( ^ω^)ブーン系小説完結作品集('A`) 〜( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです 2、「Chain」〜

( ^ω^)ブーン系小説完結作品集('A`)

( ^ω^)ブーン系小説完結作品集('A`)更新情報


TOP ( ^ω^) ('A`) ( ´_ゝ`) (´・ω・`) 川 ゚ -゚) (*゚ー゚) ξ゚听)ξ




当サイトはブーン系小説の完結作品集 です。 読み物系は嫌いって方はご退場ください


下記からブーン系小説のジャンルを選択してください
ギャグ系:
戦闘系:
五十音別:
感動系:
カオス系:
作品一覧:
下ネタ系:
未分類:
その他:
66 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:02:38.67 ID:EO7KUsBK0

助けて

既に日が暮れた路地裏を私は走っていた。
暗い道を駆ける私の後ろには、微笑みかけてくる奴がいる。

走って、走って、逃げて、逃げて

我武者羅に走り続ける私の息は既に上がり、体中には汗が浮かんでいる。
疲労からか、体の節々に鉛でも付いているかのような重量感さえ感じられた。

追いつかれたら、殺される

それでもなお、速く走る事を望んだ。
何故なら殺されるからだ、それだけは確信している。

あの悪魔に、人の皮を被った悪魔に

私は見てしまった、奴が、いやあの悪魔が人を殺している所を。
そして、私も悪魔に見つかってしまった。

とにかく、走って

私を見た瞬間、奴は笑った。
そう笑ったのだ、返り血を浴びた血塗られた姿で、まるで悪魔のように。

誰か、誰か、誰か

その笑みを見ただけで、私は殺されると理解できた。
でも、私は死にたくない。あいつの、ブーンの笑顔が見れなくなるなんて嫌だ。
だから、誰か、


67 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:03:12.31 ID:EO7KUsBK0








                タ   ス   ケ   テ







69 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:04:56.33 ID:EO7KUsBK0

2、「Chain」

ζ;゚听)ζ「っ!!」

眩しい朝の光の中、私はベットの上で体を跳ね起こした。
と同時に顔を動かして、辺りを見回してみる。

窓にかかったレースのカーテンからは光が差し込み、綺麗に整頓された勉強机を照らす。
ドアのそばの壁には、ハンガーに吊るされた学校の制服があった。

ここはさっきまでいた路地裏なんかじゃなくて、正真正銘、私の部屋だ。

ζ゚听)ζ「……夢か」

そう呟きながら、私は軽く伸びをする。

ζ゚听)ζ(それにしても酷い夢…)

疲れが溜まっているのかなと思う。

確かに最近は連日の受験勉強のせいで、あまり眠れていない。
そんな寝不足の眼を擦りながら、ベッドの横にある置き時計を確認してみると、

時刻は8時25分。


72 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:06:40.03 ID:EO7KUsBK0


ζ;゚听)ζ(やばっ、完全に寝坊した!!)

8時30分には、いつもの如くブーンが家の前まで、迎えに来てしまう。

日頃、待たせてばかりいるから、たまには私が早起きして、
彼を待とうと思っていたのに、過去最高の寝坊をしてしまった。

ζ;゚听)ζ「もう、これも全て受験のせいよ!!」

責任転換しながらも、私はパジャマを脱ぎ棄て制服に着替える。
これまでの寝坊の経験からか、今では約20秒で着替える事が出来るようになっていた。

指運を上手く使い片手でボタンを閉めながら、空いた片手で襟を正し、スカートへ。

そうやって19秒台で着替え終え、
鞄を手にした私は、階段を4歩で飛ぶように駆け下り、洗面所へ向かう。


73 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:08:22.21 ID:EO7KUsBK0


この起きてからの一連の動作は、さながら忍者のようだ。
そんな事がふと思い浮かんだが深くは考えない、とにかくそれ所では無い。

ζ;゚听)ζ「うわぁ」

そして、洗面所の鏡を見て、私は声を漏らしてしまった。

今、鏡には自分の頭を見て、驚いた表情をしているメデューサが映っている。
まあ、実際それはメデューサでも何でも無く、凄まじい髪形の私自身なんだけど。

ζ;゚听)ζ(と、とにかく 顔は洗わないと)

すぐにでもシャワーを浴びて、この髪形をどうにかしたい所だが、
ブーンを待たせる訳にもいかないし、学校に遅刻する訳にもいかない。

洗った顔をタオルで拭き、名残惜しみながらも、洗面所を後にする。



74 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:10:05.00 ID:EO7KUsBK0


今度は一日の活力源である、朝ご飯だ。
台所に向かうと、母が椅子に座って、御茶を啜っていた。

ζ#゚听)ζ「ちょっと、お母さん!! なんで、今日も起こしてくれなかったのよ!!」

J( 'ー`)し「あらあら、やっと、起きたのね」

ζ#゚听)ζ「やっと、起きたのね、じゃないわよ!!」

J( 'ー`)し「おはよう、ツンちゃん。
      ゴメンね。お母さんボ〜としてて、もうそんな時間だったかしら?」

いつも通り呑気な母は、私に朝の挨拶をした後、もう一度ゆっくりと御茶を啜った。
焦りというものが全く見られないその挙動に、私の怒りも萎えてしまう。

ζ゚听)ζ「もう、お母さんはいつもそうなんだから」

J( 'ー`)し「ふふ、ゴメンね。あら、髪型が変よ。まるで、ハリネズミみたいね」

ζ#゚听)ζ「う〜る〜さ〜い〜」

クスクス、笑う母に少しイラっときたが我慢して、
事前に用意され、食卓の上に置いてあった、母の手作り弁当を鞄に仕舞った。


75 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:13:08.37 ID:EO7KUsBK0


ζ゚听)ζ「今日も時間無いから、朝ごはんはパンだけにするからね」

J( 'ー`)し「朝ごはんはちゃんと食べないと体に悪いですよ」

ζ゚听)ζ「だったら、ちゃんと早く起こしてよ!!」

軽く怒鳴りながら、机の上の食パンを二枚くわえて、台所を後にする。
無駄な所で、時間を浪費してしまった。このままで間に合うかどうか。

J( 'ー`)し「いってらっしゃ〜い」

ζ゚听)ζ「いってきます!!」

笑顔でひらひらと手を振る母の、間延びした声に一応は返事をして、玄関に駆けこむ。
すぐさま靴を履いてドアを開けると、輝かしい太陽が私を照らした。

もう夏に入っていると言うのに、気温はさほど高くも無く、気持ちのいい風が私を包む。



76 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:14:52.51 ID:EO7KUsBK0

ζ゚ー゚)ζ(う〜ん、今日も快晴。いい気分)

( ^ω^)「ツン、今日も遅刻だお」

そんな清々しい気分のまま、玄関から一歩を踏み出すと、聞きなれた男の声が聞こえた。
その声を聞いた私は、わざと険しい表情を作る。

ζ゚听)ζ「うるさいわね。毎日毎日、細かいのよブーンは」

目の前では私に背を向けて屈んでいるブーンが、我が家の愛犬ペスと戯れていた。

( ^ω^)「おっおっ、ペスもこんな寝坊助を飼い主に持って大変だお」

▼・ェ・▼「ワンッワンッ」

私の愛犬ペスが、ブーンに向かって元気に吠える。

ζ゚听)ζ「何? 喧嘩売ってんの? ペスもこんな奴に返事しないでよ、まったく」

( ;ω;)「おおお、今度は逆切れだお。可哀そうなブーンを慰めてくれお」

▼・ェ・▼「クゥ〜ン」

私の愛犬ペスが、今度はブーンの顔を舐める。

( ^ω^)「なあ、ペス。ツンのペットでお前幸せかお?」

▼・ェ・▼「ウゥゥゥゥゥゥゥ!!」

私の愛犬ペスが、今度は低く唸った。


77 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:16:39.98 ID:EO7KUsBK0


ζ;゚听)ζ(何で、こんなに息が合ってるの?)

ζ゚听)ζ「ちょっと、私のペスになにか変な事いれこんだでしょう!!」

( ^ω^)「お? ブーンはただペスと話してただけだお」

▼・ェ・▼「ワンッ」

そう言いながら、振り向いたブーンは、私の顔を見て驚きの声を上げた。

(;^ω^)「ちょっ、ツン」

ζ゚听)ζ「え? な、なに?」

( ^ω^)「今日のツン……」

場の空気が一瞬止まる。

急に真剣な眼差しになって、私の顔を見つめてきたブーン。

そんな彼の視線と目が合い、私の鼓動は勝手に速まり、さらに、顔も徐々に赤みを増していった。
そして、未だに私の顔を見つめてくる彼の視線に耐えきれず、私は目を逸らしてしまう。



78 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:18:24.30 ID:EO7KUsBK0


ζ///)ζ「な、なによ……」

頬が熱くなり、トマトのように赤くなっているのが分かる。
私は溢れ出て来るこの感情をどうにかしようと、手にしていた学校の鞄をギュッと強く握った。

すると、恥ずかしさに俯いている私に、沈黙を続けていた彼が口を開いた。

( ^ω^)「髪型が変だおwwwwwwwww ベジータみたいでキメェwwwwwwwww」

ζ )ζ「………死ね」

ブーンが沈黙の空気を一転させて、
私の髪を指差し、腹を抱えて笑いだす。

その彼の顔面に、玄関からの助走をつけた私の飛び蹴りが炸裂した。



79 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:20:07.16 ID:EO7KUsBK0


ζ#゚听)ζ「もう、あんたのせいで学校遅れちゃうじゃない!!」

私は今、アスファルトの道路の上を、学校に向かって走っていた。
もちろん、私の少し後ろには、顔を腫らしたブーンが一緒に走っている。

ζ゚听)ζ「あんな馬鹿面下げて、気絶なんかしてるから!!」

( ^ω(メ)「おっおっ、気絶させたのはツンだお」

ξ#゚听)ζ「ブーンが私の髪形を笑ったから悪いんでしょ!!」

鞄に入れておいた櫛で、髪の毛を梳かしながら怒鳴る。
走りながらなので上手く梳かせないけど、応急処置ぐらいにはなるだろう。

(;^ω(メ)「あうあう、ごめんお。それより、ツン」

ξ゚听)ξ「何よ?」

( ^ω^)「昨日のクッキーおいしかったお。ありがとうだお」

ξ゚听)ξ「はあ? クッキーって何の事よ?」

(;^ω^)「お? いや、覚えてないならいいお」



80 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:21:49.21 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「変なブーンねぇ……」

この情けない面をしている男とは、幼い頃からの友達、そうただの友達だ。
べ、別に付き合ってるとかそういうのではなくて、朝、一緒に登校しているのも、
ブーンが一緒に行きたいって言ったからで、

ξ*゚听)ξ(す、好きとかそんなんじゃ、無いんだから)

なんか、イライラしたので、、振り返って睨みつけてやった。


( ^ω^) ………

( つω)


ブーンがそんな私を見て顔を逸らし嘘泣きを始めたが、それを無視してくわえていた食パンを頬張る。
既に一枚目は、ブーンが気絶している間に食べてしまっていた。

ξ゚听)ξ「まったく、こんな髪型になったのも、受験勉強とあんたのせいよ」

(;^ω^)「ブーンはまったく関係な……」

また、睨みつけて黙らせる。



81 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:24:48.85 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「それと、あの夢のせい…」

そこで今まで忘れていた、今朝の悪夢を思い出してしまった。
夢の中でも今のように走っていた事に気付くと、私の声のトーンが自然と落ちていく。

( ^ω^)「お? 何か変な夢でも見たのかお?」

そんな私の変化に気付かず、後ろからブーンがやけに明るい口調で聞いてきた。

ξ゚听)ξ「そうなの、怖い夢を見ちゃって」

( ^ω^)「ブーンはツンの事が怖いお」

ξ#゚听)ξ「せいや!!」
    \
( ^ω(鞄三「ぷぎょぉ!!」

立ち止まり、振り向きざまに右手の鞄を叩き込むと、豚のような奇声が上がった。

静止する事による相対速度の変化と、鞄の遠心力、体重移動の力を上手く使った私の攻撃は、
ブーンを軽く吹っ飛ばし、アスファルトに後頭部から叩きつける。

( ゚ω゚).・;'∴

どうやら鞄の当たり所が悪かったらしく、鼻血が噴水の如く噴出して、地面を真紅に染めていった。
通りすがりの人に見られたら、殺人現場か何かと勘違いされてしまいそうだ。



82 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:27:07.35 ID:EO7KUsBK0


だが、私はこんな馬鹿にかまっている余裕と、優しい心は持ち合わせていなかった。

ξ゚听)ξ(このままじゃ、学校に遅刻しちゃう)

私はブーンを無視して、また走り出す。

気持ちのいい風を浴びながら、他に考える事の無い私は、
櫛を鞄に仕舞いながら、今朝の夢の事を考えていた。

今朝の夢は何か変だ。

夢にしてはリアリティがあり過ぎた気がする。それとも、夢というのはそういうモノなのだろうか。
それに、考えてみれば、もしあれが現実にあった事だとしたら、脳が記憶している筈だ。

けれど、そんな事があった覚えは私には無い。

やはり、受験勉強の疲れからあんな夢を見てしまったのだろうか。
さしずめ、私を追っていた男は、刻々と迫る受験日当日の日時を意味しているのだろう。


85 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:28:51.00 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「おーい、ブーンは放置かお?」

