、笑った。

( ゚ω゚)「う、うああああああああああああああああああああああああああああああ」

殺される、その脳裏によぎった瞬間、悲鳴と共に逃げ出していた。
そんな僕の背中から、彼女の声が聞こえてくる。

ξ ー )ξ「逃がさないわよ。アナタもワタシがコロしてあげるんだから」


13 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:18:59.46 ID:EO7KUsBK0


             死にたくない。

                        そう口で叫んでも、悪魔は近づいて来る。

             生きていたい。

                        そう心で願っても、死神が微笑んでくる。

             助けてくれ。

                        そう神に祈っても、神様なんて存在しない。

             どうすればいい。

                        じゃあ、僕はどうすればいいんだろう。

             答えは簡単。

                        自分の敵は、自分の力で打ち砕け。



14 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:21:09.14 ID:EO7KUsBK0

( ゚ω゚)「うああああああああああああああああああああ」

最終的に、行き止まりに追い込まれた僕は、
無我夢中に持っていたバットを振り回していた。

来るな、化け物。寄るな、異常者。くたばれ、殺人鬼。

窮鼠却って猫を噛む。

自己防衛本能が働いた僕は、相手がツンだというのに、なりふり構わず攻撃する。
凶器と化したバットは、相手の眼前で空を切り、ツンをこちらに寄せ付けない。

( ゚ω゚)「死ねおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

そして、相手が怯んだ内に、手にしたナイフを弾き飛ばした。途端にツンの目が虚ろになる。
その隙を逃さず、返す手でツンの右側頭部を強打した。

骨を打つ鈍い音が響き、横に飛んだツンは壁にぶつかり倒れる。
けれど、あれだけ強く殴りつけたというのに、あたり所が良かったのか、血の一滴も頭部からは出ていなかった。

殺らなければ、殺される。無傷のツンの姿を見て、僕の心がそう語りかけてきた。
その心に従い、最後の一撃を叩き込もうと、右手のバットを強く握りしめる。


17 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:23:24.21 ID:EO7KUsBK0

ξ )ξ「……ブーン、助け、てぇ」

しかし、上段に構えたバットをいざ振り下ろそうとした時、助けを求めるツンの声が僕の手を止めた。
その言葉を最後に、ツンは口を噤み沈黙する。どうやら、気絶してしまったようだ。

(  ω )「……な、なんて事を」

そんなか弱い彼女の姿を見て、僕の理性が蘇った。
ツンはあんな事をする娘じゃない、そんな事は分かりきっていたというのに。

きっと、何かあったんだ。
こうしなければ成らなくなった何かがあるんだ。

僕がもっと冷静に行動していれば、話し合う事だって出来た筈だ。

恐怖に囚われ逃げ出してしまった事を恥じる。
その所為で僕は愛する人を、バッドで殴りつけてしまったのだ。

(  ω )「………」

瞳を閉じた弱々しいツンの顔を見てみる。
真っ赤に染まった顔を、一筋の透明な滴が流れ落ちていった。

(  ω )「……ツン、君は僕が守るお」

そう呟いた僕は、鞄に入れていたユニフォームでツンを包み、抱きあげた。


19 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:26:30.07 ID:EO7KUsBK0

僕は気絶したツンを抱えたまま、彼女の自宅の前まで来た。
幸いな事に、ここまで来る途中、誰ともすれ違う事は無かった。

▼・ェ・▼「クゥーン……」

不思議な顔をしてこちらを見つめてくるペスを一瞥して、僕はチャイムを鳴らす。

J( 'ー`)し「は〜い、どなた〜?」

すると、数秒もしない内に、ツンのお母さんが顔を出した。

( ^ω^)「こんにちはですお」

J( 'ー`)し「あら、ブーン君じゃない。どうしたの?」

(;^ω^)「お? いや、あの……」

J(;'ー`)し「って、ツンちゃん!! どうしたのよ!?」

相変わらずこの人はとろい。本当に、ツンの母親なのだろうか。

きっとツンは父親に似ているのだろう。
まあ、ツンの父親を見た事は一度も無いのだが。



20 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:28:20.90 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「きっと、転んだんだお」

J(;'ー`)し「え?」

( ^ω^)「道端に倒れていたのを僕が見つけて、ここまで連れてきたんだお」

J(;'ー`)し「でも、こんなに血だらけで……」

( ^ω^)「それは、鼻血だお。転んだ時に鼻をぶつけて、血が出たんだと思うお」

J(;'ー`)し「……本当に?」

(;^ω^)「そ、そうだお」

J( ;ー;)し「それなら良かったわ〜。心配したのよ〜」

自分でも苦しい言い訳だと思っていたが、まさか、信じてもらえるとは。
こんな言い訳しか思いつかなかった僕に嫌気がするが、母親がこの人で助かった。

ホッと溜息を吐いた僕は、ここまで来る間、ずっと疑問に思っていた事をおばさんにぶつけた。


24 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:32:55.89 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「ちょっと、聞きたい事があるお」

J( 'ー`)し「え、なに? ブーン君」

( ^ω^)「ツンはどこに行こうとしてたんだお?」

J( 'ー`)し「ああ、ツンちゃんはね、ブーン君を迎えに駅に行ったんだよ」

( ^ω^)「……そうなのかお?」

J( 'ー`)し「もうそろそろ帰ってくる頃だからって、電話もかけてたみたいだけど、気付かなかった?」

(;^ω^)「あうあう、気付かなかったお」

きっと、祝勝会をしに商店街に行こうと走ってる最中で、電話に気付かなかったのだろう。
その時に電話に気付いていれば、未来が少しでも変わっていたのかもしれない。

J( 'ー`)し「ああ、あとクッキーが落ちてなかった?」

( ^ω^)「クッキー?」

J( 'ー`)し「試合帰りのブーン君に食べさせるんだって、張り切って作ってたのよ。
      今、持って無いみたいだし、転んだ時にどこかにいっちゃったのかな?」


26 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:34:38.04 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「そうですかお」

やはり、僕の考えは間違ってなかった。
彼女は人を殺しに出かけたんじゃ無かったんだ。

それが分かっただけで、僕の心のもやもやは晴れていった。

( ^ω^)「じゃあ、今から僕がそのクッキーを探してくるお」

そう言って、僕は抱えていたツンをおばさんに手渡した。

もし目が覚めて、また人を殺そうとしても、あの凶器は現場に置いて来てある。
家の中の包丁やら何やらを使って暴れだすとも考えられたが、今のツンからはそんな気配がしてこなかった。

けれど、一応念を押しておく。

( ^ω^)「あと、ツンに何かあったら。僕の携帯にすぐ連絡して欲しいお」



27 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:38:42.30 ID:EO7KUsBK0

J( 'ー`)し「あら、どうして?」

(;^ω^)「え? えーと、うーん、ほらあれだお。
      ツンが倒れている所を最初に見つけたのは僕だお。
      だから、もし病院に行く事になって、お医者さんにその時の状況を聞かれても、
      ブーンならある程度は答える事ができるお」

