187 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:08:31.67 ID:M4KKdDfE0
第6章「わたしたちの、あい。」
旅行二日目。
今日、私たちは二手に分かれて行動した。
お父さんお母さんペアと、私とツンちゃんペア。
お父さんとお母さんは地元の町へ、私たちは森の中を
探検することに決まった。
川 ゚ -゚) 「日陰が気持ちいいな。木漏れ日がちょっとまぶしいけど」
ξ゚听)ξ「そうですね」
ざわざわと風に揺れる木々の間を、私たちは通り抜けていく。
林道には看板や石畳のようなものが並べられていて、歩きやすくなっていた。
さっきから私たちの間には会話がない。このざわざわが木々の
さえずりなら、私たちは彼らにいったいなんて言われているだろうか。
でも私は、会話がなくてもよかった。近くにツンちゃんを感じられるし、何より私たちは今・・・
189 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:09:12.79 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「ほら、手を離したら危ないぞ」
ξ*゚听)ξ「は、はい」
握る手の先にはツンちゃんがいる。最初は彼女も渋っていたが、
慣れてきたのかちょっと距離ができてもうまい具合に私の手をつかんでくれている。
彼女の手を握ったとき、その冷たさに驚いた。かんかん照りの真夏日に、
氷を握っているようだった。
そう、氷。彼女の心はこいつに覆われている気がしてならない。
私の体温でもし溶かして上げられるならそうしてあげたいと思った。
目的地は、少し小高い丘。ペンションを出るときにブーンさんから貰った地図を頼りに、
私たちは道を進んでいる。
途中、看板に「飲めます」とかかれていた湧き水があった。
暑さから飲みすぎて空になってしまった水筒を、それでいっぱいにした。
190 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:10:59.22 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「ああほら、あそこがブーンヴィレッジだよ。随分きたね」
ξ゚听)ξ「ホントだ・・・小さい」
近くに手ごろなイスになりそうな岩があったので、私たちは座って小休止をした。
ξ゚听)ξ「クーさんは、どうして私なんかをこんなに構うんですか?」
川 ゚ -゚) 「・・・!」
驚いた・・・今まで話しかけないと会話すらなかったのに、
彼女自ら話し掛けてくるとは。今日は随分積極的である。
191 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:11:31.46 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「前から言ってるじゃないか。私はキミのことが好きだ。お姉さんは、
妹がとってもかわいいものなんだ。だからいろいろしたくなってしまうんだ。
それにツンちゃんは、多分後輩だったとしても、構ってあげたくなるような子だよ」
ξ゚听)ξ「信じられません。だって私、誰からも好かれたことがないんですよ?
こんな性格をしてるから、誰にも相手にされないんです。友達なんていないし、
学校ではいつもひとりです」
ξ゚听)ξ「クーさんは、とっても優しいです。私を構ってくれて、すごく嬉しかった。
一緒に寝るのがこんなに安心できるなんて、知らなかった。でも怖いんです。
いつか裏切られるんじゃないかって。私のことを置いていってしまうんじゃないかって」
彼女は突如独白を始めた。私は戸惑ったが、じっと耳を傾けた。
192 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:14:33.04 ID:M4KKdDfE0
ξ゚听)ξ「優しかった人たちは、みんな私と仲良くしたいんじゃなかった。
私のお金に用事があったんです。私を取り込んでしまえば、
簡単にお金が手に入るって、そんな風に考えてる人たちばかりだった」
彼女の両親は話によると、どうやらさる名家の出身らしかった。
お金も持っていただろうし、それを目当てに有象無象どもが彼らの周りに
集まってくるのだろう。それは安易に想像が出来た。
ツンちゃんはきっと、そんな大人たちの欲望渦巻く世界で育っていった。
すくすくと、体は大きくなっても心がそれについていかなかった。
両親が死んで、家の財産がすべてツンちゃんのもとに来ることがわかったとき、
親族一同はこぞってツンちゃんに媚を売り始めた。そのとき、13歳。
193 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:15:14.68 ID:M4KKdDfE0
まだ分別もわからない子供だったツンちゃんは、とある人たちにだまされて
財産をすべて奪われてしまう。それは身内ではなかった。
彼女は良かれと思ってやったことだったのに、そうじゃなかった。
お金を騙し取られたことが知れ渡り、親族の誰にもそのお金が分配されないと
わかったとたん、彼らは手のひらを返したようにツンちゃんに冷たくなった。
彼女は嵐の中で生きていかねばならなかった。
最低限残っていたお金も中学卒業と同時にほぼ底をつき、唯一頼りにしていた
父の兄も、ツンちゃんを置いてどこかへと去っていってしまった。
彼女はひとりになった。誰も自分のことを好いてはくれない。なぜ自分があんなに
チヤホヤされたのか、彼女は知ってしまったのだった。
絶望のどん底に叩き落されたツンちゃんは誰も信じなくなった。
心を閉ざし、本心をいわない事で誰からも相手にされない代わりに、
相手を失う苦しみもなかった。
ξ゚听)ξ「・・・私は、何もない私に優しくしてくれるクーさんたちが怖かったんです。
私は心を閉ざしたはずなのに、クーさんたちはどんどん私の中に入ってくる。
遠ざけても遠ざけてもダメだった」
194 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:16:03.63 ID:M4KKdDfE0
