( ^ω^)ブーン系小説完結作品集('A`) 〜ξ゚听)ξ川 ゚ -゚)ツンとクーは姉妹になったようです 一気読み〜

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1 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 20:27:15.20 ID:luQOV8NK0
第1章「わたしたちの、であい。」


あるよく晴れた休日の、午前中のことだった。
高校三年生になったばかりの私は、家で黙々と勉強をしていた。
約1年後に控えた受験に向けて、私は早めの準備に越したことはないと、
休みの日にもかかわらず起きて顔を洗ってからすぐ机に向かったのだった。

私のお母さんは気ままなもので、部屋にあるベランダで洗濯物を干している最中も
ちらちらと私の様子を伺っては、「こんなに晴れてるんだから外に出て遊んでくればいいのに」
と言う。勉強しないで遊んで来いという親も珍しいと思う。他の家のことは知らないけれど。

でも確かに、春の温かい日差しは私を外へいざなっているような気がしないでもない。
とりあえずもう一ページ終わったら、散歩でもしてこようかな。そう思った直後の出来事だった。
玄関のチャイムが家中に鳴り響いた。

お父さんは朝から用事があるといって出かけたまま、まだ帰っていない。
お母さんはベランダで洗濯物を干してる最中だったので一階に人は誰もおらず、
玄関に出られるのは私しかいなかった。
反射的に部屋を飛び出した私は、階段を急ぎ足で降りて行った。

三年生になって行われたクラス替えでも知っている顔と知らない顔があったように、
春は出会いの季節でもある。
そんな出会いの季節に、私とあの子は出会ったのだった。


2 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 20:29:23.24 ID:luQOV8NK0
川 ゚ -゚)「あ、お父さん、おかえり」
( ・∀・)「やあ、ただいま」

休みの日なのに背広を着込んだお父さんは、なにやら落ち着かない様子だった。

( ・∀・)「とりあえず、あがりなさい、ツンちゃん」
ξ゚听)ξ「・・・はい」

お父さんの後ろにいたのは、仏頂面をした女の子だった。
まだ面影に可愛らしさが残っている。キッチリ制服も着ているし、
スカートも短くない。多分中学生くらいじゃなかろうか?
身長はあまり大きくない。くるっと巻き毛が特徴的な、愛らしい感じの子。
その仏頂面を除いては。


3 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 20:30:22.83 ID:luQOV8NK0
川 ゚ -゚) 「誰・・・なの?」

自然と私の声は低くなった。もちろん聞こえないだろうが、
念のために二階にいるお母さんの耳に入らないようにするためだった。
なんでそうしたかって、お父さんの後ろめたさがどことなく伝わってきたからだ。

まさか隠し子?でもお父さんにそんな度胸はなさそうだ。
いつも晩酌のもう一本余計にビールを飲むのにもお母さんにお伺いを
立てるような人だもの。
それにお父さんの血を引いてるにしては少し可愛らしすぎる・・・と、
これは言い過ぎか。私もお父さんの血を引いてるわけだし・・・

( ・∀・)「立ち話もなんだから・・・クー、説明はお母さんも交えてするよ。
     だからお母さんを呼んできてくれないか」

川 ゚ -゚) 「わかった」

なんとなく重い空気になっていたので、私は二階に行ってお母さんを呼ぶことで
ワンクッションおけることを少しだけ喜んだ。
私の部屋に入ると、ちょうどお母さんは洗濯物を出し終えたところだった。


4 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 20:31:08.59 ID:luQOV8NK0
J( 'ー`)し「誰だったの?」
川 ゚ -゚) 「お父さん。話があるって下で待ってるよ」

お母さんは「そう」とだけいって洗濯籠を持った。
私はお母さんに、あの「ツン」と呼ばれた女の子がお父さんと一緒に
来たことは言わなかった。

根掘り葉掘り聞かれても私はわからないし、お母さんがへそを曲げても困る。
だからもしあの「ツン」という子が責められるような
存在だったら、その役目はお父さんが担うべきだと思った。

一階にお母さんと降りて、客間に入るとお父さんとあの子の二人はすでに座って並んでいた。
お父さんが入れたであろう麦茶の注がれたコップが四つ、机の上に置いてあった。

( ・∀・)「お母さん、クー、そこに座りなさい」

お父さんが言った場所には二枚の座布団が敷かれていた。
いわれるがままに私たちはそこに座り、事の次第をお父さんが話すのを待った。
お父さんの緊張が伝わったのか、私の心臓までドキドキしてきた。
せっかくのいい天気で私は散歩に行こうと思っていたのに、計画が台無しだ。
でもそんなことをいっている場合じゃない。

数瞬の沈黙の後、ようやくお父さんはさっきの「座りなさい」から久々に口を開いた。
その口からは普段聞けないような衝撃的なひとことが飛び出したのだった。


5 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 20:31:50.66 ID:luQOV8NK0
( ・∀・)「実は・・・この子を養子にしようと思ってな」
川;゚ -゚) 「・・・ホントに?」

これはさすがに普段あまり感情を表に出さない私でも驚いた。
でも意外だったのは、お母さんがその言葉に対して全然驚いていないことだった。
どうしてだ?もしかしたら二人はグルなのか?
いろんな表情をごちゃまぜにしたような顔をしているであろう私をみて、
お母さんは大きくため息をついた。

J( 'ー`)し「ごめんなさいねクー。あなたにはまだ言ってなかったけど、
       今日からこのツンちゃんが我が家の一員になることになったのよ。
      お父さんとお母さんが先に勝手に決めちゃったから、
       言い出しづらくて・・・ごめんなさい」

それにしてもあまりに突拍子のない出来事に、私はただただ驚くばかりだった。
なにせ、この歳になって急に家族が増えるなんて滅多にないことだろう。
ペットじゃあるまいし、今私の目の前に座っている女の子はどこからどう見ても人間だ。
自己紹介を、との言葉に、その子は仏頂面のまましゃべり始めた。

ξ゚听)ξ「今年から高校一年生になるツンといいます。よろしくお願いします」
川;゚ -゚) 「は、はぁ、よろしく」


6 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 20:32:53.08 ID:luQOV8NK0
ツンちゃんは仏頂面のまましゃべり終えた。私は一気に先行きが不安になった。
だってこの目の前にいる女の子は私に輪をかけて仏頂面だ。
もうひとりの自分が目の前に座っているようで・・・とここまで考えて、私ははたと気づいた。

私もこんな風に扱いづらそうなのだろうか?と。でも今考えても仕方のないことだ。
今は目の前にいる女の子のことを少しでも知っておかなくてはいけないと思った。
・・・状況に対して飲み込みが早いのは自分でもわかっている。

どうしてこう、私はわめいたり騒いだり出来ないんだろうか。
でも私はなんとなく嬉しかった。
今までずっと一人っ子で、きょうだいが欲しいと思っていたからだ。
和気藹々と街を歩く彼らや彼女らの姿を見ては、恥ずかしながら妄想に耽ったこともある。
私の、絶対に叶うはずのないであろう夢が、今ここに現実のものになった。
そして私は、「現実」になってしまった「夢」は、なかなか
厳しいものであるということをこれから知ることになるのだった。


第1章「わたしたちの、であい。」 〜終〜


37 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:14:29.19 ID:luQOV8NK0
第2章「わたしたちの、はじまり。」


翌日にあまりに衝撃的な出来事が起こったため、私はあまり寝付けなかった。
目の下に隈を作って不機嫌なオーラをそこらじゅうに撒き散らしていた。
とりあえずツンちゃんは部屋の準備がまだ出来ていないと言うことで、昨日はホテルに泊まった。
私はその段階で少々嫌な予感がしていた。

私の家に、ツンちゃんを入れられるようなキャパシティのある部屋はあっただろうか。
いくら考えても思いつかない。
予想される展開としては、私の部屋に押し込められる展開という予想が一番可能性の高いものだった。

いくら配慮の足りない両親(昨日の出来事で十二分にわかった)でも、
いきなり同じ部屋にいれるということはしないだろう。
甘やかな私の予想。きっともろくも崩れ去るに違いない。

学校についても不機嫌オーラはとどまることを知らず、その異様さを察知した友人のしぃが
机に突っ伏している私の元によってきた。


38 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:14:55.63 ID:luQOV8NK0
(*゚ー゚) 「いつにもまして今日のクーは近寄りがたいわね」

川 ゚ -゚) 「ほっといてくれ。今は眠くてしょうがないんだ」

(*゚ー゚) 「眠くなった原因を聞かせてくれれば、ほっといてあげてもいいんだけど」


チラリとおせっかいな友人を見やり、私はのっそり体を起こしてしぃにこう耳打ちした。
「妹が出来たんだけど、どうしよう」。


(*゚ー゚) 「えええええええ!!!???」

川 ゚ -゚) 「シッ!!声が大きい」


普通の人間の反応はこんなものだろう。大抵はビックリするに決まってる。
そしていろいろな憶測が脳みそを駆け巡りいろんな物質が分泌されるのだ。
周りの痛いくらいの視線を浴びながら、私たちはより近くによってコソコソ話をし始めた。


39 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:15:38.56 ID:luQOV8NK0
(*゚ー゚) 「妹ができたって・・・どういうことよ。まさかお父さんが再婚したとか」

川 ゚ -゚)「うちのお父さんにそんなことが出来る度胸はないさ。
      遠縁の親戚の子なんだけど・・・」


かくかくしかじかと説明を終えると、しぃもなんとか納得したようだった。


(*゚ー゚) 「なるほどねぇ・・・義妹ってことね。そのツンちゃんも大変なのね」

川 ゚ -゚) 「ああ・・・でも私はずっと一人っ子だったから、きょうだいが出来て嬉しいんだ。
       昨日はwktkして眠れなかった」

(*゚ー゚) 「なんだ、自分が悪いんじゃない・・・心配して損した」

川*゚ -゚) 「誰も心配して欲しいなんて頼んでいないよ、おせっかいな人。でもありがとう」

(*゚ー゚) 「いいえ。私はクーのそういう素直なところが好きよ」


40 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:16:43.45 ID:luQOV8NK0
頑張って仲良くなりなさいと、しぃはいって自分の席に帰っていった。
ちょうどチャイムがなるところだった。
私はこれからのきょうだい生活を思って、一人授業中ずっと妄想を繰り広げていた。

一緒に甘いものを食べに行ったり服を買いに行ったり。
服を交換こしてもいいな。お姉ちゃんはちょっと胸が大きいから・・・なんていって、
キャアキャア鏡の前ではしゃいだりして。

二人でベッドに入って、「あのね、お姉ちゃん、私好きな人がいるの」
っていう恋愛相談なんかしちゃって。

そんなかわいいツンちゃんに対して私はお姉さん面して、それはそうこれはこうと
偉そうに説明するのだ。
楽しい場面しか想像できなかった。
しぃと二人でご飯を食べているときも、私の頬は緩みっぱなしだった。
さっきまで寝不足で鬱々としていたのにそんな気持ちはどこか風に乗って吹き飛んでしまった。

今日家に帰れば、もうツンちゃんはいるはずだ。部屋のことなんかどうだっていい。
私たちは仲良くなってほんとうのきょうだいになるんだ。
帰りのチャイムが鳴り終えるのももどかしく、私はいそいそとカバンにものを詰め込んだ。


「起立」「礼」


日直のいつもの儀式が終わったところで、私は鉄砲の弾のように教室から飛び出した。
廊下は走るなと後ろで怒鳴り声が聞こえたが知ったことじゃない。


いつもの倍は早く自転車をこぎ、私は家へ向かった。


今の私ならば、自転車通学をしてる男の子たちにだって勝てるに違いない。
風のようになった私は家に着くなり自転車を片付けるのもそこそこに、玄関のドアを思いっきり開けた。


41 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:17:38.71 ID:luQOV8NK0
川 ゚ -゚) 「ただいま!!」


玄関はしーんと静かだった。
家に帰ると、いつもこうだった。お父さんとお母さんは共働きで、
小さい頃から私の家には誰もいなかった。
鍵だけ預けられ食卓に並んだ夕飯を電子レンジでチンする生活。
二人は夜遅くに帰ってきて、その時間には私はもう寝ている。

その二人が一生懸命働いてくれたおかげで私は高校にも行かせて貰っているし、
受かれば大学にも行かせて貰える予定だ。
きっとこれが幸せなんだ。幸せになるには何かを犠牲にしないといけない。

きっとそれは「家族の時間」だったのだ。
そのうち私は家に誰もいないことが当たり前になっていた。
大人になるにつれ、お父さんとお母さんがいったい何をしているのか
わかるようになって初めて、孤独が少し薄れたような気がしていた。

でも今は違う。私には妹が出来た。もう家に帰ってもひとりで寂しい思いをしなくてすむ。
私はここにきて、心の底ではずっと寂しいと思っていたことに気づいた。
いつからだろう、あんまり笑わなくなったのは。クールだねって、友達に言われるようになったのは。
だから玄関の静寂は、そんな私のかすかな希望を砕くには十分だった。

私は諦めきれずに、下駄箱をひっくり返した。でも出てくるのは見覚えのある靴ばかり。
年頃の女の子が履くような靴はどこにも見当たらない。


42 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:19:00.63 ID:luQOV8NK0
川 ゚ -゚) 「そんな・・・」


嘘だったって言うのか。昨日の出来事は全部なかったっていうのか?嫌だ。もうひとりは嫌なんだ。
家に誰もいないのは嫌だ。
「おかえり」って誰か言ってよ。私を迎えてよ。
機械的に暖まったご飯を食べるのはもうやだ。運動会にも授業参観にも誰も来ないのはもう・・・

私は泣き崩れた。溜まっていた今までの涙が、滝のように流れ落ちていた。
そんなときに、がちゃりと玄関の扉が開いた。


ξ;゚听)ξ「・・・クーさん?」

川 ; -;) 「ツンちゃん?」


43 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 22:19:56.47 ID:luQOV8NK0
そこには昨日の制服のままの彼女が立っていた。
あまり多くない荷物を背負って、扉を開けたままこちらを見ていた。
玄関で誰かが泣いてるなんて思いもしなかったのだろう。彼女はその大きな目をさらに
大きく広げて、私を見ている。