J( 'ー`)し「ん〜、おばさん良く分からないけど、ブーン君が言うならきっとそうなんでしょう。
      分かったわ、何かあったら連絡するね」

(;^ω^)「あ、ありがとうございますだお」

J( 'ー`)し「ふふふ、いいのよ。おばさん、馬鹿だからゴメンね」

( ^ω^)「いえいえ。じゃあ僕はもう行くお」

J( 'ー`)し「あら、もう暗くなるから気をつけなさいよ。
     それにしても、ツンちゃん、凄い血ね。お風呂場で洗ってあげた方が良さそうだわ」

( ^ω^)「あ、そのユニフォームは僕が洗うからいいお」

J( 'ー`)し「そう? じゃあ、お願いするわね」

おばさんはツンを包んでいたユニフォームを僕に渡し、家の中に帰って行った。
そして、ドアがカチャリと閉まった瞬間、僕は自分の家へと走りだす。

ツンを救うために、ツンの罪を隠蔽するために。


31 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:42:36.05 ID:EO7KUsBK0

ここからは早く行動すれば、行動する程いい。

自宅の洗濯機にユニフォームを叩き込んだ僕は、あの路地裏に戻って来ていた。
手には野球道具が入ったままの鞄と、ボロ雑巾を一枚手にし、額には多量の汗を浮かべている。

(;^ω^)「おかしいお、無いお」

そんな僕はこの暗くなり始めた路地裏の中で、あるモノを探していた。
ツンの指紋が付いているあのナイフだ。

僕が咄嗟に考えた計画はこうだ。

まずナイフの指紋をこのボロ雑巾で拭き取ってから、警察に第一発見者として電話する。
それから、警察にこう言えば良い。

逃げた犯人の後ろ姿は男だったと。

これで、少なくともツンは捜査の目から外れる。
次に疑われるのは第一発見者の僕だが、僕には返り血が付着していない。


33 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:46:08.16 ID:EO7KUsBK0

あれだけの惨状だった現場だ。

血を一滴も浴びずに人間を解体するのは不可能である。
ツンを運ぶ時だって血は殆ど乾いていたが、念の為にユニフォームで包んで直接触らないようにした。

大丈夫だ。何もおかしい所は無い。

でも、その計画の初手であるナイフが見つからない。
確かにツンを自宅に運ぶ前に、確認してきた筈なのにそれが無い。

( ^ω^)「………」

仕方が無い、ナイフは諦めるしかない。
もし、ナイフの指紋を取られても、ツンには前科が無いから、
警察署にある、前科者の指紋の記録と照らし合わされても、大丈夫だろう。

それよりも、今は死体だ。
あまり放置しておくと、今度は犯人が現場にいた時間と、死体の死亡推定時間が食い違ってくる。

つまりこのまま探し続けて、時間が経ってから警察に連絡すると、
犯人は死体がある場所で、僕が電話するまでぼーっと突っ立っていたという事になる。

そんな事になったらこの計画自体がおじゃんだ。
僕の、男が犯人だ、という供述も信じてもらえなくなる。

警察が来た時に怯えた顔で現場にいれば良いので、電話をする場所は関係無いと考えた僕は、
死亡推定時間の食い違いを無くすために、すぐにその場で携帯電話を取り出し、ボタンを押した。


35 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:48:39.63 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「ふぅ、一段落したお」

警察への連絡を済ませた僕は死体の前で溜息をついた。
未だにツンのおばさんからの連絡が無いという事は、ツンはまだ目を覚ましていないという事だ。

それにしても今の僕は頭が冴えている。

ツンのため、いや、彼女を失いたくない自分自身のためなら、こんなに頭が働くとは思ってもみなかった。

自分の道は自分で斬り開く。
僕はそれを実現するために、誰にも相談せずに僕一人でここまでやったんだ。

( ^ω^)「お?」

ふと、携帯の液晶画面をを見てみると、留守番電話が来ている事に気付いた。
警察が来るまでの暇な時間を潰すために、僕はそれを再生してみる。


37 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:51:08.60 ID:EO7KUsBK0


『もしもし? ブーン? ちょっと何で電話にでないのよ!!


せっかく私が駅まで迎えに行ってあげようって思ってたのに!!


まあいいわ、今すぐ行くからちゃんと駅で待ってなさいよ。


待って無かったら、あんたの為に作ったこのクッ、ゲホゴホ、


な、何でも無いわよ!! もう、切るからね。ちゃんと待ってなさいよ!!』




38 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:53:10.14 ID:EO7KUsBK0

(;^ω^)「あっ……」

すっかりクッキーの事を忘れていた僕は、すぐに辺りを見渡してみる。

すると、遺体のすぐそばに、
真っ赤に染まった紙の包みとクッキーが、無造作に落ちているのが目についた。

僕はボロ雑巾を使って、それを直接触らないようにしながら拾い上げる。

最後の最後でヘマをしていたとは。

そして、そのヘマをツンに救ってもらえるなんて思ってもみなかった。

やっぱり、僕一人では全てを上手く行う事は出来ないみたいだ。

( ^ω^)「ありがとう、ツン」

赤い紙の包みとボロ雑巾をポケットにしまった僕は、拾い上げたクッキーを全て口に含む。
血の風味が少し口の中に広がったけど、それでも甘くて、とてもおいしかった。


40 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:57:22.17 ID:EO7KUsBK0

「おはようだお、おとうさん」

挨拶をしても、父からは返事が無い。

「なにしてるんだお?」

尋ねてみても、父からは返事が無い。

「ねー、おとうさ〜ん、おとうさ〜ん」

いつもと違って無口な父を不審に思い、僕は近づいてみる。
そして、お父さんに触れてみると、天井から吊り下がった父は前後に揺れた。

「イヤアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

突然、ドアの方から、母の絶叫が聞こえてきた。
あまりの音量に幼い僕は耳を塞いで、目を瞑る。

「おかあさん、どうしたんだお?」

母に尋ねても目に涙を浮かべるだけで、返事が無かった。
かなり錯乱しているようで、僕が何度も声をかけても返事をせずに泣き続けている。
幼い僕は現状を理解しようともせず、もう一度、蓑虫みたいに揺れ、ズボンから尿を垂れ流している父を見て小首を傾げた。

「ねえ、おとうさんも、おかあさんも、いったいどうしちゃったんだお?」


43 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:59:38.00 ID:EO7KUsBK0

僕は夏にしては涼しい朝日の中、爽やかな風を浴びて、ハッと我に帰る。

( ^ω^)(嫌な事を思い出してしまったお)

翌日、僕は制服に着替え、ペスがいる小屋の前に座り、ツンを待っていた。
それにしてもあんな惨状を目の当たりにしたせいなのか、父が死んだ時の事を思い出してしまうとは。

