1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 14:18:09.01 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「おっおっおっおっwwww」
目を覚ますと、へらへらと軽薄な顔の男が小躍りしていた。
ピザな体型。だらしない口元。
かわいそうな生物だ。
俺「・・・・・」
なんだ、夢か。
( ^ω^)「やったおwwww念願のペットを手に入れたお!wwwwww」
・・・は?
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 14:23:03.77 ID:dtE6Oyd50
(´・ω・`)「はい、これで願いは叶えられたね」
ふと気がつくと、ピザの他にもう一人いる。
八の字まゆでなんとなくしょぼくれた顔の男。
( ^ω^)「大満足だお!魔法使いさんありがとうだお!」
(´・ω・`)「それにしても君変わってるね。普通は何でも願いを叶えるって言えば
もっと大それた事を言うもんだけどね。よりによってペットが欲しいとはね」
( ^ω^)「ブーンはずっとペットが欲しかったんだおwwww」
俺は早く目覚めねえかなぁとか思いつつ
ぼんやりとそのやりとりを聴いていた。
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 14:28:58.97 ID:dtE6Oyd50
(´・ω・`)「じゃあ、僕はこれで。願いをキャンセルしたい時にはまた呼んでね。
ただしクーリングオフは一週間過ぎると出来なくなるから気をつけて」
( ^ω^)「はいですおー」
(´・ω・`)「ではご利用ありがとうございまっしたー」
八の字まゆはとぼけた声でそういうと、ぱっと一瞬にして掻き消えた。
俺「・・・さすがは夢だ。突拍子がないな」
思わずつぶやくと、ピザが「お?」と言ってとことこと俺に近付いてきた。
( ^ω^)「目が覚めたかお!?おなか空いてないかお?
おっと、それより早く名前を決めてあげなきゃいけないお!何がいいかおー」
俺「・・・・」
俺はうるさくまくしたてているキモピザを斜めに見上げる。
どうやらここはこいつの部屋で、俺はその壁にへたりこんでいる、という状況らしかった。
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 14:39:06.24 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「あっ、そうか、一番初めはやっぱり自己紹介からしなきゃだお!」
ピザは勝手に一人で話をまとめ、にこにこしながら俺に右手を差し出してきた。
( ^ω^)「今から君のご主人さまになる内藤ホライゾンだお!
みんなからはブーンって呼ばれてるお。君もブーンって呼んでいいお」
俺「はあ」
俺は条件反射的にそいつ――ブーンの手を握りそうになり、
途中で我に返って慌てて手を引っ込めた。
俺「いやいやいやいや、ちょっと待て。ペットってどういう事だよ」
( ^ω^)「さっきの魔法使いさんに、願いを叶えてもらったんだお!
だから今日から君はブーンのペットだおwww」
俺「・・・はあ」
そういう事らしかった。
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 14:50:45.76 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「さっ、それじゃこの首輪をつけるお」
ブーンとかいうピザはいそいそと俺の首に何かをつけようとした。
ちょ、冗談じゃねえバカやめろ。
さすがに俺はむっとしてそいつの手を振り払った。
俺「さわんなよ」
( ^ω^)「こら!ペットには首輪をつけなきゃいけないんだお!
いう事聞かない子はおしおきだお!?」
俺「アホかさわんなっつってんだろうがこのキモピザがあああっ!」
しかし、精一杯の抵抗もむなしく俺は首輪をつけられてしまった。
こいつ意外と怪力だ、くそ。
( ^ω^)「ぜいぜい・・・ふう、全く、手間かけさせやがってだお」
俺「カッコつけてチンピラみたいな台詞を吐くな!」
ガチャガチャと首輪をはずそうとしながら叫んだのだが、何をやっても外れない。
俺「何だよこれ!魔法でもかかってんのか!?」
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 14:59:26.12 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「かかってるお?」
俺「・・・は?」
( ^ω^)「だって魔法使いさんがくれた首輪だお。それさえつけてれば
逃げられることもないから安心だって」
俺「・・・・・・・・そ・・・・・・」
混乱していたとはいえ、俺はその時すでに気付いているべきだった。
どたばたと暴れたおかげですっかり目が覚めて、
到底夢ではありえないリアルな感覚が戻ってきていることに。
俺「そんなふざけた話につきあってられるかあああっ!」
しかし、俺の精神はそこで折れた。
とにかくここから逃げ出せば夢の場面も変わるだろうと
ピザの隙をついて部屋から飛び出したのだ。
( ^ω^)「アッー!?ど、どこに行くんだおカトリーヌ!」
ふざけた名前であいつが呼んでいるがきっぱりと無視し、
俺はドアを片っ端から開け、全力で階段を駆け降りて玄関を探し出し、
そこから勢いよく外へ飛び出そうとして・・・・・・・・
そこで、俺の意識は再び途切れた。
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 15:04:14.68 ID:dtE6Oyd50
結論から言えば、やはりその一連の出来事は夢ではなかった。
あれから二日、俺は未だにブーンとやらの家にいる。
つーか、飼われている。
( ^ω^)「フヒヒヒwwwwこのスレおもすれーwwwww」
今日もブーンは一日中家に引きこもり
ずっとパソコンの前に座って、けらけら笑いながら過ごしていた。
俺はというと・・・
俺「・・・・・」
おやつのプリン(生クリームとサクランボが乗っている)を目の前に
体育すわりをしているのだった。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 15:13:06.93 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「んー?まだ食べてないのかおキャロライン?
早く食べないと空気にさらされてクリームの表面が固まってきてるお?」
俺「うるせえよ・・・」
( ^ω^)「あ、もしかして、まだ額のたんこぶが痛むのかお??
だから逃げられないって言ったのに・・・・あの首輪には飼い主の許可がないと
勝手に外にだられない魔法がかけられてるんだって言ってたお。
それなのに思いっきり見えないカベに頭ぶつけて・・・フ、フヒッ・・・・・」
俺「うるせえっつってんだろ、わざとらしく笑いを堪えるな!
あとそのセンスのない名前をどうにかしろ!せめて統一しろ!」
( ^ω^)「フヒヒヒwwwwwww」
プリンをちゃぶ台の様に豪快にひっくり返したくてしようがなかったが、
片付けさせられるのはどうせ自分なので我慢する。
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 15:22:18.24 ID:dtE6Oyd50
俺「お前!俺がどうしてこうも気が立っているのか本当にわからんのか!?」
( ^ω^)「???全然わかんないお」
俺「・・・・ああ、もういい、もうお前とまともな話し合いをするのは諦めた。けどな、
俺はせめて自分の意思くらいはハッキリさせておきたい」
( ^ω^)「なんだお?」
俺「俺を家に帰せ」
( ^ω^)「無理」
俺は豪快に目の前のプリンをブーンの顔面に投げつけた。
ほんの少しは気が晴れたが、罰としてその日の夕食もプリンだった。
ちょっと泣きそうになった。
でも、腹が減ったので食べた。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 15:34:55.71 ID:dtE6Oyd50
――そして、俺がブーンのペットになって三日目の朝。
( ^ω^)「うーん、いい天気だお!今日はおでかけするお、ナターシャ!」
という、えらく能天気な声で俺は起こされた。
ちなみに俺はブーンの部屋の一角に囲いをし、そこに敷いた毛布の上で眠っている。
俺「あぁ・・・?」
前述から察しがつくと思うが俺は余り寝起きが良くない。
そこにいきなりテンションマックスのブーンに寝床からひっぺがされ、
パンとミルクを与えられたので、まだ寝ぼけ半分だった俺は何も考えずにそれを食べた。
食べているうちにだんだん目が覚めてきて、これじゃまるで本当にペットみたいだなと思って
ますますテンションが下がる。
( ^ω^)「今日のレイチェルはいい子だおwwww」
俺「・・・・だからせめてひとつに固定しろよ」
もういちいち怒鳴る気にもならない。慣れって怖い。
あと、こいつは一体いつになったらまともな名前を思いつくのだろう。
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 15:45:17.42 ID:dtE6Oyd50
俺「で?出かけるってどこにだ」
パンの最後のひとかけらを飲み込んで俺が訊くと、
ブーンはゴクゴクぷはーとミルクを飲み干して(鼻の下にヒゲが出来ている)、
( ^ω^)「友達と待ち合わせしてるんだお!」
俺「ふうん。お前にも友達がいたのか。てっきり孤独なばかりのヒッキーだと思ってたが」
( ^ω^)「ちょwwヒドスwwww今は学校が休みだから家にいるだけだお!
