2 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:20:13.11 ID:SnNGILEU0
5、「Ending of start」
わたしには、たったひとりのお友だちがいます。
いつもわたしの体の中にいて、いつもおはなししてくれます。
でも、お父さんはそんなわたしを見て、気持ちのわるい子だと言います。
それに、お母さんもそんなわたしを見て、耳ざわりだからだまれと言います。
それでもわたしにはお友だちがひつようなんです。
たいせつなたいせつなおともだち、いっしょにいるだけでわたしは幸せです。
いつまでもいつまでもわたしたちはお友だちです。
それだけで幸せだから、ほかには何もいりません。
リ(゚ー゚*セミ「ね? そうだよね、ミセリちゃん?」
ミセ*゚ー゚)リ「そう、私達はいつまでも一緒よ。他には何もいらない」
3 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:21:55.94 ID:SnNGILEU0
ミセリちゃんと初めて出あったのは、おばあちゃんがお星さまになったときのことです。
動かなくなったおばあちゃんの前で、泣いているわたしにやさしくはなしかけてくれました。
なまえがまだないとうので、ミセリというなまえは、わたしがつけてあげました。
わたしとちがって、しっかりしていて、あかるくて、あたまもいい。
わたしとはせいはんたい。
だから、わたしのなまえのリセミを逆からよんで、ミセリちゃんにしました。
それからは、へやのすみで丸まってねるときも、
お父さんにたのまれて、おさけというものを買いに行くときも、
わたしがお水をこぼして、おかあさんになぐられているときも、
まいにちまいにち、いっしょでした。
5 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:24:26.76 ID:SnNGILEU0
でも、さいきんのミセリちゃんはなにか変です。
わたしとおはなししているときも、してないときも、すぐに人をころしたいと言います。
人をころすのはいけないことです。
むかし、おばあちゃんがわたしに教えてくれました。
人げんはお互いに、助けあって生きていかないといけない。
だから、せんそうなんてもので人がころし合うのはいけないことだって。
リンゴの皮をむきながら、そうはなしてくれました。
だから、おとうさんにどなられても、わたしはだいじょうぶです。
おとうさんを支えているのは、わたしだから。
だから、おかあさんになぐられても、わたしはだいじょうぶです。
おかあさんを支えているのは、わたしだから。
6 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:26:09.47 ID:SnNGILEU0
じゃあ、わたしを支えてくれるのはだれ?
それは、もちろんミセリちゃんです。
けど、なんでミセリちゃんは人をころしたいんだろう。
わたしがおとうさんにどなられるたびに、ミセリちゃんはいいます。
あんなおとこは、死んでしまえばいいのよって。
わたしがおかあさんになぐられるたびに、ミセリちゃんはいいます。
あんなおんなは、ころしてしまえばいいのよって。
ほんとうに、なんでそんなことを言うのか、あたまのわるいわたしには分かりません。
おおきくなったらわかるようになるのかな。
どうなんだろう。
8 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:29:32.74 ID:SnNGILEU0
きょうはおとうさんとおかあさんが、けんかをしていました。
りこん、とか、しんけん、とか、いさん、とかわたしにはよくわからない大声がきこえてきます。
ふたりがけんかしているときは、わたしはとなりのへやで大人しくしていないといけません。
そうしないと、向こうにいってなさいって、いっぱいお顔をなぐられます。
泣いてたのんでも、止めてはくれません。
だから、いつのまにかわたしは泣かなくなりました。
リ(゚ー゚*セミ「ねえ、ミセリちゃん。りこんって、なに?」
ミセ*゚ー゚)リ「……リセミは知らなくてもいい事よ」