父は僕が小さい頃に自殺している。
そして、その死体の第一発見者は、僕だった。

部屋の中、空気の振動で揺れる父の首吊り死体。
それを見た僕は、何も感じる事は無かった。

精神の苦痛を受け入れきれなかった幼い僕は、感情が一瞬にして欠落してしまったのだ。

自殺の理由はリストラ。

他人から見たら死に値しない理由だが、本人からすれば十分というそんな理由。

それ以来、僕の母は女手一つで必死に育ててくれた。
朝から晩まで、パート三昧。母は家にただ眠りに帰ってくる。
そのため、何とか僕はそんなに不自由もせず、ある程度、普通の生活を送る事は出来た。

けど、その所為で僕はいつも一人。
家にいてもする事が無く、よく一人で公園のブランコに遊びに行った。

そんな孤独な毎日。その日常から解き放ってくれたのがツンであった。



44 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:01:54.28 ID:EO7KUsBK0

昨日は、現場に駆け付けた警察に、その後いろいろと質問されたが、その日の内に帰してもらう事が出来た。
もちろん、ツンの事は一言も言わなかったし、受け答えも上手く出来たと思う。

あれから、おばさんからの連絡は無かったので、
心配になり家に帰ってから電話してみると、ツンはまだ眠っているとの事。

そのまま目を覚まさないのではないだろうか、そんな不安が心をよぎり昨日は全く眠れなかった。
それでも、僕はいつもの朝のように今日も、ツンの家の前で彼女を待ち続けている。

( ^ω^)「ツン……」

▼・ェ・▼「クゥ〜ン、ハッハッ」

( ^ω^)「お〜、ペス、くすぐったいお〜」

暗い顔の僕を心配してくれたのか、ペスが顔を舐めてくれる。
その時、勢いよく玄関が開かれた。振り向かなくても開け方で分かる、ツンだ。

僕は彼女がどう反応してくるのか探るため、背を向けたままいつものセリフを投げかけた。

( ^ω^)「ツン、今日も遅刻だお」

ζ゚听)ζ「うるさいわね。毎日毎日、細かいのよブーンは」

いつも通りのツンの返答。
でも、また芽生えてきた昨日のツンに対する恐怖心で、後ろに振り向く事が出来ない。


47 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:05:54.45 ID:EO7KUsBK0

もしかしたら起きて早々、おばさんを殺害したツンが、血だらけで立っているかもしれない。

彼女の目を見て昨日の事を聞かなければならないのに、そんな彼女の血塗られた姿が頭をよぎり体が麻痺してしまった。
仕方が無いので、僕はペスに話をふる。

( ^ω^)「おっおっ、ペスもこんな寝坊助を飼い主に持って大変だお」

▼・ェ・▼「ワンッワンッ」

ペスが僕の言葉に、相槌をうってくれた。

ζ゚听)ζ「何? 喧嘩売ってんの? ペスもこんな奴に返事しないでよ、まったく」

( ;ω;)「おおお、今度は逆切れだお。可哀そうなブーンを慰めてくれお」

▼・ェ・▼「クゥ〜ン」

そばに寄ってきたペスが、僕を気遣い顔を舐めてくれる。

( ^ω^)「なあ、ペス。ツンのペットでお前幸せかお?」

▼・ェ・▼「ウゥゥゥゥゥゥゥ!!」

今度は僕の言葉を否定するかのように、低く唸り声をあげた。



48 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:07:23.44 ID:EO7KUsBK0

ζ゚听)ζ「ちょっと、私のペスに変な事いれこんだでしょう!!」

( ^ω^)「お? ブーンはただペスと話してただけだお」

▼・ェ・▼「ワンッ」

( ^ω^)(……ありがとうだお、ペス)

僕と話しを合わせてくれたペスに感謝する、でも、流石にもうこれ以上、間が持たないと直感した。

それにツンの言葉は至って普通で、いつも通りだ。
昨日、あんな事をしでかした人間のセリフとは到底思えないし、殺意も感じられない。

意を決した僕はツンの姿を確認するために、後ろに振り返った。
その瞬間、

(;^ω^)「ちょっ、ツン」

笑い死ぬかと思った。


49 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:12:44.72 ID:EO7KUsBK0

ζ゚听)ζ「え? な、なに?」

( ^ω^)「今日のツン……」

ζ///)ζ「な、なによ……」

( ^ω^)「髪型が変だおwwwwwwwww ベジータみたいでキメェwwwwwwwww」

ついに耐えられなくなった僕は思いっきり、吹き出してしまう。
今まで、様々な心配をしていた自分が、馬鹿らしく思えてくるほど、ツンの髪形は傑作だった。

ζ )ζ「………死ね」

自業自得。

ツンを指差し、腹を抱えて笑う僕の頬に、ツンの靴裏がくい込んだ。
その衝撃で吹き飛んだ体は、ペスの頭上を軽く越え、その後ろの犬小屋の上を転がった後に、地面に叩きつけられた。

( ゚ω゚).・;'∴ 「ヴッファ!!」

どうやら今度は、僕が気絶する番のようだ。


50 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:14:29.67 ID:EO7KUsBK0

ζ#゚听)ζ「もう!! あんたのせいで学校遅れちゃうじゃない!!
       あんな馬鹿面下げて、気絶なんかしてるから!!」

( ^ω(メ)「おっおっ、気絶させたのはツンだお」

その後、目を覚ました僕はズキズキと痛む頬をおさえながら、学校に向かっていた。
まったく、ツンは手加減というものを知らない。

いや、ツンをバッドで殴った時の僕もそうだったのだ、これでお相子だろう。

ξ#゚听)ζ「ブーンが私の髪を笑ったから悪いんでしょ!!」

(;^ω(メ)「あうあう、ごめんお。それより、ツン」

ξ゚听)ξ「何よ?」

( ^ω^)「昨日のクッキーおいしかったお。ありがとうだお」

ξ゚听)ξ「はあ? クッキーって何の事よ?」

(;^ω^)「お? いや、覚えてないならいいお」

ξ゚听)ξ「変なブーンねぇ……」


52 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:17:08.72 ID:EO7KUsBK0

(;^ω^)(き、昨日の事を忘れているのかお?)

