( ^ω^)ブーン系小説完結作品集('A`) 〜(`・ω・´)が翼に夢を込めるようです〜

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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 19:49:13.71 ID:ghv9ddx80

彼女との出会いは突然で、しかも衝撃的だった。

運命、などという言葉を使うつもりは無い。
しかしその時自分は、情けないことに頭がクラクラして立ってもいられなかった。

思い出すだけでも恥ずかしくて、どこかに隠れたくなる。
男として一生の不覚を取ったと思ったが、仕方が無い。

なぜなら、自分は先手を取られていたからだ。

……顎に一発、見事としか言いようの無いアッパーカットを。


ちなみに、始めて交わした会話は……


(`・ω・´)「早まるな、少年!」

从#゚∀从「だぁれが少年だぁーーーっっ!!」


……だった。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 19:52:06.09 ID:ghv9ddx80

週末の午後、広く青い海が眼下に見下ろせる岬で、ただただ頭を下げ続ける男の姿があった。
そのすぐ目の前に、一人の少女が膨れた顔をして座っていた。


(`・ω・´)「す、すまなかった……私はてっきり君が自殺しようとしているのかと……」

从;゚∀从「自殺!? 自殺なんかするわけ無いだろ!」

(`・ω・´)「そ、そうか……」


平謝りするしかなくなった自分を恥じながら、男は混乱する頭を持て余していた。


从 ゚∀从「ったくも〜。あー、まだ腕がヒリヒリするよ……」

少女はわざとらしい態度で、赤くなった腕をさすった。

(`・ω・´)「本当に申し訳ない……」

もう何度目になるかは数えていないのだが、彼はまた頭を下げる。

それで満足したのか、少女はため息をついた。
その顔には微笑が浮かんでいた。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 19:53:38.91 ID:ghv9ddx80

从 ゚∀从「ま、もういいよ。お兄さん、悪い人じゃないみたいだしね」

(`・ω・´)「かたじけない。……申し遅れたが、私はシャキンという者だ」

彼は手を差し出した。
少女は少し戸惑った顔をしたが、すぐににっこり笑って彼の手を握った。

从 ゚∀从「ハインだよ」

ようやく平謝りから解放された彼は、焦る気持ちを抑えて言葉を選んだ。

(`・ω・´)「失礼だが、君は…………もしかして」

シャキンは、少女の背中で風にそよぐ『あるもの』を指差した。


(`・ω・´)「――有翼人、なのか?」

从 ゚∀从「うん。そうだよ」

ハインと名乗った少女は、屈託の無い笑顔でにっこりと笑ってみせた。
それに合わせて、少女の背中で一対の翼が一緒に笑うようにゆっくりとはためいた。



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 19:55:35.89 ID:ghv9ddx80

男の名は、シャキン。
海に面する小さな国の、王国騎士の副隊長だった。

シャキンは、真面目一本気な性格で世間の評判が良かったが、
彼が散歩好きである事はあまり知られていなかった。

今日はたまたま海まで散歩に来て、岬の先で人影を見たのだ。

その人があまりにも崖っぷちに立っているものだから自殺者かと思い、
彼はその横から思いっ切りタックルをかけてしまったのだ。

そして「早まるな少年!」と必死に叫んだ所、実は少女であった被害者は、
怒りの鉄拳をシャキンにぶつけたのであった。

その後で、ただひたすらに自分の無礼を詫びたのだった。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 19:58:18.69 ID:ghv9ddx80

(`・ω・´)「……」


シャキンは目の前の存在に驚きを隠せなかった。

――有翼人。
その名の通り、翼を背に持った人である。

が、正しくは『人』ではない。

その数は少なく、一目見たものは『天使を見た』といって憚らない、ほとんど伝説の生き物であった。
この大陸全土でも、発見されたとの報告が入るのは五十年に一回有るか無いかだ。

しかし、この少女が人々から『天使』と呼ばれる事はないだろう。

なぜなら、その翼は天使のような純白ではなく、鴉を連想させるような深く濃い紺色だったからだ。
ハインと名乗った少女は、瞳は黒、髪は翼と同じ色で、前髪の所々に金色の髪が混ざっていた。


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:00:16.74 ID:ghv9ddx80

(`・ω・´)「しかし、その有翼人が一人、こんな所でいったい何をしているんだ?」

本に書かれていた伝説によれば、有翼人たちは群れを作って行動を共にする、とあったはずだった。

从 ゚∀从「うん、そう。今は渡りの季節だから、皆いないよ」

(`・ω・´)「では君は?」

その言葉に、少女は少し苦い顔をした。

从 ゚∀从「飛べないと旅は出来ないよ。わたし、飛べないんだ」

さらりと出されたその言葉が、治りかけていたシャキンの頭痛を引き戻したような気がした。

(`・ω・´)「飛べない……? 翼があるのに、か?」

从 ゚∀从「そーだよ。だから飛ぶ練習、してたんだよ。
     いつも最初にここで風を感じ取ってから始めるんだ。
     ……なのにお兄さんが邪魔するからさぁ〜」