今日は久しぶりにみんなと遊べるおww楽しみだおwww」
こいつ、一丁前に学生だったのか。
そういえばこの家もこいつ一人が住むには広い気がする。
きっと親は留守にしているんだろう。いたら俺を見て
大騒ぎしてくれるかもしれないのに、残念なことだ。
( ^ω^)「みんなに自慢のペットをお披露目するおwwwwww」
がっしゃん。
俺は手にしていたパン皿を取り落とした。
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 15:55:06.32 ID:dtE6Oyd50
(;^ω^)「うわあ!大丈夫かお、チェルシー!?」
俺「お、お前いま何つった?」
床に散らばる陶器の欠片をものともせずに、俺はブーンにつめよった。
( ^ω^)「? だから、みんなにブーンのペットである君を見せようと」
俺「俺はこの家から出られないんじゃなかったのか!?」
( ^ω^)「違う違う、そうじゃないお。君が一人で勝手に外に出られないだけだお。
ブーンと一緒なら出られるんだお」
俺「そ、そうなの?」
俺は思わず瞳を輝かせた。
もしかして一生外に出られないんじゃないかと思っていたのだ。
それにもしかしたらこいつの目を盗んで逃走、あわよくば警察に駆け込めるかもしれない。
これはチャンスだ。
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 16:04:25.82 ID:dtE6Oyd50
しかし、うきうきと支度を整えた数分後、いざ家を出ようとなった段階で
俺は断固外出を拒否する事になる。
俺「絶対に外になんか出るかーーーっ!!」
( ^ω^)「なんでだお!さっきまであんなにお散歩楽しみにしてたのに!」
俺「お散歩って言うな!!さっきまではそんなものつけるなんて言わなかったじゃねえかっ!」
青筋を立てながら俺は「そんなもの」を指さした。
すなわち、ブーンが手に持っているヒモ。
犬の散歩とかの時に使う、あの、首輪につなぐリードだった。
( ^ω^)「だって聞かれなかったから」
俺「黙れ変態!そんなもんつけて歩けるか!?あっという間に通報されるわ!
むしろ俺が変態に思われるだろうが!!」
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 16:15:19.73 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「・・・・・」
ブーンはしばらく何かを考えて、
( ^ω^)「そんなに嫌なのかお・・・?」
俺の顔色を伺うようにぽつりと訊いて来た。
やっとこいつにも俺の理屈が通じる時が来たかと、俺は必死にうんうんうなずく。
( ^ω^)「じゃあ、しょうがないお・・・・」
ブーン!!
( ^ω^)「実力行使」
俺「期待させやがってこの野郎ぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおお」
結局、俺はまたしても力任せにリードにつながれた。
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 16:26:10.26 ID:dtE6Oyd50
そうして御機嫌なブーンにひっぱられて
俺はひさしぶりに外に出ることになった。
俺「うう・・・ちくしょう・・・・俺の人生・・・・太陽なんてキライだ・・・」
自分でもなんだか良く判らないことをつぶやきながら
首輪とリードをした俺は町を歩いた。
ブーンの住む町は、やっぱりというか俺には見覚えのない場所だった。
日本のごく普通の町並みで、それなのに妙にリアリティだけがない。
映画とか漫画の中に入り込んでしまったような気がした。
もしかしたらここは俺の住んでいたあの世界とは
少しだけずれた世界なのかもしれない。
最初に見た魔法使いを思い出して、俺は少しだけ本気でそんな事を思った。
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 16:45:17.43 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「さあ、ついたおー!」
はたと気がつくと、俺は公園の入り口に立っていた。
俺「あ・・・あれ?」
ここへ来る途中にも人とすれ違っていたはずなのだが、その記憶がない。
どうやらとりとめのない思考で頭をいっぱいにすることにより
町の皆さんの存在を抹消することに成功したようだ。
ナイス俺。ナイス無意識。
首輪をして町を歩いたという事実が消えた訳ではないのだが、そこにはあえて触れずにおく。
( ^ω^)「もうみんな来てるかおー?www」
はしゃいでリードをひっぱり駆け出すブーン。
「ぐえっ」となりながら必然的に俺も引きずられていく。
すると公園内のベンチに人影があった。
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 16:55:57.49 ID:dtE6Oyd50
('A`)「うぃーす、ブーン」
( ^ω^)「おいすーwwwww」
ベンチに座っていた幸の薄そうな奴が手を上げ、ブーンがそれに応える。
こいつが友達か。けだるそうな顔で、ピザのブーンと比べると小柄な男だった。
( ^ω^)「ドクオ、ひさしぶりだお。休みの間何してたお?」
('A`)「ネトゲかなー。お前は?」
( ^ω^)「さもしい青春だおwwwwwブーンはとっても充実した毎日を送っていたおwwwww」
('A`)何だとこの野郎」
全くだ。一日中ネット三昧だったくせに。
俺が心の中でそう思っているとブーンは嬉しそうにこっちを手で示して、
( ^ω^)「じゃーん!ブーンはなんとペットを飼い始めたんだお!」
ああ、ペットか。
・・・・あ、ペットって俺か。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 17:04:22.88 ID:dtE6Oyd50
ドクオと呼ばれた華のない男は、そこではじめてしげしげと俺を見つめた。
俺「・・・・どーもー」
間が持たなかったので無表情にひらひらと手など振ってみる。
後から思い返すとちょっと壊れ気味だ。
しかし、俺はここでこいつがブーンの非常識さを戒め、警察に連絡してくれることを期待していた。
('A`)「・・・なあ、ブーン」
( ^ω^)「なんだお?」
('A`)「これ、俺には人間に見えるんだけど」
!!!
よし!!
そうだ!!それこそが俺の望んだまっとうな人間の反応だ!!
