( ^ω^)ブーン系小説完結作品集('A`) 〜( ゚∀゚)が空を行くようです 一気読み〜

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31 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:04:55.24 ID:WLRXIT9t0
 _
( ゚∀゚)が空を行くようです


このお話は
『( ^ω^)が空を行くようです 第二十一話 「男の子と女の子」』
の後に起こった、サイドストーリー的なものです。

ttp://boonwork.web.fc2.com/work/boon/sorawoiku_21.html




32 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:06:18.68 ID:WLRXIT9t0

前編 : 整備長、深夜の徘徊日記


(#'A`)「あ〜……あったま痛いわ〜……」

頭の奥の奥からズンと響いてくる鈍痛で、あたしは目覚めた。

手近に転がっていたボトルの水を口に含むと、
歪んだ世界が徐々に戻り、ピントのあった視界に風景が宿る。

(#'A`)「あ〜……確か宴会を開いたんだったわね〜……」

見渡した大広間には転がる酒瓶や皿の上から散乱したつまみの数々、
そしてオイルや埃にまみれた作業服に身を包み床に突っ伏す、男、男、男。

平時のあたしなら、男くさいこの部屋に充満したフェロモンにムラムラと来るところだが、
流石に飲みすぎた後の目覚めでは性欲も失せていた。



33 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:08:33.95 ID:WLRXIT9t0

時間が気になり広間の壁に掛けてある時計を見る。
針は深夜の二時を指していた。

昨日『鈍色の星』のドックにて製作中だった『機械の耳』が完成し、取り付け作業が終わった。
明日、というより今日、朝一番に『鈍色の星』を発つ予定だ。

('A`)「もう一眠りしようかしら……」

続けて、『んがー!』と豪快なあくびをしてしまった自分を
『乙女がそんなあくびをしちゃダメよ、ド・ク・オ♪』
と心の中で叱り飛ばすと、抱き枕にするために可愛いあの子の姿を探す。

('∀`)「ブーンちゅわぁぁぁん! どこぉぉぉぉぉ〜!?」

「は〜い……」

だけど、あたしのキュートな呼び声に答えたのはブーンちゃんの愛らしい声じゃなくて、
地獄の底から助けを求めるかのような低くくぐもった声だった。



36 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:10:59.54 ID:WLRXIT9t0

(#´∀`)「毒男〜……水をくれモナ〜……」

足元から響く不細工な声に視線を下ろすと、
そこには床にうつぶせに寝転んでピクピクと手をあげるモナーがいた。
酔いつぶれて二日酔いの苦しみに襲われている最中らしい。

('A`)「あんたなんか呼んじゃいないわよ」

(#´∀`)「う〜ん……水をくれモナ〜……」

声を上げるのは、ふくよかなで若々しい張りの頬を持つブーンちゃんじゃなくて、
無精ひげと剃り残しが青々と茂るこけた頬を持ったモナー。彼はすっかり地面と仲良しだ。

二日酔いの苛立ちも手伝ってか、あたしは手にしたボトルをさかさまにして、
中身の水をうつぶせのモナーの後頭部にびちゃびちゃとぶちまける。

( ´∀`)「ペロペロ……う〜ん、水がうまいモナ〜……」

床に零れ落ちた水をペロペロと舐めては心底幸せそうな声を上げるVIP飛行機械部隊の隊長。

('A`)「レッドバロンも地に堕ちたものね……」

そうつぶやくと、あたしはひとり扉を開けて、酒臭い大広間を後にした。



38 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:13:18.45 ID:WLRXIT9t0

                   *

居住エリアに続く、補助電球の頼りない明かりだけが照らす薄暗い廊下を歩く。

はじめは酒の抜け切らないせいかふらふらの千鳥足だったけれど、
廊下に一発吐けば一気にすっきりとした。体力と性欲が完璧に戻る。

それから、スキップをしながらブーンちゅわんの部屋を目指していると、
その道半ば、半開きの扉から漏れる光を見た。

('A`)「副艦長の部屋じゃない」

そう言えば昨日、エデンへの海図を描くとか言っていたようないなかったような。

別に副艦長には異性としての興味は無かったけど、
普段クールな彼が部屋ではどのように振舞っているのか気になり、
悪いとは思いつつも、つい覗き見てしまった。



41 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:15:52.13 ID:WLRXIT9t0

('∀`)(これで072でもしてたら面白いんだけどねえ……)

ほのかな期待を胸に覗き見たあたしだったけど、それはもろくも崩れ去った。
部屋の中に見えるのは、いつものスーツを着込んで机の上に突っ伏している副艦長の姿。

しかし、全く同じ色と形のスーツが何着も壁に掛けられている部屋を見て、
あたしは思わず噴出してしまった。

('∀`)(しっかりしてるようでどこかおかしいのよねぇ、この人……)

女って、完璧な男よりちょっと抜けている男に惚れちゃうのよね。
あたしはオカマだけど。ぶほほほほほwwwwwwwwwwwwww

でも、あたしにはブーンちゅわわんがいるの! 浮気はダメ、絶対!

机の上で眠る副艦長の背後へと近づきながら、あたしは必死で自分に言い聞かせていた。
部屋の隅のベッドから毛布を取り出し、副艦長にかけてやる。

そのとき、副艦長の肩がピクリと動いた。

( ゚д゚ )「……んぁ」

('A`)「副艦長、机の上で寝てたら風邪引くわよ?」

(;゚д゚ )「……ああ、これはすまんな。 って、うあああああああああああああああああああああああああああああ!!」 




43 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:18:10.02 ID:WLRXIT9t0

あたしへと振り返った副艦長は、突如大声を上げると椅子から転げ落ちた。
そのまま後頭部を机の端で強打し、床に転がって悶絶する。

('A`;)「ちょっと、大丈夫?」

(;゚д゚ )「っ痛ぅー……。毒男、勘弁してくれ。俺にはそんな趣味はない」

('A`;)「はぁ!? そんな趣味ってどんな趣味よ!?」

( ゚д゚ )「こんな趣味だよ」

そういうと、副艦長は後頭部をさすりつつ本棚から一冊の本を取り出す。

('A`;)「何々……『同性愛のすすぬ』!? なんで副艦長こんな本持ってるのよ!?」

( ゚д゚ )「艦長やオカマがVIPにいるからだ。人間の価値観は人それぞれだからな。
    副艦長たるもの、艦長とオカマの部下の性癖も少しは理解せんといかん」

('∀`)「……んもう! 副艦長最高!!」

(;゚д゚ )「ぐああああああああああああああああああああああああああああ!!」



44 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:20:09.45 ID:WLRXIT9t0

副艦長の心遣いが嬉しくて、あたしはつい全力で抱きしめてしまった。
156cmの副艦長。華奢な身体がボキボキと鈍い音を鳴らす。

('∀`)「あらー、ごめんなさいね。大丈夫?」

( ゚д゚ )「っく……背骨が……。いや……大丈夫だ」

副艦長は背骨をさすりながら、気丈にも立ち上がって見せた。

んもう、無理しちゃって! でもそんなところに女は惚れちゃうのよね!
だけど、ダメよドクオ! あたしのお目当てはブーンちょわんだけ! 

人間止めますか? 浮気止めますか?

( ゚д゚ )「……で、お前はこんな時間に何をしている?」

部屋の時計を目にして、副艦長はいぶかしげな表情で尋ねてくる。

('A`)「ブーンちゃんの部屋に夜這いに行く途中でたまたま通りかかってね。
  ちょっと覗いたら副艦長が机に突っ伏して寝てたんで、毛布をかけてやろうと思ったわけよ」

( ゚д゚ )「それはありがたいが、今後は止めてくれ。目覚めにお前の顔を見るのは心臓に悪い」

('∀`)「ぶほほほほwwwwwww 何それ? 今はやりのツンデレってやつ!?
   遠慮しなくていーのよぅ! それより副艦長、いろんな本読んでるのねえ」

( ゚д゚ )「いいから帰れ。さっさと夜這いに行ってこい」



48 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:21:36.85 ID:WLRXIT9t0

('∀`)「あら、なにかしらこの本?」

ハードカバーの学術書ばかり並ぶ副艦長の本棚を物色していると、
ブックカバーのつけられた場違いな文庫本を見つけ、あたしはそれをぺらぺらとめくる。

とたん、いつもポーカーフェイスを崩さない副艦長があせり始める。

(;゚д゚ )「ば、ばか! それは見るな!」

('∀`)「ミルナはあんたでしょ? 
   何々〜、『ゼロの使い魔』? へぇ〜、副艦長もこんな本読むんだ〜」

( ゚д゚ )「息抜きのために買った本だ。気にするな」

副艦長は平静を装ったのか、元の口調に戻ると、
あたしから本をひったくって、代わりにコンドームを投げてよこす。

( ゚д゚ )「さっさと夜這いに行ってこい」

('∀`)ノシ「ぶほほほwwwww そんじゃ、行ってきまーす!」

( ゚д゚ )「明日は早いんだから、ほどほどにしとけよ」

どこか的のはずれた注意を受けて、あたしは副艦長の部屋を後にした。



50 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:24:05.67 ID:WLRXIT9t0

                          *

ブーンちゃわんの部屋に向かう途中、
突然小便……もとい、もよおしちゃったあたしは、手近に見つけたお便所に足を運ぶ。

入るのは残念ながら男子お便所。
本当は女子お便所に入りたいんだけど、クーが入隊したての頃に彼女と女子お便所で鉢合わせた際、
彼女に本気で発砲されたため、それ以後身の安全のために男子お便所を使うようにしている。

ちなみに、そのときの弾痕は今も女子お便所に残ってるらしい。(ツンが見つけてクーに聞いたそうな)

あたしは作業着であるツナギのホックを下げながら男子お便所に入る。
そこで、思いもよらぬ人物と鉢合わせた。

(´・ω・`)「なんだ、毒男じゃないか」

('A`;)「……艦長、何してるの?」

男子お便所は入り口から
鏡付きの洗面台、三個の小便器、その背後に一個の個室の大便器という配置になっている。

その個室の大便器に、扉も閉めないで座っている艦長の姿があった。



55 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:27:47.70 ID:WLRXIT9t0

      人
     (__)
    (__)
    (´・ω・`)  「何してるのって、見ての通りだが?」
   /   つ
   (_(__⌒))). |^lヽ、
  ┌─(_)─┘.| )


('A`;)「いや、そういうことじゃなくて……」

艦長はパジャマ(ご丁寧に三角帽子付き)のズボンをずり下げ、便座の上で排泄モードに入っている。

昨夜の宴会ではグデングデンに酔ってたのに、
ちゃんとパジャマに着替えているあたり、しっかりしているというかなんというか……。

いや、改めてまじまじと見てみると、艦長はただの排泄モードなわけじゃない。

膝の角度が直角で、太ももが小刻みに震えていることから、
彼は空気椅子をしているのだろうと推測できた。



59 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:30:18.13 ID:WLRXIT9t0

(´・ω・`)「毒男。空で生きる者は瞬時に周囲の状況を把握しなければならん。
     さあ、俺の今の状況を瞬時に判断してみろ」

('A`;)「えーっと、個室の扉を開けたまま、空気椅子をしながらお通じ中……かしら?」

(´・ω・`)「うむ。見事だ。流石はVIPの整備長だな」

とりあえず、あたしが整備長であることと今の状況を見抜けたことには
何の関係もないと思いつつも、妙に冷静なあたしは艦長に更なる疑問を連ねる。

('A`)「えーっと、いくつか質問があるんだけど、いいかしら?」

(´・ω・`)「ん? 俺はかまわんぞ。
     俺はお前らに隠し事をする気はまったくない。さあ、何なりと聞いてくれ」


60 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:32:12.28 ID:WLRXIT9t0

('A`)「一つ目。どうして個室のドアを閉めないの?」

(´・ω・`)b「ドアを開けていた方がさわやかじゃないか」

('A`)「ああ……なるほどね。それじゃあ二つ目。何で空気椅子してるの?」

(´・ω・`)「うむ。実にいい質問だ。実はな、これは太ももの筋肉を鍛えているのだ」

('A`;)ノシ「いや、見ればわかるから。なんでお通じしながら太ももを鍛えているのかを聞いているのよ」

(´・ω・`)「踏ん張ることで腹筋を鍛えつつ、同時に空気椅子で太ももも鍛える。
     どうだ? 太もももだ。太もももだぞ?」

('A`;)「太ももも太ももも連呼しないでよ。すももももももみたいで紛らわしいわよ。
   で、なんで腹筋と太もももも……ああもう! なんで太ももも鍛えてるの!?」

(´・ω・`)b「艦長たるもの、常に精進を怠ってはならん。それがたとえ排泄行為の最中であってもな。
      それが乗組員たるお前たちを守る俺の使命でもあるんだ。
      安心しろ。お前たちの命は、何が起きても必ず俺が守る」

('A`)「……ありがとうございます」



61 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:33:09.63 ID:WLRXIT9t0

どんな感動的な言葉も、この状況では何の感慨ももたらさない。

良くわからない艦長の理論に疲れ、
お便所を後にしようとしたあたしの背中に、艦長の声が突き刺さる。

(´・ω・`)「なんだ? 小便はいいのか?」

(#'A`)「おかげさまで引っ込みました!」

疲れた声を出してお便所を出たあたし。

背後から聞こえてきた「変なヤツだなぁ」という艦長の呟きが、あたしをさらに疲れさせた。



66 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:36:02.56 ID:WLRXIT9t0

                    *

お便所を後にし、改めてブーンちょわわわーんの部屋を目指していたあたし。
薄暗い廊下をしばらく歩くと、暗闇の向こう側から静かな足音が聞こえてきた。

('A`)「なんだ、クーじゃない」

川;゚ -゚)「うお! ……なんだ、毒男か」

('A`)「何で驚いてんのよ。毎日嫌と言うほど顔をつき合わせているでしょうが」

川 ゚ -゚)「それはそうなんだがな。正直、深夜にお前の顔を見るのは心臓に悪い」

(#'A`)「どういう意味よ!」

川 ゚ -゚)ノ「まあ落ち着け。こんな深夜にどこへ行くのだ?」

('A`)「……レディにそれを聞くの?」

川 ゚ -゚)「お前はレディじゃない。オカマだ」



69 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:37:48.64 ID:WLRXIT9t0

暗がりの向こうから現れたのはクーだった。

昨夜の宴会の後、いつのまにか自室へ戻っていたらしい彼女。
頼りない補助電球の明かりに照らされたその顔は、同性のあたしから見てもドキッとするものだった。

これであたしみたいに口調が穏やかで物腰が優雅で柔らかければ
三十路を過ぎて独身っていうことにもならなかったのにねぇ。

それにしてもこの子、とても三十路に見えないわね。
二十台前半でも通じるわ。まったく憎らしい。

('A`)「で、あんた、どこ行くの?」

川 ゚ -゚)「便所だ」

('A`)「あんたねぇ……まがりなりにも女なんだから、少しは恥じらいを持ちなさいよ」

川 ゚ -゚)「うるさいな。ほっとけ。お前たちのような男に囲まれれば嫌でもこうなる」

(#'A`)「あたしはオカマよ!」

川 ゚ -゚)「そうだ」



71 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:39:37.59 ID:WLRXIT9t0

('A`;)「え? ……ち、違う! あたしはレディよ!!」

川 ゚ -゚)「女に竿はついていない」

(#'A`)「エデンに着いたら取るわよ! 全く、ああ言えばこう言うわね……
   だいたいあんた、ここに来たときからそんな口調じゃない!」

川 ゚ -゚)「そんな昔のことは忘れた」

('∀`)「ぶほほほほwwwww あんたも年ねぇwwwwwwww」

川 ゚ -゚)「ふむ、年か…… そう言えば、私は今何歳だ?」

('A`)「知らないわよ、そんなこと」



72 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:41:41.60 ID:WLRXIT9t0

川 ゚ -゚)「それより飛行機械のことなんだが、ラダーの反応が悪い。調整しておいてくれ」

('A`)「ここで言われても何も出来ないわよ。
  大体、あんたやモナークラスのパイロットになるとミリ単位で注文つけてくるでしょうが。
  その癖、勝手にいじったらギャーギャー文句言うからたまったもんじゃないわ。特にあんたはね!」