ξ;゚听)ξ「どうかしたんですか?」

川 ; -;) 「ううん・・・なんでもない。なんでもないんだ。よかった。いたんだ。
      誰かいたんだ・・・」


よく考えてみれば、ツンちゃんだって四六時中家にいるわけじゃない。誰もいない日だって
もちろんある。でも、それでも圧倒的に誰かのいない日は減るはずだ。
二人でご飯を食べる時間が増えるはずだ。

よかったと、心の底から思った。私は重たそうに背負っているツンちゃんの荷物を持ってあげた。
相変わらず彼女は仏頂面だったが、仏頂面同士の姉妹だっていてもいいだろうと、そう思った。


第2章「わたしたちの、はじまり。」 〜終〜


57 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 23:06:40.92 ID:luQOV8NK0
第3章「わたしたちの、おもい。」


やはり私の悪い予感は当たった。お父さんは部屋割りのことをまったく
考えていなかったらしい。

ツンちゃんの実家にあった勉強机とタンスが届いたのだが、それを部屋に置いただけで
私の部屋はパンパンになってしまった。

寝るところだって決まってないのに一体どうするつもりだろう。無責任にもほどがある。
私はお父さんにそういって、一人プスプスと煙を上げていた。


(;・∀・) 「や、すまない!!そのときはもうとにかく早くと思ってそこまで気が回らなかった」
J( 'ー`)し「私はちゃんと考えてあると思ったのよ!!もう、しっかりして頂戴!!」


58 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 23:08:05.56 ID:luQOV8NK0
お母さんはなんとなく責任を棚に上げているような気がする。
二人のやり取りに呆れつつ、私はちらりと、自分の部屋のほうを見た。
ご飯を食べてすぐ上にあがっていってしまったツンちゃんが気がかりだった。

どことなく、彼女は私たちを避けているようなフシがある。
それがなぜなのか私にはよくわからない・・・

寝床の件は、今日はベッドを彼女に貸してあげて、私は床で布団を敷いて
寝ることにしようと思った。

そのことを知らせようと、私は自分の部屋に入ろうとドアノブを握ったところで気づいた。
ああそうだ、ノックしないと。だって、年頃の女の子の部屋に入るんだものね。
私はwktkしながらドアをノックした。

「ちょ、ちょっとまって!!」

なんていう声が聞こえてきたら
どうしよう、ここはお姉さんとしてしっかりしなくては、とニヤニヤしながら待っていた。

どうも彼女がこの家に来てからというもの、私は妄想をすることが多くなったようだ。
いいことなのか、悪いことなのか。
ノックして少しの間をおいて、ドアの向こうから聞こえてきたのは無機質な返事だった。


59 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 23:09:09.03 ID:luQOV8NK0
ξ゚听)ξ「どうぞ」


多少ガッカリしたものの、そりゃ毎度毎度ノックするたびに
何か起こってたらこっちの身が持たないと思うことにした。


川 ゚ -゚) 「失礼するよ」


部屋に入った途端、私は軽くめまいを覚えた。自分の部屋である気がしない。
私の部屋は随分と賑やかになったものだ。ひとりだったときは広くて広くて
物を散らかしても散らかしきれなかったくらいなのに。

二人分の荷物はやっぱり多くて、勉強机に座っているツンちゃんは幾分窮屈そうだった。
でも私はこの雑多な感じがとても心地いいと思った。広々とした部屋はそれはそれで
いいものだったけど、こうして密着しているのも悪くない。
そう思ってるのは私だけだろうか。


60 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 23:10:05.10 ID:luQOV8NK0
ツンちゃんは机に向かってなにやら熱心に勉強をしていた。勉強が好きなのだろうか。

私はあまりお父さんにツンちゃんについての詳しいことは聞かなかった。
だって私ばかりがツンちゃんの情報を握ってしまったら不公平じゃないか。
連れてきた張本人のお父さんも、ツンちゃんのことに関してはあまりよく知らないようだけど。

諸々の事情とともにさっき考えたアイディアをツンちゃんに伝えたら、返ってきた答えは「NO」だった。
意外な答えに私は困惑してしまった。


川;゚ -゚) 「そうすると、ツンちゃんの寝るところがなくなってしまうんだが・・・」

ξ゚听)ξ「別に私は下のリビングのソファだって構いません。
     それにここはクーさんの部屋、ですよね。部屋の主人が床で寝るなんて」


61 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 23:11:06.25 ID:luQOV8NK0
川 ゚ -゚) 「それはそうだが、私はキミのお姉さんだし、ちょっとは我慢できるんだぞ?」

ξ゚听)ξ「・・・お姉さんだなんて、私は思っていません」


ぎゅっと、私は心臓がつかまれたような気がした。そうか、昨日から感じていた
余所余所しさの正体はこれだったのか。

そりゃ、そうだよね。まだ会って二日だもんね。
私のことそう簡単にお姉さんだなんて思ってくれないよね。
私はもう、あなたの事が可愛くてしょうがないんだけどね。

いいたいけど、言えなかった。ツンちゃんにこれ以上拒絶されたくなくて、
解ったとだけいって部屋から出た。
あの雑然とした、ほんわかとした下町の商店街みたいな雰囲気の部屋は、
一瞬にしてどこかの港にある倉庫と同じくらいの冷たさになってしまった。



ただ雑多なだけの、物を置くだけの施設である倉庫・・・


62 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 23:12:21.13 ID:luQOV8NK0
パタンと、静かな廊下にドアを閉める音が響き渡る。
私は壁に寄りかかって、聞こえないように小さな声でつぶやいた。


川 ゚ -゚) 「どうしよう・・・」


本人の口から聞くとはとても思っていなかった。雰囲気でなんとなく
避けられているのかな、とは感じていた。

ご飯を食べている時だってあまりこちらの顔は見ずに、ひたすらに食べ物を
口に運んでいる様子だった。

今日はお父さんとお母さんも早く家に帰ってきて、我が家は久しぶりの団欒を囲むことになった。
二人は夢中になってツンちゃんに話しかけていたけど、ツンちゃんの返事はそれはそれはつれないものだった。

「はい」「そうです」
私が観察していた限りではこの二パターンしか返事がなかったように思える。
でもひとつだけ、わかったことがある。ツンちゃんはあまり野菜が好きじゃないらしい。
サラダにはあまり手をつけなかったのを見てしまった。

それを思い出して私は少し、顔をほころばせた。
普段はツンツンしてるけど、まだまだ中身は中学生なのだ。
多分、糸口はどこかにあるはずだ。これから生活していけば、きっと・・・きっと見つかるはずだ。


63 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 23:12:56.02 ID:luQOV8NK0
川 ゚ -゚) 「私が気落ちしてどうするんだ」


パンパンと、軽く手のひらで頬を叩く。辛いのはツンちゃんのはずだ。
だってご両親がいなくなってしまったんだから。

何とかしてあげないといけないって思った。
私はしぃのように「おせっかいさん」にいつの間にか変身を遂げていた。


64 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 23:14:08.84 ID:luQOV8NK0
( ・∀・) 「ツンちゃんの様子はどうだい?」


一階に降りてダイニングに入ると、お父さんとお母さんが真剣な顔をして私を見た。
二人が向かい合ってダイニングのテーブルに座っているということは今まできっと
ツンちゃんのことについて話し合っていたのだろう。
私の言葉を待つ二人の顔色はお世辞にもいいとは言えなかった。不安と心配の色が
ありありと見て取れた。


川 ゚ -゚) 「私がベッド貸してあげるっていったら、断られた。ここのソファで寝るって」


残念ながら二人の期待に沿った答えをいうことは出来なかった。
私の答えを聞いて、両親ともにがっくりと肩を落としていた。

どうもうちの人たちはせっかちなようで、まだ会って二日の人に心を完全に開いてもらおう
と思っているらしい。
さすがにそれはムリだろう。私も人のことを言えた義理じゃないけど。


65 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 23:16:28.25 ID:luQOV8NK0
( ・∀・) 「もしかしたら、ツンちゃんを連れてきたのは失敗だったかもしれないな」


信じられないことを言い出した。おいおいお父さん、ツンちゃんの人生を弄ぶつもりか?
私が怒る前に、お母さんがお父さんを怒鳴り散らした。


J(;ー;)し「あなた・・・なんてこというの?ツンちゃんはもう私たちの娘なのよ。
      連れてきたのは失敗だなんて、よく自分の娘にそんなことが
      言えるわね・・・!!あなたが決めたことでしょう?あなたがツンちゃんを
      自分の娘として育てるっていうから、私は賛成したのよ。
      なのに、失敗だなんて・・・どういうことよ!!」


66 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/10(土) 23:17:15.45 ID:luQOV8NK0
あまりの迫力に、私たちは言葉を失った。
ツンちゃんに聞こえてなければいいが・・・一番損害を被ったのはお父さんだった。
ポロポロと涙をこぼすお母さんに対し、もうこのあとはお父さんがひたすらに
謝ることで何とかなだめることが出来た。


(;・∀・) 「悪かったよ。もう金輪際こんなことはいわない。約束する。
     ツンちゃんを連れてきたのは俺だからね。頑張らないといけないな」

川 ゚ -゚) 「そうだぞ、お父さん。ツンちゃんは大変な時期なんだから、「家族」である私たちが
      支えてあげないといけないんじゃないか?」

J( 'ー`)し「次もしバカなこといったら、お父さんのこと追い出すからね」


自分で言って恥ずかしいが、家族という言葉は何かずしっと重いものを感じた。
頑張ろう頑張ろうといっても、一抹の不安はついて回る。
私たちは本物の「家族」になれるのだろうか?答えはまだ出ない。


第3章「わたしたちの、おもい。」 〜終〜


86 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 00:58:02.64 ID:M4KKdDfE0
第4章「わたしたちの、すきま。」


ツンちゃんが家に来てから早くも一ヶ月が経過した。
私は再び殺風景になった自分の部屋にかけてあるカレンダーをみて思わずため息をついてしまった。

ツンちゃんは私の部屋のとなりにある、物置と化していた部屋を整理してそこに入ることになった。
そしてその部屋の扉は、何より遠く何より重い扉になってしまった。

ご飯を食べるとき以外と、朝学校に出かけるとき以外に
彼女の顔を見かける時間は全体としてかなり少なくなってしまった。

当然のことながら彼女は学校にも行き始め、さらに接点が減っていった。
もしかして、世間のきょうだいたちは皆こうなのだろうか。
こんなので寂しくないのだろうか。

もしかしたら、部屋を分けたのは失敗だったかもしれない。
でも、いつまでもリビングのソファで寝かせるわけには行かない。

彼女は何度となくした私の提案を、ことごとく却下した。
そしてここのソファで寝ることにこだわった。
最初はよほど気に入っているのかとあまり気にも留めなかったが、
時間が経つに連れてやはりそれは不自然であると思うようになった。


87 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 00:59:04.46 ID:M4KKdDfE0
相変わらず両親は仕事人間で、二人も最初の頃こそ早く帰ってなんとか
団欒を造ろうと思っていたようだが、そうもいかなくなってきたようだ。

最近は一人ないし二人でご飯をつつくことが日常的になってきていた。
やはり、会話らしい会話はまるでなし。彼女は笑いもしない。
時々箸を止めてはふっと一息ついて、また食べ始める。

私がじっと見ているのを気にも留めず、黙々と食べ続けている。
なんだか儀式のようだ。習慣とか慣習とか、そういったものに縛られているアレ。
彼女にとって食事とは一日の中にある「儀式」に他ならない。
そうなんじゃないかとすら思えるようになっていた。

そんなこともあってやっぱり私は不機嫌だった。
毒ガスでも噴出しているんではないかというくらい、不機嫌だった。
学校では私が通るたび、さーっと人が避けて通るようになっていた。


88 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 01:00:09.88 ID:M4KKdDfE0
(*゚ー゚) 「ねー、どうしたのよ。最近はクーがドクーになったってみんな噂してるわよ」

川 ゚ -゚) 「毒でもなんでも好きなように呼んでくれたらいいさ。
     私はダメな姉貴だよ」

(*゚ー゚) 「噂の義妹ね?クーを悩ませるなんて、相当なへそ曲がりのようね」

川 ゚ -゚) 「あの子はヘソが背中についてるようだ・・・ほとんど私と口を
     きいてくれないんだよ」

(*゚ー゚) 「そっかぁ・・・気の利いたアドバイスなんてものをしてあげたいんだけど
     私にはそんな経験ないからなぁ。ごめんね」

川 ゚ -゚) 「いや、いいんだ。聞いてもらっただけでなんとなくすっとしたから。
      いろいろと角度を変えて接してみるよ」

(*゚ー゚) 「そう?でもあんまり根詰めないようにね。意固地になるのは、
     クーの悪い癖だから」

川 ゚ -゚) 「ありがとう。お礼に今日はミスドで何でも好きなもの頼んでいいぞ」


89 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 01:00:47.34 ID:M4KKdDfE0
予想外の出費だが、大丈夫。
しぃにはいつもお世話になっているからこれくらいはしてあげないと。

ついでにツンちゃんへとお土産を買っていくことにした。
ポン・デ・リングなら、誰でも好きだよな・・・

ツンちゃんの部屋の扉を、ドキドキしながらノックする私。
片手にはさっき買った、ミスドのポン・デ・リングがたくさん入った箱を持っている。

男の子の部屋に入るんじゃないんだから、そんなに鼓動を高めなくても・・・
と自分に突っ込んでみてもどうしようもない。

高まるものは高まるまま、放っておけばいい。

ガチャリとドアが開く。隙間からは、ツンちゃんがこちらをのぞいていた。


90 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 01:01:29.09 ID:M4KKdDfE0
ξ゚听)ξ「どうしました?」

川 ゚ -゚) 「ミスドに寄ったもので、ついでにツンちゃんへのお土産を
     買って・・・きたんだけど」

ξ゚听)ξ「ありがとうございます。台所においといてください。
     あとで食べますから」


ツンちゃんの口調には拒絶の色がありありと出ていた。
しかし私はここで食い下がった。いつものように「ああ、そう」と引き下がっては
埒が明かない。


91 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 01:01:53.05 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「いや、私は一緒に食べようと思って持ってきたんだが」