リ(゚ー゚*セミ「そうなの?」
ミセ*゚ー゚)リ「そう、大丈夫。何があっても私達は一緒でしょ?」
リ(^ー^*セミ「そうだね。ずっと一緒だね」
ミセリちゃんはほんとうにいい子です。
いつもわたしのことを心ぱいしてくれます。
わたしも大きくなったらミセリちゃんみたいになりたいです。
12 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:34:01.09 ID:SnNGILEU0
そのつぎの日から、お家からお父さんがいなくなりました。
それからは、お母さんと二人きりの生活がつづきます。
こんどは、おかあさんがおさけというものを、いっぱいのむようになりました。
そして、おさけをのんだあとは、かならずわたしをなぐりにきます。
「あんたさえ!! あんたさえいなければ、私は!!」
そう言って、わたしをいっぱいいっぱいなぐります。
でも、わたしにとってはお父さんにどなられなくなっただけで、ほとんどかわらないまいにちです。
16 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:37:22.50 ID:SnNGILEU0
「お小遣いをあげるから、お外に遊びに行きなさい」
そんなある日、いつものようにおさけをのんでいるお母さんがそう言いました。
そして、わたしに500とかいてある、お金を手わたしてくれます。
リ(゚ー゚*セミ「ほんとうに、いいの? お母さん」
「ええ、それでおかしでも買ってきなさい」
おつかいいがいでお外にでるのははじめてです。
うれしさにとびあがりそうになったわたしは、
たくさんの紙のまいすうをかぞえているお母さんに、いってきますと言って家をでました。
そして、いつもお父さんのおさけを買いにいっていたところしか、
お店がいっぱいあるところを知らないので、わたしはそこに行くことにします。
ミセリちゃんと二人っきりのおかいもの、たのしいな。
19 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:40:59.75 ID:SnNGILEU0
でも、ミセリちゃんはなんだかすなおによろこんでいないみたいです。
ミセ*゚−゚)リ「リセミ、何か変よ。きっと何か、良くない事が」
リ(゚ー゚*セミ「よくないことってなぁに?」
ミセ*゚−゚)リ「それは……」
リ(゚ー゚*セミ「どうしたの、なにかへん、キャッ!!」
ミセリちゃんとおはなしをしながら歩いていたら、知らない男の人とぶつかってしまいました。
わたしはすぐにたちあがって、ごめんなさいをします。
すると、男の人はわらいながらわたしにたずねました。
「君がリセミちゃんだね?」
リ(゚ー゚*セミ「そうだけど、おじさんはだぁれ?」
「ただの通りすがりのお兄さんだよ。それよりお兄さんと一緒にいい事をしないかい?」
リ(゚ー゚*セミ「いいこと?」
「そう、いい事。大丈夫、とってもとっても楽しい事だよ」
そう言って、ふところからナイフをとりだしたおにいさんは、わたしをだれもいない、うすぐらいみちにつれていきました。
25 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:44:30.47 ID:SnNGILEU0
たすけて
かおが、うでが、てが、はらが、あしが、おまたのあいだがいたい。
からだじゅうをなめまわされて、きもちわるい。
なにかが、わたしのこころも、からだも、きずつけていく。
なんで?
なんで、わたしだけこんな目にあうの?
おしえてよ、ミセリちゃん。
こたえてよ、ミセリちゃん。
なんで、わたしだけこんなに苦しいの?
にんげんは助けあって、いきていくんでしょ?
なんでだれもわたしを助けにきてくれないの?
ねえ、助けてよミセリちゃん。だれか、わたしを助けて。
28 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:48:03.07 ID:SnNGILEU0
痛い!! お腹が痛い!!
なんで?
なんで、この人は笑ってるの?
わたしがくるしんでるのに、なんで、笑っているの?
ひとはみんな自分のことしか、けっきょく考えていないの?