俺は救世主の登場に、涙を流して神に感謝の祈りを捧げたい気持ちになった。
49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 17:17:47.56 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「ふっふっふ!その通り!実は突然ブーンの前に現れた魔法使いさんが
ブーンにくれた奇跡のプレゼントだったりするのだお!」
('A`*)「マジ!?そうなんだ!へー、すげー!」
俺は血の涙を流して神に呪詛の言葉を吐き掛けたい気持ちになった。
こいつもキ○ガイだちくしょう。
('A`)「ちゃんと喋れて、トイレトレーニングもしつけもいらないペットなんて
すげー貴重じゃね?」
( ^ω^)「そうなんだお!自慢のペットなんだお!もっと褒め称えるがいいおwwww」
('A`)「お前を褒めてるわけじゃねーよ。でもいいなあ、俺もこんなペットが欲しい。名前はつけたのか?」
( ^ω^)「うーん、実はまだいいのが思い浮かばないんだおー・・・」
俺「ちょっと待て」
じゃあ今までのは全部仮称かい。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 17:36:19.40 ID:dtE6Oyd50
その後、わらわらと他の友達も集まり、俺は数人のブーンの友達の
好奇の視線にさらされたが、俺というれっきとした人間が
ペットにされている事に疑問を抱く奴は、当たり前のように誰一人としていなかった。
もう滅んじゃえよお前ら。
そうこうしているうちに昼を過ぎ、友達とやらは三々五々家路に着いたり
これから遊びに行く計画を立てたりし始めた。
('A`)「俺はもう帰ろうかな。ブーン、お前は?」
( ^ω^)「ブーンもおなか空いたから帰るお!」
ブーンは楽しそうに俺のリードを握りしめて、ぶんぶんと手を振りながら公園を後にした。
( ^ω^)「イチ、今日の昼ご飯はホットケーキを焼くお!」
ああ、そうそう、俺の名前は「イチ」になったようだ。
一貫して横文字にこだわるこいつを友達がやんわりと押さえつけ(感謝している)、
十分間の話し合いの末決定した。
ちなみに命名理由は、俺の着ていたTシャツの胸に「1」とプリントされていたから、である。
俺「・・・はいはい」
カトリーヌよりはマシだと思い、俺はしかたなく返事をしてやった。
余談だが、帰る途中妙齢の婦人とすれ違う際、ものすごい目で二十秒以上ガン見された。
記憶から消すことは難しそうだった。
帰ってから軽く泣いた。
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 17:53:41.89 ID:dtE6Oyd50
俺がブーンのペットになって四日目の夜。
思い切って、俺はずっと訊いてみたかった事を訊いてみる事にした。
俺「おい、ブーン」
( ^ω^)「なんだお?」
俺「大した事じゃないんだが、お前の国では、夕飯はインスタントラーメンにせよと
戒律か何かで決まっているのか?」
( ^ω^)「何言ってるお、そんなわけないお」
俺「じゃあ、どうして俺はお前が夕食にラーメン以外のものを
食べる処を見た事がないんだ?」
俺はずるずるとノンフライ生麺タイプのインスタントラーメンをすすりながら言った。
こいつは朝と昼は簡単にパンなどを食べ、そして夜は必ずと言っていいほどラーメンを食べている。
不本意ながらペットである俺も(プリンを除いて)、こいつが食べるものを一緒に食べるしかないので
ぶっちゃけ飽き飽きしているのだった。
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 18:08:06.27 ID:dtE6Oyd50
(;^ω^)「む、むう・・・とうとうそこに気が付いたかお・・・」
気付いたっつーか、二日続けてラーメンだった時から既に
ちょっと飽きてたんだけどな。
( ^ω^)「しょうがないんだお、いまカーチャンが単身赴任中のトーチャンのとこに行ってるから」
俺「ああ、やっぱり両親いるのか、こんなんでも」
(;^ω^)「こんなんって・・・・。
だからいつもはカーチャンが料理してくれてたから、ブーンは料理できないんだお」
俺「ふーん」
まあ、そういう理由なら納得がいく。
昨日のホットケーキもちょっとこげてたしな。
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 18:16:54.08 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「でも大丈夫だお!ブーンラーメンなら十年続いても飽きないお!」
俺はそれに付き合わなきゃいけないのか?
( ^ω^)「カーチャンが大好きなプリンをいっぱい作りだめしといてくれたし!」
だからおやつがいつもプリンだったのか。
( ^ω^)「それにホットケーキもだいぶうまく焼けるようになったお!」
いや、だから焦げてたって。
昨日のレベルにたどり着くまでにどれだけの失敗作を生み出してきたのだろうか、こいつは。
どんぶりを抱え込んでラーメンをかっくらっているブーンを眺めて、
俺はため息を吐いた。
俺「・・・しょうがねーなー」
( ^ω^)「何か言ったかお、イチ?」
俺「なんでもねーよ」
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 18:34:38.93 ID:dtE6Oyd50
そして翌日、俺がブーンのペットになって五日目の昼。
(* ^ω^*)「ふおおおおお!ふおおおおお!!wwwwwwww」
俺「旧式の掃除機かお前は」
俺は憎まれ口を叩きながら、スプーンを握り締めてテーブルについているブーンの前に
でんと大きな皿を置いた。皿の上にはケチャップ特盛りのオムライスが乗っている。
ブーンはほこほこと湯気の上がる黄色い卵ごしに、心から感激したような顔を見せた。
( ^ω^)「すごいお!イチは天才だお!久しぶりのまともなごはんだお!!」
俺「大袈裟な・・・。具なんてほとんど入ってないぞ、あんまり材料なかったから。
つーかこれぐらい自分で作れるようになれよ」
( ^ω^)「最高だおー!料理の出来るペットなんて世界中でイチだけだお!飼い主冥利に尽きるお!」
俺「人の話を聞け。それと、これは俺が食べたいから作った飯だ。
お前の分はついで。くれぐれもペットとして作ったんじゃないからな」
( ^ω^)「ふおおおおー!!いっただっきまーす!!!」
全然聞いてねえこいつ。
ブーンはがつがつとオムライスをかっこんで、「ンマーイ!」と一言叫ぶやいなや
急いで口にケチャップを詰め込む作業に戻った。
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 18:49:33.92 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「あうー・・・おなかいっぱいで苦しいお・・・」
俺「俺も・・・ちょっと大盛りにしすぎたか・・・げふ」
( ^ω^)「でもしあわせだお・・・・」
大きなオムライスを長い時間をかけて食べ終わって、
俺とブーンはリビングのソファでまったりしていた。
いつもはブーンと一緒に部屋にこもり切りなので、広いスペースでゆったりと過ごすのは
なかなか心地よい。
・・・
・・・・・・
はっ!?
い、今一瞬「こういう生活も悪くないかもなー」とか思ってしまった!!
ちくしょう、俺のバカバカ!ほんの少しでも気を緩めてしまった自分が憎い!!
(;^ω^)「・・・イ、イチ。怖いから急に凄い顔して悶絶しないで欲しいお」
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 19:04:16.55 ID:dtE6Oyd50
と、俺が頭をかかえて人生の落とし穴という名の闇を痛感していると、
プルルル・・・と家の電話が鳴った。
( ^ω^)「おっおっwww電話だおwww」
ブーンはソファから飛び降りて廊下まで行き、やけに嬉しそうに受話器をとった。
( ^ω^)「はーい、内藤ですお!――おっ!看護士さんですかお!」
・・・看護士?
俺は興味を引かれて何気なく耳をそばだてる。
( ^ω^)「はい!はい!ブーンはいつでも元気ですお!
それで今日はどうですかお?」
そこまできて、弾んでいたブーンの声は急にトーンダウンした。
( ^ω^)「・・・・そうですかお。・・・・はい。容態が安定してない・・・はい。
はい、判ったですお。大丈夫ですお、じゃあ、明日・・・はい。よろしくお願いしますお」
とても静かに、カチャ、と受話器を元に戻す音。
俺はきょとんとして、リビングに戻ってきたブーンを見つめた。
92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 19:19:13.68 ID:dtE6Oyd50
俺「・・・お前ん家、誰か入院してんのか?」
( ^ω^)「ん・・・イチ、聞いてたのかお?」
ブーンはちょっとしょげたみたいに肩を落としていたが、
それでも普段と変わらない明るい声で言う。
( ^ω^)「友達が入院してるんだお。今日、具合がよければお見舞いに行ける
筈だったんだけど・・・ダメだったお」
俺「友達って?」
( ^ω^)「ブーンの幼馴染の女の子だお。ちょこっと素直じゃないとこもあるけど、
とってもかわいい子だお。
それが、ナントカっていう珍しい病気で、今一時的に目が見えない状態なんだお」
俺「・・・・」
世間話にするにはヘビーな話題だ。
聞かないほうが良かったか。
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 19:37:26.85 ID:dtE6Oyd50
しかしブーンは仁王立ちしてあさっての方向を向くと、
( ^ω^)「でも、必ず治るってお医者さんが言ってたから大丈夫だお!