ξ゚听)ξ「一緒に?どうしてですか?」

川 ゚ -゚) 「こうやってドーナッツでも食べて、お茶でも飲みながら
     ワイワイお話をするのが夢だったんだ。これじゃあダメかな」

ξ゚听)ξ「私と食べたっておいしくないですよ」

川 ゚ -゚) クー「一人で食べたらもっとおいしくない」


92 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 01:03:39.23 ID:M4KKdDfE0
じりじりと長期戦の様相を呈してきた。持久力には正直あまり自信がない。
しかしどうしてこう、この子は頑ななんだろう。何か理由でもあるのだろうか。

隙を見てツンちゃんはぐいっとドアを閉めようとした。
とっさに私はノブを握り、持てる力のすべてを込めてドアを引っ張った。

私がドアノブを絶対に離す気がないことがわかると、ツンちゃんはため息をついた。


ξ゚听)ξ「しょうがないですね・・・ひとつ食べたら部屋に戻りますから」

川 ゚ -゚) 「おお、それはよかった。じゃあ早く下にいこう。飲み物は何がいい?
      紅茶?緑茶?麦茶?ウーロン茶?」

ξ゚ー゚)ξ「お茶ばっかりですね」

ツンちゃんがクスリと笑った。私はそれを見逃さなかった。
笑うとツンちゃんはなんて可愛いんだろう。そして、どうしてこんな可愛い子が
笑わないんだろうか。


93 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 01:04:16.57 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「今・・・笑った!!笑っただろう!!」

ξ゚听)ξ「え?笑ってないですよ」

川 ゚ -゚) 「いや笑った!!ツンちゃん、笑ったよ、キミは!!」

ξ゚听)ξ「笑ってないです!!」

川 ゚ -゚) 「私は怒ってるわけじゃないんだぞ?それにいいじゃないか、笑ったって。
     笑ったツンちゃんは最高にステキだったよ」

ξ゚听)ξ「とっ、とにかく私は笑ってません!!もう部屋に戻ります!!」


95 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 01:05:07.64 ID:M4KKdDfE0
あっという間に彼女は降りていた降りていた階段を駆け上り、自分の部屋に
飛び込んで猛烈な勢いで扉を閉めてしまった。

でも私は見てしまった。彼女が顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたことを。
そして知ってしまった。笑うとまるで太陽のように輝くことを。

余計気になったのは、彼女はどうしてそうまでして自分の感情を
隠したがるのか、ということだった。

私のこれは元来の性格なので、直しようもない。だけどツンちゃんはそうじゃない。

しかし私は上の二つを知ったおかげでしばらくツンちゃんとは目も合わせて
もらえなかったのだが。


第4章「わたしたちの、すきま。」 〜終〜


133 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:12:27.34 ID:M4KKdDfE0
第5章「わたしたちの、しんじつ」


気温35.6度。今季節は夏の真っ最中だった。
照りつける太陽は肌をじりじりと焦がしてゆく。街を行く女の子たちは
「肌が焼ける」とあちこちにクリームを塗りたくる、そんな季節。

私たち家族はこの休みを利用してとある避暑地にやってきていた。
最近家族で出かけることも少なくなってきていたが、ツンちゃんが
家に来たことでなんとなく結束が固まっていっているのはいいことだと思った。

そのツンちゃんといえば相変わらずの仏頂面だ。


134 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:13:20.19 ID:M4KKdDfE0
現地について駐車場を下りると、暑さはそれほど変わらなかったが、木陰が多く
ひんやりとしていた。

私たちが泊まるのは、ここから少し先に進むと湖があり、
そのほとりに建っているブーンヴィレッジというところだった。
インターネットでの評判は上々で、オーナーのブーンさんの作る料理は逸品とのことだった。



私は湖へ続く林道に、お母さんと二人歩いていた。


135 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:14:50.36 ID:M4KKdDfE0
J( 'ー`)し「はぁ、こう暑いとやんなっちゃうけど、ここは街中と違って涼しいわね」

川 ゚ -゚) 「そうだな。空気もおいしいし、湖のほとりっていうことはマイナスイオン
     もたっぷりでてるはずだ」

(;・∀・)「おーい皆さん、浸るのはいいが荷物を全部僕に持たせないでおくれよ」


ボストンバッグを抱えてかなりの重装甲になっているお父さんが、よろよろしながら
こちらへ歩いてくる。
ツンちゃんはその後ろから、自分の荷物だけをしっかり持って歩いてきていた。

ツンちゃんが今回の旅行についてきたのは意外だった。もしかしたら「家に残る」なんて
言い出すかと思っていたから。

お父さんとお母さんは彼女の参加をたいそう喜んだし、彼女もまんざらではなさそう
なので、これを期に私たちの間はぐっと近づくかもしれないと、私は夢想した。

何か含むものが彼女の中にあったとしても、それはあまり深く考えないことにした。


136 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:16:40.35 ID:M4KKdDfE0
そして今回、私はある作戦を立てていた。

題して、「ああー、部屋に入ったらダブルベッドが1つしかないーじゃあ一緒に寝るしかないね」
作戦だ。長い。

これはすでに予約の段階で私とお父さん、それにお母さんが画策してわざと
やったことだ。

もちろん添い寝の相手はわ・た・し。男の人が二人寝ても余裕なくらいのベッドだと
聞いているので、多分大丈夫だろう。
我ながら大胆な作戦だ。こやつめ!ハハハ!

林道を抜けると、そこには大きな大きな紺碧の湖が広がっていた。そのほとりにある
ブーンヴィレッジは小ぢんまりとした佇まいで、湖との対比が印象的な建物だった。


137 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:17:39.32 ID:M4KKdDfE0
( ^ω^) 「いらっしゃいだお。部屋はこちらだお」


オーナーのブーンさん自ら私たちを部屋に案内してくれた。
歩き方に特徴がある人だ。両手を水平に伸ばして歩いている。

ヴィレッジの中は白を基調としたつくりになっていて、客室に来る前に
通った談話室には暖炉もあった。

ブーンさんはマンガを集めるのが趣味らしく、その談話室には
これでもかという数のマンガが置いてあった。

ここで3泊過ごすのかと思うと私の胸は躍った。湖では釣りも出来るようだし、
ボートも見かけた。森の中には川があって、水遊びも出来るとブーンさんは言っていた。
実は勉強道具を持ってきていない。だって、野暮じゃないか、そんなもの。

作戦通りに割り振りが決まり、お父さんとお母さん、私とツンちゃんというペアで
部屋に入ることになった。


138 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:18:07.86 ID:M4KKdDfE0
( ・∀・)「荷物を置いたら談話室に集合だ。何するか決めよう」

川 ゚ -゚) 「わかった」


ガチャリと部屋の扉を開ける。部屋の内装も白系統だった。
幾分か廊下などよりも柔らかな色使いがされている。クリーム色、といったところか。

ちょっと年代もののクローゼットに、鏡台。テレビはないみたいだ。
ちょっとしたソファに、問題のダブルベッドが部屋の中心部あたりに
デンとおいてあり、異様な存在感を放っている。

大きさは申し分なかった。というか、大きすぎるくらいだ。


139 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:18:47.87 ID:M4KKdDfE0
ξ゚听)ξ「あの・・・ベッドがひとつしかないんですけど」

川 ゚ -゚) 「アーホントダネー、コリャアフタリデヒトツノベッドヲツカウシカナイネー」

ξ゚听)ξ「お部屋は変えられない・・・ですよね」

川 ゚ -゚) 「ソウダネー、ココノペンションハニンキガアルカラネー」


くっ、我ながら大根役者だ。不安になってちらりとツンちゃんの顔色を伺う。


幾分困惑はしているようだが、旅行の開放感からなのか、しょうがないと
いった風あっさりと頷いた。


140 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:19:32.42 ID:M4KKdDfE0
ξ゚听)ξ「べ、別に一緒に寝たいとかそういうわけじゃないんですから」

川 ゚ -゚) 「わかってるよ」

ξ゚听)ξ「・・・」


第一段階クリア。


142 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:21:24.04 ID:M4KKdDfE0
その日一日はとても楽しく過ごした。

お父さんが妙にブーンさんと気が合って、湖に一緒につりに出かけて
たくさんブラックバスを釣ってきた。でもお母さんの反応は薄かった。

だって食べれないじゃないってさ、そりゃそうだけど。
大漁に沸いた二人はちょっとガッカリした様子だった。

ツンちゃんはというと、むんずとバスの尾っぽを握り持ち上げて、
結構大きいなぁなんて言っていたっけ。意外に大胆な子なのかもしれない。

ご飯も噂に違わずおいしいものばかりで、特にヒラメのムニエルは絶品だった。
ツンちゃんが一口食べた途端目をまんまるくして、箸の動かすスピードが上がったのには
目を惹かれた。

夕飯を食べ終えたあとツンちゃんはさっさと部屋に戻ってしまったので、
私はさっきの談話室によってみた。そこには何人かの先客もいた。

その人たちは幾人かのグループをつくって、今読んだマンガについての談義に
花を咲かせていた。
ああやって一緒に読もうと思ってたんだけどなぁと、私はほんの少しがっかりした。
でもまだ時間はあるさ。

気になっていたマンガをいくつかピックアップして、ソファに座って読み耽った。
カチカチと、談話室のはずなのに私に響くのは時計の音ばかりだった。


143 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:22:25.80 ID:M4KKdDfE0
なんかむなしい。家族で来ているのに、単独行動なんてあんまりだ。
読み途中の漫画を片付け、私は部屋に戻った。

扉を開けた先にツンちゃんはいなかった。荷物があるから脱走をしたわけでは
ないらしい。
このペンションはつくりが古めかしく、ちょっとした洋館のようだったので、
もしかしたら興味を惹かれてふらふらあちこち歩いているのかもしれない。

室内は空調が効いているが、なんとなくカラダのべたつきを覚えた私はお風呂へ
向かった。
ここのペンションは備え付けのお風呂以外に大浴場があるらしい。
せっかくだからと、大浴場のほうへ足を運ぶことにしたのだった。

途中外を通るところがあって、私はすっかり真っ暗になった空を見上げた。
いくつもの星が輝いて、空がとっても近く感じられる。
都会で見るような空とは違って、迫ってくるような力づよさがある。

煌く星々の中のひとつに、ニ連星を見つけた。寄り添う二つの星はとても仲が
よさそうだった。
私とツンちゃんもああいう風になれたらいいなと思った。

大浴場には先客がいた。そしてその先客のかごの中には、見覚えのある服が
放り込んであった。

まさかと思って入ってみると、そのまさか。先客はツンちゃんだった。


144 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:23:19.80 ID:M4KKdDfE0
ξ゚听)ξ「あ、クーさん」

川 ゚ -゚) 「奇遇だね。お邪魔するよ」


ちょっと彼女は焦ったようだった。ベッドの付き合いの前段階は
裸の付き合いだなんて、ちょっとwktkしてしまうじゃないか。
これも神様の思し召しかも。


私は体をささっと洗って、ツンちゃんが浸かるお風呂への侵入を果たした。


川 ゚ -゚) 「こちらスネーク。湯船への侵入に成功した。大佐、指示をくれ」

ξ゚听)ξ「誰の物まねですか」


ツンちゃんはMGSを知らないらしい・・・残念だ。
お湯というのは、体の緊張をほぐしてくれる。
全身の強張りが取れて、私はふぅと一息ついた。

しばらく湯船を楽しんだあと、私は口を開いた。
体の緊張がほぐれたからなのか、私はずっと考えていたことを口にした。


145 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:25:02.31 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「ねぇ、ツンちゃん」

ξ゚听)ξ「なんですか?」

川 ゚ -゚) 「私はね、もうキミのことを本物の妹だと、そう思っているんだよ。私はずっと
     一人っ子で、妹がほしかった。でも両親とも忙しくて、私がそんなことを言う
     暇もなかった。だからキミが家に来たとき、私はすごく嬉しかったんだ。
     ツンツンしてても、キミはイヌやネコじゃない。人間だ。こうして会話も出来る。
     ツンちゃん、キミは私のことを姉だと思っていない、と言ったね」

ξ゚听)ξ「・・・」

川 ゚ -゚) 「それでもいいんだ。姉だって思ってもらわなくても、私はそんなことどうだって
     いいんだ。ただ私は純粋に、キミとお友達になりたい。もっとツンちゃんのことを
     知りたいと思ってる。そりゃあ、お姉ちゃんって呼んでもらいたいけど、
     まだ今は難しいだろう」


ツンちゃんは相変わらず無言だった。
自分勝手かもしれないが、私はこれが言えて満足だった。
ツンちゃんと一緒にいると、こっちまでツンツンになってしまいそうだ。
素直なところが私のとりえだと、小学校から言われ続けてきたのに。

思っていることがなかなか言えない、もどかしいという気持ちは結構辛いものだと私は知った。


146 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:26:11.31 ID:M4KKdDfE0
ξ゚听)ξ「そろそろ出ますね」

川 ゚ -゚) 「ああ、またな」


彼女がでていって、ぽつりと私は大浴場に残された。
彼女はきっと、言葉で何かを表現するのがヘタクソなのだ。

私の友達にも何人かそういう子たちがいる。かといって、それがダメだというわけ
じゃない。私だって、素直すぎるとしぃによく言われる。

一長一短あっての人間で、それがないと付き合っていてもきっとつまらないだろう。
画一的な人間が多い中で、彼女のような存在はある意味貴重かもしれなかった。

考えるのもいいが、そろそろ出るとしよう。のぼせてしまう。

部屋に戻ると、ツンちゃんはベッドに突っ伏して寝息を立てていた。
今日はあちこち歩いて疲れたのだろう。かくいう私ももう眠い。

壁にかかっている時計を見やると、午後11時半。寝るにはまだ少し早い時間だけど。
ツンちゃんの寝顔は天使のようだった。プニプニのほっぺたを、つい私は指でつついてしまう。