バッドで頭を強打して壁に激突したのだ、ありえない事ではない。

でも、それも一時的な事だろう。

バッドで殴っただけで記憶が永遠に消えるというなら、父が死んだ時の記憶を消すために、僕も今すぐやりたいぐらいだ。
しかし、世の中そんなに甘くは出来ていない。思い出したくなくても、その内、思い出してしまう筈だ。

とにかく今はツンに話しを合わせよう、そう思っていたら何故かツンに睨みつけられた。
反射的に目を逸らし、顔を手で覆う。

ツンと目を合わせるのが怖い。ツンの瞳を直視できない。
まだ、あの時の恐怖心が拭いきれないらしい。

ξ゚听)ξ「まったく、こんな髪型になったのも、受験勉強とあんたのせいよ」

(;^ω^)「ブーンはまったく関係な……」

また、睨みつけられ、言いかけた言葉が続かない。
すぐに、ツンが目を逸らしてくれたので何とかなったが、
彼女が睨みつけて来る度に、僕の脳裏に昨日の映像が流れ出してしまう。

ξ゚听)ξ「それと、あの夢のせい…」

( ^ω^)「お? 何か変な夢でも見たのかお?」

ξ゚听)ξ「そうなの、怖い夢を見ちゃって」


57 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:28:09.48 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「ブーンはツンの事が怖いお」

言ってからまずいと気付いた。
ついつい口を滑らせて、今の自分の本心をツンに言ってしまったのだ。

どんなに恐怖が僕を支配しようとも、彼女を守ると決めていたのに。

そんな時、突如、ツンの鞄が視界を覆う。
直後の衝撃をまともに受けた僕は、鼻血を噴き出し仰向けに倒された。

また、気が遠くなるが、今度はぎりぎりで堪え、目を見開いた。
しかし、予想した追い打ちが来ない。

ツンを見てみると、こちらに背を向けて駆けだしていた。

今の僕の体勢は、昨日のバットで殴られたツンと同じ格好だ。

あの時のツンなら、仰向けに倒されたこんな無防備な僕を殺そうとしない筈が無い。
それに、さっきの気絶していた時なら、簡単に殺せただろうに、未だに僕は生きている。

( ^ω^)(やっぱり、忘れているんだお)

そう確信した僕は、ポケットに入っていたティッシュを鼻に詰め、ツンを追いかけた。



58 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:29:52.06 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「おーい、ブーンは放置かお?」

ξ゚听)ξ「………」

( ^ω^)「おいす〜、聞こえてるかお〜」

ξ゚听)ξ「………」

( ^ω^)「へい、そこの奇麗な御嬢さん、ブーンと一緒にチェケダベイベしないかお?」

ξ#゚听)ξ「うるさい!! あんたなんて知らないんだから」

(;^ω^)「おっ、さっきのはご免だお。ついつい本音が」

ξ゚听)ξ「何? もう一度殴られたいって?」

((;^ω^))「いえいえ、滅相もございませんお」

本当にいつものツンに戻っているみたいだ。
安心した僕は、さっきツンが言いかけた夢の事が気になり、問いかけた。

( ^ω^)「で、話を戻すけど、どんな夢を見たんだお?」

ξ゚听)ξ「なんか、狭い路地裏で男に追いかけられて……」



59 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:31:50.89 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「それで?」

