( ^ω^)ブーン系小説完結作品集('A`) 〜( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです 一気読み〜

( ^ω^)ブーン系小説完結作品集('A`)

( ^ω^)ブーン系小説完結作品集('A`)更新情報


TOP ( ^ω^) ('A`) ( ´_ゝ`) (´・ω・`) 川 ゚ -゚) (*゚ー゚) ξ゚听)ξ




当サイトはブーン系小説の完結作品集 です。 読み物系は嫌いって方はご退場ください


下記からブーン系小説のジャンルを選択してください
ギャグ系:
戦闘系:
五十音別:
感動系:
カオス系:
作品一覧:
下ネタ系:
未分類:
その他:
1 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:11:07.13 ID:a77wlatQ0


それは不思議な人形だった。

人形に向けて刃物を振るうと、苦悶の表情を浮かべ、

再度、突き刺すと、血を周囲に撒き散らす。


心臓の鼓動に合わせて流れ出る血は、人形自身を汚し、

一心不乱に突き刺すワタシの手も、染め上げていく。


  助けてくれと、人形は叫び。 


      楽しませてくれと、ワタシは笑う。


目を見開いた人形は、虚空を見つめ呼吸も荒く。

頬に汗を浮かべたワタシは、人形を見つめ息も弾み。


そして、心臓の鼓動を止め、

力なく崩れた人形を見て、 やっと、ワタシは理解できた。


これは人形では無く、人の形をした人間なのだと。


2 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:11:52.37 ID:a77wlatQ0

1、「Loop」

「ドクオ君、御茶を頼む」

「あ、ドクオさん。これ、コピーして来て下さい」

「ドクオ、これ明日までに集計頼むよ」

('A`)「……わかりました」

様々な命令を、返事一つで引き受ける。

古ぼけたビルの寂れた一室、三流企業には御誂え向きのこの場所で、
確固たる意志も持たない俺は、窓際社員という役柄を演じていた。

毎日、繰り返される雑用の強制。

俺だって、やりたくてこんな日々を過ごしている訳じゃない。
小さい頃は夢だってあったし、その夢が叶わぬものだと分かっても、せめて二流企業には入ろうと努力した。

でも、俺には絶望的に才能が足らなかった。

どんなに努力しても、もともとの能力が低ければ、才能ある人間に追いつくのは難しい。
だから、その差を埋めて人並みの人間になろうと、今まで必死に頑張ってきた。
けれど、俺は、努力すれば追いつけるとかそういうレベルの人間では無かったようだ。

どんなに努力しても追いつけない、才能という壁。

多数の就職試験を受け、唯一この会社だけが合格した時、
生まれた瞬間から負け犬人生が決定していたのだと、やっと俺は気付いた。


5 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:14:01.22 ID:a77wlatQ0

('A`)「ふぅ…」

今日も会社での怠惰な一日が終わり、自宅へと向かう電車に乗った俺は溜息をついた。
雑用以外の仕事など俺には回って来ず、そのおかげで今日のように、家へは定時で帰れる。

そのかわりに、三流企業内でさえも出世の道は閉ざされているけれど。

( ^ω^)「昨日のダイバスターは最高だったお」

(,,゚Д゚)「おまっ、あんな番組見てるやつなんていねぇぞゴルァ」

(#^ω^)「ばっかもおおおおおおおおおん!!」

(;゚Д゚)「ちょ、うるせぇ、急に大声出すな!!」

いつものように電車に揺られていると、すぐ近くから大きな声が聞こえてきた。
何事かと、声のする方に俯いていた顔を向けてみると、二人の青年が言い争いをしているのが見える。

どうやら大声を上げたのは、帰宅途中のその二人の学生のようだ。

いつも俺が帰宅に使っているこの時間帯の電車は、ちょうど学校の下校時間とかぶる為、
その二人以外にも、車内にはちらほらと他の学生の姿が見受けられる。



6 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:15:44.83 ID:a77wlatQ0

( ,,゚Д゚)「それにしても、今日の試合は楽勝だったな」

( ^ω^)「おっおっ、全てはブーンのバッティングのおかげだお」

( ,,゚Д゚)「今日、お前四連続三振じゃねえか」

(;^ω^)「あうあう」

('A`)「………」

普通の大人ならやかましい餓鬼共だと、嫌な顔をするものだが、俺は違っていた。

ただ純粋に、羨ましく思えた。

物心ついた頃から、グズと呼ばれてきた俺だ。
さすがに虐められるという事は無かったけれど、徹底的に無視された。

もちろん部活なんて、どこにも入部した事はない。
そんな俺から見て、友人がいて、他愛のない話をして、毎日を暮らしていく。

それがどれだけ、素晴らしいものか。

俺がもっと友人を作ることが出来ていたら、今の生活も少しは変わっていたのだろうか。
まあ、出来なかったから、こんな風になってしまったのだけれど。

そうこう考えていると、ドアの開く音がする。俺が降りる駅に着いたようだ。


8 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:17:41.26 ID:a77wlatQ0


三⊂二( ^ω^)⊃「今日はそこら辺で買い食いして、祝勝会にするおー」

( ,,゚Д゚)「おい、ちょっと待てゴルァ」

あの言い争っていた二人も同じ駅だったらしい。
電車から降りて、両手を広げ駆けていく青年を、もう一人が追いかけていく。

そんな憧れの姿を眺めながら、俺も電車から降りて改札口へ向かった。

定期券を通し、改札口を抜け外へ。
さっきの二人と違い、立ち寄る所なんて無い俺は、寄り道などせず自宅へと向かう。

昨日とまったく同じ道、同じ空気、同じ空。

変化の無い、いつも通りの景色を見ながら、今日も何事も無く家に辿り着く。
そんな、普遍で退屈な帰り道だと、その時はまだ思っていた。



9 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:21:14.26 ID:a77wlatQ0

しかし、異変はいきなり現れた。

建物の影によって薄暗く、この時間帯では人通りが殆ど無い寂れた住宅街。
本来の大通りから裏路地にに入ったその場所に、自宅のボロアパートがある。
六畳間でトイレ共同、もっぱら洗面台が俺の風呂場だ。

そんな自宅のボロマンションが左に曲がれば見えるという十字路で、俺は異変を見つけた。

赤い模様がアスファルトの上に点々と続き、十字路の右へと向かっているのだ。
不審に思い、近寄ってその模様を確認した俺は、その日常とはかけ離れたものを見て驚愕した。

(;'A`)(おい、これ血じゃねえのか!?)

一見、それは唯の足跡に見える。
だが異常だったのは、この夕日の中でも一際赤黒く目立つ、血でできているという事だ。

(;'A`)(なんだよこれ……)

誰かが走って行ったかのように残るその足跡を見て、俺は気が動転していた。

何故、こんな所に血で出来た足跡があるのか。
何故、何かから逃げる様に足跡が続いているのか。
何故、血で足跡が出来ているのか。



10 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:23:10.70 ID:a77wlatQ0


(;'A`)(何があったんだ?)

ふと、右を見てみる。

日中でさえもあまり日が射し込まないであろう、仄暗い路地裏。
その上に続く足跡は遠く、まるで、この世の果てまで続いているかのように見える。

('A`)「………」

気付けば俺の足は、自然と右の道に向かっていた。

ループのような毎日に突如現れた、この非日常が生み出す刺激に、
その時の俺はすっかり囚われてしまっていたのだ。


それが、俺の運命を左右する分岐点であるとも知らずに。


12 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:25:56.71 ID:a77wlatQ0


(;'A`)(いったいどこまで、続いてんだよ)

歩き続けて数分、想像よりも足跡は長く続いていた。

この路地裏は想像以上に複雑で、広さもなかなかあるのだろう 。
足跡は左に曲がり右に曲がり、また、右に曲がりと複雑に続いていた。

さらに、会社以外は家に引き篭もっている俺にとって、
普段、来たこともないこの道は、未開の惑星と言っても過言ではない。

頼りになるのはこの血で出来た足跡だけだ。
帰りはここまで来たように、この足跡を辿って、もと来た道に戻ればいい。

自分の進むべき道を確かめる為に、もう一度足跡を見てみる。

('A`)(だいぶ、見難くなってきたな)

靴裏にこびり付いた血が落ちてきたのだろうか、
足跡は初めに見た頃より薄くなり、地面と判別しにくくなってきていた。

('A`)(……空も暗くなってきたし、そろそろ引き返したほうがいいか)

自分に問い掛けてみる。

このまま進めば日が完全に沈み、足跡は暗さで完全に見えなくなり、
この迷宮と化した路地裏で、夜明けまで彷徨う羽目になってしまう。



14 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:28:02.09 ID:a77wlatQ0


('A`)(もう少しだけ)

しかし、そう自分に言い聞かせ、進む。

今帰ったら、ここまで来た苦労が水の泡だ。
まあ、数分無駄に歩いただけで、そこまで言うほど苦労した訳では無いが、
せめて、何があったのかは知りたい。もしかしたら、怪我人が倒れているかもしれない。

しかし、次の交差路を足跡に沿って右に曲がった先には、夕暮れ時の海が見えた。
曲がった道の先は袋小路、けれど、海がある。

赤い海、血の海が。

('A`)「…え?」

ふと疑問の声を漏らしてしまう。

海を連想させるほど、その袋小路は血によって赤一色に塗り潰されていた。
そして、その血の海の上には、一つの者と一つのモノが見て取れる。


15 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:30:14.40 ID:a77wlatQ0


者は人だ。

こちらに背を向けて座った姿から、そう判断できる。
右手には刃渡り六寸程の、血に染まったナイフが握られており、
全身も血塗られ、白いセーターだったであろう服は、赤い染め布と化していた。

モノはまるで生ごみ。

男の前に転がった生ごみも、真っ赤に染まっていた。
何カ所にも開いた体の穴からは、この海を作った液体が鼓動と同間隔で吹き出している。

生ごみは人だった。

胴体に残った人の右手と首が、それを雄弁と語っている。
残りの箇所は切り取られ、そこいらに転がっていた。

乱雑に切り取ったのであろうその断面は、所々千切れた血管や、
半ばから折られた骨の断面が見てとれた。

ふと、転がって来た一つの部品と目が合ってしまう。
先程まで胴体に付いていた生首が、振り下ろされたナイフによって分離され、転がって来たのだ。

(;'A`)「っうぅ!!」

急激に湧き出た嘔吐感で、また声を漏らしてしまい、そして、後悔した。
二度も声を出したのだ、目の前の男に気付かれ無い筈がない。


17 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:32:27.10 ID:a77wlatQ0


/ 。゚ 3 「お、二ン、ぎょ。お?」

振り向いた奴と目が合った。
俺の顔を見たそいつは笑う、新しい人形を貰い喜ぶ子供のように。

純粋な喜び。歓喜。愛情。興奮。

一つだけ子供と違ったのは、殺意があるという事だ。

そして、奴と目が合ってからぴくりとも動けない俺の鼻を、
今更になって血独特の鉄の臭いが刺激した。

それと共に、そいつが笑顔のまま歩み寄ってくる。

(;゚A゚)「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

逃げなければ殺される。

そう頭によぎった瞬間、俺は悲鳴と共にその場所から逃げ出していた。


18 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:34:18.76 ID:a77wlatQ0

/ 。゚ 3 「ヒィ、ヒヒ、待ってェ」

(;'A`)(くそっ!!)

逃げ出してから数分後。

後ろから聞こえてくる奴の足音を聞きながら、俺は闇雲に逃げ出した事を後悔していた。
ここまで来るのに歩いてきた道など既に外れて、唯一の頼りである血の足跡も見つける事が出来ない。

つまり、この路地裏の出口が分からない。

もっと、冷静に行動すれば良かった。
いや、あの状況で冷静に行動するなど、常人には不可能か。

そして、俺は常人以下の人間だ。

(;'A`)(なんとか、しないと)

だからと言って、まだ死にたくない。あんな得体も知れない奴に殺されたくない。
どんなにつまらない人生だったとしても、こんな所で死ぬなんてまっぴら御免だ。

走りながら、後ろに振り返ってみる。

俺を追う奴は、未だに笑っていた、子供のように。
それを見て、また死の恐怖が俺の心と体を刺激した。

(;'A`)(なんとか、しねぇと!!)

俺はろくに無い頭を振り絞り、打開策を考える。
体力の無い俺が奴をふりきる為には、まず奴が俺を見失わなければならない。


19 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:36:11.53 ID:a77wlatQ0


そして、次の道を右に曲がった時、その状況を叶える箇所があった。
曲がったすぐの所に、T字路があったのだ。

奴が来る前に進路を変えて右折すれば、一瞬だが俺を見失う事になる。
その一瞬の間にその道を進んで、また別の道へ曲がれば、奴は完全に俺を見失う。

後はあの足跡を見つけてそれを辿って逃げるか、運良く大通りに出てさえしまえばこっちのものだ。
俺は神にすがるような気持で、進路を右に変えた。

しかし、神は残酷だった。

そこには進める道など無く、曲がってすぐにあったのは、唯の行き止まりだったのだ。

だが、これだけでは捕まった事にはならない。
奴が気付かずに通りすぎるのを祈り、隠れて待てばいいのだから。

けれど、そこで俺が気付いてしまった。

血の足跡が俺の後ろに続いている事に。
俺の足が踏み込んでいたのだ、先程見た血の海に。その足跡を辿って、奴はこちらに来るだろう。

絶望が俺の心から溢れ出てきた。


21 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:37:54.89 ID:a77wlatQ0



             奴の足音が聞こえる。

                                   俺の脚が震えた。

             奴の足音が止まる。

                                   俺の手が震えた。

             奴がこちらを覗き込む。

                                   俺の肩が震えた。

             奴が俺を見て頬を歪める。

                                   俺の顔が震えた。

             奴が歩み寄って来る。

                                   俺の心が震えた。

             奴がナイフを振り上げる。

                                   俺の全てが震えた。




22 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:39:39.59 ID:a77wlatQ0







  / 。゚ 3 「ワタシの、お、人ぎょぉぉおおおおおおおお!!」







                      そして、奴の奇声を最後に、俺の意識は消失した―――――








23 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:41:33.69 ID:a77wlatQ0




     感ジタノハ、肉、を裂く、感触



              ミテイタノハ、血、をアビル、自分自身



                        ワラ、っていた、ヤツの笑顔は、



                                 オレ、のエガオ、に、カワッテ、タ






26 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:43:49.48 ID:a77wlatQ0


―――――ふと、オレに意識が戻った。

目の前には体に多数の穴を開けられた、さっきの男が倒れている。
手には刃渡り六寸ほどのナイフが強く握られており、体の震えはまだ止まらない。

いったい、オレは何をしたんだ。

いや、ちゃんと覚えている。

意識が消失した後、体が無意識の内に動いていた事を。
オレの体は、振り下ろされるナイフを奴の手の上から掴み、 そのまま、奴の体に突きこんだ事を。

それだけでは飽き足らず、奴の手からナイフを奪い、 奴の体に、何度も何度も何度も何度も何度も。
者からモノに変わる様子を、オレは笑いながら見ていた事を。

「オレがやったのか?」

分かり切った事を、口から漏らしてしまった。

そして、その答えを脳が実感していく内に、オレの心に恐怖が蘇り、
頭の上から足の指先まで、また激しく震え始めてくる。


29 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:46:06.16 ID:a77wlatQ0


否、違う。これは恐怖じゃない。

('∀`)「……フ、フフ、フフヒィ」

だって、返り血を浴びたオレの顔が笑ってる。

この体の震えだって、未知の興奮からきているだけ、そう、唯それだけ。
試しに、目の前で倒れている肉塊の左腕に、ナイフを突き刺してみた。

刃の切っ先は奇麗に左腕に食い込み、その刀身を更に赤く染め上げていく。
もう一度刺すと同時に、肉塊はびくりと反応し、小さな呻き声を上げた。

/ ,' 3 「……うぅ、ぐ」

('∀`)「ヒィ、ヒッヒヒヒ!!」

楽しい。

まるで、自分の思い通りに反応してくれる玩具のようだ。

また刺すと、同じようにびくりと反応してくれる。
その反応を楽しむ為に、何度も何度もナイフを突き刺すと、ついには左腕が取れてしまった。



30 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:47:49.76 ID:a77wlatQ0


壊れやすい玩具だなと思いつつ、今度は左脚へ。

やっぱり切り取るなら、より大きい部品の方が達成感がある。

今度は、大腿筋と上腕骨よりも太い大腿骨が、刃物の侵入を阻害したが、
それでもオレの欲求を満たす前に、砕け、取れてしまった。

次は右脚。
しかし、それも左脚より簡単に取れてしまう。

('A`)「イィィッ……」

オレは苛立ちを覚えて、その肉塊の顔を睨み付けた。
その顔は既に生気を失っており、口から血と唾液の混ざり合った液体が流れ出している。

それを見てさらに苛立ちが増した。

死んでいたら、あの面白い体の跳ねる反応が見れないじゃないか。


31 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:50:28.57 ID:a77wlatQ0

('A`)「ウゥッ、ウゥッ!!」

怒ったオレは、思いっきり首を突き刺した。
目の前の肉塊の息吹が止まるのを感じたオレは、そのまま首を引きちぎり後ろに放り投げる。

その時にはもう、この玩具には飽きていた。
子供が壊れた玩具に興味を示さないように、オレもこのバラバラのモノに興味を無くしてしまったのだ。

('A`)「ア、タラしい。オ、モチャを……」

「うっ」

新しい玩具を探さなきゃ、そう思って立ち上がった時、後ろから人の嗚咽がオレの耳に届いた。
すぐさま後ろに振り返る。すると、そこには一人の女性が紙に包まれた何かを持って立っていた。

どうやら、こんなに傍にいる獲物に気付かないほど、人殺しに熱中していたようだ。

('∀`)「オ、モチャ、あ」

「ひぃッ!!」

ふと、顔面蒼白の彼女と目が合った。

新しい玩具だ。思いがけないプレゼントに自然と顔が笑顔になる。
彼女はそんな俺の顔を見て息を呑み、そして、

「いやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

俺をその場に残して、悲鳴と共に逃げて行った。
さて、楽しい楽しい鬼ごっこの始まりみたいだ。


33 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:52:45.90 ID:a77wlatQ0


物心つく前、まだ世間の醜さや、他人との差などを気にも止めていなかった頃。

同世代の子供と、ただ純粋に遊び、喜びを感じていた毎日。

劣等感の塊であるオレでも、楽しく過ごせたそんな日々。

その頃に似た高揚感を感じていた。
楽しむこと以外、何も考えなくていい。童心というのは本当に自由だ。

「はぁ、はぁ、はぁ」

('∀`)「ヒッ、ま、っテェ」

前を走る彼女は我武者羅に逃げていた。
それをオレはつかず離れずの距離で追いかける。

タノシイな、タノシイな、タノシイな。

オレの心は弾み、顔の笑みも一段と増していた。
彼女が怯えた顔で振り返り、その恐怖に染まった横顔を見る度にオレの興奮が高まる。

ハヤク、オモチャ、で、遊びたい。

その心がオレの全てを支配していた。
顔が自然と彼女に微笑みかけている。


35 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:55:04.03 ID:a77wlatQ0

そのまま何分か、鬼ごっこが続く。

オレが流石に飽きてきた頃、
彼女が何かを決心したかのように、路地裏を右に曲がった。

オレもそれに続いて、右に曲がる。

だが、そこには彼女はいなかった。

でも、俺はこの状況を知っている。

そこで立ち止まり、足元を見ると、血の足跡があった。
その足跡はさらに右の細い脇道に続いている。

('∀`)「ヒはァ」

顔だけ出してそこを覗き込むと、ウサギの様に怯える玩具と目が合った。

その姿を見るだけでオレの興奮は臨界点に達する。


37 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:56:51.02 ID:a77wlatQ0


オレが玩具に笑いかけると、彼女が震える。


オレが玩具に歩み寄ると、彼女が後ずさる。


オレがナイフを振り上げると、彼女は瞳を閉じた。 (゚∀゚)「ひゃあはああああああああああああ!!」


さあ、イッショニ、アソボウ、オレの、オモチャ。


ナイフを振り下ろしながら、オレはそんな事を思っていた。
心の奥底では、この後の結末が、分かっていたというのに―――――



38 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 22:58:35.16 ID:a77wlatQ0




     カンジタノハ、ムネ、にヒラく、ソウシツカン



             ミテイタノハ、血、が吹きダす、ジブン自身



                          笑、っていた、俺のエガオは、



                                     彼女の笑顔に変わってた






41 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 23:02:07.91 ID:a77wlatQ0


―――――気付いたら仰向けに倒れていた。

振り下ろした手を取り軽く捻られ、そのまま奪われたナイフで胸を貫かれたのだ。
胸を見ると、ナイフがまだ深々と突き刺さっている。

刺された時のショックによるものなのか、音が全く聞こえない。

その無音の中で立ち尽くす彼女の瞳は、驚きに見開かれ、だが、口は笑っていた。

先程までの俺を連想させる、子供の様な悪魔の微笑み。
さらに、徐々に彼女の瞳も、驚きから歓喜へと変化していく。

( A )「ぅぁっ!!」

急にしゃがみこんだ彼女が、俺の胸に刺さっていたナイフを引き抜いた。
と、同時に左腕に激痛が走る。その痛みに反応して、体が激しく仰け反った。

その激痛は一度では、終わらない。

何度も、何度も、何度も、左腕に走り、その度に俺の意識は遠のいていく。

( A )「カハッ、ハッ…」

呼吸が上手くできない、胸からは何かが抜けていく感覚がする。
左腕からはもう何も感じられない。


44 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 23:04:21.48 ID:a77wlatQ0


その代りとでも言うのか、今度は左脚、その後、右脚へ、痛みの発生源が移っていく。
気づいた時には、右脚はおろか、両腕までもが無くなっていた。

何故か、彼女は駄々をこねる子供のような、怒った顔でこちらを見ている。

いや理由はわかっていた。
俺が彼女の期待に応えられていない玩具だからだろう。

怒った彼女の顔は、純粋で、無邪気で、可愛く見え、
そして、残虐で、残酷で、恐ろしく見える。

でも、彼女の期待に答えたくても、俺の体はもうぴくりとも動かせなかった。


|(;゚ω゚)

         ξ ー )ξ「………」


怒った顔から一変して微笑んだ彼女が、こちらの首にナイフを近づけてくる。 そんな彼女のすぐ後ろ、曲がり角の位置に、見覚えのある青年が視認出来た。



45 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/11(金) 23:07:45.02 ID:a77wlatQ0



ああそうか。


その恐怖に体を震わせている青年の姿を見て、やっと分かった。

心では理解していたというのに、なんで脳では認識できなかったのだろう。



       これは殺戮のループ、


                  永遠に続き、


                        終わる事などありえない。



彼女が振り下ろしたナイフが、俺の首に食い込んだ瞬間、俺の全感覚と意識は完全に途切れた。

死の連鎖の中、魂を吸い続け、尚も血の赤を求める、ナイフだけをこの場に残して。


66 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:02:38.67 ID:EO7KUsBK0

助けて

既に日が暮れた路地裏を私は走っていた。
暗い道を駆ける私の後ろには、微笑みかけてくる奴がいる。

走って、走って、逃げて、逃げて

我武者羅に走り続ける私の息は既に上がり、体中には汗が浮かんでいる。
疲労からか、体の節々に鉛でも付いているかのような重量感さえ感じられた。

追いつかれたら、殺される

それでもなお、速く走る事を望んだ。
何故なら殺されるからだ、それだけは確信している。

あの悪魔に、人の皮を被った悪魔に

私は見てしまった、奴が、いやあの悪魔が人を殺している所を。
そして、私も悪魔に見つかってしまった。

とにかく、走って

私を見た瞬間、奴は笑った。
そう笑ったのだ、返り血を浴びた血塗られた姿で、まるで悪魔のように。

誰か、誰か、誰か

その笑みを見ただけで、私は殺されると理解できた。
でも、私は死にたくない。あいつの、ブーンの笑顔が見れなくなるなんて嫌だ。
だから、誰か、


67 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:03:12.31 ID:EO7KUsBK0








                タ   ス   ケ   テ







69 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:04:56.33 ID:EO7KUsBK0

2、「Chain」

ζ;゚听)ζ「っ!!」

眩しい朝の光の中、私はベットの上で体を跳ね起こした。
と同時に顔を動かして、辺りを見回してみる。

窓にかかったレースのカーテンからは光が差し込み、綺麗に整頓された勉強机を照らす。
ドアのそばの壁には、ハンガーに吊るされた学校の制服があった。

ここはさっきまでいた路地裏なんかじゃなくて、正真正銘、私の部屋だ。

ζ゚听)ζ「……夢か」

そう呟きながら、私は軽く伸びをする。

ζ゚听)ζ(それにしても酷い夢…)

疲れが溜まっているのかなと思う。

確かに最近は連日の受験勉強のせいで、あまり眠れていない。
そんな寝不足の眼を擦りながら、ベッドの横にある置き時計を確認してみると、

時刻は8時25分。


72 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:06:40.03 ID:EO7KUsBK0


ζ;゚听)ζ(やばっ、完全に寝坊した!!)

8時30分には、いつもの如くブーンが家の前まで、迎えに来てしまう。

日頃、待たせてばかりいるから、たまには私が早起きして、
彼を待とうと思っていたのに、過去最高の寝坊をしてしまった。

ζ;゚听)ζ「もう、これも全て受験のせいよ!!」

責任転換しながらも、私はパジャマを脱ぎ棄て制服に着替える。
これまでの寝坊の経験からか、今では約20秒で着替える事が出来るようになっていた。

指運を上手く使い片手でボタンを閉めながら、空いた片手で襟を正し、スカートへ。

そうやって19秒台で着替え終え、
鞄を手にした私は、階段を4歩で飛ぶように駆け下り、洗面所へ向かう。


73 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:08:22.21 ID:EO7KUsBK0


この起きてからの一連の動作は、さながら忍者のようだ。
そんな事がふと思い浮かんだが深くは考えない、とにかくそれ所では無い。

ζ;゚听)ζ「うわぁ」

そして、洗面所の鏡を見て、私は声を漏らしてしまった。

今、鏡には自分の頭を見て、驚いた表情をしているメデューサが映っている。
まあ、実際それはメデューサでも何でも無く、凄まじい髪形の私自身なんだけど。

ζ;゚听)ζ(と、とにかく 顔は洗わないと)

すぐにでもシャワーを浴びて、この髪形をどうにかしたい所だが、
ブーンを待たせる訳にもいかないし、学校に遅刻する訳にもいかない。

洗った顔をタオルで拭き、名残惜しみながらも、洗面所を後にする。



74 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:10:05.00 ID:EO7KUsBK0


今度は一日の活力源である、朝ご飯だ。
台所に向かうと、母が椅子に座って、御茶を啜っていた。

ζ#゚听)ζ「ちょっと、お母さん!! なんで、今日も起こしてくれなかったのよ!!」

J( 'ー`)し「あらあら、やっと、起きたのね」

ζ#゚听)ζ「やっと、起きたのね、じゃないわよ!!」

J( 'ー`)し「おはよう、ツンちゃん。
      ゴメンね。お母さんボ〜としてて、もうそんな時間だったかしら?」

いつも通り呑気な母は、私に朝の挨拶をした後、もう一度ゆっくりと御茶を啜った。
焦りというものが全く見られないその挙動に、私の怒りも萎えてしまう。

ζ゚听)ζ「もう、お母さんはいつもそうなんだから」

J( 'ー`)し「ふふ、ゴメンね。あら、髪型が変よ。まるで、ハリネズミみたいね」

ζ#゚听)ζ「う〜る〜さ〜い〜」

クスクス、笑う母に少しイラっときたが我慢して、
事前に用意され、食卓の上に置いてあった、母の手作り弁当を鞄に仕舞った。


75 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:13:08.37 ID:EO7KUsBK0


ζ゚听)ζ「今日も時間無いから、朝ごはんはパンだけにするからね」

J( 'ー`)し「朝ごはんはちゃんと食べないと体に悪いですよ」

ζ゚听)ζ「だったら、ちゃんと早く起こしてよ!!」

軽く怒鳴りながら、机の上の食パンを二枚くわえて、台所を後にする。
無駄な所で、時間を浪費してしまった。このままで間に合うかどうか。

J( 'ー`)し「いってらっしゃ〜い」

ζ゚听)ζ「いってきます!!」

笑顔でひらひらと手を振る母の、間延びした声に一応は返事をして、玄関に駆けこむ。
すぐさま靴を履いてドアを開けると、輝かしい太陽が私を照らした。

もう夏に入っていると言うのに、気温はさほど高くも無く、気持ちのいい風が私を包む。



76 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:14:52.51 ID:EO7KUsBK0

ζ゚ー゚)ζ(う〜ん、今日も快晴。いい気分)

( ^ω^)「ツン、今日も遅刻だお」

そんな清々しい気分のまま、玄関から一歩を踏み出すと、聞きなれた男の声が聞こえた。
その声を聞いた私は、わざと険しい表情を作る。

ζ゚听)ζ「うるさいわね。毎日毎日、細かいのよブーンは」

目の前では私に背を向けて屈んでいるブーンが、我が家の愛犬ペスと戯れていた。

( ^ω^)「おっおっ、ペスもこんな寝坊助を飼い主に持って大変だお」

▼・ェ・▼「ワンッワンッ」

私の愛犬ペスが、ブーンに向かって元気に吠える。

ζ゚听)ζ「何? 喧嘩売ってんの? ペスもこんな奴に返事しないでよ、まったく」

( ;ω;)「おおお、今度は逆切れだお。可哀そうなブーンを慰めてくれお」

▼・ェ・▼「クゥ〜ン」

私の愛犬ペスが、今度はブーンの顔を舐める。

( ^ω^)「なあ、ペス。ツンのペットでお前幸せかお?」

▼・ェ・▼「ウゥゥゥゥゥゥゥ!!」

私の愛犬ペスが、今度は低く唸った。


77 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:16:39.98 ID:EO7KUsBK0


ζ;゚听)ζ(何で、こんなに息が合ってるの?)