川 ゚ -゚)「ギャーギャーは言わないぞ」

(#'A`)「うるさいわね! ものの例えよ! 今度あんたも交えてじっくりやらせてもらいます!」

川 ゚ -゚)「それは助かる。ついでにエンジンの空気圧を少し変えてみてほしいんだ」

('A`)「ああ、エデン近郊はココとは微妙に酸素比率が異なっているかもしれないからね。
  了解したわ。そのためには何度かテスト飛行してもらうことになるけど大丈夫?」

川 ゚ー゚)「望むところさ。それとブーンのことだが、
    あいつの旋回は少し癖が強い。フラップの動きを調整してやってくれ」

('A`)「はいはい。その他もろもろぜーんぶ含んで、明日やらせてもらうわよ。
  さっさと便所行きなさい。漏らすわよ」

川 ゚ -゚)「うむ。確かに。では失礼する」



75 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:43:48.88 ID:WLRXIT9t0

膀胱の張り具合を確かめたのだろうか? 下腹部を押さえながらつぶやいたクー。
長年の付き合いだけど、この子は本当によくわからないわ。

クーはあたしの横を通り過ぎると、挨拶代わりに片手をひらひらとさせた。
やることなすこと様になる女だわ。本当にムカつく。可愛さあまってジェラスィー百倍。

そんなあたしの頭に妙案が浮かぶ。クーの背中に話しかける。

('A`)「ちょっとー!」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

('A`)「男子お便所に、あんたに見せようと思ってた飛行機械の資料忘れてきちゃったのー。
   回収して目を通しておいてくれなーい?」

川 ゚ -゚)「男子便所のどこだ?」

('A`)「洗面台のところよー」

川 ゚ -゚)b「それならおkだ。把握した」

勇ましい肯定の声を残し、クーの姿は廊下の暗がりへと消えた。
大成功! 『ぶほほw』と笑いをかみ殺しながら、あたしはお便所の反対方向へと廊下を進む。

そして案の定、しばらくしてトイレの方から連続した銃声が聞こえてきた。



78 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:46:22.67 ID:WLRXIT9t0

(;´・ω・`)「おい! クー! 止めろ! とりあえず落ち着いてほしい! 
     テキーラやるから! 銃はシャレにならん!! うわ! 俺を便器に突っ込むな! 
     レバーを引くな!流される!! うあああああああああああああああああああ!!」

川#゚ -゚)「汚物は流す! それが便所のルールです!」


    |             |
    |         ゴボゴポポポ・・・
    |             |
__ノ              |    _
| |                    |  /\__ヽ
ヽ二二 ヽ -―- 、        | /  /(◎)
_____/ /" ̄ヽヽ_   /  /
   /  /         /⊃ /
  |  | (;´・ω・`) //
  |  |/     /        \
   .\ヽ  ____/\゚ 。       \
     .\\::::::::::::::::: \\.    |\   \   ______
       .\\::::::::::::::::: \\ /   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       \\::::::::::::::::: \ | 畜生!エデンを見ずに流されてたまるか!
         \\_:::::::::::_)\____________
             ヽ-二二-―'



81 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:49:08.14 ID:WLRXIT9t0


川#゚ -゚)「毒男オオォォオオォォォオオ! 図ったなああああああぁぁぁあああ!?」


(;´・ω・`)「おい、クー! 助けろ! 流れる! これは流石にまずいって!!
      あっぷ! 水が!! うわー暖かいなり〜。って流されちゃううううううううううううううう!!」


ぶほほほほwwww 大成功!!

心の中でガッツポーズしながら、あたしは一刻も早くお便所から距離を取るために走り出した。



83 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:50:19.74 ID:WLRXIT9t0

                   *

恐々とした怒鳴り声とともに後を追ってくるクーから逃亡し続けること小一時間。
艦内の壁面にあまたの弾痕を残したのと引き換えに、なんとかあたしはクーを巻いた。

そのせいか、性欲はすっかり消え失せていた。
激しい運動をすると性欲が減退するという説はどうやら本当らしい。

ブーンちゃんの部屋に行く気を無くしたあたしは、
なんとなく通りかかった下部甲板に降り立った。

('A`)「あら、明かりがついているわね。誰かいるのかしら?」

タラップを下り、下部甲板の床に脚をつける。あたしの着地する音がゴーンと鳴り響く。

予想以上の大きな音にダイエットの必要性をひしひしと感じていると、
銀色の飛行機械の傍らに、横たわる人影を発見した。



84 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:52:54.56 ID:WLRXIT9t0

('A`)「小娘! こんなところで寝てたら風邪引くわよ!」

ブーンちゃんを誘惑する憎たらしい小娘、ツンの即頭部を右足でコツンとつつく。

すると小娘は上半身だけ起き上がり、釣り目がちの目を狐のように細め、
喧嘩を売っているかのようなまなざしであたしをにらみつけてきた。

ξ‐听)ξ「ん……」

('A`)「あんた、こんなド深夜に何やってるの?」

ξ;゚听)ξ「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

('A`;)「あべし!」

寝ぼけ眼の小娘を覗き見ていると、叫び声を上げたこいつはあたしを突き飛ばしやがりましたわ。
油断していたあたしは盛大にひっくり返り、後頭部を床へとしたたかに打ち付けてしまった。

小娘の叫び声に負けない激突音が甲板に響き渡り、再びあたしはダイエットの必要性を痛感する。



85 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:55:01.05 ID:WLRXIT9t0

ξ#゚听)ξ「ちょっとオカマ! 何すんのよ!?」

(#'A`)「何すんのよって、起こしただけじゃない! 
   そんなことより、あたしの美しい後頭部にたんこぶが出来たわよ! どう責任取ってくれるのよさ!?」

ξ#゚听)ξ「そんなもん、つばでもつけときゃ直るわよ!
    それより、あんたの顔を寝起きに見て受けたあたしの精神的苦痛の責任を取りなさい!」

(#'A`)「精神的苦痛ですって!? あたしの美しい顔に嫉妬してんじゃないわよ!!
   それに、後頭部につばつけたら毎日ビダルサスーンシャンプー&コンディショナーで洗っている
   あたしのさらさら黒髪ヘアーがベタベタになるじゃないのよ! 馬鹿じゃないのあんた!?」

ξ#゚听)ξ「うるさい! 大体あんた、オカマのくせにあたしより髪がきれいだなんてムカつくのよ!
    今度髪の手入れの仕方教えなさいよ!!」

('A`)「あ、それなら喜んで教えるわよ。鈍色の星の市場でいいシャンプー見つけたのよー。
   ニュー速の上層から湧き出る一番水を使ったすっごいいいシャンプーなの!」

ξ゚听)ξ「えー、嘘!? 今度貸して!!」

('∀`)「いいわよ〜。ついでに化粧水も貸してあげるわ。すっごく肌が潤うのよ」

ξ*゚听)ξ「ホントに!? ありがとう!! お礼に香水貸してあげる!!」

('∀`)「えー、マジ!? あのいい匂いする奴でしょ!? 貸して貸して!!」



87 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:55:50.12 ID:WLRXIT9t0

それから十分ほど、あたしたちはそんな話題で盛り上がった。

('A`;)「えっと……あたしたち、何の話してたんだっけ?」

ξ;゚听)ξ「……さあ?」



90 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:56:59.03 ID:WLRXIT9t0

(#'A`)「思い出したわ! あんた、せっかく起こしてあげたあたしを突き飛ばしたでしょ!?
   後頭部にたんこぶ出来たわよ! どうしてくれんのよさ!?」

ξ#゚听)ξ「あんたが悪いんでしょ! 寝起きにあんたの顔みたら誰だって叫び声上げるわよ!
    妖怪みたいな顔してんじゃないわよ!!」

(#'A`)「ムキーッ! あんた、美的感覚狂ってるんじゃないの!? 
   誰もがうらやむあたしの美貌をぬらりひょんみたいだなんて、それはいったいどういう了見よ!!」
ξ#゚听)ξ「誰もそんなこと言ってないわよ! 少なくともぬらりひょんよりはマシよ!」

('A`)「それならいいわ。で、あんた、こんなところで何をしてたの?」

ξ゚听)ξ「え? ……ああ、飛行機械の整備よ」

そう言うと小娘は、床に散らばらせていた工具を拾い上げ、いそいそと工具箱にしまい始めた。



94 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 20:58:56.04 ID:WLRXIT9t0

('A`)「整備ならあたしたちがやるわよ。少なくとも、あんたよりはいい整備が出来るわ」

ξ゚听)ξ「……そのくらいわかってるわよ」

散乱する工具を一つ一つ拾い集めながら、小娘は続ける。

ξ゚听)ξ「だけど、あんたたちがいつもあたしとブーンの傍にいるとは限らないでしょ?
   急なトラブルでどこかの島に不時着したとき、ナビのあたしが整備くらい出来ないと困るじゃない。
   基本的な整備くらいならあたしとブーンも出来るけど、
   ナビのあたしにはそれ以上の技術がいると思うの。だからもっと腕を磨かなくちゃいけないわ」

('∀`)「……ふーん。なかなか殊勝なこと言うじゃない」

近くにあった工具を拾い上げ、それを小娘に投げてよこす。

('∀`)「だけど、整備の基本は工具の整理からよ。こんなに散らかしているようじゃまだまだねぇ……」

ξ゚听)ξ「……それ、ジョルジュにも言われたわ」

あたしの投げた工具を受け取ると、それですべてを集め終えたのか、小娘は工具箱をバタンと閉じる。



96 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:01:17.18 ID:WLRXIT9t0

('∀`)「ふーん。ジョルジュもなかなか言うじゃない。流石はあたしの一番弟子ね」

ξ゚听)ξ「……くやしいけど、あんたたちの整備の腕は認めるわ。
    さっきジョルジュに整備の深いところをちょろっと教えてもらったんだけど、
    やっぱりあいつ凄いわね。ただのお調子者でスケベでスカポンタンなサイテー野郎じゃないみたいね」

('A`)「あら? ジョルジュが来てたの? あいつ、あたしと一緒に酔いつぶれていたはずだけど?」

ξ゚听)ξ「そうなの? 全然酔った様子してなかったわよ。
    むしろいつもより真面目な顔してて、逆に気味が悪かったくらいよ?」

ふーん……あいつ、いったい何をやってるのかしら。ちょっと気になるわねえ。

ξ゚听)ξ「それにしても、この艦の男どもにはホントに参っちゃうわ。
    黙って真剣な顔してりゃそれなりにかっこいいのにさ。普段の振る舞いを見てたら萎えるわよねぇ」

('∀`)「あら? それはブーンちゃんのこと?」

ξ;゚听)ξ「ち、違うわよ! あいつはただの幼馴染なだけよ! 
     あいつをかっこいいだなんて思ったことは一度も無いわ!!」

('∀`)「そうよねぇ。ブーンちゃんって、年より若く見えるって言うか幼いって言うか……。
   顔もまだまだ丸っこくて童顔だし、可愛くてもかっこよくは無いわよねぇ……」



97 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:03:28.32 ID:WLRXIT9t0

うそぶきながら小娘の方をチラリと見やると、
案の定、彼女は表情に少しの不機嫌な色を見せた。

あたしは調子に乗って口からでまかせを続ける。

('∀`)「表情も緩んでいて、いっつもヘラヘラしてるだけだし、
   ジョルジュと一緒に毎日馬鹿やってるだけだもんねぇ。はっきり言って、恋愛対象には見れないわよねぇ」

ξ;゚听)ξ「そ、それはそうなんだけど!」

小娘の大声が甲板に響く。来た来た。これはヒットの予感ね。

ξ;゚听)ξ「あいつは馬鹿で子供でヘラヘラしててなよなよしてるけど、た、たまにはかっこいいのよ!
    飛行機械のバックミラーに映るあいつの顔は……」

('∀`)「あいつの顔は?」

ξ;゚听)ξ「あ、あいつの顔は……」

ξ////)ξ「……」


ξ////)ξ「さ、坂口元厚生労働大臣に似てるのよ!!」


小娘の大声が響いた後、甲板はしばらくの間、気まずい沈黙に包まれた。


http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2004/images/07sakaguti.jpg