崖っぷちに立っていたのはそういうことだったのだ。
あくまでも明るい態度の少女に、彼はまた頭を垂れた。



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:01:32.64 ID:ghv9ddx80

(;`・ω・´)「め、面目ない……」

从 ゚∀从「いいってばもう」

必死に謝る彼の顔を、少女が下から覗き込んだ。

从 ゚∀从「ねえ、そのかわりさ。また遊びに来てよ!」

(`・ω・´)「え? ……私が、か?」

少女は大きく頷くと、目を輝かせてこう続けた。

从 ゚∀从「人間に会ったの、初めてなんだ! もっと話を聞かせてよ!」


この一言が、出会った二人の人生を大きく変えることになる。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:03:52.23 ID:ghv9ddx80

生真面目なシャキンは、それから散歩の時は必ず海の近くへと行くようになった。
たいていハインが先に彼の姿を見付けて、飛ぶ練習をしている最中でも駆け寄ってくる。

今まで一人で毎日過ごしていたシャキンは、その時間に戸惑いつつも、それを暖かく感じていた。

从 ゚∀从「へ〜。すごいね! シャキンって物知りなんだぁ」

シャキンが本で読んだ異国の話をすると、そう言ってハインはいつでも目を輝かせた。
ついでに翼もパタパタと頷くように揺れて動く。

(`・ω・´)「そうでもないぞ。私は本だってあまり読まないほうだしな」

その言葉をハインは首を振って否定する。

从 ゚∀从「母さんも父さんも色んな所を旅してたけど、一度もそんな事話してくれたことなんかないもん。
     絶対シャキンの方がいっぱい世界の事知ってるよ!」



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:05:36.25 ID:ghv9ddx80

その言葉を聞いたとき、シャキンはふと思ったことを口にした。

(`・ω・´)「……君は、さみしくは、ないのか?」

シャキンには父も母もいなかった。
二人とも彼を置いて、静かに逝ってしまったのだ。

もう慣れてしまって寂しいとは思わなくなったが、それでも一人の夜がひどく虚しくなる事は良くある。
しかし、ハインは心底不思議そうな顔をして、こう言ったのだ。

从 ゚∀从「なんで? 今シャキンがいるじゃないか」

そのまっすぐな言葉に、上手く返事が出来なかったのが悲しかった。
かわりに笑ってやると、少女も嬉しそうに笑った。

(`・ω・´)「……そう、か」

从 ゚∀从「そーだよ。ヘンなシャキン」


少しずつ、少しずつ。

シャキンは自分の足が海に向かっているのを疑問に思わなくなっていた。

そしてその回数が次第に増えていく事にも。



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:07:09.13 ID:ghv9ddx80


暇な時には、昼食を一緒にとることもあった。

从 ゚∀从「おいしい! これすっごくおいしいよ! 食べた事無い」

始めてあった日に、たまたまシャキンが持っていた弁当。

……とはいっても、ただの握り飯だったのだが――それを食べたハインが、
嬉しそうにそう言ったからだった。


話に聞いた所によると、普段は木の実や植物などを取っているらしかったが、
この寒い季節にそういうものが簡単に手に入るはずが無い。

考え出すと止まらなくなって、シャキンは二人分の弁当を持って海へ行くようになった。

その度に、少女が笑って出迎えてくれた。



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:08:12.19 ID:ghv9ddx80

从 ゚∀从「ねえシャキン。今度はまたあれがいいな」

(`・ω・´)「あれ? ……どれのことだ?」

从 ゚∀从「あの、一番初めにもらったヤツ。あれが一番好き」

(`・ω・´)「ああ、鮭入りの、か。分かった。また今度でかまわないか?」

从 ゚∀从「うん、ありがとシャキン!」


そんな暖かい会話をしばらくしたことが無かったシャキンにとって、
彼女といる時間は、ゆっくりと安らげる大切な時間だった。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:09:43.22 ID:ghv9ddx80