ζ゚听)ζ「ちょっと、私のペスになにか変な事いれこんだでしょう!!」

( ^ω^)「お? ブーンはただペスと話してただけだお」

▼・ェ・▼「ワンッ」

そう言いながら、振り向いたブーンは、私の顔を見て驚きの声を上げた。

(;^ω^)「ちょっ、ツン」

ζ゚听)ζ「え? な、なに?」

( ^ω^)「今日のツン……」

場の空気が一瞬止まる。

急に真剣な眼差しになって、私の顔を見つめてきたブーン。

そんな彼の視線と目が合い、私の鼓動は勝手に速まり、さらに、顔も徐々に赤みを増していった。
そして、未だに私の顔を見つめてくる彼の視線に耐えきれず、私は目を逸らしてしまう。



78 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:18:24.30 ID:EO7KUsBK0


ζ///)ζ「な、なによ……」

頬が熱くなり、トマトのように赤くなっているのが分かる。
私は溢れ出て来るこの感情をどうにかしようと、手にしていた学校の鞄をギュッと強く握った。

すると、恥ずかしさに俯いている私に、沈黙を続けていた彼が口を開いた。

( ^ω^)「髪型が変だおwwwwwwwww ベジータみたいでキメェwwwwwwwww」

ζ )ζ「………死ね」

ブーンが沈黙の空気を一転させて、
私の髪を指差し、腹を抱えて笑いだす。

その彼の顔面に、玄関からの助走をつけた私の飛び蹴りが炸裂した。



79 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:20:07.16 ID:EO7KUsBK0


ζ#゚听)ζ「もう、あんたのせいで学校遅れちゃうじゃない!!」

私は今、アスファルトの道路の上を、学校に向かって走っていた。
もちろん、私の少し後ろには、顔を腫らしたブーンが一緒に走っている。

ζ゚听)ζ「あんな馬鹿面下げて、気絶なんかしてるから!!」

( ^ω(メ)「おっおっ、気絶させたのはツンだお」

ξ#゚听)ζ「ブーンが私の髪形を笑ったから悪いんでしょ!!」

鞄に入れておいた櫛で、髪の毛を梳かしながら怒鳴る。
走りながらなので上手く梳かせないけど、応急処置ぐらいにはなるだろう。

(;^ω(メ)「あうあう、ごめんお。それより、ツン」

ξ゚听)ξ「何よ?」

( ^ω^)「昨日のクッキーおいしかったお。ありがとうだお」

ξ゚听)ξ「はあ? クッキーって何の事よ?」

(;^ω^)「お? いや、覚えてないならいいお」



80 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:21:49.21 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「変なブーンねぇ……」

この情けない面をしている男とは、幼い頃からの友達、そうただの友達だ。
べ、別に付き合ってるとかそういうのではなくて、朝、一緒に登校しているのも、
ブーンが一緒に行きたいって言ったからで、

ξ*゚听)ξ(す、好きとかそんなんじゃ、無いんだから)

なんか、イライラしたので、、振り返って睨みつけてやった。


( ^ω^) ………

( つω)


ブーンがそんな私を見て顔を逸らし嘘泣きを始めたが、それを無視してくわえていた食パンを頬張る。
既に一枚目は、ブーンが気絶している間に食べてしまっていた。

ξ゚听)ξ「まったく、こんな髪型になったのも、受験勉強とあんたのせいよ」

(;^ω^)「ブーンはまったく関係な……」

また、睨みつけて黙らせる。



81 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:24:48.85 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「それと、あの夢のせい…」

そこで今まで忘れていた、今朝の悪夢を思い出してしまった。
夢の中でも今のように走っていた事に気付くと、私の声のトーンが自然と落ちていく。

( ^ω^)「お? 何か変な夢でも見たのかお?」

そんな私の変化に気付かず、後ろからブーンがやけに明るい口調で聞いてきた。

ξ゚听)ξ「そうなの、怖い夢を見ちゃって」

( ^ω^)「ブーンはツンの事が怖いお」

ξ#゚听)ξ「せいや!!」
    \
( ^ω(鞄三「ぷぎょぉ!!」

立ち止まり、振り向きざまに右手の鞄を叩き込むと、豚のような奇声が上がった。

静止する事による相対速度の変化と、鞄の遠心力、体重移動の力を上手く使った私の攻撃は、
ブーンを軽く吹っ飛ばし、アスファルトに後頭部から叩きつける。

( ゚ω゚).・;'∴

どうやら鞄の当たり所が悪かったらしく、鼻血が噴水の如く噴出して、地面を真紅に染めていった。
通りすがりの人に見られたら、殺人現場か何かと勘違いされてしまいそうだ。



82 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:27:07.35 ID:EO7KUsBK0


だが、私はこんな馬鹿にかまっている余裕と、優しい心は持ち合わせていなかった。

ξ゚听)ξ(このままじゃ、学校に遅刻しちゃう)

私はブーンを無視して、また走り出す。

気持ちのいい風を浴びながら、他に考える事の無い私は、
櫛を鞄に仕舞いながら、今朝の夢の事を考えていた。

今朝の夢は何か変だ。

夢にしてはリアリティがあり過ぎた気がする。それとも、夢というのはそういうモノなのだろうか。
それに、考えてみれば、もしあれが現実にあった事だとしたら、脳が記憶している筈だ。

けれど、そんな事があった覚えは私には無い。

やはり、受験勉強の疲れからあんな夢を見てしまったのだろうか。
さしずめ、私を追っていた男は、刻々と迫る受験日当日の日時を意味しているのだろう。


85 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:28:51.00 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「おーい、ブーンは放置かお?」

急にノイズが聞こえたが、無論、無視する。

( ^ω^)「おいす〜、聞こえてるかお〜」

ξ゚听)ξ「………」

( ^ω^)「へい、そこの奇麗な御嬢さん、ブーンと一緒にチェケダベイベしないかお?」

ξ#゚听)ξ「うるさい!! あんたなんて知らないんだから」

(;^ω^)「おっ、さっきのはご免だお。ついつい本音が」

ξ゚听)ξ「何? もう一度殴られたいって?」

((;^ω^))「いえいえ、滅相もございませんお」

両方の鼻にティッシュを詰め込んだブーンが、勢いよく手と首を横に振った。
その姿を見て、私は溜息を漏らす。


87 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:30:52.65 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「で、話を戻すけど、どんな夢を見たんだお?」

私の様子を知ってか知らずか、ブーンは強引に話を戻した。
そんな彼に、内心苛立ちながらも私は夢の内容を簡単に話し始める。

ξ゚听)ξ「なんか、狭い路地裏で男に追いかけられて……」

( ^ω^)「それで?」

ξ゚听)ξ「……殺されそうになった夢」

( ^ω^)「………」

質問をしてきたブーンが黙り込み、沈黙が場を支配する。
さらに走る足を止めた彼は、私の瞳をただ見つめてきた。

おのずと、私も足を止める。

ξ゚听)ξ「ちょっと、どうしたのよ?」

明るく、努めて元気な表情で振り返り、呼びかけた。
やっぱり、こんな話題は言わない方が良かったと、内心後悔しながら私は無理に笑顔を作る。



88 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:32:35.69 ID:EO7KUsBK0


ξ゚ー゚)ξ「ほら、学校遅れちゃうわよ?」

( ^ω^)「ツン……」

ξ゚ー゚)ξ「ん、何?」

いったいどうしたと言うのだろうか。
ブーンは未だに真剣な目で私の顔を見つめ、沈黙している。

確かに朝っぱらから、誰かに殺されかけた夢の話なんて、
場の空気を悪くするのは当たり前だが、所詮は夢の話だ。

ここまで、空気が重くなるのはおかしい。

まさか、今朝の髪形に対する発言の時みたいに、
わざと真剣な顔をして、私を騙そうとしているのだろうか。



89 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:34:19.97 ID:EO7KUsBK0


けれど、今のブーンからはそんな気配は感じ取れなかった。

ξ゚听)ξ「ねえ、本当にどうしたの? 何か変だよ?」

( ^ω^)「ツン、ブーンが……」

そう私が言うと、ブーンは何か決心したかのように、口を開きかけた。
その後、一拍、間をおき、私の両肩を掴んで、目を見つめ、

(;^ω^)「ブーンは毎日、ツンの理不尽な暴行を受けて殺されかけているんだけれど、
      その事についてはどう思うお?」

戯言をほざいた。



90 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:36:09.15 ID:EO7KUsBK0


ξ#゚听)ξ「結局、二度ネタかああああああああああああああああああ!!」

叫びながら肩の上の両手を払い、右手を正拳に構える。

狙うは人体の急所、鳩尾。

鞄を上空に放り投げた私は、空いた左手で彼の胸倉を掴んだ。
そして、その手を引く事により、直撃時の衝撃を上げると共に、体の捻りも最大限に活用する。

ξ#゚听)ξ「このすかぽんたあああああああああああん!!」

( ゚ω゚).・;'∴ 「ぐほぉっ!!」

インパクトの瞬間の発声と共に右拳を肋骨の隙間に捻じり込ませた。
この動作により横隔膜に直接ダメージを与え、肺の機能を一時的に停止させ、呼吸困難に陥らせる。

完璧に決まった攻撃は彼をその場に跪かせ、私は片手を上空に突き出し、落下してきた鞄を頭上でキャッチした。
前述通りに上手く呼吸ができなくなったらしく、目の前で俯くブーンの息を吸うリズムが安定していない。



91 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:37:53.21 ID:EO7KUsBK0


理想通りの攻撃、そして、ダメージ。
その結果に、私は自然と笑みの表情を作っていた。

ξ゚ー゚)ξ「ねぇ、ブーン。仏の顔も三度までって知ってる?」

(;^ω^)「ぐ、ひぃひっは、ツ、ツンそ、その言葉を今使うのはぁ、間違っててぇるお。
      すぃでに今日は、三回もぶちのめされてる、お」

ξ゚ー゚)ξ「だから、その三回が仏の顔なのよ。」

(;^ω^)「……おひぃ」

ξ^ー^)ξ「そして、次からはどうなるか、わかるかな?」

((;゚ω゚))「おっおっおっ」

笑顔の私を見て、頭を抱えて震えだすブーン。
その情けない姿を見て、ちょっとやりすぎたかと内心後悔しつつも、時間が迫っている事を思い出した。


94 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:41:17.56 ID:EO7KUsBK0

ξ゚听)ξ「て、それどころじゃない。ほら、早く立って」

(;^ω^)「殴ったツンがそれを言うのかお……」

後ろから愚痴が聞こえてきたが、気にせず走りだすと、
そんな私を追って、彼も立ち上がり追いかけてきた。

( ^ω^)「ツン」

ξ゚听)ξ「今度は何よ? 四発目を喰らいたいの?」

( ^ω^)「もし、現実にそんな事がおこったら、ブーンが絶対に助けるお。絶対にブーンが駆けつけるお」

ξ゚听)ξ「へ?」

( ^ω^)「ブーンがツンを絶対に守ってあげるお」

ξ///)ξ「ど、どうしたのよ、急に?」

(;^ω^)「おっおっ、何でもないお。ほら、早くしないと学校に遅れちゃうお」


                 三三⊂二二二(;^ω^)二二⊃

それだけ言って、ブーンは私を追い抜き、先に行ってしまった。
まだ少し痛むくせに胸を張って、両手を広げ走る彼の背中に、束の間見惚れた私は、

ξ゚ー゚)ξ「こら、ちょっと待ちなさいブーン」

そんな頼りがいのある背を、笑顔で追いかけていた。


96 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:43:55.32 ID:EO7KUsBK0


流石に寝起きの状態で、学校までのダッシュは辛い。
教室に着いた私は、鞄を机の上にのせ、自分の席に座ると同時に突っ伏せた。

ξ--)ξ「ヴァ〜、疲れた〜」

周りからは他のクラスメイト達の雑談が、途切れなく聞こえてくる。
ちなみに、ブーンとは別のクラスなので教室の前で別れていた。

(*゚ー゚)「おはよう、ツンちゃん。今日もぎりぎりだね」

ξ゚听)ξ「ああ、しぃ。おはよ〜」

机にうつ伏せていた私に、隣の席に座るしぃが話しかけてきた。
ショートカットに切りそろえた髪が揺れ、くりくりとした可愛らしい目が私を見つめてくる。

(*゚ー゚)「今日もブーン君といっしょに来たの?」

ξ*゚听)ξ「な、なによ、あんただってギコと二人きりで来たんでしょ」

(*^ー^)「えへへー」


97 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:46:13.39 ID:EO7KUsBK0


目の前で無邪気に笑う彼女とも、昔からの付き合いだ。

小さい頃から私としぃ、それにブーンとギコの4人で、遊び回っていた仲。
と言っても、しぃは昔からやんちゃだった私の後ろを、
ちょこちょこ付いて来ていただけで、一緒に遊んでいたと言えるかどうかは微妙だが。

私と同年齢と聞いた時は驚いたものだ。

二歳は年下だろうと思って、
姉貴分みたいに色々と命令していた私は、小学校に入った時に、

ξ(゚、゚*ξ『なんで、しぃがここにいるのよ?』

(*゚ -゚)『へ? しぃ、もう小学生だよぉ』

と言われて度肝を抜かされた。



98 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:48:27.31 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ(昔から、幼く見えたからな)

ξ゚听)ξ「今でも幼児体型のままだけど」

(*゚ー゚)「ん? 何か言った?」

ξ;゚听)ξ「い、いや、何も、イッテナイヨ?」

いかんいかん、思考が口から漏れてしまっていたみたいだ。
ゴホンと咳払いをして、場を取り繕う。

(*゚ー゚)「そうそう、ツンちゃん。今朝のニュース、見た?」

ξ゚听)ξ「え? 何かあったの?」

(;゚ー゚)「……そ、そうか、寝坊したんだもん見れる訳無いよね」

ξ゚听)ξ「そんな事はどうでもいいから、さっさと言いなさい」

(*゚ー゚)「うん、でね」

急に真面目な顔になったしぃの話に、興味を持った私は彼女を急かしていた。
そんな私を、次のしぃの言葉が凍らせる。



99 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:50:15.22 ID:EO7KUsBK0


(*゚ー゚)「すぐ近くで、殺人事件があったらしいの」

ξ;゚听)ξ「さ、殺人?」

(*゚ー゚)「そう、しかも殺されたのは一人じゃないって話し」

ξ;゚听)ξ「そ、それで、犯人は捕まったの?」

(*゚ー゚)「それが、まだ捕まって無いらしいの。物騒だよね」

ξ゚听)ξ「……そうなんだ」

(*゚ー゚)「そのニュースを見た時、ツンちゃんの事が心配で。でも、ツンちゃんなら大丈夫だよね?」

ξ゚听)ξ「え?」

(*^ー^)「だって、ツンちゃんだったらそんな奴やっつけちゃうもん!!」

しぃは心の底からそう思っているのだろう。
私の瞳を見つめるしぃの目には陰りがなく、憧れの人間を見るかのようにキラキラと輝いている。



100 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:52:00.78 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ(まったく、変な所で天然なんだから)

(*゚ー゚)「しぃもツンちゃんみたいに強かったらなぁ」

ξ゚ー゚)ξ「まあ、しぃが危なくなったら私が助けてあげるわよ」

(*^ー^)「本当!? ツンちゃん大好き!!」

ξ;゚听)ξ「こ、こら、ちょっと、離れなさい」

しぃが急に私の胸に抱きついてくる。
そんなしぃに、どぎまぎしながらも、私の脳裏にはブーンとの朝のやり取りが思い出された。

ξ゚听)ξ(そう言えば、ブーンもこんな事言ってたっけ)

彼もニュースを見たから、そんな事を言ったのだろうか。
その考えにいたり、また笑みがこぼれると同時に、教室のドアが開いた。


110 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:12:02.64 ID:EO7KUsBK0


( ´∀`)「はーい、みんな席に着くモナー」

教室に入って来た一時限目の教員であるモナーが、席に着くよう声を掛けると、
今まで、騒がしかった教室が、静かになっていった。

先生の声を聞いて、私に抱きついていたしぃも、私の隣の席に戻っていく。

( ´∀`)「早速、授業を始めたいけど、その前に皆にお話しがあるモナー」

このモナーという教師、外見は柔和だが、中々に厳しい教師としてこの学校では知られている。
噂によると、授業中にうたた寝しただけで南極に強制送還され、反省文を書かされるらしい。

ξ゚听)ξ(まあ、単なる冗談だろうけど)

しかし、実際にモナーの授業中に居眠りをした生徒が、放課後に呼び出され、
体の上に相撲部の生徒をのせたまま、グラウンドに五体倒置し、暗くなるまで反省させた事があるとか無いとか。

私は居眠りをした生徒よりも、巻き込まれた相撲部の生徒が可哀想だと思ったが、
どうせこれも嘘だろうし、深くは考えない事にする。



111 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:13:44.15 ID:EO7KUsBK0


( ´∀`)「もう、知っている人もいると思うけど、昨晩、近くの裏通りで殺人事件があったそうだモナ」

その言葉に、静まりかえった教室がまたざわめきだした。
しかし、モナーが咳払いをすると、その喧騒もすぐに静まっていく。

( ´∀`)「犯人もまだ捕まっていないとの事なので、学校側でも色々と対処する事になったモナ」

教室が完全に静かになった頃合いを見計らってモナーが続ける。

その内容は、授業を短縮授業にして生徒を早めに帰す事と、
大会中の部活は休止とまではいかないものの、暗くなる前に終わりにする事、という二つだ。

( ´∀`)「以上だモナ。それでは授業を始めるモナ」

それだけ生徒達に伝えると、モナーは黒板に文字を書き始めた。
私はそんなモナーの話を頭の片隅に留めたまま、鞄を開き、教科書やノートを取り出そうとする。

ξ゚听)ξ(あれ? おかしいな……)

けれど、鞄の中に入っていた教科書等は昨日の時間割のままだった。
どうやら昨日は用意するのを忘れてしまっていたらしい。

仕方が無く、隣の席のしぃに教科書を見せてもらいながら、私は黒板を写す作業に没頭していった。



112 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:15:26.84 ID:EO7KUsBK0


(-@∀@)「よって、テニヌというのは、物理法則に基づいている訳だ。つまり、テニヌは物理なんだ」

ξぅ-)ξ「う〜ん」

授業終了を知らせるチャイムと共に、意味不明な教師の声が聞こえた。
私は目を擦りながらも、顔を上げて現状を確認してみる。

(-@∀@)「では、今日の授業は終了だ」

黒板は大量の文章と、不可解な数式で埋め尽くされ、
たった今、物理の授業を行っていた教師もそそくさと教室を後にしていた。

そこで、眠っていた私の頭脳はやっと現状を理解する。

ξ;゚听)ξ(やばい、寝てて授業を聞き逃した!!)

立ち上がり焦って辺りを見渡すと、
黒板を写し終えたクラスメイトの面々は、さっそく帰る準備を始めていた。

ξ゚听)ξ(ひ、昼からの記憶がない……)

その事実に私は頭を抱える。


115 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:17:39.23 ID:EO7KUsBK0


確か、午前中はちゃんと授業を受けて、昼にはいつもの4人で弁当を食べた筈。
その時に、しぃのおかずを彼女が目を離した隙に、勝手に食べたのを覚えている。
それから雑談した後、授業が始まって、……ここから記憶が無い。

ふと、隣を見るとしぃがちょうど黒板を写し終えた所だった。

ξ;゚听)ξ「ちょっと、なんで起こしてくれなかったのよ」

(*゚−゚)「なんで私が起こしてあげなくちゃいけないの?」

しぃの素っ気無い態度に私は狼狽した。
その表情には僅かに怒りのような感情を感じる。

ξ゚听)ξ「も、もしかして、怒ってる?」

(*゚−゚)「別に、から揚げを取られたからって、怒ったりなんかしてません」

ξ;゚听)ξ(こいつはマジで、怒ってるな)

ξ゚听)ξ「あ、あの、お昼の事は謝るよ。……ご、ごめんね」

(*゚−゚)「………」

ξ--)ξ「この通り、本当にごめん」

(*゚−゚)「………」

ξ゚听)ξ「だから、あの宜しければ、午後のノートを貸して頂けないでしょうか?」



116 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:19:22.47 ID:EO7KUsBK0

私は頭を下げたまま、目だけでしぃの顔を窺ってみると、
冷めた半目で見下ろしてくるしぃと目が合った。

そのまま、数秒見つめ合っていると、

(*^ー^)「ウソでした〜、そんなに怒ってないよ」

急にしぃの顔が笑みに変わった。

ξ゚听)ξ「ほ、本当?」

(*゚ー゚)「うん、ノートも貸してあげる」

ξ゚听)ξ「良かった……」

(*゚ー゚)「そのかわり、何か奢ってもらうからね」

ξ;゚听)ξ「うっ、た、高いものでなければ」

(*^ー^)「へへへ、考えておくね」

不気味な笑みを浮かべながら、しぃはノーとを差し出してきた。
それを受け取りながら、私は肩を落とし溜息をつく。

今月も財布が寂しい事になりそうだ。



117 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:21:47.99 ID:EO7KUsBK0


( ,,゚Д゚)( ^ω^)ノ「おいすー」

(*゚ー゚)「あ、ギコ君にブーン君」

しぃが渡してくれたノートを鞄に入れていると、
別のクラスであるブーンとギコが教室に入って来た。

(*゚ー゚)「ギコ君、今日は部活は無いの?」

( ,,゚Д゚)「ああ、あんな事件があった後だし、大会があった次の日だからな、
     今日は早く帰って休めってよ」

(*゚ー゚)「じゃあ、久しぶりに皆でどこか行こうよ」

( ,,゚Д゚)「は?」

( ^ω^)「お?」

しぃのいきなりな提案に、ブーンとギコが一瞬息を呑んだ。
その後、すぐに我に返った二人は、慌てた様子で声を上げた。

(;,,゚Д゚)「な、なに言い出すんだ。殺人犯がうろついているかも知れないんだぞ。
     今日は、早く帰るべきだゴルァ」

(;^ω^)「そうだお、ギコの言う通りだお」



119 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:24:52.18 ID:EO7KUsBK0


ギコとブーンの意見は正論だ。

殺人鬼がまだうろついているかもしれないって言うのに、
どこかに遊びに行くなんて、正気の沙汰ではない。

でも、最近は滅多に4人で帰る事が無かったし、
今日ぐらい4人で遊びに行っても、罰は当たらないだろう。

そう思った私はしぃの意見に加勢する。

ξ゚听)ξ「……いや、何か食べに行きましょう」

(;,,゚Д゚)「おい、ツンも何言いだすんだ」

ξ゚听)ξ「暗くなる前に帰れば大丈夫よ。真昼間から野外で人を殺す奴なんていないわ。
      あと、しぃの分は私が払うから、ブーンは私の分を奢りなさい」

( ^ω^)「お?」

ξ゚ー゚)ξ「朝、私の事を笑った罰よ」

(;^ω^)「ちょ……」

我ながらナイスアイディアだ。
これで、しぃの分を奢ったとしても、ブーンに私の分を払わせる事によって、プラスマイナスゼロになる。



120 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:27:01.43 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「それでいいよね、しぃ?」

(*゚ー゚)「しぃは皆で一緒に行ければ、何でもいいよ」

( ,,゚Д゚)「でも、今は危ねえから……」

ξ^ー^)ξ「大丈夫よ。いざとなったら、ブーンが守ってくれるんだって。
      ねぇ、ブーン?」

(;^ω^)「そ、それは……」

(*^ー^)「しぃの事はツンちゃんが守ってくれるから、大丈夫だよギコ君。
     だから、一緒に行こ?」

( ,,゚Д゚)「……ちっ、しぃがそう言うならしょうがねえな」

( ^ω^)「ブーンの事はギコが守ってくれお」

(;,,゚Д゚)「うほっ、ねーよ」


122 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:29:10.35 ID:EO7KUsBK0


(*^ー^)「じゃあ、決まり。ほらみんな、早く行こう」

そう言って、しぃがギコの腕を引いて先頭を走り出す。
それを見た私もブーンの腕に手を伸ばしかけたが、止めた。

ξ///)ξ(バカバカしい。しぃったら恥ずかしくないのかしら)

しかし、頬を染めて俯いた私の手も、いつの間にか引っ張られていた。

ξ゚听)ξ「あっ」

( ^ω^)「ほら、早くしないと置いてかれちゃうお」

ξ///)ξ「もう、わかってるわよ」

優しく手を繋いできてくれたブーンの顔が直視できない。
けれど、繋がれた手からは、彼の温もりが感じられた。

ブーンなら私を守ってくれる、彼の手から感じる温もりからそう感じる事ができた。



124 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:31:55.08 ID:EO7KUsBK0

徐々に日が傾き始めてきた商店街を、私たち4人は歩いていた。

流石に近くで殺人事件があったからか、いつもより人通りは少ない。

それにしても、『商店街、から揚げだけ食べ歩きツアー』なんてものをさせられるとは思ってもみなかった。

商店街の飲食店に存在する、から揚げのみを食べ歩くという地獄のツアーだ。
当初の計画通りに、食べ歩きをするという事になったのだが、
昼に食べ損ねたから揚げが食べたいというしぃの発言から、急遽このツアーを行う事になった。

最初はノリ気だった私達も、油っこい食べ物であるから揚げの連続に、途中でギブアップ。
後半は、ただしぃが食べている様子を眺めるだけとなってしまった。おかげで、財布の中がちと寂しい。

本当に食べ物の怨みというものは恐ろしいものだ。

しぃはテイクアウトしたから揚げを、未だに食べながら先頭を歩いていた。
残りの私達3人は、その後ろをとぼとぼと追いかけ、胸焼けで喋る気力さえもない。

(*^ー^)「ハムハフハフッ、おいしぃ〜」

( 'ω`)「………」

( ,,'Д`)「………」

ξ'兪)ξ「………」

キメェ、とつっこむ元気も無ければ、だじゃれ乙、という気持ちも湧いてこなかった。


131 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:47:55.08 ID:EO7KUsBK0


そのまま商店街を抜け、住宅街を無言で歩いていると、
日常ではあまり見慣れない光景が目に入った。

ξ゚听)ξ「あれって……」

(*゚ー゚)「どうしたの、ツンちゃん?」

ξ゚听)ξ「ねえ、もしかしてあそこが」

視線の先には薄暗い路地裏があり、その前には一人の警察官が立っていた。
警官の後ろには、一般人の侵入を防ぐ為の黄色いテープが張られている。

( ^ω^)「そうだお、あそこが現場だお」

ブーンにそう言われてもう一度、路地裏の方を見てみると、
近くにはテレビ関係者らしき人が数人いるだけで、野次馬のような人は見当たらなかった。


133 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:57:30.56 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ(それもそうか)

通常、野次馬は自分の命がある程度、保障されていないと発生しない。
火事の現場等では火の燃える範囲が大体予想でき、
自分に被害が及ばない場所で、現場を傍観する事が出来る。

だが、今回の様な殺人事件では別だ。
通り魔殺人ではいつ自分に被害が及ぶかわからない。

それに今回の事件で殺されたのは一人じゃない。

一人ならば正常な人間でも、私情のもつれなどで殺してしまうという事が、あり得るかもしれないが、
複数人となれば話は別だ。その人間は単なる異常者に過ぎない。

人間は理解できない存在には恐怖し、自己を守ろうとする。
故に、こんないつ襲われるか解らない所は、仕事で来る人以外は避けて当然だ。

ξ゚听)ξ(それに殺人現場を見たいなんてモノ好きな人、そうそういないしね)

( ゚д゚ )「………」

そうこう考えていて、私は通り過ぎる筈の路地裏の前で、足が止まっている事に気付いた。
見張りの警官の人が、こっちをじっと見ている。


132 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:53:30.42 ID:EO7KUsBK0


このまま立ち止まっていたら、学生相手に事情聴取は無いにしても、
軽い質問ぐらいはされてしまうかもしれない。

それに、あのテレビ関係者らしき人達にインタビューされる可能性もある。
もちろん、そんな面倒臭い事はご免なので、すぐにその場を離れようとした。

从 ∀从「おい、そこの女」

ξ;゚听)ξ「きゃっ」

そんな私の肩に、いきなり冷たい何かが触れてきた。

驚いた私は、肩にのっていた何かを咄嗟に払い除け、後ろに振り向く。
すると、そこには垂れた髪の毛で左目が隠された、色白の女性が立っていた。

体は黒いコート一色で覆われ、右手にはかなり大きめのパンパンに膨れたバッグを持っている。

空いた左手が私の方に中途半端に伸ばされている所を見ると、
先程私の肩に触れてきたのは、この人の手だったようだ。

それにしても何て冷たい手をしているのだろう。人間の手の温度とは、到底思えなかった。



135 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:00:27.36 ID:EO7KUsBK0


从 ゚∀从「………」

ξ;゚听)ξ「な、なんですか?」

从 ゚∀从「……いや、なんでもねえ。悪かったな人違いだったみたいだ」

ξ;゚听)ξ「は、はあ、そうですか」

从 ゚∀从「………」

ξ;゚听)ξ「………」

(*゚ー゚)「ツンちゃん、どうしたの?」

( ,,゚Д゚)「おいてくぞゴルァ」

( ^ω^)「何してんだお、ツン。早く行くお」

ξ;゚听)ξ「あ、うん、ゴメン」

底知れぬ何かを感じて、動けなくなっていた私の体を、皆の声が解放してくれた。
最後に声をかけてくれたブーンが、女の人に視線を送りながら私の手を掴んで引っ張る。



136 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:02:39.11 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「それじゃあ、私、急ぎますので」

从 ゚∀从「ああ、すまなかったな」

( ^ω^)「………」

从 ゚∀从「………」

( ゚д゚ )「そこの君、ちょっとお話しいいかな?」

从;゚∀从「え? 俺?」

( ゚д゚ )「ああ、そうだよ。名前と職業を言ってもらえるかな?」

从;゚∀从「え? えーっと、そのぉ……」

ブーンと一緒に歩き始めた私の後ろからは、警察官と女の人の言い争いが聞こえてきた。

心底ブーン達の行動に感謝する。
あのまま、あそこで立ちすくんでいたら、あの女の人に巻き込まれて事情聴取される所だった。



137 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:04:21.93 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ(それにしてもこの町で殺人事件だなんて)

この町はかなり治安がいい方だと、私は思っている。
いや、今となっては思っていたと言った方が正しいのかもしれない。

この町で事件と言ったら交通事故ぐらいなもので、
殺人事件などもっての他、窃盗、誘拐、暴行さえも、私の知る所では今まで無い。

と言っても私はただの学生だ。
この世の全てを知っている訳では無いので、知らぬ所でそういう事件が今までも起こっていたのかもしれない。

ξ゚听)ξ(まったく、物騒な世の中になったもんだわ)

( ,,゚Д゚)「じゃあ、俺達はこっちだからじゃあな」

(*゚ー゚)ノシ「ツンちゃん、ブーン君、ばいば〜い」

そんな事を考えていた私の耳に、しぃ達の声が届いた。
いつの間にか、彼女達と別れる場所に来ていたらしい。

ξ゚ー゚)ξ「うん、じゃあねー」

( ^ω^)ノシ「バイブー」

笑顔のしぃはギコに腕を絡めたまま、空いた手で私達に手を振ってきた。
それに私は笑顔で、ブーンは大きく手を振り返して、答える。



138 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:06:11.48 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ほらいつまでバカみたいに手を振ってるの、行くわよ」

(*^ω^)「おっおっ、ブーン達も腕を組むかお?」

ξ゚听)ξ「バカ、調子にのるな」

そう言いながらも私はブーンの手を掴んでいた。

(*^ω^)「おおお」

ξ///)ξ「ちゃんと私の事、守ってよね!!」

途端にブーンの顔が直視できなくなる。
でも、心は幸せでいっぱいだった。この時がずっと続けばいいのにと、そう思えた。



139 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:07:57.04 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「ツン、明日はちゃんと早く起きるんだお」

ξ*゚听)ξ「わ、わかってるわよ。明日はあんたより先に起きてやるんだから」

( ^ω^)「そうかお、それなら良かったお」

ξ゚听)ξ「じゃ、また明日ねブーン」

( ^ω^)ノシ「ツン、バイブー」

そんなやり取りをして、私は自宅の前でブーンと別れた。
それにしても、あんな笑顔で元気に手を振られると、こっちが恥ずかしくなってしまう。

ξ///)ξ(だから、人目って言うのを考えなさいよバカ)

顔を朱に染めた私は玄関には行かず、
紙に包まれたから揚げを鞄から取り出して、ペスのいる犬小屋に向かった。

これはしぃからペスにあげるよう、言われていたものだ。

このから揚げは、しぃが行きつけのお店に無理を言って、、
犬の体に悪影響が無いように、香辛料等を使わずに作られている。


141 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:10:02.96 ID:EO7KUsBK0


ξ゚ー゚)ξ「はいこれ、しぃからのお土産よ」

紙の包みを丁寧に剥がし、舌を出して待っているペスの前に置く。
するとぺスは、二、三度クンクンと臭いを嗅いでから、勢いよく頬張った。

▼・ェ・▼「ワン、ワン」

ξ^ー^)ξ「よしよし、いい子ね」

その後、すぐに食べ終えてしまったペスは、嬉しそうに尻尾を振りながら声を上げる。
そんなペスの頭を撫でてから、私は玄関に向かった。

ξ゚听)ξ「お母さん、ただいま〜」

玄関のドアを開けて帰りの挨拶をする。
しかし、いつもなら返ってくる母の返事が、今日は無かった。
シーンとした家の中からはテレビの音だけが微かに聞こえてくる。

ξ゚听)ξ「お母さ〜ん?」

呼びかけながらテレビのあるリビングに行くと、母がソファに座りながら真剣にテレビを見つめていた。
何をそんなに真剣に見ているのかと、気になった私は後ろからテレビを覗き込んだ。



142 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:11:55.15 ID:EO7KUsBK0


(プォ゚)「さあ、みんな!! プォーさんと一緒に、『僕はくまたいそう』を踊ろう!!」

すると、画面の中では、黄色い全身タイツに、赤いパーカーを羽織った小太りの男と、
白と黒の服を着た子供たちが体操を踊っていた。

きっと、2ちゃんねるのVIP教育テレビだろう。

ξ;゚听)ξ「ちょっと、どんな番組見てんのよ」

J( 'ー`)し「あら? ツンちゃん帰ってたの? おかえり〜」

ξ;゚听)ξ「た、ただいま」

J( 'ー`)し「お母さん、テレビに夢中で全然気付かなかったわ。ごめんね〜」

ξ;゚听)ξ「いや、それは別にいいけど、何でこんなの見てるのよ?」

今度は、黄色いタイツのおじさんが子供達に囲まれ、集団リンチを受けている。

周りの子供達の目が恐ろしいが、
その暴行を受けてもニヤニヤ笑っているおじさんの笑顔も、 また恐ろしい。

これが『僕はくまたいそう』なのだろうか、果たして、体操と呼べるのか。


146 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:13:49.33 ID:EO7KUsBK0


ξ;゚听)ξ(子供達のストレス発散には成るだろうけど…)

J( 'ー`)し「だって、他の番組はみんな同じ内容の事やってて、面白い番組が無いんだもの」

同じ内容という事は、近くでおきた大量殺人事件の事だろうか。
確かに、一人殺されただけでも、マスコミがあれ程喰い付いて来るのに、
大量殺人という話題性抜群の事件に喰い付いて来ない筈が無い。

そう言えば、あんな路地裏にあったであろう死体を誰が見つけたというのだろう。

ξ゚听)ξ(あんな所、滅多に人なんて入らないだろうに)

だが、そんな事よりも、近場で殺人事件があったというニュースをやっているにも関わらず、
全く興味を示さない、おとぼけ過ぎの母に、私は少し驚いていた。

ξ゚听)ξ「まあいいわ、それよりあいつは? あいつが帰って来るの今日でしょ?」

J( 'ー`)し「あいつ? あいつってお父さんの事? 駄目ですよ、お父さんをあいつなんて呼んじゃ」

ξ゚听)ξ「はいはい、それで?」

J( 'ー`)し「お父さんはね、仕事が長引いたから今日は帰れないってさっき電話があったわよ」


148 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:16:09.07 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ふーん、そうなの」

J( 'ー`)し「明日には帰って来るって」

ξ゚听)ξ「別に帰って来なくてもいいけどね」

J( 'ー`)し「コラッ、そんな事を言ったら、メッでしょ」

ξ゚听)ξ「はいはい」

ぷぅっと頬を膨らませた母を軽くあしらう。

ξ゚听)ξ(それよりも、あいつが帰ってくるのか…)

今、父は一ヶ月間の出張に行っている。

私が小さい頃から仕事ばかりで、年に十数回会えればいい方だ。
正直に言わせて貰うと、私は父が嫌いとまではいかないが、苦手だった。

まず、滅多に会わないからどう接していいか解らない。

そもそも、あいつとお母さんはなんで結婚したのだろうか。
あんな仕事一筋のような奴が、こんな天然で呑気な母さんと結婚するなんて理解できない。

ξ゚听)ξ「じゃあ、私はこれから勉強するから、邪魔しないように」

J( 'ー`)し「わかってますよ。お母さんはおとなしくテレビでも見てます」



149 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:18:07.94 ID:EO7KUsBK0


母はそう言って、またテレビ画面を見つめる。
私もつられてもう一度テレビを見てみると、画面の中にはもう子供達はおらず、中央に倒れた男が一人でニヤニヤと笑っていた。

どうやら、今度は放置プレイらしい。

流石の母もそれはつまらなかったらしく、少し見つめてから、リモコンでテレビを消した。

J( 'ー`)し「ねぇ、ツンちゃん。やる事が無くなっちゃったから、一緒に何かしましょう」

ξ;゚听)ξ「いやいや、だから勉強するんだって。それに、しぃから借りたノートも写さなきゃいけないし」

J( 'ー`)し「え〜、それじゃあお母さんつまんない」

ξ゚听)ξ「……じゃあ、ペスと遊んでたら?」

J( 'ー`)し「あっ、そうするね」

そして、母はすぐに外に出て行ってしまった。
外からはペスの元気な鳴き声が聞こえてくる。

ξ--)ξ「はぁ…」

母をあしらうのも慣れたものだ。
深く溜息をついた私は、階段を上り、自分の部屋へと向かうのであった。


156 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:31:43.77 ID:EO7KUsBK0


私は暗く細い道に、一人で立っていた。

周りにあるのは、私を包み込んだ仄暗い闇だけ。
辺りに人影は無い。そんな静かな道の上に、ただ私は佇む。

ふと、そんな私の前を‘私’が走っていった。
そんな‘私’を一人の男が追いかけている。

男の手には赤黒いナイフ。
‘私’はその男から、恐怖に染まった顔で逃げ続けていた。

その状況を見て、これは昨日と同じ夢だと察した。

唯一、違う所と言えば視点が三人称視点になっている事だろうか。
今、私は逃げる‘私’と、追う男を他人事のように冷静に見つめていた。

逃げながら何度も後ろに振り返り、その顔を恐怖に染める、‘私’。
何度も振り返る‘私’を見ては、満面の笑顔を作る、男。

その男の笑顔はおもちゃで遊ぶ少年の様。
私は、何の感慨も無く無表情にそれを観察している。

男と‘私’の距離は縮まらない。

男がわざと遅く走っているからだ。まるで、獲物をなぶるかのごとく。
と、不意に夢の中の‘私’が右に進路を変えた。



157 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:34:38.63 ID:EO7KUsBK0


ξ;゚听)ξ「そっちに行っては駄目!!」

その瞬間、今まで何も反応を示していなかった私は、意識とは関係なく叫んでいた。

だが、その声が‘私’に届く事は無い。
案の定、二回連続で右に曲がった‘私’は行止まりによって足を止める。

そんな‘私’を顔だけ出して覗き込む男。
ウサギの様に怯える‘私’の目と男の視線が合った。


男が‘私’に笑いかけ、‘私’は震える。

男が‘私’に歩み寄り、‘私’が後ずさる。

男がナイフを振り上げ、

                私は自然と瞳を閉じた。


その次に起こる惨劇から目を逸らしたかったから――――


159 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:37:04.22 ID:EO7KUsBK0


ξ;゚听)ξ「っ!!」

瞳を見開いた私は、昨日と同じように跳ね起きた。

一つ昨日と違うのは、
寝ている場所がベットの上では無く、勉強机だったという事だ。

机の上には、しぃのノートとその内容を写した私のノートがある。

さらに私のノートには、その後に少しは勉強したのであろう痕跡が残っていた。
どうやら昨日、勉強しながらそのまま机で寝てしまったらしい。

おかげで、体がだるい。

愛用の置時計を見ると、時刻は6時23分。
ブーンとの朝の待ち合わせまでは、まだまだ時間がある。

私は軽くノビをしてから、腹が空いていたので一階の台所へと向かった。



160 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:39:39.56 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「へー、意外ね。お母さんって、もう起きてるんだ」

J( 'ー`)し「むむ、これでもれっきとしたお母さんですよ。起きてて当然です!!」

台所では、意外にも朝早く起きていた母が、味噌汁を作っていた。
怒ってぷく〜と頬をふくらます母は、まるで食べ物を頬張ったリスみたいで可愛げがある。

ξ゚听)ξ「うん、見直したよ。それより、何で昨日の夜、起こしてくれなかったのよ?
      おかげで、晩御飯を食べ損ねて、お腹ペコペコなんだけど……」

J(;'ー`)し「え〜!! だって、勉強するから邪魔しないでって言ったじゃない」

ξ;゚听)ξ「……まあ、そう言ったんだけどもね」

母に真顔で驚かれた。
別に御飯の時ぐらいは呼んでくれてもいいのに、変な所で素直な母に私も驚く。

ξ゚听)ξ「まあいいわ、昨日、お風呂も入りそびれちゃったし、朝御飯もまだ出来てないみたいだから、
      先にお風呂に入っちゃうね」

J( 'ー`)し「はいは〜い。じゃあ、お母さんはその間に朝御飯を作っちゃいま〜す」

そう言いながら、オタマを使って、慣れた手つきで鍋に味噌を溶かし始める。
私はそんな母を台所において、風呂場へと向かった。


162 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:42:41.67 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ふぃー、極楽極楽」

鉄臭い風呂場の中で、ついつい私はおっさんくさい事を呟いてしまった。

まあ、椅子に座りながら机で寝るという無理な体勢で一夜を過ごした後だ、
そう呟いてしまうのも仕方がない。

ξ゚听)ξ(それにしても、あの夢は何なのかしら……)

湯船に浸かりながら、特にする事もなかった私は先程の夢の事を考えていた。
多少は内容が違ったが、同じ夢を二日連続で見るなんて、中々ある事では無い。

それに、あの時に何故、右に行ってはいけないと分かったのだろうか。

夢の中の‘私’が右に行った時、私は無意識に叫んでいた、右に行っては駄目だと。
でも、その声が届かない‘私’は予想通り行き止まりに行きつき、男に追いつかれる。

ξ゚听)ξ(私はあの状況を知っていた?)