ねえ、ミセリちゃん、わたしつかれちゃったよ。
ごめんね。
ずっといっしょにいるってやくそくだったのにね。
でも、わたしはもうこんなせかいにいたくない。
にんげんなんてものを見ていたくない。
ずっと目をつぶっていたい。
そうだよ。
にんげんなんてみんないなくなってしまえばいいんだ――――
32 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:51:24.10 ID:SnNGILEU0
ミセ* ー )リ「………」
そして、ミセリの心の中だけの存在であった筈の私は、霊となって形成された。
何故、生まれてきたのかは分かっている。
人間を全て駆逐するためだ。
そのためには力がいる。
どんなに強い人間も、誰一人として例外なく殺せる力が必要なんだ。
私はリセミの腹に刺さっていたナイフを引き抜き、未だに腰を振り続けている男の右脚に突きこんだ。
そのまま相手の精神を乗っ取るために、まずナイフに自分の霊体を移し、
そこから徐々に、自分自身を、相手の体の中に流しこんでいく。
「いたぁあっ!!」
男がすぐにリセミの手を払い、足に食い込んだナイフを抜いた。
そのナイフを力強く握りしめ、もう死んでいるリセミの体に容赦無く刃を向ける。
「こいつ僕の体によくも!! 死ね!! 死ね!! 死ねええええええええ!!」
なんて醜く腐った生物なんだ、この人間は。
まあ、その殺意のおかげで、この男の意志を自分の色に染めていく事は容易に出来た。
34 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:55:20.30 ID:SnNGILEU0
そもそも私は、日々行われてきた両親の虐待と祖母の死をきっかけに生まれた多大なストレスと孤独という恐怖から、
リセミの精神を守るために生まれた疑似人格である。
俗に言う二重人格。
リセミの場合は、自分を守る生存本能でそれを生み出した訳だ。
さらに、私はリセミの孤独を癒すと共に、彼女のある感情を受け持った。
それが両親の存在を消し、苦痛を無くしたいという願望。
本人はその意志を否定し続けていたが、抑圧され続けたその感情が、今では私の心のほとんどを占めていた。
それほどまでに、リセミの、両親に対する殺意は大きかったのだ。
そんな殺人衝動の塊である私にとって、こんな奴の殺意を喰うなど造作も無い事。
私は無我夢中で刃物を振るう男の意志を食べていく。
そして、食べれば食べるほど、力が湧いてくるのを知った。
「ヒィッヒィッひひヒィッヒィひヒヒッヒヒッヒヒィヒヒ」
さらに、自分を律しようとする意志、つまり、理性を喰うと、男の意志が殺意一色に変わり、
その殺すという事に対する意志の力が強まる事が分かった。
それもその筈、ブレーキが無ければ車は止まらないように、理性が無ければ殺欲の意志もとまらない。
35 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:58:41.10 ID:SnNGILEU0
ミセ*゚ー゚)リ(じゃあ、これを繰り返していけば、人も殺せるし、意志を食べる事で私の力も強くなって……)
/ ,' 3 「ひ、ひぃ!!」
その時、男の意志を殆ど食べ終えた私の後ろから、悲鳴が聞こえてきた。
振り返ると、白いセーターを着た初老の老人が尻もちをついてこちらを指差している。
ちょうど良かった。
私が最初に、この体につけた傷が相当深かったらしく、足が上手く動かせなかったのだ。
こんな体ではこれから先、人を殺していく際に障害になる。
ひとまずは目の前の老人の体を無傷で乗っ取り、人殺しを続けながら次々に体を変えていけばいい。
と、そうこう思考している間に、恐怖の余り言葉も出ない老人が、必死に立ち上がり半ば這いずるように逃げ出していた。
「次の、次の僕の子供、待ってええええええええええええ!!」
ミセ* ー )リ(ふふふふ)
もちろん、せっかく見つけた獲物を逃がすつもりは無い。
私が歯止めを無くしてあげた、己の殺戮欲求を満たすために、リセミを殺した男が、勝手に老人を追って走り出した。
……さあ、楽しい楽しい殺戮ループの始まりよ……
36 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:02:07.87 ID:SnNGILEU0
从 ゚∀从「おっ、あったあった」
( ゚∋゚)「………」
俺は今、あの青年の傷ついた左腕の、止血をした場所に忘れてきていた、大事な鞄を取りに戻っていた。
このバラした人間が二人は入るほどの大きさの鞄は、普段クックルを持ち運ぶために利用しているのと、
クックルが破損した際に憑け変えるための、予備の小型の人形が数体入っている。