ハインはめげずに飛ぶ練習をしていた。
毎日その羽をばたばたと懸命に羽ばたかせてはいるが、一向に飛べる気配が無い。

从 ゚∀从「ねぇ、シャキン。どうしたら、飛べるかなあ?」

ハインはいつも、彼女の練習を見守るシャキンにそう訪ねた。
しかし、自分が飛べるわけではない彼が飛ぶ方法など知っているわけが無い。

(`・ω・´)「すまないが、私には皆目見当も付かない」

从 ゚∀从「そっかぁー」

真面目な彼がそう答えると、ハインは少し寂しそうに、そう呟くのだった。


それでも彼女は羽ばたく練習をしている。

昨日も今日も、そして間違いなく明日も。



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:11:25.68 ID:ghv9ddx80

(`・ω・´)「離陸の際の脚力がいるのではないか?」

从 ゚∀从「え?」

ふと思ったことを、シャキンは口にした。

鳥、ましてや有翼人種について詳しい知識が有るわけではないが、
鳥が飛ぶときに必要なのは翼と、離陸時の跳躍と、そして体の構造だったはずだ。

(`・ω・´)「後は……たいじ……いや、羽が弱いのだと思う。
      体を支えるのに充分でないと、無理だからな」

彼はかろうじて『体重が重いのではないか?』と言いそうになるのを抑えた。

別に彼女が太っているなどというつもりは毛頭無い。
実際、彼女は人間から見れば普通か少し痩せている程度だ。

ただ、ハインの翼はどちらかと言うと長細い形をしていて、空を飛ぶにはいささか頼りなく見えた。

あの翼で体を支えられるとは思えない。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:12:44.23 ID:ghv9ddx80

(`・ω・´)(もしかしたら……この子は生まれ付き体が――翼が、弱いのかもしれない。
      それとも突然変異か……何にしろ、飛べるように生まれていないのかもしれない……)


暗い考えに沈んでいくシャキンの思考を、明るい声が太陽の下に引き戻した。


从 ゚∀从「うーん、そっか。じゃあ、今日からジャンプの練習もするね!」

(`・ω・´)「う、うむ」

その前向きさが眩しくて、シャキンは何も言えなくなってしまった。




28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:14:27.90 ID:ghv9ddx80

――――


( ,,゚Д゚)「シャキン。今日ももう引き上げるのか?」


その声にシャキンは立ち止まった。
仕事の後に声をかけられるなど、珍し過ぎて少々面食らってしまう。

が、相手は自分の上司である王国騎士団の隊長だ。
無礼があってはならない。

(`・ω・´)「はい。今日はこれで全て終ったはずですが。……まだ何か?」

堅苦しいとさえ取れるその言葉に、隊長は苦笑いをした。

( ,,゚Д゚)「いや、そうではなくてだな……。
     まったく、お前はいつまで経っても堅物なのだな」

いつの間にか他の騎士たちも周りに集まって来ていた。
そのうちの一人が意味ありげに笑いながらシャキンを小突く。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:16:16.93 ID:ghv9ddx80

( ^ω^)「あやしいっすお? 副隊長。この頃どうしたんですかお?」

(`・ω・´)「何がだ?」

またまた……と声が上がる。

( ^ω^)「毎日毎日、仕事が終ればいそいそと……」

(`・ω・´)「何か問題があるのですか? 訓練はきちんとやっているつもりですが」

( ^ω^)「しらばっくれないで下さいお〜」

(`・ω・´)「?」

心底不可解な顔をするシャキンに、決定的な言葉が振ってきた。

( ^ω^)「――女かお?」

(;`・ω・´)「は? ……はああっっ!?」

思わず大きな声を挙げてしまった生真面目堅物の副隊長を、隊の全員が笑って見つめた。





33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:17:28.87 ID:ghv9ddx80

(;`・ω・´)「ち、ちちち違いますよ! そんなものではありません! 断じて!!」

ずり落ちそうになる眼鏡を押さえながら、シャキンは必死で否定した。

( ,,゚Д゚)「隠す事は無いじゃないか。めでたい事なんだからな」

その静かな隊長の一声で、わっと歓声が上がった。

( ^ω^)「今夜は呑みましょうお! ぱーっと!!」


それを切っ掛けにして、シャキンの副隊長としての評判が上がった。
以前は真面目過ぎて近寄りがたかったのに、今では明るくなって話しやすくなった、とのことだった。


ハインと出会ってから、確実に彼の生活にも変化が現れていた。

そしてそれはシャキンにとって嬉しいものだった。


ただ、一つ。

少女が飛べないという事実は、変わらなかった。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:18:46.30 ID:ghv9ddx80

