79 名前:VIP皇帝[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:51:17.94 ID:IW8oMVOy0
第十二話 悲壮感の空間で
ありえないぐらいの焦燥に駆られる。
音が小さかったとはいえ、発砲が近くで起こったことは間違いない。
嫌でも、モララーさんと秘書さんが銃を持っていたことを思い出す。
(´・ω・`)「……」
だが、しぃはその音に反応すらしていなかった。
驚愕、あるいは慍色の表情で僕を見つめる。
たじろぐ僕に対し、彼女は何も言わない。言ってくれない。
窓に駆け寄り、外を見る。
……そこには、誰もいなかった。
ただの幻聴だったのだろうか。
(*゚ー゚)「……聴こえるよ」
(´・ω・`)「え……」
(*゚ー゚)「音が聴こえる……銃を撃ってるみたいな音」
今、僕には何も聴こえない。
しぃは目を閉じ、聴覚に神経を集中させているようだ。
80 名前:アムス[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:51:53.10 ID:IW8oMVOy0
(*゚ー゚)「消えた」
しばらくして、しぃがぽつりと。
僕は黙って彼女に背を向ける。
幻聴が二人同時に起こるはずもない。
ならば、答えは一つしかないじゃないか。
(*゚ー゚)「ねえ、しょぼんくん。これでもやっぱり関係ないかな?」
(´・ω・`)「……」
(*゚ー゚)「この世界と私たちは」
どこかの地区で銃声が響いている。
今日も誰かが死ぬのだろう。
そして、明日になればまた生き返り、不可避の運命を辿ることになる。
関係がない、とは今更言えない。
僕は関係させられてしまっている。
81 名前:アムス[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:52:17.25 ID:IW8oMVOy0
振り向き、しぃを見る。
彼女の右頬はわずかに赤く染まっていた。
(´・ω・`)「でも、この世界は元々僕らの世界じゃない」
(*゚ー゚)「それはそうだよ。でももう、私たちはこの世界の救世主になっちゃった」
(´・ω・`)「勝手にさせられたようなもんだ! 僕は、僕はすぐにでも帰りたい
でもしぃは違うんだろ!? この世界に余計なお世話をしたいんだろう!?」
(*゚ー゚)「も、元々関係ないからって助けられるものを助けないのはなんか違うと思うな!」
(´・ω・`)「じゃあ帰りたくないの?」
(*゚ー゚)「そりゃ帰りたいよ。ああ、今すぐ帰りたいさ! でも無理じゃん、不可能じゃん
だからってふさぎこんでてもしょうがないじゃん……」
(´・ω・`)「……」
(*゚ー゚)「向こうの世界じゃ絶対に神様になんかなれない。
この世界を助けることの何が悪いのさ!」
怒鳴るしぃに僕は何も言えない。
悪くはない。絶対に。でも。
82 名前:アムス[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:52:34.98 ID:IW8oMVOy0
(*゚ー゚)「さ、何からやればいいのかな」
しぃだってわかっているはずだ。
(*゚ー゚)「まずみんなが平和に暮らせる世の中にしないとね!」
僕らは何も知らない。
(*゚ー゚)「戦争のない世界にしたいなあ」
何も知らない僕らが、世界を変える?
(*゚ー゚)「それからみんなが幸せになって、元気になって……」
そんなこと、できるはずもない。
(*゚ー゚)「……」
所詮一介の高校生。ただ絵本作家を目指す彼女と、将来の展望など何もない僕。
(*゚ー゚)「ねえ、しょぼんくん」
(´・ω・`)「……」
(*゚ー゚)「私たちに、できるかなあ?」
83 名前:アムス[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:53:11.98 ID:IW8oMVOy0
(´・ω・`)「できるわけないよ。僕らの知る世界から戦争がなくなったことも、
人類みんなが幸せになったこともないのに」
(*゚ー゚)「そうなのかな」
(´・ω・`)「しぃだってわかってただろう?