ツンは長い入院生活で少しだけ気が弱くなってるんだお。
だからブーンが励ましてあげるんだお!
今日はちょっと間が悪かったけど、明日はきっと会いに行けるお!」
アメリカンコミックのヒーローみたいに、天高く人差し指を掲げて宣言した。
・・・うん、足は曲げない方が良かったな。それじゃトラボルタだろ。
しかし心優しい俺はあえて突っ込まず、うなずいて「そうか」とだけ言った。
俺「早く良くなるといいな」
( ^ω^)「うん!イチは優しいおwwwwwさすがはブーンのペットだおwwwww」
俺「・・・・うるせーな、普通だ普通」
( ^ω^)「晩ご飯はカレーがいいお」
俺「調子に乗るなピザでも食ってろデブ」
( ^ω^)「ピザでもいいお」
俺「スルーかよ」
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 19:53:55.05 ID:dtE6Oyd50
そして――俺がブーンのペットになって六日目。
その日は朝から雨だった。
ブーンはいつものようにパソコンの前に座ったり、
俺を無理矢理トランプやレトロなボードゲームに誘ったりして過ごした。
そして昼過ぎ、プルルル・・・と電話が鳴り出した瞬間に
ブーンはドアを蹴飛ばして出て行ってダッシュして受話器に飛びついた。
けれど、部屋に戻ってきたブーンは昨日と同じようにうなだれていた。
俺「またダメだったんか」
俺が聞くと、ブーンは「またダメだったお」とうなずいて自分のベッドに腰掛けた。
( ^ω^)「うーん・・・想定の範囲外だお・・・」
俺「まあ、またその子の具合がいい時に改めて行けばいいじゃん」
( ^ω^)「うーん・・・」
ブーンはしきりに首をひねっていて、
俺はその煮え切らない姿を見て自分でも首をひねった。
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 20:05:15.74 ID:dtE6Oyd50
その夜、俺は夢を見た。
見たこともないツンとかいう子とブーンが結婚していて、
白い小さな庭付き一戸建てに住んでいて、
そして花が咲き乱れるその庭には従順なペットが一匹・・・・・・
( ^ω^)「はっはっは、イチー、とって来いだおー」
俺「わんわーん!」
ツン「うふふ、あなたったらwww」
子供「イっちゃん、とてこーい」
俺「わふわふwwwwwご主人さま、今日はカレーですわん!」
俺「う・・・・・ううーん・・・・・」
( ^ω^)「・・・イチ、イチ起きるお」
俺「う、うう・・・・犬小屋・・・・犬小屋はいやあ・・・・・」
( ^ω^)「何寝ぼけてるんだお、起きるお、イチ!」
俺「ふ、ふはっ!!?」
ビクッ、と痙攣して、俺はいつもの寝床から飛び起きた。
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 20:16:18.37 ID:dtE6Oyd50
(;^ω^)「・・・なんかイチ泣いてないかお?大丈夫かお?」
俺「う、うう・・・・人として最後の大切なものを失ってしまう夢を・・・・・わん」
(;^ω^)「わん?」
俺「うおっ!?い、いや、何でもない、何でもないぞ!!」
我に返った俺は慌てて両目から溢れる魂の涙をぬぐい、
しゃがみこんで俺の顔を覗き込んでいるブーンに向き直った。
俺「・・・って・・・どうしたんだ?外、まだ暗いじゃないか」
ブーンの部屋の窓の外はまだ真っ暗で、
朝どころか夜明けもまだのように見えた。
( ^ω^)「しー、だお。まだ夜中の三時だから静かにするお」
俺「三時ぃ!?何だよそんな時間に・・・」
俺がうんざりした声を出すと、反対にブーンはいたずら小僧の様に目を輝かせてこう言った。
( ^ω^)「今から夜のお散歩だおwww」
俺「・・・・は?」
( ^ω^)「ツンに会いに行くんだお!」
125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 20:34:24.23 ID:dtE6Oyd50
ばしゃばしゃと夜道に二人分の足音が響く。
雨は夜になっても降り続き、少し風も出てきた様だった。
俺「なあ!こんな時間に病院行っても面会なんてさして貰えねーだろ!?」
( ^ω^)「大丈夫っ!こんなこともあろーかと、抜け道はしっかり調査済みだお!」
俺「忍び込むつもりかよ!!」
俺と、俺の首輪につながれたリードを持ったブーンは
小声で会話を交わしながら雨の中を走った。
ブーンは自分のものらしい青い傘、俺はブーン父のものらしい灰色の傘を差して。
雨の真夜中に外出するようなバカが俺たち以外にいる筈もなく、
人目がないのだけが救いだった。
俺「何考えてんだよ全く・・・。友達だって迷惑だって。こんな夜更けじゃなくて
また調子のいい日に会いに行けばいいじゃねーかよ」
( ^ω^)「――それじゃダメなんだお! 今日じゃないと・・・・
今日じゃないと意味がないんだお!」
ブーンが珍しく真剣な様子で叫ぶので、
ぶつぶつと文句ばかり言っていた俺は口を閉じるしかなかった。
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 20:44:46.43 ID:dtE6Oyd50
やがて俺の足が限界に近付き、
ピザのくせに妙にスタミナのあるブーンがうらめしくなってきて
こいつちょっと殴ってやろうかなと思い始めた頃に
俺たちは病院にたどり着いた。
( ^ω^)「無事に着いてよかったお!途中ちょっと迷っちゃってどうしようかと思ったお!」
とりあえず一発殴っといた。
病院は町を一望できる小高い丘の上に建っていた。
清潔な白い建物も、強い雨の降る真夜中に見上げるとちょっと不気味だ。
( ^ω^)「さあ、ツンの病室に行くお!」
ブーンは小突かれた頭などものともせずに、小声で元気にそう言うと
病院の裏手へと歩き出した。
俺「・・・どうなっても知らないからな、俺は・・・・」
リードでつながれている俺もしかたなく後について行く。
もしも病院の職員に捕まった時、俺の姿がどう映るかは
あえて考えない事にした。
137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 20:59:39.37 ID:dtE6Oyd50
ブーンは、通用口だろうか、鍵のかかっていない目立たない扉から
病院の中に入り込み、意外にもさくさくとその中を進んでいった。
一度、見回りの看護士の足音がカツンカツンと近付いてきて、
下手なホラーゲームよりドキドキしたが
二人で狭い物陰に隠れてどうにかやりすごした。
( ^ω^)「もーすぐツンの病室だお・・・」
ブーンはひそひそと言って、俺にうなずいてみせる。
ここまで来たらもうどうにでもなれだ。
俺もブーンの顔を見返して、小さくこくりとうなずいた。
とうとう俺たちは病院の東側、五階の病室の前までたどり着いた。
ドアの横の名札にはツン、とだけ書かれている。
どうやら今現在、この部屋にはツンという子一人しかいないようだ。
重たい扉をそろそろと開く。
つんとした消毒薬の匂いが廊下よりも濃い気がした。
139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 21:09:18.32 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「・・・」
俺「・・・」
俺とブーンは足音を立てないように歩き、
ただひとつカーテンのかけられてるベッドにそろそろと近付いた。
ブーンが少しだけカーテンをめくってベッドの中を覗き込み、
それから、ちょいちょいと俺を手招きする。
初対面の女の子の寝顔を無断で見るのは少し気が引けたが、
ここまで来ておいて今更遠慮もないだろうと
俺は極力音を立てないようにベッドのそばに近付いた。
綺麗な子だった。
肩まである金色の、ふわふわとしたウェーブがかった髪。
化粧っ気のないくちびるが少しばかり青ざめていても
それでも充分絵になっていた
人形が寝ているみたいにも見えたが、ちゃんと布団の下でつつましく胸が上下していた。
( ^ω^)「ツン。・・・ツン」
ブーンが、小さな声でとても優しく声をかけた。
145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 21:19:24.58 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「・・・ツン。起きてお」
ξ゚听)ξ「・・・・ン・・・・」
やがてツンという子がうっすらとまぶたを開き、
上を向いた形のいいくちびるからかすかな声を漏らした。
( ^ω^)「ツン。判るかお。ブーンだお」
ξ゚听)ξ「・・・ブーン・・・?」
ツンはしばらくとろんとした目を開けたり閉じたりしていたが、
やがてまっすぐ天上の方を見たままで布団から手を出し、
そのへんの空間をさぐりはじめた。
ξ゚听)ξ「ブーンなの?そこにいるの・・・?」
( ^ω^)「いるお、ブーンはここだお」
ブーンがその手をつかまえて優しく握る。
俺はこの娘の目が見えないのだという事をその時改めて思い出した。
ツンはブーンの手を握り返し、眠たげな、けれど少し笑いを含んだ声で言った。
ξ゚听)ξ「馬鹿ねえ、朝の検温より早く会いに来るなんて。
まだ夜でしょう?またこっそり忍び込んだのね」
( ^ω^)「おっおっおっwww」
ξ゚听)ξ「ほんとにしょうがないんだから。私がいつそんな事してって頼んだのよ?」
言葉はつんけんしていたが、それでも顔は嬉しそうに微笑んでいる。
152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 21:34:18.63 ID:dtE6Oyd50
( ^ω^)「今日は特別だお!ツンにどうしてもブーンのペットを紹介したかったんだお」
ξ゚听)ξ「ペット・・・?」
ツンが不思議そうな口調で言った。
・・・いや、つーか、そんな急に本題に入られても
心の準備ってもんが出来てないんだが。
どうすりゃいいんだよ俺は。
( ^ω^)「そうだお、この前急に魔法使いが現れて、それでお願いしたんだお!