(`・ω・´)「それでだな、あの世界には――――」

从 ゚∀从「うんうん」


海の匂いがする岬で、並んで他愛もない話をする。
じゃあまた、と言葉を交わして別れる。

自分がハインの事をどう思っているのか、シャキンはよく分からなかった。
ただ、好きか嫌いか選べと言われたのなら、迷わず好きだと答えられる。

恐らくハインも同じだろう。

それだけでいい、と思っていた。




37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:21:15.48 ID:ghv9ddx80

しばらく海へ足を運ばない日が続いた。

国王の護衛として隣国まで赴いた後、ささやかな宴会が催された事もあって、
シャキンにはここ三週間以上散歩などする余裕が無かったのだ。

ふとハインの事を思い出すと疲れが少し和らいだが、また会いに行きたいという気持ちがその分膨らんだ。

顔には出ていないはずなのだが、同僚たちは競ってそんな事を考えている彼をからかった。
しかし、シャキンは彼らにハインの事を話すつもりは無かった。

ほとんど伝説上の生き物がいると知ったら、どうされるか分かったものではない。
仲間を信用できないのは少し悲しい事だが、仕方が無かった。

どこの誰なんですか、その幸せ者のお嬢さんは? という問いにも

(`・ω・´)「変わり者だ」

とだけ答えておいた。


今回の遠征で、また話すことが増えた。
シャキンは翌日ハインに会いに行くことに決めた。

いつの間にか、散歩ついでに海に行くのではなく、散歩自体がついでになっていた。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:23:14.38 ID:ghv9ddx80

(`・ω・´)「相変わらず、ここの風は気持ちがいいな……」

ほんの少しの間来なかっただけなのに、随分と懐かしい気がする道をシャキンは進んだ。

青い海が視界いっぱいに広がる。
いつもなら、ハインがとびついて来る頃なのだが、その日はその気配が一向に無かった。

不思議に思いながら岬まで登っていくと、そこで倒れている影を見つけた。

(;`・ω・´)「――――ッ!」


シャキンの背に、悪寒が走った。

――見間違えるはずが無い。
倒れているのはハインだった。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:26:25.60 ID:ghv9ddx80


「じゃあ……元気でね」

「うん、皆も気をつけて」

「ねえ、お母さぁん、ハインはボクらと一緒に来ないの?」

「うん。わたしは留守番だ」

「え〜っ、どうして? ボク寂しいよ」

「コラ、ダメでしょう?」

「いいよ、母さん。だってわたしは……」

「ハイン……あのね……。あなたは……」

「? なあに? 母さん」

「……何でも、ないわ。元気でね。あなたも大事な、私の子供よ……」


少し悲しそうな、母さんの、目。

わたしと違う色の、皆と同じ色の、目――――……。



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:28:17.48 ID:ghv9ddx80

――――


シャキンは慌てて、少女に駆け寄った。

(`・ω・´)「ハイン? どうした!」

うつ伏せに倒れている少女は、その声に薄っすらと目を開いた。

从 ゚∀从「……あ、シャキン……ちょっと……立ち眩みがして……だいじょう、ぶ……だから」

触らないと詳しくは分からないが、目立った外傷は無いようだ。
何事かと思ったシャキンは少し安心した。

とにかく木陰にでも連れていってやらなくてはと、少女を仰向けにして抱き上げた。

(`・ω・´)「お前……」

瞬間、ぞっとした。

その体が驚くほど軽かったからだ。
見れば少女はやつれた顔をして、頬が少しこけていた。

(;`・ω・´)「……」

湧き出る苦い思いを抑えながら、一番近くの木の下まで歩き、少女をそっと下ろした。
だらりと垂れ下がった細い腕と翼が、見ているだけで痛ましい。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:29:54.93 ID:ghv9ddx80

(`・ω・´)「ハイン……食べていないんだろう? 何でちゃんと食事を取らないんだ」

シャキンは、無意識のうちに鋭くなってしまった言葉を吐いた。

从 ゚∀从「軽くなれば……空、飛べるかなって……」

(`・ω・´)「馬鹿な事を言うな!」

叱咤の声が飛んだ。
ハインがビックリして目を見開く。

(`・ω・´)「死んだらどうするんだ! 死んだら…死んでしまったら、何にもならないんだぞ!
      少しは自分の事を考えろ!!」

生まれて初めて、シャキンは本気で人を叱った。
国を守る騎士団の副隊長という立場であっても、ここまで真剣に人を叱った事はなかった。

一つ荒く息を吐くと、シャキンは崩れるようにハインの前で膝を突いた。



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:31:06.81 ID:ghv9ddx80


(`・ω・´)「頼むから……自分を、大切にしてくれ……」


失うかもしれない、もう会えなくなってしまうかもしれないと思った瞬間、
自分の心が叫び声を挙げていた。

地に立っていられかった。

まともに思考が働いてくれなかった。


……やっと分かった。
今の自分には、何よりも大切なものがある。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:32:14.77 ID:ghv9ddx80