答えは簡単だ、過去に体験した事なのだろう。
だが、そう考えると問題点が生じる。

ξ゚听)ξ(だったら、なんで私は生きているんだろう……)

あんな薄暗く細い道、人通りも無く、それに行き止まりだ。
あの男が殺しそびれるなんてありえないし、誰かが助けてくれたという事もありえない。



164 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:47:21.73 ID:EO7KUsBK0


試しにほっぺたをつねってみる。

ξっ゚听)ξ「いふぁい」

痛みを感じる。痛覚があるという事は生きているという事だ。

ξ///)ξ(って、これは夢かどうか確かめるやつだっての)

起きてる時にやったって意味が無い。
そう自分に突っ込みをいれた私は、また考え始める。

そもそも私自身にそんな事件にあった記憶が無い。

もし仮に、過去にそんな状況に追い込まれた事があるとしても、自分が殺される程の状況だ。
そういう記憶は脳に深く刻み込まれるため、今まで忘れていたなんて事は有りえない。

でも、そうだとすると何故、右は駄目だと解ったのか。

脳が耐えられない恐怖を味わった時、その記憶が消失する場合があるというが、それの類なのだろうか。
けど、あのおとぼけ母さんからそんな事件に関する話が、今まで一度もでていないのはおかしい。

ξ゚听)ξ(う〜ん)

これでは堂々巡りだ。
そうして、私は思考のループに嵌っていくのであった。



167 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:49:49.33 ID:EO7KUsBK0

ξ゚听)ξ「ねぇ、ペスはどう思う?」

▼・ェ・▼「クゥーン?」

朝食を食べ、学校に向かう準備も終えた私は今、犬小屋の前でブーンを待っている。
そして、ブーンが来るまでの暇な時間を、ペスと一緒に潰していた。

ξ゚听)ξ「って、ペスに聞いても分かる訳ないか……」

▼・ェ・▼「ワンッ!!」

ξ゚ー゚)ξ「ふふ、よしよし」

私を気遣ってくれたのか、ペスが顔をペロペロと舐めてきた。
お礼にペスの頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに手の平に頭を擦りつけてくる。

( ^ω^)ノ「おいすー、ツン。おはようだお」

そうやって私とペスがじゃれあっていると、待ち合わせ時間の8時30分になったのか、
後ろからブーンの声が聞こえてきた。私はそんなブーンに苛立ちをこめて返事をする。

ξ#゚听)ξ「遅いわよ、ブーン」

(;^ω^)「お? ちゃんといつも通りの時間に来たお」

ξ#゚听)ξ「レディを待たせるなんてどういうつもり? あんたそれでも男なの?」

(;^ω^)「あうあう、ゴメンお」

ξ゚听)ξ「わかればいいのよ。今度からは、5分前にはここに来るようにしなさい」


168 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:53:28.80 ID:EO7KUsBK0


( 'ω`)「……ツンは理不尽だお」

ξ#゚听)ξ「何か言った!?」

(;^ω^)「いえ、何でもございませんお」

来るのが遅いだなんて、いつも遅れている私が言えた事では無い。
けれど、未来の夫にはちゃんとしていて欲しいという気持ちが、私の口を勝手に動かしていた。

もちろん、私も大きくなったら、早起きだってするし、ブーンの為に料理だって覚えるし、洗濯だって……

ξ///)ξ(……って、まだブーンと将来結婚するって決めてる訳じゃないんだから!!)

(;^ω^)「急に顔が赤くなったけど、どうしたんだお!?」

ξ///)ξ「な、何でも無いわよ!!」

( ^ω^)「そ、そうかお。
      そう言えば、今日のツンは早起きだお。何かあったのかお?」

ξ゚听)ξ「別に私の勝手でしょ」

(;^ω^)「いや、いつも待たされてるブーンの身にもなって欲しいもんだお」

ξ゚听)ξ「そんな事どうだっていいわよ。さあ、早く行きましょ」

私はペスにお別れを言ってから、鞄を持って、先に歩きだす。
ブーンはそんな私を慌てて追いかけて来た。


172 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:57:52.23 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「そう言えば、ツン」

ξ゚听)ξ「ん、何?」

( ^ω^)「今日の髪形はちゃんとしてるお」

ξ*゚听)ξ「え?」

ξ*゚听)ξ(もしかして、褒めてくれるのかな)

風呂あがりに30分かけて、セットした自信作だ。
いつもは時間が無くて軽く梳かす事ぐらいしかできなかったけど、今日は念入りに手を加えている。

おかげで、御飯が出来てるのにツンちゃんが食べに来ない〜、って母に泣きつかれたけど。

( ^ω^)「昨日の髪形の方が、面白くて良かっ」
ξ#゚听)ξ「セイッ」

( ゚ω゚)「クォッ!!」

癪に障るので股間を蹴り上げた。
強く蹴り上げて、また気絶されても困るので、二つのボールを軽く、そして、的確に狙う。

必要なのは重さではない、速さだ。

より速ければ速い程、袋の中で二つの宝玉が揺り動かされ、
相手に最大限の苦痛を与える事が出来る。



175 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:01:32.76 ID:EO7KUsBK0


( ゚ω゚)「エキィセントォォォォリィックゥゥウウウウウウウウウ!!」

空気の読めない豚が、目の前で奇声をあげた。
それを私は通学路の方に向き直り、歩き出す事で無視。

しかし、五、六歩進むと、後ろから走る足音が聞こえてくる。
仕方なく振り返ると、豚がもの凄い内股で駆け寄って来ていた。

ξ;゚听)ξ「うわぁ、気持ち悪い……」

(;゚ω゚)「何すんだお、潰れたらどうすんだお!! 将来、ツンとの子供が作れ無くなっちゃうお!!」

ξ///)ξ「は、はぁ? 誰があんたなんかと!!」

(;^ω^)「それに、ブーンが馬鹿な事を言ってツンに殴られるというパターンは、
      そろそろ、読者が飽きてきてると思うお」

ξ゚听)ξ「読者なんて関係無いのよ。私さえ良ければいいの」

(;^ω^)「ブーンはどうなるんだお?」

ξ゚听)ξ「あんたは読者の為に、もっと面白いやられ方とか奇声のあげ方の練習をしなさい」

( ;ω;)「……お、鬼だお」

急にしゃがみこんで、ブーンが泣き始めた。

どうせ嘘泣きなのは明白なので、またも無視して歩き出すと、
すぐにブーンは泣落としが無駄だと悟り、気持ちの悪い内股走りで追いついて来た。


178 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:04:27.00 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「まったく、もっと素直で、優しくなれないのかお?」

ξ゚听)ξ「あんたに優しくして、何かメリットがあるっていうの?」

( ^ω^)「僕がツンの事を、もっと好きになるお」

ξ///)ξ「ば、馬鹿じゃないの? 変な事言わないでよ!!」

(*^ω^)「うろたえちゃって、かあいい」
( ゚ω゚).・;'∴ 「ぐぼぉ」

狙うは人体の急所、鳩尾。
左手で彼の胸倉を掴み、その手を引く事によっ(ry

ξ#゚听)ξ「何がかあいいよ!! あまり図に乗るなよ小僧!!」

(;゚ω゚)「はっふぁっは、ず、ずいまぜんでじたお」

ブーンが鳩尾を押さえながら、律儀に頭を下げた。

まったく、早朝からイライラする事の連続で頭が痛い。

そんなイライラを察して防衛本能が働いたのか、
痛む右側頭部をおさえる私に、ブーンが普通の話題をふってきた。



180 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:07:48.74 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「それにしてもツンが早起きなんて珍しいお」

ξ゚听)ξ「あ、そうそう思い出した。あんたにも聞こうと思ってたんだけど」

( ^ω^)「お、何だお?」

ξ゚听)ξ「朝食の時にお母さんにも聞いたんだけどね。私って、昔、死にかけた事なんてあったっけ?」

( ^ω^)「……急に何を言い出すんだお?」

ξ゚听)ξ「いや、別に深い意味は無いんだけど。昨日、怖い夢を見たって言ったじゃない?」

( ^ω^)「ああ、言ってたお」

ξ゚听)ξ「それで、同じ夢を今日も見ちゃったのよ。しかも、その状況を知っていたって言うのかな?
      とにかく、その夢の先が分かったの。だから、過去にそんな事あったのかなと思って聞いてみただけ」

(  ω )「………」

ξ゚ー゚)ξ「それでね、朝にお母さんに聞いた時、何て言ってたと思う?
      お母さん、難しいこと良く分かんない〜、だって。
      どこに難しい所があるんだよ、て思わない?」

(  ω )「………」



182 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:11:49.87 ID:EO7KUsBK0


私は朝御飯の時の母を思い出し、苦笑する。

しかし、ブーンからの反応は無かった。
不審に思って、ブーンの顔を窺い見ると、真っ青な顔でこちらを見つめる彼と視線が合った。

ξ゚听)ξ「ちょっと、無視しないでよ」

(  ω )「……ツン」

ξ゚听)ξ「な、何よ?」

(  ω )「急用を思い出したから先に行くお。じゃ」

ξ;゚听)ξ「え? ちょ、ちょっと待ちなさいよ」

そう言い残し、彼は走って先に言ってしまった。
あまりの突然の事に、私はその場に立ち尽くしてしまう。

昨日と同じ彼の背中、でも、昨日と違う彼の背中。
その背中を見つめると同時に、自然と疑問が芽生え、

ξ;゚听)ξ「どうしちゃったのよ!! ブーン!!」

その疑問を晴らす為に、私はその背中を追いかけた。


185 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:16:37.38 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ(む〜、本当にどうしちゃったのよ)

今、私は教室の自分の席に座り、朝の事を考えていた。

直接問いただそうと、あの後ブーンを追いかけはしたが、途中で見失ってしまったのだ。
その後、一人で学校に着いた私は、ブーンの教室も覗いてみたが、彼の姿を見つける事は出来なかった。

ξ゚听)ξ(流石に金的蹴りはやりすぎたかな……)

いや、それは無い筈だ。
金的蹴りなら、ブーンと初めて会った時からかましている。

あれは幼い頃に、私としぃの二人で公園で遊んでいた時の事だった。

一人でブランコに乗って遊んでいる男の子を見つけて、話しかけたのだが、
無視されたので、飛び蹴りを叩き込んだのだ。

あの時は、まだ容赦というものを知らなかった。

ブランコの揺れを計算した完璧なるタイミング。
最大限の重力加速度を得る為に、ブランコの前に配置された手摺を用いた跳躍。

その一撃を受けた彼は、空中を一度回転し、地面にうつ伏せに叩きつけられた。
今でも不思議に思う、よく潰れなかったと。



186 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:20:47.92 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ(それを見たしぃが泣き出して、なだめるのが大変だったな)

(*゚ー゚)「おはよう、ツンちゃん」

ξ゚听)ξ「あ、しぃ、おはよ」

昔を懐かしんでいると、その大泣きの張本人が教室に入って来た。
しぃは鞄を机の横に掛けてから、私と話しがしやすいように、自分の椅子を私の席に近づける。

(*゚ー゚)「今日は早いんだね、来るの」

ξ゚听)ξ「私だって、毎日寝坊してる訳じゃ無いわよ」

(*^ー^)「えー、そうだったっけ?」」

ξ゚听)ξ「何よ、その顔。馬鹿にしてるでしょ!!」

(*゚ー゚)「ごめんごめん。それより、考え事してたみたいだけど、どうかしたの?」

ξ゚听)ξ「……うん、ちょっとね」

(*゚ー゚)「まさか、ブーン君と何かあったとか?」

ξ;゚听)ξ「うっ!!」



189 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:24:44.34 ID:EO7KUsBK0


心中をしぃに的確に言い当てられてしまった。
こう付き合いが長いと、お互いの事が大体分かってしまうから困る。

(*゚ー゚)「図星でしょ? ねぇねぇ、何があったの? しぃに教えてよ〜、ねぇ、ねえ〜」

ξ;゚听)ξ「あ〜、はいはい、わかったわよ、しょうがないわね」

執拗に聞いてくるしぃに嫌気がした私は、昨日の夢の事から今日に到るまで細かく説明した。
そんな私の話しにしぃは真剣に耳を傾けてくれている。

ξ゚听)ξ「という訳で、かくかくしかじかな訳よ」

(*゚ー゚)「う〜ん、かくかくしかじかじゃあ、全然分かんない」

ξ゚听)ξ「分かった事にしときなさい」

(*゚ー゚)「つまり、二日連続で恐い夢を見て、その夢に身に覚えがあったから、
    過去にそんな出来事があって忘れてるだけじゃないか、
    と思いブーン君に尋ねたら、血相変えて逃げ出したと、そういう事?」

ξ;゚听)ξ「う、うん。大体、そんな感じ」

(*゚ー゚)「ふ〜ん、なるほど」

ξ゚听)ξ「で、しぃはどう思うの?」

(*゚ー゚)「ツンちゃんの勘違いじゃないの?」



190 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:28:22.73 ID:EO7KUsBK0


ξ;゚听)ξ「へ?」

(*゚ー゚)「だって、ブーン君は用事があるって言って、走って行ったんでしょ?
     なら、そうなんじゃないの?」

ξ゚听)ξ「でも、様子が変だったし……」

(*゚ー゚)「ほら、きっと大事な約束だったのに忘れてて、それを急に思い出したから焦ってたんじゃない?」

ξ゚听)ξ「で、でも…」

確かにしぃの言う事は一理ある。でも、本当にそうなのだろうか。
あんなブーンを初めて見た私は、決してそうだとは思えなかった。



193 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:33:49.46 ID:EO7KUsBK0


( ´∀`)「全員、席につくモナー」

(*゚ー゚)「あ、モナー先生来たよ」

しぃの声を聞いて顔を上げた私は、教員のモナーと目が合った。
私と話すために椅子を寄せていたしぃの姿が、目についたのだろう。

すぐにしぃは席を戻し、私はそんな彼女を横目に、鞄から勉強道具を取り出した。

( ´∀`)「昨日も言ったように、事件が一段落するまで、短縮日課になるモナ。
     時間も惜しいので、早速授業を始めるモナ」

それだけ告げて、黒板に文字を書き始める。
事件については何も語らない。きっと、こいつの頭には勉強の事しかないのだろう。

そんな教師の態度に溜息を吐いた私は、今日もつまらない授業に集中していった。



196 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:39:00.50 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ふ〜、今日も終わった〜」

教室には午後の授業終了のチャイムが響く。

目の前では、今まで授業を行っていた教員が教材を片付けていた。
今日は睡魔に襲われる事も無かった私も、完璧に黒板の内容を写したノートを片付け始める。

(*゚ー゚)「今日はちゃんと起きてたね、ツンちゃん」

ξ゚听)ξ「受験生がそう何日も居眠りしてられるかってのよ」

学生の本分は勉学にあり。
そんな事、昔はどうでもいいと思っていたが、受験生ともなると話しは別だ。

受験によって、人の運命は決まる。

これは気に入らない父の言葉だが、少しは共感できる。
どれだけ良い人生のレールに乗れるか、受験がそのレールの分岐点。

もちろん、ブーンにもがんばって、私と同じ学校に行ってもらうつもりだ。
部活動中の今は大目に見てやるが、それが終わったら地獄の特訓を始める。

泣き言なんて一言も言わせない。

そして、将来は、ブーンと一緒に大学に通って、一緒に授業を受けて、それでそれで。



198 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:42:58.80 ID:EO7KUsBK0


ξ///)ξ「……キスなんかしたりして」

(;゚ー゚)「どうしたの、ツンちゃん?」

ξ///)ξ「え? な、何でも無いわよ!!」

(*^ー^)「もしかして、ブーン君の事考えてた?」

(*^ωξ///)ξ「あいつの事なんて考えてる訳無いでしょ!!」

( ,,゚Д゚(*゚ー゚)「またまた〜、顔が赤いぞ」

(*^ω^)「ブヒヒ、ツンそんなに照れるなお」

ξ;゚听)ξ「うわっ、キモッ!!」

(;゚ー゚)「きゃぁっ、もう、いるならいるって言ってよ」

(;,,゚Д゚)「す、すまねえ」

( 'ω`)「………キモいかお」


200 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:46:26.74 ID:EO7KUsBK0


いつの間にか、雑談していた私達の後ろに、ブーン達が立っていた。
教室で着替えてきたのであろう彼等は、野球部のユニフォームを着ている。

(*゚ー゚)「あれ? 今日からはもう部活があるの?」

( ,,゚Д゚)「ああ、だから今日はお前らと一緒には帰れねえぞ」

(*゚−゚)「え〜、そうなの……」

( ,,゚Д゚)「ああ、すまねぇな」

ξ゚听)ξ「まあ、しょうがないじゃない。その内また一緒に帰れるようになるわよ。
      それより、ブーン」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「朝の急用って何だったのよ? あんなに血相を変えてたから気になったじゃない」

(*^ω^)「もしかして、ブーンの事を心配していてくれたのかお?」

ξ゚听)ξ「んな事はどうだっていいんだよ。さっさと質問に答えなさい」

( 'ω`)「……バットだお」


204 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:52:07.42 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「バット?」

( 'ω`)「……バットを家に忘れてたのを思い出したんだお」

ξ゚听)ξ「はぁ? 何よそれ、馬鹿らしい。心配して損したわ」

(*^ω^)「やっぱり、心配してくれてたのかお。ツン、大好きだお〜」

ξ;゚听)ξ「うわっ、ちょっと、抱き付くな!!」

落ち込んでいた顔が一変し、満面の笑顔になったブーンは私にルパンダイブをかましてきた。
そのままブーンの顔が、あまり豊かでは無い私の胸に飛び込んでくる。

ξ///)ξ「んっ、ちょっとぉ、放しなさい、よぉ、コラぁ……ぁッ」

そのまま私の胸に顔をうずめたブーンは、顔を左右の動かして、頬を擦りつけてきた。
一番敏感な先端に、頬が当たるたびに、体が勝手に痙攣する。

ξ///)ξ「ひゃっ、ああ……、も、やめ」

私の反応を楽しむかのように、ブーンが笑顔で見つめてきた。
そして、制服のボタンに手を伸ばし、


206 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:54:27.50 ID:EO7KUsBK0


(,,゚Д゚)「………」

(*゚−゚)「ほら、ブーン君と作者が暴走してるよ。止めないと」

(;,,゚Д゚)「ゴ、ゴルァ」

そう呟いたギコはブーンの首根っこを掴みそのまま持ち上げた。

( ^ω^)「おろ?」

( ,,゚Д゚)「ほら、部活に遅れるから行くぞ」

首根っこを掴まれたままの体勢で、ブーンが教室から強制連行されていく。
その姿を見ながら私は甘い息を吐いた。

ξ///)ξ「……もう、ブーンったら」

(*゚ー゚)「満更でも無いくせに〜」

ξ///)ξ「うるさい、帰るわよ!!」

そう怒鳴りつけ、しぃを黙らせてから教室を後にする。

考えてみるとこれが、まともな私がブーンと最後に話せた時間だったのかもしれない。



208 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:58:19.76 ID:EO7KUsBK0


▼・ェ・▼「ワンワン!!」

ξ゚ー゚)ξ「はいはい。ただいま、ペス」

家に着いた私はまず犬小屋に向かい、ペスにただいまの挨拶をした。

いつも、私が帰って来ると、尻尾を振って出迎えてくれる我が家の愛犬ペス。
その姿を見るだけ、私の一日の疲れが洗い流される。

ξ゚ー゚)ξ「じゃあ、行くね」

▼・ェ・▼「ワンッ!!」

ひとしきりペスとじゃれあってから、私は玄関のドアを開ける。
すると、玄関に普段見慣れない男の革靴が、奇麗に並べて置いてあるのに気づいた。

父が帰って来ているのだ、その事実に体が強張る。

ξ゚听)ξ「……ただいま」

J( 'ー`)し「あらツンちゃん、おかえり。お父さん帰ってるわよ」

ξ゚听)ξ「へえ、そう……」

今日、帰って来るとは聞いていたが、まさかこんな早くに来るとは予想していなかった。


210 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:02:36.67 ID:EO7KUsBK0


しぃと寄り道などせずに、無理を言ってでも早く帰るべきだったと、
内心後悔しながらもリビングに向かうと、椅子に座り新聞を広げている父がいた。

真後ろに位置する私からでは、父の顔を確認する事は出来ない。

ξ゚听)ξ「ただいま」

その後ろ姿に一言だけ残し、リビングを後にしようとする。

「勉強は順調に進んでいるのか?」

しかし、そんな父の言葉が、私の足を止めた。

ξ゚听)ξ(こいつはいつもそう)

小さい頃から勉強勉強、私を見る度に勉強としか言わない。

私だって勉強が大事だという事は分かっている。
けれど、子供にそれしか言えないこいつは気にくわない。

仕事で忙しいなどと言って、学校行事には参加した事も無いくせに、
こういう所だけ親の面をするこいつには、本当に反吐が出る。

ξ )ξ(私は勉強さえしてれば良いって言うの?)

けど、口答えはしない。
そんな事をしても、無駄に終わるだけだ。



212 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:06:42.97 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ええ、進んでいますよ。今からその大事な大事な御勉強をしなければならないので、
      もう部屋に行ってもよろしいかしら?」

「そうか、それならいい」

口答えはしないが、最大限の皮肉をこめた口調で返事をする。
しかし、帰って来たのはその言葉だけ。顔は目の前の新聞に向いたままだ。

私に対して、微塵の興味すら無いかのようなその態度に、苛立ちを抱きつつリビングを後にする。
そのまま二階に向かう途中で、台所の母に声をかけた。

ξ゚听)ξ「ああ、そうそう。今日も晩ご飯いらないから」

J(;'ー`)し「ええ〜!? お母さんの料理が食べられないって言うの?」

ξ;゚听)ξ「違うって。さっき、しぃと一緒にいろエロ食べてきたんだよ」

半分は本当で、半分は嘘。
しぃと買い食いをしてきたのは本当だが、本心は父と食卓を共にするのが嫌だっただけだ。

ξ゚听)ξ「だから、お腹いっぱいでさ」

J( 'ー`)し「ふ〜ん、それなら仕方が無いね。
      せっかく、お父さんが帰って来たから、豪勢な料理にしたのに……」


214 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:09:46.25 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「……あのさ、前から聞こうと思ってたんだけど」

J( 'ー`)し「ん〜、なに?」

ξ゚听)ξ「どうして、あんな人と結婚したの?」

J( 'ー`)し「どうしてって……好きだからに決まってるでしょ?」

それ以外に何か理由があるのかとでも言いたげに母は首を傾げた。
どうやら、聞いた所で無駄だったようだ。

ξ゚听)ξ「まっいいか。じゃあ、私は勉強するから邪魔しないでね」

J( 'ー`)し「わかってますよ、邪魔なんてしません」

ξ^ー^)ξ「よろしい」

そのまま台所を後にして、自室へと向かう為に階段を上る。
母にはすまないと思っているが、正直、勉強する気は微塵も無かった。

今日はいろいろな事がありすぎて、精神的に疲れていたのだろう。
部屋に入ると同時に、私はベットに倒れ込んだ。



216 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:12:05.45 ID:EO7KUsBK0


ブシャ、グチュッグチャッグチャッグチャッグジョグチュッグチャッグチャッグチャッグジョ

な、なんの音?

眠っている筈の私の脳内に、耳障りな音が響く。
顔には粘り気のある液体が、右手には何かを握りしめる感触が感じられた。

顔にへばりつく液体の量は、腕を振り下ろす毎に増し、
手にした何かを突き刺す感触を感じては、ワタシの頬が自然と吊り上がる。

ξ )ξ「もう、足ってなかなか取れないな〜」

何を言ってるの?

自然と喉が震え、勝手に舌が動き、唇が言葉を紡ぐ。
私の眼前には夢の中の男が倒れ、それを見てやっと耳障りな音の正体に気付いた。
男の傍には先程切り離された、左腕が無造作に転がっている。

メシィ、グャギ!!

そして、たったいま骨を圧し折る様にして、左脚も分離された。




217 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:14:12.62 ID:EO7KUsBK0


ξ ー )ξ「うふふふふふ、ふひっ」

何よこれ!? いや、止めてよ!!

その異様で醜く、異常で美しい光景を見て、ワタシは含み笑いを始めた。
そのまま私の意志とは関係無く、次のパーツに刃物を突き立てる。

ブジャッブギャッグジョッメジャッベキイィッッジョッグジョッズチャッグチャッグジャッグビキッ

ξ ∀ )ξ「うふふふふふひゃはアあはアハははハッはハははははっはははハッ」

やめて、やめてええええええええええええええええ

右脚と右腕が終了し、一段と奇声が強まる。
これで目の前にあるのはもう人では無い、ただの肉塊と化した真っ赤な達磨だ。

ξ )ξ「ちょっとぉ、もう切り落とせる場所が無いじゃない」

いやぁ、誰か助けて……

ξ )ξ「もう、つまんないなぁ」



219 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:16:15.52 ID:EO7KUsBK0

ワタシは少し怒った表情をしていた。

でも、何故怒っているのか全く理解できない。
そもそもこんな惨劇を理解する事なんて、私には出来ない。

ξ ー )ξ「もういいや、あなたはもういらない。……死ねッ!!」

一際高く持ち上げ、振り下ろされた真紅のナイフが、首筋に食い込むと同時に空中に血が噴き出した。
ちょうど、頸動脈にナイフが喰い込んだのだろう。飛び散る血はまるで、噴水の様。

ξ ー )ξ「奇麗ね……」

うぅおぇ

その惨状と発言に、私は心の中で嘔吐した。
倒れた男の体はピクリとも動かない、もう、死んでいるのだろう。

ワタシの顔は血だらけで、体にも空気に触れて凝血した血がこびり付いている。
けれど、ナイフに付いた赤色は未だ潤いを保ち、地の上に滴り落ちていた。

それを一滴一滴、舌で舐め採っていく。


222 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:18:32.01 ID:EO7KUsBK0

ξ )ξ「……はああ」

助けてぇ、ブーン

「うぐっ」

脳髄を刺激するその味に、甘美の溜息を吐いた時、後ろから男の声が聞こえた。
その音に反応し、首だけを動かしてワタシは後ろを確認する。

(;゚ω゚)「……っ!!」

ど、どうして?