イチは世界一の最高のペットなんだお」
人の気も知らないでブーンは楽しげに喋っている。
ξ゚听)ξ「魔法使い?本当?」
( ^ω^)「本当だお!さあイチ、この子がツンだお。挨拶するお」
していいのか、挨拶。
しかたなく、俺はツンのベッドにもう一歩近付いてしゃがみ、
驚かせないように控えめな声で言った。
俺「・・・どうも」
161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 21:47:24.71 ID:dtE6Oyd50
ξ゚听)ξ「・・・こんばんは」
ツンは鈴の鳴るような声で言って、身体を起こそうとした。
( ^ω^)「だ、大丈夫かお?」
ξ゚听)ξ「平気・・・起きたいの」
ツンは慌ててブーンが背中に差し入れた手に手伝ってもらい、
ゆっくりと上半身をベッドから起こした。
ξ゚听)ξ「イチ、っていうのね?」
俺「・・・うん、まあ」
勝手につけられた名前だけど、本名を言うとツンが混乱しそうだから俺はしぶしぶうなずいた。
ξ゚听)ξ「顔を触ってもいい?」
( ^ω^)「もちろんだお!」
ξ゚听)ξ「あんたじゃないわよ馬鹿。私はイチに聞いてるの」
( )「・・・・orz」
へこんでいるブーンを横目で見ながら、俺は「いいけど」と言って
宙をさまよっているツンの手を取り、
それを自分の頬のあたりに持っていった。
166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 21:59:55.77 ID:dtE6Oyd50
ツンはなめらかに手をすべらせる。
頬からあご、鼻、それからくちびる、ぐるっと回って頭の方まで。
少し雨の湿気を吸って濡れた俺の髪の毛を
くしゃくしゃとなでる。
ξ゚听)ξ「・・・ナナみたい」
やがてツンは、ぽつりと言った。
俺「ナナ?」
( ^ω^)「ツンが昔飼ってたペットの名前だお」
ξ゚听)ξ「ナナもこんな風にさらさらで綺麗な毛をしてた。
ナナもこんな風に触らせてくれた・・・・」
ツンは細い指で俺の頭をなでながら
独り言のようにつぶやく。
ξ゚听)ξ「やさしくて賢くて、ナナは私の自慢だった。
ブーンと一緒にいっぱい遊んだ。陽の光の当たる場所で・・・三人で・・・」
173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 22:16:24.71 ID:dtE6Oyd50
ξ゚听)ξ「・・・かえりたい」
ツンはいつの間にか
光を反射しない目からぽろぽろと涙を流していた。
ブーンと二人でぎょっとして、けれど頭に手を添えられている俺は動けなくて、
どうしていいか判らないのでとにかく黙って固まっていた。
ξ゚听)ξ「帰りたい。ブーン。帰りたいよ。
またあの公園に行きたい。子供みたいに走り回りたい。
ドクオたちにも会いたい。ママとパパの顔が見たい。
ブーンが見たい。ブーンの顔が見たいよ。ブーン・・・・・・」
ぽろぽろと、とめどなく涙を流してツンは言った。
( ^ω^)「・・・帰れるお」
ブーンはツンの頭をぽんぽんとはたいて、とびきり優しい笑顔で言った。
( ^ω^)「だってお医者さんが言ってたお。ツンの『よくなりたい』っていう
気持ちが何より大切だって。
だから、きっともうツンは大丈夫だお!