もともと丈夫であった少女は、少し介抱してやるとすぐに元気を取り戻した。
相変わらず飛ぶ練習は欠かしていなようだが、あれ以来無茶な事はしなくなった。

それでも時々、少女は思いつめたような目をして空を見ている。

焦がれて止まない青く遠い空を。
手の届かない憧れの存在を。

その時の少女の横顔は、ひどく儚げで見ていてこちらまで息が詰りそうだった。

持ち前の真面目さから、真っ向の正当法しか思いつかなかったシャキンは、王宮内にある書物の間で手当たり次第に本を読み漁った。
しかし、どの本にも彼の求める知識は書かれていなかった。

苦悩に眉を寄せる若い騎士の横を、王宮付きの魔導士が心配そうな顔で通り過ぎていった。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:33:13.25 ID:ghv9ddx80

从 ゚∀从「ねえ、今日は何を話してくれるの?」

無邪気な声で、無邪気な笑顔でハインはいつもそう言ってくる。
最近では随分饒舌になったな、と思いながらもシャキンは話をしてやる。


ふと思うことがある。
もしも、ハインが飛べるようになったら……

空に舞い上がったまま、降りてこないかもしれない。
自分はもう、必要なくなるのかもしれない。

そう思うとひどく悲しいが、喜んでやらなくてはいけない。

それが少女の唯一の願いなのだから。


 しかし。
 もしも。もしも……
 何をやっても、いつになっても、飛べなかったら?
 そうすれば……ずっと……



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:34:48.24 ID:ghv9ddx80

■  ■  ■


/ ,' 3「何をお探しですか?」

何かに憑かれたように読書に没頭する彼に、静かに話しかける者がいた。
視線を上げると、見慣れた顔の男が少し離れたところで立っていた。

暇が有ればここにいるせいで、最近よく顔を合わせるようになった魔導士だ。

(`・ω・´)「えっと、そのですね……何といったらいいか」

/ ,' 3「足の裏は海の底、ですよ」

(`・ω・´)「え……?」

/ ,' 3「目に見えない所に真実があることも多いのですよ。
    あなたが本当に心から願うものは、簡単過ぎて見えないんです」


そう言って、去っていってしまった。




51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:36:09.34 ID:ghv9ddx80

(`・ω・´)「……目に見えない所」


それはいったいどこだ?
目に見えないもの。
それはいったい何だ?

(`・ω・´)「……心、か?」

シャキンはそう思った。
が、目に見えない心が何の関係があるというのだろう。

飛べずに悩んでいる彼女のために、自分が出来る事。

そして自分の心が本当に願っている事。



                空と、心……



しばらくして、シャキンはゆっくりと立ち上がった。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:37:13.16 ID:ghv9ddx80