真昼間からどうどうと人形が町中を歩いていたら、人目を引いてしまうため、このような鞄が必要不可欠なのだ。
そんな女性には不釣り合いの鞄の中に、未だ手にしていたナイフを放り込んだ。
从 ゚∀从「にしても、外では滅多に出て来ないお前が、鞄も忘れて走り出すとはな」
俺は、コートを脱がしたクックルの関節部分を器用に折りたたんで、鞄に仕舞いながら呟く。
すると、クックルと俺以外に誰もいない筈のこの場所で、返事が返って来た。
もちろん、俺の口からだ。
从 ゚ -从「あなただって、いきなり一発やらせろだなんて、はしたない」
从;゚∀从「うっ……」
从 ゚ -从「それにクックルの左腕を、あの男の子にあげたのはどうして?」
40 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:05:30.13 ID:SnNGILEU0
从;゚∀从「そ、それは……」
あの青年の左腕に関する意志は、ほっとけばその内に治ったのだ。
それでも、気付いた時には、クックルの左腕をもぎ取り、無理やり彼の体内に移植していた。
ちなみに、クックルの方は先程食べた少女の霊志で、欠けた左腕を補ったので、今は動作に支障は無い。
それでも、何で俺はそんな事を。
从 ゚∀从「……やっぱり、フサに似てたからかな」
私の質問に答えながら、俺は先程の事を少し思い出す。
あの青年が俺を庇おうと飛びだして来た時の姿が、
俺の生みの親であり、私の主人でもある、フサの姿とダブったのだ。
42 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:07:16.40 ID:SnNGILEU0
从 ゚ー从「……でしょうね。私もそう思ったし」
从 -∀从「ったく、わかってんならいちいち聞くなよな」
クックルを仕舞い終えた俺は、鞄を手にして立ち上がり、私は顔を上げ夜空を見上げた。
頭上には私がフサと出合った時と同じ、満天の星空と欠けた三日月が輝いている。
从 ゚∀从「………」
从 ゚ -从「それで、これからどうするの?」
从 ゚∀从「だから、わかってんなら聞くなよ」
从 ゚ー从「そうね」
从 ゚∀从「それにな、一つ思い出した事があるんだ」
从 ゚ -从「思い出した事って?」
从 ゚∀从「女にとって、とってもとっても大切な事だよ。
あいつには責任を取らせないとな。ハーッハッハッハイーンリッヒ!!」
43 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:09:19.75 ID:SnNGILEU0
(* ー(;,,゚Д゚)(な、何か寒気がするな……)
(;^ω^)「本当に、ここにツンがいるのかお?」
今、俺達はツンの自宅の前に来ていた。
しぃと二人でこの家に来た時に、
俺が聞いた声が、聞き間違いじゃなければ、ツンはここに霊としている筈だ。
俺の背で未だに眠っているしぃを、背負いなおし、玄関の戸を開けようとする、
しかし、左腕に傷を負い、右腕で背のしぃを支えているという、今の俺の状況では上手く開ける事が出来ない。
( ^ω^)「じゃあ、ブーンが開けるお」
そう言ってドアを開けようとしたブーンだったが、その手ではドアノブを掴む事が出来ない。
何度か試してみたブーンだったが、何度やってもすり抜けてしまい、結果は同じだった。
(;^ω^)「あうあう、本当に幽霊になっちゃってるお……」
今更な事を口走るブーンの声を聞きながら、しぃをドアの横に寝かせ、空いた右手でドアノブを掴んだ。
そして、ゆっくりとドアを開けようとした時、
45 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:14:49.71 ID:SnNGILEU0
ξ )ξ「来てくれたんだ、ブーン」
(;,,゚Д゚)(;^ω^)「うっひょおおおおおおおおおおおおおおおおお」
後ろから急に声をかけられ、驚きのあまりドアに顔面を強打した。
ブーンも俺と一緒にドアに突っ込んだのだが、そのまますりぬけてしまう。
痛めた鼻を押さえながら後ろを確認すると、ツンが俺たちの後ろに浮いていた。
家の中にいるブーンも、様子を窺うように、ドアから顔だけを出してくる。
ξ;゚听)ξ「あんた達、何やってんのよ。急に大声出さないでよ!!」
(;^ω^)「ツンがいきなり声をかけるから悪いんだお!!」
(;,,゚Д゚)「いるならいるって言えよゴルァ!!」
でも、俺達が気付かなかったのも無理は無かった。
ブーンと同じくツンの霊体も、殆ど透明になっていたのだ。
このままでは、この世から完全に消え去るのも、時間の問題である。
48 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:18:14.53 ID:SnNGILEU0