ξ゚听)ξ「……殺されそうになった夢」

( ^ω^)「………」

油断していた僕の体に、戦慄が走る。
彼女はちゃんと昨日の事を覚えているんだ、ただ今はそれを認識していないだけ。

ξ゚听)ξ「ちょっと、どうしたのよ?」

それでも、僕はもうツンから逃げるつもりは無い。

ξ゚ー゚)ξ「ほら、学校遅れちゃうわよ?」

( ^ω^)「ツン……」

ξ゚ー゚)ξ「ん、何?」

彼女が記憶を取り戻したところで関係無い。
僕を孤独という戒めから救ってくれた彼女を、今度は僕が救うと決めたんだから。


61 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:34:30.62 ID:EO7KUsBK0

ξ゚听)ξ「ねえ、本当にどうしたの? 何か変だよ?」

( ^ω^)「ツン、ブーンが……」

君を絶対に守ってあげる。

(;^ω^)「ブーンは毎日、ツンの理不尽な暴行を受けて殺されかけているんだけれど、
      その事についてはどう思うお?」

彼女の両肩に手をのせて、そう伝えようとしたけれど、恥ずかしくなって止めた。
その代わりとして、ツンの暴力に対して日頃から感じていた不満を告げる。

ξ#゚听)ξ「結局、二度ネタかああああああああああああああああああ!!」

おかげで、その場で僕の両手を払い、上空に鞄を放り投げた彼女によって、
もらいたくも無い一撃をまたおみまいされてしまった。

ξ#゚听)ξ「このすかぽんたあああああああああああん!!」

( ゚ω゚).・;'∴ 「ぐほぉっ!!」

あまりにも強烈な一撃に、その場に跪く。
ツンの拳によって生み出された、内臓にまで届く衝撃が、僕の呼吸器官の機能を一時的に停止させた。



62 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:36:42.16 ID:EO7KUsBK0

ξ゚ー゚)ξ「ねぇ、ブーン。仏の顔も三度までって知ってる?」

(;^ω^)「ぐ、ひぃひっは、ツ、ツンそ、その言葉を今使うのはぁ、間違っててぇるお。
      すぃでに今日は、三回もぶちのめされてる、お」

ξ゚ー゚)ξ「だから、その三回が仏の顔なのよ。」

(;^ω^)「……おひぃ」

ξ^ー^)ξ「そして、次からはどうなるか、わかるかな?」

((;゚ω゚))「おっおっおっ」

拳を固く握って微笑みかけてくるツンの姿には、昨日とは違った恐ろしさがあった。

ξ゚听)ξ「て、それどころじゃない。ほら、早く立って」

(;^ω^)「殴ったツンがそれを言うのかお……」

ツンに愚痴を言ってみるが、気にせず彼女は先に行ってしまう。
そんな素気なくて、ちょっと、いや、かなり乱暴の彼女でも、僕の大切な人だ。



63 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:38:47.19 ID:EO7KUsBK0

別に僕がMだから、という訳では無い。

彼女は、幼い頃の僕に絡み付いていた孤独という鎖を、粉々に砕いてくれたんだ。
そして、僕にもう一度、感情というものを蘇らせてくれた、心の恩人。

僕も、そんな彼女の心を満たす人間になりたい。

( ^ω^)「ツン」

ξ゚听)ξ「今度は何よ? 四発目を喰らいたいの?」

( ^ω^)「もし、現実にそんな事がおこったら、ブーンが絶対に助けるお。絶対にブーンが駆け付けるお」

ξ゚听)ξ「へ?」

( ^ω^)「ブーンがツンを絶対に守ってあげるお」

ξ///)ξ「ど、どうしたのよ、急に?」

(;^ω^)「おっおっ、何でもないお。ほら、早くしないと学校に遅れちゃうお」

やっぱり、伝えるべきだと思い、ツンに追いついた僕の口は、自然とその言葉を告げていた。
優柔不断な僕。こんな事でこの先、彼女を守っていけるのだろうか。

気恥ずかしくなって居た堪れなくなった僕は、ツンを追い抜いて先に行く。

ξ゚ー゚)ξ「こら、ちょっと待ちなさいブーン」

そんな両手を広げた僕の背中に、心を温かく包み込み幸せで満たしてくれるような彼女の声が届いた。



66 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:41:53.55 ID:EO7KUsBK0

( ,,゚Д゚)「ブーン、今日の野球部の活動はねえらしいぞ」

( ^ω^)「おっ、本当かお。じゃあ、ツン達と一緒に四人で帰るお」

( ,,゚Д゚)「ああ、そうだな。久しぶりにそうするか」

今は午後の授業も終わった、放課後の校舎内。
僕は教室で、今日の部活の事を野球部の顧問に聞いて来たギコと、話しをしていた。

ギコの話によれば今日の部活動は無く、早く帰れるそうだ。
そのため、久しぶりにいつもの四人で帰ろうと、ツンとしぃの教室に向かった。

( ,,゚Д゚)( ^ω^)ノ「おいすー」

(*゚ー゚)「あ、ギコ君にブーン君」

ツン達の教室に入ると、真っ先にしぃがこちらに気付き、声をかけてきた。
一方のツンは、何やら鞄にノートを仕舞っている。

(*゚ー゚)「ギコ君、今日は部活は無いの?」

( ,,゚Д゚)「ああ、あんな事件があった後だし、大会があった次の日だからな、
     今日は早く帰って休めってよ」



67 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:44:40.49 ID:EO7KUsBK0

(*゚ー゚)「じゃあ、久しぶりに皆でどこか行こうよ」

( ,,゚Д゚)「は?」

( ^ω^)「お?」

急にこの娘は何を言い出すんだ。
しぃは僕と違って何も知らないのに、何でこんな事が言いだせるんだ。

(;,,゚Д゚)「な、なに言い出すんだ。殺人犯がうろついているかも知れないんだぞ。
     今日は、早く帰るべきだゴルァ」

(;^ω^)「そうだお、ギコの言う通りだお」

彼女の精神が正常な人間のものとは思えなかった。
未だ純真な心を持った彼女だからこそ、言える事なのだろうか。

その時、今まで黙っていたツンが口を開いた。

ξ゚听)ξ「……いや、何か食べに行きましょう」

(;,,゚Д゚)「おい、ツンも何言いだすんだ」

ξ゚听)ξ「暗くなる前に帰れば大丈夫よ。真昼間から人を殺す犯人なんていないわ。
      あと、しぃの分は私が払うから、ブーンは私の分を奢りなさい」



68 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:46:25.02 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「お?」

ξ゚ー゚)ξ「朝、私の事を笑った罰よ」

(;^ω^)「ちょ……」

ξ゚听)ξ「それでいいよね、しぃ?」

(*゚ー゚)「しぃは皆で一緒に行ければ、何でもいいよ」

( ,,゚Д゚)「でも、今は危ねえから……」

ξ^ー^)ξ「大丈夫よ。いざとなったら、ブーンが守ってくれるんだって。
      ねぇ、ブーン?」

(;^ω^)「そ、それは……」

(*^ー^)「しぃの事はツンちゃんが守ってくれるから、大丈夫だよ、ギコ君。
     だから、一緒に行こ?」

( ,,゚Д゚)「……ちっ、しぃがそう言うならしょうがねえな」

( ^ω^)「ブーンの事はギコが守ってくれお」

(;,,゚Д゚)「うほっ、ねーよ」



69 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:49:03.16 ID:EO7KUsBK0

(*^ー^)「じゃあ、決まり。ほらみんな、早く行こう」

結局、気付いた時にはどこかに行くという流れになっていた。
でも、誰が犯人なのか知っている僕は、正直どちらでも良かった。

まだ、昨日の記憶が蘇っていないツンと少しでも長くいたい、そう思えたから。

ξ゚听)ξ「あっ」

( ^ω^)「ほら、早くしないと置いてかれちゃうお」

ξ///)ξ「もう、わかってるわよ」

僕は立ち止まっていたツンの手をとり、軽く引っ張る。

彼女といられる今という貴重な時間を、少しでも無駄にはしたくなかったのだ。


72 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:51:12.61 ID:EO7KUsBK0

(*^ー^)「ハムハフッ、おいしぃ〜」

( 'ω`)「………」

( ,,'Д`)「………」

ξ'兪)ξ「………」

こんなにから揚げだけを食べたのは初めてだ。
もちろん、ツンの分もちゃんと僕が払ったので、元々少ないお小遣いの殆どを使いきってしまった。

その現実に、僕はうなだれる。

そのまま小銭だけがチャラつく自分の財布を見つめ、
意気消沈しながら皆と一緒に歩いていると、ツンがどこかを見ながら声をあげた。

ξ゚听)ξ「あれって……」


(*゚ー゚)「どうしたの、ツンちゃん?」

ξ゚听)ξ「ねえ、もしかしてあそこが」



73 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:54:42.54 ID:EO7KUsBK0

ツンに言われて、財布を仕舞ってから視線の先を見てみると、一人の警官が立っていた。
その光景を一目見ただけで分かった、あそこが昨日の殺害現場に続く道だという事が。

( ^ω^)「そうだお、あそこが現場だお」

ツンの問いかけに、僕は正直に答える。
すると、ツンは路地裏の方を見ながらその場で足を止めた。

見覚えがある事に戸惑っているのだろうか。
そう彼女に尋ねたい気分に駆られたが、必死に堪えた。

从 ゚∀从「おい、そこの女」

ξ;゚听)ξ「きゃっ、な、なんですか?」

そんな時、立ち止まっていたツンに、見知らぬ女性が話しかけた。

その女性の全身真っ黒な服装を見て、僕は息を呑む。
いくら今の気温が夏にしては涼しいと言っても、これではただの不審者だ。

そんなどこかの兄者といい勝負をしそうなその黒い服が、白い肌と相成って異様な空気を醸し出していた。



74 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:56:31.58 ID:EO7KUsBK0

从 ゚∀从「……いや、なんでもねえ。悪かったな人違いだったみたいだ」

ξ;゚听)ξ「は、はあ、そうですか」

从 ゚∀从「………」

ξ;゚听)ξ「………」

(*゚ー゚)「ツンちゃん、どうしたの?」

( ,,゚Д゚)「おいてくぞゴルァ」

( ^ω^)「何してんだお、早く行くお」

ξ゚听)ξ「あ、うん、ゴメン」

こんな女と一緒にいたら、ツンまで怪しい奴だと思われてしまう。

今はそういう状況はなるべく避けなければならない。

そう考えた僕は、不審な女の顔を一瞥した後、ツンの手を掴み強引に引っ張った。


76 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:58:19.29 ID:EO7KUsBK0

ξ゚听)ξ「それじゃあ、私、急ぎますので」

从 ゚∀从「ああ、すまなかったな」

( ^ω^)「………」

从 ゚∀从「………」

( ゚д゚ )「そこの君、ちょっとお話しいいかな?」

从;゚∀从「え? 俺?」

( ゚д゚ )「ああ、そうだよ。名前と職業を言ってもらえるかな?」

从;゚∀从「え? えーっと、そのぉ……」

( ^ω^)(……危なかったお)