( ,,゚Д゚)「どうした、シャキン。顔がいつもにも増して険しいぞ」
 

城を出たところで、隊長が声をかけてきた。
が、シャキンは歩く速度を緩めはしなかった。

軽く礼をしてすれ違うと、楽しそうな声が追ってきた。

( ,,゚Д゚)「そんなに急いでどこへ行く? 結婚でも申し込むつもりか?」

(`・ω・´)「そうかもしれません」

キッパリと口にしたその言葉に、いつも穏やかな騎士隊長が呆気に取られたのが分かった。
しかし、実は言った本人はもっと驚いていた。

何かが、吹っ切れた気がした。

いつもなら一度剣などの道具一式は家に置いていくのだが、今はその時間すらも惜しかった。
シャキンは早足で海に向かって歩いた。



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:38:37.85 ID:ghv9ddx80

もうすぐ冬が去る季節だ。
心なしか、風が以前よりも穏やかになった気がする。

しかし、今日も海は風を受けて、大きく荒く波打っていた。

(`・ω・´)「ハイン……いないのか?」

いつもの場所に、ハインの姿は無かった。
前回の事が脳裏をよぎり鳥肌が立ったが、頭を振ってその考えを否定する。


从 ゚∀从「ほっといてよ!」


聞きなれた声がした。
ここから少し下の所だ。



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:39:54.49 ID:ghv9ddx80

从#゚∀从「構わないでったら!」


シャキンは嫌な予感がして走り出した。
自分は口外してはいないが、もしかしたら他の誰かに見つかってしまったのかもしれない。

そうなれば、ハインは無事では済まないだろう。

言い合う声を頼りに、坂を走った。
剣が腰の横でガシャガシャと揺れる。

( ^Д^) 「落ちこぼれってやつ? かわいそー。お兄さんが優しく教えてあげるよ?」

从 ゚∀从「いい。 だからほっといてって言ってるだろ!」

(`・ω・´)「ハイン!」

思わず少女の名前を呼んだシャキンに振り向いた二つの影があった。



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:41:27.40 ID:ghv9ddx80

一人は、いつも自分を温かく迎えてくれる少女。
そしてもう一人は若い男で、なんとその背に翼を持っていた。

有翼人だ。

黒に近い紺色のハインの翼に対し、彼の翼は茶色で大きく逞しかった。
こんな所でもう一人有翼人に会えるとは、確率的に言ってかなり低いだろう。

しかし今はそんな事を言っている場合ではない。

从 ゚∀从「シャキン!」

助かった、と言わんばかりに彼を呼ぶハインの声に男が反応した。

( ^Д^) 「人間じゃないか。何でこの子が人間の名前を呼ぶんだ?」

そして、シャキンに向かって駆け寄ろうとするハインの腕を捕まえる。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:43:05.59 ID:ghv9ddx80

( ^Д^) 「騙されちゃダメだよ。売られるか、殺されるに決まってる。
      人間なんてそんなもんさ。そうでなきゃ、ぼくらに近付いたりするもんか」

(`・ω・´)「違う! 私はそんな気持ちで彼女に接しているわけではない!」

シャキンは叫んでいた。
ハインがその言葉を信じるとは思えなかったが、人間を侮辱されて黙っていられなかった。

例えばそれが、事実であっても。自分は違うと言いたかった。

从 ゚∀从「放せよ! アンタには関係ないだろ!」

ハインは抵抗して、自分を戒めていた腕に噛み付く。

( ^Д^) 「っつ! 何するんだ!」

从 ゚∀从「ッ!」

乾いた音がして、少女の頬が赤く染まった。男が手を挙げたのだ。
シャキンは咄嗟に剣に手をかける。

(`・ω・´)「その子を放せ」



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:44:56.79 ID:ghv9ddx80

( ^Д^)「飛べないなんて言ってるけど。気合が足りないだけなんじゃないの?」

反吐が出そうになるほど下品な言い方だった。
こんな奴を見て「天使を見た」などと言う輩はいないだろう。

从 ゚∀从「離せ! 離せよ!」

男は笑ったままで嫌がるハインを引き摺っていく。その先には何も無い。
シャキンは剣を抜いた。

(`・ω・´)「やめろ!!」

( ^Д^)「ほら」


――ドン。

小さな黒い影が、一瞬で視界から消えた。

突き落とされたのだ。

――海へ。凍るほどに冷たい、冬の荒波の中へ。

何故か一瞬、お互いの家族の話をした時の会話が脳裏に浮かんだ。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:46:23.50 ID:ghv9ddx80


从 ゚∀从『父さんはね……嵐の中で海に落ちて、そのままいなくなっちゃったんだって。翼が濡れると飛べなっちゃうもんね』


シャキンは目の前が一瞬真っ暗になった気がした。
彼は無意識のうちに大声で叫んでいた。

(`・ω・´)「ハイン!!」

駆け寄って崖から下を見ると、遥か下の方で水飛沫が上がるのが見えた。

( ^Д^) 「あれ〜? 無理だったみたいだね。やっぱ落ちこぼれだったのかぁ。あははは」

上から降ってくる鬱陶しい声を断ち切るようにして、
シャキンは剣を一度薙いだ。

そして邪魔になるだけの剣を鞘に収めて、そのまま走り出す。

自分もここから飛び降りたいのは山々だが、そうすれば無傷ではいられないだろう。
ハインを確実に助けるためには、もっと海に近い場所まで行ってから、泳がなくてはならない。