148 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 11:27:26.67 ID:M4KKdDfE0
ξ--)ξ「むにゃ・・・うーん」

おっと、起こしちゃまずい。起こさないようにそっと毛布をかけてやる。私はその隣に
いそいそともぐりこんで、彼女のシャンプーの香りを楽しんだ。
女の子っていいにおいがする。

じんわりと暖かいベッドのなかは、昔一緒に寝たお母さんの布団の中に似ていた。
あったかくて、やわらかくて、いいにおいで。私は思わず涙がこぼれそうになった。

一定の間隔で動く彼女の背中におでこをつけて、今日は寝ることにした。
あっという間に、私は意識を失った。


第5章「わたしたちの、しんじつ」 〜終〜


187 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:08:31.67 ID:M4KKdDfE0
第6章「わたしたちの、あい。」


旅行二日目。
今日、私たちは二手に分かれて行動した。
お父さんお母さんペアと、私とツンちゃんペア。

お父さんとお母さんは地元の町へ、私たちは森の中を
探検することに決まった。


川 ゚ -゚) 「日陰が気持ちいいな。木漏れ日がちょっとまぶしいけど」

ξ゚听)ξ「そうですね」


ざわざわと風に揺れる木々の間を、私たちは通り抜けていく。
林道には看板や石畳のようなものが並べられていて、歩きやすくなっていた。

さっきから私たちの間には会話がない。このざわざわが木々の
さえずりなら、私たちは彼らにいったいなんて言われているだろうか。

でも私は、会話がなくてもよかった。近くにツンちゃんを感じられるし、何より私たちは今・・・


189 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:09:12.79 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「ほら、手を離したら危ないぞ」

ξ*゚听)ξ「は、はい」


握る手の先にはツンちゃんがいる。最初は彼女も渋っていたが、
慣れてきたのかちょっと距離ができてもうまい具合に私の手をつかんでくれている。

彼女の手を握ったとき、その冷たさに驚いた。かんかん照りの真夏日に、
氷を握っているようだった。

そう、氷。彼女の心はこいつに覆われている気がしてならない。
私の体温でもし溶かして上げられるならそうしてあげたいと思った。

目的地は、少し小高い丘。ペンションを出るときにブーンさんから貰った地図を頼りに、
私たちは道を進んでいる。

途中、看板に「飲めます」とかかれていた湧き水があった。
暑さから飲みすぎて空になってしまった水筒を、それでいっぱいにした。


190 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:10:59.22 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「ああほら、あそこがブーンヴィレッジだよ。随分きたね」

ξ゚听)ξ「ホントだ・・・小さい」


近くに手ごろなイスになりそうな岩があったので、私たちは座って小休止をした。


ξ゚听)ξ「クーさんは、どうして私なんかをこんなに構うんですか?」

川 ゚ -゚) 「・・・!」


驚いた・・・今まで話しかけないと会話すらなかったのに、
彼女自ら話し掛けてくるとは。今日は随分積極的である。


191 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:11:31.46 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「前から言ってるじゃないか。私はキミのことが好きだ。お姉さんは、
     妹がとってもかわいいものなんだ。だからいろいろしたくなってしまうんだ。
     それにツンちゃんは、多分後輩だったとしても、構ってあげたくなるような子だよ」

ξ゚听)ξ「信じられません。だって私、誰からも好かれたことがないんですよ?
     こんな性格をしてるから、誰にも相手にされないんです。友達なんていないし、
     学校ではいつもひとりです」

ξ゚听)ξ「クーさんは、とっても優しいです。私を構ってくれて、すごく嬉しかった。
     一緒に寝るのがこんなに安心できるなんて、知らなかった。でも怖いんです。
     いつか裏切られるんじゃないかって。私のことを置いていってしまうんじゃないかって」


彼女は突如独白を始めた。私は戸惑ったが、じっと耳を傾けた。


192 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:14:33.04 ID:M4KKdDfE0
ξ゚听)ξ「優しかった人たちは、みんな私と仲良くしたいんじゃなかった。
     私のお金に用事があったんです。私を取り込んでしまえば、
     簡単にお金が手に入るって、そんな風に考えてる人たちばかりだった」


彼女の両親は話によると、どうやらさる名家の出身らしかった。
お金も持っていただろうし、それを目当てに有象無象どもが彼らの周りに
集まってくるのだろう。それは安易に想像が出来た。

ツンちゃんはきっと、そんな大人たちの欲望渦巻く世界で育っていった。
すくすくと、体は大きくなっても心がそれについていかなかった。

両親が死んで、家の財産がすべてツンちゃんのもとに来ることがわかったとき、
親族一同はこぞってツンちゃんに媚を売り始めた。そのとき、13歳。


193 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:15:14.68 ID:M4KKdDfE0
まだ分別もわからない子供だったツンちゃんは、とある人たちにだまされて
財産をすべて奪われてしまう。それは身内ではなかった。
彼女は良かれと思ってやったことだったのに、そうじゃなかった。

お金を騙し取られたことが知れ渡り、親族の誰にもそのお金が分配されないと
わかったとたん、彼らは手のひらを返したようにツンちゃんに冷たくなった。

彼女は嵐の中で生きていかねばならなかった。
最低限残っていたお金も中学卒業と同時にほぼ底をつき、唯一頼りにしていた
父の兄も、ツンちゃんを置いてどこかへと去っていってしまった。

彼女はひとりになった。誰も自分のことを好いてはくれない。なぜ自分があんなに
チヤホヤされたのか、彼女は知ってしまったのだった。

絶望のどん底に叩き落されたツンちゃんは誰も信じなくなった。
心を閉ざし、本心をいわない事で誰からも相手にされない代わりに、
相手を失う苦しみもなかった。

ξ゚听)ξ「・・・私は、何もない私に優しくしてくれるクーさんたちが怖かったんです。
     私は心を閉ざしたはずなのに、クーさんたちはどんどん私の中に入ってくる。
     遠ざけても遠ざけてもダメだった」


194 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:16:03.63 ID:M4KKdDfE0
ξ;凵G)ξ「だから私は今、クーさんのこと、好きになりそうなんです。
      お姉さんだって、思えそうなんです。でも、でも、心臓が、
      心臓がばくばく動いて止まらないの。体が引きちぎれそうなの。
      どうしたらいいのか、わからない」


ボロボロと、彼女は涙をこぼしてしゃがみこんでしまった。

ずたずたに引き裂かれた心は、治ることを拒んでいる。
また同じ痛みを味わいたくないから。

私はそんな彼女に手を差し伸べた。前を向いてもらうためだった。


196 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:16:50.48 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「立って。ほら。まだ道は長いんだよ。そんなに泣いたら
     喉が渇いてしまうだろう」

ξ;凵G)ξ「え・・・?は、はい」


ツンちゃんは驚いていた。

きっと彼女はこれを話すのに大変な勇気がいっただろう。
でも、今は全然関係のないことじゃないか。

彼女が元お金持ちだか、名家の出身だか知らないけれど、
ツンちゃんはツンちゃんで、私のかわいい妹だ。
それ以上でもそれ以下でもない。

殻に閉じこもるヒナは、自分で殻を破ることが出来ないものもいる。
そんなときは親が助けてやるのだそうだ。

ズルかもしれないけど、ひとりくらいはそんな子供がいたっていいと思う。


197 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 19:17:41.84 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「頂上に行こう」


ぐいっと強引に、私はツンちゃんの手を握った。

もう離さないように、強く。もう痛くないよう、優しく。

水飲み場から頂上はすぐだった。

運動不足がたたってハァハァ息が切れていたが、そこからの景色を
みたらすべてが吹き飛んでしまった。

少し強めの風は私たちを容赦なく吹き付けたけど、そんなものは気にならなかった。


205 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 20:04:08.67 ID:M4KKdDfE0
ξ゚听)ξ「すごい・・・」

川 ゚ -゚) 「ああ、これはすごいぞ・・・」


眼前に広がる景色は、小高い丘の頂上にしては「壮絶」の一言だった。

あたり一面の鬱蒼とした森の中に大きな湖があり、そこにポツンと建つ
ブーンヴィレッジ。ファンタジーの世界に出てきそうな、深い森の中の小さな家。

迫ってくるような景色に、私たちは息を飲んだ。そして、ここを薦めてくれた
ブーンさんに感謝した。

少し頂上を散策すると、小さな公園を見つけた。ちょうどいいと、私たちは
そこでまた休憩をした。


206 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 20:04:40.96 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「さっきの話だけどね」

ξ゚听)ξ「はい」

川 ゚ -゚) 「私が思うに、私のツンちゃんに対するこの気持ちは「愛」じゃないのかなぁ?」


さっきまで吹いていた強い風が、穏やかになった。


207 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 20:05:25.80 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「いい言葉が思い浮かばないんだ。でもこの「愛」っていう言葉が
     一番しっくりくるような気がする。何かを引き換えにとか、そういうこと
     じゃなくて、うまく言えないんだけど、何かしてあげたくなっちゃうというか・・・
     何もいらないんだよ。何も。そのなにがあったとか、どうしたとか、そんなの
     全然関係なくて」

川 ゚ -゚) 「うーん、自分で言っててよくわからないな。ごめん」

ξ゚听)ξ「いいえ」

川 ゚ -゚) 「ちょっと風が冷たいな。そろそろ戻ろうか」

ξ゚听)ξ「はい」


208 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 20:06:34.09 ID:M4KKdDfE0
思いがけないことに、ツンちゃんから私の手を握ってきた。
彼女の手は、風の中でも暖かかった。

彼女は晴れやかな顔をしていた。
心のもやを吐き出したことで、幾分気が楽になったのだろう。


ξ゚听)ξ「いきましょう」

川 ゚ -゚) 「あ、ああ。行こう」

ふもとに着くと、お父さんとお母さんは楽しそうにベンチで話をしていた。
おじゃまかな?と思ったが、こちらに気づいたお父さんはめいっぱい
手を振って私たちを呼んだ。


209 名前:愛のVIP戦士[] 投稿日:2007/03/11(日) 20:07:34.84 ID:M4KKdDfE0
川 ゚ -゚) 「ただいま」

J( 'ー`)し「あらお帰り・・・まぁ、随分仲良くなっちゃったのね」

( ・∀・)「ずるいなぁ、二人とも。お父さんだって仲良くなりたいのに」


ふと視線を落とすと、繋がった手がそこにあった。


ξ;゚听)ξ「いや、あの、これは違うんです。その、たまたま
       繋いじゃって、違うんです」

川 ゚ -゚) 「ふふふ、いいじゃないか。私とツンちゃんの仲だろう」

ξ///)ξ「ヘンなことをいわないでください!!」


その晩、私たちは手を繋ぎながら一緒に寝た。幸せだった。
何物にも変えがたい人がすぐそばにいて、私の手をぎゅっと握っていてくれる。

静かな寝息を立てるツンちゃんは、安心しきった赤ん坊のように穏やかな寝顔をしていた。


第6章「わたしたちの、あい。」 〜終〜


287 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:20:23.48 ID:SW8vBS410
第7章「わたしだけの、おはなし」


クーさん家族とであって、もう半年が過ぎた。
旅行はとっても楽しかった。なにより、自分自身が素直になれた気がした。

家に戻ったらまた普段どおりの私になってしまったけれど、クーさんは
気にもしていないようだ。相変わらず私にちょっかいを出してきては去ってゆく。
それ以上のことはしない。

あんまりお菓子ばっかり買ってくるので、ちょっと太ってしまった。
迷惑といえば、これくらいかな。

ただ、私の家の環境は変わりつつあるけれど、外の環境は今までと変わらなかった。
これは私が悪いのだ。いつまでもふさぎ込んでいてはいけないと、
自分で前向きに考えられていることに驚いた。

クーさんのおかげかな。

あの人は私の心をほっこりさせてくれる。
まだ恥ずかしくて言えないけれど、いつか「お姉ちゃん」って呼びたいな・・・


288 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:20:44.15 ID:SW8vBS410
そんなことをひとり、教室で考えていた。お昼休みのこの時間だけが、
学校にいる私が好きな時間だった。

ママさんが作ってくれたお弁当はとってもおいしい。今日のおかずも色とりどりで、
愛情がたっぷり詰め込まれているのがわかる。特に玉子焼きは絶品だ。

・・・私は誰かにこんなにしてもらったことはなかった。

お父さんとお母さんはいつも家におらず、家政婦さんが私のご飯を作っていた。
その人だって「仕事」が終わればさっさと帰ってしまう。用事があると来ない日だって
あった。

だから、境遇はクーさんと似ている。
クーさんは強い人だと思った。そんなことをおくびにも出さない。
一度玄関で泣いているのを見てしまったっきりだ。

あのときのクーさんは、どこかで見たことのある瞳をしていた。


290 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:22:19.21 ID:SW8vBS410
ξ゚听)ξ「ふぅ・・・」


今日のお弁当はちょっと多めだった。
ママさんに言ってちょこっと減らしてもらおう。

ひとりに慣れている私は、誰とも一緒にお昼を食べない。
一人黙々と箸を進め、時々空をチラッと見たり、校庭を見ながら
お昼休みを終える。たまに持ってきた本も読んだりする。

今日もそう。そして、明日も明後日も、私が変わらない限りずっとそうだ。

いじめられているわけでは決してない。嫌がらせなんてひとつもないのだ。
でも、みんなからはなんとなく疎ましがられているのはわかる。

これでいいんだ。今まではそう思っていた。でも、今の私は少し違う。
今は文化祭の準備で学校中が騒がしい。このチャンスを逃してしまっては、
あとがないような気がする。私は決意した。

6限目、文化祭で何をするかという会議が開かれた。
委員長が壇上で、皆に意見を求めている。ここだ。ここしかない。


291 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:22:56.10 ID:SW8vBS410
(・∀ ・) 「えー、それでは我がクラスの出し物はお化け屋敷に決まりました。
     なんか意見のある人はどうぞ」