ξ゚听)ξ「もう、レディを待たせるなんて!! 今度からは、ちゃんと5分前に来るようにって言っといたでしょ!!」
(;^ω^)「あうあう、ごめんお」
ξ゚听)ξ「それに私の体を食べるなんて、一体どういうつもりよ!! 変態!!」
(;^ω^)「あ、あれは……」
ξ゚听)ξ「言い訳しない!!」
(;^ω^)「す、すいませんだお!!」
だと言うのに、こいつらの緊張感の無さは相変わらずだ。
でも、本人達も分かっているんだ、自分達にもう時間が残されていない事ぐらい。
ξ゚听)ξ「……ごめんね」
( ^ω^)「お?」
ξ゚听)ξ「私のせいで、ブーンに迷惑かけて……」
(;゚ω゚)「ち、違うお!! 僕が守らなくちゃいけなかったのに。
ツンを守れなくて、それで!!」
ξ゚ー゚)ξ「……ありがとう、ブーン。最後にあなたに会えて良かった」
( ^ω^)「最後なんかじゃ無いお」
52 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:20:29.17 ID:SnNGILEU0
感謝の意を告げたツンの霊体が一際揺らぎ、
さらに、そんなツンにつられるように、ブーンの体の揺らぎも大きくなった。
二人は体を空中溶かしていき、その存在感を薄めていく。
ξ゚听)ξ「え?」
( ^ω^)「ツンを一人で逝かせたりしないお。これからもずっと僕達二人は一緒だお」
ξ゚ー゚)ξ「……ブーン」
向い合った二人の霊志が風に舞い、夜の闇の中をがきらきらと輝いた。
幻想的な空間の中、欠けてゆく二人の体は互いを補うようにさらに近づき、光の中で口づけを交わした。
この世にいられる最後の時間。二人が出来る最後の口づけ。
無力な俺は、その二人をただ見つめていた。
ブーン達の最後の時間を、僅かしかない再開の時間を、増やしてやる事など俺なんかには出来ようもない。
(*゚ー゚)「…ん……ツン、ちゃん? ツンちゃん!!」
そんなツンとブーンの唇が離れた時、眠っていたしぃが目を覚ました。
ゆっくりと立ち上がろうとするが、腹と足の痛みによるものか、よろよろと倒れかける。
そんなしぃに駆けより、俺はその身を支えた。
57 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:23:49.85 ID:SnNGILEU0
( ,,゚Д゚)「お、お前、ツンが見えるのか?」
(*゚ー゚)「何言ってるのよ、ギコ君。そこにツンちゃんがいるじゃない」
しぃに霊感があったなんて、幼い頃から一緒だった俺が知らない筈が無い。
じゃあ、何故、見えるようになったのか。
俺と同じく、体に他の霊が侵入したからだろうか。
あのハインリッヒという女なら、何か知っていそうだが、今、ここに奴はいない。
(*゚ー゚)「良かったぁ。しぃね、ツンちゃんのこと、必死で探したんだよ。
でもね、もう大丈夫だよね? もういなくなったりしないよね?」
ξ゚听)ξ「……ゴメンね」
(*゚ー゚)「え?」
ξ゚听)ξ「私、もうここにはいられないの」
61 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:28:09.54 ID:SnNGILEU0
(*゚ー゚)「ツンちゃん、何言って」
体を支えていた俺の手を払いのけ、
しぃが片足を引きずりながらツンに歩み寄って行く。
そして、すがり付くようにツンに抱きつこうとしたが、そんな彼女の体はツンの霊体を通り抜けた。
その場でしぃは、地面の上にもつれるように倒れる。
ξ゚听)ξ「………」
(* ー )「……ぃや、だよ」
ξ゚听)ξ「……ゴメンね」
(*;−;)「いや、だよぉ、ぅぐ、しぃをぉ、おいてかないでよぉ」
ξ;゚ー゚)ξ「な、何言ってんのよ、しぃにはギコがいるでしょ?」
(*;−;)「四人みんなでいっしょじゃないと、やだよぉ」
65 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:31:42.17 ID:SnNGILEU0
( ,,゚Д゚)「しぃ……」
( ^ω^)「しぃちゃん……」
しぃの嗚咽混じりの声が、何も出来ない俺の心を絞めつける。
楽しい時だって、辛い時だって、いつも俺達四人は一緒だった。
もちろん、これからもずっと。
そう思っていたのに、別れは突然やってくる。
ξ )ξ「ギコ、今日だけは許してあげる」
( ,,゚Д゚)「………」
ξ;凵G)ξ「でも、これから先、しぃの事を泣かしたら許さないんだから!!」
( ,,゚Д゚)「……ああ、わかった」
二人が消えても、俺達の思い出は無くならない。
孤独だった一人一人が、寄り添い合い作って来た、記憶の欠片。
