149 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:33:20.45 ID:sGFdDask0
第十四話:絶望論
('A`)「起きろよ!」
その声に、反射的に上体を起こす。
背中から腰にかけてが痛む。
無理もない、僕は机に突っ伏したまま眠っていたからだ。
(´・ω・`)「ん……ここは?」
そこは見覚えのある風景。
元々の世界にある、近所の図書館だった。
放課後、勉強意欲のあるすばらしい学生さんはここに来て問題集を広げる、そんな空間。
('A`)「お前寝ぼけんなよ」
(´・ω・`)「え、あー……ごめん」
(・∀ ・)「まったく、遅刻したくせにー」
そうだ。
徐々に記憶が回復する。
テスト一週間前だからということで、友達……ドクオとまたんきと共に放課後、
図書館で勉強会を開こうと計画したんだった。
どおりで、周囲は学生で埋め尽くされている。
150 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:34:10.86 ID:sGFdDask0
(・∀ ・)「席をとっといてあげたんだから、感謝してよねー」
(´・ω・`)「あ、うん。どうも」
目の前の問題集を見る。
集合とか極限とか、ややこしそうな単語が一杯目に入る。
(・∀ ・)「ドックオー、ここを教えろー」
('A`)「ああ? どれだ」
(・∀ ・)「物理」
('A`)「ああ、俺ダメ。文系だもの」
(・∀ ・)「じゃあ生物」
('A`)「文系だってんだろうが」
(・∀ ・)「じゃあ次の仮面ライダー」
('A`)「電王」
おかしいな。
何かを、忘れている気がする。
151 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:36:07.16 ID:sGFdDask0
その時、ズボンのポケットが震えた。
多分携帯電話だ。
周囲を気にしつつモゾモゾと取り出す。
サブ液晶には「新着メール:一件」とある。
(´・ω・`)「……?」
普段メールのやりとりなどあまりしない。
決して友達が少ないわけではない、はず。
二人の視線を感じつつボタンを操作。
届いたメールをチェックする。
「西町の、公園に来てください」
それは、しぃからのものだった。
152 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:37:02.45 ID:sGFdDask0
なんで敬語なんだ、という疑問がまず浮かんだ。
気味が悪い。いつもはもっとハイテンションなメールばかり送ってくるくせに。
……で、どうしよう。
断るのが一番手っ取り早いが幸か不幸かここから西町の公園までは歩いて五分ぐらいだ。
何のようかも書いていないのが気になるし。
そして、寝起き早々勉強に飽きている。
よし。決まりだ。
(´・ω・`)「ちょっと外行ってくる」
('A`)「あぁ!?」
(・∀ ・)「どっしたのさー?」
(´・ω・`)「……のどが渇いた」
('A`)「これか」
と、ドクオが小指を立てる。
(´・ω・`)「いや、違うよ。つーか、いないよ」
('A`)「いや、お前の目が物語っているよ」
(・∀ ・)「男の目のそんなに凝視すんなよー、ドックオー」
153 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:38:21.23 ID:sGFdDask0
席の確保を二人に任せ、とりあえず僕は図書館を出た。
「今から行く」と、しぃには返信しておく。
途中、携帯を操作していて一つ疑問が浮かぶ。
(´・ω・`)「なんだこれ……」
受信メール一覧。
そこが、しぃの名で埋め尽くされていた。
ざっと十件ほど。
そしてそのすべてに、僕は丁寧に返事している。
受信時刻は午前一時ごろ。
深夜じゃないか。僕、何か彼女と言い争いでもしたのか?