急にノイズが聞こえたが、無論、無視する。

( ^ω^)「おいす〜、聞こえてるかお〜」

ξ゚听)ξ「………」

( ^ω^)「へい、そこの奇麗な御嬢さん、ブーンと一緒にチェケダベイベしないかお?」

ξ#゚听)ξ「うるさい!! あんたなんて知らないんだから」

(;^ω^)「おっ、さっきのはご免だお。ついつい本音が」

ξ゚听)ξ「何? もう一度殴られたいって?」

((;^ω^))「いえいえ、滅相もございませんお」

両方の鼻にティッシュを詰め込んだブーンが、勢いよく手と首を横に振った。
その姿を見て、私は溜息を漏らす。


87 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:30:52.65 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「で、話を戻すけど、どんな夢を見たんだお?」

私の様子を知ってか知らずか、ブーンは強引に話を戻した。
そんな彼に、内心苛立ちながらも私は夢の内容を簡単に話し始める。

ξ゚听)ξ「なんか、狭い路地裏で男に追いかけられて……」

( ^ω^)「それで?」

ξ゚听)ξ「……殺されそうになった夢」

( ^ω^)「………」

質問をしてきたブーンが黙り込み、沈黙が場を支配する。
さらに走る足を止めた彼は、私の瞳をただ見つめてきた。

おのずと、私も足を止める。

ξ゚听)ξ「ちょっと、どうしたのよ?」

明るく、努めて元気な表情で振り返り、呼びかけた。
やっぱり、こんな話題は言わない方が良かったと、内心後悔しながら私は無理に笑顔を作る。



88 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:32:35.69 ID:EO7KUsBK0


ξ゚ー゚)ξ「ほら、学校遅れちゃうわよ?」

( ^ω^)「ツン……」

ξ゚ー゚)ξ「ん、何?」

いったいどうしたと言うのだろうか。
ブーンは未だに真剣な目で私の顔を見つめ、沈黙している。

確かに朝っぱらから、誰かに殺されかけた夢の話なんて、
場の空気を悪くするのは当たり前だが、所詮は夢の話だ。

ここまで、空気が重くなるのはおかしい。

まさか、今朝の髪形に対する発言の時みたいに、
わざと真剣な顔をして、私を騙そうとしているのだろうか。



89 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:34:19.97 ID:EO7KUsBK0


けれど、今のブーンからはそんな気配は感じ取れなかった。

ξ゚听)ξ「ねえ、本当にどうしたの? 何か変だよ?」

( ^ω^)「ツン、ブーンが……」

そう私が言うと、ブーンは何か決心したかのように、口を開きかけた。
その後、一拍、間をおき、私の両肩を掴んで、目を見つめ、

(;^ω^)「ブーンは毎日、ツンの理不尽な暴行を受けて殺されかけているんだけれど、
      その事についてはどう思うお?」

戯言をほざいた。



90 :( ^ω^)ブーンが操り人形になるようです :2007/05/12(土) 00:36:09.15 ID:EO7KUsBK0


ξ#゚听)ξ「結局、二度ネタかああああああああああああああああああ!!」

叫びながら肩の上の両手を払い、右手を正拳に構える。

狙うは人体の急所、鳩尾。

鞄を上空に放り投げた私は、空いた左手で彼の胸倉を掴んだ。
そして、その手を引く事により、直撃時の衝撃を上げると共に、体の捻りも最大限に活用する。

ξ#゚听)ξ「このすかぽんたあああああああああああん!!」

( ゚ω゚).・;'∴ 「ぐほぉっ!!」

インパクトの瞬間の発声と共に右拳を肋骨の隙間に捻じり込ませた。
この動作により横隔膜に直接ダメージを与え、肺の機能を一時的に停止させ、呼吸困難に陥らせる。

完璧に決まった攻撃は彼をその場に跪かせ、私は片手を上空に突き出し、落下してきた鞄を頭上でキャッチした。
前述通りに上手く呼吸ができなくなったらしく、目の前で俯くブーンの息を吸うリズムが安定していない。



91 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:37:53.21 ID:EO7KUsBK0


理想通りの攻撃、そして、ダメージ。
その結果に、私は自然と笑みの表情を作っていた。

ξ゚ー゚)ξ「ねぇ、ブーン。仏の顔も三度までって知ってる?」

(;^ω^)「ぐ、ひぃひっは、ツ、ツンそ、その言葉を今使うのはぁ、間違っててぇるお。
      すぃでに今日は、三回もぶちのめされてる、お」

ξ゚ー゚)ξ「だから、その三回が仏の顔なのよ。」

(;^ω^)「……おひぃ」

ξ^ー^)ξ「そして、次からはどうなるか、わかるかな?」

((;゚ω゚))「おっおっおっ」

笑顔の私を見て、頭を抱えて震えだすブーン。
その情けない姿を見て、ちょっとやりすぎたかと内心後悔しつつも、時間が迫っている事を思い出した。


94 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:41:17.56 ID:EO7KUsBK0

ξ゚听)ξ「て、それどころじゃない。ほら、早く立って」

(;^ω^)「殴ったツンがそれを言うのかお……」

後ろから愚痴が聞こえてきたが、気にせず走りだすと、
そんな私を追って、彼も立ち上がり追いかけてきた。

( ^ω^)「ツン」

ξ゚听)ξ「今度は何よ? 四発目を喰らいたいの?」

( ^ω^)「もし、現実にそんな事がおこったら、ブーンが絶対に助けるお。絶対にブーンが駆けつけるお」

ξ゚听)ξ「へ?」

( ^ω^)「ブーンがツンを絶対に守ってあげるお」

ξ///)ξ「ど、どうしたのよ、急に?」

(;^ω^)「おっおっ、何でもないお。ほら、早くしないと学校に遅れちゃうお」


                 三三⊂二二二(;^ω^)二二⊃

それだけ言って、ブーンは私を追い抜き、先に行ってしまった。
まだ少し痛むくせに胸を張って、両手を広げ走る彼の背中に、束の間見惚れた私は、

ξ゚ー゚)ξ「こら、ちょっと待ちなさいブーン」

そんな頼りがいのある背を、笑顔で追いかけていた。


96 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:43:55.32 ID:EO7KUsBK0


流石に寝起きの状態で、学校までのダッシュは辛い。
教室に着いた私は、鞄を机の上にのせ、自分の席に座ると同時に突っ伏せた。

ξ--)ξ「ヴァ〜、疲れた〜」

周りからは他のクラスメイト達の雑談が、途切れなく聞こえてくる。
ちなみに、ブーンとは別のクラスなので教室の前で別れていた。

(*゚ー゚)「おはよう、ツンちゃん。今日もぎりぎりだね」

ξ゚听)ξ「ああ、しぃ。おはよ〜」

机にうつ伏せていた私に、隣の席に座るしぃが話しかけてきた。
ショートカットに切りそろえた髪が揺れ、くりくりとした可愛らしい目が私を見つめてくる。

(*゚ー゚)「今日もブーン君といっしょに来たの?」

ξ*゚听)ξ「な、なによ、あんただってギコと二人きりで来たんでしょ」

(*^ー^)「えへへー」


97 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:46:13.39 ID:EO7KUsBK0


目の前で無邪気に笑う彼女とも、昔からの付き合いだ。

小さい頃から私としぃ、それにブーンとギコの4人で、遊び回っていた仲。
と言っても、しぃは昔からやんちゃだった私の後ろを、
ちょこちょこ付いて来ていただけで、一緒に遊んでいたと言えるかどうかは微妙だが。

私と同年齢と聞いた時は驚いたものだ。

二歳は年下だろうと思って、
姉貴分みたいに色々と命令していた私は、小学校に入った時に、

ξ(゚、゚*ξ『なんで、しぃがここにいるのよ?』

(*゚ -゚)『へ? しぃ、もう小学生だよぉ』

と言われて度肝を抜かされた。



98 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:48:27.31 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ(昔から、幼く見えたからな)

ξ゚听)ξ「今でも幼児体型のままだけど」

(*゚ー゚)「ん? 何か言った?」

ξ;゚听)ξ「い、いや、何も、イッテナイヨ?」

いかんいかん、思考が口から漏れてしまっていたみたいだ。
ゴホンと咳払いをして、場を取り繕う。

(*゚ー゚)「そうそう、ツンちゃん。今朝のニュース、見た?」

ξ゚听)ξ「え? 何かあったの?」

(;゚ー゚)「……そ、そうか、寝坊したんだもん見れる訳無いよね」

ξ゚听)ξ「そんな事はどうでもいいから、さっさと言いなさい」

(*゚ー゚)「うん、でね」

急に真面目な顔になったしぃの話に、興味を持った私は彼女を急かしていた。
そんな私を、次のしぃの言葉が凍らせる。



99 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:50:15.22 ID:EO7KUsBK0


(*゚ー゚)「すぐ近くで、殺人事件があったらしいの」

ξ;゚听)ξ「さ、殺人?」

(*゚ー゚)「そう、しかも殺されたのは一人じゃないって話し」

ξ;゚听)ξ「そ、それで、犯人は捕まったの?」

(*゚ー゚)「それが、まだ捕まって無いらしいの。物騒だよね」

ξ゚听)ξ「……そうなんだ」

(*゚ー゚)「そのニュースを見た時、ツンちゃんの事が心配で。でも、ツンちゃんなら大丈夫だよね?」

ξ゚听)ξ「え?」

(*^ー^)「だって、ツンちゃんだったらそんな奴やっつけちゃうもん!!」

しぃは心の底からそう思っているのだろう。
私の瞳を見つめるしぃの目には陰りがなく、憧れの人間を見るかのようにキラキラと輝いている。



100 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 00:52:00.78 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ(まったく、変な所で天然なんだから)

(*゚ー゚)「しぃもツンちゃんみたいに強かったらなぁ」

ξ゚ー゚)ξ「まあ、しぃが危なくなったら私が助けてあげるわよ」

(*^ー^)「本当!? ツンちゃん大好き!!」

ξ;゚听)ξ「こ、こら、ちょっと、離れなさい」

しぃが急に私の胸に抱きついてくる。
そんなしぃに、どぎまぎしながらも、私の脳裏にはブーンとの朝のやり取りが思い出された。

ξ゚听)ξ(そう言えば、ブーンもこんな事言ってたっけ)

彼もニュースを見たから、そんな事を言ったのだろうか。
その考えにいたり、また笑みがこぼれると同時に、教室のドアが開いた。


110 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:12:02.64 ID:EO7KUsBK0


( ´∀`)「はーい、みんな席に着くモナー」

教室に入って来た一時限目の教員であるモナーが、席に着くよう声を掛けると、
今まで、騒がしかった教室が、静かになっていった。

先生の声を聞いて、私に抱きついていたしぃも、私の隣の席に戻っていく。

( ´∀`)「早速、授業を始めたいけど、その前に皆にお話しがあるモナー」

このモナーという教師、外見は柔和だが、中々に厳しい教師としてこの学校では知られている。
噂によると、授業中にうたた寝しただけで南極に強制送還され、反省文を書かされるらしい。

ξ゚听)ξ(まあ、単なる冗談だろうけど)

しかし、実際にモナーの授業中に居眠りをした生徒が、放課後に呼び出され、
体の上に相撲部の生徒をのせたまま、グラウンドに五体倒置し、暗くなるまで反省させた事があるとか無いとか。

私は居眠りをした生徒よりも、巻き込まれた相撲部の生徒が可哀想だと思ったが、
どうせこれも嘘だろうし、深くは考えない事にする。



111 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:13:44.15 ID:EO7KUsBK0


( ´∀`)「もう、知っている人もいると思うけど、昨晩、近くの裏通りで殺人事件があったそうだモナ」

その言葉に、静まりかえった教室がまたざわめきだした。
しかし、モナーが咳払いをすると、その喧騒もすぐに静まっていく。

( ´∀`)「犯人もまだ捕まっていないとの事なので、学校側でも色々と対処する事になったモナ」

教室が完全に静かになった頃合いを見計らってモナーが続ける。

その内容は、授業を短縮授業にして生徒を早めに帰す事と、
大会中の部活は休止とまではいかないものの、暗くなる前に終わりにする事、という二つだ。

( ´∀`)「以上だモナ。それでは授業を始めるモナ」

それだけ生徒達に伝えると、モナーは黒板に文字を書き始めた。
私はそんなモナーの話を頭の片隅に留めたまま、鞄を開き、教科書やノートを取り出そうとする。

ξ゚听)ξ(あれ? おかしいな……)

けれど、鞄の中に入っていた教科書等は昨日の時間割のままだった。
どうやら昨日は用意するのを忘れてしまっていたらしい。

仕方が無く、隣の席のしぃに教科書を見せてもらいながら、私は黒板を写す作業に没頭していった。



112 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:15:26.84 ID:EO7KUsBK0


(-@∀@)「よって、テニヌというのは、物理法則に基づいている訳だ。つまり、テニヌは物理なんだ」

ξぅ-)ξ「う〜ん」

授業終了を知らせるチャイムと共に、意味不明な教師の声が聞こえた。
私は目を擦りながらも、顔を上げて現状を確認してみる。

(-@∀@)「では、今日の授業は終了だ」

黒板は大量の文章と、不可解な数式で埋め尽くされ、
たった今、物理の授業を行っていた教師もそそくさと教室を後にしていた。

そこで、眠っていた私の頭脳はやっと現状を理解する。

ξ;゚听)ξ(やばい、寝てて授業を聞き逃した!!)