ツンを引張って行きながらもう一度後ろを確認すると、あの女が警察に話しかけられていた。


80 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:03:51.01 ID:EO7KUsBK0

間一髪。

あのままツンを放っておいたら、確実にツンも巻き込まれていた。

今はなるべく警察とは関わらない方が無難だ。

それに警察なんかの所為で、
この幸せな時間を台無しにしたくは無かった。

しかも、ツンは着実にあの時の事を思い出し始めている。

でも、完全に思い出すまで、まだまだ時間はある筈だ。

一秒たりともその時間を無駄にしたくない。
できる事ならずっと一緒にいたい。

それが警察でさえも欺いた僕の一番の願いであった。



81 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:07:47.48 ID:EO7KUsBK0

次の日の朝、登校の準備をして家を出た僕は、
約束の時間である8時30分に、ツンの家の前に到着した。

すると、珍しく早起きをしていたツンがペスと遊んでいるのが見える。

昨日の帰りに僕が言った事をちゃんと守ってくれたようだ。

( ^ω^)ノ「おいすー。ツン、おはようだお」

ξ#゚听)ξ「遅いわよ、ブーン」

(;^ω^)「お? ちゃんといつも通りの時間に来たお」

ξ#゚听)ξ「レディを待たせるなんてどういうつもり? あんたそれでも男なの?」

(;^ω^)「あうあう、ゴメンお」

ξ゚听)ξ「わかればいいのよ。今度からは、5分前にはここに来るようにしなさい」

( 'ω`)「……ツンは理不尽だお」

ξ#゚听)ξ「何か言った!?」

(;^ω^)「いえ、何でもございませんお」



82 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:09:33.60 ID:EO7KUsBK0

本当にツンは理不尽だ。でも、普段と変わらないそんなツンが大好きだった。

引っ込み思案で優柔不断な僕を、いつもリードしてくれるツン。
いつも情けない僕を心配してくれる、本当は優しいツン。

そんな彼女の姿に、僕はいつの間にか惹かれていたのだろう。

っと、急にツンの顔が赤くなった。
まさか、心の中を読まれたのかと思って、僕は慌てる。

(;^ω^)「急に顔が赤くなったけど、どうしたんだお!?」

ξ///)ξ「な、何でも無いわよ!!」

( ^ω^)「そ、そうかお」

怒鳴られてしまったので、これ以上の追究はできそうに無かった。
そのため、仕方が無く僕は別の話題に切り換える事にする。

( ^ω^)「そう言えば、今日のツンは早起きだお。何かあったのかお?」

ξ゚听)ξ「別に私の勝手でしょ」

(;^ω^)「いや、いつも待たされてるブーンの身にもなって欲しいもんだお」

ξ゚听)ξ「そんな事どうだっていいわよ。さあ、早く行きましょ」



83 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:11:28.47 ID:EO7KUsBK0

相変わらず手厳しいことを、平然と言ってのけたツンは、僕を無視して先に歩きだしてしまった。
その時、昨日とは違い、綺麗にセットされた彼女のツインテールが、そよぐ風に舞った。

思わず感嘆の吐息を漏らしてしまう。

こんな決していい男とは言えない僕なんかとは、彼女の可愛さは本当に不釣り合いだった。

( ^ω^)「そう言えば、ツン」

ξ゚听)ξ「ん、何?」

( ^ω^)「今日の髪形はちゃんとしてるお」

ξ*゚听)ξ「え?」

( ^ω^)「昨日の髪形の方が、面白くて良かっ」
ξ#゚听)ξ「セイッ」

( ゚ω゚)「クォッ!!」

もちろん、この言葉は本心では無い。
心の底から綺麗だと伝えたかったけれど、そんな勇気を僕は持ち合わせていなかった。

( ゚ω゚)「エキィセントォォォォリィックゥゥウウウウウウウウウ!!」

それよりも、股関が痛いです。



84 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:15:58.79 ID:EO7KUsBK0

ξ;゚听)ξ「うわぁ、気持ち悪い……」

股関の痛みを堪えてツンを追った僕に、投げ掛けられた言葉がこれだった。
その言葉の刃が、僕の心に深く突き刺さる。

おかげで、胸も痛み始めてきた。

(;゚ω゚)「何すんだお、潰れたらどうすんだお!! 将来、ツンとの子供が作れ無くなっちゃうお!!」

ξ///)ξ「は、はぁ? 誰があんたなんかと!!」

(;^ω^)「それに、ブーンが馬鹿な事を言ってツンに殴られるというパターンは、
      そろそろ、読者が飽きてきてると思うお」

ξ゚听)ξ「読者なんて関係無いのよ。私さえ良ければいいの」

(;^ω^)「ブーンはどうなるんだお?」

ξ゚听)ξ「あんたは読者のために、もっと面白いやられ方とか奇声のあげ方の練習をしなさい」

( ;ω;)「……お、鬼だお」

頭にきた僕は同情を誘おうと、しゃがみこんで大袈裟に涙を拭ったフリをしてみる。
しかし、流石はツンだ。即座に嘘泣きと見抜かれ、置いていかれてしまった。

すぐに泣いたフリを止めて、彼女の後を追う。



85 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:17:47.15 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「まったく、もっと素直で優しくなれないのかお?」

ξ゚听)ξ「あんたに優しくして、何かメリットがあるっていうの?」

( ^ω^)「僕がツンの事を、もっと好きになるお」

ξ///)ξ「ば、馬鹿じゃないの? 変な事言わないでよ!!」

(*^ω^)「うろたえちゃって、かあいい」
( ゚ω゚).・;'∴ 「ぐぼぉ」

またも、僕の体を痛撃が襲う。
こんな日々が続けば僕はその内に死んでしまう、いや、思い返してみれば今までも、こんな感じだったかな。

そうだとすると、良く生きてこれたものだ。

今までの暴力を一度に凝縮したら、十回は死ねるんじゃなかろうか。

ξ#゚听)ξ「何がかあいいよ!! あまり図に乗るなよ小僧!!」

(;゚ω゚)「はっふぁっは、ず、ずいまぜんでじたお」

ふと、頭を下げて謝る僕の前で、ツンが顔をしかめ、右側頭部をおさえた。



86 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:20:17.10 ID:EO7KUsBK0

(;^ω^)「………」

それを見た時、殴った時の罪悪感と共に、忘れようとしていた一昨日の出来事が頭をよぎった。

飛び散る血、達磨となった男、狂ったように笑うツン。
脳内に蘇ったそれらの映像に耐えきれず、この嫌な気分を変えようと口を開いた。

( ^ω^)「それにしてもツンが早起きなんて珍しいお」

ξ゚听)ξ「あ、そうそう思い出した。あんたにも聞こうと思ってたんだけど」

( ^ω^)「お、何だお?」

ξ゚听)ξ「朝食の時にお母さんにも聞いたんだけどね。私って、昔に死にかけた事なんてあったっけ?」

やめてくれ。

( ^ω^)「……急に何を言い出すんだお?」

ξ゚听)ξ「いや、別に深い意味は無いんだけど。昨日、怖い夢を見たって言ったじゃない?」

思い出させないでくれ。

( ^ω^)「ああ、言ってたお」

ξ゚听)ξ「それで、同じ夢を今日も見ちゃったのよ。しかも、その状況を知っていたって言うのかな?
      とにかく、その夢の先が分かったの。だから、過去にそんな事あったのかなと思って聞いてみただけ」