驚愕と恐怖に顔を染めたブーンがそこにはいた。

その姿を認識したワタシの顔は、心の中の疑問を他所に、頬の端をいっそう歪めていく。
最愛の彼を、次の獲物を見つけて喜んでいるのだろう。

( ゚ω゚)「う、うああああああああああああああああああああああああああああああ」

汚れたワタシの笑顔を見たブーンは、悲鳴と共に駈け出していった。
そんな彼の姿を見て、立ち上がる。愛すべき彼の背中を追いかけなければならない。

ξ ー )ξ「逃がさないわよ。アナタもワタシが殺してあげるんだから」


225 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:20:37.11 ID:EO7KUsBK0


ξ;゚听)ξ「っ!!」

これで三日連続で、同じ目覚め方をした事になる。
辺りはまだ闇に包まれ、時刻は午前二時頃だろうか、暗くて時計がよく見えない。

ξ;゚听)ξ「な、何なのよいったい」

先程の夢のせいで息も荒い。
私は眠りについていたベッドの上で、夢の内容を思い出していた。

ξ゚听)ξ「わ、私が殺したって言うの?」

考えてみたら理に叶っている話だ。
あの状況から生きて帰るには、相手を殺してしまうのが一番手っ取り早い。

そんな最悪の考えが頭に思い浮かんだ時、ベッドに何かが突き刺さっているのに気付いた。
暗い部屋の中でも赤黒く光るそれは、まるで、異界から舞い降りた一つの芸術作品。

ξ;゚听)ξ「……な、なんで?」

何故、夢の中のナイフが、昨日まで私の部屋に無かったナイフが、此処にあるんだ。



227 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:22:36.56 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ふざけないでよ!!」

怒りと恐怖が入り混じった感情に任せて、手で柄を叩き、そのナイフを払い飛ばそうとする。
しかし、手が触れた瞬間、自分の体を覚えのある感覚が支配した。

ξ )ξ「うぁぁ…ああ……ぁ」

何かが私の中に入って来る。私の中を侵食していく。
気付いたら、払おうとした手でそのままナイフを掴み、ベットから引き抜いていた。

……殺したい……

ξ )ξ「ぃ、いやぁ、あ、ああ」

……血が見たい、いや、浴びさせて……

ξ )ξ「やだぁ、やめてぇ……」

……殺しましょう、殺そう、殺せ、殺すんだ、殺す、殺せばいい、殺すだけ……

ξ )ξ「いやだ、人殺しなんて!!」

……人殺しは駄目なの? 人殺しは嫌なの? じゃあ、人じゃなければいいの?……

ああ、そうか、

ξ ー )ξ「ヒトじゃ無ければいいんだ」



229 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:24:19.05 ID:EO7KUsBK0






                ワタシと一緒に遊びましょう






231 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:26:05.58 ID:EO7KUsBK0


ξぅ听)ξ「う〜ん」

目覚めと同時に背伸びをして、時刻を確認する。
時刻は7時30分。ブーンとの朝の約束の時間まではまだまだ時間がある。

ξ゚听)ξ「あれ、いつのまにパジャマに着替えたんだっけ?」

確か、昨日は制服のままベッドに倒れ込むように眠ってしまった筈だ。
パジャマに着替えてあるという事は、風呂に入ったという事だろうか。
何かを忘れている様な気がして、一度頭を捻ってみるが思い出せない。

ξ゚ー゚)ξ「ま、いいか」

どうせ、寝惚けたまま風呂に入ったんだろう。
そんな事は今の私にはどうでもいい事だった。

今日は何故か調子が良い。

昨日までとは大違いだ。
受験の事も、父の事も、ブーンの事も、そして、あの夢の事も、今ではどうでも良くなってしまっている。


233 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:27:50.25 ID:EO7KUsBK0


私はベットから跳ね起き、制服に着替え、そして、鞄を持って一階に下りていく。
台所では父と母がテレビを見ながら、朝御飯を食べていた。

ξ゚ー゚)ξ「お父さん、お母さん、おはよ〜う」

J( 'ー`)し「あら、ツンちゃん。おはよう」

「……おはよう」

相変わらず父はそっけない態度だけど、全然苦に感じない。
何故、こんなにいい気分なのか、それが未だに分からなかった。

ξ^ー^)ξ「いただきま〜す」

私は自分の椅子に座り、御飯を食べ始める。
そんな、私の様子を見て母が微笑んだ。


235 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:29:36.63 ID:EO7KUsBK0


J( 'ー`)し「今日も朝早いのね。何か、あったの?」

ξ゚ー゚)ξ「うん、何だか今日は調子がいいの」

J( 'ー`)し「そう、良かったじゃない」

ξ^ー^)ξ「今なら何でも出来そうな気がするよ」

J( 'ー`)し「ふふふ、本当に調子良さそうね。最近、元気が無かったから心配してたのよ」

ξ゚听)ξ「そうなの? 心配しているようには思えなかったけど……」

J( 'ー`)し「もう、お母さんだって馬鹿じゃ無いんだから、心配ぐらいします」

「ゴホッゴホ……」

J(;'ー`)し「ちょっと、お父さん。何で咳きこんでいるのよ!!」

「いや、何でも無い。気にするな」

J( ;ー;)し「ううぅ、皆が虐める〜」

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと、急に泣き出さないでよ」



237 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:31:42.16 ID:EO7KUsBK0


久しぶりの家族揃っての団欒。

父はいつもの様に無口だけど、それはそれでさほど気にはならない。
これが普通の幸せな家庭って言うのだろうか。

家族全員が揃うだけで気持ちがこんなに変わるなんて思ってもいなかった。
今日のような日が、ずっと続けば良いと心からそう思える。

ξ゚听)ξ「ごちそうさま」

けど、そんな幸せな時間は長くは続かない。そろそろ、行かないとブーンが来てしまう。
後から食べ始めた私が一番に食べ終わり、席を立った。

ξ゚ー゚)ξ「じゃあ、もう行くね。ブーンを待たせたくないし」

J( 'ー`)し「は〜い。行ってらっしゃ〜い」

「……お前も受験生なんだ、異性と交際するのは自由だがちゃんと勉強も」

ξ゚ー゚)ξ「わかってるわよ。ちゃんと、勉強もしてます」

「そうか、それならいい。気をつけて行って来い」

ξ゚ー゚)ξ「うん。じゃあ、行ってきま〜す」

そう言って、台所を後にし、玄関から外に出た。
気のせいだろうか、一瞬だけ父が微笑んでいたような気がした。



238 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:33:57.80 ID:EO7KUsBK0


私の前にはいつもの庭、空には雲一つ無く太陽だけがさんさんと輝いている。
こう天気がいいと、気分が晴れ晴れとしてくるものだ。

どうやら、ブーンはまだ来ていないらしい。
ブーンが来るまでの暇潰しにと、ペスの小屋に声をかける。

ξ゚ー゚)ξ「ペス〜」

しかし、ペスからの返事は無かった。
いつもなら呼べば、尻尾を振って駆け寄って来てくれるのに、何故か来ない。

もう一度呼びかけても返事が無かったので、しぶしぶ小屋に近づいて覗き込んでみる。

ξ゚ー゚)ξ「おはよう、ペ……」

▼・ェ・▼「………」

小屋の中で、ペスは嬉しそうに舌を出して笑っていた。
しかし、小屋の中にあるモノは、その笑顔しか特定する事が出来なかったけど。

他の部位は肉片となり、切り刻まれ、中身をばら撒かれ、小屋の中に飛び散り、壁にへばりついている。
内壁は赤の色で塗り潰され、その中央に、顔が、生首が置いてあった。


242 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:47:11.80 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「……ス、は?」

ペスだったモノは本当に嬉しそうな顔をしていた。
まるで、大好きな御主人様と遊んでいる最中に殺されたかのように。

ξ )ξ「……は、ははは、はは」

現状を理解できない。いや、理解してたんだ、ただ頭がそれを受け入れなかっただけ。
朝起きた時からこの惨状を、そして、これをやったのが私だという事を理解していた。

ξ;凵G)ξ「いや、いやあああああああああああああああああああああああああああああ」

絶叫の声を上げると共に、
現実から目を背けたかった私の意識は、自然とこの世から遠のいていった。



243 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:48:52.99 ID:EO7KUsBK0


……ねえ、楽しかった?……

ξ )ξ「私は……」

目覚めたら、自分のベットの上に制服のまま寝かされていた。
きっと、お父さんとお母さんがここまで運んでくれたのだろう。

ξ )ξ「そうかあのまま気絶して」

時刻は午後四時半、結構な間、眠っていたみたいだ。
短縮日課となっている今の学校ならもう授業は終わっている頃だろう。

……覚えてる? ワタシが手を差し伸べたら、嬉しそうに寄って来たよね……

ξ )ξ「ブーンはもう、部活も終わって家にいる頃ね……」

……それをさ、首めがけてザシュって、気持ち良かったなぁ……

ξ )ξ「……うるさい」



247 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:02:31.34 ID:EO7KUsBK0


……それでさ、その後にどんどん解体していくの
   ナイフを突き入れるたびにドバドバ〜って血が出て来るんだよ?
   それが、嬉しくて楽しくて、もうやめられなくなっちゃうよね
   でも、犬じゃあダメだな〜、なんか、物足りないんだよね、やっぱり、人間じゃないと……

ξ )ξ「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい」

……何がうるさいのよ?……

ξ )ξ「あんたよ、あんたさえいなければペスは!!」

……何言ってるのよ、ワタシはあなたよ……

ξ )ξ「どういう意味よ?」

……こうやってあなたと喋っているのも、あの犬を殺したのも……

ξ )ξ「違う!!」

……人間を殺したがっているのも、あなたよ……

ξ )ξ「こ、殺したくなんか!!」

……じゃあ、鞄に手を入れてみて……

ξ )ξ「は?」



248 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:04:35.32 ID:EO7KUsBK0


言われた通り、そばに置いてあった学校指定の鞄に手を入れてみた。
右手に違和感を感じ、それを取り出して目の前にかざしてみる。

昨日の夜よりも更に赤みを増したナイフが、私の手に握られていた。
何故、朝は気付かなかったのだろう。元凶がすぐそばにあったのに。

……こんにちは……

そして、このナイフにまた触れてしまった事を後悔した。
あの感覚が、あの地獄の様に奇麗で、甘美な感覚が鮮明に蘇る。

ξ )ξ「いやあ、うぁ、……ああ」

……さあ、始めましょう……

ξ )ξ「いやぁ、だぁ……」

J( 'ー`)し「ツンちゃ〜ん、起きたの〜?」

その時、母の声がドアの向こう、階段の方から聞こえてきた。

……ほおら、獲物が来たよ……

ξ 听)ξ「ふざけないでよ、絶対にさせない!!」



250 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:09:11.97 ID:EO7KUsBK0


今、母の顔を見たら自分を抑えられなくなる、あのナイフに飲み込まれる。
そう直感した私は、右手に握られたナイフを投げ捨て、ドアに駆け寄り、ノブを掴んでおさえた。

ドアの向こうには階段を登り終えて、ドアの前に佇む母の気配を感じる。

ξ゚听)ξ「お母さん、来ちゃ駄目!!」

そう叫んだ時、私の手に、母がノブを回そうとする力と、ドアを叩く震動が感じられた。

J(;'ー`)し「どうしたの!? ツンちゃん、開けて」

……本当にどうしたのよ? こんな無駄な事をして……

ξ#゚听)ξ「うるさい、黙れ!!」

J(;'ー`)し「ツ、ツンちゃん!? ほ、本当にどうしたの、早く開けて!!」

……ほら、開けてあげなさいよ。大好きなお母さんが頼んでいるのよ?……

ξ;゚听)ξ「お母さん今は駄目なの、来ないで!!」

J(;'ー`)し「お父さん、ツンちゃんが変なの。ちょっと、来てぇっ!!」

ξ;゚听)ξ「お、お父さん?」


252 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:12:11.95 ID:EO7KUsBK0


何でまだ家にいるんだ。何故、会社に行っていない。
今まで私の事なんか、なんとも思っていなかったのに、私が倒れたから心配してとでも言うのか。

……あら好都合じゃ無い。これで手間が省けるわね……

違う。

父は本当に忙しくて、家族の為に一生懸命働いていて、
だから私達と触れ合う機会が少なかっただけなのに、 冷たい奴だと勘違いして、
家族に興味が無いんだと勝手に決め付けて、私はそんな父から逃げていただけなんだ。

……さっきから何を言ってるのよ。大嫌いなお父さんを殺せるのよ?……

ξ;凵G)ξ「違う。お父さんはそんな人じゃ無い。最高の私のお父さんよ!!」

J(;'ー`)し「ツンちゃん?」

ξ;凵G)ξ「お父さん、今まで冷たくしてゴメンなさい。
       私達のために働いて疲れているのに、冷たくして、……ごめんなさい」



255 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:14:36.99 ID:EO7KUsBK0

「ツン……」

まぎれもない父の声だ。もう、ドアの前まで来ているのだろう。
本当に私の事が心配で、家にいてくれたんだ。

「いいから、落ち着いて。まず、このドアを開けるんだ」

ξ;凵G)ξ「ダメ、入ってきちゃダメなの!!」

「いいから開けなさい!!」

お父さんは本当に私の事を心配してくれている。
向こう側から容赦無くドアをこじ開けようとする父の力から、それが分かる。

父は不器用だから、こうする事しか思いつかないんだ、
それでも自分の信じた方法を、娘の為にと思い一所懸命に行動している。


258 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:17:55.16 ID:EO7KUsBK0


ξ;凵G)ξ「きゃっ!!」

駄目だ。私だけの力では、成人男性の力には勝てない。
ドアごと突き飛ばされ、私の体はベッドの近くに倒れ込んだ。

ξ;凵G)ξ「来ないで……」

心底から接近を拒み、手には落ちていたナイフを握りしめ、ワタシはさらに涙する。
もうこの衝動を、止められないって事を悟ったから。

ξ )ξ「だから、入ってくるなって言ったのに」

開いたドアの向こうには、大好きだったお母さんと、素直に接する事が出来なかったお父さん。
いや、違う。今では単なる狩られるだけの、愛すべき獲物。

涙を流しながらも唇は歪み、そして、笑う。


……さあ、一緒に楽しみましょう……




261 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:19:44.68 ID:EO7KUsBK0


トゥルルルルルルルル・・・・

トゥルルルルルルルル・・・・

トゥルルルルルルルル・・・・

トゥルルルルルルルル・・・・
ピッ

『はい、こちら内藤だお』

「あ、ブーン? ワタシよ」

『お? こんな時間にどうしたんだお?』

……こんな時間?……

外を見ると夕日も沈み、辺りを照らしているのは街灯の灯りだけで、少し薄暗かった。

……ああ、もう夜なんだ。作業に夢中になってて気付かなかった……



265 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:23:09.00 ID:EO7KUsBK0


「あのね、ブーン」

『お、何だお?』

「ワタシ、ブーンとの事で思い出した事があるの」

『思い出した事?』

「それでね、8時にワタシの家に来てくれない?」

『8時にかお?』

「そう、大事な大事な話しがあるの」

『でも、そんな時間に何を……』

「待ってるから。ずっとブーンの事、待ってるから」

『ちょ、ツ

そうとだけ伝えて、ワタシは会話の途中で電話の電源ボタンを押した。
これで優しいブーンは来てくれる、絶対にワタシの家に来てくれる。



267 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:26:26.31 ID:EO7KUsBK0


こんなに、気分が良いのはいつぶりだろうか、いや、これ程の高揚感は初めて感じるモノかもしれない。
なんで今まで人を殺してみようと思わなかったんだ。今までの人生が本当に無駄に感じられた。
いつまでも、いつまでも、この感覚を感じていたい、達していたい、笑っていたい。
でも、その為にはもっともっと赤い色でここを染めつくし、ワタシがすごしやすい環境にしないと。

携帯を机の上に置いてから、周りを見渡してみた。

ξ ー )ξ「ふふふふ」

ああ、笑いが止まらない。

ξ ∀ )ξ「ふひゃあひひっひはははははははははははははははははははははははははっは」

窓からは満点の星空と、綺麗な円を描いた月が見える。
月は青白く、赤黒い今の私とはいい相性だ。

白と黒、赤と青。
その狭間で、永遠とも言える時間を私は笑い続けた。

……さあて、ブーンって人が来る前にもう一仕事、頑張らないと……



268 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:28:57.84 ID:EO7KUsBK0


夜の我が家には、血と肉と汚物の匂いが混ざり合った異臭が漂っていた。

その中で、一度外出して、また家に帰って来たワタシは、
母の首が置かれた机の前の椅子に座り、ブーンを待ち続けている。

血に汚れた自分自身をあまり見たくなかったから、室内の電気は消したままにしておいた。

ξ ー )ξ「………フフ」

……ああ、早く来てぇ……

待つ間、特にやる事も無いワタシは、手にしたナイフでただただ自分の体に傷をつける。
そして、傷口から滲み出る血を舐め採る事で、一時的に心と体を満たそうとした。

けれど、全然満たされない。この程度で足りる筈が無い。
先程以上の快楽を得る為には、もっと、もっともっともっともっと、血と、肉と、心が必要だ。

「おじゃましますお」

そのまま待ち続けていると、開けっ放しだった玄関のドアから、ブーンの声が聞こえてきた。
幻聴では無い。振り返ったワタシの視線の先には、ドアから差し込む月の光で照らされたブーンの姿が見てとれる。

本当に、本当に来てくれた優しいブーン。



269 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:31:57.26 ID:EO7KUsBK0


ξ ー )ξ「ブーン、来てくれたんだ」

( ^ω^)「当然だお。ツンの命令は絶対だお」

ξ ー )ξ「ふふふ」

椅子に座って微笑んでいる私の姿を確認して、ブーンは立ち止まった。
どうやら、私の前に置いてある母の生首には、暗くて気付いてないみたいだ。

ふふ、本当に鈍感なんだから。

でも、そんなブーンの声を聞くだけで、そんなブーンを見つめているだけで、感情が高ぶっていくのが分かる。

ああ、まずは指を切り落として、彼の悲鳴が聞きたい。
それから、痛みと恐怖で逃げる彼の両足を刺して、逃げられないようにして、それから、それから。

( ^ω^)「でも、ツン」

沈黙を嫌ってか、ブーンが口を開いた。

ξ ー )ξ「なに?」

(;^ω^)「こんな時間に呼び出さないで欲しいお。
      あの事件の所為で警察がうろついてて、ここまでバレずに来るの大変だったんだお」



270 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:33:50.31 ID:EO7KUsBK0


ξ )ξ「………」

……何を言ってるの、こいつ……

( ^ω^)「今度から昼間にしてくれお。何でも相談にのるお」

ξ )ξ「……馬鹿じゃないの? 分かってるんでしょ、ワタシが」

( ^ω^)「ああ、知ってるお」

ξ )ξ「だったら」

( ^ω^)「それでもツンを守ると約束したんだお」

ξ ー )ξ「ぷっ、あはははははははは」

……ああ、こいつは本当の馬鹿なんだ……



271 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:37:54.64 ID:EO7KUsBK0

ξ )ξ「良く言うわよ。昨日の朝、恐れをなして逃げたくせに。
      バットを取りに行ったっていうの、嘘なんでしょ?」

( ^ω^)「そうだお、あの時は怖くて逃げたお」

ξ ー )ξ「ほおら、やっぱり」

( ^ω^)「でも、もう逃げないお。ブーンはどんな事があろうとツンを守るって決めたんだお」

ξ )ξ「……へえ、本当に逃げないのね?」

椅子から立ち上がり、両手を後ろで隠しながらブーンの元に近づいていく。
近づくにつれてブーンの顔がはっきりと見えるようになっていった。

彼はワタシをいつも元気づけてくれた屈託の無い笑顔で、こんな時でもニコニコしている。

でも、ワタシは違う。

(;^ω^)「そ、その血は……」

ブーンと同じくワタシも月光に照らされて、姿がはっきりと見えるようになったのだろう。
彼はその時になってやっと、真っ赤に穢れたワタシの姿に気付いた。



276 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:09:03.04 ID:EO7KUsBK0


ξ )ξ「返り血よ」

(;^ω^)「返り血、かお?」

ξ )ξ「そう、私の両親のね」

(;^ω^)「こ、殺したのかお?」

ξ ∀ )ξ「これ、な〜んだ?」

そう言って、体の後ろに隠していた母の生首をおびえた表情のブーンの前に突き出した。
光の無い目をした母の生首の切断面から、凝固が始まりドロリとした液体が零れ床に落ちる。
いきなり見せつけられた彼は、その場で腰を抜かして倒れる。

(;゚ω゚)「うっ、うわぁ!!」

ξ ∀ )ξ「楽しかったわぁ、ああ、ペスも殺したんだけどね、やっぱり、犬とは大違いよ。
      まず、父親を滅多刺しにしてやったの。気持ちよかったぁ、あのウザい顔が苦痛に歪んでいって、
      最後にはまったく動かなくなるの。その間、お母さんは無言でワタシを見つめていたなぁ。
      きっと声も出ない程、驚いていたんでしょうね。それで、あいつが終わったら、今度はお母さん。
      ナイフを向けたらさ、あの人なんて言いながら逃げたと思う? ツンちゃん、もうやめて、だって。
      まったく、馬鹿よねぇ、止める訳無いじゃない。すぐに首を跳ね飛ばしてやったわよ。
      で、その後は、一番のお楽しみ解体ショーよ。まずは、部屋に戻ってあいつの醜い顔を何度も何度もなん」

(  ω )「も、もういいお!!」



277 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:10:40.77 ID:EO7KUsBK0


二人の遺体がある我が家に、ブーンの大声が響く。
ワタシから顔を逸らし、俯いた彼は辛く悲しそうな顔をしていた。

手にしていた生首をフローリングの床に置きながら、私は彼のそんな顔を見つめる。

ξ )ξ「ねえ、ブーン」

(  ω )「……なんだお」

ξ )ξ「こんなになったワタシでも、守ってくれるの? 逃げてもいいんだよ?」

……まあ、逃げても殺すけど……

( ゚ω゚)「守るお、一生だって守ってやるお!!」

問いかけに即答したブーンに、嬉しさの余りワタシは微笑みを作った。
ブーンの目から感じる炎のような意志には、揺らぎというものが感じられない。

ξ ー )ξ「本当にブーンは馬鹿ね。昔からそうだった」

(;^ω^)「だから、ツン頼むお、目を覚ましてくれ、もう、こんな事は止めてくれお!!」

……こんな楽しい事、止められる訳無いじゃない……



278 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:12:21.37 ID:EO7KUsBK0


ξ )ξ「……最後に聞きたい事があるんだけどさ」

(;^ω^)「な、何だお?」

ξ )ξ「ワタシがあの路地裏で人を殺している時、あなた見ていたわよね?」

( ^ω^)「……見てたお」

ξ )ξ「あの後、何があったの? どうしてワタシはこの数日間、記憶が無くなってたの?」

(;^ω^)「それは……」

ξ ー )ξ「まあ、そんな事はどうでもいいか。……あなたを殺す事に変わりは無いんだから!!」

(;゚ω゚)「おっ!?」

振るったナイフがブーンの右腕を削った。
癇に障るにやけ面を切り裂いてやろうと思ったのだが、
流石現役の野球部だ、後方に避けられて右腕を少し傷つけるだけに終わった。

ξ ∀ )ξ「あはははは、いい反射神経じゃない。楽しみがいがあるってもんだわ」

その傷からナイフに付着した血を舐める。
ワタシの血と、ブーンの血。二人の体液が混ざり合った味が口内に広がる。

おいしい。



281 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:14:51.86 ID:EO7KUsBK0


ξ ー )ξ「ねぇ、あなたのもっとちょうだい」

( ゚ω゚)「………」

ワタシの中にいる彼女のおかげか、体が軽い。
今まで眠っていた筋肉、神経、細胞に至るまでの全てが目を覚ました感じ。

ξ ー )ξ「今度はちゃんと斬られてよ?」

( ^ω^)「………わかったお」

ξ )ξ「は?」

( ^ω^)「さっきも言ったけど、僕にとってツンの命令は絶対なんだお」

ξ )ξ「はぁ? あなたって、正真正銘の馬鹿なの?」

( ^ω^)「ツン、これが最後のお願いだお。もう、こんな事は止めるんだお」

ξ )ξ「黙れ!!」

( ゚ω゚)「ぐっ」

振り落とされたナイフの切先は、ブーンの左腕に吸い込まれていった。
そのまま深々と刺し込まれたナイフを捻り、筋繊維をねじる。それだけで、ブーンの表情が歪んでいく。

(;゚ω゚)「ぐぅあ……ぁああああ!!」

……ああ、ゾクゾクスルゥ〜……


284 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:16:33.96 ID:EO7KUsBK0


けれど、ブーンは抵抗しようとはしなかった。
ただただ、左腕の激痛に耐え凌いでいる。

ξ )ξ「ねぇ、何で逃げないのよ。これじゃあ、つまらないじゃない」

(;゚ω゚)「……僕は、ぐぅ、もう逃げない」

ξ )ξ「じゃあ、じゃあ死んじゃいなさいよ!!」

捻じりながら引き抜いたナイフを、両手に持ち替えた。
狙いは腹だ。この馬鹿の内臓を引きずり出してやる。

その光景を頭の中で想像し、微笑みを増したワタシに声がかかる。

( ^ω^)「……ツン」

ξ ー )ξ「何よ、ここにきて命乞い?」

( ^ω^)「もう、泣くなお」

ξ )ξ「だ、誰が泣いてるっていうのよ!!」



286 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:18:18.66 ID:EO7KUsBK0


そうだワタシは笑っているんだ、子供のように無邪気で、悪魔のように残酷に。
でも、何でこんなに目頭が熱いんだろう。今のワタシでは到底わからなかった。

( ^ω^)「ごめんお、僕じゃツンを救えないみたいだお」

ξ )ξ「………」

( ^ω^)「でも、僕は逃げないお。殺すなら殺してくれて構わない」

ξ )ξ「……うるさい」

( ^ω^)「最後にこれだけは言わしてくれお」

ξ )ξ「うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるざあああああい」

( ^ω^)「好きだお、ツン」

ξ;凵G)ξ「黙れええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

それだけ言いきるとブーンは目を閉じて、幸せそうに笑う。
そんな優しい笑顔の彼にナイフを振り下ろし、ワタシは腹に突き刺した。



289 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:20:19.16 ID:EO7KUsBK0




             血が全てを染めていく。



                            赤く、紅く、染めていく。



             全てが紅に満たされ、



                            そして、終わっていく。



             全てが、全てが終わっていく。



                            そう私の、全てが――――



291 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:22:04.32 ID:EO7KUsBK0


(;^ω^)「ツ、ツン!!」

ああ、ブーンの声が間近から聞こえてくる。
どうやら、倒れ込んだ私を彼が横から抱きかかえているみたいだ。

愛しい彼が私の体を包み込んでくれている。
通りで温かいと思った。

(;^ω^)「ツン、しっかりするお!!」

ξ゚ー゚)ξ「あんたみたいな馬鹿を、殺せる訳が無いじゃない」

(;^ω^)「い、今、救急車を!!」

ξ゚ー゚)ξ「いいの、どうせ無駄よ。もう体に力が入らないの。
      それより、もう少しこのままでいさせて」

そうだ、私は自分の腹をナイフで突き刺したのだ。
重く感じる腹部からは、血がとめどなく流れ出している。

真っ赤に染まった私は最後の力を振り絞ってブーンに抱きついた。
すると、ブーンも私の為に強く抱き返してくれる。

ごめんね、ブーンの服を私の血で汚しちゃって。



294 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:23:47.34 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ごめんね、ブーン」

( ;ω;)「………」

ξ゚听)ξ「左腕、痛かったでしょ?」

( ;ω;)「すっげぇ、痛かったお」

ξ゚ー゚)ξ「もう、こういう時は嘘でも全然大丈夫だって言うものよ」

私は笑った。先程とは違う、本当の私の笑顔で。
ブーンも笑ってくれた、少しぎこちなくて、目には涙を溜めてたけど。

その雫がブーンの頬を伝い、私の顔に滴り落ちた。
その滴は私の涙と混ざり合い、頬の上を滑り落ちていく。

あれ、いつの間にか私も泣いていたみたいだ。

ξ;凵G)ξ「私、お父さんやお母さん、それにペスも殺しちゃった」

( ;ω;)「………お」

ξ;凵G)ξ「私が殺しちゃったんだ。みんな大好きだったのに」

涙が止まらない。



296 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:25:34.35 ID:EO7KUsBK0


ξ;凵G)ξ「わ、私が、私がぁ……」

( ;ω;)「もういいお、泣かないでくれお」

ブーンは私の涙を拭いながらそう言ってくれる。
私もそんなブーンの目から流れる滴を拭ってあげた。

だって、私もブーンに泣いて欲しくなんか無い。
ブーンには、いつも私をやさしく包んでくれる、あの笑顔でずっといて欲しい。

( ^ω^)「ツン、君は絶対に死なせないお」

ξ;凵G)ξ「ブーン……」



297 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:27:22.94 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「僕が絶対に君を守るんだお」

そう言いきる彼の瞳には一点の曇りも無い。
本気で彼は私を救うつもりのようだ。

私に向けて力強く、そして、優しく微笑みかけてくれたブーンがナイフに手をかけて傷口を見てくれる。
そんな彼の姿を最後に、私は静かに目を閉じた。

お腹かからはくすぐったい感覚がある。
きっと、ブーンがナイフをゆっくりと引き抜いてくれているのだろう。

私も、ブーンと一緒に生きていたい。
ブーンと一緒に、死んでしまった人達の分も生きていたい。

私はくすぐったさを感じながら、心から強くそう願っていた。

……この体ではもう駄目ね……



298 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:29:10.94 ID:EO7KUsBK0


(  ω )「これでお相子だお」

ξ゚听)ξ「え?」

痛い、急に左腕から痛みの波が押し寄せてきた。
しかし、その痛みもすぐに消える。いや、左腕の感覚そのものが消えていた。

( ゚ω゚)「そういえば、この右腕も切られてたっけお」

今度は右腕に痛みが。
だが、その痛みも左腕同様に、右腕の感覚そのものと同時に消えた。

ξ )ξ「ぃあ、あえ?」

( ゚ω゚)「ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

ブーンの本当に楽しそうな笑い声が、私の耳に響く。
そのままナイフを振り上げたブーンは笑顔で告げた。


299 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:30:51.91 ID:EO7KUsBK0


( ゚ω゚)「愛してるお、ツン」

ξ )ξ「………」

きっとそれは本心なのだろう。人格が変わってしまっても、愛する心は変わらない。
私がそうだったように、どうやって愛情を示すかその表現方法が変わるだけ。

一拍の間を置いて、死が振り下ろされる。

ξ ー )ξ「わ、わた、しぃも、あい、してぇ……」

最後の最後に、今まで伝える事の出来なかった感情を、やっと伝える事が出来た。
そして、喉から赤い液体が噴き出すと共に発したその言葉が、私の最後の言葉になった。

( ゚ω゚)「ぁぁあああああああはははああああああはあああああああはあああはははあああああ」

満天の星空の夜、愛する人の死を持って生まれた悪魔の操り人形の笑い声が響く。
その声には、純粋な喜びと、純粋な悲しみが含まれていた。



           さあ、次の操り人形さん。あなたは誰を殺したい?


2 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:03:34.93 ID:EO7KUsBK0

人間がこんなに美味かったなんて知らなかった。

噛む度にボクの顎を刺激する、筋繊維の弾力。
飲む度にボクの喉を潤し覆う、赤血球の流れ。

鼻孔に流れ込む彼女の体臭は、ボクの唾液腺を刺激し、
舌の上で彼女とボクを、溶け合わせる。

何よりも嬉しいのは、支えであった彼女と一つになれた事だ。

胃袋の中に重量感として彼女の存在を感じる。
どんどんと彼女そのモノをを摂り込んでいく。

これで永遠に一緒にいられるんだ、ボクと彼女は二度と離れる事は無い。
僕が死んでも、混ざり合った細胞は灰となって広大な青空を舞える。

でも、なんで彼女は一人で死んでしまったのだろう。
なんでボクだけを、この世界に置いていってしまったのだろう。

そう疑問に思った僕は、愛の塊を咀嚼しながら、今までの数日間を少し思い返してみた――――



3 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:05:16.79 ID:EO7KUsBK0

3、「Reaction」

(;^ω^)「お〜、トイレトイレ」

今、トイレを求めて全力疾走している僕は、学校に通うごく一般的な男の子。
強いて違うところをあげるとすれば、ダイバスターが大好きってとこかナ――――名前は、内藤ホライゾン。

そんなわけで、ギコと別れた試合帰りの僕は、家へと向かって全力疾走しているのだ。

(;^ω^)「ぃぃ、ぃっこぉ、ぉちっこ、でちゃぅぅ」

尿意というものは我慢すれば我慢するほど、高まるものである。
このままでは僕の膀胱が破裂してしまう。

よし、あきらめよう。

自分の忍耐力の無さに嫌気がするが、膀胱破裂よりはマシである。
そして、人目の無い脇道に入った僕は、ズボンのチャックをはずし始めたのだ。


5 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:07:00.46 ID:EO7KUsBK0

ふと、小便をしながら前を見ると、遠くに一人の若い女性が歩いていた。

( ^ω^)「ウホッ! 愛しのツン…」

しきりと足元を確認しながら歩くツンの姿は、そのまま横道に入って行き、見えなくなってしまった。
すぐに追いかけようとしたが、溜めに溜めたロックバスターがなかなか止まらない。

放水が完全に終わった頃には、ツンを見かけてから一分ほど経過していた。
それでも、ツンの事が気になった僕は後を追いかけてみる事にする。

( ^ω^)「……確かこの道だお」

チャックも閉めずに駆け出し、ツンが入っていった横道の前で足を止める。

「いやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

そんな僕の耳に、僕の前に続く道の向こうから女性の悲鳴が聞こえてきた。
聞き間違える筈も無い、毎日のように聞いてきたツンの声だ。

( ゚ω゚)「ツンッ!!」

そう認識した僕の足は、たった今叫び声をあげたツンの元へと、独りでに動きだしていた。


6 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:08:59.09 ID:EO7KUsBK0

( ゚ω゚)「くそっ、どこだおツン!!」

声のした方に行ってもツンの姿は無かった。
そこに在ったのは、ここいらでも有名なホームレスである荒巻さんの無残な死体だけだ。

それだけでも重大な事だが、今の錯乱している僕にはどうでも良かった。
どうせさっきのは死体なんだ、警察に通報するなんて、もう少し経ってからでも遅くは無い。

とにかく、今はツンの事が気になる。

ただ死体を見て悲鳴を上げたという考えもあったが、
でも、それなら死体があった場所にいる筈だ。わざわざ逃げ出すなんて事はしない。

もしツンが犯行中の殺人鬼と遭遇して、今なお危険な目にあっているのだとしたら、そちらの方が僕には重要な事だった。

( ゚ω゚)「どこにいるんだお!!」

最悪の事態を想像して焦りの表情を浮かべる。




7 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:12:22.37 ID:EO7KUsBK0

でも、その心配は杞憂に過ぎなかった。

「もう、…ってな……か取れ……な…」

十字路を直進しようとした僕の右側から、ツンの声が微かに聞こえてきた。
しかし、何を言っているのか、良く聞きとる事ができない。

兎に角、ツンが生きてそこにいるのが分かった僕は、ホッと胸を撫で下ろし足をそちらに向けた。
そして、声がした所を覗き込んでみる。

ξ ー )ξ「うふふふふふ、ふひっ」

その時、僕が見たのは、まるでこの世とは思えない光景、言うなれば、地獄だった。

差し詰め、中央で笑うツンは悪魔だろうか。

いつもとは違う、狂気に歪んだツンの姿に、僕は声を出す事も出来ない。

ξ ∀ )ξ「うふふふふふひゃはアあはアハははハッはハははははっはははハッ」

目の前で、見知らぬ男を真っ赤な達磨に変えたツンは突然笑い出した。
けれど、何かに気付いたのかその笑顔も怒りの表情に変わる。



8 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:14:18.71 ID:EO7KUsBK0

ξ )ξ「ちょっとぉ、もう切り落とせる場所が無いじゃない」

狂ってる。

ξ )ξ「もう、つまんないなぁ」

そう呟くツンは子供の頃の彼女と瓜二つだ。
でも、違う。同じなのに違う。いや、本当は全然違うのかもしれない。

じゃあ、何故同じに見えるんだ。

ξ ー )ξ「もういいや、あなたはもういらない。……死ねッ!!」

振り下ろされたナイフが、倒れている男の首筋に食い込み、空中に血が舞い散った。
ナイフによって動脈が断たれたのだろう。吹き落ちる血はまるで、夕暮れ時の雪。

ξ ー )ξ「奇麗ね……」

ツンの顔は血塗られ、彼女の服も赤く汚れてしまっている。
もう死んでいるのだろうか、刺された男はピクリとも動かない。


11 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:16:42.00 ID:EO7KUsBK0

ξ )ξ「……はああ」

(;^ω^)「うぐっ」

ナイフについた血を舐め採り、溜息を漏らしたツンの異常な姿に、ついに嘔吐感を堪える事が出来なくなった。
その僕が出した音に反応して、ツンが首だけを動かし、こちらを確認して、そして、笑った。

( ゚ω゚)「う、うああああああああああああああああああああああああああああああ」

殺される、その脳裏によぎった瞬間、悲鳴と共に逃げ出していた。
そんな僕の背中から、彼女の声が聞こえてくる。

ξ ー )ξ「逃がさないわよ。アナタもワタシがコロしてあげるんだから」


13 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:18:59.46 ID:EO7KUsBK0


             死にたくない。

                        そう口で叫んでも、悪魔は近づいて来る。

             生きていたい。

                        そう心で願っても、死神が微笑んでくる。

             助けてくれ。

                        そう神に祈っても、神様なんて存在しない。

             どうすればいい。

                        じゃあ、僕はどうすればいいんだろう。

             答えは簡単。

                        自分の敵は、自分の力で打ち砕け。



14 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:21:09.14 ID:EO7KUsBK0

( ゚ω゚)「うああああああああああああああああああああ」

最終的に、行き止まりに追い込まれた僕は、
無我夢中に持っていたバットを振り回していた。

来るな、化け物。寄るな、異常者。くたばれ、殺人鬼。

窮鼠却って猫を噛む。

自己防衛本能が働いた僕は、相手がツンだというのに、なりふり構わず攻撃する。
凶器と化したバットは、相手の眼前で空を切り、ツンをこちらに寄せ付けない。

( ゚ω゚)「死ねおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

そして、相手が怯んだ内に、手にしたナイフを弾き飛ばした。途端にツンの目が虚ろになる。
その隙を逃さず、返す手でツンの右側頭部を強打した。

骨を打つ鈍い音が響き、横に飛んだツンは壁にぶつかり倒れる。
けれど、あれだけ強く殴りつけたというのに、あたり所が良かったのか、血の一滴も頭部からは出ていなかった。