立ち上がり焦って辺りを見渡すと、
黒板を写し終えたクラスメイトの面々は、さっそく帰る準備を始めていた。

ξ゚听)ξ(ひ、昼からの記憶がない……)

その事実に私は頭を抱える。


115 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:17:39.23 ID:EO7KUsBK0


確か、午前中はちゃんと授業を受けて、昼にはいつもの4人で弁当を食べた筈。
その時に、しぃのおかずを彼女が目を離した隙に、勝手に食べたのを覚えている。
それから雑談した後、授業が始まって、……ここから記憶が無い。

ふと、隣を見るとしぃがちょうど黒板を写し終えた所だった。

ξ;゚听)ξ「ちょっと、なんで起こしてくれなかったのよ」

(*゚−゚)「なんで私が起こしてあげなくちゃいけないの?」

しぃの素っ気無い態度に私は狼狽した。
その表情には僅かに怒りのような感情を感じる。

ξ゚听)ξ「も、もしかして、怒ってる?」

(*゚−゚)「別に、から揚げを取られたからって、怒ったりなんかしてません」

ξ;゚听)ξ(こいつはマジで、怒ってるな)

ξ゚听)ξ「あ、あの、お昼の事は謝るよ。……ご、ごめんね」

(*゚−゚)「………」

ξ--)ξ「この通り、本当にごめん」

(*゚−゚)「………」

ξ゚听)ξ「だから、あの宜しければ、午後のノートを貸して頂けないでしょうか?」



116 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:19:22.47 ID:EO7KUsBK0

私は頭を下げたまま、目だけでしぃの顔を窺ってみると、
冷めた半目で見下ろしてくるしぃと目が合った。

そのまま、数秒見つめ合っていると、

(*^ー^)「ウソでした〜、そんなに怒ってないよ」

急にしぃの顔が笑みに変わった。

ξ゚听)ξ「ほ、本当?」

(*゚ー゚)「うん、ノートも貸してあげる」

ξ゚听)ξ「良かった……」

(*゚ー゚)「そのかわり、何か奢ってもらうからね」

ξ;゚听)ξ「うっ、た、高いものでなければ」

(*^ー^)「へへへ、考えておくね」

不気味な笑みを浮かべながら、しぃはノーとを差し出してきた。
それを受け取りながら、私は肩を落とし溜息をつく。

今月も財布が寂しい事になりそうだ。



117 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:21:47.99 ID:EO7KUsBK0


( ,,゚Д゚)( ^ω^)ノ「おいすー」

(*゚ー゚)「あ、ギコ君にブーン君」

しぃが渡してくれたノートを鞄に入れていると、
別のクラスであるブーンとギコが教室に入って来た。

(*゚ー゚)「ギコ君、今日は部活は無いの?」

( ,,゚Д゚)「ああ、あんな事件があった後だし、大会があった次の日だからな、
     今日は早く帰って休めってよ」

(*゚ー゚)「じゃあ、久しぶりに皆でどこか行こうよ」

( ,,゚Д゚)「は?」

( ^ω^)「お?」

しぃのいきなりな提案に、ブーンとギコが一瞬息を呑んだ。
その後、すぐに我に返った二人は、慌てた様子で声を上げた。

(;,,゚Д゚)「な、なに言い出すんだ。殺人犯がうろついているかも知れないんだぞ。
     今日は、早く帰るべきだゴルァ」

(;^ω^)「そうだお、ギコの言う通りだお」



119 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:24:52.18 ID:EO7KUsBK0


ギコとブーンの意見は正論だ。

殺人鬼がまだうろついているかもしれないって言うのに、
どこかに遊びに行くなんて、正気の沙汰ではない。

でも、最近は滅多に4人で帰る事が無かったし、
今日ぐらい4人で遊びに行っても、罰は当たらないだろう。

そう思った私はしぃの意見に加勢する。

ξ゚听)ξ「……いや、何か食べに行きましょう」

(;,,゚Д゚)「おい、ツンも何言いだすんだ」

ξ゚听)ξ「暗くなる前に帰れば大丈夫よ。真昼間から野外で人を殺す奴なんていないわ。
      あと、しぃの分は私が払うから、ブーンは私の分を奢りなさい」

( ^ω^)「お?」

ξ゚ー゚)ξ「朝、私の事を笑った罰よ」

(;^ω^)「ちょ……」

我ながらナイスアイディアだ。
これで、しぃの分を奢ったとしても、ブーンに私の分を払わせる事によって、プラスマイナスゼロになる。



120 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:27:01.43 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「それでいいよね、しぃ?」

(*゚ー゚)「しぃは皆で一緒に行ければ、何でもいいよ」

( ,,゚Д゚)「でも、今は危ねえから……」

ξ^ー^)ξ「大丈夫よ。いざとなったら、ブーンが守ってくれるんだって。
      ねぇ、ブーン?」

(;^ω^)「そ、それは……」

(*^ー^)「しぃの事はツンちゃんが守ってくれるから、大丈夫だよギコ君。
     だから、一緒に行こ?」

( ,,゚Д゚)「……ちっ、しぃがそう言うならしょうがねえな」

( ^ω^)「ブーンの事はギコが守ってくれお」

(;,,゚Д゚)「うほっ、ねーよ」


122 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:29:10.35 ID:EO7KUsBK0


(*^ー^)「じゃあ、決まり。ほらみんな、早く行こう」

そう言って、しぃがギコの腕を引いて先頭を走り出す。
それを見た私もブーンの腕に手を伸ばしかけたが、止めた。

ξ///)ξ(バカバカしい。しぃったら恥ずかしくないのかしら)

しかし、頬を染めて俯いた私の手も、いつの間にか引っ張られていた。

ξ゚听)ξ「あっ」

( ^ω^)「ほら、早くしないと置いてかれちゃうお」

ξ///)ξ「もう、わかってるわよ」

優しく手を繋いできてくれたブーンの顔が直視できない。
けれど、繋がれた手からは、彼の温もりが感じられた。

ブーンなら私を守ってくれる、彼の手から感じる温もりからそう感じる事ができた。



124 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:31:55.08 ID:EO7KUsBK0

徐々に日が傾き始めてきた商店街を、私たち4人は歩いていた。

流石に近くで殺人事件があったからか、いつもより人通りは少ない。

それにしても、『商店街、から揚げだけ食べ歩きツアー』なんてものをさせられるとは思ってもみなかった。

商店街の飲食店に存在する、から揚げのみを食べ歩くという地獄のツアーだ。
当初の計画通りに、食べ歩きをするという事になったのだが、
昼に食べ損ねたから揚げが食べたいというしぃの発言から、急遽このツアーを行う事になった。

最初はノリ気だった私達も、油っこい食べ物であるから揚げの連続に、途中でギブアップ。
後半は、ただしぃが食べている様子を眺めるだけとなってしまった。おかげで、財布の中がちと寂しい。

本当に食べ物の怨みというものは恐ろしいものだ。

しぃはテイクアウトしたから揚げを、未だに食べながら先頭を歩いていた。
残りの私達3人は、その後ろをとぼとぼと追いかけ、胸焼けで喋る気力さえもない。

(*^ー^)「ハムハフハフッ、おいしぃ〜」

( 'ω`)「………」

( ,,'Д`)「………」

ξ'兪)ξ「………」

キメェ、とつっこむ元気も無ければ、だじゃれ乙、という気持ちも湧いてこなかった。


131 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:47:55.08 ID:EO7KUsBK0


そのまま商店街を抜け、住宅街を無言で歩いていると、
日常ではあまり見慣れない光景が目に入った。

ξ゚听)ξ「あれって……」

(*゚ー゚)「どうしたの、ツンちゃん?」

ξ゚听)ξ「ねえ、もしかしてあそこが」

視線の先には薄暗い路地裏があり、その前には一人の警察官が立っていた。
警官の後ろには、一般人の侵入を防ぐ為の黄色いテープが張られている。

( ^ω^)「そうだお、あそこが現場だお」

ブーンにそう言われてもう一度、路地裏の方を見てみると、
近くにはテレビ関係者らしき人が数人いるだけで、野次馬のような人は見当たらなかった。


133 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:57:30.56 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ(それもそうか)

通常、野次馬は自分の命がある程度、保障されていないと発生しない。
火事の現場等では火の燃える範囲が大体予想でき、
自分に被害が及ばない場所で、現場を傍観する事が出来る。

だが、今回の様な殺人事件では別だ。
通り魔殺人ではいつ自分に被害が及ぶかわからない。

それに今回の事件で殺されたのは一人じゃない。

一人ならば正常な人間でも、私情のもつれなどで殺してしまうという事が、あり得るかもしれないが、
複数人となれば話は別だ。その人間は単なる異常者に過ぎない。

人間は理解できない存在には恐怖し、自己を守ろうとする。
故に、こんないつ襲われるか解らない所は、仕事で来る人以外は避けて当然だ。

ξ゚听)ξ(それに殺人現場を見たいなんてモノ好きな人、そうそういないしね)

( ゚д゚ )「………」

そうこう考えていて、私は通り過ぎる筈の路地裏の前で、足が止まっている事に気付いた。
見張りの警官の人が、こっちをじっと見ている。


132 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 01:53:30.42 ID:EO7KUsBK0


このまま立ち止まっていたら、学生相手に事情聴取は無いにしても、
軽い質問ぐらいはされてしまうかもしれない。

それに、あのテレビ関係者らしき人達にインタビューされる可能性もある。
もちろん、そんな面倒臭い事はご免なので、すぐにその場を離れようとした。

从 ∀从「おい、そこの女」

ξ;゚听)ξ「きゃっ」

そんな私の肩に、いきなり冷たい何かが触れてきた。

驚いた私は、肩にのっていた何かを咄嗟に払い除け、後ろに振り向く。
すると、そこには垂れた髪の毛で左目が隠された、色白の女性が立っていた。

体は黒いコート一色で覆われ、右手にはかなり大きめのパンパンに膨れたバッグを持っている。

空いた左手が私の方に中途半端に伸ばされている所を見ると、
先程私の肩に触れてきたのは、この人の手だったようだ。

それにしても何て冷たい手をしているのだろう。人間の手の温度とは、到底思えなかった。



135 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:00:27.36 ID:EO7KUsBK0


从 ゚∀从「………」

ξ;゚听)ξ「な、なんですか?」

从 ゚∀从「……いや、なんでもねえ。悪かったな人違いだったみたいだ」

ξ;゚听)ξ「は、はあ、そうですか」

从 ゚∀从「………」

ξ;゚听)ξ「………」

(*゚ー゚)「ツンちゃん、どうしたの?」

( ,,゚Д゚)「おいてくぞゴルァ」

( ^ω^)「何してんだお、ツン。早く行くお」

ξ;゚听)ξ「あ、うん、ゴメン」

底知れぬ何かを感じて、動けなくなっていた私の体を、皆の声が解放してくれた。
最後に声をかけてくれたブーンが、女の人に視線を送りながら私の手を掴んで引っ張る。



136 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:02:39.11 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「それじゃあ、私、急ぎますので」

从 ゚∀从「ああ、すまなかったな」

( ^ω^)「………」

从 ゚∀从「………」

( ゚д゚ )「そこの君、ちょっとお話しいいかな?」

从;゚∀从「え? 俺?」

( ゚д゚ )「ああ、そうだよ。名前と職業を言ってもらえるかな?」

从;゚∀从「え? えーっと、そのぉ……」

ブーンと一緒に歩き始めた私の後ろからは、警察官と女の人の言い争いが聞こえてきた。

心底ブーン達の行動に感謝する。
あのまま、あそこで立ちすくんでいたら、あの女の人に巻き込まれて事情聴取される所だった。



137 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:04:21.93 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ(それにしてもこの町で殺人事件だなんて)

この町はかなり治安がいい方だと、私は思っている。
いや、今となっては思っていたと言った方が正しいのかもしれない。

この町で事件と言ったら交通事故ぐらいなもので、
殺人事件などもっての他、窃盗、誘拐、暴行さえも、私の知る所では今まで無い。

と言っても私はただの学生だ。
この世の全てを知っている訳では無いので、知らぬ所でそういう事件が今までも起こっていたのかもしれない。

ξ゚听)ξ(まったく、物騒な世の中になったもんだわ)

( ,,゚Д゚)「じゃあ、俺達はこっちだからじゃあな」

(*゚ー゚)ノシ「ツンちゃん、ブーン君、ばいば〜い」

そんな事を考えていた私の耳に、しぃ達の声が届いた。
いつの間にか、彼女達と別れる場所に来ていたらしい。

ξ゚ー゚)ξ「うん、じゃあねー」

( ^ω^)ノシ「バイブー」

笑顔のしぃはギコに腕を絡めたまま、空いた手で私達に手を振ってきた。
それに私は笑顔で、ブーンは大きく手を振り返して、答える。



138 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:06:11.48 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ほらいつまでバカみたいに手を振ってるの、行くわよ」

(*^ω^)「おっおっ、ブーン達も腕を組むかお?」

ξ゚听)ξ「バカ、調子にのるな」

そう言いながらも私はブーンの手を掴んでいた。

(*^ω^)「おおお」

ξ///)ξ「ちゃんと私の事、守ってよね!!」

途端にブーンの顔が直視できなくなる。
でも、心は幸せでいっぱいだった。この時がずっと続けばいいのにと、そう思えた。



139 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:07:57.04 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「ツン、明日はちゃんと早く起きるんだお」

ξ*゚听)ξ「わ、わかってるわよ。明日はあんたより先に起きてやるんだから」

( ^ω^)「そうかお、それなら良かったお」

ξ゚听)ξ「じゃ、また明日ねブーン」

( ^ω^)ノシ「ツン、バイブー」

そんなやり取りをして、私は自宅の前でブーンと別れた。
それにしても、あんな笑顔で元気に手を振られると、こっちが恥ずかしくなってしまう。

ξ///)ξ(だから、人目って言うのを考えなさいよバカ)