68 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:35:01.00 ID:SnNGILEU0
夜空に輝く満天の星空の中で、欠けた三日月が俺達を照らす。
俺達はそんな月のように、欠けた奴らが集まってできた、心の家族だ。
そもそもこの世に、満月のような完璧な奴は、存在しないのかもしれない。
全ての人が欠けていて、お互いを支え合う。
だから、ツンとブーンがいなくなっても、俺はしぃを支えていかなければならない。
それがツンの最後の願いであり、弱い俺の強い思いだ。
( ^ω^)「…ぎこ、そ、ろそろぉ」
( ,,゚Д゚)「もう……逝くのか」
( ^ω^)「い、まま、でありがと、だお」
ξ;凵G)ξ「ごめんね」
(* − )「いやだよ、いやっ!!」
70 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:36:42.01 ID:SnNGILEU0
さ よ う な ら しぃ
73 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:40:55.79 ID:SnNGILEU0
(*;−;)「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ」
原型を留める事が出来ず、存在を消していく二人。
そんな二人が溶けゆく空に、
しぃの絶叫が響くと同時に、二人を視認できなくなった。
絶叫の後、完全に霧散した霊志の光と、静寂だけが、その空間を支配する。
そして、その場には、俺達二人だけが残された。
それでも俺は生きていく、ツンとの約束を守るために。
75 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:43:13.97 ID:SnNGILEU0
これで最終話投下終了
……と言いたい所だが、実はおまけがあるんだ
でも、そのおまけはこのシリアスな空気をぶち壊しかねないので、
ここまでで十分満足な人は、読まない事をお勧めする。
では、さっそく、投下開始
78 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:45:49.54 ID:SnNGILEU0
6、「Ghost eater」
( ^ω^)「…ぎこ、そ、ろそろぉ」
( ,,゚Д゚)「もう……逝くのか」
( ^ω^)「い、まま、でありがと、だお」
ξ;凵G)ξ「ごめんね」
(* − )「いやだよ、いやっ!!」
ξ )ξ「……さようなら、しぃ」
(*;−;)「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ」
原型を留める事が出来ず、存在を消していく二人。
そんな二人が溶けゆく空に、しぃの絶叫が響くと同時に、二人を視認できなく
从 ゚∀从「とう!!」
ξ;゚听)ξ「きゃっ!!」
( ゚ω゚)「うぎゃっ!!」
なる寸前、いきなり屋根の上からハインリッヒが現れ、二つの物体を、ブーンとツンそれぞれに投げつけた。
その人型をした物体は、消えかかっていた彼等に直撃し、その中に二人を取り込む。
81 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:47:36.44 ID:SnNGILEU0
(;,,゚Д゚)「な……」
そして、今、俺の前には、先程のクックルという奴によく似た小さい人形が、二つ落ちていた。
ふと、その人形が立ちあがり、自分の姿を確認するかのように、顔をきょろきょろと動かす。
(*゚∋゚)「ちょっと、何よ、これえええええ!!」
(*゚∋゚)「お〜、ロボットみたいでかっこいいお!!」
从 ゚∀从「ふう、危ねえ危ねえ。あやうく、非常食を取り逃すとこだった」
屋根の上から飛び降りてきたハインリッヒが呟く。
(*゚∋゚)「ちょっと、何すんのよ、あんた!! 感動のシーンが台無しじゃない!!」
(*゚∋゚)「いったい、何なんだおこれ?」
从 ゚∀从「それはな、俺様が作った『1/10スケール、ムチムチ☆クックルちゃん人形』だ。
おい、オマエ、そいつを見てどう思う?」
83 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:48:53.13 ID:SnNGILEU0
(*゚∋゚)「凄く……かっこいいですお」
(*゚∋゚)「ぐむむ〜!! 駄目だ、全然出られないわ」
从 ゚∀从「当たり前だ。俺の霊志を少しこめた髪の毛を、首に巻いといたからな。
その霊志が無くなるまで、その人形からは出られねえよ。
さながら今のお前達は俺のペットってとこだな」
(*゚∋゚)「ふざけんじゃないわよ!! 何よこの変な体。いいから早く出しなさい!!」