ξ゚听)ξ「あ、あの」

(・∀ ・) 「え?あー、はい、ツンさん」


教室の空気がなんとなく変わった。
この子はいったい何を言い出すつもりだろう。そんな風に感じられた。

視線が痛い。でも私は負けられない。


292 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:24:17.76 ID:SW8vBS410
ξ゚听)ξ「確か・・・驚かせる役がまだひとり決まってませんよね?
     私、それをやりたいんですが」

(・∀ ・) 「ええっ!?ホントに!?」

ざわ・・・ざわ・・・

ξ゚听)ξ「ホントです。私、それをやりたいんです。顔にメイクでも、
     被り物でもなんでもします。だからやらせてください」

(;・∀ ・) 「ま、まぁ、あんまりやりたがる人がいなくて困ってたから
      断る理由はないですが」

ξ゚听)ξ「よかった。じゃあお化け役に私の名前を書き込んでおいてください」


よし。私は心の中でガッツポーズをした。

これで私はクラスメイトと関わらざるを得なくなる。ここからは自分との戦いだ。
私はこの甘ったれに負けるつもりなんてない。

この文化祭の会議は6限目だったので、これが終われば掃除をして
帰宅だった。
割り当てで庭掃除になっている私は、竹箒を持って黙々と木の葉を掃いていた。
この季節は掃除のし甲斐がある。集めても集めても終わらない。

夢中になって葉っぱを集めていると、誰かが私に話しかけてきた。


294 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:25:43.95 ID:SW8vBS410
(´・ω・`)「今日のツンさんにはびっくりしちゃったよ。
      普段誰ともしゃべらないで一人なのに、大胆なことをするんだね」

ξ゚听)ξ「えーっと・・・ごめんなさい、どなた?」

(´・ω・`) 「え・・・やだなぁ、同じクラスのショボンだよ。
      口元が特徴的なショボンだよ」

ξ゚听)ξ「ああ、なんとなく・・・私の後ろの席の・・・」

(´・ω・`) 「そうそう!!そう!!ああ、でも忘れられてるなんて悲しいな」

ξ゚听)ξ「あ、いや、別に忘れてたわけじゃないの!!
     あんまりクラスメイトの顔を覚えてなくて!!」

(´・ω・`) 「それは一般的に忘れてるというんだぜ」


これはいかん。せっかく話しかけてきてくれた人を逃すわけにはいかない。

でも、でもなぜ男の人・・・最初は女の子がよかった。何を話していいかわからない。
しかしそんなことはいっていられない。


295 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:26:34.92 ID:SW8vBS410
(´・ω・`) 「イメージ違うよね。ツンさんはもっと裏方の仕事をすると思ってた」

ξ゚听)ξ「私が裏方の仕事なんてするわけないじゃない。
     本当はメインを張れるんだけど、今までは譲ってあげていたのよ」

(´・ω・`) 「ホントに?僕には避けていたとしか思えないなぁ」

ξ゚听)ξ「ば、バカにしないでよ!!その気になればいつだって
      出来るんだからね」


あああ、なんてことを!!私のバカ!!思ってることと全然違うことを言ってる!!

どうしてこう、私は素直じゃないんだろうか。
ひとしきり会話をしたあと、ショボンくんは不思議そうな顔をして去っていった。

何で彼がわざわざここに来たんだろうかと思ったが、彼は後ろの席で同じ班で
しかも掃除場所は一緒だった。それを思い出したのは家についてからだった。


296 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:27:10.93 ID:SW8vBS410
川 ゚ -゚) 「ん?どうした?」

ξ゚听)ξ「あの・・・これよかったら」


私がクーさんに差し出したのは、文化祭のチケットだった。
クーさんはそれを見て、ほんの少し口元をほころばせた。


297 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:28:37.58 ID:SW8vBS410
川 ゚ -゚) 「貰っていいのか?」

ξ゚听)ξ「ええ、どうぞ。クーさんに渡すために持ってきた・・・あっ」

川 ゚ ー゚) 「ニヤニヤ」

ξ;゚听)ξ「あっ!!いやっ!!そんなわけないんですよ!!
       余ってるから仕方なくあげたんです!!」

川 ゚ -゚) 「はいはい。そういうことにしておくよ。これはありがたく貰っておく。
     返せっていわれても返さないからな」

ξ///)ξ「べ、別に返して欲しいなんていいませんよ!!」


コミュニケーションというのは難しいものだなぁ。つくづく実感している。
そして本当のことを言うのは、とても難しいことなんだなぁ。

部屋に戻って、自己嫌悪から私はベッドにつっぷしていた。なにもあんな言い方しなくても・・・

それでもクーさんは笑って許してくれる。

パパさんもママさんもそうだ。ここの家の人たちはあったかい。
それは私を理解しようと努力してくれているからだ。でも世間に出ればそうはいかないのだ。

「悩みは尽きねんだなぁ」という、授業で習った相田みつをの詩をつい
思い出してしまった。ホント、悩みは尽きねんだよなぁ。


299 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:29:41.84 ID:SW8vBS410
文化祭の準備は順調に進んでいた。私もこんな性格ながら
ちょっとずつクラスにも溶け込めそうだった。

相変わらずの天邪鬼体質は変わらないんだけど。


(`・ω・´) 「ツンさん、そっち押さえててくれ」

ξ゚听)ξ「ええ、それくらいなら」

(=゚ω゚)ノ「ツンさん、それ終わったらこっち手伝ってくれぃょぅ」

ξ゚听)ξ「わかったわ。ちょっと待ってなさい」

( ><) 「こっちも手伝って欲しいんです!!」

ξ゚听)ξ「もう!!どっちかにして!!私は一人しかいないんだから!!」


人手が足りないのでお化け役の私も駆りだされて働かされている。

今までの退屈な日常がウソのようだ。

人と関わっていくというのが、これほど楽しいものだとは思わなかった。
徐々に徐々に、私は凍てついた心がさらに溶けていくのを感じた。

きっかけをくれたのは、クーさん。彼女の手は暖かかった。
夏だったのに、不思議とその暖かさは快かった。


300 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:30:52.25 ID:SW8vBS410
お化け役の集まりで、私はどうやらトリを飾ることに決まった。

立候補するくらいだから気合入ってる人がトリを務めるべきだとの意見に、
私はうまく反論できずに決まってしまった。本当はどこでもよかったが、
トリとなるとちょっと気後れしそうだ。


( ´∀`) 「ツンさんは普段から怖いから大丈夫だモナー」

ξ゚听)ξ「怖いってどういうことよ!失礼ね」

(,,゚Д゚) 「ギコハハハ!!ツンさんにそんなこというなんて、
    モナーは度胸あるな!!」


順風満帆に進む船の乗組員は、この先に嵐があることなんて気がつかない。
私はまさに、嵐の渦中に飲み込まれようとしていた。

それが起こったのは、文化祭の準備も整い始めたころだった。


302 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:32:06.03 ID:SW8vBS410
( <●><●>) 「ちょっときてほしいんです。あんたに用があるんです」

ξ゚听)ξ「なにかしら」


私が連れてこられた場所は、校舎の裏だった。
悪さをするにはもってこいの場所だ。
ここなら誰の目にも届くことはないだろう。

すでに校舎裏には先客が2人いた。どいつもクラスメイトだった。


( <●><●>) 「最近あんたは目立ちすぎなんです。男子にちやほやされたいのは
       わかってるんです」

( ^Д^) 「お化け役なんかに立候補しちゃって、バカじゃないのプギャー」

( ´ー`) 「お前なんかイラネーヨ」


なんとなく予想はしていた。何か新しいことをしようとすれば、
こんな風に反発を食らう。

でも私は負けない。こんなところじゃくじけない。


303 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:33:52.00 ID:SW8vBS410
ξ゚听)ξ「あなたたちの言い分はわかったわ。でもだからといって私は
      役を下りたりはしない。なんでこんなことを急にはじめたかって、
      私は変わらなきゃいけないと思ったからよ」

      「今までみたいにグズグズしてたんじゃ、私は前に進めない。
      私はね、両親がいないの。今は新しい家族の下で住んでる。
      その人たちに少しでも恩返しがしたいの。そのためには
      変わっていかなきゃいけないと思った。
      だからこうやってお化け役にも立候補した。みんなと関わっていこうと
      決めたの」     

      「邪魔したいならすればいい。でも私は絶対にへこたれたりなんかしない。
      私には大切な大切な人たちがいるんだから。その人たちのために頑張るって
      決めたんだから」


一気に私はまくし立てた。こうでもしないと黙ってしまいそうだった。

彼女らは私をもっと扱いやすい人間だと思っていたようだ。私の啖呵に
驚きの色を見せている。


304 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:34:29.42 ID:SW8vBS410
(;´ー`) 「お、お前の事情なんかシラネーヨ」

(;^Д^) 「お、大きな声出せばビビると思ってんのかプギャー」

( <●><●>) 「二人ともやめるんです。お前の事情はわかったんです。
       それだけの覚悟をしてるんだったらちょっかいはこれ以上
       出さないんです。でも協力もしないんです。
       一人でやるんです。二人とも行くんです」


何とか説得に成功したようだ。戸惑っている二人を連れ、主犯は去っていった。
三人の姿が見えなくなった後、私は力が抜けてへたり込んでしまった。


ξ;゚听)ξ「ああ・・・怖かったよぉ・・・」


307 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:35:42.81 ID:SW8vBS410
文化祭当日がついにやってきた。私は脅かす役なのに、
心臓が爆発しそうなくらい緊張していた。

そして今日はクーさん一家もやってくる。大丈夫だろうか。
私はちゃんとできるんだろうか。

緊張をほぐすため、私は校内をうろうろしていた。普段よりも
たくさんの人たちが校内を歩いている。

この喧騒がお祭り気分を一層盛り上げてくれる・・・のだろう。
私は緊張でそれどころじゃない。

焼きそばのいいにおいが鼻をくすぐったり、踊りだしたくなるような
にぎやかな音楽が教室から溢れている。
この日ばかりは先生たちも無礼講だと、少しくらいはしゃいでも見ていてくれる。

中には文化祭じゃなくて、女の子目当てにきている人たちもいるようだ。
でも、そういうのを含めてのお祭りだろう。

教室に戻ると、何人かが最終チェックを行っていた。私はあちこち回ったせいなのか、
さっきより幾分か落ちついていた。


308 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:36:39.71 ID:SW8vBS410
( ´∀`) 「大丈夫モナー?まだ青い顔してるモナー」

ξ;゚听)ξ「だ、大丈夫に決まってるじゃない。私を誰だと思ってるのよ」

(,,゚Д゚) 「大丈夫だな!!ツンさんに違いない!!ギコハハハハ!!」


ブーという開演音がスピーカーから聞こえる。それとともに、
文化祭実行委員長の挨拶が始まった。

が、内容はよく覚えていない。「それではこれから文化祭を開催いたします」だけ聞き取れた。


私たちのお化け屋敷は、のっけから盛況だった。
私も最初こそ緊張したが、みんながあまりに驚いてくれるので
だんだん気持ちよくなっていった。

ちなみに私は貞子役。一番最後にビシッと締める重要な役だ。
みんなは私がかつらをかぶったら、「本物だ」などと勝手なことを言っていた。


309 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:37:24.68 ID:SW8vBS410
しばらく経って、これが午前中最後のお客さんであることを知らされた。
私は目いっぱい驚かせてやろうと思って気合を入れなおした。

私のたち位置はちょうど角のところになっていて、すっと向こうから
現れる人へ目掛けて叫んでやればいいだけだった。

角を曲がろうとする人影が見えた。今だ!!


ξ゚听)ξ「ぐわー!!!」

川 ゚ -゚) 「!!!!!!!」

ξ;゚听)ξ「あ、あれ?ぐわー!!!」

川 ゚ -゚) 「・・・」

ξ゚听)ξ「あれ?クーさん?」


311 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:38:16.20 ID:SW8vBS410
暗がりの中、よく見てみるとそれはクーさんだった。

私は顔が急に赤くなるのを感じた。彼女は思ったより驚いてくれなかったらしい。
少しガッカリしてしまった。


ξ゚听)ξ「クーさん・・・驚いてないんですか?」

川;゚ -゚) 「こ、これでも死ぬほど驚いているんだぞ・・・
     昔からお化け屋敷は苦手なんだ。動けない。助けてくれ」

ξ゚ー゚)ξ「ふ、ふふ・・・あはははっ」


思わず笑いがこぼれてしまった。
本当はお化けは笑っちゃいけないんだけど、ダメだ。笑っちゃう。
だって、クーさん歩けないなんていうんだもん。


川;゚ -゚) 「笑うところじゃないんだ・・・あ、足が動かないんだからな」


313 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:39:44.14 ID:SW8vBS410
私はクーさんをお化け屋敷から助け出し、午前の部を終えた。

クーさんのあんなに慌てている姿を見たのは初めてだ。思い出すだけで笑ってしまう。
そのたびクーさんは怒り出す。わざとやってるわけじゃないんだと言っても、
彼女はヘソを曲げたままだった。

お詫びに焼きそばをおごってあげて、彼女は何とか機嫌を取り戻した。

それにしても可笑しい。きっと私のところに来るまで頑張って
耐えてたんだろうな。

・・・嬉しい。ありがとう、クーさん。本人に言えなかったけどね。

クーさんは「用事はすんだ」とさっさと帰宅してしまった。
一緒に来ていたパパさんとママさんはタイミングが悪くてお化け屋敷には
入れなかった。とっても残念だ。

午後の部は比較的まったりと時間が過ぎていった。
私も声を出しすぎて喉がガラガラだったので、ありがたかった。

最後のお客を脅かし終えた段階で、ちょうど文化祭終了のアナウンスが入った。
私はどっと疲れがでて、フラフラしていた。


314 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:40:51.90 ID:SW8vBS410
( ><) 「お疲れ様なんです!!これお茶です!!」

(´・ω・`) 「アンケートでもキミの貞子が一番怖かったっていう人がいっぱい
      いたよ。これはよかったといっていいのかな」

ξ゚听)ξ「当たり前よ!!私を誰だと思ってるのよ」

(,,゚Д゚) 「ツンさんに違いな・・・」

( ´∀`) 「うるさいモナー」


こうして文化祭は幕を閉じた。本当に、楽しかった。他に言葉が思い浮かばない。
仲間もいっぱい出来た。私はもう、このまま歩いていけるはずだ。もっと素直になれるはずだ。