顔を朱に染めた私は玄関には行かず、
紙に包まれたから揚げを鞄から取り出して、ペスのいる犬小屋に向かった。

これはしぃからペスにあげるよう、言われていたものだ。

このから揚げは、しぃが行きつけのお店に無理を言って、、
犬の体に悪影響が無いように、香辛料等を使わずに作られている。


141 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:10:02.96 ID:EO7KUsBK0


ξ゚ー゚)ξ「はいこれ、しぃからのお土産よ」

紙の包みを丁寧に剥がし、舌を出して待っているペスの前に置く。
するとぺスは、二、三度クンクンと臭いを嗅いでから、勢いよく頬張った。

▼・ェ・▼「ワン、ワン」

ξ^ー^)ξ「よしよし、いい子ね」

その後、すぐに食べ終えてしまったペスは、嬉しそうに尻尾を振りながら声を上げる。
そんなペスの頭を撫でてから、私は玄関に向かった。

ξ゚听)ξ「お母さん、ただいま〜」

玄関のドアを開けて帰りの挨拶をする。
しかし、いつもなら返ってくる母の返事が、今日は無かった。
シーンとした家の中からはテレビの音だけが微かに聞こえてくる。

ξ゚听)ξ「お母さ〜ん?」

呼びかけながらテレビのあるリビングに行くと、母がソファに座りながら真剣にテレビを見つめていた。
何をそんなに真剣に見ているのかと、気になった私は後ろからテレビを覗き込んだ。



142 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:11:55.15 ID:EO7KUsBK0


(プォ゚)「さあ、みんな!! プォーさんと一緒に、『僕はくまたいそう』を踊ろう!!」

すると、画面の中では、黄色い全身タイツに、赤いパーカーを羽織った小太りの男と、
白と黒の服を着た子供たちが体操を踊っていた。

きっと、2ちゃんねるのVIP教育テレビだろう。

ξ;゚听)ξ「ちょっと、どんな番組見てんのよ」

J( 'ー`)し「あら? ツンちゃん帰ってたの? おかえり〜」

ξ;゚听)ξ「た、ただいま」

J( 'ー`)し「お母さん、テレビに夢中で全然気付かなかったわ。ごめんね〜」

ξ;゚听)ξ「いや、それは別にいいけど、何でこんなの見てるのよ?」

今度は、黄色いタイツのおじさんが子供達に囲まれ、集団リンチを受けている。

周りの子供達の目が恐ろしいが、
その暴行を受けてもニヤニヤ笑っているおじさんの笑顔も、 また恐ろしい。

これが『僕はくまたいそう』なのだろうか、果たして、体操と呼べるのか。


146 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:13:49.33 ID:EO7KUsBK0


ξ;゚听)ξ(子供達のストレス発散には成るだろうけど…)

J( 'ー`)し「だって、他の番組はみんな同じ内容の事やってて、面白い番組が無いんだもの」

同じ内容という事は、近くでおきた大量殺人事件の事だろうか。
確かに、一人殺されただけでも、マスコミがあれ程喰い付いて来るのに、
大量殺人という話題性抜群の事件に喰い付いて来ない筈が無い。

そう言えば、あんな路地裏にあったであろう死体を誰が見つけたというのだろう。

ξ゚听)ξ(あんな所、滅多に人なんて入らないだろうに)

だが、そんな事よりも、近場で殺人事件があったというニュースをやっているにも関わらず、
全く興味を示さない、おとぼけ過ぎの母に、私は少し驚いていた。

ξ゚听)ξ「まあいいわ、それよりあいつは? あいつが帰って来るの今日でしょ?」

J( 'ー`)し「あいつ? あいつってお父さんの事? 駄目ですよ、お父さんをあいつなんて呼んじゃ」

ξ゚听)ξ「はいはい、それで?」

J( 'ー`)し「お父さんはね、仕事が長引いたから今日は帰れないってさっき電話があったわよ」


148 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:16:09.07 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ふーん、そうなの」

J( 'ー`)し「明日には帰って来るって」

ξ゚听)ξ「別に帰って来なくてもいいけどね」

J( 'ー`)し「コラッ、そんな事を言ったら、メッでしょ」

ξ゚听)ξ「はいはい」

ぷぅっと頬を膨らませた母を軽くあしらう。

ξ゚听)ξ(それよりも、あいつが帰ってくるのか…)

今、父は一ヶ月間の出張に行っている。

私が小さい頃から仕事ばかりで、年に十数回会えればいい方だ。
正直に言わせて貰うと、私は父が嫌いとまではいかないが、苦手だった。

まず、滅多に会わないからどう接していいか解らない。

そもそも、あいつとお母さんはなんで結婚したのだろうか。
あんな仕事一筋のような奴が、こんな天然で呑気な母さんと結婚するなんて理解できない。

ξ゚听)ξ「じゃあ、私はこれから勉強するから、邪魔しないように」

J( 'ー`)し「わかってますよ。お母さんはおとなしくテレビでも見てます」



149 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:18:07.94 ID:EO7KUsBK0


母はそう言って、またテレビ画面を見つめる。
私もつられてもう一度テレビを見てみると、画面の中にはもう子供達はおらず、中央に倒れた男が一人でニヤニヤと笑っていた。

どうやら、今度は放置プレイらしい。

流石の母もそれはつまらなかったらしく、少し見つめてから、リモコンでテレビを消した。

J( 'ー`)し「ねぇ、ツンちゃん。やる事が無くなっちゃったから、一緒に何かしましょう」

ξ;゚听)ξ「いやいや、だから勉強するんだって。それに、しぃから借りたノートも写さなきゃいけないし」

J( 'ー`)し「え〜、それじゃあお母さんつまんない」

ξ゚听)ξ「……じゃあ、ペスと遊んでたら?」

J( 'ー`)し「あっ、そうするね」

そして、母はすぐに外に出て行ってしまった。
外からはペスの元気な鳴き声が聞こえてくる。

ξ--)ξ「はぁ…」

母をあしらうのも慣れたものだ。
深く溜息をついた私は、階段を上り、自分の部屋へと向かうのであった。


156 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:31:43.77 ID:EO7KUsBK0


私は暗く細い道に、一人で立っていた。

周りにあるのは、私を包み込んだ仄暗い闇だけ。
辺りに人影は無い。そんな静かな道の上に、ただ私は佇む。

ふと、そんな私の前を‘私’が走っていった。
そんな‘私’を一人の男が追いかけている。

男の手には赤黒いナイフ。
‘私’はその男から、恐怖に染まった顔で逃げ続けていた。

その状況を見て、これは昨日と同じ夢だと察した。

唯一、違う所と言えば視点が三人称視点になっている事だろうか。
今、私は逃げる‘私’と、追う男を他人事のように冷静に見つめていた。

逃げながら何度も後ろに振り返り、その顔を恐怖に染める、‘私’。
何度も振り返る‘私’を見ては、満面の笑顔を作る、男。

その男の笑顔はおもちゃで遊ぶ少年の様。
私は、何の感慨も無く無表情にそれを観察している。

男と‘私’の距離は縮まらない。

男がわざと遅く走っているからだ。まるで、獲物をなぶるかのごとく。
と、不意に夢の中の‘私’が右に進路を変えた。



157 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:34:38.63 ID:EO7KUsBK0


ξ;゚听)ξ「そっちに行っては駄目!!」

その瞬間、今まで何も反応を示していなかった私は、意識とは関係なく叫んでいた。

だが、その声が‘私’に届く事は無い。
案の定、二回連続で右に曲がった‘私’は行止まりによって足を止める。

そんな‘私’を顔だけ出して覗き込む男。
ウサギの様に怯える‘私’の目と男の視線が合った。


男が‘私’に笑いかけ、‘私’は震える。

男が‘私’に歩み寄り、‘私’が後ずさる。

男がナイフを振り上げ、

                私は自然と瞳を閉じた。


その次に起こる惨劇から目を逸らしたかったから――――


159 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:37:04.22 ID:EO7KUsBK0


ξ;゚听)ξ「っ!!」

瞳を見開いた私は、昨日と同じように跳ね起きた。

一つ昨日と違うのは、
寝ている場所がベットの上では無く、勉強机だったという事だ。

机の上には、しぃのノートとその内容を写した私のノートがある。

さらに私のノートには、その後に少しは勉強したのであろう痕跡が残っていた。
どうやら昨日、勉強しながらそのまま机で寝てしまったらしい。

おかげで、体がだるい。

愛用の置時計を見ると、時刻は6時23分。
ブーンとの朝の待ち合わせまでは、まだまだ時間がある。

私は軽くノビをしてから、腹が空いていたので一階の台所へと向かった。



160 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:39:39.56 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「へー、意外ね。お母さんって、もう起きてるんだ」

J( 'ー`)し「むむ、これでもれっきとしたお母さんですよ。起きてて当然です!!」

台所では、意外にも朝早く起きていた母が、味噌汁を作っていた。
怒ってぷく〜と頬をふくらます母は、まるで食べ物を頬張ったリスみたいで可愛げがある。

ξ゚听)ξ「うん、見直したよ。それより、何で昨日の夜、起こしてくれなかったのよ?
      おかげで、晩御飯を食べ損ねて、お腹ペコペコなんだけど……」

J(;'ー`)し「え〜!! だって、勉強するから邪魔しないでって言ったじゃない」

ξ;゚听)ξ「……まあ、そう言ったんだけどもね」

母に真顔で驚かれた。
別に御飯の時ぐらいは呼んでくれてもいいのに、変な所で素直な母に私も驚く。

ξ゚听)ξ「まあいいわ、昨日、お風呂も入りそびれちゃったし、朝御飯もまだ出来てないみたいだから、
      先にお風呂に入っちゃうね」

J( 'ー`)し「はいは〜い。じゃあ、お母さんはその間に朝御飯を作っちゃいま〜す」

そう言いながら、オタマを使って、慣れた手つきで鍋に味噌を溶かし始める。
私はそんな母を台所において、風呂場へと向かった。


162 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:42:41.67 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ふぃー、極楽極楽」

鉄臭い風呂場の中で、ついつい私はおっさんくさい事を呟いてしまった。

まあ、椅子に座りながら机で寝るという無理な体勢で一夜を過ごした後だ、
そう呟いてしまうのも仕方がない。

ξ゚听)ξ(それにしても、あの夢は何なのかしら……)

湯船に浸かりながら、特にする事もなかった私は先程の夢の事を考えていた。
多少は内容が違ったが、同じ夢を二日連続で見るなんて、中々ある事では無い。

それに、あの時に何故、右に行ってはいけないと分かったのだろうか。

夢の中の‘私’が右に行った時、私は無意識に叫んでいた、右に行っては駄目だと。
でも、その声が届かない‘私’は予想通り行き止まりに行きつき、男に追いつかれる。

ξ゚听)ξ(私はあの状況を知っていた?)

答えは簡単だ、過去に体験した事なのだろう。
だが、そう考えると問題点が生じる。

ξ゚听)ξ(だったら、なんで私は生きているんだろう……)

あんな薄暗く細い道、人通りも無く、それに行き止まりだ。
あの男が殺しそびれるなんてありえないし、誰かが助けてくれたという事もありえない。



164 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:47:21.73 ID:EO7KUsBK0


試しにほっぺたをつねってみる。

ξっ゚听)ξ「いふぁい」

痛みを感じる。痛覚があるという事は生きているという事だ。

ξ///)ξ(って、これは夢かどうか確かめるやつだっての)

起きてる時にやったって意味が無い。
そう自分に突っ込みをいれた私は、また考え始める。

そもそも私自身にそんな事件にあった記憶が無い。

もし仮に、過去にそんな状況に追い込まれた事があるとしても、自分が殺される程の状況だ。
そういう記憶は脳に深く刻み込まれるため、今まで忘れていたなんて事は有りえない。

でも、そうだとすると何故、右は駄目だと解ったのか。

脳が耐えられない恐怖を味わった時、その記憶が消失する場合があるというが、それの類なのだろうか。
けど、あのおとぼけ母さんからそんな事件に関する話が、今まで一度もでていないのはおかしい。

ξ゚听)ξ(う〜ん)

これでは堂々巡りだ。
そうして、私は思考のループに嵌っていくのであった。



167 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:49:49.33 ID:EO7KUsBK0

ξ゚听)ξ「ねぇ、ペスはどう思う?」

▼・ェ・▼「クゥーン?」

朝食を食べ、学校に向かう準備も終えた私は今、犬小屋の前でブーンを待っている。
そして、ブーンが来るまでの暇な時間を、ペスと一緒に潰していた。

ξ゚听)ξ「って、ペスに聞いても分かる訳ないか……」

▼・ェ・▼「ワンッ!!」

ξ゚ー゚)ξ「ふふ、よしよし」

私を気遣ってくれたのか、ペスが顔をペロペロと舐めてきた。
お礼にペスの頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに手の平に頭を擦りつけてくる。

( ^ω^)ノ「おいすー、ツン。おはようだお」

そうやって私とペスがじゃれあっていると、待ち合わせ時間の8時30分になったのか、
後ろからブーンの声が聞こえてきた。私はそんなブーンに苛立ちをこめて返事をする。

ξ#゚听)ξ「遅いわよ、ブーン」

(;^ω^)「お? ちゃんといつも通りの時間に来たお」

ξ#゚听)ξ「レディを待たせるなんてどういうつもり? あんたそれでも男なの?」

(;^ω^)「あうあう、ゴメンお」

ξ゚听)ξ「わかればいいのよ。今度からは、5分前にはここに来るようにしなさい」


168 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:53:28.80 ID:EO7KUsBK0


( 'ω`)「……ツンは理不尽だお」

ξ#゚听)ξ「何か言った!?」

(;^ω^)「いえ、何でもございませんお」

来るのが遅いだなんて、いつも遅れている私が言えた事では無い。
けれど、未来の夫にはちゃんとしていて欲しいという気持ちが、私の口を勝手に動かしていた。

もちろん、私も大きくなったら、早起きだってするし、ブーンの為に料理だって覚えるし、洗濯だって……

ξ///)ξ(……って、まだブーンと将来結婚するって決めてる訳じゃないんだから!!)