殺らなければ、殺される。無傷のツンの姿を見て、僕の心がそう語りかけてきた。
その心に従い、最後の一撃を叩き込もうと、右手のバットを強く握りしめる。


17 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:23:24.21 ID:EO7KUsBK0

ξ )ξ「……ブーン、助け、てぇ」

しかし、上段に構えたバットをいざ振り下ろそうとした時、助けを求めるツンの声が僕の手を止めた。
その言葉を最後に、ツンは口を噤み沈黙する。どうやら、気絶してしまったようだ。

(  ω )「……な、なんて事を」

そんなか弱い彼女の姿を見て、僕の理性が蘇った。
ツンはあんな事をする娘じゃない、そんな事は分かりきっていたというのに。

きっと、何かあったんだ。
こうしなければ成らなくなった何かがあるんだ。

僕がもっと冷静に行動していれば、話し合う事だって出来た筈だ。

恐怖に囚われ逃げ出してしまった事を恥じる。
その所為で僕は愛する人を、バッドで殴りつけてしまったのだ。

(  ω )「………」

瞳を閉じた弱々しいツンの顔を見てみる。
真っ赤に染まった顔を、一筋の透明な滴が流れ落ちていった。

(  ω )「……ツン、君は僕が守るお」

そう呟いた僕は、鞄に入れていたユニフォームでツンを包み、抱きあげた。


19 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:26:30.07 ID:EO7KUsBK0

僕は気絶したツンを抱えたまま、彼女の自宅の前まで来た。
幸いな事に、ここまで来る途中、誰ともすれ違う事は無かった。

▼・ェ・▼「クゥーン……」

不思議な顔をしてこちらを見つめてくるペスを一瞥して、僕はチャイムを鳴らす。

J( 'ー`)し「は〜い、どなた〜?」

すると、数秒もしない内に、ツンのお母さんが顔を出した。

( ^ω^)「こんにちはですお」

J( 'ー`)し「あら、ブーン君じゃない。どうしたの?」

(;^ω^)「お? いや、あの……」

J(;'ー`)し「って、ツンちゃん!! どうしたのよ!?」

相変わらずこの人はとろい。本当に、ツンの母親なのだろうか。

きっとツンは父親に似ているのだろう。
まあ、ツンの父親を見た事は一度も無いのだが。



20 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:28:20.90 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「きっと、転んだんだお」

J(;'ー`)し「え?」

( ^ω^)「道端に倒れていたのを僕が見つけて、ここまで連れてきたんだお」

J(;'ー`)し「でも、こんなに血だらけで……」

( ^ω^)「それは、鼻血だお。転んだ時に鼻をぶつけて、血が出たんだと思うお」

J(;'ー`)し「……本当に?」

(;^ω^)「そ、そうだお」

J( ;ー;)し「それなら良かったわ〜。心配したのよ〜」

自分でも苦しい言い訳だと思っていたが、まさか、信じてもらえるとは。
こんな言い訳しか思いつかなかった僕に嫌気がするが、母親がこの人で助かった。

ホッと溜息を吐いた僕は、ここまで来る間、ずっと疑問に思っていた事をおばさんにぶつけた。


24 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:32:55.89 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「ちょっと、聞きたい事があるお」

J( 'ー`)し「え、なに? ブーン君」

( ^ω^)「ツンはどこに行こうとしてたんだお?」

J( 'ー`)し「ああ、ツンちゃんはね、ブーン君を迎えに駅に行ったんだよ」

( ^ω^)「……そうなのかお?」

J( 'ー`)し「もうそろそろ帰ってくる頃だからって、電話もかけてたみたいだけど、気付かなかった?」

(;^ω^)「あうあう、気付かなかったお」

きっと、祝勝会をしに商店街に行こうと走ってる最中で、電話に気付かなかったのだろう。
その時に電話に気付いていれば、未来が少しでも変わっていたのかもしれない。

J( 'ー`)し「ああ、あとクッキーが落ちてなかった?」

( ^ω^)「クッキー?」

J( 'ー`)し「試合帰りのブーン君に食べさせるんだって、張り切って作ってたのよ。
      今、持って無いみたいだし、転んだ時にどこかにいっちゃったのかな?」


26 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:34:38.04 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「そうですかお」

やはり、僕の考えは間違ってなかった。
彼女は人を殺しに出かけたんじゃ無かったんだ。

それが分かっただけで、僕の心のもやもやは晴れていった。

( ^ω^)「じゃあ、今から僕がそのクッキーを探してくるお」

そう言って、僕は抱えていたツンをおばさんに手渡した。

もし目が覚めて、また人を殺そうとしても、あの凶器は現場に置いて来てある。
家の中の包丁やら何やらを使って暴れだすとも考えられたが、今のツンからはそんな気配がしてこなかった。

けれど、一応念を押しておく。

( ^ω^)「あと、ツンに何かあったら。僕の携帯にすぐ連絡して欲しいお」



27 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:38:42.30 ID:EO7KUsBK0

J( 'ー`)し「あら、どうして?」

(;^ω^)「え? えーと、うーん、ほらあれだお。
      ツンが倒れている所を最初に見つけたのは僕だお。
      だから、もし病院に行く事になって、お医者さんにその時の状況を聞かれても、
      ブーンならある程度は答える事ができるお」

J( 'ー`)し「ん〜、おばさん良く分からないけど、ブーン君が言うならきっとそうなんでしょう。
      分かったわ、何かあったら連絡するね」

(;^ω^)「あ、ありがとうございますだお」

J( 'ー`)し「ふふふ、いいのよ。おばさん、馬鹿だからゴメンね」

( ^ω^)「いえいえ。じゃあ僕はもう行くお」

J( 'ー`)し「あら、もう暗くなるから気をつけなさいよ。
     それにしても、ツンちゃん、凄い血ね。お風呂場で洗ってあげた方が良さそうだわ」

( ^ω^)「あ、そのユニフォームは僕が洗うからいいお」

J( 'ー`)し「そう? じゃあ、お願いするわね」

おばさんはツンを包んでいたユニフォームを僕に渡し、家の中に帰って行った。
そして、ドアがカチャリと閉まった瞬間、僕は自分の家へと走りだす。

ツンを救うために、ツンの罪を隠蔽するために。


31 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:42:36.05 ID:EO7KUsBK0

ここからは早く行動すれば、行動する程いい。

自宅の洗濯機にユニフォームを叩き込んだ僕は、あの路地裏に戻って来ていた。
手には野球道具が入ったままの鞄と、ボロ雑巾を一枚手にし、額には多量の汗を浮かべている。

(;^ω^)「おかしいお、無いお」

そんな僕はこの暗くなり始めた路地裏の中で、あるモノを探していた。
ツンの指紋が付いているあのナイフだ。

僕が咄嗟に考えた計画はこうだ。

まずナイフの指紋をこのボロ雑巾で拭き取ってから、警察に第一発見者として電話する。
それから、警察にこう言えば良い。

逃げた犯人の後ろ姿は男だったと。

これで、少なくともツンは捜査の目から外れる。
次に疑われるのは第一発見者の僕だが、僕には返り血が付着していない。


33 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:46:08.16 ID:EO7KUsBK0

あれだけの惨状だった現場だ。

血を一滴も浴びずに人間を解体するのは不可能である。
ツンを運ぶ時だって血は殆ど乾いていたが、念の為にユニフォームで包んで直接触らないようにした。

大丈夫だ。何もおかしい所は無い。

でも、その計画の初手であるナイフが見つからない。
確かにツンを自宅に運ぶ前に、確認してきた筈なのにそれが無い。

( ^ω^)「………」

仕方が無い、ナイフは諦めるしかない。
もし、ナイフの指紋を取られても、ツンには前科が無いから、
警察署にある、前科者の指紋の記録と照らし合わされても、大丈夫だろう。

それよりも、今は死体だ。
あまり放置しておくと、今度は犯人が現場にいた時間と、死体の死亡推定時間が食い違ってくる。

つまりこのまま探し続けて、時間が経ってから警察に連絡すると、
犯人は死体がある場所で、僕が電話するまでぼーっと突っ立っていたという事になる。

そんな事になったらこの計画自体がおじゃんだ。
僕の、男が犯人だ、という供述も信じてもらえなくなる。

警察が来た時に怯えた顔で現場にいれば良いので、電話をする場所は関係無いと考えた僕は、
死亡推定時間の食い違いを無くすために、すぐにその場で携帯電話を取り出し、ボタンを押した。


35 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:48:39.63 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「ふぅ、一段落したお」

警察への連絡を済ませた僕は死体の前で溜息をついた。
未だにツンのおばさんからの連絡が無いという事は、ツンはまだ目を覚ましていないという事だ。

それにしても今の僕は頭が冴えている。

ツンのため、いや、彼女を失いたくない自分自身のためなら、こんなに頭が働くとは思ってもみなかった。

自分の道は自分で斬り開く。
僕はそれを実現するために、誰にも相談せずに僕一人でここまでやったんだ。

( ^ω^)「お?」

ふと、携帯の液晶画面をを見てみると、留守番電話が来ている事に気付いた。
警察が来るまでの暇な時間を潰すために、僕はそれを再生してみる。


37 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:51:08.60 ID:EO7KUsBK0


『もしもし? ブーン? ちょっと何で電話にでないのよ!!


せっかく私が駅まで迎えに行ってあげようって思ってたのに!!


まあいいわ、今すぐ行くからちゃんと駅で待ってなさいよ。


待って無かったら、あんたの為に作ったこのクッ、ゲホゴホ、


な、何でも無いわよ!! もう、切るからね。ちゃんと待ってなさいよ!!』




38 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:53:10.14 ID:EO7KUsBK0

(;^ω^)「あっ……」

すっかりクッキーの事を忘れていた僕は、すぐに辺りを見渡してみる。

すると、遺体のすぐそばに、
真っ赤に染まった紙の包みとクッキーが、無造作に落ちているのが目についた。

僕はボロ雑巾を使って、それを直接触らないようにしながら拾い上げる。

最後の最後でヘマをしていたとは。

そして、そのヘマをツンに救ってもらえるなんて思ってもみなかった。

やっぱり、僕一人では全てを上手く行う事は出来ないみたいだ。

( ^ω^)「ありがとう、ツン」

赤い紙の包みとボロ雑巾をポケットにしまった僕は、拾い上げたクッキーを全て口に含む。
血の風味が少し口の中に広がったけど、それでも甘くて、とてもおいしかった。


40 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:57:22.17 ID:EO7KUsBK0

「おはようだお、おとうさん」

挨拶をしても、父からは返事が無い。

「なにしてるんだお?」

尋ねてみても、父からは返事が無い。

「ねー、おとうさ〜ん、おとうさ〜ん」

いつもと違って無口な父を不審に思い、僕は近づいてみる。
そして、お父さんに触れてみると、天井から吊り下がった父は前後に揺れた。

「イヤアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

突然、ドアの方から、母の絶叫が聞こえてきた。
あまりの音量に幼い僕は耳を塞いで、目を瞑る。

「おかあさん、どうしたんだお?」

母に尋ねても目に涙を浮かべるだけで、返事が無かった。
かなり錯乱しているようで、僕が何度も声をかけても返事をせずに泣き続けている。
幼い僕は現状を理解しようともせず、もう一度、蓑虫みたいに揺れ、ズボンから尿を垂れ流している父を見て小首を傾げた。

「ねえ、おとうさんも、おかあさんも、いったいどうしちゃったんだお?」


43 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 21:59:38.00 ID:EO7KUsBK0

僕は夏にしては涼しい朝日の中、爽やかな風を浴びて、ハッと我に帰る。

( ^ω^)(嫌な事を思い出してしまったお)

翌日、僕は制服に着替え、ペスがいる小屋の前に座り、ツンを待っていた。
それにしてもあんな惨状を目の当たりにしたせいなのか、父が死んだ時の事を思い出してしまうとは。

父は僕が小さい頃に自殺している。
そして、その死体の第一発見者は、僕だった。

部屋の中、空気の振動で揺れる父の首吊り死体。
それを見た僕は、何も感じる事は無かった。

精神の苦痛を受け入れきれなかった幼い僕は、感情が一瞬にして欠落してしまったのだ。

自殺の理由はリストラ。

他人から見たら死に値しない理由だが、本人からすれば十分というそんな理由。

それ以来、僕の母は女手一つで必死に育ててくれた。
朝から晩まで、パート三昧。母は家にただ眠りに帰ってくる。
そのため、何とか僕はそんなに不自由もせず、ある程度、普通の生活を送る事は出来た。

けど、その所為で僕はいつも一人。
家にいてもする事が無く、よく一人で公園のブランコに遊びに行った。

そんな孤独な毎日。その日常から解き放ってくれたのがツンであった。



44 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:01:54.28 ID:EO7KUsBK0

昨日は、現場に駆け付けた警察に、その後いろいろと質問されたが、その日の内に帰してもらう事が出来た。
もちろん、ツンの事は一言も言わなかったし、受け答えも上手く出来たと思う。

あれから、おばさんからの連絡は無かったので、
心配になり家に帰ってから電話してみると、ツンはまだ眠っているとの事。

そのまま目を覚まさないのではないだろうか、そんな不安が心をよぎり昨日は全く眠れなかった。
それでも、僕はいつもの朝のように今日も、ツンの家の前で彼女を待ち続けている。

( ^ω^)「ツン……」

▼・ェ・▼「クゥ〜ン、ハッハッ」

( ^ω^)「お〜、ペス、くすぐったいお〜」

暗い顔の僕を心配してくれたのか、ペスが顔を舐めてくれる。
その時、勢いよく玄関が開かれた。振り向かなくても開け方で分かる、ツンだ。

僕は彼女がどう反応してくるのか探るため、背を向けたままいつものセリフを投げかけた。

( ^ω^)「ツン、今日も遅刻だお」

ζ゚听)ζ「うるさいわね。毎日毎日、細かいのよブーンは」

いつも通りのツンの返答。
でも、また芽生えてきた昨日のツンに対する恐怖心で、後ろに振り向く事が出来ない。


47 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:05:54.45 ID:EO7KUsBK0

もしかしたら起きて早々、おばさんを殺害したツンが、血だらけで立っているかもしれない。

彼女の目を見て昨日の事を聞かなければならないのに、そんな彼女の血塗られた姿が頭をよぎり体が麻痺してしまった。
仕方が無いので、僕はペスに話をふる。

( ^ω^)「おっおっ、ペスもこんな寝坊助を飼い主に持って大変だお」

▼・ェ・▼「ワンッワンッ」

ペスが僕の言葉に、相槌をうってくれた。

ζ゚听)ζ「何? 喧嘩売ってんの? ペスもこんな奴に返事しないでよ、まったく」

( ;ω;)「おおお、今度は逆切れだお。可哀そうなブーンを慰めてくれお」

▼・ェ・▼「クゥ〜ン」

そばに寄ってきたペスが、僕を気遣い顔を舐めてくれる。

( ^ω^)「なあ、ペス。ツンのペットでお前幸せかお?」

▼・ェ・▼「ウゥゥゥゥゥゥゥ!!」

今度は僕の言葉を否定するかのように、低く唸り声をあげた。



48 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:07:23.44 ID:EO7KUsBK0

ζ゚听)ζ「ちょっと、私のペスに変な事いれこんだでしょう!!」

( ^ω^)「お? ブーンはただペスと話してただけだお」

▼・ェ・▼「ワンッ」

( ^ω^)(……ありがとうだお、ペス)

僕と話しを合わせてくれたペスに感謝する、でも、流石にもうこれ以上、間が持たないと直感した。

それにツンの言葉は至って普通で、いつも通りだ。
昨日、あんな事をしでかした人間のセリフとは到底思えないし、殺意も感じられない。

意を決した僕はツンの姿を確認するために、後ろに振り返った。
その瞬間、

(;^ω^)「ちょっ、ツン」

笑い死ぬかと思った。


49 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:12:44.72 ID:EO7KUsBK0

ζ゚听)ζ「え? な、なに?」

( ^ω^)「今日のツン……」

ζ///)ζ「な、なによ……」

( ^ω^)「髪型が変だおwwwwwwwww ベジータみたいでキメェwwwwwwwww」

ついに耐えられなくなった僕は思いっきり、吹き出してしまう。
今まで、様々な心配をしていた自分が、馬鹿らしく思えてくるほど、ツンの髪形は傑作だった。

ζ )ζ「………死ね」

自業自得。

ツンを指差し、腹を抱えて笑う僕の頬に、ツンの靴裏がくい込んだ。
その衝撃で吹き飛んだ体は、ペスの頭上を軽く越え、その後ろの犬小屋の上を転がった後に、地面に叩きつけられた。

( ゚ω゚).・;'∴ 「ヴッファ!!」

どうやら今度は、僕が気絶する番のようだ。


50 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:14:29.67 ID:EO7KUsBK0

ζ#゚听)ζ「もう!! あんたのせいで学校遅れちゃうじゃない!!
       あんな馬鹿面下げて、気絶なんかしてるから!!」

( ^ω(メ)「おっおっ、気絶させたのはツンだお」

その後、目を覚ました僕はズキズキと痛む頬をおさえながら、学校に向かっていた。
まったく、ツンは手加減というものを知らない。

いや、ツンをバッドで殴った時の僕もそうだったのだ、これでお相子だろう。

ξ#゚听)ζ「ブーンが私の髪を笑ったから悪いんでしょ!!」

(;^ω(メ)「あうあう、ごめんお。それより、ツン」

ξ゚听)ξ「何よ?」

( ^ω^)「昨日のクッキーおいしかったお。ありがとうだお」

ξ゚听)ξ「はあ? クッキーって何の事よ?」

(;^ω^)「お? いや、覚えてないならいいお」

ξ゚听)ξ「変なブーンねぇ……」


52 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:17:08.72 ID:EO7KUsBK0

(;^ω^)(き、昨日の事を忘れているのかお?)

バッドで頭を強打して壁に激突したのだ、ありえない事ではない。

でも、それも一時的な事だろう。

バッドで殴っただけで記憶が永遠に消えるというなら、父が死んだ時の記憶を消すために、僕も今すぐやりたいぐらいだ。
しかし、世の中そんなに甘くは出来ていない。思い出したくなくても、その内、思い出してしまう筈だ。

とにかく今はツンに話しを合わせよう、そう思っていたら何故かツンに睨みつけられた。
反射的に目を逸らし、顔を手で覆う。

ツンと目を合わせるのが怖い。ツンの瞳を直視できない。
まだ、あの時の恐怖心が拭いきれないらしい。

ξ゚听)ξ「まったく、こんな髪型になったのも、受験勉強とあんたのせいよ」

(;^ω^)「ブーンはまったく関係な……」

また、睨みつけられ、言いかけた言葉が続かない。
すぐに、ツンが目を逸らしてくれたので何とかなったが、
彼女が睨みつけて来る度に、僕の脳裏に昨日の映像が流れ出してしまう。

ξ゚听)ξ「それと、あの夢のせい…」

( ^ω^)「お? 何か変な夢でも見たのかお?」

ξ゚听)ξ「そうなの、怖い夢を見ちゃって」


57 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:28:09.48 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「ブーンはツンの事が怖いお」

言ってからまずいと気付いた。
ついつい口を滑らせて、今の自分の本心をツンに言ってしまったのだ。

どんなに恐怖が僕を支配しようとも、彼女を守ると決めていたのに。

そんな時、突如、ツンの鞄が視界を覆う。
直後の衝撃をまともに受けた僕は、鼻血を噴き出し仰向けに倒された。

また、気が遠くなるが、今度はぎりぎりで堪え、目を見開いた。
しかし、予想した追い打ちが来ない。

ツンを見てみると、こちらに背を向けて駆けだしていた。

今の僕の体勢は、昨日のバットで殴られたツンと同じ格好だ。

あの時のツンなら、仰向けに倒されたこんな無防備な僕を殺そうとしない筈が無い。
それに、さっきの気絶していた時なら、簡単に殺せただろうに、未だに僕は生きている。

( ^ω^)(やっぱり、忘れているんだお)

そう確信した僕は、ポケットに入っていたティッシュを鼻に詰め、ツンを追いかけた。



58 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:29:52.06 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「おーい、ブーンは放置かお?」

ξ゚听)ξ「………」

( ^ω^)「おいす〜、聞こえてるかお〜」

ξ゚听)ξ「………」

( ^ω^)「へい、そこの奇麗な御嬢さん、ブーンと一緒にチェケダベイベしないかお?」

ξ#゚听)ξ「うるさい!! あんたなんて知らないんだから」

(;^ω^)「おっ、さっきのはご免だお。ついつい本音が」

ξ゚听)ξ「何? もう一度殴られたいって?」

((;^ω^))「いえいえ、滅相もございませんお」

本当にいつものツンに戻っているみたいだ。
安心した僕は、さっきツンが言いかけた夢の事が気になり、問いかけた。

( ^ω^)「で、話を戻すけど、どんな夢を見たんだお?」

ξ゚听)ξ「なんか、狭い路地裏で男に追いかけられて……」



59 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:31:50.89 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「それで?」

ξ゚听)ξ「……殺されそうになった夢」

( ^ω^)「………」

油断していた僕の体に、戦慄が走る。
彼女はちゃんと昨日の事を覚えているんだ、ただ今はそれを認識していないだけ。

ξ゚听)ξ「ちょっと、どうしたのよ?」

それでも、僕はもうツンから逃げるつもりは無い。

ξ゚ー゚)ξ「ほら、学校遅れちゃうわよ?」

( ^ω^)「ツン……」

ξ゚ー゚)ξ「ん、何?」

彼女が記憶を取り戻したところで関係無い。
僕を孤独という戒めから救ってくれた彼女を、今度は僕が救うと決めたんだから。


61 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:34:30.62 ID:EO7KUsBK0

ξ゚听)ξ「ねえ、本当にどうしたの? 何か変だよ?」

( ^ω^)「ツン、ブーンが……」

君を絶対に守ってあげる。

(;^ω^)「ブーンは毎日、ツンの理不尽な暴行を受けて殺されかけているんだけれど、
      その事についてはどう思うお?」

彼女の両肩に手をのせて、そう伝えようとしたけれど、恥ずかしくなって止めた。
その代わりとして、ツンの暴力に対して日頃から感じていた不満を告げる。

ξ#゚听)ξ「結局、二度ネタかああああああああああああああああああ!!」

おかげで、その場で僕の両手を払い、上空に鞄を放り投げた彼女によって、
もらいたくも無い一撃をまたおみまいされてしまった。

ξ#゚听)ξ「このすかぽんたあああああああああああん!!」

( ゚ω゚).・;'∴ 「ぐほぉっ!!」

あまりにも強烈な一撃に、その場に跪く。
ツンの拳によって生み出された、内臓にまで届く衝撃が、僕の呼吸器官の機能を一時的に停止させた。



62 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:36:42.16 ID:EO7KUsBK0

ξ゚ー゚)ξ「ねぇ、ブーン。仏の顔も三度までって知ってる?」

(;^ω^)「ぐ、ひぃひっは、ツ、ツンそ、その言葉を今使うのはぁ、間違っててぇるお。
      すぃでに今日は、三回もぶちのめされてる、お」

ξ゚ー゚)ξ「だから、その三回が仏の顔なのよ。」

(;^ω^)「……おひぃ」

ξ^ー^)ξ「そして、次からはどうなるか、わかるかな?」

((;゚ω゚))「おっおっおっ」

拳を固く握って微笑みかけてくるツンの姿には、昨日とは違った恐ろしさがあった。

ξ゚听)ξ「て、それどころじゃない。ほら、早く立って」

(;^ω^)「殴ったツンがそれを言うのかお……」

ツンに愚痴を言ってみるが、気にせず彼女は先に行ってしまう。
そんな素気なくて、ちょっと、いや、かなり乱暴の彼女でも、僕の大切な人だ。



63 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:38:47.19 ID:EO7KUsBK0

別に僕がMだから、という訳では無い。

彼女は、幼い頃の僕に絡み付いていた孤独という鎖を、粉々に砕いてくれたんだ。
そして、僕にもう一度、感情というものを蘇らせてくれた、心の恩人。

僕も、そんな彼女の心を満たす人間になりたい。

( ^ω^)「ツン」

ξ゚听)ξ「今度は何よ? 四発目を喰らいたいの?」

( ^ω^)「もし、現実にそんな事がおこったら、ブーンが絶対に助けるお。絶対にブーンが駆け付けるお」

ξ゚听)ξ「へ?」

( ^ω^)「ブーンがツンを絶対に守ってあげるお」

ξ///)ξ「ど、どうしたのよ、急に?」

(;^ω^)「おっおっ、何でもないお。ほら、早くしないと学校に遅れちゃうお」

やっぱり、伝えるべきだと思い、ツンに追いついた僕の口は、自然とその言葉を告げていた。
優柔不断な僕。こんな事でこの先、彼女を守っていけるのだろうか。

気恥ずかしくなって居た堪れなくなった僕は、ツンを追い抜いて先に行く。

ξ゚ー゚)ξ「こら、ちょっと待ちなさいブーン」

そんな両手を広げた僕の背中に、心を温かく包み込み幸せで満たしてくれるような彼女の声が届いた。



66 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:41:53.55 ID:EO7KUsBK0

( ,,゚Д゚)「ブーン、今日の野球部の活動はねえらしいぞ」

( ^ω^)「おっ、本当かお。じゃあ、ツン達と一緒に四人で帰るお」

( ,,゚Д゚)「ああ、そうだな。久しぶりにそうするか」

今は午後の授業も終わった、放課後の校舎内。
僕は教室で、今日の部活の事を野球部の顧問に聞いて来たギコと、話しをしていた。

ギコの話によれば今日の部活動は無く、早く帰れるそうだ。
そのため、久しぶりにいつもの四人で帰ろうと、ツンとしぃの教室に向かった。

( ,,゚Д゚)( ^ω^)ノ「おいすー」

(*゚ー゚)「あ、ギコ君にブーン君」

ツン達の教室に入ると、真っ先にしぃがこちらに気付き、声をかけてきた。
一方のツンは、何やら鞄にノートを仕舞っている。

(*゚ー゚)「ギコ君、今日は部活は無いの?」

( ,,゚Д゚)「ああ、あんな事件があった後だし、大会があった次の日だからな、
     今日は早く帰って休めってよ」



67 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:44:40.49 ID:EO7KUsBK0

(*゚ー゚)「じゃあ、久しぶりに皆でどこか行こうよ」

( ,,゚Д゚)「は?」

( ^ω^)「お?」

急にこの娘は何を言い出すんだ。
しぃは僕と違って何も知らないのに、何でこんな事が言いだせるんだ。

(;,,゚Д゚)「な、なに言い出すんだ。殺人犯がうろついているかも知れないんだぞ。
     今日は、早く帰るべきだゴルァ」

(;^ω^)「そうだお、ギコの言う通りだお」

彼女の精神が正常な人間のものとは思えなかった。
未だ純真な心を持った彼女だからこそ、言える事なのだろうか。

その時、今まで黙っていたツンが口を開いた。

ξ゚听)ξ「……いや、何か食べに行きましょう」

(;,,゚Д゚)「おい、ツンも何言いだすんだ」

ξ゚听)ξ「暗くなる前に帰れば大丈夫よ。真昼間から人を殺す犯人なんていないわ。
      あと、しぃの分は私が払うから、ブーンは私の分を奢りなさい」



68 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:46:25.02 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「お?」

ξ゚ー゚)ξ「朝、私の事を笑った罰よ」

(;^ω^)「ちょ……」

ξ゚听)ξ「それでいいよね、しぃ?」

(*゚ー゚)「しぃは皆で一緒に行ければ、何でもいいよ」

( ,,゚Д゚)「でも、今は危ねえから……」

ξ^ー^)ξ「大丈夫よ。いざとなったら、ブーンが守ってくれるんだって。
      ねぇ、ブーン?」

(;^ω^)「そ、それは……」

(*^ー^)「しぃの事はツンちゃんが守ってくれるから、大丈夫だよ、ギコ君。
     だから、一緒に行こ?」

( ,,゚Д゚)「……ちっ、しぃがそう言うならしょうがねえな」

( ^ω^)「ブーンの事はギコが守ってくれお」

(;,,゚Д゚)「うほっ、ねーよ」



69 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:49:03.16 ID:EO7KUsBK0

(*^ー^)「じゃあ、決まり。ほらみんな、早く行こう」

結局、気付いた時にはどこかに行くという流れになっていた。
でも、誰が犯人なのか知っている僕は、正直どちらでも良かった。

まだ、昨日の記憶が蘇っていないツンと少しでも長くいたい、そう思えたから。

ξ゚听)ξ「あっ」

( ^ω^)「ほら、早くしないと置いてかれちゃうお」

ξ///)ξ「もう、わかってるわよ」

僕は立ち止まっていたツンの手をとり、軽く引っ張る。

彼女といられる今という貴重な時間を、少しでも無駄にはしたくなかったのだ。


72 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:51:12.61 ID:EO7KUsBK0

(*^ー^)「ハムハフッ、おいしぃ〜」

( 'ω`)「………」

( ,,'Д`)「………」

ξ'兪)ξ「………」

こんなにから揚げだけを食べたのは初めてだ。
もちろん、ツンの分もちゃんと僕が払ったので、元々少ないお小遣いの殆どを使いきってしまった。

その現実に、僕はうなだれる。

そのまま小銭だけがチャラつく自分の財布を見つめ、
意気消沈しながら皆と一緒に歩いていると、ツンがどこかを見ながら声をあげた。

ξ゚听)ξ「あれって……」


(*゚ー゚)「どうしたの、ツンちゃん?」

ξ゚听)ξ「ねえ、もしかしてあそこが」



73 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:54:42.54 ID:EO7KUsBK0

ツンに言われて、財布を仕舞ってから視線の先を見てみると、一人の警官が立っていた。
その光景を一目見ただけで分かった、あそこが昨日の殺害現場に続く道だという事が。

( ^ω^)「そうだお、あそこが現場だお」

ツンの問いかけに、僕は正直に答える。
すると、ツンは路地裏の方を見ながらその場で足を止めた。

見覚えがある事に戸惑っているのだろうか。
そう彼女に尋ねたい気分に駆られたが、必死に堪えた。

从 ゚∀从「おい、そこの女」

ξ;゚听)ξ「きゃっ、な、なんですか?」

そんな時、立ち止まっていたツンに、見知らぬ女性が話しかけた。

その女性の全身真っ黒な服装を見て、僕は息を呑む。
いくら今の気温が夏にしては涼しいと言っても、これではただの不審者だ。

そんなどこかの兄者といい勝負をしそうなその黒い服が、白い肌と相成って異様な空気を醸し出していた。



74 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:56:31.58 ID:EO7KUsBK0

从 ゚∀从「……いや、なんでもねえ。悪かったな人違いだったみたいだ」

ξ;゚听)ξ「は、はあ、そうですか」

从 ゚∀从「………」

ξ;゚听)ξ「………」

(*゚ー゚)「ツンちゃん、どうしたの?」

( ,,゚Д゚)「おいてくぞゴルァ」

( ^ω^)「何してんだお、早く行くお」

ξ゚听)ξ「あ、うん、ゴメン」

こんな女と一緒にいたら、ツンまで怪しい奴だと思われてしまう。

今はそういう状況はなるべく避けなければならない。

そう考えた僕は、不審な女の顔を一瞥した後、ツンの手を掴み強引に引っ張った。


76 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 22:58:19.29 ID:EO7KUsBK0

ξ゚听)ξ「それじゃあ、私、急ぎますので」

从 ゚∀从「ああ、すまなかったな」

( ^ω^)「………」

从 ゚∀从「………」

( ゚д゚ )「そこの君、ちょっとお話しいいかな?」

从;゚∀从「え? 俺?」

( ゚д゚ )「ああ、そうだよ。名前と職業を言ってもらえるかな?」

从;゚∀从「え? えーっと、そのぉ……」

( ^ω^)(……危なかったお)

ツンを引張って行きながらもう一度後ろを確認すると、あの女が警察に話しかけられていた。


80 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:03:51.01 ID:EO7KUsBK0

間一髪。

あのままツンを放っておいたら、確実にツンも巻き込まれていた。

今はなるべく警察とは関わらない方が無難だ。

それに警察なんかの所為で、
この幸せな時間を台無しにしたくは無かった。

しかも、ツンは着実にあの時の事を思い出し始めている。

でも、完全に思い出すまで、まだまだ時間はある筈だ。

一秒たりともその時間を無駄にしたくない。
できる事ならずっと一緒にいたい。

それが警察でさえも欺いた僕の一番の願いであった。



81 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:07:47.48 ID:EO7KUsBK0

次の日の朝、登校の準備をして家を出た僕は、
約束の時間である8時30分に、ツンの家の前に到着した。

すると、珍しく早起きをしていたツンがペスと遊んでいるのが見える。

昨日の帰りに僕が言った事をちゃんと守ってくれたようだ。

( ^ω^)ノ「おいすー。ツン、おはようだお」

ξ#゚听)ξ「遅いわよ、ブーン」

(;^ω^)「お? ちゃんといつも通りの時間に来たお」

ξ#゚听)ξ「レディを待たせるなんてどういうつもり? あんたそれでも男なの?」

(;^ω^)「あうあう、ゴメンお」

ξ゚听)ξ「わかればいいのよ。今度からは、5分前にはここに来るようにしなさい」

( 'ω`)「……ツンは理不尽だお」

ξ#゚听)ξ「何か言った!?」

(;^ω^)「いえ、何でもございませんお」



82 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:09:33.60 ID:EO7KUsBK0

本当にツンは理不尽だ。でも、普段と変わらないそんなツンが大好きだった。

引っ込み思案で優柔不断な僕を、いつもリードしてくれるツン。
いつも情けない僕を心配してくれる、本当は優しいツン。

そんな彼女の姿に、僕はいつの間にか惹かれていたのだろう。

っと、急にツンの顔が赤くなった。
まさか、心の中を読まれたのかと思って、僕は慌てる。

(;^ω^)「急に顔が赤くなったけど、どうしたんだお!?」

ξ///)ξ「な、何でも無いわよ!!」

( ^ω^)「そ、そうかお」

怒鳴られてしまったので、これ以上の追究はできそうに無かった。
そのため、仕方が無く僕は別の話題に切り換える事にする。

( ^ω^)「そう言えば、今日のツンは早起きだお。何かあったのかお?」

ξ゚听)ξ「別に私の勝手でしょ」

(;^ω^)「いや、いつも待たされてるブーンの身にもなって欲しいもんだお」

ξ゚听)ξ「そんな事どうだっていいわよ。さあ、早く行きましょ」



83 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:11:28.47 ID:EO7KUsBK0

相変わらず手厳しいことを、平然と言ってのけたツンは、僕を無視して先に歩きだしてしまった。
その時、昨日とは違い、綺麗にセットされた彼女のツインテールが、そよぐ風に舞った。