从 ゚∀从「だが、断る」
(;,,゚Д゚)「……おい、おまえ、いったい何しに来たんだよ」
从 ゚∀从「ああ、ちょっと思い出した事があってな」
( ,,゚Д゚)「思い出した事?」
从 ゚∀从「お前、俺の胸を揉んだだろ」
(;,,゚Д゚)「は?」
(*゚∋゚)(*゚∋゚)(*゚ー゚)「え?」
86 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:51:17.56 ID:SnNGILEU0
从 ゚∀从「しかもだ、俺が意識を失って動けない事をいい事に、
強く激しく揉みしだきやがって。左胸がもぎとられるかと思ったぞ」
(;,,゚Д゚)「いやいやいや、待て待て待て!!」
(*゚∋゚)「……見損なったお、ギコ」
(*゚∋゚)「ギコ、あんたサイテーね」
(* − )「ギコ君、……本当なの?」
(;,,゚Д゚)「ち、違うんだ!! あれは、傷の具合を見ようとして」
(*゚−゚)「ふーん、傷の具合を見ようとして、服も脱がそうとした訳だ」
(;,,゚Д゚)「ち、ちが!!」
(*;ー;)「う、うえええん、ギコ君が浮気したああああああああああああ」
(*゚∋゚)「うわ〜、しぃちゃんを泣かせちゃったお」
(*゚∋゚)「ギコ……しぃを泣かしたら許さないって、言っといたわよねえ?」
( ,,゚Д゚)「ご、誤解だああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ツンが憑いているであろう人形が、オーラを纏いながら歩み寄って来る。
90 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:53:52.87 ID:SnNGILEU0
このままでは、確実にあの鬼と化した人形に殺される。
俺はそんな、自分に迫る命の危機から身を守るために、すぐにツンから逃げようとした。
しかし、ハインリッヒがいきなり俺の腕を掴まえたので、逃げる事が出来ない。
从 ゚∀从「ちゃんと責任は取ってくれるんだろうな?」
(*゚∋゚)「ど、どうすんだお、ギコ? ギコには、しぃちゃんもいるのに……」
(*゚∋゚)「二股するなんて言ったらあんたどうなるか……分かってるわよね?」
(;,,゚Д゚)「ひい、離せ、離せええええええええええええええええええええええ!!」
从 ゚∀从「まあ落ち着け。俺は寛大な心を持った女神のような女だからな。
俺の弟子として、今後一生仕えてくれると言うなら、許してやらん事も無い」
( ,,゚Д゚)「ふ、ふざけんじゃねえ!!」
从 ゚∀从「何だ、断るのか? 弟子になるって言うのなら、
今さっき捕まえたペット二匹を、お前のパートナーとして
貸してやろうと思ったのに」
( ,,゚Д゚)「え? そ、それって……」
从 ゚∀从「そこの二人をお前の自由にさせてやるって事だ」
(*゚∋゚)「ほ、本当かお!!」
(*゚∋゚)「じゃあ、私達ずっと一緒にいられるって事?」
91 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:54:56.90 ID:SnNGILEU0
从 ゚∀从「ああ、そうだ。お前らに、霊としての生き方を教えてやるよ」
(*゚ー゚)「な、なら!! しぃ、あなたの弟子になる!!」
( ,,゚Д゚)「お、おい、しぃ」
(*゚ー゚)「だから、だからツンちゃんと一緒にいさせて下さい!!」
从 ゚∀从「うーん、まあいいか。雑用は多ければ多いほどいいしな」
(*゚ー゚)「あ、ありがとうございます!!」
从;゚∀从「まあ、弟子にするのはいいとして、それよりも、まずお前は……」
(*゚ー゚)「やったあ、ツンちゃん、これでしぃ達、ずっと一緒にいられるよ!!」
(;゚∋゚)「わ、わかったからちょっと抱き付かないで!! つ、潰されるぅ!!」
从;゚∀从「病院に行った方がいいと思うぞ?」
93 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:56:06.26 ID:SnNGILEU0
(*゚ー゚)「え?」
(* ー ).・;'∴
(;゚∋゚)「おおお、しぃちゃん大丈夫かお!!」
从;゚∀从「言わんこっちゃない。
肋骨が数本折れてるし、足の骨にも、ひびが入ってるんだぞ、お前は!!」
(* ー )「………」
(*゚∋゚)「へ、返事が無いお。だ、誰か!! 衛生兵、衛生兵はどこだお!!」
(#゚∋゚)「あんたはちょっと黙ってなさい!!」
バギッ!!
(∋゚ )「おぎゃああああ、首が!! 首が変な方向にいいいいいいい」
(*゚∋゚)「あら……意外と脆いわね」
从 ゚∀从「そりゃあ、予備だからな」
(*゚∋゚)「まあ、無理やり回せば大丈夫でしょ」
ボギャ!!