注射も手術も怖くないお。退院したらいっぱいいっぱい外で遊ぶお!」
210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 23:15:15.64 ID:dtE6Oyd50
それからツンとブーンは二人でぼそぼそと話し合った。
ちゃんと薬を飲むんだとか、ドクオたちもお見舞いに来たがっているとか、
自分の病気にちゃんと正面から向き合うんだとか、いろいろ。
ブーンはずっとツンの手を握り締めていた。
ツンはブーンのいう事のいちいちに
うん、うん、とうなずいていた。
会話の端々から、
表面上は強がっていてもずっと手術を受けるのを怖がっていて、
ブーンはその臆病風に吹かれたツンをどうにかしたいと思っていたこととかが
俺にもなんとなくうかがい知れた。
( ^ω^)「それじゃあツン、さすがにもう寝なきゃいけないお。
こんな時間に急に来てゴメンだったお」
ξ゚听)ξ「ううん、いいの。すごく嬉しかった。ブーンのおかげで勇気が湧いたもの。
きちんと手術を受けて、絶対この目を治すんだって思ったもの。
・・・ちょっとくらい感謝してあげてもいいわよ?」
ツンは冗談めかして笑い、それから、俺のほうを見て言った。
ξ゚听)ξ「イチもありがとう・・・。久しぶりにナナに会えたみたいで、楽しかった」
215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 23:23:21.47 ID:dtE6Oyd50
俺は急にこっちにふられて、あたふたと「いや、俺は何も」と手を振って言う。
俺「・・・でも、少しでも役に立てたんなら、よかったよ。早く治るといいな」
ξ゚听)ξ「うん。本当にどうもありがとう」
ツンはブーンの手を借りてまた布団に身を沈める。
さすがに疲れたのか、すぐにとろりとまぶたが下がり始めた。
( ^ω^)「よし!帰るおイチ!看護士さんにつかまらないように!」
俺「またあの泥棒ごっこをやるのか・・・」
ちょっとウンザリしながらも、俺は何となく晴れやかな気持ちで病室を出ようと移動する。
ξ゚听)ξ「気をつけてね・・・雨、上がったみたいよ・・・」
ベッドからツンの眠たげな声がする。
( ^ω^)「お?本当かお?」
俺「みたいだな、雨の音が聞こえない」
ξ゚听)ξ「うん・・・きれいな・・・・お月様・・・・」
221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 23:36:02.25 ID:dtE6Oyd50
俺「・・・・」
( ^ω^)「・・・・」
俺( ゚ω゚ )『・・・・・・・へ?』
ドアの近くまで来ていた俺とブーンは数秒互いの顔を見つめあい、
それから光りの速さでツンのベッドに戻って
おたつきながらも慎重にカーテンを少しめくってみた。
ツンは何事もなかったかのようにすぅすぅと寝息を立てている。
けれど確かに、反対側のカーテンの隙間から、うすいレモン色の月が窓越しに見えた。
俺とブーンは恐る恐るといった感じで囁きあう。
俺「い、今の・・・?」
(;^ω^)「しゅ、しゅじゅちゅ前でも、光を感じ取るとか、少しだけ
回復することはありえるかもしれないって、でも・・・・でも・・・」
動揺の余り噛んでいることも自覚していないらしいブーン。
だが、俺は先程、一瞬だけツンの顔を正面から見たことを思い出してはっとした。
俺「さ――さっきさ、ツン、ちゃんと俺のほう見て俺に話しかけたよな・・・!?」
(;^ω^)「!!!」
ブーンは思わず叫び声を上げそうになったのだろう、ばっと口を押さえて、
それからがくんがくんとムチウチになりそうな勢いでうなずいた。
234 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/27(木) 23:50:56.58 ID:dtE6Oyd50
興奮の余り、放っておくとそのまま病室を駆け回らんばかりの勢いだったので、
俺はブーンを羽交い絞めにしてツンの病室から退出した。
ブーンは盆と正月がいっぺんに来たような顔をして、
それでも最後の理性で声だけは控えめに、その分、手足をばたばたさせて
喜びを体中から発散させていた。
( ^ω^)「やったお!やったお!回復の兆しってやつだお、
ツンは治るお、きっとぐんぐん良くなるお!」
俺「うんうん!」
かく言う俺も興奮していないといえば嘘になる。
だってこんなの奇跡みたいだ。映画や本の中でしかお目にかかれないような奇跡。
( ^ω^)「イチはすごいお!イチのおかげだお!!」
俺「お、俺?はは、いや俺は別に何もしてねーよ」
( ^ω^)「全然してるお、貢献しまくりだお!魔法使いさんにお礼をしなきゃ――」
あ。
ブーンははたとつぶやいて、それから急に顔色を変えた。
( ^ω^)「い、イチ、今何時だお!?」
247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 00:02:31.11 ID:Frw3qVRM0
俺「え?いや、知らん」
言いながら、時計はないかときょろきょろと辺りを見回す。
俺「一階のロビーで見た時はたしか、四時少し前じゃなかったかな――」
(;^ω^)「たたたた・・・・大変だお!!」
ブーンはだらだら汗を流して(正直キモイ)俺のリードを握り締め、
(;^ω^)「ぐずぐずしてたら夜が明けちゃうお!!イチ、急いで屋上に行くお!!」
俺「は?なんで?帰るんじゃねーの?」
(;^ω^)「なんでもいいから早くするお――っ!!」
俺「ちょ待っ、ぅぐえっ!」
何が何だか判らないまま、俺は暴れ馬のように疾走しだしたブーンに
病院の屋上まで一気に引っぱられた。
俺の首が無事だったのもある意味奇跡だと思う。
260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 00:13:54.43 ID:Frw3qVRM0
(;^ω^)「ぜえ、はあ・・・・ど、どうにか間に合ったお・・・」
俺「お・・・お花畑が見えた・・・・・
一瞬、綺麗な川とお花畑が・・・・・ッ」
俺が酸欠でくらくらした頭で
さっき死んだ筈のじいちゃんに会った気がするな・・・と考えていると、
ブーンはなにやらポケットをさぐり、紙のようなそうでないようなものを取り出した。
ハ○ポタの映画で見た、羊皮紙、というものに似ている。
ブーンはくるくると巻かれたそれのヒモをほどいて、ぶつぶつと中身を読み上げ始めた。
( ^ω^)「えーっと。ショボン魔法会社、魔法使い呼び出しの方法。
初めての方はこちら、そうでない方はこちらのページを・・・・・」
・・・魔法使い?
俺「なあ、ブーン、それって・・・?」
( ^ω^)「あーイチ、ちょっと黙っててだお。ややこしいから集中したいお」
俺「・・・。はい」
267 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 00:22:56.47 ID:Frw3qVRM0
俺が何となく、少し離れた乾いた場所でちょこんと体育すわりをしている間、
ブーンはしばらく巻物を見てぶつぶつ言って、
それから「よし」と呟いて羊皮紙っぽいものを屋上の濡れた地面に置いてしまった。
( ^ω^)「確認おk!呼び出し準備完了!いざ!降ー臨ーしたまえーーだお!!」
俺「・・・・・」
んばっ、と両手を広げて、薄ぼんやりと明るくなりかけている
東の空に向かってブーンは叫んだ。
俺「・・・・・」
( ^ω^)「・・・・・」
俺「・・・・・」
( ^ω^)「・・・・・」
俺はバンザイをし続けているかわいそうな人を遠くに見つめる。
朝ご飯はフレンチトーストにしよう、と思った。
275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 00:33:05.25 ID:Frw3qVRM0
(´・ω・`)「はい毎度どーもー」
俺「ひいぃっ!?」
朝飯のメニューに気をとられて完全に気を抜いていたので、
突然なんの前触れもなく至近距離でそんな声がして
俺は腰を抜かさんばかりに驚いた。
俺「なっ、なっ、なっ・・・・・!?」
( ^ω^)「あ、魔法使いさん!いつの間にそんな処に!
人が悪いお、ブーンちょっぴり泣きそうだったお!」
(´・ω・`)「だっていくら二十四時間営業ったって、こんな早朝に呼び出しかけられても
すぐには対応できませんってー」
俺の座っていた場所(ちなみにひさしのある屋上の出入り口)の
すぐ真後ろに、いつの間にか見覚えのある八の字まゆが膝を抱えて座り込んでいたのだった。
俺「あっ――、お、お前!」
(´・ω・`)「どもー。心を込めてがモットーのショボン魔法会社です」
魔法使いは無表情にへにゃっとしたピースサインを俺に見せた。
285 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 00:43:40.67 ID:Frw3qVRM0
(´・ω・`)「それで?今日はどういった御用向きで」
ブーンは雨の名残の飛沫を飛び散らしながら
俺と魔法使いの傍まで駆けて来て、
( ^ω^)「クーリングオフをお願いしたいんですお!」
と言った。
クーリングオフ。
ああ・・・・
そういやそんな事言ってた気もするな、
俺がアレに連れて来られた最初の日に。
動転しててすっかり記憶から抜き落ちてたけど。
クーリングオフ・・・・
俺「・・・・・え、クーリングオフ?」
304 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 00:57:38.26 ID:Frw3qVRM0
(´・ω・`)「えー。それってキャンセルってこt・・」
俺「そっ・・・・・、それって、帰れるって事か!?
お、俺の元いた世界へ!?」
俺はどもりながら魔法使いの言葉をさえぎり、
身を乗り出してブーンに言った。
( ^ω^)「そうだおイチ!七日目の朝が期限ギリギリだったんだお。
危なかったおwwww」
俺はその言葉を聞いた瞬間、
喜びに満ち溢れた天上の音楽が胸の中に響き渡った気がした。
戻れる!
首輪とか首輪とか首輪のない世界へ戻れる!
しかし、感涙の涙が頬を伝う前に、俺はふとブーンに向き直った。
俺「でも、何で帰してくれる気になったんだ?
