190 名前:プリンス[] 投稿日:2007/01/05(金) 16:29:29.05 ID:EgUEVt6G0
第十五話 凶器
彼女はどのような夢を見ているのだろう。
隣に横たわっているしぃはまだ起きない。
その表情は、まるで死んでしまったかのように穏やかだ。
それを見る限りは、悪夢にうなされているようには見えない。
('、`*川「……」
女性は何も語りかけてくれない。
空はすっかり闇に包まれ、星一つ無い夜を迎えていた。
('、`*川「そろそろ起きるかな」
女性が呟くと、その直後。
(*゚ー゚)「ん、んー……ん?」
しぃがゆっくりと起き上がったのである。
191 名前:プリンス[] 投稿日:2007/01/05(金) 16:30:07.15 ID:EgUEVt6G0
その顔は悲しみに曇ってはいなかった。
逆に、喜んですらいるようだ。
(*゚ー゚)「ふう……なんかすごいの見ちゃった気がする」
('、`*川「お疲れ。それじゃあ、本題に入ろうか」
(´・ω・`)「え……」
だめだ。
あっちとこっちの記憶が混同して頭の中で整理しきれない。
とりあえず流されることにしよう。
('、`*川「さっきも言ったけど、私が颯爽と登場したのは荒巻がこの世界に文明を与えたとき。
まぁ実際ね、私もよくわからないんだけど」
(´・ω・`)「と、いいますと?」
('、`*川「私も神さまみたいなもん。でも、元々はここの一住人だった」
192 名前:プリンス[] 投稿日:2007/01/05(金) 16:30:28.60 ID:EgUEVt6G0
('、`*川「きっかけはいまいちわからないね。
ただ、気づけばこの世界の管理を任されていた」
(´・ω・`)「……荒巻さんはそんなことを一度も口にしていなかった」
('、`*川「そりゃそうでしょうね。でもそれは後回し。
彼が与えた文明は彼の知る世界程度のものだった。
でもそこに彼は未知の可能性を含めたの……科学的でない可能性を。
いや、偶然かもしれない。彼自身気づいてなかったかもね」
(´・ω・`)「それが、柘榴ですか?」
('、`*川「正しくは柘榴の原型。荒巻は自分の創った文明を応用しきれなかったの」
(´・ω・`)「それを応用したのが?」
('、`*川「そ、私。まぁ思いつきさえすれば誰でも出来たんじゃないかな」
('、`*川「それと同時にテクノポリスも創ってやった。
ま、あとはきみも知っているようなシステムの構成かな。
柘榴の稼働にはアンドロイドが必要……とか、いろいろリアルっぽく創ったよ」
193 名前:プリンス[] 投稿日:2007/01/05(金) 16:31:29.20 ID:EgUEVt6G0
('、`*川「テクノポリスの人間は私が創った。
それぞれに適当な記憶を埋め込んでね」
(´・ω・`)「そんなことができるんですか」
('、`*川「さあ」
(´・ω・`)「え」
('、`*川「正直理論的な説明が出来ないのよね。なぜあの時それが可能だったのか
まぁ再構成自体もそうなんだけど。
……推測するとすれば、柘榴かな」
(´・ω・`)「……」
('、`*川「さっきも言ったように柘榴には未知の可能性が秘められている。
荒巻同様、私もすべてを応用できていないのかも。
その証拠に、私が神さまになれたきっかけがわからない。
柘榴が私を選んだとすれば……ある程度辻褄が合う」
(´・ω・`)「柘榴が意志を持っているということですか」
('、`*川「アンドロイドにさえ意志がある世界だからね。
さっき夢を見せたでしょ? それも私の力によるものじゃない」
(´・ω・`)「……」
('、`*川「ていうかね、柘榴ができて以降神さまなんて存在していないのよ。
すべては柘榴が操っている……そう考えられるのよね」
194 名前:プリンス[] 投稿日:2007/01/05(金) 16:32:06.96 ID:EgUEVt6G0
荒巻さんは「すべて自分が操った」と言った。
だがその思考すらも柘榴によって形成されたモノだとしたら。
柘榴の広すぎる空間。
先生ですら「柘榴のすべてを知らない」といっていた。
再構成が柘榴の数多ある使い方の一つだとするなら……。
('、`*川「まぁそういうわけで、私はすべてを柘榴に任している。
荒巻は私の存在すら知らないでしょうね」
(´・ω・`)「……」
('、`*川「でも、きみたちは私のやり方が気に入らないんだよね
だから神さまになった」
(´・ω・`)「……」
('、`*川「さっき言ったこの世界を救う方法……それは、柘榴をつぶすこと。
そうすればこの世界は、一応支配から逃れられる。
その結果どれほどの影響が及ぶかは私にもわからない」
195 名前:プリンス[] 投稿日:2007/01/05(金) 16:32:23.31 ID:EgUEVt6G0
世界は予想以上に深かった。
何もかもが柘榴という誰もすべてを知らないシステムによって構成されている世界。
そのシステムには、神さまですら無力だという。
ならば。
神さまなど必要ないのではないか。
そう彼女に聞いてみると、
('、`*川「所謂建前なのよ、神さまは」