思わず感嘆の吐息を漏らしてしまう。

こんな決していい男とは言えない僕なんかとは、彼女の可愛さは本当に不釣り合いだった。

( ^ω^)「そう言えば、ツン」

ξ゚听)ξ「ん、何?」

( ^ω^)「今日の髪形はちゃんとしてるお」

ξ*゚听)ξ「え?」

( ^ω^)「昨日の髪形の方が、面白くて良かっ」
ξ#゚听)ξ「セイッ」

( ゚ω゚)「クォッ!!」

もちろん、この言葉は本心では無い。
心の底から綺麗だと伝えたかったけれど、そんな勇気を僕は持ち合わせていなかった。

( ゚ω゚)「エキィセントォォォォリィックゥゥウウウウウウウウウ!!」

それよりも、股関が痛いです。



84 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:15:58.79 ID:EO7KUsBK0

ξ;゚听)ξ「うわぁ、気持ち悪い……」

股関の痛みを堪えてツンを追った僕に、投げ掛けられた言葉がこれだった。
その言葉の刃が、僕の心に深く突き刺さる。

おかげで、胸も痛み始めてきた。

(;゚ω゚)「何すんだお、潰れたらどうすんだお!! 将来、ツンとの子供が作れ無くなっちゃうお!!」

ξ///)ξ「は、はぁ? 誰があんたなんかと!!」

(;^ω^)「それに、ブーンが馬鹿な事を言ってツンに殴られるというパターンは、
      そろそろ、読者が飽きてきてると思うお」

ξ゚听)ξ「読者なんて関係無いのよ。私さえ良ければいいの」

(;^ω^)「ブーンはどうなるんだお?」

ξ゚听)ξ「あんたは読者のために、もっと面白いやられ方とか奇声のあげ方の練習をしなさい」

( ;ω;)「……お、鬼だお」

頭にきた僕は同情を誘おうと、しゃがみこんで大袈裟に涙を拭ったフリをしてみる。
しかし、流石はツンだ。即座に嘘泣きと見抜かれ、置いていかれてしまった。

すぐに泣いたフリを止めて、彼女の後を追う。



85 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:17:47.15 ID:EO7KUsBK0

( ^ω^)「まったく、もっと素直で優しくなれないのかお?」

ξ゚听)ξ「あんたに優しくして、何かメリットがあるっていうの?」

( ^ω^)「僕がツンの事を、もっと好きになるお」

ξ///)ξ「ば、馬鹿じゃないの? 変な事言わないでよ!!」

(*^ω^)「うろたえちゃって、かあいい」
( ゚ω゚).・;'∴ 「ぐぼぉ」

またも、僕の体を痛撃が襲う。
こんな日々が続けば僕はその内に死んでしまう、いや、思い返してみれば今までも、こんな感じだったかな。

そうだとすると、良く生きてこれたものだ。

今までの暴力を一度に凝縮したら、十回は死ねるんじゃなかろうか。

ξ#゚听)ξ「何がかあいいよ!! あまり図に乗るなよ小僧!!」

(;゚ω゚)「はっふぁっは、ず、ずいまぜんでじたお」

ふと、頭を下げて謝る僕の前で、ツンが顔をしかめ、右側頭部をおさえた。



86 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:20:17.10 ID:EO7KUsBK0

(;^ω^)「………」

それを見た時、殴った時の罪悪感と共に、忘れようとしていた一昨日の出来事が頭をよぎった。

飛び散る血、達磨となった男、狂ったように笑うツン。
脳内に蘇ったそれらの映像に耐えきれず、この嫌な気分を変えようと口を開いた。

( ^ω^)「それにしてもツンが早起きなんて珍しいお」

ξ゚听)ξ「あ、そうそう思い出した。あんたにも聞こうと思ってたんだけど」

( ^ω^)「お、何だお?」

ξ゚听)ξ「朝食の時にお母さんにも聞いたんだけどね。私って、昔に死にかけた事なんてあったっけ?」

やめてくれ。

( ^ω^)「……急に何を言い出すんだお?」

ξ゚听)ξ「いや、別に深い意味は無いんだけど。昨日、怖い夢を見たって言ったじゃない?」

思い出させないでくれ。

( ^ω^)「ああ、言ってたお」

ξ゚听)ξ「それで、同じ夢を今日も見ちゃったのよ。しかも、その状況を知っていたって言うのかな?
      とにかく、その夢の先が分かったの。だから、過去にそんな事あったのかなと思って聞いてみただけ」


89 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:24:43.13 ID:EO7KUsBK0

(  ω )「………」

駄目だ。
僕は思い出したくも無いのに、目の前で口を開く彼女は、着々と記憶を取り戻し始めている。

目の前にいる、いつもの可愛らしい制服に身を包んだツンが恐ろしい。
目の前で笑っているツンが、血塗れのツンと重なる。

記憶が完全に蘇ったら、またおかしくなるんじゃないのか。
そして、今度こそ僕は殺されるんじゃないのか。

彼女が何かを言っているが、恐怖に縛られている僕の耳に届く事は無かった。

(  ω )「……ツン」

ξ゚听)ξ「な、何よ?」

(  ω )「急用を思い出したから先に行くお。じゃ」

ξ;゚听)ξ「え? ちょ、ちょっと待ちなさいよ」

そして、とにかく早く彼女から離れたい一心だった僕は、
そんな分かり切った嘘を吐いた後、彼女から全速力で逃げ出していた。



91 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:27:14.91 ID:EO7KUsBK0

ξ;゚听)ξ「どうしちゃったのよ!! ブーン!!」

不審に思ったツンが、後ろから追いかけて来る。

来るな、化け物。
くしくも一昨日の路地裏と同じく、ツンに追われる状況になってしまった。

寄るな、異常者。
追いかけてくる彼女からは殺意も無ければ、狂気も無い。

くたばれ、殺人鬼。
しかし、僕は、守ると伝えておいて、こんな惨めな姿を晒している。

プライドの欠片も無い、そんな僕は道を曲がってすぐにあった公園に駆けこんだ。
ここは昔よく遊びに来ていた、あまり遊具も無く、土地の三分の一は林が生い茂っていると言う、簡素な公園だった。
すぐにその緑が生い茂った林の中に入って身を隠し、追い掛けてきたツンの様子を確認する。

ξ;゚听)ξ「待ってよ、ブーン!!」

どうやら、ツンは僕を見失ってくれたらしい。

公園の前を、声を上げながら走って通り過ぎていった。
その彼女の後ろ姿を見て、安堵の溜息を吐く。


95 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 23:34:15.32 ID:EO7KUsBK0

(  ω )「……は……はは」

と同時に、木の後ろに怯えた姿で隠れている惨めな自分に気付き、
まるで蔑むかのように、口から小さく笑い声がこぼれた。

僕はなんて情けなくて、駄目な男なんだ。

あれだけツンに大口叩いておいて、この醜態。

いっそ、あの時に殺されてしまえば良かったとさえ思えてしまう。
後悔の念を抱きながら茂みからでると、僕の目にふと懐かしい物が映った。

( ^ω^)「あれは……」

僕の視線の先で、風によって微かに揺れるその遊具は、昔、よく乗ったブランコだ。
思い返してみれば、家に母がいない時は、いつもあれに乗って一人で遊んでいた気がする。

懐かしさを感じた僕は、ブランコに歩み寄っていく。

あの全身が風を切る感覚が大好きだったんだ。そして、その感覚を得ている時だけ自由な気持ちになれた。
そのまま大空に飛び出して行けたらいいのにと、なんど思った事か。


100 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:01:35.62 ID:gqqE16SP0

でも、ツンと会ってからは乗る事が少なくなった。
ツンは、一人という孤独から、この素敵な事がたくさんある世界へと、僕を解放してくれたんだ。

初めて会った時は、恐ろしい人だと体の震えが止まらなかったが、
毎日、無理やりいろんな所に連れて行かれる度に、父が死んでから無表情だった僕の顔に、徐々に笑顔が取り戻されていった。

それなのに、僕はツンに何もしてやる事が出来ない。守る事はおろか、さらには逃げだしてしまうという始末。
心の恩人であり、最愛の人でもある彼女に泥を投げつけ、自分の唯一の支えを傷つけてしまったという事だ。

自分を殺してしまいたい。そんな自責の念に襲われる。

それでも、ツンと一緒にいたかった。彼女が僕の全てだから。
それなら、どうすればいい。僕はどうしたら彼女から逃げた自分を許す事が出来る。

( ^ω^)「……もう、逃げないお」

そうだ、僕はもう彼女から逃げる事を良しとせず、どんな事があっても彼女と向き合えばいい。
もし、彼女の記憶が戻ったって、僕は絶対に彼女から目を逸らしたりしない。

それが僕が出来る唯一の恩返し。彼女のために出来る、心からの感謝。

( ^ω^)「ツン、絶対に、君を守るお」

決意の炎を心に秘め、幼少の頃、心を縛っていたブランコへと進む足を止める。
そして、今の僕の全てであるギコ、しぃ、そして、ツンがいる学校へと、進む道を変えた。


103 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:07:31.22 ID:gqqE16SP0

(  ω )「………」

……もう、お腹いっぱいだね……

ブランコに乗ったボクを、たった一つの外套だけが照らしていた。
座ったまま軽く地を蹴ると、ロープに吊られていた父のようにボクの体も揺れる。

今、ボクはツンの家から、子供の頃よく来ていたこの公園に来ていた。
ボクの母が自宅に帰ってくるまで、ここで時間を潰す事にしたのだ。

この夜中の寂れた公園には、人影など見当たらない。
それでも今のボクは一人じゃない。

お腹の中に感じるんだ、ツンの温かい優しさが。

僕とツンはもう一心同体、永遠に離れない。
例えボクが死んだって、ツンと一緒に空を舞い、土にかえる。

そうだ、最初からこうすれば良かったんだ。
こうしていればこのブランコに一緒に乗る事だってできたんだ。

……ブランコ、楽しいね……

そうだね、ツンと乗るブランコはとっても楽しいよ。


106 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:11:13.00 ID:gqqE16SP0

从 ∀从「あらら、第一発見者に憑いてるとはな」

そんなボクとツンだけの楽しい時間を、一昨日見たあの不審な女が邪魔をする。
さっきまで誰もいなかった筈なのに、そいつは音も無く現れていた。 初めて会った時とは違い、黒いコートは着ておらず、あの大きな鞄も持っていない。 そんな今の彼女はジーンズにTシャツというラフな格好をしていた。

从 ゚∀从「昼に見た時は憑いてなかったんだが、どうやら移動したみてぇだな。
      こんな事なら、クックルを現場に置いて来なければ良かったぜ」

(  ω )「うるさい、ツンとの時間を邪魔するなお。あんた誰だお?」

从 ゚∀从「んな事はどうだっていいだろ坊主。
      理性が少しでも残ってんなら、そのナイフこっちに寄こしな」

……その人も殺して……

( ゚ω゚)「あんたの命令もどうだっていい事だお。それより、死んでくれお!!」

从;゚∀从「……チッ、ダメか」

舌打ちをした女は、ブランコから降り、ナイフを構えたボクを見て逃げ出した。


108 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:15:56.34 ID:gqqE16SP0

当然、易々と逃がすつもりは無い僕は、すぐにその後を追いかけた。

あんな見ず知らずの誰かを食べる気はしないが、
ツンとの素敵な時間を邪魔した罰は、受けてもらわなければならない。

それに食後の腹ごなしにもなる。
母を食べに行くのはそれからでも遅くは無い筈だ。

( ゚ω゚)「フヒヒヒヒヒヒ」

それにしても体が軽い。
人を一人丸ごと食べたというのに、その重さを全く感じなかった。

これもこのナイフのおかげなのだろうか。
まるで、今までセーブされていた筋繊維一本一本を全てフルに使用している気分だ。

だが、僕から逃げる女も異常だった。

こんな人体の限界の速度で走るボクと対等、いや、それ以上の速度で駆けて行く。
あれは常人が出せるスピードでは無い。さらに、不思議な事に、前を走る女からは足音があまりしなかった。

徐々に開いていく、ボクと女の距離。
それでもその背に必死にくらいついていくと、前を走る女が脇道に入った。


111 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:21:38.90 ID:gqqE16SP0

( ゚ω゚)「………」

それを見たボクは、その場で足を止める。

幼い頃からツンに連れ回されたボクにとって、ここら一帯は自分の庭のようなものだ。
この道がどの道に繋がっているかも知っているし、近道だって知っている。

(  ω )「お前も今すぐ……」

( ゚д゚ )「君!! こんな所でなn」

(  ω )「こっちみんなお」
( д )「ィ、べ?」

いきなり近寄って来た警察官の目を、ボクは横一文字に切りつけた。

一つ目の右の眼球に吸い込まれた刃は、そのまま眉間を断ち、切っ先が左眼を裂く。
不意の出来事に、警官は何の抵抗も出来ずに倒れた。

視神経を切断された事によるショック死だろうか、倒れた警官は二、三度痙攣した後、動かなくなった。
そんな警官を見下ろしながら、ボクは声を上げる。

( ゚ω゚)「お前も今すぐ、殺してやるお!!」



112 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:25:25.70 ID:gqqE16SP0

从 -∀从「フゥー、どうにか合流できたな」

あの女の声が聞こえてくる。

その声を耳にしたボクは壁に背をつけ、身を隠した。
そのまま、女の横に位置する脇道から、顔だけを静かに出して様子を探る。

从 ゚∀从「こんなにすぐ見つかるなら、最初から一緒に探すんだったな。
      そう思うだろ、クックル?」

( ゚∋゚)「………」

殺害現場近くの暗い路地裏。
その路地裏の道の中で、少し広けた場所にその女は立っていた。

彼女の前には一昨日その女が着ていた黒一色のコートで全身を包んだ、男もいる。

そのクックルと呼ばれた身長が180以上はありそうな男の右手には、
大きめの黒いバッグが握られていた。これもあの女が持っていた物だ。

そして、その男の目を見た瞬間、ボクは息を呑んだ。

まるで、生気を感じられないその目は、眼前の女など見向きもしていない。
何も無い空中を、何も考えず、何も感じず、ただただ無言で見つめている。


117 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:29:45.61 ID:gqqE16SP0

そんな男を見て直感した。あれは人間では無い。

よくよく見ると、顔の表情から精巧に作られた人形である事が見て取れた。

从 ゚∀从「そう言えば、途中からあいつ追って来なかったな、逃げたか?」

だが、そんな人形の事など、今のボクには関係無い。
ツンとの時間を邪魔した、この女を殺す事だけを考えればいい。

隙だらけの今なら、至って簡単に実行できる。

ただ横から忍び寄って、斬りかかればいい。

何故、あの女がこんな人形を取りに、ここに来たのかは分からないが、所詮は人形。
あんな木偶人形の玩具は、障害として考慮するに値しない存在だ。



119 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:33:08.85 ID:gqqE16SP0

从 ∀从「逃げたとなると、また探さねーとなぁ」

そう言って、女が無防備に背を向けた。

好機だ。
ここぞとばかりに、ナイフを持ったボクは静かに歩み寄る。

一歩、また、一歩と音をたてずに近づいて行き、
そして、ナイフの射程圏内に入ったボクは、首筋に無音でナイフを振り下ろした。

从 ∀从「喰らえ、クッ
( ,,゚Д゚)「危ねええええええええええええええええ!!」

从;゚∀从「なっ!!」
(;゚ω゚)「おっ!!」

しかし、横合いから突然現れ、女を庇ったギコの左腕に、刃先が突き刺さった。



120 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:35:44.31 ID:gqqE16SP0

何が起こったのか理解できず、思考が一瞬停止する。

そんなボクの目の前で、
女を庇ったギコの左腕から、赤い鮮血が飛び散った。

(;,,゚Д゚)「ぐぅああああああああああああああああああああ!!」

从;゚∀从「ちっ、馬鹿が」

( ゚∋゚)「………」

ギコの痛覚を訴える叫びがボクの頭を揺らし、振り返った女が呟く。

その声を聞きながら、
ギコの腕に刺さったナイフを抜き取ったボクは、一目散に駆け出した。

殺意を、純粋な殺意を感じたからだ。
女からでも無く、ギコからでも無く、動かない筈の人形から。

その殺意に底知れぬ恐怖を感じ、自然とボクの足は、その場から逃げ出す事を選択していた。


125 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:44:09.10 ID:gqqE16SP0

( ゚ω゚)「ハァッ、ハァ」

女がいた場所から離れたワタシは、とり憑いている男の息を整えていた。
未だにあの人形が何だったのか分からない。

だけどこれだけは言える。

あれは唯の人形じゃない。
あの人形の中には化け物が入ってる。

あいつらとはなるべく関わってはいけない。関わったら逆に喰い殺される恐れがある。
とにかく今は逃げた方が無難だ。殺人ならどこでだって出来る。

「……ブーン君?」

そんな考え事をしていたワタシの耳に、少女の声が聞こえてきた。

慌てて振り返ると、
そこには、ツンという子が三番目に殺したがっていた女の子が立っていた。


128 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:46:35.71 ID:gqqE16SP0

名前は確か、

( ^ω^)「えーと、しぃちゃん?」

(*゚ー゚)「う、うん」

( ^ω^)「……なんで、こんな時間にこんな所にいるの?」

(*゚ー゚)「わ、私、ギコ君と一緒にツンちゃんを捜しに来たの。そ、それで」

(  ω )「ツンちゃん? ツンちゃんならここにいるわよ」

(*゚ー゚)「え?」

何だ、わからないんだ。

ツンと昔から親しかったらしいアナタなら、分かってくれるかなと思ったのに。

まあいいや、あの女を殺せなくて、ちょうどむずむずしていた所だ。

最後にこの男を殺して、この町での殺しは終わりにしよう。


131 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 00:51:07.69 ID:gqqE16SP0







                バイバイ、哀れな操り人形さん







2 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:32:59.51 ID:gqqE16SP0

わたしには、たったひとりのお友だちがいます。

いつもわたしの体の中にいて、いつもおはなししてくれます。

でも、お父さんはそんなわたしを見て、気持ちのわるい子だと言います。

それに、お母さんもそんなわたしを見て、耳ざわりだからだまれと言います。

それでもわたしにはお友だちがひつようなんです。

たいせつなたいせつなおともだち、いっしょにいるだけでわたしは幸せです。

いつまでもいつまでもわたしたちはお友だちです。

それだけで幸せだから、ほかには何もいりません。

ね? そうだよね、ミセリちゃん?


……そう、私達はいつまでも一緒よ。他には何もいらない……



4 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:35:07.23 ID:gqqE16SP0

4、「Prologue」

三日月と星だけが暗い夜空に瞬き、窓の外は黒一色に染まっている。
そんな中、室内灯の光だけで照らされた自室の中で、俺は単純な繰り返しの動作を行っていた。

床に対して垂直にたてた腕を、曲げては、伸ばす。その繰り返し。

曲げる際は出来るだけ遅くし体を支え、伸ばす際は勢いよく地を押すように伸ばす。

こうして筋肉の持久力を高めると共に、速筋も鍛える。

独特な方法の腕立て伏せを繰り返す事で、自分の筋肉に刺激を与えながら、俺は汗を流していた。
風呂に入る前のこの鍛錬は、野球部に入ってからの日課になっている。

( ,,゚Д゚)「ふっふっ、ふっ」

ちょうど200回を終え、時刻を確認すると、時計の針は10時をさしていた。
それを確認した俺は、区切りが良いので風呂に入ろうと立ち上がる。

その時、今まで無音だった俺の部屋に、携帯の鳴る音が響いた。



5 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:36:50.50 ID:gqqE16SP0

こんな時間に誰だと不審に思いながらも、携帯を手に取り、液晶画面を見てみる。
すると、液晶画面に表示されていたのはしぃの電話番号だった。

それを確認した俺はすぐに通話ボタンを押した。

( ,,゚Д゚)「もしもし、俺だゴルァ」

『あ、ギコ君? あのね、その……』

( ,,゚Д゚)「あ? どうしたんだこんな時間に?」

『……ツンちゃんの家とね、全然連絡がつかないの』

( ,,゚Д゚)(ツンか……)

ツンという名を聞いて、俺は今日の学校でのブーンとのやりとりを思い出した。

ブーンの話によると、今日、ツンの家で飼っていた犬が、何者かに殺されたらしい。
その所為で、今日はツンが休みなので一人で登校して来たと、教室でブーンに伝えられた。

その話をしていた時のブーンは、何かいつもと違った印象があったのを、今でも覚えている。

まるで既に覚悟していたかのように、落ち着いたその態度。淡々と事実だけを伝える口調。
いつものおとぼけて、頼りないブーンの様子は微塵も感じられなかった。


8 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:38:39.90 ID:gqqE16SP0

『ギコ君?』

( ,,゚Д゚)「………」

『ギコ君、ねえ、聞いてる!?』

(;,,゚Д゚)「あ? ああ、すまねえ。で、ツンがどうしたって?」

『ツンちゃんの家に、何回も電話してみたんだけど誰もでないの。
ペスの事もあるし、何かあったんじゃないかな?』

( ,,゚Д゚)「……もう寝ちまっただけじゃないのか?」

『それは無いよ。だってまだ九時だし、いつもツンちゃんはこの時間は起きてたし』

( ,,゚Д゚)「あ〜、きっとあれだ、わかったぞしぃ。きっともう寝ちまったんだよ」

『ギコ君、ふざけないで!!』

(;,,゚Д゚)「す、すまねえ」

『……それでね、しぃね、今からツンちゃんの家に様子を見に行きたいの』



11 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:40:27.76 ID:gqqE16SP0

( ,,゚Д゚)「は?」

『ダメ、かな?』

しぃだって、殺人犯がうろついているかもしれない時に、一人で出かけると言い出すほど馬鹿じゃない。

この言葉は、俺と一緒にツンの様子を見に行きたい、という事を暗に秘めているのだ。

確かにツンの事は俺だって心配だ。
電話が繋がらないっていうのも気になる。

しかし、こんな夜にでかけて、自分達の身も危険に晒すのは馬鹿げている。

そう思った俺は、電話の向こうのしぃに抗議の声を上げた。

( ,,゚Д゚)「な、何言ってんだゴルァ!!」

『で、でも……』

( ,,゚Д゚)「今がどういう状況か分かってんのか!? 
       もう、夜も遅いし、連続殺人犯がうろついてるかも知れねえんだぞ!!
       それに、」

『でも、ツンちゃんの事が心配なの!!』

( ,,゚Д゚)「……明日じゃ駄目なのか?」


15 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:43:07.42 ID:gqqE16SP0

『………ギコ君、お願い』

( ,,゚Д゚)「………」

『……ギコ君」

( ,,゚Д゚)「ちっ、わかったよ」

『本当!? ありがとう!!』

( ,,゚Д゚)「ただし、俺がしぃの家に行くまで、おとなしく待ってるんだぞ」

『うん、わかった。ちゃんと家で待ってるね』

そうしぃが言った後、通話は途切れた。

まったく、しぃの心配性にも困ったものだ。
それに、しぃにお願いされただけで、断りきれない俺もつくづく甘い奴だと思う。

でも、もう約束してしまったものは仕方が無い。

しぃを長い時間、待たせる訳にもいかないので、さっさと外出する準備を済ませた俺は、
親に気付かれないように、玄関に移動し、靴を履いて外に出た。

後は、殺人犯に出くわさない事を祈るだけだった。


18 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:44:49.85 ID:gqqE16SP0

( ,,゚Д゚)「ふぅ、何とか来れたな」

(*゚ー゚)「誰とも会わなかったね」

しぃの家で彼女と合流した俺は、誰とも出くわさずにツンの家まで来る事が出来た。

まあ、しぃの家からツンの家までは数分足らずで着くので、さほど心配する事も無いのだが。

そうこう俺が考えている内に、しぃがインターホンのボタンを押すが、しばらく待っても反応が無い。

もう一度、押してみるが結果は同じだ。
家の中からは物音すら聞こえてこない。

電気も点いていないようだし、今日は早めに寝てしまったのだろうか。

(*゚ー゚)「……あっ、鍵が開いてるよ」

( ,,゚Д゚)「え?」

ドアノブを掴んだしぃが呟いた。
その言葉通りにドアが徐々に開かれ、静まりかえった室内の鉄臭い空気が漏れだす。


22 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:47:05.91 ID:gqqE16SP0

(;,,゚Д゚)「勝手に開けちゃまずいだろが!!」

(;゚ー゚)「ご、ゴメンなさい」

しかし、ツン達が寝ているのだとしたら、ドアに鍵がかかっていないのは変だ。
近くで殺人事件があったというのに、開けっぱなしなんて不用心すぎる。

( ,,゚Д゚)「……ちょっと覗いてみるか」

(;゚ー゚)「さ、流石にそれは駄目だよ……」

( ,,゚Д゚)「大丈夫、ちょっとだけだ」

しぃの静止を振り切り、俺は玄関に足を進める。

そして、リビングを覗いた俺の目に映ったのは、無残に切り取られたツンの母親の生首だった。

(;,,゚Д゚)「うっ!!」

(*゚ー゚)「え、どうしたの?」

(;,,゚Д゚)「み、見るな!!」

俺の後ろから、中の様子を探ろうと、
身を乗り出してきたしぃの目を、手で塞ごうとしたが、遅かった。

その無残に殺害された亡骸を見て、彼女は息を呑み、


25 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:49:41.87 ID:gqqE16SP0

(;゚ー゚)「ツ、ツンちゃんは!?」

(;,,゚Д゚)「お、おい!!」

悲鳴を上げる、と思った俺の予想は外れた。

そのまましぃは、土足で家に入り、前方に見える階段を上って行った。

一瞬、呆気にとられたが、すぐに気を取り直して、俺もしぃの後を追いかける。

すぐに階段を上り終え、ツンの部屋であろう場所に入ると、彼女が呆然と立ち尽くしていた。
そんな彼女の前には、顔の原型を留めていない男の死体が転がっている。

きっと、ツンの父親だろう。
その変わり果てたあまりにも惨い姿に、目を逸らした。

(;,,゚Д゚)「くそっ!!」

(*゚ー゚)「ツンちゃんがいない」

( ,,゚Д゚)「え?」

こんな惨状の中、悲鳴も上げず、未だにツンの心配をしているしぃに息を呑む。
目の前に死体が転がっているのに、なんで平静にしていられるんだ。

いや既にこの時点で、しぃは平静などでは無く、彼女の意識は常軌を逸していたのだ。


27 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:51:45.26 ID:gqqE16SP0

(* ー )「ツンちゃんがいないツンちゃんがいないツンちゃんツンちゃんツンちゃんツンちゃん」

(;,,゚Д゚)「ど、どうしたんだよ」

(*゚ー゚)「そうだ探しに行かないと!!」

( ,,゚Д゚)「おい、ちょっと待てって、まずは警察に」

(*゚ー゚)「どいて!!」

(;,,゚Д゚)「どぅわ!!」

しぃにいきなり突き飛ばされ、俺はその場で尻もちをついた。
そんな俺の横をは走りぬけ、階段を駆け下りた彼女は、玄関から外へと去っていく。

( ,,゚Д゚)「あの、馬鹿!!」

叱咤しながら立ち上がり、俺はすぐにその後を追いかけた。

階段を下りて、台所を通り過ぎ、リビング近くの玄関へ。

「ごめんなさい」

そして、外に出ようとした時、微かにリビングから声が聞こえてきた。
誰かいるのかと不審に思い足を向けてみる。
しかし、そこにあったのは、先程も確認した、ツンの母親の死体だけ。

ついに吐き気を催してしまった俺は、半ば逃げるようにその場を後にした。


30 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:54:02.92 ID:gqqE16SP0

(;,,゚Д゚)「くそっ、しぃの奴、どこに行ったんだ」

そう呟きながら俺は、夜の冷気が支配する道路の上を走っていた。

俺の視界の中にしぃの姿は無い。

完全に見失ってしまった。

ツンの家で一瞬立ち止まったのがいけなかった。
俺が外に出た頃には、しぃはどこかに行ってしまった後だったのだ。

(;,,゚Д゚)「ゴ、ゴルァ」

全速力で暗い町中を走りながら、しぃだったらどこに行くかを考える。

あの家の惨状を見れば、ツンも襲われた事ぐらい嫌でもわかる。
また、あの家をくまなく探した訳では無いが、少なくともしぃは、
あの家にはツンがいないと思っているような言動をしていた。

ツンがいないという事は攫われたという事。

ツンを探しているのだから、ツンがいそうな場所に行く筈だ。
それはつまり犯人がいるであろう場所でもある。

そう踏まえた上で、しぃの行きそうな場所は。


34 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:55:29.19 ID:gqqE16SP0

( ,,゚Д゚)「事件現場の路地裏か!!」

しぃが今回の殺人犯について知ってる事なんて、それぐらいしか無い。

なら、まず最初に向かうのはそこに決まっている。

すぐに俺は進行方向を変え、現場へと続く道に急いだ。

急げと体に命じると、足のつま先から、
脹脛、太ももまでの筋肉が伸縮する事で、応えてくれる。

さらに、速度を上げた俺は、横道に入って、路地裏に入った。

しぃはきっとこの周辺にいる筈だ。


40 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 18:58:34.54 ID:gqqE16SP0

そのまま辺りを見渡しながら、探していると、話し声が聞こえてきた。
しぃがそこにいるのか、と思った俺はその場で足を止め、声がした方の様子を探る。

从 ゚∀从「……いつ、追って来なかったな、逃げたか?」

その少しひらけた場所には、どこかで見た事がある女性と、黒一色の何かが立っていた。

こちらに背を向けたその女性は、死人と見間違うほど手が白く、
その白い肌と対象的な黒髪が夜風にそよいでいる。
しかし、その死人のような肌とは対比して声は明るく、男のような喋り方だった。

もう片方の黒一色の何かは、暗くてこちらからでは良く見えない。
ただ、黒い何かがそこにあるという事だけが確認できた。

从 ∀从「逃げたとなると、また探さねーとなぁ」

そのまま覗き見ていると、不意に、女性が体の向きを変える。
すると、横道から、ナイフを持った誰かが現れた。

顔は影に隠れて良く見えないが、手にしたナイフだけが、闇の中で輝いている。

そいつは忍び足で女性の背中に近づいて行き、そして、ナイフを振り上げた。

( ,,゚Д゚)「危ねえええええええええええ!!」

既に、二人の人間の死体を見てきている俺は、もう誰にも死んで欲しくなかったのかもしれない。

なりふり構わず俺は駆け出していた。
そのまま、狙われていた女性とナイフを持った誰かの間に割り込む。


44 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:03:49.48 ID:gqqE16SP0

(;,,゚Д゚)「ぐぅああああああああああああああああああああ!!」

从;゚∀从「ちっ、馬鹿が」

そんな俺の、ナイフから女性を守るように突き出した左腕に、ナイフが深く喰い込んだ。

激痛と同時に左腕から、
何かが吸い取られていく感覚がする。

そして、左腕の感覚が全く感じなくなった俺の意識は、徐々に薄れていく。

( ゚ω゚)「……!!」

そんな俺が、意識が途切れる寸前に見たモノは、
歯が欠け、顎も外れている口の周りを、真紅に染めていた、ブーンの姿だった。


47 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:05:56.53 ID:gqqE16SP0

ブーン達と出合ったのは、まだ俺が餓鬼だった頃だ。
何を血迷ったのか、その頃の俺は全く他人とつるまず、一人でクールぶってるのがかっこいいと思っていた。

当然、仏頂面して一人で立ってれば、誰も近寄っては来ない。

おかげで友達なんて言える奴は一人もいなかった。

正直、寂しかったと思う。
でも、一度作っちまったキャラをぶち壊すのは中々難しい事だ。

そもそも、どう他人と接していいのか分からない。
まだ、幼いのだから、素直に子供同士で楽しめばいいだけだというのに、俺にはそれが出来なかった。

「ねえ、君もしぃ達と遊ぼうよ」

そんな馬鹿な俺に、初めて優しく声をかけてくれたのがしぃだった。

「ツンちゃん、いいよね?」

「ん? 別にいいわよ。あんたも、私の部下にしてあげる」

本当に心の底から嬉しかった。
もちろん、部下にしてもらえた事に対してでは無い。


49 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:08:26.54 ID:gqqE16SP0

皆が避けた一人の俺に話しかけてくれた。

見向きもされない孤独な俺を見てくれた。

本当にただそれだけで、涙が出てくるほど嬉しかったのだ。

「おっおっ、これで僕一人に任されている荷物運びが楽に……って、泣いてるのかお!?」

「ちょ、ちょっと、なに急に泣きだしてんのよ!!」

「荷物運びがそんなに嫌なのかお!? それともツンの顔が怖いかr」

「セイッ!!」
「おがああああざああああああああん」

「だ、大丈夫!?」

「ああ、何でもねえぞゴルァ」

泣き顔が見られたくなかった俺は、しぃから顔を逸らしながら呟く。

そして、涙を拭いた俺が見たのは、笑顔で手を差し伸べてくれているしぃの姿と、
ツンのドロップキックをまともに喰らって吹っ飛んだ、ブーンの姿だった。

それからは、俺達四人でお互いを支え合うようにいつも一緒にいる。
もちろん、これからもずっと。そう思っていたのに――――


54 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:10:56.11 ID:gqqE16SP0

从 ゚∀从「起きろ!!」

容赦無い平手打ちが、倒れていた俺の頬を打つ。
その痛みに目を覚まし、体を跳ね起こすと、今度は左腕に痛みが走った。

(;,,゚Д゚)「くっ!!」

从 ゚∀从「お、起きたか」

痛みの発生源を見てみると、綺麗にタオルが巻いてある。

そして、すぐ横には、俺を見下ろすように、色白の女が立っているのと、足元に大きめの鞄が置いてあるだけで、
あの黒い何かの姿も無ければ、狂気に染まったブーンの姿も無かった。