もうくたくたで、後夜祭はパスすることにした。
クラスメイトたちは残念がっていたけど、後片付けだけ手伝ってごめんなさいと謝って
抜け出してきた。


315 名前: 相場師(千葉県)[] 投稿日:2007/03/12(月) 21:42:44.55 ID:SW8vBS410
電車の中ふと目を閉じると、私はあの親戚たちの顔が浮かんできた。
なんで今なのかはわからない。

前までは顔を思い浮かべるたびにはらわたが煮えくり返っていたのに、
今はそんな気にならない。

きっとこれからもずっと忘れることは出来ないんだろう。でも許すことは出来る。
思い出さないようにするためには、気にならないようにするためには、許すしかないじゃないか・・・

許すことが出来たのは、私を助けてくれた人たちのおかげだ。
恨んだり、憎んだりするだけじゃないということを、私に教えてくれた。
許すということを教えてくれたのだ。

私は目を開けた。疲れているのに、自然と眠くはなかった。
心地よい疲労感が、私を包んでいた。


家に帰ると、クーさんに「私を驚かすときはちゃんと「驚かします」といってくれ」
と真顔で言われてしまった。それはおかしいだろうと、また笑った。
クーさんも、笑っていた。


第7章「わたしだけの、おはなし」 〜終〜


30 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 08:53:38.61 ID:2upv1QT80
第8章「わたしたちの、ずれ。」


私は自分の背に風を感じていた。
多分自分の背中に向かって風なんか吹いてなかったに違いない。
でもそうやって思えるくらいにいろいろなことがうまく進んでいた。

ツンちゃんの顔には笑顔が見えるようになってきたし、この前映画も観に行った。
買い物にもいった。未だ「お姉ちゃん」とは呼んでくれないけれど、それは時間の問題だと思った。

そういうときほど足元をすくわれないよう「かって兜の緒を締め」なくてはいけないはずだった。

調子のいいときは大抵どこかに落とし穴が待ち構えている。もしくはバイオリズムの低下によって
不幸が訪れたりすることだってある。

人間は、幸せの絶頂にあるときほどそういう考えを持つことが難しい。
あとで振り返れば、防ぐ手段や、その前兆はいくらでも見て取れたはずだ。なのに。
私たちは落とし穴に落ちたことすら気づかなかった。そして、気づいたときにはもう遅かった。


31 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 08:54:48.09 ID:2upv1QT80
発端は一本の電話からだった。
その日は静かだった。私とツンちゃんはリビングでテレビをみてカラカラ笑っていて、
仕事が休みだったお母さんがキッチンで洗い物をしている。なんでもない一日になるはずだった。


鳴り響くコール音に私が立ち上がろうとすると、お母さんがそれを制した。
パタパタとスリッパを鳴らす音が遠ざかっていく。


J( 'ー`)し 「もしもし」


かすかにお母さんが電話に応対する声が聞こえる。
普段なら、友達だとしたらそのまま雑談に移行するか、セールスだったら断って
切ってしまうはずなのに、今日は違っていた。

いつもと違うお母さんの応対に、なんとなく私は落ち着かずにテレビを見ていた。
何か重要な電話なのだろうか・・・


32 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 08:57:07.29 ID:2upv1QT80
J( 'ー`)し 「わかりました。少々お待ちください」


パタパタとスリッパの音がこちらに近づく。
ひょいとリビングに顔だけ出したお母さんは、なんとなく元気がなかった。


J( 'ー`)し 「ツンちゃん、お電話」


心なしか声のトーンも低い。いったい何があったんだろう。
それに、ツンちゃんに用事のある相手?私の六感がなぜか今日に限って
敏感に反応している。


ξ゚听)ξ 「私に・・・ですか」

J( 'ー`)し 「ええ。あなたの親戚を名乗る方から」


33 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 08:58:46.02 ID:2upv1QT80
不穏な空気が流れた。それを感じ取ったのか、お母さんはツンちゃんに申し出た。
私でもきっとこういったはずだ。


J( 'ー`)し 「嫌なら切ってもいいのよ」

ξ゚听)ξ 「いえ、出ます」


ツンちゃんはお母さんのほうへ歩み寄った。
私は思わず手を伸ばして、彼女のパジャマの袖をつかんでしまった。


川 ゚ -゚) 「あ・・・」

ξ゚听)ξ 「大丈夫です。大丈夫」


彼女は微笑んだ。その瞳には決意の色が浮かんでいた。
私は不安ながらも、袖を離した。

このまま彼女が遠くに行ってしまうんじゃないかって、そんな気がしていた。



35 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 09:00:30.44 ID:2upv1QT80
電話が終わり、ツンちゃんは疲れの色を見せながら私たちに話しをしてくれた。

本当はお父さんがいたほうがいいんだけど、気になって仕方がなかった私は
ツンちゃんに話をせがんだ。

電話の主はツンちゃんのお父さんの兄に当たる人で、ツンちゃんを置いてどこかへ
消えてしまった人だった。

今頃になって電話をかけてきたのは、自分が消えてしまったのには理由があって
その理由が片付いた今、血の繋がった自分がツンちゃんを引き取りたいという申し出を
するためだったようだ。

お父さんがいなかったために決断を下すことは出来なかったが、
ツンちゃんの元気な声を聞きたいということで代わって欲しいとお母さんに願い出たそうだ。


ξ゚听)ξ 「というわけなんです」

川 ゚ -゚) 「・・・」


37 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 09:03:05.61 ID:2upv1QT80
私はなんと言っていいかわからなかった。彼女にはもちろん、
この家にずっといて欲しい。

だけど、おじさんの言い分ももっともだと思う。
まったくの他人よりは恩恵を受けられると思うし、それが彼女のためになるのなら私は・・・
あまり悩むことがない私でも、今回ばかりはあっさりと答えを口にすることは出来なかった。


ξ゚听)ξ 「伯父さんは・・・私を引き取りたいといってくれました。私と離れ離れになったのにも
      ちゃんと理由があって、急を要する事柄だったし説明する時間がなかったので、
      その説明を他の親戚の人たちに任せたそうなんです。

      でも親戚たちはその義務を果たさなかった。
      何も伝えられないままに一人になってしまって、私は伯父さんを憎みました。
      見捨てられたと思ったからです。

      でも伯父さんはそれまでずっと私の面倒を見てくれていました。私の親は自分だとも
      言ってくれました」


ツンちゃんの心は揺れている。
それが手に取るようにわかった。声が震えているし、視線も定まっていない。
どんな理由があったにせよ、伯父さんは彼女にとって恩人だ。
一度裏切られたと思ったのに、伯父さんはまた手を差し伸べてくれた。


38 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 09:05:09.43 ID:2upv1QT80
ξ゚听)ξ 「小さい頃から伯父さんはお父さんのような人でした。
      本当のお父さんのような・・・優しくて・・・おんぶしてもらったときの大きな背中は、
      今でも覚えてます。そういう存在の人でした」


もう、私はあまりツンちゃんの話を聞きたくはなかった。
せがんだのに都合のいい話だ。時折みせるツンちゃんの安心したような表情は、
私との間では見せてくれないものだ。


・・・いっちょ前にヤキモチを妬いているようだ。こんな気持ちを抱いたのは、
ひょっとしたら初めてかもしれない。

私の意思に反して、ツンちゃんの話は続く。
もうやめてと叫んで、飛び出したい気持ちでいっぱいだった。

どうしてうまくいっていたのに、横やりを入れるようなことをするんだろうか。
神様は私たちをこのままきょうだいにはしてくれないのだろうか。

いっそその伯父さんが憎めるくらいにいやな存在だったらどれだけ救われただろう。
話を聞けば聞くほど、聖人君子のようなおじさんの姿が浮かび上がる。
そんなおじさんと、こんなことに嫉妬している情けない自分を比べてしまう。


もう私は我慢の限界だった。乱暴にイスから立ち上がり、ツンちゃんに言った。


39 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 09:07:18.80 ID:2upv1QT80
川 ゚ -゚)「ツンちゃん、もういい」

ξ゚听)ξ「え?でも・・・」

川 ゚ -゚) 「もういいって、言ってるんだ」

J( 'ー`)し 「クー、ちょっと・・・」

川 ゚ -゚) 「おじさんのところに行きたいならいけばいい。そんな顔して・・・っ」


ツンちゃんの目が大きく見開かれた。その表情は驚きの色が隠せていない。

余計なことを言ってしまった・・・私はその場にいることが出来ずに、
たまらなくなって部屋まで駆けていった。
何度となく昇っている階段なのに、今日だけは急で、辛いものに感じられた。

部屋に入って、私はベッドに飛び込んだ。
自分のしてしまったことが恥ずかしくて、もう顔も上げたくない。

冷たい手で心臓を一掴みされたような気持ちだ。ドキドキと鼓動を打っているが、
それは心地のいいものじゃあなかった。掻き毟りたい衝動に駆られる。


川 ゚ -゚) 「最低だな、私は」


40 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 09:08:26.45 ID:2upv1QT80
次の日も、その次の日も私はツンちゃんと顔をあわせることはなかった。
・・・いや、正しく言えば、顔をあわせることを拒否していた。

自分がツンちゃんにされて心が痛んだことを、今度は彼女に仕返している。
こんなことするつもりじゃなかったのに。自己嫌悪の嵐。

謝ればいいんだけど、ツンちゃんの天邪鬼がうつっちゃったのか、
どうもそういう気分にはなれなかった。
嫉妬ってのは嫌だなぁ。でも、やっぱり悔しい。


鬱々とした気分はなかなか晴れなくて、今日みたいに天気のいい空が憎らしい。
いくらなんでもこれは眩しすぎるだろ、常識的に考えて・・・

学校では勉強に身が入らず、定期券を家に忘れる始末。
すべてがうまくかみ合わなくて、くたくたになって家に帰ってきたのだった。


41 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 09:09:59.16 ID:2upv1QT80
二階に上がると、ツンちゃんが所在なげに廊下をうろうろしていた。
私の姿が視界に入ったようで、彼女は少し嬉しそうにこちらへやってきた。


ξ゚听)ξ「おかえりなさい」

川 ゚ -゚) 「ただいま」

ξ゚听)ξ「あの・・・ちょっとお話があるんですけど」

川 ゚ -゚) 「なに?今日はちょっと・・・疲れてるんだけど」

ξ;゚听)ξ「え・・・?そ、そうですか」


私の言葉が明確に「拒否」の色を浮かべたのを、彼女は敏感に捉えたようだ。
しかし彼女は引き下がらなかった。いつか見たあの「決意」を、私はまた彼女の中に見出した。

いつの間に彼女はこんなに強くなったんだろうか。


42 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 09:12:29.40 ID:2upv1QT80
ξ゚听)ξ 「私、何か悪いことをしたでしょうか。もし気に障るような事をしたなら謝ります。
     でも私にはクーさんが怒るようなことをした覚えがないんです。
     だからはっきりいってください。突然私のことを無視したりするのは卑怯だと思います」

川 ゚ -゚) 「ツンちゃんは悪くないんだ。全部私が悪い。だから今は・・・放っておいてくれないか。
     まだ自分の気持ちに整理がつかないっていうのも、ある」

ξ゚听)ξ「でも、私たちは・・・」

川 ゚ -゚) 「いいから、もうほっといてくれ!!」


思わず語気を強めて、私は驚いているツンちゃんの脇をすり抜けて部屋へと無理やり入った。

こんな風に、誰かを嫉妬したり行き場のない思いが中で暴れまわるなんて事、初めてだ。
私にはどうしていいかわからない。

でも、対処法は知らなくても原因はわかってるんだ。
私以外に親しい人をあまり作って欲しくないという、エゴ。独占欲。醜いものだと自分でも思う。
けどこればかりは抑えようがない。

耳の中で自分の大きな声の残響がこびりついていた。不快でたまらなかったので、私は音楽をかけた。
それでも、しばらくは耳の中にしつこくそれは残り続けた。


43 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 09:14:48.24 ID:2upv1QT80
私は次の休みを利用して、ツンちゃんのおじさんに会うことにした。
連絡先は母が知っていた。自分勝手な行動かもしれないけど、一度会っておきたかったのだ。
ツンちゃんがどっちに転がろうとも・・・

おじさんは普通の、どこにでもいる「おじさん」だった。
でも昔スポーツをやっていたのか体つきはがっしりとしていて、頼りがいのありそうなタイプ。

私のこの細い腕とは対照的な、私二人分くらいならぶら下がれそうなたくましい腕。
ツンちゃんがいうように、背中も広々と大きい。

物腰も柔らかいときて、こりゃあどうにも勝ち目はないと思ってしまった。


('A`) 「どうも、私の手違いがあってツンがそちらのお世話になってしまっているようで
    ・・・大変申し訳ない」

川 ゚ -゚) 「いえ、構いません。ツンちゃんは家族ですから」


でも私はツンちゃんを渡す気はなかった。
手違いだって?彼女はそれでとても傷ついたというのに。

私は彼に対して敵意をむき出して迫った。
彼はそれに気づいているものの、すべてを受け止めようと考えているようだった。
私はなおさらそれが憎らしく感じてしまったのだった。


44 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 09:16:28.80 ID:2upv1QT80
川 ゚ -゚) 「理由を、お聞かせ願えますか。何で今更になってツンちゃんを取り戻そうとしているのか」

('A`) 「・・・ただ私はツンのことが気がかりなだけです。
   もちろんそちらの家のことが不安だからなどとは微塵も思っていません。    

   しかし彼女は昔からデリケートな子で、ちょっとしたことでもすぐにふさぎこんでしまう。
   そういう理由もあるし、私は彼女に一番近い親戚です。その私が面倒を見るのが
   一番妥当なのではないかと、そう思うからです」