(;^ω^)「急に顔が赤くなったけど、どうしたんだお!?」

ξ///)ξ「な、何でも無いわよ!!」

( ^ω^)「そ、そうかお。
      そう言えば、今日のツンは早起きだお。何かあったのかお?」

ξ゚听)ξ「別に私の勝手でしょ」

(;^ω^)「いや、いつも待たされてるブーンの身にもなって欲しいもんだお」

ξ゚听)ξ「そんな事どうだっていいわよ。さあ、早く行きましょ」

私はペスにお別れを言ってから、鞄を持って、先に歩きだす。
ブーンはそんな私を慌てて追いかけて来た。


172 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 02:57:52.23 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「そう言えば、ツン」

ξ゚听)ξ「ん、何?」

( ^ω^)「今日の髪形はちゃんとしてるお」

ξ*゚听)ξ「え?」

ξ*゚听)ξ(もしかして、褒めてくれるのかな)

風呂あがりに30分かけて、セットした自信作だ。
いつもは時間が無くて軽く梳かす事ぐらいしかできなかったけど、今日は念入りに手を加えている。

おかげで、御飯が出来てるのにツンちゃんが食べに来ない〜、って母に泣きつかれたけど。

( ^ω^)「昨日の髪形の方が、面白くて良かっ」
ξ#゚听)ξ「セイッ」

( ゚ω゚)「クォッ!!」

癪に障るので股間を蹴り上げた。
強く蹴り上げて、また気絶されても困るので、二つのボールを軽く、そして、的確に狙う。

必要なのは重さではない、速さだ。

より速ければ速い程、袋の中で二つの宝玉が揺り動かされ、
相手に最大限の苦痛を与える事が出来る。



175 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:01:32.76 ID:EO7KUsBK0


( ゚ω゚)「エキィセントォォォォリィックゥゥウウウウウウウウウ!!」

空気の読めない豚が、目の前で奇声をあげた。
それを私は通学路の方に向き直り、歩き出す事で無視。

しかし、五、六歩進むと、後ろから走る足音が聞こえてくる。
仕方なく振り返ると、豚がもの凄い内股で駆け寄って来ていた。

ξ;゚听)ξ「うわぁ、気持ち悪い……」

(;゚ω゚)「何すんだお、潰れたらどうすんだお!! 将来、ツンとの子供が作れ無くなっちゃうお!!」

ξ///)ξ「は、はぁ? 誰があんたなんかと!!」

(;^ω^)「それに、ブーンが馬鹿な事を言ってツンに殴られるというパターンは、
      そろそろ、読者が飽きてきてると思うお」

ξ゚听)ξ「読者なんて関係無いのよ。私さえ良ければいいの」

(;^ω^)「ブーンはどうなるんだお?」

ξ゚听)ξ「あんたは読者の為に、もっと面白いやられ方とか奇声のあげ方の練習をしなさい」

( ;ω;)「……お、鬼だお」

急にしゃがみこんで、ブーンが泣き始めた。

どうせ嘘泣きなのは明白なので、またも無視して歩き出すと、
すぐにブーンは泣落としが無駄だと悟り、気持ちの悪い内股走りで追いついて来た。


178 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:04:27.00 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「まったく、もっと素直で、優しくなれないのかお?」

ξ゚听)ξ「あんたに優しくして、何かメリットがあるっていうの?」

( ^ω^)「僕がツンの事を、もっと好きになるお」

ξ///)ξ「ば、馬鹿じゃないの? 変な事言わないでよ!!」

(*^ω^)「うろたえちゃって、かあいい」
( ゚ω゚).・;'∴ 「ぐぼぉ」

狙うは人体の急所、鳩尾。
左手で彼の胸倉を掴み、その手を引く事によっ(ry

ξ#゚听)ξ「何がかあいいよ!! あまり図に乗るなよ小僧!!」

(;゚ω゚)「はっふぁっは、ず、ずいまぜんでじたお」

ブーンが鳩尾を押さえながら、律儀に頭を下げた。

まったく、早朝からイライラする事の連続で頭が痛い。

そんなイライラを察して防衛本能が働いたのか、
痛む右側頭部をおさえる私に、ブーンが普通の話題をふってきた。



180 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:07:48.74 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「それにしてもツンが早起きなんて珍しいお」

ξ゚听)ξ「あ、そうそう思い出した。あんたにも聞こうと思ってたんだけど」

( ^ω^)「お、何だお?」

ξ゚听)ξ「朝食の時にお母さんにも聞いたんだけどね。私って、昔、死にかけた事なんてあったっけ?」

( ^ω^)「……急に何を言い出すんだお?」

ξ゚听)ξ「いや、別に深い意味は無いんだけど。昨日、怖い夢を見たって言ったじゃない?」

( ^ω^)「ああ、言ってたお」

ξ゚听)ξ「それで、同じ夢を今日も見ちゃったのよ。しかも、その状況を知っていたって言うのかな?
      とにかく、その夢の先が分かったの。だから、過去にそんな事あったのかなと思って聞いてみただけ」

(  ω )「………」

ξ゚ー゚)ξ「それでね、朝にお母さんに聞いた時、何て言ってたと思う?
      お母さん、難しいこと良く分かんない〜、だって。
      どこに難しい所があるんだよ、て思わない?」

(  ω )「………」



182 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:11:49.87 ID:EO7KUsBK0


私は朝御飯の時の母を思い出し、苦笑する。

しかし、ブーンからの反応は無かった。
不審に思って、ブーンの顔を窺い見ると、真っ青な顔でこちらを見つめる彼と視線が合った。

ξ゚听)ξ「ちょっと、無視しないでよ」

(  ω )「……ツン」

ξ゚听)ξ「な、何よ?」

(  ω )「急用を思い出したから先に行くお。じゃ」

ξ;゚听)ξ「え? ちょ、ちょっと待ちなさいよ」

そう言い残し、彼は走って先に言ってしまった。
あまりの突然の事に、私はその場に立ち尽くしてしまう。

昨日と同じ彼の背中、でも、昨日と違う彼の背中。
その背中を見つめると同時に、自然と疑問が芽生え、

ξ;゚听)ξ「どうしちゃったのよ!! ブーン!!」

その疑問を晴らす為に、私はその背中を追いかけた。


185 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:16:37.38 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ(む〜、本当にどうしちゃったのよ)

今、私は教室の自分の席に座り、朝の事を考えていた。

直接問いただそうと、あの後ブーンを追いかけはしたが、途中で見失ってしまったのだ。
その後、一人で学校に着いた私は、ブーンの教室も覗いてみたが、彼の姿を見つける事は出来なかった。

ξ゚听)ξ(流石に金的蹴りはやりすぎたかな……)

いや、それは無い筈だ。
金的蹴りなら、ブーンと初めて会った時からかましている。

あれは幼い頃に、私としぃの二人で公園で遊んでいた時の事だった。

一人でブランコに乗って遊んでいる男の子を見つけて、話しかけたのだが、
無視されたので、飛び蹴りを叩き込んだのだ。

あの時は、まだ容赦というものを知らなかった。

ブランコの揺れを計算した完璧なるタイミング。
最大限の重力加速度を得る為に、ブランコの前に配置された手摺を用いた跳躍。

その一撃を受けた彼は、空中を一度回転し、地面にうつ伏せに叩きつけられた。
今でも不思議に思う、よく潰れなかったと。



186 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:20:47.92 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ(それを見たしぃが泣き出して、なだめるのが大変だったな)

(*゚ー゚)「おはよう、ツンちゃん」

ξ゚听)ξ「あ、しぃ、おはよ」

昔を懐かしんでいると、その大泣きの張本人が教室に入って来た。
しぃは鞄を机の横に掛けてから、私と話しがしやすいように、自分の椅子を私の席に近づける。

(*゚ー゚)「今日は早いんだね、来るの」

ξ゚听)ξ「私だって、毎日寝坊してる訳じゃ無いわよ」

(*^ー^)「えー、そうだったっけ?」」

ξ゚听)ξ「何よ、その顔。馬鹿にしてるでしょ!!」

(*゚ー゚)「ごめんごめん。それより、考え事してたみたいだけど、どうかしたの?」

ξ゚听)ξ「……うん、ちょっとね」

(*゚ー゚)「まさか、ブーン君と何かあったとか?」

ξ;゚听)ξ「うっ!!」



189 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:24:44.34 ID:EO7KUsBK0


心中をしぃに的確に言い当てられてしまった。
こう付き合いが長いと、お互いの事が大体分かってしまうから困る。

(*゚ー゚)「図星でしょ? ねぇねぇ、何があったの? しぃに教えてよ〜、ねぇ、ねえ〜」

ξ;゚听)ξ「あ〜、はいはい、わかったわよ、しょうがないわね」

執拗に聞いてくるしぃに嫌気がした私は、昨日の夢の事から今日に到るまで細かく説明した。
そんな私の話しにしぃは真剣に耳を傾けてくれている。

ξ゚听)ξ「という訳で、かくかくしかじかな訳よ」

(*゚ー゚)「う〜ん、かくかくしかじかじゃあ、全然分かんない」

ξ゚听)ξ「分かった事にしときなさい」

(*゚ー゚)「つまり、二日連続で恐い夢を見て、その夢に身に覚えがあったから、
    過去にそんな出来事があって忘れてるだけじゃないか、
    と思いブーン君に尋ねたら、血相変えて逃げ出したと、そういう事?」

ξ;゚听)ξ「う、うん。大体、そんな感じ」

(*゚ー゚)「ふ〜ん、なるほど」

ξ゚听)ξ「で、しぃはどう思うの?」

(*゚ー゚)「ツンちゃんの勘違いじゃないの?」



190 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:28:22.73 ID:EO7KUsBK0


ξ;゚听)ξ「へ?」

(*゚ー゚)「だって、ブーン君は用事があるって言って、走って行ったんでしょ?
     なら、そうなんじゃないの?」

ξ゚听)ξ「でも、様子が変だったし……」

(*゚ー゚)「ほら、きっと大事な約束だったのに忘れてて、それを急に思い出したから焦ってたんじゃない?」

ξ゚听)ξ「で、でも…」

確かにしぃの言う事は一理ある。でも、本当にそうなのだろうか。
あんなブーンを初めて見た私は、決してそうだとは思えなかった。



193 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:33:49.46 ID:EO7KUsBK0


( ´∀`)「全員、席につくモナー」

(*゚ー゚)「あ、モナー先生来たよ」

しぃの声を聞いて顔を上げた私は、教員のモナーと目が合った。
私と話すために椅子を寄せていたしぃの姿が、目についたのだろう。

すぐにしぃは席を戻し、私はそんな彼女を横目に、鞄から勉強道具を取り出した。

( ´∀`)「昨日も言ったように、事件が一段落するまで、短縮日課になるモナ。
     時間も惜しいので、早速授業を始めるモナ」

それだけ告げて、黒板に文字を書き始める。
事件については何も語らない。きっと、こいつの頭には勉強の事しかないのだろう。

そんな教師の態度に溜息を吐いた私は、今日もつまらない授業に集中していった。



196 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:39:00.50 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ふ〜、今日も終わった〜」

教室には午後の授業終了のチャイムが響く。

目の前では、今まで授業を行っていた教員が教材を片付けていた。
今日は睡魔に襲われる事も無かった私も、完璧に黒板の内容を写したノートを片付け始める。

(*゚ー゚)「今日はちゃんと起きてたね、ツンちゃん」

ξ゚听)ξ「受験生がそう何日も居眠りしてられるかってのよ」

学生の本分は勉学にあり。
そんな事、昔はどうでもいいと思っていたが、受験生ともなると話しは別だ。

受験によって、人の運命は決まる。

これは気に入らない父の言葉だが、少しは共感できる。
どれだけ良い人生のレールに乗れるか、受験がそのレールの分岐点。

もちろん、ブーンにもがんばって、私と同じ学校に行ってもらうつもりだ。
部活動中の今は大目に見てやるが、それが終わったら地獄の特訓を始める。

泣き言なんて一言も言わせない。

そして、将来は、ブーンと一緒に大学に通って、一緒に授業を受けて、それでそれで。



198 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:42:58.80 ID:EO7KUsBK0


ξ///)ξ「……キスなんかしたりして」

(;゚ー゚)「どうしたの、ツンちゃん?」

ξ///)ξ「え? な、何でも無いわよ!!」

(*^ー^)「もしかして、ブーン君の事考えてた?」

(*^ωξ///)ξ「あいつの事なんて考えてる訳無いでしょ!!」

( ,,゚Д゚(*゚ー゚)「またまた〜、顔が赤いぞ」

(*^ω^)「ブヒヒ、ツンそんなに照れるなお」

ξ;゚听)ξ「うわっ、キモッ!!」

(;゚ー゚)「きゃぁっ、もう、いるならいるって言ってよ」

(;,,゚Д゚)「す、すまねえ」

( 'ω`)「………キモいかお」


200 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:46:26.74 ID:EO7KUsBK0


いつの間にか、雑談していた私達の後ろに、ブーン達が立っていた。
教室で着替えてきたのであろう彼等は、野球部のユニフォームを着ている。

(*゚ー゚)「あれ? 今日からはもう部活があるの?」

( ,,゚Д゚)「ああ、だから今日はお前らと一緒には帰れねえぞ」

(*゚−゚)「え〜、そうなの……」

( ,,゚Д゚)「ああ、すまねぇな」

ξ゚听)ξ「まあ、しょうがないじゃない。その内また一緒に帰れるようになるわよ。
      それより、ブーン」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「朝の急用って何だったのよ? あんなに血相を変えてたから気になったじゃない」

(*^ω^)「もしかして、ブーンの事を心配していてくれたのかお?」

ξ゚听)ξ「んな事はどうだっていいんだよ。さっさと質問に答えなさい」

( 'ω`)「……バットだお」


204 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:52:07.42 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「バット?」