108 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:06:47.29 ID:WLRXIT9t0

('A`;)「ねえ、坂口元厚生労働大臣って……誰?」

ξ////)ξ「し、知らないわよ! なぜか口からその名前が出てきたのよ! あ、あたし、もう帰る!!」

顔を赤らめながら甲板の出口へと向かう小娘。
肝心なことは聞き出せなかったけど、それなりのことを察したあたしは顔のにやけが止まらない。

最後に、遠ざかる彼女の背中に話しかけた。

('∀`)「小娘、これをあげるわ!」

ξ゚听)ξ「え?」

あたしが投げたそれを小娘は見事にキャッチする。
手にしたそれをまじまじと見つめ、不審気な顔で聞いてくる。

ξ ゚‐゚)ξ「……これ、何?」

('∀`)「うふふwwww コ・ン・ドーム♪ 避妊はしっかりしなさいよ!!」

ξ////)ξ「ば、馬鹿じゃないの!? 死ね!!」



113 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:08:03.45 ID:WLRXIT9t0

小娘は近藤さんを床に叩きつけると、
片手に持っていた工具箱からスパナを取り出し、あたしに向かって思いっきり投げつけてきた。

顔面にめがけて飛んできたそれを、あたしは首をかしげてひょいと避ける。
後方で、スパナが床を打つ音が響く。

('∀`)「ダメよぅ、小娘。工具は大事に使わないと」

ξ////)ξ「うるさい! このエロオカマ!!」

捨て台詞を残すと、小娘の姿は出口の奥に消えていった。

('A`)「……それにしてもジョルジュの奴、夜遅くに何をしていたのかしら?」

小娘はジョルジュの顔が不気味なほどに真面目だったと言っていた。
普段ヘラヘラしているあいつが真面目な顔になるのは、きっと何かそれ相応の理由があるはずだ。

そんなことを考えながら、小娘が消えた居住区方面の出口に向かったそのときだった。




114 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:09:41.95 ID:WLRXIT9t0

川 ゚ -゚)「おい、ツン。オカマを見なかったか?」

ξ゚听)ξ「え? この先の下部甲板にいますけど? 銃なんか持っちゃってどうかしたんですか?」

川#゚ -゚)「あいつのせいで……私は世にも気色悪い光景を見る羽目になったんだ。
    それはもう脳裏に焼きつくほどのな。あいつは私の手で……必ず殺す!」

ξ゚听)ξ「ぜひ殺してあげてください。世界の平和のためにも」

('A`;)「うお! やっべ!」

一歩を踏み入れようとした出口。その奥から響くのは般若の声。

あたしは全速力で反対方向の出口へと駆け出した。

ちなみにその数時間後、あたしが再び下部甲板を訪れたとき、
床に投げ捨てられたはずのコンドームは影も形も見当たらなかった。



116 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:13:33.65 ID:WLRXIT9t0

                    *

('A`)「あー、まいったわー」

さらに般若のクーから逃げ続けること三十分。
何度か後頭部を銃弾がかすめた気がしたけど気にしないわ。

気が付くとあたしはブリッジの近くにいた。

そういえば昨日『機械の耳』をつけたんだったわね。
どうせ眠れそうも無いし、ちょっくら動作チェックでもしようかしら。

そう思いブリッジへと向かい、その扉を開ける。
普段は艦長や副艦長、その他クルーがいて絶え間なく騒がしいここだけど、
深夜のブリッジはひっそりとしていた。

確かに、ひっそりとしていた。



119 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:15:44.64 ID:WLRXIT9t0

('A`)「……あら?」
  _
( ゚∀●)「……」

ブリッジの奥、『機械の耳』の設置してある席にはジョルジュが座っていた。

両耳に『機械の耳』直通のヘッドフォンを付け、
ボーっとブリッジの窓から停泊中のドックのデコボコな壁面を眺めている。

('∀`)(……ぶほほww 気づいていないわね?)

あたしはそーっとジョルジュの背後に近寄る。
眉毛はヘッドフォンをつけているせいか、まったく気づいていない様子。

('∀`)(……まったく、なんで深夜にたそがれてるのかしら? 
   厨二病かしらね? こいつはいっちょ驚かせてやるわ!)

そろりそろりと足をしのばせ、眉毛の座る椅子の背後まで来た。
そして、彼の目の前にあたしの美しい顔をバッと出した。


('∀`)「ちゃお! ジョールジュ♪」

  _
( ゚∀●)「……」



120 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:16:29.92 ID:WLRXIT9t0




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126 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:19:31.05 ID:WLRXIT9t0

あたしの顔を見たジョルジュは、この世の終わりのような顔をして泡を吹いて倒れた。
予想外の出来事に、あたしは慌ててジョルジュを揺さぶり起こす。

('A`;)「ちょっと! しっかりしなさい!」
  _
( ;∀●)「ば……化け物……空の化け物……」

('A`;)「しっかりしなさい!あたしよ!毒男よ!!化け物なんていないのよ!!」
  _
( ;∀●)「……毒男?」

泣きながらあたしの顔を見つめてくるジョルジュ。
その瞳はまるで救いを求める小動物のよう。

んもう! なかなか可愛いところあるじゃない! 

母性本能をくすぐられたあたしは眉毛をやさしくなだめてあげる。

('∀`)「そうよ? 怖いものなんてないのよ? だから安心しなさい? ね?」
  _
( ゚∀●)「……」
  _
(# ゚∀●)「オカマ……驚かすんじゃねぇよ!!」

意識を取り戻した眉毛はヘッドフォンをかなぐり捨てると、あたしに向かって殴りかかってきた。



127 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:21:13.59 ID:WLRXIT9t0

('A`#)「ああん? なんだ小僧? 誰に向かってそんな口聞いてんだおら!?」
  _
(# ゚∀●)「うるせえ! 頼むからいきなり顔見せんな! あんたの顔は心臓に悪いんだよ!」

('A`#)「なんですって!? あたしの美しい顔にケチをつける気!?」
  _
( ゚∀●)「美しいだ? 笑わしてくれるぜ!
     化け物みたいな顔しやがってwwwwwwwwwwwww」

('A`#)「むっきー! ぶっ殺す!」
  _
( ゚∀●)三つ三つ「望むところよ!!」

それからしばらくの間、か弱いあたしはジョルジュにボコボコにされてしまった。



129 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:24:12.88 ID:WLRXIT9t0
  _
(メメ#)∀●)「なんかもう本当にいろいろとごめんなさい」

('∀`)「わかればよろしい!」

あたしをボコボコにしたジョルジュは罪の意識にさいなまれたのか、
あたしの前に土下座して先ほどの非礼をわびた。

心優しいあたしは笑ってそれを許す。

('A`)「で、あんたこんな深夜にブリッジで何してたのよ?」
  _
( ゚∀●)「ん?ああ、ちょっと機械の耳を拝借していた」

そう言ってジョルジュは床に転がっていたヘッドフォンを手に取る。
それをしばらく悲しげに眺めたあと、ぽつりと一言つぶやいた。

  _
( ゚∀●)「……これを使えば、あいつの言っていた『空の声』が聞こえるかもしれないって思ってさ」



133 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:28:22.56 ID:WLRXIT9t0

('A`)「……『空の声』か。懐かしいわね」
  _
( ゚∀●)「ああ。そうだな。だけど無理だったわ。
     『機械の耳』を使っても、俺はあいつみたいに『空の声』は聞こえなかった。
     結局俺には、あいつの感じていたものを共有することはできないってこった」
('A`)「……」

『空の声』

かつてあの子が空の下で耳にしていた、
誰にも聞こえることの無い、彼女だけに聞こえていた声。

ジョルジュは寂しげに笑うと、
ヘッドフォンを所定の位置に置き、ブリッジの出口へと向かう。

その小さな背中に、あたしは思わず話しかけていた。

('A`)「……ジョルジュ」
  _
( ゚∀●)「……なんだ?」

立ち止まり、振り返らずに彼は答える。



137 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:31:28.38 ID:WLRXIT9t0

('A`)「あの子は死んだの。ワタナベは死んだのよ。
   だからもう、あの子のあとを追うのは止めなさい」
  _
( ゚∀●)「……」

私の言葉に、後姿のジョルジュはそっと眼帯に手を当てた。

彼は何を思っているのだろう? 
失われた片目を押さえても、二度と彼女は戻ってこないのに。

彼にはそのことをわかってほしかった。忘れろとは言わない。
だけど、諦めてほしかった。

('A`)「あたしだってあの子のことは忘れられない。だからあんたにとってはなおさらでしょう。
   ずっとナビとパイロットとしてコンビを組んでいたんだもんね。
   だけど、あとを追うのだけは止めなさい。記憶の奥底に留めておきなさい。
   そうしないと……あんた、いずれ潰れるわよ?」

ジョルジュが扉に手をかけた。
『キィィ』と鉄と鉄のこすれあう乾いた不協和音が響く。
  _

( ゚∀●)「それができれば……苦労はしないわな」



140 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/18(水) 21:34:48.59 ID:WLRXIT9t0

悲しげな捨て台詞だけを残し、
ジョルジュの姿は閉ざされた扉の向こうに消えた。

一人残されたあたし。『機械の耳』のヘッドフォンを耳に当て、つぶやく。


('A`)「……空の声、か」


ただ風の音だけが聞こえるヘッドフォン。
暗く深い闇に包まれる夜空には、何の声もしない。

それからしばらくの間、ヘッドフォンをつけてブリッジにたたずんでいたあたし。

ワタナベだけに聞こえていた『空の声』は、いつまでたっても聞くことは出来なかった。


                                          <中編へ続く>


5 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:19:56.43 ID:1x761V910

中編:整備長、お昼寝回想日記


『鈍色の星』を飛び立って一週間弱。
これといって特別なことは無かった。

艦長、副艦長をはじめとしたブリッジの面々は、
機械の耳にてラウンジ艦隊の進路を追ってはいたものの、依然としてエデンへの道筋は不明のまま。
というのは、ラウンジ艦隊は数日前にメンヘラ本国にて停泊、しばらく動きをみせていなかったからだ。

大方、大規模な物資の搬入およびエデンへ向けた派遣部隊の編選を行っているのだろう。
それにあわせて、VIPも機械の耳の周音範囲ギリギリにある小島で停泊していた。

そういうわけで、飛行機械部隊やあたしをはじめとした整備部隊はやることもなく非番。
早朝から暇をもてあましている。

その間しばらくはクーの注文どおりに飛行機械をチューンし直したり、
磨耗部品の点検、交換を行ったりしてやり過ごしてはいたが、
さすがにもうするべきことは尽きてしまっていた。

しょうがないのであたしは、
飛行機械だけが見つめる下部甲板のど真ん中で、
自らの美しい肉体にさらに磨きをかけることにした。



7 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:22:30.83 ID:1x761V910

('A`;)「ワンモアセッ!」

スクワット、腹筋、背筋、懸垂、ビリーズブートキャンプ。
次々とメニューをこなしていくあたし。

美しいマイフェイスからは聖水とも形容できる汗が滝のように滴る。
裸の上半身は汗でぬれそぼり、差し込む朝日の光を受けてなまめかしく輝いている。

サイド・チェスト。※1
アドミナブル・アンド・サイ。※2

躍動するあたしの筋肉。
美しい。あまりにも美しい。

最後に『目指せバスト120cm』と刻印されたハチマキを巻いて腕立て伏せをやっていると、
背後に人の気配がした。



※1 ttp://s-hasimo.pro.tok2.com/image/04.07.17%20no09.jpg ※2 ttp://s-hasimo.pro.tok2.com/image/04.07.17%20no11.jpg



8 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:24:40.47 ID:1x761V910

ξ゚听)ξ「これ以上筋肉つけてどうするつもり?」

('A`)「よりいっそう美しくなるつもり」

聞き慣れた声に即答して、あたしは立ち上がった。
振り返ればそこには、右手で握ったスパナを左手の平の上でポンポンとたたいている小娘の姿。

ξ゚听)ξ「ばっかじゃないの? これ以上キモくなってどうすんのよ」

('A`)「……」

冷ややかな視線をよこす小娘。
反論しようと思ったけど、無駄だろうと思って止めた。

この小娘はあたしの美貌に気づいていない。
いや、気づいているはずだけど、小娘も女なのだ。
女は、自分以上に美しいものを認めたがらない。
つまり、小娘はあたしの美貌を認めたくないのだ。

しかもこの娘の性格上、何を言っても反発してくるのは容易に想像できた。
おまけにこやつ、今日は飛行を禁じられてるもんだから機嫌が悪いに違いない。

あたしはひとつ大きなため息をつく。
続けて、床に用意していたタオルで汗を拭いた。



9 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:26:45.81 ID:1x761V910

('A`)「で、何のようかしら?」

ξ゚听)ξ「暇なら整備の基礎を教えなさい」

('A`)「……なんであたしがあんたにそんなこと教えなきゃいけないわけ?」

ξ゚听)ξ「この前約束したじゃない!」

('A`)「……ああ、そんなことも言ったわねぇ」

ξ゚ー゚)ξ「そゆこと〜♪」

そう言って腰に手を当て、無い胸をそらしてふんぞり返る小娘。
その顔には、憎らしいほどに満面の笑み。

よく見れば、彼女はいつもの飛行服ではなく薄汚れたツナギ姿で、
上半身はツナギのホックを開け黄ばんだ肌着一枚になっている。

首もとにはタオルというおまけ付きだ。



10 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:27:38.24 ID:1x761V910

スタンバイは十分だと、彼女の全身が物語っている。
どうやらあたしは格好の暇つぶし材料にされたみたいね。

しかし、小娘の姿にはまったくもって色気が無い。
ツンといいクーといい、どうしてVIPの女どもは性というものをもっと有効利用できないのだろうか?
できないならあたしに頂戴って言いたいわ。

またひとつ大きなため息が出たけど、
やる気満々の小娘を前に観念したあたしは床に畳んでいたツナギを手に取り、
小娘とともに銀色の飛行機械の元へと向かった。



11 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:29:51.56 ID:1x761V910

                    *

('A`;)「……ダメよ……そこはもっとこう……優しく……」

ξ;゚听)ξ「え……こう?」

('A`;)「そう……デリケートな部分だから……慎重に……」

ξ;゚听)ξ「う、うん……」

('A`;)「なめないように……注意して……」

ξ;゚听)ξ「そんなこと言われたって……これ……固くって……」

('A`;)「ああん! ダメよ! そんなに強くしたら……」

ξ;>凵)ξ「えい!!」


ズルッ!