「く、首がとれたおおおおおおおおおお!! 死ぬうううううううううううううううううううううう!!」
94 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:57:16.43 ID:SnNGILEU0
(;゚∋゚)「あ、ゴメンね、ブーン」
从;゚∀从「おい、何やってんだ!!」
(*゚∋゚)「え?」
从;゚∀从「そんな事したらそいつは……」
「………」
(;゚∋゚)「まさか、う、嘘でしょ?」
「………」
(;゚∋゚)「ちょっと、ブーン、返事してよ!!」
「………」
(*;∋;)「ねえ、ブーン!! ねえってばあ!!」
98 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:58:42.63 ID:SnNGILEU0
( ^ω^)「嘘だおーん」
从 ゚∀从「ぎゃははははは、騙されてやがる!!」
( ^ω^)「おっおっおっ、首が折れたら、何か人形から出れたお」
从 ゚∀从「そりゃそうだ、俺の髪の毛も取れちまったからな。
でも、なるべく人形に憑いてた方がいいぞ。霊志の拡散をある程度は防げるしな」
( ^ω^)「霊志の拡散?」
从 ゚∀从「つまり、長生きできるって事だ」
( ^ω^)「おお、なるほど」
(* ∋ )「おい、てめえら」
(;^ω^)「………お?」
(#゚∋゚)「てめえら、全員、殺してやるううううううううううううううう!!」
( ゚ω゚)「ぃぎゃあああああああああああああああああ」
99 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 20:00:23.05 ID:SnNGILEU0
从 ゚∀从「ギャハハハハハハハ、殺せるもんなら殺してみやがれってんだ」
(#゚∋゚)「ムキッ−!!」
(* ー )「苦しぃ、ツンちゃん、助けてぇ」
(;゚∋゚)「ああ、しぃごめんね。今すぐ、病院に!!」
( ^ω^)「おっおっ、こんな時でも、しぃちゃん、ダジャレ言ってるお」
(#゚∋゚)「てめえは黙ってろって、言ってんだろうが!!」
( ゚ω゚)「うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
从 ゚∀从「ギャハハハハハハハハハハハハハ!!」
(;,,゚Д゚)「………」
もう意気投合して、ふざけ合っているこいつらを見て、一人取り残された俺は呆気にとられていた。
そして、心の奥から思う。
これからの俺の人生は、とても大変な事になりそうだ。
101 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 20:03:58.57 ID:SnNGILEU0
これにて、「( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです」は終了です。
実はこの話、今後書こうと思っている「( ,,゚Д゚)ギコは霊喰師なようです」(仮名)のプロローグに当たるお話なんですよね。
さて、ここからはあとがきみたいなものを長々と書いていこうと思う。
106 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 20:08:39.93 ID:SnNGILEU0
まず、各話のタイトルの説明
第一話「Loop」
意味は、第一話の内容通りに、繰り返しという意味。
107 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 20:12:55.43 ID:SnNGILEU0
次の第二話と三話「Chain」と「reaction」
ここは、二つで一つのお話なので、この二つの単語の意味を合わせて、連鎖反応と解釈する事ができる。
第四話「Prologue」
これは続きの作品のプロローグにあたる話なのでこの題名になりました。
第五話「Ending of start」
エキサイト翻訳で調べて、始まりの結末という意味
第六話「Ghost eater」
これは、霊喰師という意味。無理やりですね。すいません。
109 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 20:15:45.36 ID:SnNGILEU0
本編中の隠された情報
第二話の
こんなに、気分が良いのはいつぶりだろうか、いや、これ程の高揚感は初めて感じるモノかもしれない。
なんで今まで人を殺してみようと思わなかったんだ。今までの人生が本当に無駄に感じられた。
いつまでも、いつまでも、この感覚を感じていたい、達していたい、笑っていたい。
でも、その為にはもっともっと赤い色でここを染めつくし、ワタシがすごしやすい環境にしないと。
この分は縦読みになっている。前にも言ったけどちょっとした遊び心です。
他にも、ブーンがツンの家に来る前に彼女は一度出かけているが、
これは、リセミのお母さんのところに行ってたんだよね。何をしたかは言わずもがな
【関連】
一気読み
第一話
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第二話
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第三話
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第四話
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最終話
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