いちいち正論だ。確かに彼女を知っている人間が彼女の面倒をみるのがきっと一番なのだろう。

でも、私たちの今まではどうなるのか。頑張って一ミリでも彼女との隙間を埋めようと努力したのに、
それは無駄になってしまうのだろうか。

おじさんに引き取られたあとも、望めば会えるのだろう。
でも、それじゃあ嫌だ。いつも一緒にいたい。

ああ、神様、どうか、このおぞましいエゴから私を解放してください。


45 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 09:17:55.62 ID:2upv1QT80
話は平行線のまま、おじさんが歩み寄る姿勢を見せても私はそれを良しとせずに、
時間だけが過ぎていった。

空虚だ。この話し合いには意味がない。
私はおじさんを責めるためにここに来たわけじゃないのに。

そのうちタイムアップがやってきた。


私の中の澱みは深さを増すばかりだった。
それに私がどう動いたって結局決めるのはツンちゃんで、そのツンちゃんとの仲も
最近はうまくいっていない。
その原因は私にあるんだけれど。

せっかくの休みを私は無為に過ごした。とぼとぼと、一人帰路についたのだった。

昼ごろ始まった話し合いが長引いたせいで、もう日は暮れ始めていた。


47 名前: 通訳(千葉県)[] 投稿日:2007/03/14(水) 09:19:08.44 ID:2upv1QT80
その夜、ツンちゃんは神妙な面持ちで私たち家族を集めた。

もうこの頃はお父さんもツンちゃんの親戚が連れ戻したいといっているのを知っていた。
やかましくテレビが鳴っているのを、お母さんは切る。

今日は話がある。その彼女の一言から「家族会議」は始まった。


ξ゚听)ξ「私、おじさんのところへ戻ろうと思うんです」


私の世界に知らず知らずの間、大きな大きなひびが入っていたことをこのときはっきりと感じた。
そしてそれはゆっくりとずれていって、取り返しのつかない状態にまでなっていたことを知ったのだった。


第8章「わたしたちの、ずれ。」 〜終〜


93 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 00:58:15.74 ID:w0HPNDE+0
第9章「わたしたちの、きずな」




川 ゚ -゚) 「ねぇ、ツンちゃん」






94 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 00:58:55.60 ID:w0HPNDE+0
彼女の部屋をノックしても、返事はない。
私はここで愕然としてしまった。そうだ、彼女はもうこの家にはいないんだった。


あの家族会議のあと、ツンちゃんはおじさんの家に帰ってしまった。
私は彼女を止められなかった。いや、きっと止められなかったんじゃなくて、
止める資格を最初から持ってなかったんだ。

彼女の部屋のドアノブを握ったまま、私は廊下で立ち尽くした。
金属の冷たさが手のひら全体に伝わる。


寂しい冷たさだった。


95 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 00:59:56.06 ID:w0HPNDE+0
また、気の抜けた炭酸ような日常が始まった。

ワクワクするような胸の鼓動もなければ、鬱々と何かに悩むこともない。フラットな日々。


そして、つまらない平坦な日々。


季節は秋から冬に変わっていた。
木々の葉も落ち始め、道行く人たちの服装もコートやジャケットなどの
厚手のものに移りつつある。

かくいう私もたんすからカーディガンを引っ張り出し、マフラーを巻いて学校に通っていた。


(*゚ー゚) 「おはよう、クー」

川 ゚ -゚) 「おはよう」



96 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:00:47.98 ID:w0HPNDE+0
吐く息が白い。今日は一段と冷え込んでいて、しぃの頬は寒さで朱を帯びている。
天気はいいのに気温は凍えるようだ。本格的な冬の到来を感じさせる一日だった。

私は本格的に受験への準備を進めていた。
第一志望の大学の偏差値にはまだ開きがあるが、埋められない差ではない。
気持ちを入れ替えて頑張ろうと思ったし、何事もない日々が私を勉強へと自然にいざなってくれた。


ひとりでドーナッツを食べてもおいしくない。

ひとりでテレビを見ても面白くない。


とすればすることは一つ。部屋に引きこもって勉強だ。
その成果もあってか、全国模試の結果は上々だった。


97 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:01:47.32 ID:w0HPNDE+0
(*゚ー゚) 「あー、そうだ、あとでクーに聞きたいことがあったんだ。放課後さ、
     図書室行くでしょ?」

川 ゚ -゚) 「ああ。私が教えてあげられることならなんでも教えてやる」

(*゚ー゚) 「何言ってるのよ。クーがわからないようなこと、私が勉強するはず
     ないでしょ。クーは自分のことをあんまり知らないのね」


私は私自身を知らない・・・


しぃはそのつもりでいったんじゃないだろうが、堪える言葉だった。

そのとおりだ。私は私のことを知らなさすぎる。
この心の隙間は、私がどれだけ彼女に依存をしていたのかがよくわかった。
お姉さんだから頼りにして欲しいとずっと思っていたけれど、頼りにしていたのは私のほうだ。

こんな私だったら、「お姉ちゃん」なんて呼べるはずがない。
図らずとも分かってしまったその理由。
胸のうちがひんやりと冷えていくのを感じた。

これはきっと、寒さのせいじゃないはずだ。


98 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:03:11.81 ID:w0HPNDE+0
放課後、私はしぃと図書室で約束どおり勉強会を始めた。
しかし、今日はなぜだか頭に入ってこない。疲れてるんだろうか。

ため息交じりに勉強をする私をみかねて、しぃは「ミスドでも行こうか」と私に持ちかけてくれた。

ミスドについてドーナッツをぱくつきながら、私たちはあれやこれやと議論を交わした。
場所の変更は私の気分をリフレッシュしてくれたようだ。

ただの雑談に戻る頃には、テーブルに来たときに湯気が立ち上っていたコーヒーが
すっかり冷めてしまっていた。


99 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:04:02.65 ID:w0HPNDE+0
(*゚ー゚) 「ねぇ、クー、まだいろいろ考えちゃってるの?」

川 ゚ -゚) 「いや、そんなことはないよ。だってもう、考える必要はないんだから。
     今私が考えなきゃいけないことは、この方程式についてだ」

(*゚ー゚) 「はぐらかさないで。あなたが忘れるために勉強に打ち込むのは
     悪いことじゃないと思ったけど、ときどきまだ遠くを見てる。

     その目を見るたび、私は胸が苦しくなるの。また考えてる、って。
     ま、でも考えるなっていっても無理な話ね。大切な人だもんね」

川 ゚ -゚) 「・・・すまないな」

(*゚ー゚) 「いいのよ。あなたと一緒にいると大変だわ。こっちがやきもきしちゃうもの
     ・・・鈍感なところとかね」

川 ゚ -゚) 「鈍感?私が?」

(*゚ー゚) 「こっちの話よ」


100 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:05:58.12 ID:w0HPNDE+0
いつもこうして私のくぐもった思考を晴れさせてくれるのは、彼女の役目だった。
皆に誇れる、私の無二の親友だ。


川 ゚ -゚) 「ありがとう」


彼女は答えず、少しうつむきながら微笑んで、首を軽く横に振るだけだった。


101 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:06:35.34 ID:w0HPNDE+0
ミスドを出てしぃと別れ、私は電車に乗り込んだ。
窓から夕日の光がチカチカと私の目に入って、視界がぼんやりとしている。

視界がぼんやりしているのは、夕日のせいだけじゃない。私の目から涙が出ているせいだ。





逢いたい。逢いたいなぁ。


102 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:07:44.88 ID:w0HPNDE+0
私はまっすぐ家に帰るのがどうもイヤで、最寄り駅の一つ手前の駅で降りてしまった。

毎日通ってはいるが、降りたことのない駅だった。
景色が新鮮だと、空気まで新鮮なように思えるから不思議だ。

駅のトイレで鏡を見ると、見事私の目は腫れていた。
しばらく腫れが引くまでこの辺をうろうろしていよう。そう思った。


大きな交差点の向かいにコンビニを見つけた私は、そこへ向かおうと歩き出した。
信号待ちをしている最中、横断歩道の向かいに見覚えのある人影が立っていた。


103 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:08:26.89 ID:w0HPNDE+0
くるっとした巻き毛が特徴的な、仏頂面の女の子。
でも本当は、笑うととてもかわいい私の・・・妹。




川 ゚ -゚) 「ツンちゃん!!」




真向かいにいるツンちゃんにむかって、私は大声で叫び、手を振った。
周りの人たちがちらちらこちらを見ているが気にしない。

今は、こうして逢えた事だけが私のすべてだった。



105 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:09:05.02 ID:w0HPNDE+0
ξ゚听)ξ「なんでまたこんなところに」

川 ゚ -゚) 「たまたま降りた駅がここだったんだ。まさかこんなところで
     逢うなんて」

ξ゚听)ξ「私もビックリしました。だって、向こうから凄い顔した女の人が
     私に手を振ってるんですもん」


ツンちゃんは隣駅からバスで10分ほどの場所にある学校へと通っていた。
私はそれをまったく知らなかったのだ。今思えば間抜けな話である・・・


106 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:10:10.62 ID:w0HPNDE+0
公園のベンチで、私たちは久々の再会を喜んでいた。

なんだ、こんな簡単なことだったじゃないか。何で意地を張る必要があったんだろう。
あのとき私が彼女を止めていれば、もしかしたらこんな風にはなっていなかったかもしれない。


鼻の頭を赤くして、買ってあげたコーンスープをすするツンちゃんを見て
私はたまらなく悔しくなった。

そんな気持ちを隠すように、私は努めて冷静に話を進めた。
これが私に出来る最後の意地っ張りだ。


107 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:11:34.26 ID:w0HPNDE+0
川 ゚ -゚) 「おじさんとはうまくいっているのか?」

ξ゚听)ξ「はい。元々はよく面倒を見てくれた人でしたから、なにも不自由や
      違和感はありません。でも、気を遣われてるのがよーくわかりますけどね」

川 ゚ -゚) 「それは仕方ないさ。おじさんだって後ろめたいところはあるだろうしね」


戻ってきて欲しいと心の中で思っていても、なかなか言い出すことが出来ない。
時間ばかりが過ぎていって、それでも他愛のない話はずっと続いている。

このまま言わないで、ずっとツンちゃんを話をしていたい。
私がここでもしワガママをいえば、今の関係が壊れてしまうかもしれない。
それだけは避けたかった。


臆病者とののしられたって構わない。失うよりは何億倍もましだもの。
ここは臆病になってもいいところだ。彼女が辛い思いをするくらいならば、私が耐えてみせる。


108 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:13:10.40 ID:w0HPNDE+0
ある考えが私の頭をよぎった。

神様はもっとも残酷な仕打ちを私にしたんじゃないだろうか。

私がつまらない独占欲や嫉妬の炎に身をやつしたから?
その罰が今私にくだっているのだろうか。


・・・やれやれ。神様だ何だって、私も随分信心深くなったものだ。
前はそんなこと考えもしなかったのに。

今私の目の前にいるツンちゃんとかかわるようになってから、私の人生はそれはそれは
ドラマチックだった。
神様の存在を、はっきりと感じ取ることが出来そうになるくらいに。

私とツンちゃんの人生が交じり合ったのは、一年近く前のこと。
あのときのツンちゃんははもう少し子供っぽかった気がする。

今の彼女は、あの時感じた幼い「少女」から、美しい「女性」へと変貌を遂げた。
ほんの少し寂しい気もしたけど、それが成長なのだなと思った。

いろいろな思い出が、走馬灯のように頭を駆け巡った。
死ぬ間際にしか体験できないと思ったけど、そうでもないらしい。私の脳みそはサービス精神が旺盛なのかな。


私は隣のツンちゃんにわからないくらいに笑って、立ち上がった。
これでさよならだ。またしばらく逢うこともない。

後ろ髪を引かれる思いだったが、ここは私が大人にならなくちゃ。


109 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:13:52.92 ID:w0HPNDE+0
川 ゚ -゚) 「それじゃあ」

私はスマートに去ろうと思った。クーの「クー」はクールの「クー」だ。
キレイに後腐れなく、バイバイ。

今まで楽しかったよ。いつかは会えるだろうけど、いつになるかはわからない。
だから、さよなら。

おじさんと仲良く暮らすんだよ。


さよなら。

これでいいんだよね。


111 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:15:27.72 ID:w0HPNDE+0






       ξ゚听)ξ「お姉ちゃん!!」








112 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:16:08.29 ID:w0HPNDE+0
ああ、ずるいなぁ。何で別れ際にそんなこと言うのかなぁ。

絶対に

絶対に

絶対に振り向かないって心に決めたのに。

私の足は意思に反して彼女の・・・ツンちゃんのほうを向いた。
意思に反して?ずっとずっと、彼女に少しでも歩み寄ろうとしていたのに?