神さまをボスとすれば柘榴は隠しボス? みたいな」
その事実に、荒巻さんは気づいていない。
(´・ω・`)「いったい、この世界はなんなんですか?」
('、`*川「荒巻による荒巻のための世界……だったはず」
(´・ω・`)「でも今は柘榴がすべてを」
('、`*川「創られたものが生きたがるのは当然の摂理よ。
人間だってそうじゃない」
(´・ω・`)「じゃあこの世界は、柘榴が生きるために続いていると?」
('、`*川「そうなるかなあ」
196 名前:プリンス[] 投稿日:2007/01/05(金) 16:32:43.13 ID:EgUEVt6G0
('、`*川「今思えば生きているのは柘榴じゃなくて文明自体なのかもね。
それが柘榴という形になっただけで」
(´・ω・`)「……」
そう考えると説明が付く……かもしれない要素がある。
テクノポリスだ。アンドロイドの開発以外の設備がほとんど発展していなかった。
柘榴のための文明なら、他のシステムが発展しなくてもおかしくない。
('、`*川「まぁ……そういうことよ。
これ以上は私にも説明しようがないわ」
つまるところ、現状で世界を救うのは絶対不可能だということだ。
そのとき、しぃが声を上げる。
(*゚ー゚)「なんか、よくわかんないんだけど」
197 名前:プリンス[] 投稿日:2007/01/05(金) 16:33:10.82 ID:EgUEVt6G0
('、`*川「……切り捨てられた」
(*゚ー゚)「あなたはなぜここに?」
('、`*川「基本的に暇な身だからね。たまにここに来るって感じかな、理由は特にない」
(*゚ー゚)「それすらも柘榴が操ってるかもって?」
('、`*川「……かもね」
(*゚ー゚)「その答えも?」
('、`*川「ありえるっちゃありえる」
(*゚ー゚)「あなたの記憶も?」
('、`*川「かもね……あの」
(*゚ー゚)「大体おかしいじゃないですか。
あなたはどうやって地下に眠っていた柘榴を見つけ出したんですか?
どうやって原型を柘榴に仕立て上げたんですか?
どうやってアンドロイドを必要とさせるシステムをつくったんですか?」
('、`*川「……」
(*゚ー゚)「いつ神さまだと自覚したんですか?
なぜまだ生きていられるのですか?
どうして私たちが神さまになった日にここにきたんですか?
二百年も何もしていなかったってありえなくないですか?」
198 名前:プリンス[] 投稿日:2007/01/05(金) 16:33:37.98 ID:EgUEVt6G0
(´・ω・`)「しぃ」
(*゚ー゚)「?」
(´・ω・`)「泣いちゃったよ、この人」
('、`*川「うー……うええ……」
意外と脆い人だった。
それにしても、しぃもそこまで言葉責めしなくてもいいじゃないか。
まぁでも、しぃのあげた疑問は確かにすべて気になるけど。
(*゚ー゚)「まだ大切なこと聞いてないよ」
(´・ω・`)「何?」
(*゚ー゚)「なんで私たちなのかってこと
今の話だと、私たちは荒巻さんに選ばれたというより柘榴に選ばれたんだよね?」
(´・ω・`)「うーん……」
先ほどの夢を思い出して少々落ち込む。
199 名前:プリンス[] 投稿日:2007/01/05(金) 16:34:16.16 ID:EgUEVt6G0
(*゚ー゚)「あー。どうしても思い出せないの」
(´・ω・`)「何を?」
(*゚ー゚)「ここに来た経緯」
あれ?
じゃあ、さっきの夢を彼女は見ていないのか。
そりゃそうか。同じものを見ていたなら今頃こんなに普通であるはずがない。
教える義務は僕にない。
というか、絶対に教えたくない夢だ。
(*゚ー゚)「それがわかればなんとかなるかもしれないんだけどなあ」
('、`*川「あ、あの」
(´・ω・`)「はい?」
('、`*川「もう……ぅぇ……いいですか?」
200 名前:プリンス[] 投稿日:2007/01/05(金) 16:34:30.30 ID:EgUEVt6G0
途端に敬語になる彼女。
よっぽどビビっちゃったんだろうか。
(*゚ー゚)「よし!」
だがそんなことは意にも介せずしぃは叫ぶ。
(*゚ー゚)「行こう!」
(´・ω・`)「どこに?」
(*゚ー゚)「柘榴」
(´・ω・`)「……」
それしかないかな。
疑問を解決するには。
僕の疑問は一つだ。
「なぜ、あんな夢を見せたのか」……
201 名前:プリンス[] 投稿日:2007/01/05(金) 16:34:44.51 ID:EgUEVt6G0
それにしてもしぃは急に頭が冴えたな。
さっきの疑問を喋ってるときも早口だったくせに一度もかまなかった。
それすらも柘榴の意のままなのか?
たとえばモララーさんの微笑も。
たとえば先生の怒り顔も。
たとえばツンさんの赤面も。
すべてが柘榴によるものだとすれば、それほど怖いことはない。
それも、無意識のうちに……
わからない。
こんなことを考えている自分すら柘榴に操られているのではないかと思うと。
もう、誰も信じられなくなる。自分さえも。
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