だってお前俺のこと、世界一のペットだって・・・・」
・・・いや念の為に言っておくが、これは俺がこいつのペットとして傷ついたとか
そんな事では決してなく。
純然たる好奇心であり、真実を見極めたい気持ちの表れであり、うん。
330 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 01:13:26.59 ID:Frw3qVRM0
( ^ω^)「・・・うん。もちろん今でもそう思ってるお」
ブーンはにっこりと、けれど少しだけ淋しそうに笑って言った。
( ^ω^)「料理はうまいし、ゲームは強いし、優しいし、髪はさらさらでかわいいし、
イチよりいいペットなんてどこにもいないお。
間違いなく、ブーンの一生ぶんの自慢のペットだったお」
過去形で話すブーンに何故かちくりと胸が痛んだ。
俺は立ち上がってブーンと向き合う。
( ^ω^)「イチ、ブーンは、一週間前のあの日、突然やってきた魔法使いさんに
こう言われたんだお」
340 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 01:17:34.25 ID:Frw3qVRM0
-------
はい毎度ー。ショボン魔法会社です。
突然ですがこちらではただいまお願いを承っておりまして。
どうですか、どんな願いでも叶えて差し上げますけども。
あ、訂正します、どんな願いと言っても2,3禁止事項がございましてですね、
えーその1、他人の心に関する魔法は御法度。
えーその2、他人の身体に関する願いは御法度。
えーその3・・・・
はい?
病気ですか?・・・君のじゃなくて。・・・友達の?
あー、そういうのはちょっとね、ダメなんだね。
そういう命のやり取りっぽいのはホラ、うちの管轄じゃないからさ。
悪魔さんとことか、死神さんとこの取扱いになっちゃうんだねー。
君自身の病気なら治せたんだけどね。
はいはい、ええ、そうなんですよ。
だからもうちょっと別の願いをね・・・・。
・・・はあ。
・・・・・・ペット?
355 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 01:27:39.44 ID:Frw3qVRM0
---------
(´・ω・`)「判り易く回想シーン入れときました」
俺( ^ω^)『・・・どうも』
一応礼を言ってから、あらためてブーンと俺は向き直る。
( ^ω^)「それで、ブーンは言ったんだお。
病気の友達を勇気付ける為のペットが欲しいって。
ツンの病気は手術すれば治るのに、治療に一番必要な「気持ち」を
ツンは忘れてしまっていたお。
それでブーンはツンが昔飼ってたナナを思い出したんだお。
「私にあたたかいものを教えてくれたのはナナだ」って、ツンは昔から言ってたお。
だから、ナナよりももっともっと素晴らしい、世界中のどんなペットにも負けない、
ツンにあたたかい気持ちをくれるようなペットが欲しいって」
俺「・・・・・・・・」
382 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 01:42:10.71 ID:Frw3qVRM0
俺「そうだったのか・・・」
こいつは本当にずっとずっと、ツンを一途に想っていたんだろう。
なんでも願いを叶えると言われて、
とっさにツンの事しか思い浮かばなかったぐらいに。
俺は不覚にも涙ぐみそうになってしまった。
俺「なんだよお前・・・ちょっとカッコイイじゃん」
( ^ω^)「うはwww照れるおwwwwっていうか、実は昔から
ナナを飼ってたツンがうらやましくて
自分のペットが欲しかったのも本当なんだおwwwww」
俺「そんなこったろうと思ったよw」
( ^ω^)「でも・・・実はナナも、ツンのお家には一週間しかいなかったんだお」
俺「え・・・・えぇっ!?」
( ^ω^)「今回のことがあって、もしかしてと思ったんだけど、まさか・・・・・」
ブーンと俺は揃って魔法使いを見た。
八の字まゆは首をすくめて、
(´・ω・`)「うちは創業二百年の老舗ですからねー。
帳簿見ないと何ともいえないですけど、まあ、可能性はありますね」
409 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 01:56:35.70 ID:Frw3qVRM0
俺「・・・・」
( ^ω^)「・・・・・うふふだおwww」
俺「・・・・ははは」
なんだか可笑しくなって、俺とブーンはケラケラ笑いあった。
そんな俺たちをしばらく眺めて、魔法使いはやれやれといったふうに立ち上がり、
(´・ω・`)「で?今ならキャンセルとクーリングオフ、どちらも受け付けておりますが?」
と言った。
俺「どう違うの?」
(´・ω・`)「願い事のキャンセルをすると、願い事自体が「無かった事」になる。
つまり君はこんな世界へは来なかった。飼い主の彼とも会わなかったし、
病気の友達の記憶からも消える」
魔法使いは人差し指をついと立てて説明し、
次いで、もう一本指を出して続ける。
(´・ω・`)「品物のみのクーリングオフって事であれば、誰の記憶も消えない。
君が元いた処に戻るだけ。
ああ、もう気付いているかもしれないけど、君にとって
ここはいわゆるパラレルワールドだからね。
元の世界に戻った時に少し記憶が曖昧になるかもしれないけど、
まあその辺はご容赦を」
俺「え・・・俺の記憶、消えるのか?」
(´・ω・`)「んー、だからその辺は君の運次第なんだねー。運がよければ消えない。悪いと消える」
431 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:06:18.53 ID:Frw3qVRM0
俺「そっか・・・・」
俺はブーンを見た。ブーンも俺を見ていた。
俺「お前、だから俺とツンを早く会わせようとしてたんだな。
七日過ぎてからじゃ、せっかくツンを勇気付けても記憶消えちゃうもんな。
はじめから俺を帰そうと思っててくれたんだな・・・・・」
( ^ω^)「・・・イチ。これで帰れるお。
イチは、もしかしたらブーンたちのこと忘れちゃうかもしれないけど・・・・
ブーンは・・・ブーンはイチのこと、絶対に絶対に忘れないお!
本当に・・・・・・ありがとうだお・・・・・」
くしゃくしゃとブーンの笑い顔がつぶれる。
涙を堪えて。
それでも涙は、堪えきれずに後から後からこぼれていく。
俺「・・・・ばあか。俺だって、絶対忘れないよ」
たぶん、俺も顔がぐしゃぐしゃだったろうけど、必死にかっこつけてそう言った。
449 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:15:15.54 ID:Frw3qVRM0
(´・ω・`)「青春・・・・」
魔法使いが朝日の昇り始めた空を見上げて
馬鹿な事を言っているが、そんな事で雰囲気を壊すのもシャクだったのでシカトした。
( ^ω^)「グスッ・・・じゃ、じゃあ魔法使いさん、クーリングオフでお願いしますお!」
(´・ω・`)「ああはいはい。じゃ行きましょうか」
そう魔法使いが言うが早いか、
魔法使いと俺の身体は淡い薔薇色の光に包まれ、
しかもふわりと風に乗るように浮き上がった。
俺「う、うわっ・・・・」
自力で空に浮かんだことのない俺はかなり面食らってじたばたしたが、
「動くと落っこちますよ」と言われた瞬間ぴたりと身体の動きを止めた。
俺「ブーン!」
ふわふわと落ち着かない体勢で、俺は首だけを必死に動かして
ひとり朝の屋上に佇むブーンを目にしようとした。
474 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:24:35.19 ID:Frw3qVRM0
ブーンは涙でべしょべしょの顔で、それでも馬鹿みたいに笑っていた。
この一週間ずっとそうだったように
おひさまみたいな笑顔をいっぱいに浮かべていた。
( ^ω^)「イチー!楽しかったおー!」
俺「お・・・俺も・・・俺もそれなりに退屈しなかったぞーっ!」
( ^ω^)「きっと帰っても覚えてるおー!」
俺「こんな馬鹿馬鹿しい体験、意地でも覚えててやるよー!」
だんだんお互いの声が届きにくくなっていく。
俺とブーンは精一杯声を張り上げて
別れの挨拶をした。
( ^ω^)「あっ・・そ・・・そうだお・・・・イチ!