113 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:17:03.94 ID:w0HPNDE+0
意思になんか反してない。これは私の意思そのものだ。

この踏み出す足は、私の象徴だ。

一歩、また一歩と彼女に近づくのがあのときは嬉しかった。
少しずつ心を開いてくれている彼女を見るのが嬉しかった。

もどかしい。私は駆け足になる。彼女との距離を一気に詰めた。

昔とは違う。

今はもう、距離なんか一ミリだってなかった。
私たちを隔てるのは何もない。彼女を抱きしめて、私は本音をぶちまけた。


114 名前: 造園業(千葉県)[] 投稿日:2007/03/15(木) 01:17:48.42 ID:w0HPNDE+0
川 ; -;) 「戻ってきて、戻ってきてよ。逢えないなんてイヤだ。
      ずっと一緒にいたいよ。おじさんなんかに渡したくない」

ξ;凵G)ξ「私だって、お姉ちゃんさえいれば何もいらない。
      お姉ちゃんのこと好き。大好き。離れたくないよ」


私たち二人にはわかっていた。


たとえお互いがどんなに強く想っていても、一緒になれないことは
世の中にたくさんあるのだということを。
だからこそ、こうして叶わぬ想いを打ち明けて、慰めにするしかないのだ。


私たちは、きょうだいなんかにはなれないのだ。


第9章「わたしたちの、きずな」 〜終〜


197 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:25:13.43 ID:I3vvGPhI0
最終章「わたしたちの、しあわせ。」


ξ゚听)ξ「逃げよう、お姉ちゃん」

川 ゚ -゚) 「え?」

ξ゚听)ξ「誰もいないところにいこう。誰も知らないところ。
     そこで二人で暮らそうよ」

川 ゚ -゚) 「ツン・・・」

ξ゚听)ξ「大丈夫だよ。二人ならやっていけるって。
      学校だって・・・なんとかなるよ。だからいこう。ね?」


198 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:26:51.26 ID:I3vvGPhI0
それは甘い囁きだった。彼女の手のぬくもりは蟲惑的で、
私は我を忘れて引き込まれそうになる。


しかし。


私は首を横に振った。そんなことは無理なのだ。
この世の中で、ハタチにもならない子供が二人だけで暮らそうなんて、無謀すぎる。

彼女と一緒にいたくないわけじゃあない。
むしろ、一緒にこのまま二人でどこかへ消えて、死んでもいいとさえ思う。
誰にも邪魔のされない世界へいけるなら、それも選択肢の一つに加えられるかもしれない。

でも私たちには、私たちがどこかへ消えてしまったら悲しむ人たちが大勢いるのだ。
お父さんやお母さん、ツンのおじさん、たくさんの友達。

昔の私なら、私のために泣いてくれる人なんていないだろうと思っていたはずだ。
今は、今は違う。自分が誰かを愛したことで、わかったことがある。

誰か一人でも自分のために泣いてくれる人がいるのなら、その人のために生きなくてはいけないのだ。
その人の悲しむことをしてはいけないのだ。


199 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:27:31.53 ID:I3vvGPhI0
物理的な距離なんて、どうにでもなる。

私たちは心がつながっているんだから。

永遠のお別れじゃあないんだから。


いつかまた、逢えるんだから。


200 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:28:30.45 ID:I3vvGPhI0
私はツンを見据えた。じっと彼女の瞳を見つめて、微笑んだ。


川 ゚ -゚) 「ツン、おじさんのところへ帰りなさい。私たちはこんなに近くに
     住んでるんだぞ。逢いたいと思えばいつでも逢えるんだ。

     世の中にいる遠距離のカップルなんか見てみたらいい。
     300〜400kmなんかザラだよ。私たちはせいぜい4〜5km。
     電車で5分だ。      

     だから・・・早く帰りなさい。逃げたくなっちゃうだろう?」

ξ゚听)ξ「お姉ちゃん・・・」


201 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:31:33.69 ID:I3vvGPhI0
川 ゚ -゚) 「いくんだ、ツン。誰かを悲しませちゃいけないよ。
     おじさんは君の事を愛している。キミだってきっと、おじさんのことを
     愛しているはずだ。

     そういう人たちを裏切っちゃいけない。私たちはこうして想いを伝え合って、
     相手の想いが確かなのを知ってる。
     おじさんたちはキミが愛していることを知らないんだ。きっとキミは
     言ってないだろうからね。

     私だって普段お父さんやお母さんに愛しているなんて言わないが・・・
     私たちは揺るがないはずだよ。だから我慢するのは私たちの役目なんだ・・・

     ああ、しゃべり過ぎだな、最近。今まであんまりしゃべってなかった反動がきてるみたいだ」

ξ゚听)ξ「お姉ちゃんがそういうなら、私は従う。
     おじさんたちのことをは愛してるけど、一番はお姉ちゃんだからね」

川 ゚ -゚) 「ありがとう。私も一番はツンだよ」


202 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:32:13.07 ID:I3vvGPhI0
安心したようにツンは笑った。
それじゃあと、彼女はちいさく手を挙げた。

彼女が私に背を向けてだんだん遠ざかっていく姿を、私は直視できなかった。
人が去っていく後姿を見るのは好きじゃないんだ。


また逢えるよね、ツン。

絶対に。


203 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:32:54.26 ID:I3vvGPhI0
私たちはその後、逢うことはなかった。

私の受験が本格的になってきたことが理由だ。
正確に言えば、逢う暇がなかった。


一分一秒でも逢えたらと思ったが、どうにもそうはいかなかった。


204 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:33:58.06 ID:I3vvGPhI0
思えばこの約一年間、いろいろなことがあった。

初めての出来事があまりに多すぎて、私の脳みそはオーバーヒートしないだろうかと
不安に思ったくらいだ。

実際は意外に頑丈にできていて、自分の意思でオーバーヒートさせることが
多かったように思う。


彼女に出会ったことが、私の何より大きいことだった。
彼女と一緒に感じる何もかもは、輝いていた。


205 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:35:08.07 ID:I3vvGPhI0
たとえば、春先の、まだ冷たい空気の中に混じるやわらかな花の匂いとか。

たとえば、夏のあの小高い丘から見たどこまでも青い空とか。

たとえば、秋の日の夕暮れに散る葉っぱとか。

たとえば、冬のキンと冷えた空気とか。

雨の後のアスファルトの匂いとか

柔らかな木漏れ日とか。

川のせせらぎとか。

強い風の音とか。


206 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:36:09.35 ID:I3vvGPhI0






      ξ゚听)ξ「今年から高校一年生になるツンといいます。よろしくお願いします」

      川;゚ -゚) 「は、はぁ、よろしく」








207 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:37:12.49 ID:I3vvGPhI0






      川 ゚ -゚) 「それでもいいんだ。姉だって思ってもらわなくても、
           私はそんなことどうだっていいんだ。

           ただ私は純粋に、キミとお友達になりたい。
           もっとツンちゃんのことを知りたいと思ってる。      

           そりゃあ、お姉ちゃんって呼んでもらいたいけど、まだ今は難しいだろう」








208 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:38:13.70 ID:I3vvGPhI0






      ξ;凵G)ξ「だから私は今、クーさんのこと、好きになりそうなんです。
             お姉さんだって、思えそうなんです。

             でも、でも、心臓が、心臓がばくばく動いて止まらないの。
             体が引きちぎれそうなの。どうしたらいいのか、わからない」








209 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:39:14.92 ID:I3vvGPhI0






      川 ゚ -゚) 「ツンちゃんは悪くないんだ。全部私が悪い。
           だから今は・・・放っておいてくれないか。

           まだ自分の気持ちに整理がつかないっていうのも、ある」

      ξ゚听)ξ「でも、私たちは・・・」

      川 ゚ -゚) 「いいから、もうほっといてくれ!!」








210 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:39:37.61 ID:I3vvGPhI0






      ξ゚听)ξ「私、おじさんのところへ戻ろうと思うんです」








211 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:40:08.95 ID:I3vvGPhI0






      ξ゚听)ξ「お姉ちゃん!!」








212 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:41:27.32 ID:I3vvGPhI0
最後の入試を終えて自宅に向かう電車の中で、私は思わず涙をこぼしていた。

もう全部終わったのにいつもの癖で単語帳に目を落としていた私は、
涙の雫がページに染みを作ったときにはじめて知った。

おかしいな。
私から我慢しようって言ったはずなのに。

泣き虫になったなぁ。クーは涙を見せない強い女の子のはずなのに。



その後、入試が終わった後も逢うことはなかった。卒業して私が大学へいくことになっても、逢うことはなかった。


そんなときだ。ツンから電話があったのは・・・


213 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:42:30.81 ID:I3vvGPhI0
〜2年後〜

私は大学の近くで一人暮らしをしていた。
私自身が自立したいと思ったから、両親を説得して家を出た。

大学生活は至って順調で、悪い男にだまされることも、コンパで飲まされて記憶を失うこともなかった。
大学では新しい友達もできて、充実した日々を過ごしている。

もう今年で大学3年生だ。そろそろ就職活動も始まる。
なんとかなるさと、いつもの調子で構えている私だった。


ピンポンと、チャイムがなり、私は誰か確認もせずにドアを開けた。
危険じゃないかって?そんなことはないさ。

だって、誰が来るのか私は知ってるんだから。

その誰かさんは、私と違って時間にルーズだったりはしないのだ。


ドアの向こうには、何年かぶりの再会が待っていた。


215 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:43:12.24 ID:I3vvGPhI0
ξ゚听)ξ「お姉ちゃん、お久しぶり」

川 ゚ -゚) 「ああ、久しぶり。ちょっと、髪の毛伸びたんじゃないのか?」

ξ゚听)ξ「今は伸ばしてるの。ていうか、お姉ちゃんが私の髪の毛見たのいつの話?」

川 ゚ ー゚) 「はは、そうだったな」


216 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:43:50.96 ID:I3vvGPhI0
久しぶりにみる彼女はずいぶんと大人びていて、私はドキッとしてしまった。
うちの大学には一人身の男が多い・・・彼女が犠牲になってしまわないか心配である。


ξ゚听)ξ「そういえばサークルの勧誘しつこかったから、怒鳴り散らして逃げてきちゃった」


彼女はバツが悪そうにぺろりと舌を出して笑った。くるっとした巻き毛が、ふわふわと揺れる。


・・・どうやら心配は要らないらしい。


217 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:44:52.71 ID:I3vvGPhI0
彼女は今年から、私と同じ大学に通うことになった。
私が一人暮らしをしたのは、このためというのもある。誰にも言ってなかった秘密だ。

そして彼女は、今日からここに住むことになる。
この計画を立案したのは、ツンだった。彼女は電話口でこういった。


ξ゚听)ξ「私、お姉ちゃんと一緒の大学に行く。それで、お姉ちゃんと一緒に暮らす。
     多分これならおじさんも納得してくれると思うんだ」


218 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:45:53.76 ID:I3vvGPhI0
多分、彼女は思いついたままの勢いで言ったんだろう。
私がこれから一人暮らしを親に認めさせる説得をしなくちゃいけないのを、
まるで考えていなかったようだ。

でも私はそれを苦痛だとは思わなかった。
それにうちの両親はあっさり私の一人暮らしを認めた。ツンのほうの説得が難航したくらいだ。


( ・∀・)「いろいろやってみるのはいいんじゃないかな。
     別に海外に行くわけじゃなし、いつでも会おうと思えば会えるしな」

J( 'ー`)し 「ちょっと心配だけど、子供は巣立っていくものだからね」



ありがとう、お父さん、お母さん。


219 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:47:01.96 ID:I3vvGPhI0
ξ゚听)ξ「荷物は後でくるけど入るよね、この広さなら。
     ・・・意外にお姉ちゃんがいい家に住んでてびっくりした」 川 ゚ -゚) 「だって、そういう家を探したんだよ。かなりの掘り出し物だぞ、ここの家」


コンビニは徒歩五分、大学までは徒歩十分、駅までは徒歩五分。
まぁ住宅地の真ん中だからあまり娯楽はないけど、近くにファミレスなんかもある。

部屋の広さは2DKで、二人が住む分には何にも問題はいらない。

これで家賃が四万円ちょっと。信じられないとわが目を疑ったが、調べても特別な事情は出てこない。
多分、メインストリートから結構距離があるのと、ここの地価そのものが安いのだろう。


220 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:47:42.32 ID:I3vvGPhI0
ξ゚听)ξ「狭くてもよかったんだけどな。だって、お姉ちゃんと近いほうがいいもん」

川 ゚ -゚) 「私は広いほうがいいなぁ。だって、のびのび暮らせるだろう」

ξ゚听)ξ「あ、ヒドい。私がいると窮屈なのね、お姉ちゃんは」

川 ゚ -゚) 「おいおい、そんなこといってないだろう」

ξ゚ー゚)ξ「ふふ、嘘よ」


私は窓を開けた。今日はとっても天気がいい。緩やかな風は温かく、春はもうすぐそこだ。


川 ゚ -゚) 「天気がいいから、あとでいろいろとこの辺を案内してあげよう」

ξ゚听)ξ「歩いてきた感じでは、何か有りそうには思えなかったけど・・・」

川 ゚ -゚) 「近くに川があるんだ。自転車でそこに行こう。すごくいい景色だよ」


振り向いて、私は微笑んだ。


221 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:48:11.42 ID:I3vvGPhI0






      川 ゚ ー゚) 「さぁ、幸せになろうか」








222 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:52:01.06 ID:I3vvGPhI0


                  
                 ξ゚ー゚)ξ川 ゚ ー)
                 /  ,,,,⊃   つ┓
               〜(,,  ゝ (,,,    ) 冊冊
               ,' ̄U' γ__/;;||ノ ノγヽ⌒ヽ
               (--(ニ二__(_) (--〇--)
    i!wwl        ゝ/__ヽノ    ̄  ゝ/__ヽノ    ;wwvvi
'''"~"”~"~"~”~”''"~"''''"~""~"~"~"~"''"~"''''"~""~"~"~"~"''"~"''''"~""~"''"~"''''"~""~
  ;;;;;;;...,;;;,,,;;;;;   ;;...,,;;;,,,,;;;;;;;  wwv;;  ;;;  (~)  ;;;;;;.,,,.,;;,,,..   ;...,;;;,,,;;;;;
   wvv;;;   ※    ;;;;;;;;;.....''''':::;;;; wwv (ヽ||/)    ;;;;.,.,..,;;;;:;;
         ヽ|/


ツンとクーは姉妹になったようです
〜Fin〜



226 名前: 不老長寿(千葉県)[] 投稿日:2007/03/16(金) 15:57:10.91 ID:I3vvGPhI0
以上です

以下いろいろ思ったこと


多分、勢いで書いた。反省はしていn(ryなので、かなりむちゃくちゃな部分があったと思います
それでもめげずに読んでくださった方々
なおかつそれを素晴らしいとおっしゃってくださった方々

こうしたほうがいいといってくれたヤツら

まとめの中の人

気分で投下するかしないか決めてるにもかかわらず、頑張って保守してくれた人たち

絵を描いてくれた人

本当にありがとうございました。最初は不安でいっぱいでしたが、なんとか書ききりました


あと、8章か9章で書く気が著しく減退したときにふとスレをみて、
「待ってるからな」の一言を言ってくれた人。あなたに支えられて物語はできました。ありがとう




【関連】
一気読み
第1章 - 第2章 - 第3章 - 第4章 - 第5章 - 第6章 - 第7章 - 第8章 - 第9章 - 最終章

http://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1173526035/
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