急な坂道を下り、走る。

海面がどんどん近付いてくる。



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:48:14.92 ID:ghv9ddx80

そして、いざ飛び込もうとした時。

(`・ω・´)「ッ!?」

目の前の暗い水面上に、黒い影が走った。

咄嗟に反応して、シャキンは振り返る。
が、有翼人の男はそこにはいなかった。

他に鳥も飛んではいないし、木などの影になりそうな物も無い。
気が動転して幻を見たか、とシャキンが再び水面を振り返ると、またも同じ影。

(`・ω・´)「鮫か!? それともシーサーペント……」

瞬間、目の前の水面が膨らみ、影が飛び掛ってくる。

(`・ω・´)「くっ!」

その直撃を受けて、たまらず後ろによろけたが何とか踏み止まる。

「シャキン!」

自分に飛び掛ってきたものの正体を見て、シャキンは仰天した。


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:50:06.62 ID:ghv9ddx80

(`・ω・´)「ハイン……!」

それは、今まさに自分が助けに行こうとしていた少女だった。

从 ゚∀从「シャキン……わたし……泳げ、た……」

言い終わらないうちに、シャキンはずぶ濡れの少女を抱きしめていた。
少女はビックリしたようだが、すぐに自分もそっと腕を回してきた。

( ^Д^) 「へ〜。ホントにいたんだ。海の一族。初めて会ったよ」

あからさまに馬鹿にしたようなその声に、シャキンは振り返る。
有翼人の男が、シャキンの頭上すれすれを飛びながらこちらを見下ろしていた。

そして少し離れた所に優雅な仕草で降り立つ。

シャキンはそっとハインを離すと、体の角度をずらし、腰に手を忍ばせた。

( ^Д^) 「でも落ちこぼれに変わりは無いよねえ? 空を飛べない有翼人なんて…、がっ!?」

(`・ω・´)「黙れ」

シャキンは、皆まで言わせなかった。



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:51:27.02 ID:ghv9ddx80

一瞬のうちに間を詰めて相手の懐に飛び込み、その首根っこをつかんでそのまま捻りあげたのだ。
伊達に一国の副隊長を務めているわけではない。

(;^Д^) 「あ……がっ……」

シャキンは手に力を込めて、相手の目を睨み付けた。
怒りが後から後から湧き上がってくる。

(;^Д^) 「やめろ! はなせ!!」

(`・ω・´)「お前は、やってはならない事をした」

そのまま体を力任せに押さえ込んで、背中の大きな茶色の翼を掴んだ。
剣を抜く。鞘のすれる音がして、白刃が現れた。

男が悲鳴を上げる。



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:52:41.72 ID:ghv9ddx80

(`・ω・´)「同じ思いを味わわせてやる。身をもって知るがいい」

翼に刃をあてがう。
ハインがあわてて駆け寄ってきた。

从;゚∀从「や、やめてよ! シャキン、もういいよ。もういいから!」

しかし自分は止めるつもりは無かった。
許せないのだ。

この少女を傷付けた言葉が。この男の存在が。

从;゚∀从「シャキンお願い! やめてぇぇ!!」


シャキンは剣を振り下ろした。

冬の風に、大きな茶色の羽が幾つも飛び散った。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:54:06.06 ID:ghv9ddx80

背中にドンと当たるものを感じて、シャキンは目を閉じ、小さく息を吐いた。

从 ;∀从「ひどい! ひどいよシャキン! 何でそんなことするの!? そんなシャキン大っキライだよ!!」

少女は今にも泣きそうな声で自分を責めた。
静かに剣を収めて、シャキンは自分が掴んでいた物を手から離す。

ばさりと力なく、翼が地に落ちる。

(`・ω・´)「……ちゃんと見てから言ってくれないか」

从 ゚∀从「……え……?」

ハインは目を瞬かせて、シャキンの背中の向こう側に倒れている男を見た。

事が終った後、男はぐったりとして気を失いかけていた。
が、その背中にはまだちゃんと翼が付いている。

片方の翼の、神経も通っていないようなほんの端の方が、少しだけ切り取られていた。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:55:42.87 ID:ghv9ddx80

(;^Д^) 「……こ、殺される!」

ようやく意識を取り戻した男は情けない声でそう言うと、あわてて二人から離れ、空に飛び上がろうとした。
……が、バランスを崩してすぐにまた地面に落ちた。

あまりに無様で情けないその格好に、思わず笑いそうになる。

(`・ω・´)「大丈夫だ……三ヶ月もしないうちに飛べるようになる。
      羽が生え変わるからな。……少し、軽い罰だったか」

シャキンが斬ったのは『風切羽』と呼ばれる部分の羽で、飛ぶためのバランスを司るものだった。
神経が通っていないので斬られても痛みは無く、しかも一年に一回生え変わるのである。