しかし見ている暇がないので僕は携帯を閉じてしまう。
自然と歩調が早まり、僕は公園へ急いだ。
154 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:40:15.35 ID:sGFdDask0
そこは閑静な住宅街の中にある。
部活もないので、この時刻に帰宅する学生もあまりいない。
公園は狭く、遊具とよべるものがないので子供もあまり遊びに来ない。
そんな場所に立っているのはしぃだけである。
(´・ω・`)「しぃ!」
(*゚ー゚)「……あ」
しぃが気づき、こちらを向く。
セーラー服の彼女は、表情に悲壮と不安を湛えていた。
何が起きたというのだろう。
(´・ω・`)「どうしたの?」
(*゚ー゚)「……」
瞳を潤ませ、肩を弾ませているしぃは、しばらく何も答えなかった。
155 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:41:36.07 ID:sGFdDask0
(*゚ー゚)「……さんが」
(´・ω・`)「え……?」
たどたどしく言葉を紡ぐしぃ。
あまりにも弱々しいその姿。
(*゚ー゚)「お父さんが、お母さんを……」
身体が揺らぎ、僕は慌てて彼女を支える。
その途端。
湧出した記憶が僕の脳に流入した。
昨夜のメール内容をしっかりと思い出してしまったのだ。
最初、彼女のメールはこのような文面から始まった。
「またお父さんとお母さんがケンカしてる」
156 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:42:31.04 ID:sGFdDask0
そんなこといわれても、と返したような気がする。
彼女の両親の仲がいまいちだということは前々から冗談まがいに聞かされていた。
メールのやりとりは続く。
「でも、今回は本気っぽい」
「本気ってどういうこと?」
「なんかドッタンガッシャン聞こえる」
「うーん……」
「ヤバくない? 夫婦ゲンカとかしてほしくないんだけどなー。どっちも好きだから」
「見てくれば?」
「無茶いうねー。さすがに怖いよ」
「警察に連絡すれば……いや、無理かな」
「無理だね。ああもう、なんで二人ともあんなに感情的なのかな!」
「明日の朝にでも話してみたら?」
「うーん、それで大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、夫婦なんだから」
「おじさんみたいなこというねー」
「うるさいな」
「保障する?」
「何を?」
「大丈夫だって」
「……保障はしかねるけど」
「しといてよ。言葉だけでいいから」
「……うん」
「ありがとう。それじゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
157 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:43:45.50 ID:sGFdDask0
思えば今日、彼女と話す機会はなかった。
彼女が僕を避けていたのか、ただの偶然か知るよしもない。
そして今に至る。
彼女は何を口にしようとしているのか。
最悪の想像しかできないのは僕が基本的にマイナス思考だからだろうか。
僕の腕に掴まりながら彼女は言う。
(*゚ー゚)「お父さんが、お母さんを殺しちゃった……」
それっきり、彼女は何も言わなくなった。
僕の意識が一瞬消失する。
そしてそれが復活したとき、彼女は涙を必死に堪えていた。
とりあえず、僕には何もできなさそうだ。
冷静になれ、と自分に言い聞かせる。
158 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:44:15.84 ID:sGFdDask0
(*゚ー゚)「どうすればいいのかな……」
(´・ω・`)「さあ、ね」
(*゚ー゚)「……やだよ」
(´・ω・`)「?」
(*゚ー゚)「警察にいえばいいの? やだよそんなの。
でもそうしないといけないよね。絶対に。
でもさ、そうしたらもうお父さんと一緒には暮らせないんだよね?
でもそうしないといけないよね。それにお母さんは戻ってこないんだよね。
なんかもう、整理できないんだよね!」
涙の堰を切らない彼女は無理をしすぎだと思った。
でも言葉に出したところでそれは皮肉にしか聞こえないだろう。
さて、どうすればいいんだ。
そのときだ。一つの声を聴いたのは。
「夢を見たいですか?」
159 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:45:21.38 ID:sGFdDask0
周囲を見回すが誰もいない。
ただ混乱に陥れるその声は脳に直接響いた。
まるで話に聴くテレパシーのように。
「夢を見たいですか?」
「その世界では何もかもが可能になります」
「あなたたちは、神となれるのです」
(´・ω・`)「何を……」
「……そちらの女性は望んでいますね」
「元の生活を取り戻したい、と」
すべてを見抜いているような口調と台詞。
「いいでしょう。連れて行ってあげます」
(´・ω・`)「え……」
「世界の果て、へと……!」
そして。
僕の意識はたやすく途切れた。
160 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:46:12.61 ID:sGFdDask0
・・・
・・
・
(´・ω・`)「!」
慌てて跳ね起きる。
そこに広がるのは最早見慣れた塔の内部。
('、`*川「目が覚めた?」
朗らかな表情の彼女に、僕は慌てて問いかける。
(´・ω・`)「今のは!?」
('、`*川「あなたのなかに欠落していた記憶を補完してあげたの」
(´・ω・`)「夢……なんですよね!?」
('、`*川「そう。こちらに世界においてはね。でも、それは向こうの世界での現実」
(´・ω・`)「!」
記憶は勝手に消えたのではないのだろう。
無理矢理、消してしまったのだ。
そう思ってしまうほど、僕の見たものは最低の悪夢だった。
165 名前:露地すいか[] 投稿日:2007/01/04(木) 22:54:45.07 ID:sGFdDask0
挿話
('A`)「帰ってこねえな」
(・∀ ・)「ここ教えろよー」
('A`)「やっぱ女か……」
(・∀ ・)「英語って難しいよなー」
('A`)「畜生、アノ野郎。やっぱあの子と仲良かったんだな……!」
(・∀ ・)「ボーイのつづりってどうだっけ?」
('A`)「今頃どっかのラブホでイノセントなラブを成長させてるのか……」
(・∀ ・)「ん、過去形と過去完了ってどう違うんだ?」
('A`)「はあ……鬱だ」
(・∀ ・)「ドクオー、次の戦隊モノってなんなんだー?」
・・・
・・
・
【関連】
一気読み
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プロローグ
第一話
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第二話
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第三話
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第四話
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第五話
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第六話
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第七話
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第八話
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第九話
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第十話
第十一話
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第十二話
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第十三話
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第十四話
-
第十五話