(゚A゚)「アッー!!」



13 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:33:56.31 ID:1x761V910

あたしは怒りのあまり、手にしたレンチを床に叩きつけた。
下部甲板に鉄が鉄を打つ金物音が響き渡る。

(#'A`)「あーもう! この怪力カバ娘! 
   あれほど強くするなって言ったじゃない! 
   おかげでネジ穴がなめちゃったじゃない!!」

ξ#゚听)ξ「うっさいわね! しょうがないじゃない!! 
     大体カバってなによ!! それにこのネジ締めたのあんたでしょ!? 
     固く締めすぎなのよ! この怪力オカマ!!」

(#'A`)「むきー! そんなの当然でしょ! ゆるく締めて飛行中にネジが取れたらそれこそ大問題よ!
   それにネジを回す時はゆっくりかつ力を込めてが基本なの! あんたは一気に回しすぎなのよさ!!」

ξ;>凵)ξ「あーあー! きーこーえーなーいー! あたしは悪くあっりませーんよーだ!!」

ギャーギャー叫びながら耳を両手で押さえる小娘。
聞く耳を持たないとはまさにこのことだ。

それにしてもこの怪力カバ娘は、
駆動形の大事な部分のネジを使い物にならなくしてしまいましたわ。
それを前にあたしは、ひざまずいて途方にくれる。

('A`;)「もー、どうしてくれるのよこれ。これじゃネジがはずせないわ……」

ξ゚听)ノ「どんまい!」

(#'A`)「どんまいじゃねぇよ!」



15 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:36:37.63 ID:1x761V910

それからあたしは、なめたネジの取り外し作業に追われた。
実際のところこの作業は、手間はかかるけどそんなに難しくは無い。

テキパキとこなすあたしの後ろで小娘は、
『ほうほう』と感嘆の声を上げながら作業の一部始終を観察していた。

('A`;)「あー……やっと終わったわ」

取り外したなめネジを新品のものに取り替えて、モンキーレンチを片手に額の汗をぬぐう。
そんなあたしに向けて、小娘はいつの間に用意したのだろうか、濡れタオルを投げてよこす。

ξ゚听)ξ「ごくろうさん! それで顔拭きなさい! いつにも増してひどい顔よ?」

('A`)「何言ってんのよ。あんたの顔も汗とホコリでひどいわよ?」

ξ;゚听)ξ「やっぱり? はやくシャワー浴びたいわ〜」

('A`)「馬鹿言ってんじゃないわよ。
  これからエデンに向かうこの艦にとって、水は生命線なのよ?
  シャワーは決められた時間にだけ! わかってんわね?」

ξ;゚听)ξ「うえ〜……じゃあ、夜までこのままなの〜?」

('∀`)「ぶほほwwww ネジを使い物にならなくした罰よ!」

ξ#゚听)ξ「終わったことネチネチ言ってんじゃないわよ! ネジだけに!!
     あんたそれでも男なの!?」

(#'A`)「うっわ、つまんね! それにあたしは男じゃないわ! 女よ!!」


17 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:39:35.11 ID:1x761V910

互いににらみあうあたしたち。
すると、小娘の怒った顔が崩れて笑顔になる。

ξ゚ー゚)ξ「……あはw あはは!!」

('A`)「……何よ? 人の顔見て笑うなんて失礼な子ね」

ξ゚ー゚)ξ「だってあんた……本当にひどい顔よ? 笑うなって言う方が無理w」

(*'A`)「……あんただって人のこと言えないわよ!」

腹を抱えて笑う小娘。天真爛漫なその笑顔に、あたしは怒りの牙をそがれた。

小娘は色気なんて皆無で、性格はがさつで、歯に衣着せぬ物言いをする男勝りな女だけど、
笑顔だけはいいものを持っている。

雲ひとつ無い青空のような、抜けるようなカラッとしたその笑顔は、
それだけで十分に貴重だ。誰もが持っているものではない。

VIPでこんな笑顔を持っているのは、
彼女とブーンちゃん、それにジョルジュくらいなものだろう。
我ながら良い人物をスカウトしたと思う。

こんなこと言ったら小娘は調子に乗るだろうから、口が裂けても言わないけど。



20 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:42:13.11 ID:1x761V910

濡れタオルを肩にかけ、整備班の休憩室へと足を運ぶ。
後ろを、頬にえくぼを作った小娘がチョコチョコとついてくる。

ξ゚ー゚)ξ「まあいろいろあったけど、すごく参考になったわ! あんた、教えるの上手じゃない!」

('∀`)「ぶほほほほ! あたしを誰だと思ってんのよーう!
  あたしは世界最高水準のVIP飛行機械部隊、
  その整備を双肩に担う、カリスマメカニックなーのよーう!?
  それにクーみたいな口うるさいパイロットの注文を受けていれば、嫌でも技術は上がるわよーう!」

そして、休憩室の冷たい扉を開けたあたしは、


川 ゚ -゚)「口うるさいパイロットで悪かったな。整備長」

(・A・)「……あいーん」


目がテンになってしまった。



23 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:44:34.23 ID:1x761V910

室内にいたのはクー。
部屋の真ん中、テーブルをはさみ向かい合わせになるように設えられた
ソファの片側に腰掛け、文庫本を手にしている。

川 ゚ -゚)「お前たちが二人でここに来るのは珍しいな」

'A`)ノシ「いやいや。あんたがここにいる方が珍しいから」

川 ゚ -゚)「いやなに、飛行機械部隊の休憩室はコーヒーが切れていてな」

テーブルには飲みかけのコーヒーカップがひとつ、ポツンと置かれていた。
彼女は文庫本をその隣に置くと、カップを片手に立ち上がり、棚の方へと向かう。

川 ゚ -゚)「コーヒー、飲むか?」

ξ;゚听)ξ「あばば、あたしが作りますから、クーさんは座っていてください!」

川 ゚ー゚)「そうか。すまんな」

慌てながら、クーと入れ替わるように棚へと向かう小娘。
あたしとクーは向かい合う形でソファへと腰掛けた。

川 ゚ー゚)「どうだ、頭の調子は?」

('A`)「おかげさまでなんとも無いわよ」

腰を下ろした彼女は、あたしの頭上を眺めながらニヤリと笑った。



25 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:47:37.78 ID:1x761V910

このやり取りのもととなった出来事を、簡単に話しておこう。

先日、クーに艦長のお便所シーンを見せたあたしは、彼女と艦長の逆鱗に触れ、
『頭の上にりんごを乗せてそれを狙撃される刑』を受ける羽目になった。

この刑はVIPの懲罰では一番軽いものなんだけど、狙撃手がクーとなったら話は別だった。

彼女は空中戦での射撃はぴか一のくせに、白兵戦における銃の扱いはVIPで二番目に下手い。
(一番はブーンちゃん。小娘は意外にうまい)
彼女があたしの頭上のりんごを打ち抜ける可能性は、五分五分だった。

('A`;)「ちょっと艦長! 冗談じゃないわよ!」

(#´・ω・`)「黙れ! 貴様のせいで俺は便器と一体になりかけたんだ! その報いを受けろ!」

何でも艦長はクーに汚物として水に流されかけたらしい。
ちなみにお便器にはまって動けなくなっていた艦長は、
朝方になって吐きに来たモナーに無事救出されている。

川 ゚ -゚)y=-「それでは、撃ちます」

(;A;)「いやあああああああああああああああああああああああああああ」

そして引き金が引かれ、撃鉄が薬きょうを撃つ音がVIP内にこだました。



26 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:49:07.75 ID:1x761V910

('A`;)「あの時は本当に死んだかと思ったわ……」

川 ゚ー゚)「ふふw 実はお前の眉間を狙ったら、たまたまりんごに当たっただけなんだがな」

('A`;)「ああ……生きているって素晴らしいわ」

大げさに天井を仰いで視線をもとに戻す。
対面のクーの視線は、すでに手にした文庫本へと移っていた。

('A`)「それにしても、あんた小説好きよね。どんな話なの?」

川 ゚ー゚)「『死』を『詩』で織り成す飛行機械乗りの物語だ」

そう言って彼女は、飛行機械発進時のような凛とした声で、小説の一節を読み上げた。

ξ゚ー゚)ξ「いい文章ですね」

三つのカップをお盆に載せた小娘が、テーブルにそれを差し出しながら答える。

('A`)「そう? あたしにはよくわかんないわ」

川 ゚ー゚)「まあ、これは飛行機械乗りにしかわからんことだろうな」



28 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:51:28.77 ID:1x761V910

('A`)「ふーん、そういうもんなのかしらね」

カップをつまんで、濁った液体を一口含む。
それは濃くて、甘ったるくて、まるでクーが読み上げた一節のように癖のある味だった。

('A`)「で、さっきのがあんたのお気に入りの一節ってわけね?」

川 ゚ -゚)「ん? そういうわけではないぞ。いい文章だとは思うがな」

('A`)「どゆこと?」

川 ゚ -゚)「この本はジョルジュに借りたものなんだ」

('A`;)「……ジョルジュがこの本を?」

川 ゚ -゚)「ああ。それで、さっき読んだ一節には線が引かれていた。
    おそらくジョルジュが引いたんだろう。
    だから、さっきの一節はあいつのお気に入りということになるな」

そう言ったきり、テーブルの側に立つ小娘と雑談を始めたクー。

あたしはもう一度癖のあるコーヒーをすすりながら、あのときのことを思い出していた。



29 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:52:35.69 ID:1x761V910

深夜、機械の耳を前に腰掛け、空の声を聞こうとしていたジョルジュの姿。
そして、『何も聞こえなかった』と呟き去っていった彼の背中。

あの日以来、なんら変わりないジョルジュの様子。
今日も今朝方、ブーンちゃんと食堂で騒いでいるのを見かけた。

おそらく、彼の異変を知っているのはあたしだけだろう。

上層の島々にある、手入れの行き届いた庭園の芝のような、短めの彼の髪。
その後ろ髪を引く手は、本当にワタナベのものなのだろうか?
死んだ人間の意識が、残された人間を縛り付けることなど有り得るのだろうか?

あたしには、わからない。

道端に捨てられ、物心ついたときから機械をいじくることで何とか食いつないできたあたしは、
他者を、絡みつく死人の意識を引きちぎるようにしてここまで来たから。

捨て子で、さらに男でも女でもないあたしは、そんな薄情さを持たなければ生きてこられなかった。



32 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:53:57.53 ID:1x761V910

だけど、ジョルジュはどうなのだろう?

彼は今、メカニックとして生きている。
しかし、本質的にはパイロット、中空を小舟で漂う雲にも似た人種だ。

彼らパイロットには、常人には理解できない繊細で複雑な一面がある。
それを、内面に隠している。歳を重ねるほど、経験を重ねるほど、その傾向は顕著になるようだ。

クーは無表情な能面の下に、
モナーは優しげな微笑みの下に、
そしてジョルジュは、皆を明るくする満面の笑みの下に。

いずれ、ブーンちゃんや小娘も、そうなっていくのだろう。
そんな必然を悲しいとは思わない。彼らはパイロットなのだから。

彼らは空を飛び続けることで、本能的に、必然と折り合いをつけることを学ぶだろう。
颯爽と切る風の中で、己の熱を冷ます術を学ぶだろう。

クーやモナーと、同じように。



35 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:55:40.25 ID:1x761V910

だけど、ジョルジュはもう、飛べない。
今の彼は不完全だ。

エンジンにこもった熱をファンが外へ逃がす、
そんな機構が、彼の中にはもはや存在しない。

仮面の下に蓄積された熱が、いつかジョルジュを焼き尽くしそうで怖かった。

黄豹との再会、そしてあの日のジョルジュの異変は、
彼の限界を表しているとしか思えなかった。

なら、あたしは何をしてやればいい? 
パイロットでないあたしには、それがわからない。

彼の胸の奥に沈殿する苦しみを、
今口にしているコーヒーの苦味を、取ることができない。

誰か、あたしに答えを教えて。



37 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:56:41.32 ID:1x761V910

川 ゚ -゚)「おい、毒男」

ξ゚听)ξ「ねえ、オカマ」

('A`;)「……えっ!? あ、ああ、何よ?」

不意に聞こえた声に顔を上げれば、不思議そうにこちらを見つめる二人の顔があった。

ξ゚听)ξ「どうしたのよ。ボーっとしちゃって」

('A`;)「い、いや、なんでもないわ。で、何?」

ξ゚听)ξ「あたしたちこれからお昼に行くけど、あんたも来る?」

('A`)「……ああ、もうそんな時間なの」

休憩室にかけられていた時計を見上げれば、時刻は一二三〇を指していた。
同時に盛大な腹の音が鳴って、二人に大笑いされる。思わず顔が火照ってしまった。

ξ゚ー゚)ξ「おなか空いているみたいねw 行くわよ」

('A`)「……いや、止めとくわ」



40 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/16(木) 23:58:59.22 ID:1x761V910

ξ゚听)ξ「なんで? どうしてよ?」

しつこく食らいついてくる小娘。
申し出はありがたかったが、今はひとりになりたかった。
そういう空気を読めないあたり、彼女もまだまだ子供だなと思う。

だけど、彼女の好意をむげに断わるわけにもいかず、
どうしようかと迷ったあげく、それがあたしの顔に苦笑いとして浮かび上がる。

小娘はそれを嘲笑か何かと勘違いしたらしく、ムッとした顔であたしをにらみつけている。

川 ゚ -゚)「ツン、いいじゃないか。毒男には何かすることがあるんだろう?」

('A`;)「え? ……あ、ええ! そうなのよ!」

ξ゚听)ξ「でも午前中は暇そうだったじゃない」

('A`;)「別に暇じゃなかったわよ。あんたが無理矢理あたしを付き合わせたんでしょうが」

川 ゚ -゚)「そういうことだ。行くぞ、ツン」



42 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:00:20.80 ID:xb2LXakI0

そう言って小娘の背中をポンと押すと、クーは扉の先へと消えていく。

そして去り際、締める直前の扉から覗いた彼女の顔は、
あたしに向かって軽くウインクをした。

('∀`)「……ちぇ。いい女じゃない」

『敵わないわねぇ』と呟いて、あたしはツナギのポケットから煙草とライターを取り出す。
火をつけて大きく吸い込めば、先端がチリチリと音を立てて赤く燃え上がった。

吐き出した煙の揺らめきが天井を漂い、視界を薄い紫に染め上げていく。

それはソファーに身体を預けたあたしをゆっくりと包み込み、回想の世界へといざなってくれた。



44 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:02:56.05 ID:xb2LXakI0

                       *

('A`)「ジョルジュ=長岡。ソウ=渡辺。……どこかで聞いたことのある名前ねぇ」

手渡された資料。
書かれていた名前には聞き覚えがあったけど、今ひとつ思い出せなかった。

七年前のある日、建造されて間もない空中戦艦『VIP』の艦長室に立ち、
あたしは疑問の声を艦長に投げかけた。

('A`)「出身はツダンニ、年齢は十九、
   こなした仕事はランクAがゼロ、Bが三ですか……。
   実力と伸びしろはそこそこ有りそうですけど、
   あたしがスカウトに回ってまで欲しい人材ですか?」

(´・ω・`)「『桃色の乳首』といえば、わかってくれるかな?」

('A`;)「はい!? 彼らが『ニューソクカップ』を最年少で制した『桃色の乳首』なの!?」

驚いて立ち上がった。

『桃色の乳首』といえば、当時の飛行機械関係者の間では知らないものがいないほどの有名人だった。



47 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:05:10.07 ID:xb2LXakI0

『ニューソクカップ』とは、ニューソク国で四年に一度開かれている飛行機械レースのことだ。

といっても、規模は大きいが所詮は一国のお祭り騒ぎ、
遊びに過ぎないレースで、以前はそれに優勝しても、
ニューソク国以外では大きなステータスにはならなかった。

しかし、当時で言えば八年前、
今で言えば十五年前に起こった『ツダンニ』における飛行機械革命で、
その価値は対外的にも一気に跳ね上がることになる。

高水準のパイロットとメカニック集団を有するツダンニが参加するレース。

すでにVIPへと引き込んでいたクーでさえ制覇することが出来ないでいたそれを
最年少で制覇したのが、ピンク色の飛行機械を操る『桃色の乳首』だった。



49 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:07:02.28 ID:xb2LXakI0

('A`)「なるほど。艦長が欲しがるわけがわかったわ」

(´・ω・`)「そうだろう。しかしね、どうにも偏屈な人物らしいんだよ。特に長岡とか言う方がね。
     彼らは空を飛べればそれでいいらしく、ツダンニを離れる気が無いようなんだ。
     ミルナがそれとなく『エデン』を話題に出しても、鼻で笑って一蹴するだけらしい」