从 ゚∀从「応急処置はしておいてやった。後は自分で病院にでも行くんだな」

それだけ伝えると女は俺に背を向けて、満天の星空を見上げた。
顔の動きにつられ、黒髪はそよぎ、嗅いだ事も無い何かの薬品のような匂いが、俺の鼻を刺激する。

その姿に異質なものを感じながらも、現状を理解するために、俺はゆっくりと立ち上がりながら口を開いた。



57 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:13:07.71 ID:gqqE16SP0

( ,,゚Д゚)「あんた、何者だ?」

从 ゚∀从「……聞いてどうする?」

( ,,゚Д゚)「俺をさっき刺した奴は、大切な友人なんだ。
     でもあいつは、ブーンはあんな事をするような奴じゃ無い!!」

从 ゚∀从「………」

気を失う直前に見た親友の異常な姿を思い出し、語尾が強まる。

しかし、未だに目の前の女はこちらに背を向けたまま振り返らない。

( ,,゚Д゚)「あんたなら何か知ってんだろ!?
     俺はあいつを助けてやりたいんだ、頼む教えてくれ!!」

从 ゚∀从「……そんなに知りたいのか?」

( ,,゚Д゚)「ああ、頼む」

从 ゚∀从「教えてやってもいいが、そのかわり……」

俺の熱意が伝わったのか女こちらに振り向いた。
そして、その歪んだ笑みの唇を、ゆっくりと開く。


61 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:14:48.80 ID:gqqE16SP0

从 ゚∀从「一発、やらせろ」

(;,,゚Д゚)「ゴ、ゴルァ?」

从 ゚∀从「ずっと溜まっててな。たまには若い男の汁でも吸いたいんだよね」

( ,,゚Д゚)「ふざけんな!!」

从 ゚∀从「チッ、お固い男だな。まあいっか、教えてやるよ。
      さっきの男は憑かれてんのさ」

( ,,゚Д゚)「は? 憑かれる?」

从 ゚∀从「そう、さっきの奴は霊に憑かれてる」

突飛な発言に驚きを隠せず、俺は息を呑んだ。
いきなり、霊だの、憑かれてるだの言われたって、信じられる筈が無い。

そもそも、いきなりやらせろとか言う女を信じる奴はいない。

从 ゚∀从「信じられないって顔してんな」

( ,,゚Д゚)「あたりまえだゴルァ。いきなり幽霊だなんて言われて信じられるか!!」

从 ゚∀从「じゃあ、何故信じられない? 見えないからか?
      見えないからと言って、存在しないと決めてしまうのはおかしいだろ?」


64 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:16:31.64 ID:gqqE16SP0

( ,,゚Д゚)「それは……」

見えないからと言って、いないと決めつけてしまうのは確かにおかしい。

存在の肯定を証明するのは簡単だ、それを見つけてくればいいのだから。

けれど、存在の否定というものはこの世の全てを調べなければならないため、非常に難しい。

从 ゚∀从「それに見える奴だって、少なからずはいる。
      まあ、世間の一般常識人共は、精神障害による幻覚だと言いやがるがな」

( ,,゚Д゚)「じゃあ、もし幽霊が実在したとする。そしたらこの世は幽霊だらけになってるじゃねぇか。
     いったい何人の人間が毎日死んでると思ってんだ」

从 ゚∀从「全ての人間が霊になれるという訳じゃあ無いんだよ。
      ……人間が最後に考える事は何だと思う?」

( ,,゚Д゚)「え?」

从 ゚∀从「大抵の人間は、死にたくない、もっと生きていたい、と考える。
      けどな、どんな生物だって持ってるような、生存本能如きでは霊にはなれない」

( ,,゚Д゚)「………」

从 ゚∀从「死ぬ直前でさえも、己の未練を抱き続ける事が出来るある意味で狂った人間。
      そんな人間の意志が、霊志となり霊が生まれるのさ」


68 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:18:59.50 ID:gqqE16SP0

つまり、命乞いをするような軽弱者は、幽霊にはなれないという事か。

でも、逆に考えると死ぬ瞬間に、生きていたいとは考えず、
未練の事さえ考えていれば、どんな弱い意志でも霊になれるという事になる。

( ,,゚Д゚)「おい、霊志ってのは何だ?」

从 ゚∀从「霊が存在する為に必要なエネルギーみたいなもんだよ。
      意志が強ければ強いほど、霊志も強く多くなり、長い時間この世にいられる。
      逆に弱ければ、そう長くはこの世にはいられない。そして、共食いが始まるんだ」

(;,,゚Д゚)「共食いだと?」

从 ゚∀从「そうだ。己が存在し続けるために、霊同士で喰らい合う。、
      他にも今回の霊のように、人間にとり憑いて、そいつの意志をそのまま喰らう奴もいるがな」

( ,,゚Д゚)「とり憑かれた人間はどうなるんだ?」

从 ゚∀从「その場合は、半ば洗脳された状態になる。なんせ、自分の意志をそのまま喰われるんだからな。
      それに霊が人間にとり憑くと、本来、自壊を防ぐためにセーブされている筋肉を、
      限界まで使うために、その人間の肉体は徐々に破壊されちまう」

( ,,゚Д゚)「じゃあ、さっきのブーンは……」


70 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:20:41.71 ID:gqqE16SP0

从 ゚∀从「ああ、十中八九憑かれてる。
      そして、そういう悪霊を狩るのが霊媒師って呼ばれてる奴らや、
      俺のような霊を喰らって糧とする、霊喰師って奴だ」

( ,,゚Д゚)「霊喰師……」

从 ゚∀从「今回、この町には殺人事件のニュースを見てきたんだ。
      未練がある人間が死ねば、その意志が弱くても確実に霊は生まれるからな。
      ちょうど、小腹も空いていたし、フラっと立ち寄ってみたって訳d」

そこまで女が言った時、その傍らに空から黒い塊が降って来た。

風を切る音もたてずに舞い降りたその物体は、地表すれすれで一度静止した後、
ゆっくりとアスファルトの上に己の黒い影を落とす。

(;,,゚Д゚)「う、うわぁっ!!」

突然の出来後に驚きの声を上げた。

目の前に落ちてきた物体の形は人型、しかし、人では無い。
黒いコートからだらしなく垂れでた左腕は、人肉では無くただの木でできていた。
夜の中でも際立つその無機質な木偶人形の姿は、死神を連想させる。

女はそんな人形のそばにより、肩に手を置いて目をつぶった。


73 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:23:10.19 ID:gqqE16SP0

从 -∀从「おお、逃げたウサギは見つかったか。ごくろう、ごくろう」

( ゚∋゚)「………」

(;,,゚Д゚)「な、なんだこいつは!?」

从 ゚∀从「ん、そう言えば自己紹介がまだだったな。
      俺は高岡ハインリッヒ。で、こいつは俺のタルパのクックルだ」

(;,,゚Д゚)「た、たるぱぁ?」

意味不明な言葉の連続に、俺の頭はもう爆発寸前だった。

霊についての話の時点で、ついて来るのがやっとだったというのに、
こんな普通の人間が、聞いた事も無いような言葉を、さらりと言われても困る。

从 ゚∀从「ああ〜、説明するのがめんどくせぇ。クックル、後は頼むわ。
      こいつに、タルパについて教えてやってくれ」

ハインリッヒと名乗った女も、度重なる俺の質問に嫌気がしたのだろう、
眉を不自然に歪めて後、無言で直立しているクックルという人形に命令した。

すると、今まで無言を貫いてきた人形が口を開いた。


77 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:26:03.48 ID:gqqE16SP0

( ゚∋゚)「タルパとはチベット密教の修行を極めた者のみに伝えられる秘奥義の事であり、
    日本の言語に照らし合わせると、人工未知霊体という言葉で表現する事が可能である。
    このタルパというものは、人間が自分の意志を体内で霊志に変え、その霊志を用いる事により、
    無から霊体を作り出す事をさしている。作り出すと言っても容易な事では無く、霊体を想像する際には、
    イメージに揺らぎが生じない様に全体のバランスを考え、細部までを脳内世界では無く、
    現実世界に重ねて想像しなければならない。この時に注意しなければならないのは、
    この行為を行っていくと現実世界と架空世界の境が消失していき、重度の精神異常を来たす
    場合もあり、さらにタルパ自身に自我が芽生え、想像主にとり憑き、肉体を」

从;゚∀从「だぁ〜、ストップストップ!!」

(;,,゚Д゚)「………ゴルァ?」

いきなりの長い説明に、耳がついていかない。

唯一、頭に残った部分はチベット密教という胡散臭い部分だけだ。

从 ゚∀从「まあ要するに、自分の思い通りに作れる生き霊みたいなもんだよ。
      このクックルは俺の命令を忠実に聞くように作った生き霊でな、
      その霊を木製の人形に憑かせて、ポルターガイストみたいに動かしてるって訳だ」

そんなクックルの意味不明な説明をハインリッヒが簡単に説明してくれた。
これなら俺でもだいたいは分かる。今までの流れを三行にまとめるとこんな感じだ。


・霊とは人が死ぬ瞬間に持っていた未練を、霊師というエネルギに変えて存在している。
・その意志が強ければ強いほど霊は長く存在出来、弱い奴らは霊同士で共食いをして生き残ろうとする。
・そんな悪霊共をこの女は狩っており、この人形は、女が創った生き霊がポルターガイストの要領で動かしている。


79 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:28:25.57 ID:gqqE16SP0

从 ゚∀从「でさ、俺も質問があんだけど、いいか?」

( ,,゚Д゚)「なんだゴルァ」

从 ゚∀从「何でお前、こんな時間に、こんな所にいんの?」

(;,,゚Д゚)「あ!!」

ハインリッヒの質問で、忘れていた重大な事を思い出した。
俺にはこんな女と話している時間など無く、いち早く、しぃを探さなければならなかったんだ。

もし、しぃが俺の推測通りにこの路地裏に来ているとしたら、
近くには悪霊に憑かれているブーンがうろついている事になる。

彼女の身が危ない。

( ,,゚Д゚)「しぃっていう女の子を、探しに来てたんだ!! あんた見なかったか?」

从 ゚∀从「……女の子、ねえ」

俺の問いかけを聞いた瞬間、ハインリッヒの表情が不気味な笑顔から無表情へと急に変化した。

そんな感情を全く示さない表情のまま、
クックルに一言二言、何かを告げると俺にまた背を向けた。


83 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:30:07.12 ID:gqqE16SP0

从 ゚ -从「ついて来て。あなたに現実ってモノを見せてあげる」

( ,,゚Д゚)「な、何を言ってん」
从 ゚ -从「そのしぃっていう女の子の所に連れて行ってあげると言ってるの!!
      そこにあなたを刺したブーンって男の子もいるわ」

(;,,゚Д゚)「何だと!!」

从 ゚ -从「しぃって子を助けたいなら急いで!!」

そのままハインリッヒは駆けだし、その後をクックルが地を滑るようについて行く。
前を行く二つの影を見て、その場に一人取り残された俺も、すぐにその後を追って走りだした。

从 ゚∀从「まあ、大船に乗った気持でいろよ、なんせ俺は不死身だからな。
      ハーッハッハッハイーンリッヒ!!」

先頭を走るハインリッヒが不気味な笑い声を上げる。
そんな彼女の背中が、俺を日常から、非日常へと誘っていくのであった。


86 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:32:33.37 ID:gqqE16SP0

ハインリッヒの後をついて行った俺が最初に見たのは、
最も見たくない二つの過酷な現実だった。

ブーンにしぃが殺されるのではないか、
という予想は良いように裏切られたのか、しぃはピンピンしている。

その代り、倒れたブーンの腹を切り裂き、胃袋の中の肉塊をせっせと取り出していたが。

从 ゚∀从「言っただろ、しぃって娘は助けてやるって。
      ブーンって奴はクックルが見つけた時には死んでたよ」

( ,,゚Д゚)「てめえっ!!」

(*゚ー゚)「あ、ギコ君!!」

最悪の光景に、俺は怒気をはらんだ声を上げた。

この怒気が、目の前で両手を赤く染めて笑っているしぃに対しての憤りなのか、
それとも、二人共助けられるみたいな、思わせぶりな言い方をした
ハインリッヒに対しての怒りなのかは、自分でも判別がつかなかったが。

(*゚ー゚)「ねえ、ギコ君。今、しぃね、悪者からツンちゃんを取り返してたんだよ。偉いでしょ?」

(;,,゚Д゚)「つ、ツンを取り返すって……」

まさか、その右手に持ってる金色の髪が混じった醜い肉塊がツンだとでも言うのか。
じゃあ、ブーンがツンを食べていたという事なのか。


90 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:34:44.05 ID:gqqE16SP0

やめてくれ。
異常の連続に、正常な俺はついていく事ができない。

(*゚ー゚)「見て、これはツンちゃんのあ」
从 ゚∀从「黙れよ、イレモノ。憑いてんのは分かってんだ、さっさと出てきたらどうだ?」

(* ー )「……感動の再会シーンなのに、意外と短気なのねあなた」

今まで希望に満ち溢れていたしぃの目から光が消え、見知らぬ女の声が場に響いた。
しぃの表情からは、喜びの感情が失せて、殺意一色に変わっていくのが分かる。

从 ゚∀从「そいつは悪かったね。お前こそ、今回は無様に逃げないんだな」

(* ー )「本当は体を入れ替えたら、すぐに逃げ出したかったんだけど、
     この体の持ち主がね、ツンちゃんと一緒じゃ無いと嫌だって駄々をこねるもんだから」

从 ゚∀从「なるほど、そんな彼女の考えを知って、その意志を喰おうと欲がでた訳だ。
      馬鹿だな、お前。その欲の所為で、狩人に捕まっちまうなんてさ」

(* ー )「そうかしら? 私にはあなたが狩人なんかじゃなくて、ただの餌にしか見えないけど」

从 ゚∀从「ふん、言ってろ。お前を喰らう前に一つ聞きたい事がある」

(* ー )「何かしら?」

从 ゚∀从「何故、こんなにも人を殺す?」


95 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:39:01.27 ID:gqqE16SP0

(* ー )「………」

从 ゚∀从「長くこの世にいたいだけなら、こんな短期間にこれ程まで、殺さなくてもいい筈だ。
      一人の人間に憑いてれば、日常生活に使用する意志を少し食うだけでも、結構な時間存在していられるからな」

(* ー )「……未練だからよ」

从 ゚∀从「何?」

(* ー )「私は生み出したリセミと言う女の子の未練はね、人類全ての死なのよ。
    でも、そんな大それた事をするには、もっと力が必要だった。
    だから、人を殺しながらその意志をも喰らう事で、その二つを同時に果たそうとしたの」

从 ゚∀从「へー、そうかい。まったく、救えねえな、そのリセミっ奴は。
      さて、お喋りはここまでとするか。………殺れ、クックル!!」

命令と同時に、沈黙を押し通してきたクックルが跳躍し、しぃへと飛びかかった。

とり憑かれているしぃは、そんな迫る木偶人形の腹に、
筋繊維、全ての伸縮によって得られる力を、最大限に使い、ナイフを突き入れる。

しかし、突如空中で静止し、左へと軌道を変えたたクックルの変則的な動きにより、斬撃は空を切った。
そのまま、懐に飛び込んでしまったしぃの顔面に、強烈な回し蹴りが叩き込まれる。



96 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 19:40:45.07 ID:gqqE16SP0

(* ー ).・;'∴ 「ぐッ!!」

衝撃にしぃの体は倒れかけたが、左手のナイフに体を引張られ、無理やり態勢を立て直した。
と、同時に右手の肉塊をクックルに投げつけたが、そんなモノは人形に対しては目眩ましにさえならない。

さらに、接近したクックルの殴打が容赦無く、しぃの体を痛めつけていく。

从 ゚∀从「悪いな、年忌が違うんでね」

( ,,゚Д゚)「しぃ!!」

从 ゚∀从「おい、今は大人しくしてろ」

しぃの元へと駆け出そうとした俺の右手をハインリッヒが掴んだ。
その間も、しぃの体をクックルが破壊していく。

顎を拳でかち上げ、続く腹部への一撃で、前かがみになったしぃの体を、
そのまま背負い投げをするように、右腕一本で地面に叩きつける。

その後、倒れたしぃの喉仏に足を乗せ、体重をかけて呼吸を停止させた。

(* − )「ガッ、ッカ、ハカッ、ハッ」

( ゚∋゚)「………」

間違いない。
あの死神は命令通りに、何の躊躇も無くしぃを殺す気だ。


110 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:10:12.97 ID:gqqE16SP0

(;,,゚Д゚)「おい、話が違うじゃねえか!! しぃを助けてくれるんじゃ無かったのか!!」

从 ゚∀从「だから、助けてんだろ?」

( ,,゚Д゚)「ふざけるな!! 現に今、殺されかけ」
从 ゚∀从「殺すんだよ」

(;,,゚Д゚)「なっ!!」

从 ゚∀从「考えてもみろ、あの状況で生きてて幸せか? それはありえない。
      だから、殺す事によって救ってやるって言ってんだよ」

それを聞いた瞬間、俺は右手を掴でいるハインリッヒの手を払い、
死にかけているしぃに駆け寄って、彼女の首を足蹴にしているクックルを突き飛ばした。

そして、倒れるしぃの前で両手を広げ、彼女を護るように立ち塞がる。

( ,,゚Д゚)「殺して救うなんて俺は認めねえぞ!!」

そう言い放った俺は、ハインリッヒを睨みつけた。
俺を孤独から救ってくれた彼女を今度は俺が守る。

俺の大切な人を殺させたりなんかしない。


115 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:16:23.23 ID:gqqE16SP0

(* ∀( ,,゚Д゚)

从;゚∀从「馬鹿!! 後ろだ!!」

( ,,゚Д゚)「え?」

後ろに振り返ろうとした時には、今度は俺がハインリッヒに突き飛ばされていた。

突き飛ばされた衝撃によって、そのままアスファルトの上に倒れ込んだ俺が、目にしたのは、
しぃの振るった斬撃から俺を庇ってくれたハインリッヒの左胸に、ナイフが突き刺さる映像だった。

从 ∀从「クッ……」

響いたのは短く呼吸が肺から漏れる音。
しぃは、そんなハインリッヒの左胸からナイフを勢いよく引き抜く。

(* ー )「バーカ、こんな使えない男を庇うなんてね」

(;,,゚Д゚)「おい!!」

すぐさま、ハインリッヒに駆け寄って体を揺さぶるが、どんなに動かしても反応は無い。

傷痕は、左胸の心臓の位置に深くできていた。
その位置を止血のために手で押さえてみるが、何故か血が全く流れ出しこない。

しかし、傷口から心臓の鼓動を感じとる事は出来なかった。


118 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:18:39.93 ID:gqqE16SP0

(* ー )「その様子を見ると死んだみたいね。後の問題はあの人形だけど……」

己の主が死んだから、動きを止めたのだろうか。
俺が突き飛ばしたクックルも、全く動きを見せず、糸が切れた操り人形のように地面に倒れていた。

(* ー )「ふふふ、ありがとう。あなたのおかげで助かったわよ、ギコ君」

こんな最悪の状況を作り出してしまったのは全て俺の責任だ。

ハインリッヒの制止を無視して、後先考えずに飛び出した俺が悪い。

( ,,゚Д゚)「……馴れ馴れしく呼ぶなよ、悪霊」

でも、しぃを失いたくなかった。あの状況ではこうするしかなかった。
少しでも遅れていたらしぃは死んでいたんだ。

そして、今、この悪霊からしぃを救えるのは俺しかいない。

( ,, Д )「……しぃから出て行け」

(* ー )「え、なぁに?」

( ,,゚Д゚)「しぃから出て行けって言ってんだ、この悪霊!!
     しぃ、聞こえてんだろ? こんな奴に負けるな、こんな事はもう止めるんだ!!」


121 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:21:15.07 ID:gqqE16SP0

(* ー )「………ぷっ、あはははははははははははははははははははははは」

悪霊が突然腹を抱えて笑いだした。

(* ー )「ふふ、君もブーンって言う人と同じ事を言うんだね。あの人には本当に苦労させられたんだよ。
     最初に会った時なんてね、まだ、ツンって言う女の子の体に完全にとり憑けていないのに、
     バットでこのナイフを弾き飛ばしやがったからさ、私の霊体が途中で千切れちゃったの」

( ,,゚Д゚)「そいつは良かったな」

(* ー )「酷いなぁ、とっても、痛かったんだから。
     まあ、その後なんとか彼女を見つけて、半身は取り戻せたんだけどね」

話を続けながら一歩一歩俺に近づいてくる。
その姿に余裕が感じられるのは、ハインリッヒやクックルが倒れたからだろうか。

それでも、後に引かない俺は、彼女と正対しながら、左腕に違和感を感じていた。

(* ー )「それから、邪魔してくれたお礼に殺してあげようと呼び出したんだけど、
     今度は憑いてた女の子の方に邪魔されちゃって。
     せっかく女性の体だったのに、あの時は残念だったなぁ」

何だこの感覚は。

目の前にいるこいつが、耳障りな事を言う度に、左腕が熱くちりちりとする。


123 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:23:31.42 ID:gqqE16SP0

この熱は憎悪なのか、それとも、殺意か、悲しみか。
傷ついていた左腕から、得体の知れない感情が流れ込んでくる。

(* ー )「しょうがないから、そこで死んでる男にのり移ったの。
     それで、心を食べ易いように理性をちょっと外してあげたら、
     そいつ、あろう事かツンて子を食べ始めたんだよ? こんな、人間もいるんだって、私、びっく」

( ,, Д )「あああああああああああああああああああああああ」

(; ー )「ぅあっ!!」

俺は叫声をあげながら、しぃを押し倒した。

もう我慢の限界だ。

左腕から流れ込んでくる感情の波に抗う事が出来ない。

いまなら、分かる。これは愛しいものを奪われて、苦しみ怒り狂う人間の感情だ。
大切な人を奪った者に対する憎悪、壊した者に対する殺意、失った事による悲哀。

それらの感情の動きに合わせるように、俺の左腕はしぃの首を絞め上げていった。


126 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:25:06.18 ID:gqqE16SP0

(* ー )「か!!、あぅ……ん、ああっ、はっ!!」

俺の心に理性は残されてはいなかった。
左腕だけでは無い。体の全ての意志が左腕に支配されていく。

力んだ腕の傷口は開き、巻かれていたタオルを染めていく。
でも、痛みは感じない。今感じるのは、憎、殺、悲、三つの感情だけ。

このままではしぃの体も、俺の心も壊れてしまう。

(*゚−゚)「ぅう、はぁあっ、ん、い、くる、ぃいよぉ、ギコく、やめ」

そんな俺の感情の暴走は、しぃ本来の声が俺の耳に届いた時にぴたりと止まった。
体に自由が戻った俺は、すぐに首を絞めていた左腕の力を弱める。

(;,,゚Д゚)「しぃ大丈夫か!!」

(* ー )「本当に、馬鹿ね」

呟きと共に腹を下から思い切り蹴り上げられた。
か弱い少女の蹴りだと言っても、筋肉を限界まで酷使した蹴りだ。

腹筋に食い込み、内臓に直接ダメージが響く。


129 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:27:34.16 ID:gqqE16SP0

(;,, Д )「ガァッ、あ……」

(* ー )「女の子をいきなり押し倒して、首を絞めるなんてどうかしてるわよ。まったく」

(;,,゚Д゚)「ハッ、ハァ、ハッ」

腹を押さえて悶えている俺の前で、しぃはゆっくりと立ち上がる。

しかし、すぐによろけた。
その場で片膝をつき、しぃの顔に貼り付いていた笑顔が消える。

(* − )「あの人形、こんなになるまで痛めつけてくれちゃって。もうこの体も終わりね。
    でも、安心して、次はあなたの中に入ってあげる」

四つん這いで痛みに耐えている俺は、近づいてくるしぃから逃げる事が出来ない。
左腕からも、もう何の感覚も感じず、ただただ血を垂れ流すだけだ。

(* ー )「じゃあ、いただきまーす」

夜天に煌くナイフの切っ先が、闇を裂いて迫りくる。
本当に無力な自分を呪った俺は、己の愚行への後悔から逃れるように目を閉じた。

「やっと、出てきたか」


132 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:28:58.64 ID:gqqE16SP0

聞こえてきた死人の声に、閉じた瞳を開くと、しぃが支えを失ったようにこちらに倒れてきた。
咄嗟にその体を受け止めた俺が見たのは、ナイフを手にしたハインリッヒの姿だ。

……あなた、死んだんじゃ!?……

从 ゚∀从「ああ、死んでるよ。元からな」

……まさか、あなたもれ、ギぃやああああああああああああああああああ……

从 ゚∀从「さっき俺の体から喰っていきやがった霊志は返してもらうぞ」

ナイフから声無き声の断末魔が響く。

そして、その元凶であるハインリッヒから逃げるように、
その刀身から少女の形をしたもやが出てきた。

ミセ*゚ー゚)リ「ハア、ハァ、ハァ……」

从 ゚∀从「へえ、まだ全然若いのに、よくそこまでの霊になれたな」

(;,,゚Д゚)「おまえ、なんで生きて?」

从 ゚∀从「不死身だって言ったろ? 一度死んだものは二度と死ねない。
      俺はな、死体にとり憑いた幽霊なんだよ」


134 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:31:35.91 ID:gqqE16SP0
ナイフを手にしたままのハインリッヒは、衝撃の事実をさらっと言いのけた。
そう言えば、心臓が停止する程の刺し傷を受けたのに、出血が全く無かったのを思い出す。

死体ならば防腐処理のために血を抜くので、流れ出て来ないのは当然だ。

从 ゚∀从「結構な傷をつけてくれやがって、帰ったら縫わなきゃいけないだろうが。
      悪い幽霊には御仕置きが必要だな。食事の時間だ、起きろ、クックル!!」

叫びが響き、人形が目覚める。

地面に、無造作に倒れていたクックルの椀部、脚部、背骨が糸に引っ張られるように、空中に持ち上がっていく。

最後に、俯いていた顔が勢いよく跳ねあがった。
ガラスでできた紛い物の瞳が、漂う霊に狙いを定める。

( ゚∋゚)「………」

ミセ;゚ー゚)リ「ヒッ!!」

从 ゚∀从「逃げないのか?」

ミセ;゚ー゚)リ「え?」

从 ゚∀从「狩人は逃げる獲物を狩る事に、楽しみを得るんだ。
      だから、逃げろよ。俺を少しでも楽しませてくれ」


138 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:34:32.51 ID:gqqE16SP0

ミセ*゚ー゚)リ「ば、馬鹿にしないでよ!!」

霊は声を上げ、その身を動かした。
その霊体は、逃げず、俺の方に向かってくる。

今度は俺にとり憑く気だ。

しぃを守るように、彼女の体を強く抱きかかえたままの俺が、そう気付いた時には、

从 ゚∀从「狂った霊を喰らい尽くせ!! 喰ッ狂!!」

少女の霊の両足が、高速で飛びかかったクックルによって、食いちぎられた。
クックルはそのままもぎ取れた足を咀嚼し、左腕に喰らいつく。

ミセ*゚ー゚)リ「あ、ああ、あぅああ」

从 ゚∀从「狩人に向かってくるなんて、本当にお前は馬鹿だね。
      あ、左腕はそのまま喰っていいから、右腕は俺に寄こせよ、クックル」

ミセ;゚ー゚)リ「ギぃあッ!!」

クックルの無機質な腕が霊体の右腕を引きちぎる。
その手を受けっとったハインリッヒはそれを口に運び、手の方からかじった。

その間にも、クックルは一欠けらも残さずに少女の霊を摂り込んでいく。


140 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:36:35.48 ID:gqqE16SP0

ミセ* ー )リ「リセ、ミ、ご、ぼォめっ………」

辞世の言葉を最後まで口にする前に、その霊体は全てを食された。
そして、主人の命令を忠実に実行した木像人形は、その場で直立した後に、動きを止める。

その頃には、ハインリッヒも受け取った少女の右腕を食べ終えていた。

从 -∀从「ふぃ〜、ごっちそうさまっと」

(;,,゚Д゚)「お、おい、どういうことだ!?」

从 ゚∀从「あん? 何がだ?」

( ,,゚Д゚)「しぃを殺して救うとか言ってたじゃねえか」

从 ゚∀从「ああ、あんなのは嘘に決まってんだろ。その子を助けるためにはな、
     憑いてる霊だけを喰わなければならなかった。
     そのまま、喰ったらその子の意志まで喰っちまうからな。
     意志を完全に喰いつくされた人間がどうなるかおまえ、分かるか?」

尋ねられて、思考を巡らせてみる。

意志を喰われるという事は、心が無くなるという事だ。
体は正常に生きているのに、何もしようとしない、何もする事が出来ない。


142 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:38:00.60 ID:gqqE16SP0

それは、即ち。

从 ゚∀从「一種の植物人間になっちまうのさ。
      だから、お前の体を餌にして、憑いてる霊をおびき出したんだよ」

( ,,゚Д゚)「じゃあ、しぃを殺そうとしたクックルを、俺が止めようとするのも……」

从 ゚∀从「だいたい想像できてたよ。
      なんせ、見ず知らずの俺を、自分の身を体してまで、助けるような馬鹿だからなお前は。
      まあ、クックルを止めようとしなかったら、そのままその子を殺させたがな」

クックックッ、と含み笑いを始めたハインリッヒは、
直立しているクックルに歩み寄り、その肩に手を置いた。

もう片方の手では、指先でナイフを器用に回して弄んでいる。

从 ゚∀从「それで、そんなお前の性格を考慮して、事前にクックルにこう言っといたのさ。
      『そこの男が攻撃をしてきたら動きを止めろ』ってな」

そうか、だから俺の攻撃をあんなに素直に受けたのか。

もし、そんな命令がされていなかったら俺の命は軽く摘み取られていただろう。



147 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:41:08.86 ID:gqqE16SP0

从 ゚∀从「後は俺もわざと攻撃を受けて死んだふりをし、
      霊がお前に移るために出てくるのを待てばいい訳だ。
      本当はその子の体をもっと痛めつけて、さっきの霊に、
      より確実に体を変えさせるよう仕向けたかったんだが、
      意外と早く、お前が飛び出すもんだから、内心焦ったんだぞ」

つまり俺はこの女の手の中で、踊らされていた訳か。

躍起になって、この人形に体当たりをかました俺が馬鹿らしく思えてきた。

( ,,゚Д゚)「じゃあ、しぃはちゃんと元に戻るのか!?」

从 ゚∀从「もちろん、そうだ。意志を少し喰われちまってるが、
      意志は、その全てを喰われさえしなければ、肉体がある限り、元には戻る。
      そもそも、意志と言うものは脳が生み出すものだからな。
      何かを考えようとする意志さえ喰われなければ、いくらでも意志は蘇るんだ」

( ,,゚Д゚)「……良かった」

しぃは腕の中で静かに目を閉じている。
先程までの狂気は微塵も感じられない、本当に安らかな寝顔だった。

从 ゚∀从「そういえば、その腕の使い心地はどうだった?」

腕と言われて、俺はしぃを押し倒した時の感情を思い出した。
全てを燃やしつくすような怒り。全てを破壊する憎しみ。全てを否定する悲しみ。

常人の精神では耐えられない心の流動。
現に俺も耐えきれず、一時、左腕に体を乗っ取られた。


151 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:43:05.21 ID:gqqE16SP0

从 ゚∀从「お前の左腕に位置していた意志が奴に喰われてたんでね。
      クックルの左腕をぶち込んでおいてやった、感謝しろよ」

(;,,゚Д゚)「な、なんだと!? じゃあ、さっき、俺にも少女の幽霊が見えたのは」

从 ゚∀从「その手によるものだろうな」

別にそんな事は頼んでいない。正直、有難迷惑だ。

霊が見えるようになったからって、良い事なんて一つも無い。
精神障害者乙、と言われるのがオチだ。

いや、そもそもこの女は、何故わざわざそんな事をした。
こいつの話によれば、脳がある限り意志は蘇る筈だ。

( ,,゚Д゚)「なんでわざわざそんな事を?」

从 ゚∀从「気分」

(;,,゚Д゚)「………ゴルァ」

いや、そんな答えになって無い事を言われても困る。
このハインリッヒと言う女の人格が、未だに掴み切れない。


155 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:46:06.85 ID:gqqE16SP0

( ,,゚Д゚)「お前、ちゃんと、答え」
从 ゚∀从「忘れもんしてきたから、もう行くわ」

もっとこいつの事を追求しようと身を乗り出した時、
俺の次の言葉を遮るように、ハインリッヒが口を開いた。

(;,,゚Д゚)「え? おい!!」

从 ゚∀从「お前も早く帰れよ。警察に見つかったら捕まっちまうぞ。じゃあな」

( ,,゚Д゚)「あ……」

ハインリッヒはそれだけ告げると、跳ねるように走り去ってしまった。
俺をこの場所に連れて来た時とは、比べ物にならない程の速度だ。

あの時は俺がついて来れるように、速度を落として走ってくれていたのだろう。

( ,,゚Д゚)「………」

俺もこの場所にずっといる訳にはいかないので、右腕だけで上手くしぃをおぶり、立ち上がった。
そして、この場所をさっさと後にしようと歩き出した時、信じられないものを目にして息を呑んだ。


161 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:49:06.42 ID:gqqE16SP0

( 'ω`)「………」

(* ー(;,,゚Д゚)「ブーンじゃねぇか!! 生きて」

いる筈が無かった。

体の色は薄く、ほとんど透明と言ってもいい。
さらに、漂う度に霊体が少しづつ空気中に霧散していく。

少女の霊に、霊志の元となる、意志を喰われたのだ。
今、こうしてここに存在していること自体が奇跡と言える。

(* ー( ,,゚Д゚)「でも、どうして……」

( 'ω`)「謝らなければならないんだお」

(* ー( ,,゚Д゚)「謝る?」

( 'ω`)「ツンに会って、謝らないと……」

謝罪の気持ちを伝えるという、たったそれだけの事をするために、こいつは霊になったのか。
いや、今のブーンにとってはそれだけが全てなのだ。他には何も必要ない。

自分の意志では無いとしても、最愛の人を殺し、あろう事かその肉を食べたのだ。
その後悔の念を、言葉で表現する事は不可能だろう。


165 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/13(日) 20:50:52.26 ID:gqqE16SP0

けれど、そのツンがどこにいるのか分からない。

普通だったら、俺の前にいるブーンのように、死体がある場所にいる筈だ。

しかし、ここにはツンの霊の姿は見当たらない。

そもそも、ツンは霊になる事が出来たのだろうか。
死ぬ時に未練を抱いていなければ、霊になる事は出来ないのだから。

(* ー( ,,゚Д゚)「ついて来いよ、ブーン」

( ^ω^)「お?」

でも、俺には心当たりがあった。

ツンは確実にあそこにいる。いや、いたんだ。
ただ単に俺としぃが気付かなかっただけで、ツンはあそこに来ていた。

(* ー( ,,゚Д゚)「お前をツンの所に連れて行ってやる!!」


2 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:20:13.11 ID:SnNGILEU0


5、「Ending of start」

わたしには、たったひとりのお友だちがいます。

いつもわたしの体の中にいて、いつもおはなししてくれます。

でも、お父さんはそんなわたしを見て、気持ちのわるい子だと言います。

それに、お母さんもそんなわたしを見て、耳ざわりだからだまれと言います。

それでもわたしにはお友だちがひつようなんです。

たいせつなたいせつなおともだち、いっしょにいるだけでわたしは幸せです。

いつまでもいつまでもわたしたちはお友だちです。

それだけで幸せだから、ほかには何もいりません。

リ(゚ー゚*セミ「ね? そうだよね、ミセリちゃん?」

ミセ*゚ー゚)リ「そう、私達はいつまでも一緒よ。他には何もいらない」



3 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:21:55.94 ID:SnNGILEU0


ミセリちゃんと初めて出あったのは、おばあちゃんがお星さまになったときのことです。

動かなくなったおばあちゃんの前で、泣いているわたしにやさしくはなしかけてくれました。

なまえがまだないとうので、ミセリというなまえは、わたしがつけてあげました。

わたしとちがって、しっかりしていて、あかるくて、あたまもいい。

わたしとはせいはんたい。

だから、わたしのなまえのリセミを逆からよんで、ミセリちゃんにしました。

それからは、へやのすみで丸まってねるときも、

お父さんにたのまれて、おさけというものを買いに行くときも、

わたしがお水をこぼして、おかあさんになぐられているときも、

まいにちまいにち、いっしょでした。


5 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:24:26.76 ID:SnNGILEU0


でも、さいきんのミセリちゃんはなにか変です。

わたしとおはなししているときも、してないときも、すぐに人をころしたいと言います。

人をころすのはいけないことです。

むかし、おばあちゃんがわたしに教えてくれました。

人げんはお互いに、助けあって生きていかないといけない。

だから、せんそうなんてもので人がころし合うのはいけないことだって。

リンゴの皮をむきながら、そうはなしてくれました。

だから、おとうさんにどなられても、わたしはだいじょうぶです。

おとうさんを支えているのは、わたしだから。

だから、おかあさんになぐられても、わたしはだいじょうぶです。

おかあさんを支えているのは、わたしだから。



6 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:26:09.47 ID:SnNGILEU0


じゃあ、わたしを支えてくれるのはだれ?