イチの本当の名前は!?元の世界の本当の名前はなんていうんだおー!」
そうして、光がどんどん強くなり、もう消えてしまうという処で、
ブ−ンは最後の声を振り絞って俺にこう問いかけてきた。
511 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:33:08.59 ID:Frw3qVRM0
あのバカ、こんな最後の最後で・・・
勝手に変な名前ばっかりつけてたくせに。
俺もつられて笑ってしまった。
涙と大声で、笑い声はすっかりかすれていた。
俺はもう光の向こうにかすかにしか見えないブーンに向かって
最後の、本当に最後の言葉を叫んだ。
俺「はるかだよブーン!
俺の名前! 市ノ瀬春香!
なあ、覚えててくれよ!
俺が忘れちゃってもいいようにさあ!
・・・今度はペットのイチじゃなくてさあ・・・・!
友達になりに行くからさあ・・・・!!
ブーン――・・・・・・・・・・・・・・・!!!」
535 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:37:30.07 ID:Frw3qVRM0
俺「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うぁ」
目を覚ますと、目覚ましの鳴る前だった。
朝の柔らかな光。窓の外からは小鳥の声。
ごく当たり前の休日の朝だ。
俺「・・・・・」
はれぼったい目をごしごしこすって、俺は身体を起こした。
俺「なんだ・・・・夢か・・・」
559 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:42:36.86 ID:Frw3qVRM0
俺「・・・おはよ、お母さん」
母「おはようー」
なんだか目が覚めてしまったので
二階の自室から台所へ降りていく。
そこでは当たり前のように、お母さんがいつものように朝食を作っていた。
ジュウジュウいっているフライパンと甘い匂いからして、
今日のメニューはフレンチトーストだ。
母「どうしたのー、こんなに早起きするなんて珍しいじゃない」
母さんはフライ返しを持ってにこにこと楽しそうに言う。
俺「んー・・・」
俺はパジャマのままテーブルに座って目に付いた朝刊を手に取った。
でも、内容なんかちっとも頭に入ってこない。
なんか・・・
もっとだいじなこと、しなきゃいけないような気がするんだけど・・・
592 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:49:56.21 ID:Frw3qVRM0
俺「・・・・・あーダメだ、思い出せねえ。くそっ」
母「こら春香、その言葉遣い直しなさいよー?
再来年はもう中学生なんだから。お姉さんでしょ、おねえさん!」
俺「あーい・・・」
生返事をして、俺は新聞にほっぺたをくっつける。
俺がダラダラしている間に
お母さんは手際よく出来上がった料理をテーブルに並べていく。
俺「・・・ねえ、お母さん?」
母「なあに?」
俺「昨日すごく変な夢見た気がするんだけど・・・・」
母「あら、どんな夢?」
お母さんは皿を並べ終えてテーブルに座り、サラダを俺の小皿に
取り分けてくれながら言う。
633 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 02:57:36.94 ID:Frw3qVRM0
俺「えっと・・・あー・・・たしか・・・」
霞がかかったようにぼやける記憶を、俺はなんとかかき集めようと努力しながら、
俺「・・・そうだ、たしか、ちょっと太った男の子がでてきた。
それと胡散臭いしょぼーんとした奴と・・・
金髪の綺麗な女の子がベッドで寝てた。
でね、俺が男の子にオムライス作ってあげてた」
母「それはたしかに変な夢ねえ」
お母さんは俺の話を聞いて、楽しそうにころころ笑った。
俺はそれを見るともなく見てサラダをつつく。
俺「それで・・・・
その夢をね、忘れないようにと思って起きたんだけど・・・・
気が付いたらあんまり覚えてなくて・・・・
それが・・・・
それがなんだか哀しくて・・・・」
母「・・・春香?」
俺「・・・え?」
ぼんやりと喋りながらうつむいていた顔を上げる。
俺はいつの間にか泣いていた。
662 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 03:03:28.58 ID:Frw3qVRM0
俺「あ・・・あれ?お、おかしいな。な・・・なんで・・・・・っ」
壊れた水道みたいに
あとからあとから勝手に流れ出てくる涙。
さっぱり訳が判らなくて、俺はとても困ってしまった。
母「・・・・」
お母さんはもっと訳が判らなかっただろうに、
何も言わずにおっと席を立つと
正面から俺の隣に移動して、黙って俺を抱きしめてくれた。
俺はそれに素直に甘えることにして
しばらくお母さんの胸に顔をおしつけてしくしく泣いた。
小娘みたいでちょっと恥ずかしかった。
まあ・・・俺が小娘なのは事実なんだけど。
母「そういえばねえ。お母さんもそういう夢、何度か見たことがあるわ」
俺「・・・え・・・?」
だいぶたって、俺がしゃくりあげる声も小さくなった頃、
お母さんがふいにそう言った。
699 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 03:10:32.33 ID:Frw3qVRM0
母「お母さんが子供の頃の話なんだけどね。
金髪の女の子と、その女の子の友達の男の子と仲良くなる夢を見たの。
花のいっぱい咲いているお庭や公園で遊ぶ夢」
俺「・・・・・」
俺はぽかん、とおかあさんを見つめた。
何かが、心の奥で響いた気がした。
扉の開く音みたいなもの。
母「女の子と男の子、とっても仲が良さそうだったわ。
そうねえ、男の子は少しふっくらしていたかもしれない」
俺「お・・・っ、おか、お母さん」
母「なあに?」
俺「お母さん、なんて呼ばれてた!?
その女の子に!その男の子になんて呼ばれてたっ!!?」
するとお母さんはにっこり笑って、ナナよ、と優しく微笑んだ。
あたたかみというのが凝縮されたみたいな、お母さんのとびっきりの笑顔だった。
母「お母さんの名前、奈々花だから、ナナ。
それで可笑しいのが、お母さんその金髪の子と遊ぶ時は
いつも首輪をつけているのよ。きっとペットのつもりだったのね」
747 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 03:22:23.21 ID:Frw3qVRM0
俺「・・・・あは」
俺は止まった筈の涙を流しながら
お母さんの首に飛びついた。
ああ、そうか。
そうだったんだ。
俺「あはははっ!お母さんだった!お母さんだったんだ!」
母「あらあら、なあに?春香ったら」
俺「お母さんだった!お母さんがナナだったんだあっ!」
俺は木漏れ日みたいにあったかい、
しあわせな気持ちでいっぱいだった。
ブーン。
ツン。
ねえ、俺、お前たちの大好きなナナの娘だったよ。
こんなに嬉しいことってあるかな?
754 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 03:23:50.71 ID:Frw3qVRM0
ねえ、びっくりだよ。
お母さんだったんだ。
ツンにあたたかい心を教えてあげたのは。
ブーン、お前、やっぱりすごいよ。
だって俺じゃあ、全然お母さんに敵わないもの。
俺はお母さんを超えるすごいペットなんかじゃなかったよ。
きっとお前の力だよ。
お前のあたたかい心がツンに力をあげたんだ。
ねえ、ブーン。
ツン、早くよくなるといいね。
早く家に帰れるといいね。
お母さんが帰って来れたみたいにさ。
俺が帰れたみたいにさ。
ねえ、ブーン。
二度あることは三度あるっていうしさ、
もしかしたら、今度は俺の娘がそっちに行くかもしれないよ?
その時は仲良くしてやってな。
オムライスぐらい、また作ってやるからさ。
760 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/07/28(金) 03:25:14.42 ID:Frw3qVRM0
はい。
えー・・・・
おしまいですよ
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