( 'ω`)「……バットを家に忘れてたのを思い出したんだお」

ξ゚听)ξ「はぁ? 何よそれ、馬鹿らしい。心配して損したわ」

(*^ω^)「やっぱり、心配してくれてたのかお。ツン、大好きだお〜」

ξ;゚听)ξ「うわっ、ちょっと、抱き付くな!!」

落ち込んでいた顔が一変し、満面の笑顔になったブーンは私にルパンダイブをかましてきた。
そのままブーンの顔が、あまり豊かでは無い私の胸に飛び込んでくる。

ξ///)ξ「んっ、ちょっとぉ、放しなさい、よぉ、コラぁ……ぁッ」

そのまま私の胸に顔をうずめたブーンは、顔を左右の動かして、頬を擦りつけてきた。
一番敏感な先端に、頬が当たるたびに、体が勝手に痙攣する。

ξ///)ξ「ひゃっ、ああ……、も、やめ」

私の反応を楽しむかのように、ブーンが笑顔で見つめてきた。
そして、制服のボタンに手を伸ばし、


206 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:54:27.50 ID:EO7KUsBK0


(,,゚Д゚)「………」

(*゚−゚)「ほら、ブーン君と作者が暴走してるよ。止めないと」

(;,,゚Д゚)「ゴ、ゴルァ」

そう呟いたギコはブーンの首根っこを掴みそのまま持ち上げた。

( ^ω^)「おろ?」

( ,,゚Д゚)「ほら、部活に遅れるから行くぞ」

首根っこを掴まれたままの体勢で、ブーンが教室から強制連行されていく。
その姿を見ながら私は甘い息を吐いた。

ξ///)ξ「……もう、ブーンったら」

(*゚ー゚)「満更でも無いくせに〜」

ξ///)ξ「うるさい、帰るわよ!!」

そう怒鳴りつけ、しぃを黙らせてから教室を後にする。

考えてみるとこれが、まともな私がブーンと最後に話せた時間だったのかもしれない。



208 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 03:58:19.76 ID:EO7KUsBK0


▼・ェ・▼「ワンワン!!」

ξ゚ー゚)ξ「はいはい。ただいま、ペス」

家に着いた私はまず犬小屋に向かい、ペスにただいまの挨拶をした。

いつも、私が帰って来ると、尻尾を振って出迎えてくれる我が家の愛犬ペス。
その姿を見るだけ、私の一日の疲れが洗い流される。

ξ゚ー゚)ξ「じゃあ、行くね」

▼・ェ・▼「ワンッ!!」

ひとしきりペスとじゃれあってから、私は玄関のドアを開ける。
すると、玄関に普段見慣れない男の革靴が、奇麗に並べて置いてあるのに気づいた。

父が帰って来ているのだ、その事実に体が強張る。

ξ゚听)ξ「……ただいま」

J( 'ー`)し「あらツンちゃん、おかえり。お父さん帰ってるわよ」

ξ゚听)ξ「へえ、そう……」

今日、帰って来るとは聞いていたが、まさかこんな早くに来るとは予想していなかった。


210 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:02:36.67 ID:EO7KUsBK0


しぃと寄り道などせずに、無理を言ってでも早く帰るべきだったと、
内心後悔しながらもリビングに向かうと、椅子に座り新聞を広げている父がいた。

真後ろに位置する私からでは、父の顔を確認する事は出来ない。

ξ゚听)ξ「ただいま」

その後ろ姿に一言だけ残し、リビングを後にしようとする。

「勉強は順調に進んでいるのか?」

しかし、そんな父の言葉が、私の足を止めた。

ξ゚听)ξ(こいつはいつもそう)

小さい頃から勉強勉強、私を見る度に勉強としか言わない。

私だって勉強が大事だという事は分かっている。
けれど、子供にそれしか言えないこいつは気にくわない。

仕事で忙しいなどと言って、学校行事には参加した事も無いくせに、
こういう所だけ親の面をするこいつには、本当に反吐が出る。

ξ )ξ(私は勉強さえしてれば良いって言うの?)

けど、口答えはしない。
そんな事をしても、無駄に終わるだけだ。



212 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:06:42.97 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ええ、進んでいますよ。今からその大事な大事な御勉強をしなければならないので、
      もう部屋に行ってもよろしいかしら?」

「そうか、それならいい」

口答えはしないが、最大限の皮肉をこめた口調で返事をする。
しかし、帰って来たのはその言葉だけ。顔は目の前の新聞に向いたままだ。

私に対して、微塵の興味すら無いかのようなその態度に、苛立ちを抱きつつリビングを後にする。
そのまま二階に向かう途中で、台所の母に声をかけた。

ξ゚听)ξ「ああ、そうそう。今日も晩ご飯いらないから」

J(;'ー`)し「ええ〜!? お母さんの料理が食べられないって言うの?」

ξ;゚听)ξ「違うって。さっき、しぃと一緒にいろエロ食べてきたんだよ」

半分は本当で、半分は嘘。
しぃと買い食いをしてきたのは本当だが、本心は父と食卓を共にするのが嫌だっただけだ。

ξ゚听)ξ「だから、お腹いっぱいでさ」

J( 'ー`)し「ふ〜ん、それなら仕方が無いね。
      せっかく、お父さんが帰って来たから、豪勢な料理にしたのに……」


214 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:09:46.25 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「……あのさ、前から聞こうと思ってたんだけど」

J( 'ー`)し「ん〜、なに?」

ξ゚听)ξ「どうして、あんな人と結婚したの?」

J( 'ー`)し「どうしてって……好きだからに決まってるでしょ?」

それ以外に何か理由があるのかとでも言いたげに母は首を傾げた。
どうやら、聞いた所で無駄だったようだ。

ξ゚听)ξ「まっいいか。じゃあ、私は勉強するから邪魔しないでね」

J( 'ー`)し「わかってますよ、邪魔なんてしません」

ξ^ー^)ξ「よろしい」

そのまま台所を後にして、自室へと向かう為に階段を上る。
母にはすまないと思っているが、正直、勉強する気は微塵も無かった。

今日はいろいろな事がありすぎて、精神的に疲れていたのだろう。
部屋に入ると同時に、私はベットに倒れ込んだ。



216 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:12:05.45 ID:EO7KUsBK0


ブシャ、グチュッグチャッグチャッグチャッグジョグチュッグチャッグチャッグチャッグジョ

な、なんの音?

眠っている筈の私の脳内に、耳障りな音が響く。
顔には粘り気のある液体が、右手には何かを握りしめる感触が感じられた。

顔にへばりつく液体の量は、腕を振り下ろす毎に増し、
手にした何かを突き刺す感触を感じては、ワタシの頬が自然と吊り上がる。

ξ )ξ「もう、足ってなかなか取れないな〜」

何を言ってるの?

自然と喉が震え、勝手に舌が動き、唇が言葉を紡ぐ。
私の眼前には夢の中の男が倒れ、それを見てやっと耳障りな音の正体に気付いた。
男の傍には先程切り離された、左腕が無造作に転がっている。

メシィ、グャギ!!

そして、たったいま骨を圧し折る様にして、左脚も分離された。




217 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:14:12.62 ID:EO7KUsBK0


ξ ー )ξ「うふふふふふ、ふひっ」

何よこれ!? いや、止めてよ!!

その異様で醜く、異常で美しい光景を見て、ワタシは含み笑いを始めた。
そのまま私の意志とは関係無く、次のパーツに刃物を突き立てる。

ブジャッブギャッグジョッメジャッベキイィッッジョッグジョッズチャッグチャッグジャッグビキッ

ξ ∀ )ξ「うふふふふふひゃはアあはアハははハッはハははははっはははハッ」

やめて、やめてええええええええええええええええ

右脚と右腕が終了し、一段と奇声が強まる。
これで目の前にあるのはもう人では無い、ただの肉塊と化した真っ赤な達磨だ。

ξ )ξ「ちょっとぉ、もう切り落とせる場所が無いじゃない」

いやぁ、誰か助けて……

ξ )ξ「もう、つまんないなぁ」



219 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:16:15.52 ID:EO7KUsBK0

ワタシは少し怒った表情をしていた。

でも、何故怒っているのか全く理解できない。
そもそもこんな惨劇を理解する事なんて、私には出来ない。

ξ ー )ξ「もういいや、あなたはもういらない。……死ねッ!!」

一際高く持ち上げ、振り下ろされた真紅のナイフが、首筋に食い込むと同時に空中に血が噴き出した。
ちょうど、頸動脈にナイフが喰い込んだのだろう。飛び散る血はまるで、噴水の様。

ξ ー )ξ「奇麗ね……」

うぅおぇ

その惨状と発言に、私は心の中で嘔吐した。
倒れた男の体はピクリとも動かない、もう、死んでいるのだろう。

ワタシの顔は血だらけで、体にも空気に触れて凝血した血がこびり付いている。
けれど、ナイフに付いた赤色は未だ潤いを保ち、地の上に滴り落ちていた。

それを一滴一滴、舌で舐め採っていく。


222 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:18:32.01 ID:EO7KUsBK0

ξ )ξ「……はああ」

助けてぇ、ブーン

「うぐっ」

脳髄を刺激するその味に、甘美の溜息を吐いた時、後ろから男の声が聞こえた。
その音に反応し、首だけを動かしてワタシは後ろを確認する。

(;゚ω゚)「……っ!!」

ど、どうして?

驚愕と恐怖に顔を染めたブーンがそこにはいた。

その姿を認識したワタシの顔は、心の中の疑問を他所に、頬の端をいっそう歪めていく。
最愛の彼を、次の獲物を見つけて喜んでいるのだろう。

( ゚ω゚)「う、うああああああああああああああああああああああああああああああ」

汚れたワタシの笑顔を見たブーンは、悲鳴と共に駈け出していった。
そんな彼の姿を見て、立ち上がる。愛すべき彼の背中を追いかけなければならない。

ξ ー )ξ「逃がさないわよ。アナタもワタシが殺してあげるんだから」


225 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:20:37.11 ID:EO7KUsBK0


ξ;゚听)ξ「っ!!」

これで三日連続で、同じ目覚め方をした事になる。
辺りはまだ闇に包まれ、時刻は午前二時頃だろうか、暗くて時計がよく見えない。

ξ;゚听)ξ「な、何なのよいったい」

先程の夢のせいで息も荒い。
私は眠りについていたベッドの上で、夢の内容を思い出していた。

ξ゚听)ξ「わ、私が殺したって言うの?」

考えてみたら理に叶っている話だ。
あの状況から生きて帰るには、相手を殺してしまうのが一番手っ取り早い。

そんな最悪の考えが頭に思い浮かんだ時、ベッドに何かが突き刺さっているのに気付いた。
暗い部屋の中でも赤黒く光るそれは、まるで、異界から舞い降りた一つの芸術作品。

ξ;゚听)ξ「……な、なんで?」

何故、夢の中のナイフが、昨日まで私の部屋に無かったナイフが、此処にあるんだ。



227 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:22:36.56 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ふざけないでよ!!」

怒りと恐怖が入り混じった感情に任せて、手で柄を叩き、そのナイフを払い飛ばそうとする。
しかし、手が触れた瞬間、自分の体を覚えのある感覚が支配した。

ξ )ξ「うぁぁ…ああ……ぁ」

何かが私の中に入って来る。私の中を侵食していく。
気付いたら、払おうとした手でそのままナイフを掴み、ベットから引き抜いていた。

……殺したい……

ξ )ξ「ぃ、いやぁ、あ、ああ」

……血が見たい、いや、浴びさせて……

ξ )ξ「やだぁ、やめてぇ……」

……殺しましょう、殺そう、殺せ、殺すんだ、殺す、殺せばいい、殺すだけ……

ξ )ξ「いやだ、人殺しなんて!!」

……人殺しは駄目なの? 人殺しは嫌なの? じゃあ、人じゃなければいいの?……

ああ、そうか、

ξ ー )ξ「ヒトじゃ無ければいいんだ」



229 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:24:19.05 ID:EO7KUsBK0






                ワタシと一緒に遊びましょう






231 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:26:05.58 ID:EO7KUsBK0


ξぅ听)ξ「う〜ん」

目覚めと同時に背伸びをして、時刻を確認する。
時刻は7時30分。ブーンとの朝の約束の時間まではまだまだ時間がある。

ξ゚听)ξ「あれ、いつのまにパジャマに着替えたんだっけ?」

確か、昨日は制服のままベッドに倒れ込むように眠ってしまった筈だ。
パジャマに着替えてあるという事は、風呂に入ったという事だろうか。
何かを忘れている様な気がして、一度頭を捻ってみるが思い出せない。