89 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:24:43.13 ID:EO7KUsBK0

(  ω )「………」

駄目だ。
僕は思い出したくも無いのに、目の前で口を開く彼女は、着々と記憶を取り戻し始めている。

目の前にいる、いつもの可愛らしい制服に身を包んだツンが恐ろしい。
目の前で笑っているツンが、血塗れのツンと重なる。

記憶が完全に蘇ったら、またおかしくなるんじゃないのか。
そして、今度こそ僕は殺されるんじゃないのか。

彼女が何かを言っているが、恐怖に縛られている僕の耳に届く事は無かった。

(  ω )「……ツン」

ξ゚听)ξ「な、何よ?」

(  ω )「急用を思い出したから先に行くお。じゃ」

ξ;゚听)ξ「え? ちょ、ちょっと待ちなさいよ」

そして、とにかく早く彼女から離れたい一心だった僕は、
そんな分かり切った嘘を吐いた後、彼女から全速力で逃げ出していた。



91 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:27:14.91 ID:EO7KUsBK0

ξ;゚听)ξ「どうしちゃったのよ!! ブーン!!」

不審に思ったツンが、後ろから追いかけて来る。

来るな、化け物。
くしくも一昨日の路地裏と同じく、ツンに追われる状況になってしまった。

寄るな、異常者。
追いかけてくる彼女からは殺意も無ければ、狂気も無い。

くたばれ、殺人鬼。
しかし、僕は、守ると伝えておいて、こんな惨めな姿を晒している。

プライドの欠片も無い、そんな僕は道を曲がってすぐにあった公園に駆けこんだ。
ここは昔よく遊びに来ていた、あまり遊具も無く、土地の三分の一は林が生い茂っていると言う、簡素な公園だった。
すぐにその緑が生い茂った林の中に入って身を隠し、追い掛けてきたツンの様子を確認する。

ξ;゚听)ξ「待ってよ、ブーン!!」

どうやら、ツンは僕を見失ってくれたらしい。

公園の前を、声を上げながら走って通り過ぎていった。
その彼女の後ろ姿を見て、安堵の溜息を吐く。


95 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:34:15.32 ID:EO7KUsBK0

(  ω )「……は……はは」

と同時に、木の後ろに怯えた姿で隠れている惨めな自分に気付き、
まるで蔑むかのように、口から小さく笑い声がこぼれた。

僕はなんて情けなくて、駄目な男なんだ。

あれだけツンに大口叩いておいて、この醜態。

いっそ、あの時に殺されてしまえば良かったとさえ思えてしまう。
後悔の念を抱きながら茂みからでると、僕の目にふと懐かしい物が映った。

( ^ω^)「あれは……」

僕の視線の先で、風によって微かに揺れるその遊具は、昔、よく乗ったブランコだ。
思い返してみれば、家に母がいない時は、いつもあれに乗って一人で遊んでいた気がする。

懐かしさを感じた僕は、ブランコに歩み寄っていく。

あの全身が風を切る感覚が大好きだったんだ。そして、その感覚を得ている時だけ自由な気持ちになれた。
そのまま大空に飛び出して行けたらいいのにと、なんど思った事か。


100 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:01:35.62 ID:gqqE16SP0

でも、ツンと会ってからは乗る事が少なくなった。
ツンは、一人という孤独から、この素敵な事がたくさんある世界へと、僕を解放してくれたんだ。

初めて会った時は、恐ろしい人だと体の震えが止まらなかったが、
毎日、無理やりいろんな所に連れて行かれる度に、父が死んでから無表情だった僕の顔に、徐々に笑顔が取り戻されていった。

それなのに、僕はツンに何もしてやる事が出来ない。守る事はおろか、さらには逃げだしてしまうという始末。
心の恩人であり、最愛の人でもある彼女に泥を投げつけ、自分の唯一の支えを傷つけてしまったという事だ。

自分を殺してしまいたい。そんな自責の念に襲われる。

それでも、ツンと一緒にいたかった。彼女が僕の全てだから。
それなら、どうすればいい。僕はどうしたら彼女から逃げた自分を許す事が出来る。

( ^ω^)「……もう、逃げないお」

そうだ、僕はもう彼女から逃げる事を良しとせず、どんな事があっても彼女と向き合えばいい。
もし、彼女の記憶が戻ったって、僕は絶対に彼女から目を逸らしたりしない。

それが僕が出来る唯一の恩返し。彼女のために出来る、心からの感謝。

( ^ω^)「ツン、絶対に、君を守るお」

決意の炎を心に秘め、幼少の頃、心を縛っていたブランコへと進む足を止める。
そして、今の僕の全てであるギコ、しぃ、そして、ツンがいる学校へと、進む道を変えた。


103 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:07:31.22 ID:gqqE16SP0

(  ω )「………」

……もう、お腹いっぱいだね……

ブランコに乗ったボクを、たった一つの外套だけが照らしていた。
座ったまま軽く地を蹴ると、ロープに吊られていた父のようにボクの体も揺れる。

今、ボクはツンの家から、子供の頃よく来ていたこの公園に来ていた。
ボクの母が自宅に帰ってくるまで、ここで時間を潰す事にしたのだ。

この夜中の寂れた公園には、人影など見当たらない。
それでも今のボクは一人じゃない。

お腹の中に感じるんだ、ツンの温かい優しさが。

僕とツンはもう一心同体、永遠に離れない。
例えボクが死んだって、ツンと一緒に空を舞い、土にかえる。

そうだ、最初からこうすれば良かったんだ。
こうしていればこのブランコに一緒に乗る事だってできたんだ。

……ブランコ、楽しいね……

そうだね、ツンと乗るブランコはとっても楽しいよ。


106 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:11:13.00 ID:gqqE16SP0

从 ∀从「あらら、第一発見者に憑いてるとはな」

そんなボクとツンだけの楽しい時間を、一昨日見たあの不審な女が邪魔をする。
さっきまで誰もいなかった筈なのに、そいつは音も無く現れていた。 初めて会った時とは違い、黒いコートは着ておらず、あの大きな鞄も持っていない。 そんな今の彼女はジーンズにTシャツというラフな格好をしていた。