ξ;凵G)ξ「だから私は今、クーさんのこと、好きになりそうなんです。
お姉さんだって、思えそうなんです。でも、でも、心臓が、
心臓がばくばく動いて止まらないの。体が引きちぎれそうなの。
どうしたらいいのか、わからない」
ボロボロと、彼女は涙をこぼしてしゃがみこんでしまった。
ずたずたに引き裂かれた心は、治ることを拒んでいる。
また同じ痛みを味わいたくないから。
私はそんな彼女に手を差し伸べた。前を向いてもらうためだった。
196 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:16:50.48 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「立って。ほら。まだ道は長いんだよ。そんなに泣いたら
喉が渇いてしまうだろう」
ξ;凵G)ξ「え・・・?は、はい」
ツンちゃんは驚いていた。
きっと彼女はこれを話すのに大変な勇気がいっただろう。
でも、今は全然関係のないことじゃないか。
彼女が元お金持ちだか、名家の出身だか知らないけれど、
ツンちゃんはツンちゃんで、私のかわいい妹だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
殻に閉じこもるヒナは、自分で殻を破ることが出来ないものもいる。
そんなときは親が助けてやるのだそうだ。
ズルかもしれないけど、ひとりくらいはそんな子供がいたっていいと思う。
197 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:17:41.84 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「頂上に行こう」
ぐいっと強引に、私はツンちゃんの手を握った。
もう離さないように、強く。もう痛くないよう、優しく。
水飲み場から頂上はすぐだった。
運動不足がたたってハァハァ息が切れていたが、そこからの景色を
みたらすべてが吹き飛んでしまった。
少し強めの風は私たちを容赦なく吹き付けたけど、そんなものは気にならなかった。
205 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 20:04:08.67 ID:M4KKdDfE0
ξ゚听)ξ「すごい・・・」
川 ゚ -゚) 「ああ、これはすごいぞ・・・」
眼前に広がる景色は、小高い丘の頂上にしては「壮絶」の一言だった。
あたり一面の鬱蒼とした森の中に大きな湖があり、そこにポツンと建つ
ブーンヴィレッジ。ファンタジーの世界に出てきそうな、深い森の中の小さな家。
迫ってくるような景色に、私たちは息を飲んだ。そして、ここを薦めてくれた
ブーンさんに感謝した。
少し頂上を散策すると、小さな公園を見つけた。ちょうどいいと、私たちは
そこでまた休憩をした。
206 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 20:04:40.96 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「さっきの話だけどね」
ξ゚听)ξ「はい」
川 ゚ -゚) 「私が思うに、私のツンちゃんに対するこの気持ちは「愛」じゃないのかなぁ?」
さっきまで吹いていた強い風が、穏やかになった。
207 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 20:05:25.80 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「いい言葉が思い浮かばないんだ。でもこの「愛」っていう言葉が
一番しっくりくるような気がする。何かを引き換えにとか、そういうこと
じゃなくて、うまく言えないんだけど、何かしてあげたくなっちゃうというか・・・
何もいらないんだよ。何も。そのなにがあったとか、どうしたとか、そんなの
全然関係なくて」
川 ゚ -゚) 「うーん、自分で言っててよくわからないな。ごめん」
ξ゚听)ξ「いいえ」
川 ゚ -゚) 「ちょっと風が冷たいな。そろそろ戻ろうか」
ξ゚听)ξ「はい」
208 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 20:06:34.09 ID:M4KKdDfE0
思いがけないことに、ツンちゃんから私の手を握ってきた。
彼女の手は、風の中でも暖かかった。
彼女は晴れやかな顔をしていた。
心のもやを吐き出したことで、幾分気が楽になったのだろう。
ξ゚听)ξ「いきましょう」
川 ゚ -゚) 「あ、ああ。行こう」
ふもとに着くと、お父さんとお母さんは楽しそうにベンチで話をしていた。
おじゃまかな?と思ったが、こちらに気づいたお父さんはめいっぱい
手を振って私たちを呼んだ。
209 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 20:07:34.84 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「ただいま」
J( 'ー`)し「あらお帰り・・・まぁ、随分仲良くなっちゃったのね」
( ・∀・)「ずるいなぁ、二人とも。お父さんだって仲良くなりたいのに」
ふと視線を落とすと、繋がった手がそこにあった。
ξ;゚听)ξ「いや、あの、これは違うんです。その、たまたま
繋いじゃって、違うんです」
川 ゚ -゚) 「ふふふ、いいじゃないか。私とツンちゃんの仲だろう」
ξ///)ξ「ヘンなことをいわないでください!!」
その晩、私たちは手を繋ぎながら一緒に寝た。幸せだった。
何物にも変えがたい人がすぐそばにいて、私の手をぎゅっと握っていてくれる。
静かな寝息を立てるツンちゃんは、安心しきった赤ん坊のように穏やかな寝顔をしていた。
第6章「わたしたちの、あい。」 〜終〜
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