ξ゚ー゚)ξ「ま、いいか」

どうせ、寝惚けたまま風呂に入ったんだろう。
そんな事は今の私にはどうでもいい事だった。

今日は何故か調子が良い。

昨日までとは大違いだ。
受験の事も、父の事も、ブーンの事も、そして、あの夢の事も、今ではどうでも良くなってしまっている。


233 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:27:50.25 ID:EO7KUsBK0


私はベットから跳ね起き、制服に着替え、そして、鞄を持って一階に下りていく。
台所では父と母がテレビを見ながら、朝御飯を食べていた。

ξ゚ー゚)ξ「お父さん、お母さん、おはよ〜う」

J( 'ー`)し「あら、ツンちゃん。おはよう」

「……おはよう」

相変わらず父はそっけない態度だけど、全然苦に感じない。
何故、こんなにいい気分なのか、それが未だに分からなかった。

ξ^ー^)ξ「いただきま〜す」

私は自分の椅子に座り、御飯を食べ始める。
そんな、私の様子を見て母が微笑んだ。


235 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:29:36.63 ID:EO7KUsBK0


J( 'ー`)し「今日も朝早いのね。何か、あったの?」

ξ゚ー゚)ξ「うん、何だか今日は調子がいいの」

J( 'ー`)し「そう、良かったじゃない」

ξ^ー^)ξ「今なら何でも出来そうな気がするよ」

J( 'ー`)し「ふふふ、本当に調子良さそうね。最近、元気が無かったから心配してたのよ」

ξ゚听)ξ「そうなの? 心配しているようには思えなかったけど……」

J( 'ー`)し「もう、お母さんだって馬鹿じゃ無いんだから、心配ぐらいします」

「ゴホッゴホ……」

J(;'ー`)し「ちょっと、お父さん。何で咳きこんでいるのよ!!」

「いや、何でも無い。気にするな」

J( ;ー;)し「ううぅ、皆が虐める〜」

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと、急に泣き出さないでよ」



237 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:31:42.16 ID:EO7KUsBK0


久しぶりの家族揃っての団欒。

父はいつもの様に無口だけど、それはそれでさほど気にはならない。
これが普通の幸せな家庭って言うのだろうか。

家族全員が揃うだけで気持ちがこんなに変わるなんて思ってもいなかった。
今日のような日が、ずっと続けば良いと心からそう思える。

ξ゚听)ξ「ごちそうさま」

けど、そんな幸せな時間は長くは続かない。そろそろ、行かないとブーンが来てしまう。
後から食べ始めた私が一番に食べ終わり、席を立った。

ξ゚ー゚)ξ「じゃあ、もう行くね。ブーンを待たせたくないし」

J( 'ー`)し「は〜い。行ってらっしゃ〜い」

「……お前も受験生なんだ、異性と交際するのは自由だがちゃんと勉強も」

ξ゚ー゚)ξ「わかってるわよ。ちゃんと、勉強もしてます」

「そうか、それならいい。気をつけて行って来い」

ξ゚ー゚)ξ「うん。じゃあ、行ってきま〜す」

そう言って、台所を後にし、玄関から外に出た。
気のせいだろうか、一瞬だけ父が微笑んでいたような気がした。



238 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:33:57.80 ID:EO7KUsBK0


私の前にはいつもの庭、空には雲一つ無く太陽だけがさんさんと輝いている。
こう天気がいいと、気分が晴れ晴れとしてくるものだ。

どうやら、ブーンはまだ来ていないらしい。
ブーンが来るまでの暇潰しにと、ペスの小屋に声をかける。

ξ゚ー゚)ξ「ペス〜」

しかし、ペスからの返事は無かった。
いつもなら呼べば、尻尾を振って駆け寄って来てくれるのに、何故か来ない。

もう一度呼びかけても返事が無かったので、しぶしぶ小屋に近づいて覗き込んでみる。

ξ゚ー゚)ξ「おはよう、ペ……」

▼・ェ・▼「………」

小屋の中で、ペスは嬉しそうに舌を出して笑っていた。
しかし、小屋の中にあるモノは、その笑顔しか特定する事が出来なかったけど。

他の部位は肉片となり、切り刻まれ、中身をばら撒かれ、小屋の中に飛び散り、壁にへばりついている。
内壁は赤の色で塗り潰され、その中央に、顔が、生首が置いてあった。


242 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:47:11.80 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「……ス、は?」

ペスだったモノは本当に嬉しそうな顔をしていた。
まるで、大好きな御主人様と遊んでいる最中に殺されたかのように。

ξ )ξ「……は、ははは、はは」

現状を理解できない。いや、理解してたんだ、ただ頭がそれを受け入れなかっただけ。
朝起きた時からこの惨状を、そして、これをやったのが私だという事を理解していた。

ξ;凵G)ξ「いや、いやあああああああああああああああああああああああああああああ」

絶叫の声を上げると共に、
現実から目を背けたかった私の意識は、自然とこの世から遠のいていった。



243 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 04:48:52.99 ID:EO7KUsBK0


……ねえ、楽しかった?……

ξ )ξ「私は……」

目覚めたら、自分のベットの上に制服のまま寝かされていた。
きっと、お父さんとお母さんがここまで運んでくれたのだろう。

ξ )ξ「そうかあのまま気絶して」

時刻は午後四時半、結構な間、眠っていたみたいだ。
短縮日課となっている今の学校ならもう授業は終わっている頃だろう。

……覚えてる? ワタシが手を差し伸べたら、嬉しそうに寄って来たよね……

ξ )ξ「ブーンはもう、部活も終わって家にいる頃ね……」

……それをさ、首めがけてザシュって、気持ち良かったなぁ……

ξ )ξ「……うるさい」



247 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:02:31.34 ID:EO7KUsBK0


……それでさ、その後にどんどん解体していくの
   ナイフを突き入れるたびにドバドバ〜って血が出て来るんだよ?
   それが、嬉しくて楽しくて、もうやめられなくなっちゃうよね
   でも、犬じゃあダメだな〜、なんか、物足りないんだよね、やっぱり、人間じゃないと……

ξ )ξ「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい」

……何がうるさいのよ?……

ξ )ξ「あんたよ、あんたさえいなければペスは!!」

……何言ってるのよ、ワタシはあなたよ……

ξ )ξ「どういう意味よ?」

……こうやってあなたと喋っているのも、あの犬を殺したのも……

ξ )ξ「違う!!」

……人間を殺したがっているのも、あなたよ……

ξ )ξ「こ、殺したくなんか!!」

……じゃあ、鞄に手を入れてみて……

ξ )ξ「は?」



248 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:04:35.32 ID:EO7KUsBK0


言われた通り、そばに置いてあった学校指定の鞄に手を入れてみた。
右手に違和感を感じ、それを取り出して目の前にかざしてみる。

昨日の夜よりも更に赤みを増したナイフが、私の手に握られていた。
何故、朝は気付かなかったのだろう。元凶がすぐそばにあったのに。

……こんにちは……

そして、このナイフにまた触れてしまった事を後悔した。
あの感覚が、あの地獄の様に奇麗で、甘美な感覚が鮮明に蘇る。

ξ )ξ「いやあ、うぁ、……ああ」

……さあ、始めましょう……

ξ )ξ「いやぁ、だぁ……」

J( 'ー`)し「ツンちゃ〜ん、起きたの〜?」

その時、母の声がドアの向こう、階段の方から聞こえてきた。

……ほおら、獲物が来たよ……

ξ 听)ξ「ふざけないでよ、絶対にさせない!!」



250 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:09:11.97 ID:EO7KUsBK0


今、母の顔を見たら自分を抑えられなくなる、あのナイフに飲み込まれる。
そう直感した私は、右手に握られたナイフを投げ捨て、ドアに駆け寄り、ノブを掴んでおさえた。

ドアの向こうには階段を登り終えて、ドアの前に佇む母の気配を感じる。

ξ゚听)ξ「お母さん、来ちゃ駄目!!」

そう叫んだ時、私の手に、母がノブを回そうとする力と、ドアを叩く震動が感じられた。

J(;'ー`)し「どうしたの!? ツンちゃん、開けて」

……本当にどうしたのよ? こんな無駄な事をして……

ξ#゚听)ξ「うるさい、黙れ!!」

J(;'ー`)し「ツ、ツンちゃん!? ほ、本当にどうしたの、早く開けて!!」

……ほら、開けてあげなさいよ。大好きなお母さんが頼んでいるのよ?……

ξ;゚听)ξ「お母さん今は駄目なの、来ないで!!」

J(;'ー`)し「お父さん、ツンちゃんが変なの。ちょっと、来てぇっ!!」

ξ;゚听)ξ「お、お父さん?」


252 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:12:11.95 ID:EO7KUsBK0


何でまだ家にいるんだ。何故、会社に行っていない。
今まで私の事なんか、なんとも思っていなかったのに、私が倒れたから心配してとでも言うのか。

……あら好都合じゃ無い。これで手間が省けるわね……

違う。

父は本当に忙しくて、家族の為に一生懸命働いていて、
だから私達と触れ合う機会が少なかっただけなのに、 冷たい奴だと勘違いして、
家族に興味が無いんだと勝手に決め付けて、私はそんな父から逃げていただけなんだ。

……さっきから何を言ってるのよ。大嫌いなお父さんを殺せるのよ?……

ξ;凵G)ξ「違う。お父さんはそんな人じゃ無い。最高の私のお父さんよ!!」

J(;'ー`)し「ツンちゃん?」

ξ;凵G)ξ「お父さん、今まで冷たくしてゴメンなさい。
       私達のために働いて疲れているのに、冷たくして、……ごめんなさい」



255 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:14:36.99 ID:EO7KUsBK0

「ツン……」

まぎれもない父の声だ。もう、ドアの前まで来ているのだろう。
本当に私の事が心配で、家にいてくれたんだ。

「いいから、落ち着いて。まず、このドアを開けるんだ」

ξ;凵G)ξ「ダメ、入ってきちゃダメなの!!」

「いいから開けなさい!!」

お父さんは本当に私の事を心配してくれている。
向こう側から容赦無くドアをこじ開けようとする父の力から、それが分かる。

父は不器用だから、こうする事しか思いつかないんだ、
それでも自分の信じた方法を、娘の為にと思い一所懸命に行動している。


258 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:17:55.16 ID:EO7KUsBK0


ξ;凵G)ξ「きゃっ!!」

駄目だ。私だけの力では、成人男性の力には勝てない。
ドアごと突き飛ばされ、私の体はベッドの近くに倒れ込んだ。

ξ;凵G)ξ「来ないで……」

心底から接近を拒み、手には落ちていたナイフを握りしめ、ワタシはさらに涙する。
もうこの衝動を、止められないって事を悟ったから。

ξ )ξ「だから、入ってくるなって言ったのに」

開いたドアの向こうには、大好きだったお母さんと、素直に接する事が出来なかったお父さん。
いや、違う。今では単なる狩られるだけの、愛すべき獲物。

涙を流しながらも唇は歪み、そして、笑う。


……さあ、一緒に楽しみましょう……




261 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:19:44.68 ID:EO7KUsBK0


トゥルルルルルルルル・・・・

トゥルルルルルルルル・・・・

トゥルルルルルルルル・・・・

トゥルルルルルルルル・・・・
ピッ

『はい、こちら内藤だお』

「あ、ブーン? ワタシよ」

『お? こんな時間にどうしたんだお?』

……こんな時間?……

外を見ると夕日も沈み、辺りを照らしているのは街灯の灯りだけで、少し薄暗かった。

……ああ、もう夜なんだ。作業に夢中になってて気付かなかった……



265 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:23:09.00 ID:EO7KUsBK0


「あのね、ブーン」

『お、何だお?』

「ワタシ、ブーンとの事で思い出した事があるの」

『思い出した事?』

「それでね、8時にワタシの家に来てくれない?」

『8時にかお?』

「そう、大事な大事な話しがあるの」

『でも、そんな時間に何を……』

「待ってるから。ずっとブーンの事、待ってるから」

『ちょ、ツ

そうとだけ伝えて、ワタシは会話の途中で電話の電源ボタンを押した。
これで優しいブーンは来てくれる、絶対にワタシの家に来てくれる。



267 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:26:26.31 ID:EO7KUsBK0


こんなに、気分が良いのはいつぶりだろうか、いや、これ程の高揚感は初めて感じるモノかもしれない。
なんで今まで人を殺してみようと思わなかったんだ。今までの人生が本当に無駄に感じられた。
いつまでも、いつまでも、この感覚を感じていたい、達していたい、笑っていたい。
でも、その為にはもっともっと赤い色でここを染めつくし、ワタシがすごしやすい環境にしないと。

携帯を机の上に置いてから、周りを見渡してみた。

ξ ー )ξ「ふふふふ」

ああ、笑いが止まらない。

ξ ∀ )ξ「ふひゃあひひっひはははははははははははははははははははははははははっは」

窓からは満点の星空と、綺麗な円を描いた月が見える。
月は青白く、赤黒い今の私とはいい相性だ。

白と黒、赤と青。
その狭間で、永遠とも言える時間を私は笑い続けた。

……さあて、ブーンって人が来る前にもう一仕事、頑張らないと……



268 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:28:57.84 ID:EO7KUsBK0


夜の我が家には、血と肉と汚物の匂いが混ざり合った異臭が漂っていた。

その中で、一度外出して、また家に帰って来たワタシは、
母の首が置かれた机の前の椅子に座り、ブーンを待ち続けている。

血に汚れた自分自身をあまり見たくなかったから、室内の電気は消したままにしておいた。

ξ ー )ξ「………フフ」

……ああ、早く来てぇ……

待つ間、特にやる事も無いワタシは、手にしたナイフでただただ自分の体に傷をつける。
そして、傷口から滲み出る血を舐め採る事で、一時的に心と体を満たそうとした。

けれど、全然満たされない。この程度で足りる筈が無い。
先程以上の快楽を得る為には、もっと、もっともっともっともっと、血と、肉と、心が必要だ。

「おじゃましますお」

そのまま待ち続けていると、開けっ放しだった玄関のドアから、ブーンの声が聞こえてきた。
幻聴では無い。振り返ったワタシの視線の先には、ドアから差し込む月の光で照らされたブーンの姿が見てとれる。