有翼人について調べている間に得た知識の一つだった。


从 ゚∀从「……やっぱり、シャキンって物知りなんだね」

ハインはそう言って、笑った。



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:56:58.36 ID:ghv9ddx80

从 ゚∀从「飛べないワケ、やっと分かったよ……」

濡れた髪と服を乾かしてから、ハインが呟いた。
シャキンはその寂しそうな、吹っ切れたような声を静かに聞く。

彼女は元々、飛べるようには生まれついてはいなかったのだ。

从 ゚∀从「『海の一族』っていうんだね。空を飛べない代わりに、海の中を飛べる鳥、なんだね」

(`・ω・´)「……そう、だな」

シャキンは頷くしかなかった。

(`・ω・´)「折角……決めたんだがな……」

从 ゚∀从「え? 何?」

思わずぽつりとこぼした声を、ハインは逃さなかった。



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:58:08.01 ID:ghv9ddx80

(;`・ω・´)「……! き、きき気にするな。もう、いいんだ」

从 ゚∀从「んんん? すごーく怪しいよ。シャキンって嘘が本当に下手だよね」

面白そうに笑いながら近寄ってくる少女に、思わず顔が赤くなった。

(;`・ω・´)「頼むから……やめてくれ」

从 ゚∀从「ヤだよ。知りたいんだもん。ほら、早く早く」


(;`・ω・´)「……、……っ」

从 ゚∀从「なーに? 聞こえないよ?」

(`・ω・´)「……に、なりたい」


从 ゚∀从「――……え?」


空に焦がれて止まない少女。
いつも空を見ていた少女。

彼女のために、何が出来る?

自分の思いは、どこに行く?



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 20:59:28.99 ID:ghv9ddx80


(`・ω・´)「君が自由に飛べる、『空』に……なりたい」


沈黙。

シャキンにとってそれは重く果てし無く、そして耐え難い沈黙だった。

从 ゚∀从「…………っぷ」

それを破ったのは、少女の噴出すような笑い声だった。

(`・ω・´)「!」

シャキンは自分の顔が見る見るうちに赤くなっていくのを感じた。

从 ゚∀从「あは、あははははは!」

ハインは羽までばたつかせて笑い転げていた。
段々情けなくなってきて、シャキンは仏頂面になった。


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 21:00:26.56 ID:ghv9ddx80

(`・ω・´)「……笑うな。だから言いたくなかったんだ」

从 ゚∀从「あっはははは……お、おかしい〜」

(#`・ω・´)「ハイン、笑いすぎだ!」

从 ゚∀从「だって、シャキン、真面目な顔していつもそんな事考えてたの?」

(;`・ω・´)「ばっ……! ち、ち、違うぞ! 断じて違う!」

从 ゚∀从「あはははは……」

シャキンは手を額に当てて、ため息をついた。


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 21:01:06.65 ID:ghv9ddx80

(`・ω・´)「全く……。でも、もうそんな言葉、いらないだろう?」

从 ゚∀从「え? どうして?」

キョトンとした顔をする少女に、シャキンはもう一つため息をついた。

(`・ω・´)「君はもう『空』に執着しなくてもいいだろう? だから」

从 ゚∀从「だから?」

嫌に話を突き詰めてくる少女に苦笑しながら、声を落とす。

(`・ω・´)「だから……今のは、無かった事にしてくれ」



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 21:01:53.32 ID:ghv9ddx80


从 ゚∀从「やーだよ」

ハインは即答した。
一瞬眉を寄せて、シャキンは言葉を詰らせた。

(`・ω・´)「……頼むから」

从 ゚∀从「ヤだ。もうもらっちゃった」

(;`・ω・´)「……ハイン」

从 ゚∀从「だって勿体無いもん」

急に肩を落とした少女の言葉に、シャキンは混乱した。

(`・ω・´)「勿体無い……?」



86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 21:03:37.62 ID:ghv9ddx80

从 ゚∀从「嬉しい、ってこと」

その時の少女の顔は、これ以上幸せなことなど無い、と力いっぱい語っていた。
次の瞬間、ハインはシャキンの腕の中に飛び込んで来ていた。

从 ゚∀从「ありがと、シャキン! いっぱいいっぱいありがとう!」

自分の背中に回される手の温もりを感じて、シャキンはもう何も言えなくなってしまった。
自分もしっかりと、腕の中の少女を抱きしめる。

海に投げ出されて冷えてしまったその体の奥に、溢れるほどの命の鼓動を感じた。


从 ゚∀从「今、思ったんだけど……シャキンが『空』なら、わたし、空も海も飛べるんだよね?
     それって最高かも」

(`・ω・´)「……ふ、そうかもな」

そして、目の前の少女の細い肩にそっと顔を埋めた。


从 ゚∀从「ねぇ、シャキン……『空』って、あったかいね……」




87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/10/17(水) 21:04:36.72 ID:ghv9ddx80


飛べない、鳥がいた。

その背に翼を持ちながら、飛べない鳥がいた。

風の吹く青い空に焦がれ続けたその鳥が、ついにその生涯で空を飛ぶことは叶わなかった。



――――しかしその鳥は、『空』という名の掛け替えの無い存在と共に世界を巡り、

他のどの鳥よりも多くの風の元で、自由にその翼を広げたという――――



               〜  FIN  〜






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