自己満足で世界を救うなんてできやしないんだ」
(*゚ー゚)「でも、でももう、お、遅いよ……引き受けちゃったじゃん……」
瞳は悲哀に満ちていた。
すべてが絶望を物語っていた。
安請け合いしていいものではなかったのだ。
でも、彼女は見捨てることが出来なかった。
なまじっか力があると言われたばっかりに。
(*゚ー゚)「……どうすればいいのかな」
(´・ω・`)「わからないよ。僕には。そして誰も教えちゃくれない」
(*゚ー゚)「あー、だめだ。なんか、泣きたい」
(´・ω・`)「……」
84 名前:アムス[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:53:57.91 ID:IW8oMVOy0
そのとき、また何かが聞こえてきた。
それは幻聴。
遠いどこかの叫びだった。
「この子の名前は何にしようか」
「そんな、悠長なことを考えてる暇なんて無いわよ。今は」
「そういうなよ。名前ってのはこれから生きていくうえで大切な勲章だ」
「……私は、産まれてくれただけでもう満足しちゃってる」
「そうだな。こんな時代だ……そうだ、ロマネスクにしよう」
「ロマネスク?」
「どこかの言葉で小説的って意味さ。希望、とかじゃストレートすぎて面白くないだろう?」
「……うん、いいわ。この子は、ロマネスクね」
「子供に戦争終結を願うのは卑怯かな?」
「わからないわ……でも、悪くはないはずよ。神様もきっと許してくれる」
「……そうだね」
僕らは、この夫婦の結末を知らない。
でも、子供の結末を知っている。
85 名前:アムス[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:54:17.92 ID:IW8oMVOy0
(*゚ー゚)「助けないと……」
音は途絶えた。
今回、しぃと僕は同じ音を聞いていたらしい。
(´・ω・`)「どうやって」
(*゚ー゚)「あの子の、せめて命だけでも」
(´・ω・`)「それをしたところで何になるのさ。
モララーさんは確かにロマネスクって言ってたよ。
でもそれはあくまで一例。他にも死んでしまう人はたくさんいるはずだ。運命的に」
(*゚ー゚)「……」
(´・ω・`)「公平性に欠ける」
(*゚ー゚)「じゃ、じゃあ見捨てるの?」
(´・ω・`)「それしか、ないよ」
86 名前:アムス[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:54:42.48 ID:IW8oMVOy0
言いながら自己嫌悪に陥る。
これじゃあただの性悪人間だ。
助かる命があるなら助けるべきだと、思うはずだ。
なのになぜかそう思えない。
神様って肩書きが付いただけだ。それなのに。
(´・ω・`)「明日になればまた世界は再構成される。そのときになんとかすればいいと思う」
(*゚ー゚)「……」
(´・ω・`)「時間はあるはずだ。もっと、考えてみようよ」
(*゚ー゚)「うん……わかった、よ」
渋面で引き下がるしぃ。
僕は、彼女に謝りそびれていた。
87 名前:アムス[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:55:46.70 ID:IW8oMVOy0
実感は何もない。
僕はもう一度窓の外を眺めるだけだし、しぃは壁に向かって座り込んでいる。
彼女は、泣いているのかもしれない……いや、まさか。
泣いたところ見たことないし、それはないだろう。
多分、おそらく。
そのまま時は過ぎていく。
しぃは何か考えているのだろうか。
僕は何も考えていない。
たとえば今、「世界よ平和になれー」と考えたところでその通りになるとは思えない。
荒巻さんも「可能な限り」と言っていた。
じゃあ小さなことから、と考えを進める。
だが行き詰まる。その「小さなこと」が思いつかないのだ。
誰かを助けてみる? じゃあ誰から?
知っている人からというのはやはり不公平だから優先順位を……など。
無駄だとわかっているのに。
88 名前:アムス[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:56:08.65 ID:IW8oMVOy0
たとえば今柘榴を停止すれば必ず世界は崩壊する。
じゃあ世界が崩壊しないように繕えるのか。出来ない相談だ。
逆に世界を柘榴の影響下になくても順調に循環するような社会にすることは?