それは、もちろんミセリちゃんです。

けど、なんでミセリちゃんは人をころしたいんだろう。

わたしがおとうさんにどなられるたびに、ミセリちゃんはいいます。

あんなおとこは、死んでしまえばいいのよって。

わたしがおかあさんになぐられるたびに、ミセリちゃんはいいます。

あんなおんなは、ころしてしまえばいいのよって。

ほんとうに、なんでそんなことを言うのか、あたまのわるいわたしには分かりません。

おおきくなったらわかるようになるのかな。

どうなんだろう。


8 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:29:32.74 ID:SnNGILEU0


きょうはおとうさんとおかあさんが、けんかをしていました。

りこん、とか、しんけん、とか、いさん、とかわたしにはよくわからない大声がきこえてきます。

ふたりがけんかしているときは、わたしはとなりのへやで大人しくしていないといけません。

そうしないと、向こうにいってなさいって、いっぱいお顔をなぐられます。

泣いてたのんでも、止めてはくれません。

だから、いつのまにかわたしは泣かなくなりました。

リ(゚ー゚*セミ「ねえ、ミセリちゃん。りこんって、なに?」

ミセ*゚ー゚)リ「……リセミは知らなくてもいい事よ」

リ(゚ー゚*セミ「そうなの?」

ミセ*゚ー゚)リ「そう、大丈夫。何があっても私達は一緒でしょ?」

リ(^ー^*セミ「そうだね。ずっと一緒だね」

ミセリちゃんはほんとうにいい子です。

いつもわたしのことを心ぱいしてくれます。

わたしも大きくなったらミセリちゃんみたいになりたいです。


12 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:34:01.09 ID:SnNGILEU0


そのつぎの日から、お家からお父さんがいなくなりました。

それからは、お母さんと二人きりの生活がつづきます。

こんどは、おかあさんがおさけというものを、いっぱいのむようになりました。

そして、おさけをのんだあとは、かならずわたしをなぐりにきます。

「あんたさえ!! あんたさえいなければ、私は!!」

そう言って、わたしをいっぱいいっぱいなぐります。

でも、わたしにとってはお父さんにどなられなくなっただけで、ほとんどかわらないまいにちです。


16 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:37:22.50 ID:SnNGILEU0


「お小遣いをあげるから、お外に遊びに行きなさい」

そんなある日、いつものようにおさけをのんでいるお母さんがそう言いました。

そして、わたしに500とかいてある、お金を手わたしてくれます。

リ(゚ー゚*セミ「ほんとうに、いいの? お母さん」

「ええ、それでおかしでも買ってきなさい」

おつかいいがいでお外にでるのははじめてです。

うれしさにとびあがりそうになったわたしは、

たくさんの紙のまいすうをかぞえているお母さんに、いってきますと言って家をでました。

そして、いつもお父さんのおさけを買いにいっていたところしか、

お店がいっぱいあるところを知らないので、わたしはそこに行くことにします。

ミセリちゃんと二人っきりのおかいもの、たのしいな。


19 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:40:59.75 ID:SnNGILEU0


でも、ミセリちゃんはなんだかすなおによろこんでいないみたいです。

ミセ*゚−゚)リ「リセミ、何か変よ。きっと何か、良くない事が」

リ(゚ー゚*セミ「よくないことってなぁに?」

ミセ*゚−゚)リ「それは……」

リ(゚ー゚*セミ「どうしたの、なにかへん、キャッ!!」

ミセリちゃんとおはなしをしながら歩いていたら、知らない男の人とぶつかってしまいました。

わたしはすぐにたちあがって、ごめんなさいをします。

すると、男の人はわらいながらわたしにたずねました。

「君がリセミちゃんだね?」

リ(゚ー゚*セミ「そうだけど、おじさんはだぁれ?」

「ただの通りすがりのお兄さんだよ。それよりお兄さんと一緒にいい事をしないかい?」

リ(゚ー゚*セミ「いいこと?」

「そう、いい事。大丈夫、とってもとっても楽しい事だよ」

そう言って、ふところからナイフをとりだしたおにいさんは、わたしをだれもいない、うすぐらいみちにつれていきました。


25 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:44:30.47 ID:SnNGILEU0


たすけて

かおが、うでが、てが、はらが、あしが、おまたのあいだがいたい。

からだじゅうをなめまわされて、きもちわるい。

なにかが、わたしのこころも、からだも、きずつけていく。

なんで?

なんで、わたしだけこんな目にあうの?

おしえてよ、ミセリちゃん。

こたえてよ、ミセリちゃん。

なんで、わたしだけこんなに苦しいの?

にんげんは助けあって、いきていくんでしょ?

なんでだれもわたしを助けにきてくれないの?

ねえ、助けてよミセリちゃん。だれか、わたしを助けて。


28 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:48:03.07 ID:SnNGILEU0



痛い!! お腹が痛い!!


なんで? 

なんで、この人は笑ってるの?

わたしがくるしんでるのに、なんで、笑っているの?

ひとはみんな自分のことしか、けっきょく考えていないの?

ねえ、ミセリちゃん、わたしつかれちゃったよ。

ごめんね。

ずっといっしょにいるってやくそくだったのにね。

でも、わたしはもうこんなせかいにいたくない。

にんげんなんてものを見ていたくない。

ずっと目をつぶっていたい。

そうだよ。

にんげんなんてみんないなくなってしまえばいいんだ――――


32 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:51:24.10 ID:SnNGILEU0


ミセ* ー )リ「………」

そして、ミセリの心の中だけの存在であった筈の私は、霊となって形成された。
何故、生まれてきたのかは分かっている。

人間を全て駆逐するためだ。

そのためには力がいる。

どんなに強い人間も、誰一人として例外なく殺せる力が必要なんだ。

私はリセミの腹に刺さっていたナイフを引き抜き、未だに腰を振り続けている男の右脚に突きこんだ。
そのまま相手の精神を乗っ取るために、まずナイフに自分の霊体を移し、
そこから徐々に、自分自身を、相手の体の中に流しこんでいく。

「いたぁあっ!!」

男がすぐにリセミの手を払い、足に食い込んだナイフを抜いた。
そのナイフを力強く握りしめ、もう死んでいるリセミの体に容赦無く刃を向ける。

「こいつ僕の体によくも!! 死ね!! 死ね!! 死ねええええええええ!!」

なんて醜く腐った生物なんだ、この人間は。

まあ、その殺意のおかげで、この男の意志を自分の色に染めていく事は容易に出来た。



34 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:55:20.30 ID:SnNGILEU0


そもそも私は、日々行われてきた両親の虐待と祖母の死をきっかけに生まれた多大なストレスと孤独という恐怖から、

リセミの精神を守るために生まれた疑似人格である。

俗に言う二重人格。

リセミの場合は、自分を守る生存本能でそれを生み出した訳だ。

さらに、私はリセミの孤独を癒すと共に、彼女のある感情を受け持った。
それが両親の存在を消し、苦痛を無くしたいという願望。

本人はその意志を否定し続けていたが、抑圧され続けたその感情が、今では私の心のほとんどを占めていた。
それほどまでに、リセミの、両親に対する殺意は大きかったのだ。

そんな殺人衝動の塊である私にとって、こんな奴の殺意を喰うなど造作も無い事。

私は無我夢中で刃物を振るう男の意志を食べていく。
そして、食べれば食べるほど、力が湧いてくるのを知った。

「ヒィッヒィッひひヒィッヒィひヒヒッヒヒッヒヒィヒヒ」

さらに、自分を律しようとする意志、つまり、理性を喰うと、男の意志が殺意一色に変わり、
その殺すという事に対する意志の力が強まる事が分かった。

それもその筈、ブレーキが無ければ車は止まらないように、理性が無ければ殺欲の意志もとまらない。



35 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 18:58:41.10 ID:SnNGILEU0


ミセ*゚ー゚)リ(じゃあ、これを繰り返していけば、人も殺せるし、意志を食べる事で私の力も強くなって……)

/ ,' 3 「ひ、ひぃ!!」

その時、男の意志を殆ど食べ終えた私の後ろから、悲鳴が聞こえてきた。
振り返ると、白いセーターを着た初老の老人が尻もちをついてこちらを指差している。

ちょうど良かった。

私が最初に、この体につけた傷が相当深かったらしく、足が上手く動かせなかったのだ。

こんな体ではこれから先、人を殺していく際に障害になる。
ひとまずは目の前の老人の体を無傷で乗っ取り、人殺しを続けながら次々に体を変えていけばいい。

と、そうこう思考している間に、恐怖の余り言葉も出ない老人が、必死に立ち上がり半ば這いずるように逃げ出していた。

「次の、次の僕の子供、待ってええええええええええええ!!」

ミセ* ー )リ(ふふふふ)

もちろん、せっかく見つけた獲物を逃がすつもりは無い。
私が歯止めを無くしてあげた、己の殺戮欲求を満たすために、リセミを殺した男が、勝手に老人を追って走り出した。


……さあ、楽しい楽しい殺戮ループの始まりよ……



36 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:02:07.87 ID:SnNGILEU0


从 ゚∀从「おっ、あったあった」

( ゚∋゚)「………」

俺は今、あの青年の傷ついた左腕の、止血をした場所に忘れてきていた、大事な鞄を取りに戻っていた。

このバラした人間が二人は入るほどの大きさの鞄は、普段クックルを持ち運ぶために利用しているのと、
クックルが破損した際に憑け変えるための、予備の小型の人形が数体入っている。

真昼間からどうどうと人形が町中を歩いていたら、人目を引いてしまうため、このような鞄が必要不可欠なのだ。

そんな女性には不釣り合いの鞄の中に、未だ手にしていたナイフを放り込んだ。

从 ゚∀从「にしても、外では滅多に出て来ないお前が、鞄も忘れて走り出すとはな」

俺は、コートを脱がしたクックルの関節部分を器用に折りたたんで、鞄に仕舞いながら呟く。
すると、クックルと俺以外に誰もいない筈のこの場所で、返事が返って来た。

もちろん、俺の口からだ。

从 ゚ -从「あなただって、いきなり一発やらせろだなんて、はしたない」

从;゚∀从「うっ……」

从 ゚ -从「それにクックルの左腕を、あの男の子にあげたのはどうして?」


40 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:05:30.13 ID:SnNGILEU0


从;゚∀从「そ、それは……」

あの青年の左腕に関する意志は、ほっとけばその内に治ったのだ。

それでも、気付いた時には、クックルの左腕をもぎ取り、無理やり彼の体内に移植していた。

ちなみに、クックルの方は先程食べた少女の霊志で、欠けた左腕を補ったので、今は動作に支障は無い。

それでも、何で俺はそんな事を。

从 ゚∀从「……やっぱり、フサに似てたからかな」

私の質問に答えながら、俺は先程の事を少し思い出す。

あの青年が俺を庇おうと飛びだして来た時の姿が、
俺の生みの親であり、私の主人でもある、フサの姿とダブったのだ。


42 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:07:16.40 ID:SnNGILEU0


从 ゚ー从「……でしょうね。私もそう思ったし」

从 -∀从「ったく、わかってんならいちいち聞くなよな」

クックルを仕舞い終えた俺は、鞄を手にして立ち上がり、私は顔を上げ夜空を見上げた。

頭上には私がフサと出合った時と同じ、満天の星空と欠けた三日月が輝いている。

从 ゚∀从「………」

从 ゚ -从「それで、これからどうするの?」

从 ゚∀从「だから、わかってんなら聞くなよ」

从 ゚ー从「そうね」

从 ゚∀从「それにな、一つ思い出した事があるんだ」

从 ゚ -从「思い出した事って?」

从 ゚∀从「女にとって、とってもとっても大切な事だよ。
      あいつには責任を取らせないとな。ハーッハッハッハイーンリッヒ!!」



43 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:09:19.75 ID:SnNGILEU0


(* ー(;,,゚Д゚)(な、何か寒気がするな……)

(;^ω^)「本当に、ここにツンがいるのかお?」

今、俺達はツンの自宅の前に来ていた。

しぃと二人でこの家に来た時に、
俺が聞いた声が、聞き間違いじゃなければ、ツンはここに霊としている筈だ。

俺の背で未だに眠っているしぃを、背負いなおし、玄関の戸を開けようとする、
しかし、左腕に傷を負い、右腕で背のしぃを支えているという、今の俺の状況では上手く開ける事が出来ない。

( ^ω^)「じゃあ、ブーンが開けるお」

そう言ってドアを開けようとしたブーンだったが、その手ではドアノブを掴む事が出来ない。
何度か試してみたブーンだったが、何度やってもすり抜けてしまい、結果は同じだった。

(;^ω^)「あうあう、本当に幽霊になっちゃってるお……」

今更な事を口走るブーンの声を聞きながら、しぃをドアの横に寝かせ、空いた右手でドアノブを掴んだ。
そして、ゆっくりとドアを開けようとした時、


45 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:14:49.71 ID:SnNGILEU0


ξ )ξ「来てくれたんだ、ブーン」

(;,,゚Д゚)(;^ω^)「うっひょおおおおおおおおおおおおおおおおお」

後ろから急に声をかけられ、驚きのあまりドアに顔面を強打した。
ブーンも俺と一緒にドアに突っ込んだのだが、そのまますりぬけてしまう。

痛めた鼻を押さえながら後ろを確認すると、ツンが俺たちの後ろに浮いていた。
家の中にいるブーンも、様子を窺うように、ドアから顔だけを出してくる。

ξ;゚听)ξ「あんた達、何やってんのよ。急に大声出さないでよ!!」

(;^ω^)「ツンがいきなり声をかけるから悪いんだお!!」

(;,,゚Д゚)「いるならいるって言えよゴルァ!!」

でも、俺達が気付かなかったのも無理は無かった。

ブーンと同じくツンの霊体も、殆ど透明になっていたのだ。

このままでは、この世から完全に消え去るのも、時間の問題である。


48 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:18:14.53 ID:SnNGILEU0


ξ゚听)ξ「もう、レディを待たせるなんて!! 今度からは、ちゃんと5分前に来るようにって言っといたでしょ!!」

(;^ω^)「あうあう、ごめんお」

ξ゚听)ξ「それに私の体を食べるなんて、一体どういうつもりよ!! 変態!!」

(;^ω^)「あ、あれは……」

ξ゚听)ξ「言い訳しない!!」

(;^ω^)「す、すいませんだお!!」

だと言うのに、こいつらの緊張感の無さは相変わらずだ。
でも、本人達も分かっているんだ、自分達にもう時間が残されていない事ぐらい。

ξ゚听)ξ「……ごめんね」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「私のせいで、ブーンに迷惑かけて……」

(;゚ω゚)「ち、違うお!! 僕が守らなくちゃいけなかったのに。
    ツンを守れなくて、それで!!」

ξ゚ー゚)ξ「……ありがとう、ブーン。最後にあなたに会えて良かった」

( ^ω^)「最後なんかじゃ無いお」


52 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:20:29.17 ID:SnNGILEU0


感謝の意を告げたツンの霊体が一際揺らぎ、
さらに、そんなツンにつられるように、ブーンの体の揺らぎも大きくなった。

二人は体を空中溶かしていき、その存在感を薄めていく。

ξ゚听)ξ「え?」

( ^ω^)「ツンを一人で逝かせたりしないお。これからもずっと僕達二人は一緒だお」

ξ゚ー゚)ξ「……ブーン」

向い合った二人の霊志が風に舞い、夜の闇の中をがきらきらと輝いた。
幻想的な空間の中、欠けてゆく二人の体は互いを補うようにさらに近づき、光の中で口づけを交わした。

この世にいられる最後の時間。二人が出来る最後の口づけ。

無力な俺は、その二人をただ見つめていた。
ブーン達の最後の時間を、僅かしかない再開の時間を、増やしてやる事など俺なんかには出来ようもない。

(*゚ー゚)「…ん……ツン、ちゃん? ツンちゃん!!」

そんなツンとブーンの唇が離れた時、眠っていたしぃが目を覚ました。
ゆっくりと立ち上がろうとするが、腹と足の痛みによるものか、よろよろと倒れかける。

そんなしぃに駆けより、俺はその身を支えた。


57 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:23:49.85 ID:SnNGILEU0


( ,,゚Д゚)「お、お前、ツンが見えるのか?」

(*゚ー゚)「何言ってるのよ、ギコ君。そこにツンちゃんがいるじゃない」

しぃに霊感があったなんて、幼い頃から一緒だった俺が知らない筈が無い。

じゃあ、何故、見えるようになったのか。

俺と同じく、体に他の霊が侵入したからだろうか。

あのハインリッヒという女なら、何か知っていそうだが、今、ここに奴はいない。

(*゚ー゚)「良かったぁ。しぃね、ツンちゃんのこと、必死で探したんだよ。
    でもね、もう大丈夫だよね? もういなくなったりしないよね?」

ξ゚听)ξ「……ゴメンね」

(*゚ー゚)「え?」

ξ゚听)ξ「私、もうここにはいられないの」


61 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:28:09.54 ID:SnNGILEU0


(*゚ー゚)「ツンちゃん、何言って」

体を支えていた俺の手を払いのけ、
しぃが片足を引きずりながらツンに歩み寄って行く。

そして、すがり付くようにツンに抱きつこうとしたが、そんな彼女の体はツンの霊体を通り抜けた。

その場でしぃは、地面の上にもつれるように倒れる。

ξ゚听)ξ「………」

(* ー )「……ぃや、だよ」

ξ゚听)ξ「……ゴメンね」

(*;−;)「いや、だよぉ、ぅぐ、しぃをぉ、おいてかないでよぉ」

ξ;゚ー゚)ξ「な、何言ってんのよ、しぃにはギコがいるでしょ?」

(*;−;)「四人みんなでいっしょじゃないと、やだよぉ」


65 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:31:42.17 ID:SnNGILEU0


( ,,゚Д゚)「しぃ……」

( ^ω^)「しぃちゃん……」

しぃの嗚咽混じりの声が、何も出来ない俺の心を絞めつける。

楽しい時だって、辛い時だって、いつも俺達四人は一緒だった。

もちろん、これからもずっと。
そう思っていたのに、別れは突然やってくる。

ξ )ξ「ギコ、今日だけは許してあげる」

( ,,゚Д゚)「………」

ξ;凵G)ξ「でも、これから先、しぃの事を泣かしたら許さないんだから!!」

( ,,゚Д゚)「……ああ、わかった」

二人が消えても、俺達の思い出は無くならない。
孤独だった一人一人が、寄り添い合い作って来た、記憶の欠片。


68 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:35:01.00 ID:SnNGILEU0


夜空に輝く満天の星空の中で、欠けた三日月が俺達を照らす。

俺達はそんな月のように、欠けた奴らが集まってできた、心の家族だ。

そもそもこの世に、満月のような完璧な奴は、存在しないのかもしれない。

全ての人が欠けていて、お互いを支え合う。
だから、ツンとブーンがいなくなっても、俺はしぃを支えていかなければならない。

それがツンの最後の願いであり、弱い俺の強い思いだ。

( ^ω^)「…ぎこ、そ、ろそろぉ」

( ,,゚Д゚)「もう……逝くのか」

( ^ω^)「い、まま、でありがと、だお」

ξ;凵G)ξ「ごめんね」

(* − )「いやだよ、いやっ!!」


70 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:36:42.01 ID:SnNGILEU0











                さ  よ  う  な  ら  しぃ









73 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:40:55.79 ID:SnNGILEU0


(*;−;)「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ」

原型を留める事が出来ず、存在を消していく二人。

そんな二人が溶けゆく空に、
しぃの絶叫が響くと同時に、二人を視認できなくなった。

絶叫の後、完全に霧散した霊志の光と、静寂だけが、その空間を支配する。

そして、その場には、俺達二人だけが残された。

それでも俺は生きていく、ツンとの約束を守るために。



75 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:43:13.97 ID:SnNGILEU0

これで最終話投下終了



……と言いたい所だが、実はおまけがあるんだ

でも、そのおまけはこのシリアスな空気をぶち壊しかねないので、
ここまでで十分満足な人は、読まない事をお勧めする。

では、さっそく、投下開始


78 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:45:49.54 ID:SnNGILEU0


6、「Ghost eater」

( ^ω^)「…ぎこ、そ、ろそろぉ」

( ,,゚Д゚)「もう……逝くのか」

( ^ω^)「い、まま、でありがと、だお」

ξ;凵G)ξ「ごめんね」

(* − )「いやだよ、いやっ!!」

ξ )ξ「……さようなら、しぃ」

(*;−;)「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ」

原型を留める事が出来ず、存在を消していく二人。
そんな二人が溶けゆく空に、しぃの絶叫が響くと同時に、二人を視認できなく

从 ゚∀从「とう!!」

ξ;゚听)ξ「きゃっ!!」

( ゚ω゚)「うぎゃっ!!」

なる寸前、いきなり屋根の上からハインリッヒが現れ、二つの物体を、ブーンとツンそれぞれに投げつけた。

その人型をした物体は、消えかかっていた彼等に直撃し、その中に二人を取り込む。


81 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:47:36.44 ID:SnNGILEU0


(;,,゚Д゚)「な……」

そして、今、俺の前には、先程のクックルという奴によく似た小さい人形が、二つ落ちていた。
ふと、その人形が立ちあがり、自分の姿を確認するかのように、顔をきょろきょろと動かす。

(*゚∋゚)「ちょっと、何よ、これえええええ!!」

(*゚∋゚)「お〜、ロボットみたいでかっこいいお!!」

从 ゚∀从「ふう、危ねえ危ねえ。あやうく、非常食を取り逃すとこだった」

屋根の上から飛び降りてきたハインリッヒが呟く。

(*゚∋゚)「ちょっと、何すんのよ、あんた!! 感動のシーンが台無しじゃない!!」

(*゚∋゚)「いったい、何なんだおこれ?」

从 ゚∀从「それはな、俺様が作った『1/10スケール、ムチムチ☆クックルちゃん人形』だ。
      おい、オマエ、そいつを見てどう思う?」



83 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:48:53.13 ID:SnNGILEU0


(*゚∋゚)「凄く……かっこいいですお」

(*゚∋゚)「ぐむむ〜!! 駄目だ、全然出られないわ」

从 ゚∀从「当たり前だ。俺の霊志を少しこめた髪の毛を、首に巻いといたからな。
     その霊志が無くなるまで、その人形からは出られねえよ。
     さながら今のお前達は俺のペットってとこだな」

(*゚∋゚)「ふざけんじゃないわよ!! 何よこの変な体。いいから早く出しなさい!!」

从 ゚∀从「だが、断る」

(;,,゚Д゚)「……おい、おまえ、いったい何しに来たんだよ」

从 ゚∀从「ああ、ちょっと思い出した事があってな」

( ,,゚Д゚)「思い出した事?」

从 ゚∀从「お前、俺の胸を揉んだだろ」

(;,,゚Д゚)「は?」

(*゚∋゚)(*゚∋゚)(*゚ー゚)「え?」


86 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:51:17.56 ID:SnNGILEU0


从 ゚∀从「しかもだ、俺が意識を失って動けない事をいい事に、
      強く激しく揉みしだきやがって。左胸がもぎとられるかと思ったぞ」

(;,,゚Д゚)「いやいやいや、待て待て待て!!」

(*゚∋゚)「……見損なったお、ギコ」

(*゚∋゚)「ギコ、あんたサイテーね」

(* − )「ギコ君、……本当なの?」

(;,,゚Д゚)「ち、違うんだ!! あれは、傷の具合を見ようとして」
(*゚−゚)「ふーん、傷の具合を見ようとして、服も脱がそうとした訳だ」

(;,,゚Д゚)「ち、ちが!!」

(*;ー;)「う、うえええん、ギコ君が浮気したああああああああああああ」

(*゚∋゚)「うわ〜、しぃちゃんを泣かせちゃったお」

(*゚∋゚)「ギコ……しぃを泣かしたら許さないって、言っといたわよねえ?」

( ,,゚Д゚)「ご、誤解だああああああああああああああああああああああああああああ!!」

ツンが憑いているであろう人形が、オーラを纏いながら歩み寄って来る。


90 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:53:52.87 ID:SnNGILEU0


このままでは、確実にあの鬼と化した人形に殺される。

俺はそんな、自分に迫る命の危機から身を守るために、すぐにツンから逃げようとした。
しかし、ハインリッヒがいきなり俺の腕を掴まえたので、逃げる事が出来ない。

从 ゚∀从「ちゃんと責任は取ってくれるんだろうな?」

(*゚∋゚)「ど、どうすんだお、ギコ? ギコには、しぃちゃんもいるのに……」

(*゚∋゚)「二股するなんて言ったらあんたどうなるか……分かってるわよね?」

(;,,゚Д゚)「ひい、離せ、離せええええええええええええええええええええええ!!」

从 ゚∀从「まあ落ち着け。俺は寛大な心を持った女神のような女だからな。
     俺の弟子として、今後一生仕えてくれると言うなら、許してやらん事も無い」

( ,,゚Д゚)「ふ、ふざけんじゃねえ!!」

从 ゚∀从「何だ、断るのか? 弟子になるって言うのなら、
     今さっき捕まえたペット二匹を、お前のパートナーとして
     貸してやろうと思ったのに」

( ,,゚Д゚)「え? そ、それって……」

从 ゚∀从「そこの二人をお前の自由にさせてやるって事だ」

(*゚∋゚)「ほ、本当かお!!」

(*゚∋゚)「じゃあ、私達ずっと一緒にいられるって事?」



91 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:54:56.90 ID:SnNGILEU0


从 ゚∀从「ああ、そうだ。お前らに、霊としての生き方を教えてやるよ」

(*゚ー゚)「な、なら!! しぃ、あなたの弟子になる!!」

( ,,゚Д゚)「お、おい、しぃ」

(*゚ー゚)「だから、だからツンちゃんと一緒にいさせて下さい!!」

从 ゚∀从「うーん、まあいいか。雑用は多ければ多いほどいいしな」

(*゚ー゚)「あ、ありがとうございます!!」

从;゚∀从「まあ、弟子にするのはいいとして、それよりも、まずお前は……」
(*゚ー゚)「やったあ、ツンちゃん、これでしぃ達、ずっと一緒にいられるよ!!」

(;゚∋゚)「わ、わかったからちょっと抱き付かないで!! つ、潰されるぅ!!」

从;゚∀从「病院に行った方がいいと思うぞ?」


93 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:56:06.26 ID:SnNGILEU0


(*゚ー゚)「え?」
(* ー ).・;'∴

(;゚∋゚)「おおお、しぃちゃん大丈夫かお!!」

从;゚∀从「言わんこっちゃない。
     肋骨が数本折れてるし、足の骨にも、ひびが入ってるんだぞ、お前は!!」

(* ー )「………」

(*゚∋゚)「へ、返事が無いお。だ、誰か!! 衛生兵、衛生兵はどこだお!!」

(#゚∋゚)「あんたはちょっと黙ってなさい!!」
バギッ!!

(∋゚ )「おぎゃああああ、首が!! 首が変な方向にいいいいいいい」

(*゚∋゚)「あら……意外と脆いわね」

从 ゚∀从「そりゃあ、予備だからな」

(*゚∋゚)「まあ、無理やり回せば大丈夫でしょ」
ボギャ!!

    「く、首がとれたおおおおおおおおおお!! 死ぬうううううううううううううううううううううう!!」



94 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:57:16.43 ID:SnNGILEU0


(;゚∋゚)「あ、ゴメンね、ブーン」

从;゚∀从「おい、何やってんだ!!」

(*゚∋゚)「え?」

从;゚∀从「そんな事したらそいつは……」

    「………」

(;゚∋゚)「まさか、う、嘘でしょ?」

    「………」

(;゚∋゚)「ちょっと、ブーン、返事してよ!!」

    「………」

(*;∋;)「ねえ、ブーン!! ねえってばあ!!」



98 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 19:58:42.63 ID:SnNGILEU0


( ^ω^)「嘘だおーん」

从 ゚∀从「ぎゃははははは、騙されてやがる!!」

( ^ω^)「おっおっおっ、首が折れたら、何か人形から出れたお」

从 ゚∀从「そりゃそうだ、俺の髪の毛も取れちまったからな。
     でも、なるべく人形に憑いてた方がいいぞ。霊志の拡散をある程度は防げるしな」

( ^ω^)「霊志の拡散?」

从 ゚∀从「つまり、長生きできるって事だ」

( ^ω^)「おお、なるほど」

(* ∋ )「おい、てめえら」

(;^ω^)「………お?」

(#゚∋゚)「てめえら、全員、殺してやるううううううううううううううう!!」

( ゚ω゚)「ぃぎゃあああああああああああああああああ」



99 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 20:00:23.05 ID:SnNGILEU0


从 ゚∀从「ギャハハハハハハハ、殺せるもんなら殺してみやがれってんだ」

(#゚∋゚)「ムキッ−!!」

(* ー )「苦しぃ、ツンちゃん、助けてぇ」

(;゚∋゚)「ああ、しぃごめんね。今すぐ、病院に!!」

( ^ω^)「おっおっ、こんな時でも、しぃちゃん、ダジャレ言ってるお」

(#゚∋゚)「てめえは黙ってろって、言ってんだろうが!!」

( ゚ω゚)「うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

从 ゚∀从「ギャハハハハハハハハハハハハハ!!」

(;,,゚Д゚)「………」

もう意気投合して、ふざけ合っているこいつらを見て、一人取り残された俺は呆気にとられていた。

そして、心の奥から思う。


            これからの俺の人生は、とても大変な事になりそうだ。





101 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 20:03:58.57 ID:SnNGILEU0

これにて、「( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです」は終了です。

実はこの話、今後書こうと思っている「( ,,゚Д゚)ギコは霊喰師なようです」(仮名)のプロローグに当たるお話なんですよね。

さて、ここからはあとがきみたいなものを長々と書いていこうと思う。


106 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 20:08:39.93 ID:SnNGILEU0

まず、各話のタイトルの説明

第一話「Loop」

意味は、第一話の内容通りに、繰り返しという意味。


107 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 20:12:55.43 ID:SnNGILEU0

次の第二話と三話「Chain」と「reaction」

ここは、二つで一つのお話なので、この二つの単語の意味を合わせて、連鎖反応と解釈する事ができる。


第四話「Prologue」

これは続きの作品のプロローグにあたる話なのでこの題名になりました。

第五話「Ending of start」

エキサイト翻訳で調べて、始まりの結末という意味

第六話「Ghost eater」

これは、霊喰師という意味。無理やりですね。すいません。



109 名前: ◆ZKiCFm8B3o 2007/05/14(月) 20:15:45.36 ID:SnNGILEU0

本編中の隠された情報

第二話の

こんなに、気分が良いのはいつぶりだろうか、いや、これ程の高揚感は初めて感じるモノかもしれない。
なんで今まで人を殺してみようと思わなかったんだ。今までの人生が本当に無駄に感じられた。
いつまでも、いつまでも、この感覚を感じていたい、達していたい、笑っていたい。
でも、その為にはもっともっと赤い色でここを染めつくし、ワタシがすごしやすい環境にしないと。

この分は縦読みになっている。前にも言ったけどちょっとした遊び心です。

他にも、ブーンがツンの家に来る前に彼女は一度出かけているが、
これは、リセミのお母さんのところに行ってたんだよね。何をしたかは言わずもがな




【関連】
一気読み
第一話 - 第二話 - 第三話 - 第四話 - 最終話

http://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1179134160/


ブログパーツ ブログパーツ
inserted by FC2 system