('A`)「それで、あたしがパーツ屋に成りすまして彼に接近しろ、と?」

(´・ω・`)「ああ。お前の整備技術・知識を『桃色の乳首』に見せ付けてやれ。
     世界は広いということを彼らに知らしめ、VIPに誘い込むんだ」

('A`)「了解しました!」

そういう経緯で、以後、あたしはツダンニでパーツ屋になりすまして
ジョルジュ達のスカウトを受け持つこととなった。



51 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:08:54.97 ID:xb2LXakI0

そもそも、VIPは以前からツダンニに向けて一人の人物をスカウトとして派遣していた。
それはほかでもない、あたしたちVIPの黎明期からの幹部、副艦長ミルナだ。

なぜ副艦長という重役をツダンニへ派遣していたのか。
それには、先ほども述べた飛行機械革命が大きく関与している。

今から十五年前の『ニューソクカップ』でとある二人組が大差で圧勝し、大きな話題となった。

その勝因が、彼らのチームが開発したエンジンによるもの。
それはあまりに革命的なものであり、世界の常識を一気に変えた。

言うまでもなく、この世界の陸地は空に浮く島。
そして通信の方法は、飛行機械による郵便、もしくは接触回線に限られる。
その理由は、エンジンの特性に拠っている。

この世界では、飛行機械だけでなく陸地までもが強力な磁場の力で浮いている。

その磁場を発生させるものがエンジンで、それは規模だけの違いで、
構造的には陸地に使われているものも飛行機械に使われているものもほぼ同一。

この世界では蔓延している磁場のため電波による通信は不可能で、
だからこそ飛行機械による郵便が主要な通信手段となっているのだけど、
それは革命の話からは外れるので割愛するわ。



53 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:10:56.69 ID:xb2LXakI0

『ニューソクカップ』を制した二人のエンジンのどこが革命的だったのか。
それは技術的にかなり高度な話になるから、掻い摘んで話をさせてもらうわ。

それまでのエンジンは磁場を下方にしか発生させられなかった。
つまり、エンジンは機体や陸地を『浮かせる』ことしかできなかったの。

だから陸地は『浮く』だけで動かせず、
飛行機械も推進力はプロペラ、もしくはブースターに頼っていた。

しかし、二人のチームが開発したエンジンは磁場を好きな方向に発生させることを可能にした。

つまり、エンジンの発生させる磁場単独による推進を実現させ、それだけでなく、
ある程度のブレーキ、旋回をも、磁場の方向性を自在に操ることによって可能にさせたの。

(もっとも、それらは通常飛行のみに限られ、依然として高度な飛行には
フラップ、エルロンなどを使った高度な操縦技術、ブースターなどの補助推進システムは必要だし、
プロペラを積んでいる飛行機械も、少数ではあるが存在している)

その威力や絶大で、それを証明したのが『ニューソクカップ』での圧勝。
その二人の出身地がツダンニ。
必然的にツダンニは、その名を知られるようになったの。

だけど、それが原因で大きな戦争が起こった。



55 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:12:32.62 ID:xb2LXakI0

世界の中枢たる『トップページ』はツダンニ開発のエンジン技術を危険視。
技術のすべてを開け渡すようニューソク国へと要請したのがその戦争の発端。

はじめは渋ったニューソク国だったけど、
『トップページ』が連合艦隊を派遣すると声明を出したため、態度を一変させた。

当時の連合艦隊は、エースたる『赤い男爵』モナー=マンフレートを筆頭に、
『白い弾丸』モララー=ワカマツ、『黒い悪魔』シラネーヨ=バルクホルン、
その他多くのベテランパイロットを有し、世界最強の称号を欲しいままにしていた。

攻め込まれればなす術もないニューソク国は、
領土のツダンニへ向けて、技術のすべてを明け渡すよう要請したの。

しかし、ツダンニの面々は当然自らの利権を主張し、反発。
業を煮やしたトップページは連合艦隊を派遣。

ツダンニ自警部隊との全面戦争が始まった。



57 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:14:57.25 ID:xb2LXakI0

当初の展望では、圧倒的な物量と前記三人を有する連合艦隊の圧勝は明白だった。

けれども、『ニューソクカップ』と同一のエンジンを搭載したツダンニ自警部隊は
予想を大幅に超えた抵抗を見せ、それは短期間ではあったけれど、連合艦隊と互角以上に渡り合った。

最終的に、連合艦隊は四分の一近くの機体を失った。

『白い弾丸』と『黒い悪魔』を含む多くのベテランパイロットが空に散り、
『赤い男爵』がその後離脱したことも考慮に入れると、
戦力的には半分近くを失ったと言ってもいいかもしれない。

だけど、それ以上にツダンニ自警部隊の被害は深刻で、
ほぼ壊滅といって問題ない状況に追い詰められていた。

もともと郵便を地盤産業とし、優秀なパイロットとメカニックを数多く有していたツダンニは、
これ以上の人材の損失は土地の死活問題に関わると判断、
最後はトップページに使者を派遣し、エンジンの利権、および設計図のすべてを明け渡し、戦争は終結した。



61 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:18:13.71 ID:xb2LXakI0

戦後、トップページはエンジン技術を一時独占。
連合艦隊の機体すべてに最新型エンジンを配備させた。

しかし、他国の世論がそれに反発。
世界中の民間飛行機械乗りがトップページに徹底抗戦の意を表明し、
最終的には島々を越えた民間の飛行機械同盟が発足一歩手前までに発展。
あわや世界大戦にまでなりかけた。

古代の技術を背景に半ば独裁体制を敷いていたトップページは、
革命的エンジンというアドバンテージを持っていた。

けれども、ツダンニとの戦争で多くのベテランパイロットを失っており、
さらに離脱した連合艦隊のエースモナーが民間同盟のリーダーになるという情報をキャッチし、態度を軟化。
ツダンニから取り上げたエンジン技術を全世界に開放した。

これで世界中の飛行機械が脅威の性能を持つようになり、相対的に連合艦隊の戦力は激減した。

この一連の流れで利権を失ったものの、
ツダンニは飛行機械乗りのメッカとして認識され、
ひいてはツダンニが出場する『ニューソクカップ』が世界的に大きな価値を持つようになった。

そういうことで、あたしたちVIPはツダンニにてパイロットのスカウトを始めた、というわけ。



63 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:19:22.43 ID:xb2LXakI0

そんなこんなでツダンニでパーツ屋を始めたあたしは、
持ち前の美貌と技術、知識で飛行機械乗りたちの信頼を獲得し、店は一気に繁盛し始めた。

('∀`)「エデンから帰ったらここに住み着くのも悪くないわねぇ」

パーツ屋の仕事は楽しかった。スカウトの任務さえも忘れるほどに。

これまでの人生で一番の幸せを噛み締めている中、
うわさを聞きつけたジョルジュとワタナベが店に来てようやく、あたしは当初の任務を思い出す。
  _
( ゚∀゚)「うひゃひゃwwww なんだ? この店はオカマがやってんのか?」

从'ー'从「すご〜い! 私、オカマさんって初めて見た〜。サインくださ〜い!」

(#'A`)「てめぇらぶち殺すぞ」

二人との出会いはこんなもんだった。



65 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:21:56.66 ID:xb2LXakI0

それからしばらくして、二人はあたしの店に入り浸りになった。
特にジョルジュがあたしの持つ技術と知識に強い興味を持っていたことは、自惚れでは無く事実だった。

思えばその頃から、ジョルジュはメカニックとしての適性を垣間見せていたわねぇ。
  _
( ゚∀゚)ノ「たいしたもんだな、オカマさんよ!」

('∀`)「ぶほほwwww 世界は広いのよ! あんたはまだまだ井の中の乳首ってわけ♪」
  _
( ゚∀゚)「悔しいが確かにそうだな。けどさ、お前よりすげぇメカニックって他にもいんの?」

('∀`)「さーてねー。でもあんた以上のパイロットは、あたしが知る限りで二人もいるわ」
  _
(;゚∀゚)「うっそーん! そいつはすげーな! 会わせてくれよー!」

('∀`)「ぶほほのほwwww いずれ嫌でも会うことになるわよ!」

ここまでくれば、ジョルジュのスカウトは成功したも同然だった。

一方でワタナベはというと、
店に陳列してあるパーツやあたしの知識には一切興味を示さず、
いつもあたしの後ろに引っ付きまわって、

从'ー'从「ゴリラみたいな顔と筋肉ですね〜。本当に人間ですか〜?」

('A`;)(……変な子)

終始、こんな感じだった。
本当にこの子が『桃色の乳首』のナビかと、当時は本気で疑ったものだわ。


69 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:23:38.21 ID:xb2LXakI0

やがてミルナがファイブAの仕事を依頼し、
二人が受諾したことで、あたしの任務は一応の終わりを見せた。

その後、あたしたちはワタナベの才能に目を見張ることになる。

ファイブAの依頼内容にかこつけた入隊テスト。
腐ってもまだ世界最強だった連合艦隊に次ぐ力を持ち始めていた
メンヘラ国のラウンジ艦隊の演習を掻い潜り、VIPへとたどり着いた二人。

その中でモナーとクーの飛行を目にしたジョルジュは、
艦長と、ツダンニから帰還していたあたしと副艦長を前にして、クソ生意気なことをのたまった。
  _
( ゚∀゚)「あの二人の飛行技術を俺に伝授してくれるってんなら、入ってやってもいいぜ?」

そしてワタナベはと言うと、

从'ー'从「ここの空、楽しそうだから好き〜」

と、わけのわからない発言をし、あたしたちの勧誘を快諾した。

当初はそんな彼女の実力に疑問を抱いていたあたしたちだったけど、
やがて嫌でも思い知らされる羽目になる。



70 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:25:38.17 ID:xb2LXakI0

それから一年、ジョルジュとワタナベはVIP特有の訓練を受けていた。
のちにブーンちゃんと小娘の訓練風景を見てジョルジュが呟いた、飴と鞭のしごきである。

その頃のあたしは、副艦長とともにツダンニへ戻って新たなパイロットの発掘を始めており、
たまたま近況報告のために帰還していたVIPで、信じられない光景を見ることになる。

訓練でクーと模擬戦を行っていたジョルジュとワタナベ。

蒼風が完璧に背後を取り、勝敗が決したと思った瞬間、
ピンク色のジョルジュ機は突如、トラブルを連想させるかのように機体のバランスを崩し、失速。

同時に機銃を前方に連射し、その反動で後方へと木の葉のように落下。
そして風の波に乗ったかのごとく即座に体勢を立て直し、加速。

勢い余って追い越していたクー機の背後を取り、機銃を数発命中させた。

蒼い彼女の機体に鮮血を連想させるがごとくペイント弾の赤がはじけたのが、
今でも頭の片隅に焼きついてはなれない。



73 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:27:37.78 ID:xb2LXakI0

('A`;)「お疲れさん。まさかあんたが負けるだなんて思いもしなかったわ」

川#゚ -゚)「ジョルジュは確かにたいしたもんだ!
    だが、私はジョルジュに負けていない! 私が負けたのはワタナベだ!」

ペイント弾の赤を機体に付着させ、下部甲板へと着陸したクー。
乱雑に甲板へと降り立った彼女は珍しく憤っており、聞いてもいないのに次々と言い訳を始める。

川#゚ -゚)「あいつは反則だ! あいつにこそ『桃色の乳首』の二つ名はふさわしい!」

('A`;)「待って待って。話が見えないわ。あたしにもわかるように説明してよ」

川#゚ -゚)「説明できんから反則なんだ! 畜生! 私の方が説明してもらいたい!!」

('A`;)「ちょ、ちょっと! どこ行くのよ!!」

川#゚ -゚)「頭を冷やしてくる! あとはお前とモナーに任せる!!」

自ら気持ちを落ち着けに行くあたり、さすがはクーだと感心した。
彼女は捨て台詞を残し、居住区の方へと姿を消す。

入れ違いに着艦したモナーが、相変わらずのにやけ顔で下部甲板へと降り立ち、嬉しそうに笑った。

( ´∀`)「モナモナモナwww あいつら、僕の『サーカス』を決めやがったモナー!」



75 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:29:41.21 ID:xb2LXakI0

('A`;)「サーカス? それってあんたの得意技でしょ? それをジョルジュが?」

( ´∀`)「そうだモナー! たいしたもんだモナー!!」

一流の飛行機械乗りといえば、それぞれひとつは得意技を持っているものである。

レッドバロンはインメルマンターンとオリジナルのサーカス、黄豹はスプリットS、
過去のパイロットにまで遡れば、
白い弾丸は遠距離射撃、黒い悪魔はオリジナルの回天、といった具合にだ。

クーは彼らほど秀でた得意技を持たないが、
すべてのマニューバを水準以上に決めるし、
あえて挙げるとしたらロールによる攻撃の回避に秀でている。

ブーンちゃんは若いし彼らと比べるというのは酷な話だが、
後の戦闘であの黄豹とシザースで競り合ったあたり、十分に得意技を持っていると言えるだろう

そして、ジョルジュが決めたレッドバロンの代名詞たるサーカス。

これはかなり特殊なマニューバ、というよりモナーのオリジナルで、
命名は連合艦隊時代のモナーの同僚によるものらしい。

サーカス=曲芸。言いえて妙だと思う。

理論上ではありえない動きをするそれは、一流のパイロットでさえ成功させるのは不可能に近いだろう。
後にも先にも、あたしの知る限りで、サーカスを成功させたのはモナーとジョルジュ以外にいない。



77 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:31:10.39 ID:xb2LXakI0

('A`;)「ほえ〜。やっぱりジョルジュの操縦技術はたいしたもんなのね〜」

( ´∀`)「それはもちろんだモナー。だけどあれはワタナベのナビが大きいモナー」

開発者のモナーが言うには、
サーカスを成功させるには高度な操縦技術はもちろん必要なのだが、
それ以上に風を読む技術、いや、才能が必要なのだそうだ。

彼の評価では、ジョルジュの操縦技術はクーにわずかに劣るそうで、
今回の模擬戦で明暗を分けたのはワタナベのナビだったのだそうな。
あたしには良くわからない世界の話だった。