無理だ。どれほど広いのかもしれない世界を一日で作りかえることなど。
じゃあ、やっぱり絶望なのか。
そのとき、しぃがふと立ち上がった。
(*゚ー゚)「んー……」
(´・ω・`)「ど、どうしたの?」
(*゚ー゚)「ほいっと」
えい、とばかりに手を振った瞬間。
彼女の前の空間に、何か物体が出現した。
(´・ω・`)「?」
パサリ、とそれは地面に落ちる。
(*゚ー゚)「おお、できた」
90 名前:アムス[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:56:37.42 ID:IW8oMVOy0
期待するまでもなかった。
それはスケッチブックとペン。
確か、当初のマンションに置き忘れてきたヤツだ。
(*゚ー゚)「ほうほう、これぐらいならできちゃうのか」
(´・ω・`)「……荒巻さんも樹を出現させてたしね」
(*゚ー゚)「でもあれは多分、柘榴の影響を受けてない場所から出来たんだよ」
(´・ω・`)「……そうかな」
(*゚ー゚)「そうともさ」
そういうと、しぃはぺたりと座り込んでスケッチブックを開く。
(´・ω・`)「何するの?」
(*゚ー゚)「絵本描く」
(´・ω・`)「え……明日のこと考えるって」
(*゚ー゚)「もしかしたら描いてるうちに何かが浮かぶかもしれないよ」
……つくづく不思議な子だと思う。
僕に、彼女の本気は伝わってこない。
91 名前:アムス[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:57:10.01 ID:IW8oMVOy0
(*゚ー゚)「それにしても」
(´・ω・`)「?」
ペンの走る音が響いている。
(*゚ー゚)「おなかすかないね」
(´・ω・`)「あ、そういえば」
時間的にもう昼飯時なんじゃないだろうか。
(*゚ー゚)「……なんだろ、やっぱり神様になると食べ物とか必要なくなるのかな」
しぃは寂しげだ。
……というか、それは本当だろうか。
何も食べなくて済むとなればやはり何か物寂しい。
(*゚ー゚)「霞とか食べればいいのかな?」
(´・ω・`)「それは仙人でしょ」
92 名前:アムス[] 投稿日:2007/01/03(水) 20:57:34.74 ID:IW8oMVOy0
(*゚ー゚)「そして眠くもならない」
(´・ω・`)「うーん……」
(*゚ー゚)「おぉ、なんだか人間脱却って感じだ」
嬉しいのかな、しぃは。
僕は嬉しくないぞ、というか怖い。
そういえば。
荒巻さんはこの世界を創ったときから生きてるんだっけ。
じゃあ、僕らも必然的にそうなってしまうのだろうか。
……だめだ、考えたくもない。
しぃは淡々と絵本を描く。
暇というものがこれほど恐ろしいということを、僕は知らなかった。
96 名前:ホ−ムラン[] 投稿日:2007/01/03(水) 21:03:59.81 ID:IW8oMVOy0
挿話
( ・∀・)「気分はどうです?」
川 ゚ -゚)「別に、どうということも」
( ・∀・)「いえ、あなたはもう自らの運命を知り得ているはずですから」
川 ゚ -゚)「なんのことだか」
( ・∀・)「……ひねくれましたねえ」
川 ゚ -゚)「……」
( ・∀・)「もうすぐもう一人の神様がやってきます。昔話の執筆者になるつもりはありませんか?」
川 ゚ -゚)「どういうことでしょうか」
( ・∀・)「既存のお話に付け加えるのです。
やがて四人目の神が現れ、世界をあるべき姿に再生させる、と」
川 ゚ -゚)「あなたがやればいいじゃないですか」
・・・
・・
・
【関連】
一気読み
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プロローグ
第一話
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第二話
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第三話
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第四話
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第五話
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第六話
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第七話
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第八話
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第九話
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第十話
第十一話
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第十二話
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第十三話