从 ゚∀从「昼に見た時は憑いてなかったんだが、どうやら移動したみてぇだな。
      こんな事なら、クックルを現場に置いて来なければ良かったぜ」

(  ω )「うるさい、ツンとの時間を邪魔するなお。あんた誰だお?」

从 ゚∀从「んな事はどうだっていいだろ坊主。
      理性が少しでも残ってんなら、そのナイフこっちに寄こしな」

……その人も殺して……

( ゚ω゚)「あんたの命令もどうだっていい事だお。それより、死んでくれお!!」

从;゚∀从「……チッ、ダメか」

舌打ちをした女は、ブランコから降り、ナイフを構えたボクを見て逃げ出した。


108 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:15:56.34 ID:gqqE16SP0

当然、易々と逃がすつもりは無い僕は、すぐにその後を追いかけた。

あんな見ず知らずの誰かを食べる気はしないが、
ツンとの素敵な時間を邪魔した罰は、受けてもらわなければならない。

それに食後の腹ごなしにもなる。
母を食べに行くのはそれからでも遅くは無い筈だ。

( ゚ω゚)「フヒヒヒヒヒヒ」

それにしても体が軽い。
人を一人丸ごと食べたというのに、その重さを全く感じなかった。

これもこのナイフのおかげなのだろうか。
まるで、今までセーブされていた筋繊維一本一本を全てフルに使用している気分だ。

だが、僕から逃げる女も異常だった。

こんな人体の限界の速度で走るボクと対等、いや、それ以上の速度で駆けて行く。
あれは常人が出せるスピードでは無い。さらに、不思議な事に、前を走る女からは足音があまりしなかった。

徐々に開いていく、ボクと女の距離。
それでもその背に必死にくらいついていくと、前を走る女が脇道に入った。


111 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:21:38.90 ID:gqqE16SP0

( ゚ω゚)「………」

それを見たボクは、その場で足を止める。

幼い頃からツンに連れ回されたボクにとって、ここら一帯は自分の庭のようなものだ。
この道がどの道に繋がっているかも知っているし、近道だって知っている。

(  ω )「お前も今すぐ……」

( ゚д゚ )「君!! こんな所でなn」

(  ω )「こっちみんなお」
( д )「ィ、べ?」

いきなり近寄って来た警察官の目を、ボクは横一文字に切りつけた。

一つ目の右の眼球に吸い込まれた刃は、そのまま眉間を断ち、切っ先が左眼を裂く。
不意の出来事に、警官は何の抵抗も出来ずに倒れた。

視神経を切断された事によるショック死だろうか、倒れた警官は二、三度痙攣した後、動かなくなった。
そんな警官を見下ろしながら、ボクは声を上げる。

( ゚ω゚)「お前も今すぐ、殺してやるお!!」



112 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:25:25.70 ID:gqqE16SP0

从 -∀从「フゥー、どうにか合流できたな」

あの女の声が聞こえてくる。

その声を耳にしたボクは壁に背をつけ、身を隠した。
そのまま、女の横に位置する脇道から、顔だけを静かに出して様子を探る。

从 ゚∀从「こんなにすぐ見つかるなら、最初から一緒に探すんだったな。
      そう思うだろ、クックル?」

( ゚∋゚)「………」

殺害現場近くの暗い路地裏。
その路地裏の道の中で、少し広けた場所にその女は立っていた。

彼女の前には一昨日その女が着ていた黒一色のコートで全身を包んだ、男もいる。

そのクックルと呼ばれた身長が180以上はありそうな男の右手には、
大きめの黒いバッグが握られていた。これもあの女が持っていた物だ。

そして、その男の目を見た瞬間、ボクは息を呑んだ。

まるで、生気を感じられないその目は、眼前の女など見向きもしていない。
何も無い空中を、何も考えず、何も感じず、ただただ無言で見つめている。


117 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:29:45.61 ID:gqqE16SP0

そんな男を見て直感した。あれは人間では無い。

よくよく見ると、顔の表情から精巧に作られた人形である事が見て取れた。

从 ゚∀从「そう言えば、途中からあいつ追って来なかったな、逃げたか?」

だが、そんな人形の事など、今のボクには関係無い。
ツンとの時間を邪魔した、この女を殺す事だけを考えればいい。

隙だらけの今なら、至って簡単に実行できる。

ただ横から忍び寄って、斬りかかればいい。

何故、あの女がこんな人形を取りに、ここに来たのかは分からないが、所詮は人形。
あんな木偶人形の玩具は、障害として考慮するに値しない存在だ。



119 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:33:08.85 ID:gqqE16SP0

从 ∀从「逃げたとなると、また探さねーとなぁ」

そう言って、女が無防備に背を向けた。

好機だ。
ここぞとばかりに、ナイフを持ったボクは静かに歩み寄る。

一歩、また、一歩と音をたてずに近づいて行き、
そして、ナイフの射程圏内に入ったボクは、首筋に無音でナイフを振り下ろした。

从 ∀从「喰らえ、クッ
( ,,゚Д゚)「危ねええええええええええええええええ!!」

从;゚∀从「なっ!!」
(;゚ω゚)「おっ!!」

しかし、横合いから突然現れ、女を庇ったギコの左腕に、刃先が突き刺さった。



120 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:35:44.31 ID:gqqE16SP0

何が起こったのか理解できず、思考が一瞬停止する。

そんなボクの目の前で、
女を庇ったギコの左腕から、赤い鮮血が飛び散った。

(;,,゚Д゚)「ぐぅああああああああああああああああああああ!!」

从;゚∀从「ちっ、馬鹿が」

( ゚∋゚)「………」

ギコの痛覚を訴える叫びがボクの頭を揺らし、振り返った女が呟く。

その声を聞きながら、
ギコの腕に刺さったナイフを抜き取ったボクは、一目散に駆け出した。

殺意を、純粋な殺意を感じたからだ。
女からでも無く、ギコからでも無く、動かない筈の人形から。

その殺意に底知れぬ恐怖を感じ、自然とボクの足は、その場から逃げ出す事を選択していた。


125 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:44:09.10 ID:gqqE16SP0

( ゚ω゚)「ハァッ、ハァ」

女がいた場所から離れたワタシは、とり憑いている男の息を整えていた。
未だにあの人形が何だったのか分からない。

だけどこれだけは言える。

あれは唯の人形じゃない。
あの人形の中には化け物が入ってる。

あいつらとはなるべく関わってはいけない。関わったら逆に喰い殺される恐れがある。
とにかく今は逃げた方が無難だ。殺人ならどこでだって出来る。

「……ブーン君?」

そんな考え事をしていたワタシの耳に、少女の声が聞こえてきた。

慌てて振り返ると、
そこには、ツンという子が三番目に殺したがっていた女の子が立っていた。


128 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:46:35.71 ID:gqqE16SP0

名前は確か、

( ^ω^)「えーと、しぃちゃん?」

(*゚ー゚)「う、うん」

( ^ω^)「……なんで、こんな時間にこんな所にいるの?」

(*゚ー゚)「わ、私、ギコ君と一緒にツンちゃんを捜しに来たの。そ、それで」

(  ω )「ツンちゃん? ツンちゃんならここにいるわよ」

(*゚ー゚)「え?」

何だ、わからないんだ。

ツンと昔から親しかったらしいアナタなら、分かってくれるかなと思ったのに。

まあいいや、あの女を殺せなくて、ちょうどむずむずしていた所だ。

最後にこの男を殺して、この町での殺しは終わりにしよう。


131 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:51:07.69 ID:gqqE16SP0







                バイバイ、哀れな操り人形さん












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