( ´∀`)「ワタナベはまるで風の流れが読めているかのように的確な指示しているモナ!」

('A`;)「……あの間の抜けた子がねぇ」

ジョルジュ機の降り立った上部甲板に向けて、
艦内通路を歩きながら、モナーはこれまで見せたことが無いほどに興奮した調子で話を続ける。

( ´∀`)「ワタナベの指示にジョルジュの技術が追いつけば、
     間違いなくあいつらは僕を越えるモナー! 僕もうかうかしていられないモナー!!」

普通越えられるというのなら、先ほどのクーのようにあせるか憤るだろうに、
むしろモナーはワクワクしている様子。

かつて世界最強と恐れられた連合艦隊のエース。天才とはよくわからない。



78 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:32:55.14 ID:xb2LXakI0

上部甲板では、あたしの部下の整備班員たちがジョルジュを囲んでなにやら騒いでいた。

もっとも、一番騒いでいたのは当のジョルジュ本人で、
彼は人の輪の真ん中で興奮しながら、ギャーギャーと何かをまくし立てている。

同じく興奮していたモナーがあたしの脇をすり抜けて、ジョルジュの元へと走っていく。

('A`;)「これは本当に掘り出し物だわね……」

ジョルジュに飛びついて自分のことのように喜ぶモナーを眺めた後、
何気なく視線をはずしてみれば、今回の快挙の一番の功労者であるワタナベが
人の輪から少し離れた場所に立ち、ボーっと空を眺めているのが見えた。

飛行服のまま、ヘルメットを脇に抱えた彼女は、
肩まで伸ばした茶色の髪を風になびかせながら、
まぶしそうに目を細め、彼女の名前と同じ色の空に向けて微笑んでいた。



80 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:33:59.06 ID:xb2LXakI0

('A`)「おめでとう。モナーとクーがあんたのこと褒めてたわよ」

歩み寄ったあたしは素直に賛辞の言葉を投げかけた。
ワタナベはいつもどおりのニコニコした顔に少しはにかみの色を宿し、答える。

从'ー'从「そんな〜。今日は空の機嫌が良かったから〜、たまたまだよ〜」

('A`;)「空の機嫌? そんなことがわかるの?」

从'ー'从「うん! ほら〜! あそこを見て〜!」

そう言って中空を指差す彼女。

从'ー'从「あそこの空の風、すごく楽しそうに踊ってるでしょ〜?
    ああいう場所では〜、飛行機械も風に乗って踊れるんだよ〜!」

('A`;)「……全然わかんないんですけど?」

从'ー'从「嘘だ〜! 『空の声』が聞こえないの〜?」

('A`;)ノシ「いやいやいや。そんなの、あんた以外に聞こえないから」

从'ー'从「え〜? 変なの〜」



83 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:36:30.67 ID:xb2LXakI0

『変なのはあんただから』 

そう言ってやろうと思ったけど、
いきなり走りこんでワタナベに抱きついたジョルジュに邪魔されて、
結局何も言えなかった。

続けてジョルジュに抱き上げられた彼女は、そのまま両手を大きく広げ、
青空の下、まるでダンスを踊っているかのようにクルクルと回った。

('A`)「……『空の声』ねぇ」

ワタナベが指差した方角に目をやり、ぼんやりと呟いてみた。
メカニックとしてだけど、あたしも一応は空に生きる人間。
空の声というものを、出来ることなら耳にしてみたかった。

だけど、空にあるのはやっぱり空で、声など欠片も聞こえない。

『どうすれば声が聞こえるのか』

方法を尋ねようと振り返った先では、目を回したワタナベがジョルジュに向かって吐いていた。

从;◎ー◎从「う〜ん……き〜も〜ち〜わ〜る〜い〜……」
  _
(;゚∀゚)「ちょwwwww おまwwwwwwwwwww」

上下左右に揺れる飛行機械では酔わないのに、なぜ?
あたしはそれを見なかったことにして、その場を立ち去った。

今になって振り返ってみれば、彼女と過ごしたのは、それが最後の事だった。


86 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 00:38:38.58 ID:xb2LXakI0

ジョルジュとワタナベがクーを破って一年後。

ツダンニで相変わらずパーツ屋兼スカウトの任務をこなしていたあたしのもとに、
飛行機械郵便業組合の方に潜入していた副艦長が、血相を変えて駆け込んできた。

(;゚д゚ )「……桃色の乳首が墜ちた」

('A`;)「う、嘘でしょ!?」

彼の携えていた書簡をひったくって、中身を読み上げた。


ジョルジュ=長岡、重態。

ソウ=渡辺、死亡。


書かれていた文字を前に、あたしは呆然とした。

                                        <続く>


4 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 11:54:42.20 ID:iQAJ6vEe0 ID:

後編:整備長、空と別れの日記


『桃色の乳首墜つ』

その報を受けVIPへと急行したあたしたちが見たのは、
爆発していないのが不思議なくらいにボロボロのジョルジュ機と、
医務室のベッドに横たわる、顔面に痛々しい包帯を巻いた桃色の乳首。

ほうほうの体で帰艦して以来、彼はいまだ意識を取り戻さないらしい。

ワタナベの遺体は、すでに空葬されていた。



5 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 11:56:50.15 ID:iQAJ6vEe0 ID:

(#'A`)「信じられない! 何考えているのよ!
   ジョルジュが目を覚まさないうちにワタナベを空葬するなんてどういうつもりよ!」

(#´・ω・`)「ワタナベのあんな姿をアイツに見せられるわけなかろうが!」

( ゚д゚ )「ワタナベは頭部に機銃の直撃を受けたらしい。
    ……彼女の顔面は、半分以上が消し飛んでいたそうだ」

艦長室で怒鳴ってはみたものの、艦長の言い分はもっともだった。

ただでさえ弱っているときに幼馴染の無残な姿を見れば、
いかなジョルジュとはいえ立ち直れはしないだろう。

だけど、彼女を見送ることのできなかった彼が、あまりに不憫でしょうがなかった。

('A`;)「……クソ!」

下唇を噛み締め、艦長室の扉を乱雑に開けた。

廊下の壁を拳でぶち抜いたと同時に、
駆け寄ってきた乗組員からジョルジュが目覚めたとの報告を受けた。



6 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 11:59:12.98 ID:iQAJ6vEe0 ID:

面会は、艦長と副艦長のみに限られていた。

数十分にも及んだ面会。
医務室から出てきた彼らに、ジョルジュの様子を尋ねた。

(;´・ω・`)「ちくしょう……最悪の状況だ」

(;゚д゚ )「……あいつの復帰は絶望的かもしれん」

ジョルジュは開口一番にワタナベの安否を尋ねたそうだ。

それとなくぼかしていた二人だったらしいが、
それ以外に何も口にしないジョルジュに根負けし、ワタナベの死亡を告げた。
ジョルジュはうつむいて涙を流すだけで、以後、何も話そうとはしなかったらしい。

それから連日のように、二人はジョルジュと面会した。

一度だけあたしも面会を許されたが、
久方ぶりに再会したジョルジュの顔は、
本当にあのジョルジュなのかと疑うほどに憔悴しきっていた。

残された片目は虚空をさまようだけ。
瞳は死人のようで、かつての輝きを失っていた。



7 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:02:52.04 ID:iQAJ6vEe0 ID:

羽を失い、地に墜ちた飛行機械乗りの姿はあまりに惨めだった。

片目を失い、パートナーをも失った彼に、
もう以前の飛行が不可能なことは、誰の目にも明らかだった。

川;゚ -゚)「気の毒だが……あいつはもう、ダメだろうな。
    失ったものが多すぎる。私があいつだったら、間違いなく死を選ぶ」

クーの言葉は、艦内のクルー全員の想いだった。
誰も言うべき言葉が見つからず、一同の間に、気まずい沈黙が流れる。

それを覆したのが、モナーの一声。

( ´∀`)「……僕が行くモナー」

これまでかたくなにジョルジュとの面会を拒み、沈黙を保っていたモナー。

赤い男爵は飛行服に身を包むと、一人静かに、医務室の扉を開けた。



9 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:04:48.20 ID:iQAJ6vEe0 ID:

医務室の前の廊下には、
艦長をはじめとしたほぼすべてのクルーが集結し、
面会の行方を固唾を呑んで見守っていた。

数時間にわたった面会。
最後の最後で、泣き叫ぶジョルジュの大声が、扉越しからもハッキリ聞こえた。

それまですすり泣くことしかしなかったジョルジュ。

何が起こったのかと顔を見合わせるクルーの前に、扉を開けてモナーが姿を現す。


( ´∀`)「もう大丈夫だモナー」


キョトンとするクルーの視線を一身に受けた男爵は、
相変わらずのにやけ顔でそれだけを残し、静かにその場を立ち去った。



10 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:08:32.46 ID:iQAJ6vEe0 ID:

正直言うと、モナーの言葉には半信半疑だったあたし。

しかし後日、見舞いに訪れようとしていたあたしに先んじて姿を現したジョルジュを前に、
モナーの言葉は真実だったのだと思い知らされる。
  _
( ゚∀●)「……頼む。俺に整備の技術を叩き込んでくれ」

そう言って土下座までしてみせた桃色の乳首。
顔面にこしらえた眼帯の痛々しさに反して、彼の言葉は力強かった。
瞳には輝きが戻っていた。

もちろん、あたしは二つ返事で快諾した。

('A`;)「にしてもあんた、一体どんな魔法を使ったの?」

( ´∀`)「なーに、ちょっと昔話をしただけだモナー」

のちに何度尋ねてみても、モナーはそれ以上何も言おうとはしなかった。

医務室でのモナーとジョルジュの会話は、今でもVIP最大のなぞとして語り継がれている。



11 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:11:52.43 ID:iQAJ6vEe0 ID:

パイロットからメカニックへ、
飛行服から薄汚れたツナギへと姿を変えたジョルジュは
わずか三年足らずの間にメキメキと頭角をあらわしていった。

もともとツダンニにいた頃からメカニックとしての適性は見せていたし、
『ニューソクカップ』を制するだけあって飛行機械の構造にも明るかった。

そして何より、血眼になって貪欲に知識と技術を吸収しようとする姿勢が、
他のメカニックには無い飛行機械乗りとしての視点が、
彼をして脅威の成長を遂げさせることとなった。

ツダンニでのスカウト活動を主要な任務にしていたあたしには、
彼を指導できる機会は数えるほどしかなかった。

しかし、あたしが報告のためにVIPに戻るたび、
彼はあたしの後ろに金魚の糞のごとく引っ付きまわって質問を連発したし、
そのたびに彼の成長には眼を見張らされることになった。

通常、一人前のメカニックを育てるには十年かかると言われている。
あたしだって十年かかったその道のりを、ジョルジュはわずか三年通過してしまった。
ブーンちゃんと小娘が入隊する直前には、
艦長からじきじきに副整備長の役職まで拝命している。

何より驚いたのが、他のメカニックたちがその人事に一切文句を言わなかったこと。

副整備長にふさわしい彼のムードメーカーぶりとメカニックとしての知識と技術は、
ほかの誰もが認めるものだった。



12 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:15:13.67 ID:iQAJ6vEe0 ID:

『あいつの努力と才能には敵いませんよ』

いつか誰かがこう言った。
それがジョルジュの脅威の成長の基盤となっていたのは事実だろう。

だけど、絶対にそれだけじゃない。
もっと別の何かが、彼をここまで押し上げたはずだ。

それは一体なんだろう? 時折あたしは考える。

桃色の乳首としてのプライド? 空を失った悔しさ? 死んだワタナベの意識? 
それとも、彼女だけが聞くことの出来たという、空の声? 

それを知るのは、きっとモナー以外にいないだろう。
あの日、閉ざされた医務室で行われた飛行機械乗り同士の対面。
そこに、すべての答えがあるはずだ。

けれど、何度尋ねてみても、モナーは何も語ろうとはしない。
にやけた笑顔の下に隠した答えは、きっと明かされることはないだろう。

悔しかった。

所詮はメカニックに過ぎないあたしには、
パイロットの気持ちなど理解できるはずが無かった。

ジョルジュ。あんたは何を見て、何を感じて、ここまで来たの?
死んだワタナベの意識に導かれたの? モナーはあんたに何を言ったの?

空の声って、何なの? 


14 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:19:53.71 ID:iQAJ6vEe0 ID:

                      *

まどろみの夢は、覚めてしまえば急速にその姿を消して行く。
浜辺に作った砂の城のように、現実という名の波にさらわれてまっさらな状態に。

だけど、今回見た夢は、消えることなくはっきりと頭に残ったままだった。

寝転がっていたソファーから身体を起こす。
続けて髪をボリボリとかきむしっていると、すぐ側から声が聞こえた。

( ´∀`)「寝タバコはいかんモナー」

('A`;)「え? モナー……あっ!」

テーブルを挟んだ対面のソファーにはモナーが座っていた。
なぜ彼がいるのか考えていたあたしは、先ほどの言葉にハッとする。

眠る直前、確かタバコをくわえたままだったはず。

( ´∀`)「僕がお前の口から引っこ抜いてやったモナー」

('A`;)「ああ……悪いわね」

( ´∀`)「今後は注意するモナー」

あごに生えた無精ひげを撫でながら答えたモナーは、やっぱりいつものにやけ顔だった。



15 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:22:32.78 ID:iQAJ6vEe0 ID:

('A`)「にしても、あんたがここにいるなんて珍しいわね」

( ´∀`)「いやなに、飛行機械部隊の休憩室はコーヒーが切れていたんだモナー」

('∀`)「あら、そうなのw」

大きく伸びをして尋ねた。
よく見ると、モナーの前には飲みかけのカップ、
そして、クーが忘れていったらしい文庫本がひとつ。

彼の言い訳はそんな彼女と同じで、ちょっとだけ笑ってしまった。

休憩室の壁に掛けた時計に目をやれば、針は一時間ほど経過していた。
タバコなんて五分もてば上出来だから、モナーは一時間近くこの部屋にいたことになる。

つまり、あたしは彼にずっと寝顔を見られていたということだ。恥ずかしい。

('A`)「ここにいたんなら起こしてくれればよかったのに。
   レディの寝顔を見るなんて、男爵の名にはそぐわないんじゃなくて?」

( ´∀`)「寝顔が楽しそうに笑ってたから、起こすのは野暮かと思ったんだモナー」

('A`;)「……あたし、笑ってたの?」

( ´∀`)「ああ、とっても気持ち悪い笑顔だったモナ。いい夢でも見て他のかモナ?」



17 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:25:04.24 ID:iQAJ6vEe0 ID:

あんな夢を見ていても人は笑うのか。不思議なものだと自嘲した。

('A`)「……いや、いい夢じゃあなかったわねぇ」

( ´∀`)「そうなのかモナ?」

('A`)「ジョルジュと、死んだワタナベの夢を見たわ」

( ´∀`)「……」

顔は変わらずにやけたままだったけど、彼の眉がピクリと動いたのだけは確認できた。
モナーは静かに立ち上がると、二人分のコーヒーを作って、再びソファーに腰掛けた。

( ´∀`)「お前も懐かしい夢を見るもんだモナ。まだ過去を振り返る歳じゃないモナ?」

('A`)「……ジョルジュの様子が最近おかしいの」

モナーのからかいを軽くいなし、この間見たジョルジュについて話した。
そして、黄豹と再会して以来時折見せる彼の奇行。モナーは静かに聞いてくれた。

あらかた話し終わって、差し出されていたカップに口をつけた。
中身は冷めてはいたけれど、小娘のとは違い、上品な大人の味がした。




18 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:27:06.19 ID:iQAJ6vEe0 ID:

( ´∀`)「……誰にだって捨てきれない過去はあるモナー。
     それと折り合いをつけながら、みんな歳をとっていくんだモナー」

('A`)「……あたしにはそんな過去、無いわ」

頬の無精ひげをジョリジョリしながら、しばらくの沈黙をはさんで呟いたモナー。
反射的にあたしは、彼の言葉に真っ向から反発していた。

('A`)「あたしは男だった頃の過去も、虐げられてきた記憶も、全部踏みつけてここまできたわ。
  だから、あんたが言う捨てきれない過去なんてもの、あたしには全く理解できない」

( ´∀`)「過去を踏みつけて進むことも、十分に過去と折り合いをつけていると言えるモナー」

('A`)「……そういうもんなの? さっぱりわかんないわ」

タバコに火をつけて、煙を吸い込んだ。吐き出して、カップに口をつける。
モナーの淹れたコーヒーの味は、タバコの煙のきな臭さと絶妙にマッチしていた。
思わずぺろりと舌なめずりして、調子に乗ってあたしは尋ねる。

('∀`)「あんたにもあるの? 捨てきれない過去ってもんがさ」

( ´∀`)「そりゃあ、もちろんあるモナー」

相変わらずのにやけ顔でカップの中身を飲み干して、彼は一言。

( ´∀`)「僕は仲間を殺したモナー」



22 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:28:56.07 ID:iQAJ6vEe0 ID:

('A`;)「!?」

口にしたタバコがこぼれそうで、慌てて指で挟みなおした。
驚くあたしを尻目に、目の前のモナーはやっぱり笑っていた。

( ´∀`)「守りきれずに見殺しにしたとか、そんな間接的なものではないモナー。
     文字通り、この右手でトリガーを引いて、放った機銃で直接に仲間を葬ったモナー。
     理由は確かにあったモナー。
     だけど、僕のしたことはそんな理由ではとても片付けられないことだモナー。
     仲間殺しは、飛行機械乗りにとっては決して犯してはならない大罪だモナー」

今度こそ、あたしは口にしたタバコを地面に落とした。

その驚きの対象は、モナーの過去だけではない。
『モナーが自らの過去を話した』ということに対してだ。

モナーの特異な経歴を、VIPに乗るものならば誰もが知っている。
だからこそ誰も彼に過去を聞くことはしないし、聞いたとしてもそれは差しさわりのないことくらいだ。

そんな彼が、今、赤裸々に過去を話している。

置かれている状況に当惑しながらタバコを拾い上げたあたしに、モナーは自嘲交じりに聞いてくる。



23 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:30:49.47 ID:iQAJ6vEe0 ID:

( ´∀`)「驚くのも無理ないモナね。
     この話は艦長と副艦長、それにジョルジュ以外には話してないモナ。
     どうだ? 僕を軽蔑したかモナ?」

('A`)「あんたの人柄は良く知ってるわ。あんたが味方を撃つって言うくらいだから、
   よほどの理由があったんでしょ? 軽蔑なんかしないわよ。それより……」

『ジョルジュに話した』 この言葉が頭に引っかかっていた。
もしかしたら、これが、ジョルジュの立ち直るきっかけになった話なのかもしれない。

( ´∀`)「それより……なんだモナ?」

('A`)「ジョルジュにその話をしたのって、いつ?」

( ´∀`)「……確か、ジョルジュが黄豹に堕とされた直後だったモナ」

ビンゴ。思ったとおりだ。矢継ぎ早にあたしは質問を連ねる。

('A`)「そのときあんたはあいつになんて言ったの? どうやってあいつを立ち直らせたの?」

( ´∀`)「僕はただ昔話をしただけだモナー」

('A`)「嘘よ。それだけで立ち直れるほど、あいつの落ち込みようは軽くなかったわ」



26 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:33:07.80 ID:iQAJ6vEe0 ID:

( ´∀`)「……少しだけ、アドバイスしたモナー」

('A`)「なんて?」

( ´∀`)「それでも僕は空を飛んでいる、と」

飲み干したカップを片手に席を立つと、
彼はあたしに背を向けて、部屋の隅の棚でコーヒーを作り出す。

荒ぶるひとつの時代を駆け抜け、仲間を殺し、
それでもここまで生きながらえてきた大きな背中。

その背中が、語る。

( ´∀`)「仲間を殺して、かつての居場所に反旗を翻して、それでも僕は空を飛んでいるモナー」

('A`)「……それはなぜ?」

( ´∀`)「空には何もないからだモナー」



29 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:38:04.23 ID:iQAJ6vEe0 ID:

つい一時間ほど前にも、クーの口から小説の一節として聞いた言葉。
問いかけた赤い背中は、明瞭で、だけどやっぱり理解できない答えを返してきた。

( ´∀`)「空には何もないモナー。命だって、死だって。ただ空気だけがそこにあるんだモナー」

('A`)「空に命はあるわ。飛んでいるあんたたちが命でしょう?」

( ´∀`)「それは大きな間違いだモナ。
     空で命を意識した瞬間、そいつはまっさきに墜ちていくことになるモナー。
     だから飛行機械乗りはみんな、空では命を意識しないモナー。
     だから空には、死だって無いんだモナー」

背中は振り返り、笑った。

( ´∀`)「空では飛んでいる僕自身も空気になって、過去も罪も何もかもが関係なくなるんだモナー。
     そこでは、過去に散った仲間も空気として空を舞っていて、僕の隣で飛んでいるモナー。
     僕が赦される場所は、そんな空だけ。
     そして、ジョルジュだって同じことなんだモナー。
     ジョルジュが赦されるのも空だけ。だから僕はジョルジュに言ったモナー。
     『お前は、飛べなくても空を見上げ続けろ』と」



30 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:39:57.17 ID:iQAJ6vEe0 ID:

('A`)「……わかんない。全然わかんないわ。あんたたちの考え方も、何もかも」

( ´∀`)「メカニックにはメカニックの、パイロットにはパイロットの考え方があるモナー。
     無理やり理解して欲しくなんか無いし、そうしようとすることこそ愚かしいモナー」

('A`)「まったくだわ。だけど何よ、ジョルジュが赦されるって? ジョルジュに罪なんか無いわ」

( ´∀`)「僕たちがどう捉えようと、あいつが罪と思えば罪になるモナー。
     あいつの最後の交戦記録、見たかモナ?」

('A`;)「そんなものがあったの!?」

( ´∀`)「正規のではないモナ。僕が無理矢理書かせたモナー」

モナーはソファーに腰掛けカップをテーブルに置くと、それに口もつけずに言った。

( ´∀`)「黄豹……今最大のライバルは、思えばあの頃から僕たちの前に立ちふさがっていたモナね
     ジョルジュは黄豹との交戦の際、出会い頭に後方下部の死角から銃撃。
     しかし、ネコ耳はそれを聞き逃さず、黄豹は即座に回避。
     そこから数度の交錯の後、ジョルジュは背後を取られるモナー。
     そこであいつは、サーカスで一発逆転を狙ったそうだモナー」

そして、報告書を見たモナーが言うには、その直後、ワタナベはこう言ったらしい。

『ダメ! 今の空は受け止めてくれない!!』



32 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:41:28.59 ID:iQAJ6vEe0 ID:

( ´∀`)「ワタナベの言うとおり機体は大きく体勢を崩し、あいつはサーカスに失敗。
     黄豹にドカン。あとの結果は、お前も知っての通りだモナー」

('A`)「……ワタナベの言葉を無視した。それがジョルジュの罪だって言うの?」

( ´∀`)「それと、ワタナベを死なせたこと。少なくともジョルジュはそう考えているモナー。
      ところで、僕が複座式飛行機械を嫌うわけがわかるかモナ?」

('A`)「いいえ。まったく。理由なんてあったの?」

( ´∀`)「もちろんあるモナー」

そこでようやく、モナーはカップに口をつけた。
鼻と口の間の無精ひげにコーヒーのくすんだ色が染み付いていて、少しおかしかった。

そのまま一呼吸置いて、彼は続ける。

( ´∀`)「複座式飛行機械は二人でひとつ。互いの意志がかみ合わないと最適な飛行は出来ないモナー。
     それはうまくかみ合えばとんでもない力を出すけど、かみ合わなければ実力の半分も出せない。
     そして、ひとりが欠ければ、二度とその飛行は出来ないモナー。今のジョルジュみたいに」

('A`)「……」

( ´∀`)「僕はその恐怖に耐えられないモナー。
     だから今でも独りで飛び続けているモナー。僕はジョルジュのように強くは無いから」



35 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:44:48.72 ID:iQAJ6vEe0 ID:

('A`)「……あの子は強いの?」

( ´∀`)「ああ。あいつなら心配しなくても大丈夫だモナー。
     あいつは僕の弟子だモナ。そして、あの地獄から這い上がってメカニックになった男だモナ。
     僕たちとは比べ物にならないほど、あいつは強い男だモナー。
     それに、この部屋に来る前、あいつが笑いながら走り回っているのを見かけたモナー」

立ち上がったモナー。大きく腕や腰を回し身体をほぐし始める。
そして、いつも以上のにやけ顔であたしを見て、大きく笑った。

( ´∀`)「あいつ、ツンとクーのブラジャーを被って二人に追いかけられていたモナーwww」

('A`;)「……あのバカはホントにもう……」

拍子抜けして、身体中から力が抜けた。
あたしのこれまでの心配はなんだったんだろう? あとであいつを殴り飛ばしてやるわ。

( ´∀`)「さて、昔話のお代をいただくモナ。ちょっと飛行機械を診てくれモナー」

('A`)「あら、そういえばあんた飛行服着てるわね。飛んだの? 今日は飛行禁止のはずよ?」

( ´∀`)「硬いこと言いっこなしだモナー。 
      こんな気持ちいい日に飛ばない飛行機械乗りはいないモナー」

('∀`)「しょうがない男ね、あんたってw」

立ち上がって、クーの忘れていった文庫本をポケットに入れる。

そしてあたしたちは、休憩室の扉を開けた。


37 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:46:39.36 ID:iQAJ6vEe0 ID:

                         *

('A`)「にしても何で上部甲板なんかに停めたのよ? あんたの機体の定位置は下部甲板でしょうが」

( ´∀`)「こんな晴れた日には、空が見える上部甲板に着陸したくなるもんだモナー」

('A`)「おかげでこっちは大迷惑よ」

上部甲板へと続く艦内通路を歩きながら、何気ない会話を交わす。
『いつかもこうやってモナーと歩いたな』と懐かしんでしまったのは、きっとあたしが歳を取ったからだろう。

振り返るものが多くなったということは、失ったものも多くなってしまったということだ。
それが悲しいことなのかどうか、今はまだわからない。

( ´∀`)「ワタナベが生きていたらきっと、上部甲板で空でも見上げているモナね」

('∀`)「そうね。『空の声が聞こえる』なんてわけのわからないこと言いながらね」

( ´∀`)「モナモナモナwwww 『空の声』なんて懐かしいモナーwwwww」

手すりを握りながら、ゆっくりと階段を上る。

いつかまた、こうやってモナーと話したことを懐かしむ日が来るのだろうか?
今、この手で握った手すりの冷たさが、この記憶を思い出す引き金になるのだろうか?



38 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:48:34.64 ID:iQAJ6vEe0 ID:

( ´∀`)「『空の声』ってどんなもんなのか気になるモナね」

('A`)「あら? 空を知り尽くしたレッドバロンにもわからないものなの?」

( ´∀`)「僕が知っている空なんてほんの一握りなもんだモナー」

カツン、カツンと、階段を踏みしめる音。すれ違う人間は誰もいない。
きっと、みんなどこかで、思い思いにゆったりした時間を過ごしているのだろう。

( ´∀`)「僕には風の流れが何となくだけど見えるモナ。
     ネコ耳にも僕たちの聞こえないさまざまな音が聞こえるみたいだモナ。
     それと一緒で、ワタナベの言っていた空の声はあくまで個人の感覚の問題。
     他人の感覚を理解しようだなんて、それはきっとおこがましいことなんだモナー」

('∀`)「気になるとか言っておきながら、自分でそれを否定していちゃ世話無いわね」

( ´∀`)「全くだモナーwww 今日の僕はどうかしてるモナーwwwwwww」

('∀`)「ホントよwwwww ま、あたしもだけどねwwwww」

笑いあって、階段を上りきった。

目の前に、日の光に照らされた広大な鋼鉄の地面が広がった。



39 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:49:46.42 ID:iQAJ6vEe0 ID:

砲台の鉛色。
飛行機械の格納庫と、高く伸びた管制塔くすんだ黒鉄色。

モナーが端に停めた飛行機械の赤い色。
そして、澄み切った空の青い色。

太陽に照らされてほのかな熱を帯びた鉄の大地には、
それ以外に、何も無い。

何も無い、はずだった。


从'ー'从「……」


広い広い甲板の真ん中で、死んだワタナベの横顔が空を見上げていた。



41 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:52:02.30 ID:iQAJ6vEe0 ID:

(;´∀`)「ワ……ワタナベ!?」

('A`;)「う、嘘でしょ!?」

ありえない光景に立ち止まり、驚いて声を上げた。
まるで記憶の一ページを再現したかのような光景が、目の前に広がっていた。

模擬戦でジョルジュがクーを破ったあの日。
降り立ったこの上部甲板で、空の声と呟いたワタナベ。

その顔は、立ち尽くすあたしたちへ、ゆっくりと振り返る。

ξ゚听)ξ「……?」

ξ゚听)ξ「モナーさん、オカマ、何か用ですか?」

そこに立っていたのは、ワタナベではなく小娘だった。



43 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:52:57.83 ID:iQAJ6vEe0 ID:

('A`;)「あ、あんた! そこで何してるのよ!?」

ξ゚听)ξ「何って、空を見ていただけだけど? 悪い?」

目にした幻影に驚いて、何とか口に出した言葉はあまりにつまらない内容だった。
隣に立つモナーに至っては声も出せないようで、にやけ顔をピクピクと引きつらせている。

遠くに見えていた小娘がツカツカとこちらへ歩いてきて、
大きくなったその姿と、続けて発せられた不機嫌な声に、
彼女が間違いなくワタナベでないと思い知らされた。

小娘はあたしたち二人の前に立つと、赤い飛行機械を指差して言う。

ξ゚听)ξ「モナーさん、飛行機械で出たみたいですね。今日の飛行は禁止じゃなかったんですか?」

(;´∀`)「あ、いや……あんまり気持ちいい空だったからついモナー……」

ξ゚听)ξ「ふーん。隊長っていうのは結構なご身分ですね」



46 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:55:27.94 ID:iQAJ6vEe0 ID:

あまりにも不遜な小娘の態度に、戸惑っていたあたしも落ち着きを取り戻した。
ふくれっ面の彼女の脳天に、一発拳骨をお見舞いしてあげる。

('A`)「こら」

ξ;゚听)ξ「へびゃ! ……痛ったー! 何すんのよウンコオカマ!!」

(#'A`)「ウンコじゃないわよ! 生意気なこと言ってんじゃないの!
   モナーは仮にもあんたの上官でしょうが! 口の利き方ってもんがあるでしょ!」

『ゴチン!』と盛大な音が響いて、小娘は顔を歪めてうずくまった。
あたしは女であろうと容赦しないから、拳骨はかなり痛かったはず。
それでも悪態をついてくるあたり、さすがは小娘である。

(;´∀`)「まあまあ毒男、こればっかりは僕が悪いモナー。
     それよりツン、さっきジョルジュを追いかけてたみたいだけど……」

ξ゚听)ξ「ああ、あの変態ならクーさんに捕まって艦長室に連行されましたよ。
     今頃、頭の上にりんごでものっけてるんじゃないんですか??」

頭をさすりながら立ち上がった小娘の言葉に、あたしとモナーは顔を見合わせて笑った。



47 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:56:28.33 ID:iQAJ6vEe0 ID:

('∀`)「全く、あいつって筋金入りのバカねwww」

ξ゚听)ξ「バカじゃなくて変態よ」

( ´∀`)「モナモナモナwwww で、ツンは一人で空を見上げていたモナか?」

ξ゚听)ξ「はい。ブーンは何かよそよそしいし、他にすることもありませんでしたから」

再び空を見上げた小娘は、まぶしそうに目を細め、言った。

ξ゚ー゚)ξ「でも、こうやって空を見上げるのって、悪くないわ。
   今日みたいな気持ちのいい日って、空も本当に楽しそうなんですよね。
   まるで空の笑い声が聞こえるみたいで、眺めているだけで楽しいって言うか……」

('A`;)「!?」

(;´∀`)「!?」

その言葉を耳にしたあたしたちは、思わず小娘に詰め寄っていた。



50 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:58:15.88 ID:iQAJ6vEe0 ID:

('A`;)「あ、あんた! 空の声が聞こえるの!?」

ξ;゚听)ξ「は、はぇ?」

(;´∀`)「空の声が聞こえるのかって聞いてるんだモナー!!」

ξ;゚听)ξ「い、いや、空の声っていうきゃ!」

ξ;゚听)ξ「か、噛んじゃった……」

噛んだ舌を口外に晒し、ヒーヒーと苦しむ小娘。

目に涙を、額に脂汗を浮かべた彼女は、
詰め寄るあたしたちにたじろぎながら続ける。



51 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 12:58:51.48 ID:iQAJ6vEe0 ID:

ξ;゚听)ξ「空の声っていうか、切った風の音が声みたいに聞こえるときがあるんでふ。
    そういう時って、すごく飛ぶのが楽しいって言うか、空と一体になれるって言うか……。
    とにかく、たまにそんな声が聞こえるんでふ。あー、ベロいたーい……」

('A`;)「……」

(;´∀`)「……」

('∀`)「ぶほほほほほwwwwwwwwwww」

( ´∀`)「モナモナモナwwwwwwwwwwwwww」

小娘の言葉に唖然とした後、あたしとモナーは腹を抱えて笑った。



53 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 13:00:54.88 ID:iQAJ6vEe0 ID:

ξ;゚听)ξ「な、なに笑ってんのよ! あんたたちがいきなり詰め寄ってくるからベロ噛んだのよ!?」

('∀`)「ぶほほほほwwww 違うわよwwww そんなことじゃないのよwwwww」

( ´∀`)「モナモナモナwwwww こいつは傑作だモナwwwwww」

ξ;゚听)ξ「だ、だったら、何がおかしいって言うのよ!!」

顔を真っ赤に染めて怒鳴る小娘。
それを前に、あたしとモナーは笑いを止めることが出来なかった。

('∀`)「ぶほほほほwwwww 小娘、あんたは間違いなくいいナビになれるわ!」

( ´∀`)「モナモナモナwwww これは僕もうかうかしていられないモナー!」

ξ;゚听)ξ「はぁ? 一体なんの話ですか!?」

それきり、こみ上げる笑いに何も言えなくなったあたしたちの前で、
小娘は大げさな身振り手振りでピョンピョンと飛び跳ねながら、ギャーギャーと騒ぎ続けた。



55 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 13:02:29.24 ID:iQAJ6vEe0 ID:

ワタナベの言っていた空の声。
彼女にだけ聞こえていたその声が、意外な人物にも受け継がれていた。

ワタナベとツン。過去と現在の間に結ばれていた、『空の声』という名の繋がりの糸。
それを発見するたび、こんな風に笑えるのなら、歳を取ることは悲しいことなんかじゃない。

時の流れに立ち止まり、後ろを振り返って過ぎていった人と日々を懐かしみ、
そこから現在に続く繋がりの糸を見て、それが紡がれていくであろう未来に想いを託す。
その糸をたどって未来へ進めば、失った人にも日々にも必ず出会える。

悲しくなんかない。寂しくなんかない。今、この時が過去になったとしても、
ここから伸びる繋がりの糸さえ見失わなければ、あたしたちは必ず、未来で出会える。

隣でモナーも笑っていた。
今なら、先ほど彼が言っていたこともわかる気がした。

空には、空気以外に何もない。
堕ちた人間も、生き残った人間も、空ではみんな、空気になる。
そこでは、過去も未来も関係なく、出会える。
生も死も、咎められるべき罪もない。だからこそ、赦される。

そんな飛行機械乗りが、少しうらやましく思えた。



56 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 13:04:09.54 ID:iQAJ6vEe0 ID:

ひとしきり笑いまくったあたしの耳に、甲高い銃声が数発聞こえてきた。

一体何事かと音のした管制塔へと目をやると、
そこから顔面にブラジャーを被った艦長とジョルジュ、そして般若の面を被ったクーが出てきた。

(´○ω○`)「ふははははははははは! これがブラジャーというものか!!
      良いではないか……良いではないかあああああああああああああああああ!!」
  _
( ○∀○)ノ「でっしょー!? ブラジャーイカスでしょー!?」

川#゚ -゚)「貴様らああああああああ! 臓物をブチ撒けろおおおおおおおおおお!!」

それから上部甲板を走り回る三人。顔を引きつらせたツンがクーに向けて叫ぶ。

ξ;゚听)ξ「クーさん! どうしたんですか!?」

川#゚ -゚)「おお、ツンか! 見ての通り、艦長がご乱心なさった! 
     これから私はジョルジュのバカと一緒に艦長を粛清する! ツン、お前も手伝え!!」

ξ#゚听)ξ「了解! 発砲は!?」

川#゚ -゚)「許可する!!」
  _
ヽ(○∀○)ノヽ (´○ω○`)ノ「「ウィー・アー・ブラジャーマスクメン!!」」

川#゚ -゚)y=- ξ#゚听)y=- 「「ぶち殺す!!」」

そして四人は走り去り、上部甲板から姿を消した。



60 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 13:05:30.98 ID:iQAJ6vEe0 ID:

(;゚д゚ )「やれやれ、ちょっと遅かったか」

('A`)「あら、副艦長じゃない。何やってるの?」

(;゚д゚ )「艦長とジョルジュのあとを追っていたんだ」

消えていく四人を眺めていたあたしとモナー。
その背後から現れた副艦長は額の汗をぬぐい、ぼやく。

(;゚д゚ )「まったく、ジョルジュは元気すぎていかんな。
    おかげで艦長まで触発されて悪ノリする始末だ」

('∀`)「ぶほほほほwww まったくよねぇwwww」

(;゚д゚ )「笑い事じゃない! クーたちより先に取り押さえなければ、
    二人は本当に殺されるぞ!? お前たちも手伝え!!」

('∀`)「悪いけど無理よ。これからモナーの飛行機械を診なきゃいけないの」

(;゚д゚ )「何だと!? モナー! 今日の飛行は禁止だといったのに飛んだな!?
    隊長たるお前が命令を守れんでどうするんだ!? しっかりしてくれよ!!」

( ´∀`)「いやはや、すまんことだモナー」

(;゚д゚ )「しょうがない。スロウライダーに手伝ってもらうか。飛行機械の整備はしっかりやれよ!?」

( ´∀`)('∀`)「「了解!!」」



61 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 13:06:41.66 ID:iQAJ6vEe0 ID:

四人の後を追い、上部甲板から姿を消した副艦長。
それを見届けたあたしは、モナーに向かってぽつりと呟く。

('∀`)「ホント、あのバカを心配して損したわ」

( ´∀`)「僕の言うとおりだったモナー。ジョルジュは大丈夫だモナー」

('∀`)「そうね。あとのことは副艦長に任せて、あたしたちは機体整備にでも行きますか」

( ´∀`)「頼むモナー」

モナーの飛行機械へと歩を進めたあたしたち。

晴れ晴れとした青空の下には、たくさんの銃声と悲鳴、そして笑い声がこだましていた。



64 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 13:10:06.15 ID:iQAJ6vEe0 ID:

                     *

それから数週間後。
エデン近郊で行われた『黄昏の空戦』にて、ジョルジュ長岡は空に散った。

その二日後、皆に見送られた空葬のあと、ひとり泣き続けるブーンちゃんに、あたしは言った。

('A`)「あいつはね、死に場所を探していたのよ。
   空から堕ちたあの日、幼馴染を失ったあの日から……ずっとね。
   そして一昨日、あいつは最高の死に場所を見つけた。
   あんたを守り、宿敵である黄豹に一矢報える空をね。
   ―――あいつはきっと、幸せだったはずよ」

( ;ω;)「……」

ブーンちゃんは笑いはしなかったけど、きっと納得してくれたと思う。
手渡した眼帯を握り締めた彼の手は、あたしの想いも受け止めてくれたはずだわ。

だけどあたしはブーンちゃんに、ひとつだけ嘘をついた。

たとえ飛行機械乗りとはいえ、
まだまだ子供のあの子には、きっと理解できないことだと思ったから。



66 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 13:11:13.91 ID:iQAJ6vEe0 ID:

('A`)「あんたは死んでなんかいない」

ジョルジュが堕ちた日の深夜、どうしても眠ることが出来ないでいたあたしは、
満天の星に見下ろされた上部甲板の端に立ち、夜空を眺めていた。

('A`)「空には、命も死もない。あんたはただ、空気になって空へ還っただけ。
  どうせ今頃、あんたはあたしたちの気持ちなんか知りもしないで、
  ワタナベと一緒に、どこかの空を渡っているんでしょ?」

少しだけ寒い夜風が頬を撫でた。
揺れる髪を押さえて、あたしは文庫本を前に掲げる。

('A`)「ジョルジュ、忘れ物よ。あんたがクーに貸した小説。あたしが回収しておいたわ」

あの日、整備班の休憩室にクーが置き忘れていったジョルジュの小説。

別れのあいさつ代わりに、
あたしは、いつかクーが読み上げた、あの一節を口にする。



69 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 13:12:57.52 ID:iQAJ6vEe0 ID:


――加速の限界で、回生の息を戻し、生命を蘇らせ、
瞬時に振り返って、次の煙を見る。そのまた次の炎を確かめる。

どこまでも上がっていき。どこまでも。遠いところへ。
撃たれた奴だって、同じこと。みんな、どこまでも、上っていくんだ。

みんな、踊っている。違いは、なにもない。
周りには、空気しかない。なにもない。命も、死も――


('∀`)「クサイ台詞w あんたがこういうの好きだったなんて、知りもしなかったわw」

クスリと笑って、放り投げた。

それはどす黒い雲海へと吸い込まれ、すぐに見えなくなった。



72 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 13:14:09.68 ID:iQAJ6vEe0 ID:

('∀`)「ホントのこと言うとね、あたし、あんたのことちょっと好きだったのよ?」

視線を星空に戻して、呟いた。
答えは何も返ってこず、あたしの言葉が夜風に乗って流れていくだけ。

('∀`)「だけどね、あたしは薄情なのよ。
   死んだ人間のことなんていちいち覚えていられないわ。
   あんたから受け取った眼帯も、今度ブーンちゃんに渡すつもり。
   これまでと同じように、あたしは過去を踏みにじって前に進んでいくだけよ。
   あんたのことなんて、すぐに忘れてしまうわ」

笑いかけた空。やっぱり答えは、何も返ってこない。
空の声なんて、聞こえもしない。

('A`)「それに、あたしは飛行機械乗りじゃない。
   飛べないあたしがあんたと空で会うことなんて、あるはずがない」

不意に、目頭が熱くなった。
押し留めようとしても、それは別れの言葉と同じように、自然とこぼれ落ちていく。

(;A;)「だから……さようなら。ジョルジュ長岡」



75 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 13:15:56.63 ID:iQAJ6vEe0 ID:

('∀`)「ぶほほwww ちょっと泣いちゃったわ!」

涙をぬぐって、また空に笑いかけた。
一度外に出してしまえば、涙にも、言葉にも、感情にも、何も縛られることはない。

('∀`)「ブーンちゃんも、ツンも、クーも、モナーも、みんなみんな、空を飛び続けるわ。
   だからたまには、あんたもあいつらの前に顔を出してやんなさいよ?
   それと、もしあたしとあんたの間に何か糸の繋がりのようなものがあれば、
   その時はまた、あんたに会うことがあるかもしれないわねぇ」

夜風が冷たくなってきた。
そろそろ部屋に戻ろうと、夜空に背を向けた。


『うひゃひゃwwww オカマとなんか繋がりたくねーよwwwww』

『ダメだよ〜ジョルジュ〜、そんなこと言っちゃ〜』


背後から、懐かしい声が聞こえた気がした。



78 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 13:16:58.60 ID:iQAJ6vEe0 ID:

('∀`)「……気のせいだわね」

一瞬だけ立ち止まって、だけど振り返らなかった。
代わりに右手を上げて、呟いてあげた。

('∀`)ノ「チャオ。またね」

『おうよ! またな!』

『オカマさ〜ん、元気でね〜』

その声も、やっぱり気のせいだっただろう。
彼らはこんなところにはいない。いるとしたら、それは広い広い空のど真ん中だ。

上部甲板を抜け、自室へと戻った。
今度は不思議と、すぐに眠れた。そして、ちょっとだけ夢を見た。


ピンク色の飛行機械が、誰かの名前の色をした空を行く夢。


だけどそれは、覚めてしまえばすぐに忘れてしまう、ただの夢に過ぎなかった。



81 :78 ◆pSbwFYBhoY :2007/08/17(金) 13:19:33.69 ID:iQAJ6vEe0 ID:

その二日後、ジョルジュの空葬のあとであたしが涙を流したのは、
空の蒼がとっても綺麗だったから。



ただ、それだけのこと。



  _
( ゚∀゚)が空を行くようです  おしまい


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