本当に、本当に来てくれた優しいブーン。



269 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:31:57.26 ID:EO7KUsBK0


ξ ー )ξ「ブーン、来てくれたんだ」

( ^ω^)「当然だお。ツンの命令は絶対だお」

ξ ー )ξ「ふふふ」

椅子に座って微笑んでいる私の姿を確認して、ブーンは立ち止まった。
どうやら、私の前に置いてある母の生首には、暗くて気付いてないみたいだ。

ふふ、本当に鈍感なんだから。

でも、そんなブーンの声を聞くだけで、そんなブーンを見つめているだけで、感情が高ぶっていくのが分かる。

ああ、まずは指を切り落として、彼の悲鳴が聞きたい。
それから、痛みと恐怖で逃げる彼の両足を刺して、逃げられないようにして、それから、それから。

( ^ω^)「でも、ツン」

沈黙を嫌ってか、ブーンが口を開いた。

ξ ー )ξ「なに?」

(;^ω^)「こんな時間に呼び出さないで欲しいお。
      あの事件の所為で警察がうろついてて、ここまでバレずに来るの大変だったんだお」



270 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:33:50.31 ID:EO7KUsBK0


ξ )ξ「………」

……何を言ってるの、こいつ……

( ^ω^)「今度から昼間にしてくれお。何でも相談にのるお」

ξ )ξ「……馬鹿じゃないの? 分かってるんでしょ、ワタシが」

( ^ω^)「ああ、知ってるお」

ξ )ξ「だったら」

( ^ω^)「それでもツンを守ると約束したんだお」

ξ ー )ξ「ぷっ、あはははははははは」

……ああ、こいつは本当の馬鹿なんだ……



271 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 05:37:54.64 ID:EO7KUsBK0

ξ )ξ「良く言うわよ。昨日の朝、恐れをなして逃げたくせに。
      バットを取りに行ったっていうの、嘘なんでしょ?」

( ^ω^)「そうだお、あの時は怖くて逃げたお」

ξ ー )ξ「ほおら、やっぱり」

( ^ω^)「でも、もう逃げないお。ブーンはどんな事があろうとツンを守るって決めたんだお」

ξ )ξ「……へえ、本当に逃げないのね?」

椅子から立ち上がり、両手を後ろで隠しながらブーンの元に近づいていく。
近づくにつれてブーンの顔がはっきりと見えるようになっていった。

彼はワタシをいつも元気づけてくれた屈託の無い笑顔で、こんな時でもニコニコしている。

でも、ワタシは違う。

(;^ω^)「そ、その血は……」

ブーンと同じくワタシも月光に照らされて、姿がはっきりと見えるようになったのだろう。
彼はその時になってやっと、真っ赤に穢れたワタシの姿に気付いた。



276 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:09:03.04 ID:EO7KUsBK0


ξ )ξ「返り血よ」

(;^ω^)「返り血、かお?」

ξ )ξ「そう、私の両親のね」

(;^ω^)「こ、殺したのかお?」

ξ ∀ )ξ「これ、な〜んだ?」

そう言って、体の後ろに隠していた母の生首をおびえた表情のブーンの前に突き出した。
光の無い目をした母の生首の切断面から、凝固が始まりドロリとした液体が零れ床に落ちる。
いきなり見せつけられた彼は、その場で腰を抜かして倒れる。

(;゚ω゚)「うっ、うわぁ!!」

ξ ∀ )ξ「楽しかったわぁ、ああ、ペスも殺したんだけどね、やっぱり、犬とは大違いよ。
      まず、父親を滅多刺しにしてやったの。気持ちよかったぁ、あのウザい顔が苦痛に歪んでいって、
      最後にはまったく動かなくなるの。その間、お母さんは無言でワタシを見つめていたなぁ。
      きっと声も出ない程、驚いていたんでしょうね。それで、あいつが終わったら、今度はお母さん。
      ナイフを向けたらさ、あの人なんて言いながら逃げたと思う? ツンちゃん、もうやめて、だって。
      まったく、馬鹿よねぇ、止める訳無いじゃない。すぐに首を跳ね飛ばしてやったわよ。
      で、その後は、一番のお楽しみ解体ショーよ。まずは、部屋に戻ってあいつの醜い顔を何度も何度もなん」

(  ω )「も、もういいお!!」



277 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:10:40.77 ID:EO7KUsBK0


二人の遺体がある我が家に、ブーンの大声が響く。
ワタシから顔を逸らし、俯いた彼は辛く悲しそうな顔をしていた。

手にしていた生首をフローリングの床に置きながら、私は彼のそんな顔を見つめる。

ξ )ξ「ねえ、ブーン」

(  ω )「……なんだお」

ξ )ξ「こんなになったワタシでも、守ってくれるの? 逃げてもいいんだよ?」

……まあ、逃げても殺すけど……

( ゚ω゚)「守るお、一生だって守ってやるお!!」

問いかけに即答したブーンに、嬉しさの余りワタシは微笑みを作った。
ブーンの目から感じる炎のような意志には、揺らぎというものが感じられない。

ξ ー )ξ「本当にブーンは馬鹿ね。昔からそうだった」

(;^ω^)「だから、ツン頼むお、目を覚ましてくれ、もう、こんな事は止めてくれお!!」

……こんな楽しい事、止められる訳無いじゃない……



278 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:12:21.37 ID:EO7KUsBK0


ξ )ξ「……最後に聞きたい事があるんだけどさ」

(;^ω^)「な、何だお?」

ξ )ξ「ワタシがあの路地裏で人を殺している時、あなた見ていたわよね?」

( ^ω^)「……見てたお」

ξ )ξ「あの後、何があったの? どうしてワタシはこの数日間、記憶が無くなってたの?」

(;^ω^)「それは……」

ξ ー )ξ「まあ、そんな事はどうでもいいか。……あなたを殺す事に変わりは無いんだから!!」

(;゚ω゚)「おっ!?」

振るったナイフがブーンの右腕を削った。
癇に障るにやけ面を切り裂いてやろうと思ったのだが、
流石現役の野球部だ、後方に避けられて右腕を少し傷つけるだけに終わった。

ξ ∀ )ξ「あはははは、いい反射神経じゃない。楽しみがいがあるってもんだわ」

その傷からナイフに付着した血を舐める。
ワタシの血と、ブーンの血。二人の体液が混ざり合った味が口内に広がる。

おいしい。



281 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:14:51.86 ID:EO7KUsBK0


ξ ー )ξ「ねぇ、あなたのもっとちょうだい」

( ゚ω゚)「………」

ワタシの中にいる彼女のおかげか、体が軽い。
今まで眠っていた筋肉、神経、細胞に至るまでの全てが目を覚ました感じ。

ξ ー )ξ「今度はちゃんと斬られてよ?」

( ^ω^)「………わかったお」

ξ )ξ「は?」

( ^ω^)「さっきも言ったけど、僕にとってツンの命令は絶対なんだお」

ξ )ξ「はぁ? あなたって、正真正銘の馬鹿なの?」

( ^ω^)「ツン、これが最後のお願いだお。もう、こんな事は止めるんだお」

ξ )ξ「黙れ!!」

( ゚ω゚)「ぐっ」

振り落とされたナイフの切先は、ブーンの左腕に吸い込まれていった。
そのまま深々と刺し込まれたナイフを捻り、筋繊維をねじる。それだけで、ブーンの表情が歪んでいく。

(;゚ω゚)「ぐぅあ……ぁああああ!!」

……ああ、ゾクゾクスルゥ〜……


284 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:16:33.96 ID:EO7KUsBK0


けれど、ブーンは抵抗しようとはしなかった。
ただただ、左腕の激痛に耐え凌いでいる。

ξ )ξ「ねぇ、何で逃げないのよ。これじゃあ、つまらないじゃない」

(;゚ω゚)「……僕は、ぐぅ、もう逃げない」

ξ )ξ「じゃあ、じゃあ死んじゃいなさいよ!!」

捻じりながら引き抜いたナイフを、両手に持ち替えた。
狙いは腹だ。この馬鹿の内臓を引きずり出してやる。

その光景を頭の中で想像し、微笑みを増したワタシに声がかかる。

( ^ω^)「……ツン」

ξ ー )ξ「何よ、ここにきて命乞い?」

( ^ω^)「もう、泣くなお」

ξ )ξ「だ、誰が泣いてるっていうのよ!!」



286 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:18:18.66 ID:EO7KUsBK0


そうだワタシは笑っているんだ、子供のように無邪気で、悪魔のように残酷に。
でも、何でこんなに目頭が熱いんだろう。今のワタシでは到底わからなかった。

( ^ω^)「ごめんお、僕じゃツンを救えないみたいだお」

ξ )ξ「………」

( ^ω^)「でも、僕は逃げないお。殺すなら殺してくれて構わない」

ξ )ξ「……うるさい」

( ^ω^)「最後にこれだけは言わしてくれお」

ξ )ξ「うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるざあああああい」

( ^ω^)「好きだお、ツン」

ξ;凵G)ξ「黙れええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

それだけ言いきるとブーンは目を閉じて、幸せそうに笑う。
そんな優しい笑顔の彼にナイフを振り下ろし、ワタシは腹に突き刺した。



289 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:20:19.16 ID:EO7KUsBK0




             血が全てを染めていく。



                            赤く、紅く、染めていく。



             全てが紅に満たされ、



                            そして、終わっていく。



             全てが、全てが終わっていく。



                            そう私の、全てが――――



291 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:22:04.32 ID:EO7KUsBK0


(;^ω^)「ツ、ツン!!」

ああ、ブーンの声が間近から聞こえてくる。
どうやら、倒れ込んだ私を彼が横から抱きかかえているみたいだ。

愛しい彼が私の体を包み込んでくれている。
通りで温かいと思った。

(;^ω^)「ツン、しっかりするお!!」

ξ゚ー゚)ξ「あんたみたいな馬鹿を、殺せる訳が無いじゃない」

(;^ω^)「い、今、救急車を!!」

ξ゚ー゚)ξ「いいの、どうせ無駄よ。もう体に力が入らないの。
      それより、もう少しこのままでいさせて」

そうだ、私は自分の腹をナイフで突き刺したのだ。
重く感じる腹部からは、血がとめどなく流れ出している。

真っ赤に染まった私は最後の力を振り絞ってブーンに抱きついた。
すると、ブーンも私の為に強く抱き返してくれる。

ごめんね、ブーンの服を私の血で汚しちゃって。



294 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:23:47.34 ID:EO7KUsBK0


ξ゚听)ξ「ごめんね、ブーン」

( ;ω;)「………」

ξ゚听)ξ「左腕、痛かったでしょ?」

( ;ω;)「すっげぇ、痛かったお」

ξ゚ー゚)ξ「もう、こういう時は嘘でも全然大丈夫だって言うものよ」

私は笑った。先程とは違う、本当の私の笑顔で。
ブーンも笑ってくれた、少しぎこちなくて、目には涙を溜めてたけど。

その雫がブーンの頬を伝い、私の顔に滴り落ちた。
その滴は私の涙と混ざり合い、頬の上を滑り落ちていく。

あれ、いつの間にか私も泣いていたみたいだ。

ξ;凵G)ξ「私、お父さんやお母さん、それにペスも殺しちゃった」

( ;ω;)「………お」

ξ;凵G)ξ「私が殺しちゃったんだ。みんな大好きだったのに」

涙が止まらない。



296 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:25:34.35 ID:EO7KUsBK0


ξ;凵G)ξ「わ、私が、私がぁ……」

( ;ω;)「もういいお、泣かないでくれお」

ブーンは私の涙を拭いながらそう言ってくれる。
私もそんなブーンの目から流れる滴を拭ってあげた。

だって、私もブーンに泣いて欲しくなんか無い。
ブーンには、いつも私をやさしく包んでくれる、あの笑顔でずっといて欲しい。

( ^ω^)「ツン、君は絶対に死なせないお」

ξ;凵G)ξ「ブーン……」



297 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:27:22.94 ID:EO7KUsBK0


( ^ω^)「僕が絶対に君を守るんだお」

そう言いきる彼の瞳には一点の曇りも無い。
本気で彼は私を救うつもりのようだ。

私に向けて力強く、そして、優しく微笑みかけてくれたブーンがナイフに手をかけて傷口を見てくれる。
そんな彼の姿を最後に、私は静かに目を閉じた。

お腹かからはくすぐったい感覚がある。
きっと、ブーンがナイフをゆっくりと引き抜いてくれているのだろう。

私も、ブーンと一緒に生きていたい。
ブーンと一緒に、死んでしまった人達の分も生きていたい。

私はくすぐったさを感じながら、心から強くそう願っていた。

……この体ではもう駄目ね……



298 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:29:10.94 ID:EO7KUsBK0


(  ω )「これでお相子だお」

ξ゚听)ξ「え?」

痛い、急に左腕から痛みの波が押し寄せてきた。
しかし、その痛みもすぐに消える。いや、左腕の感覚そのものが消えていた。

( ゚ω゚)「そういえば、この右腕も切られてたっけお」

今度は右腕に痛みが。
だが、その痛みも左腕同様に、右腕の感覚そのものと同時に消えた。

ξ )ξ「ぃあ、あえ?」

( ゚ω゚)「ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

ブーンの本当に楽しそうな笑い声が、私の耳に響く。
そのままナイフを振り上げたブーンは笑顔で告げた。


299 : ◆ZKiCFm8B3o :2007/05/12(土) 06:30:51.91 ID:EO7KUsBK0


( ゚ω゚)「愛してるお、ツン」

ξ )ξ「………」

きっとそれは本心なのだろう。人格が変わってしまっても、愛する心は変わらない。
私がそうだったように、どうやって愛情を示すかその表現方法が変わるだけ。

一拍の間を置いて、死が振り下ろされる。

ξ ー )ξ「わ、わた、しぃも、あい、してぇ……」

最後の最後に、今まで伝える事の出来なかった感情を、やっと伝える事が出来た。
そして、喉から赤い液体が噴き出すと共に発したその言葉が、私の最後の言葉になった。

( ゚ω゚)「ぁぁあああああああはははああああああはあああああああはあああはははあああああ」

満天の星空の夜、愛する人の死を持って生まれた悪魔の操り人形の笑い声が響く。
その声には、純粋な喜びと、純粋な悲しみが含まれていた。



           さあ、次の操り人形さん。あなたは誰を殺したい?




【関連】
一気読み
第一話 - 第二話 - 第三話

http://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1178889067/


ブログパーツ ブログパーツ
inserted by FC2 system