228 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:05:34.45 ID:SBh/PKqY0
第八話 少し前を破り捨て、未来は急転直下する。
( ∵)「またとんでもないことをしでかしてくれましたね」
現れた長身の男……ビコーズは開口一番そう言った。
呆れたような声色で。
(-_-)「こうするほかないでしょ?」
( ∵)「V.I.P.D.Cから抗議がくるのも時間の問題です」
(-_-)「ああ、あれね。忘れてたよ」
V.I.P.D.Cって確かモララーさんがいたビルじゃなかったっけ。
そういえばモララーさんも柘榴のこととか知ってたんだろうな。
じゃああのビルどうなってるんだろう……陸の孤島?
( ∵)「まぁいいですが。それで、復活する見込みは?」
(-_-)「未定」
( ∵)「……」
(-_-)「ま、やれないこともないよ……取引に応じてくれれば、だけど」
229 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:06:07.38 ID:SBh/PKqY0
( ∵)「取引といいますと?」
(-_-)「このアンドロイドの代わりにブーンを使う」
( ∵)「……」
(-_-)「まだ処分していないと誰かが言っていた。彼とツンを解放し、
ブーンによる再構成を許可するなら」
( ∵)「なるほど。ツンの今回の脱走を許せと言うことですか」
ビコーズは穏やかな笑みを浮かべる。
だがそれはすぐ嘲笑に変わった。
彼はポケットから一枚の写真を取り出す。
( ∵)「先に問いたいことがいくつかあるんですよ……この写真についてね」
ビコーズが先生に手渡した写真には二人の人物が写っていた。
一人は……ツンさんか。高校生ぐらいかな。
もう一人は……ブーン?
230 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:06:30.61 ID:SBh/PKqY0
( ∵)「この写真はツンが脱走の際忘れていったものです。
あのアンドロイドがあなたの指揮によって作られたのは半年前のこと。
あなた、わざと作ったんですね?
すでに亡くなってしまったツンの恋人に似せたアンドロイドを」
(-_-)「……」
( ∵)「それがどのような結果をもたらすか、あなたに予想できなかったはずがない」
( ∵)「彼女の脱走は,ある意味予定調和だった……そうでしょう?」
(-_-)「ま、そういうことになるね」
意外と、先生の声はあっけらかんとしていた。
今更隠しても仕方ないというように。
( ∵)「気になることは多い……なぜ彼女のためにこのようなアンドロイドを作ったのか」
(-_-)「……ふふ、それに答えるのは難しい」
( ∵)「と、いいますと?」
(-_-)「あなたは僕ほどこの世界を知らないから」
( ∵)「面白いことを言いますね」
231 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:07:06.12 ID:SBh/PKqY0
(-_-)「まぁ言えるとすれば一つ……それには僕らの生前が関係している」
( ∵)「生前……」
その科白は僕らにとっても不可解だ。
先生は、今この場に生きているというのに。
( ∵)「それは、あなたの特別待遇と関係ありますか?」
(-_-)「ん?」
( ∵)「あなたの開発したという技術……一時期騒がれましたが全く表ざたになっていませんね」
(-_-)「……そうだね、関係あるかもね」
(-_-)「さて、そろそろ取引に関する答えをもらおうか」
( ∵)「……いいでしょう。私とて、むやみに人を処分したくありませんから」
(-_-)「じゃ、ツンとブーンを連れてきて」
無理やり追い出そうとするような先生の口調に、ビコーズは少し眉を顰めた。
しかしすぐに室外へと出て行く。
232 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:07:54.83 ID:SBh/PKqY0
(´・ω・`)「……ヒッキーさん」
(-_-)「僕の秘密が今、一つだけ君たちに明かされたわけだ」
機械を動かす手を休めず、先生は淡々とした口調で言う。
(*゚ー゚)「ツンさんとの関係、結構深いんですね」
(-_-)「ま、そういうことになるかな」
(*゚ー゚)「一つ聞いていいですか?」
(-_-)「なんだい?」
(*゚ー゚)「先生、今何歳?」
(-_-)「なんでそんなことが知りたいの?」
(*゚ー゚)「ちょっとねー」
そこで初めて、先生は手を休めてしぃを見つめた。
(-_-)「しょぼんくん」
(´・ω・`)「はい?」
(-_-)「彼女、勘は良い方?」
(´・ω・`)「いえ……よくわからないですけど」
(-_-)「ふーん、まあいいや。教えてあげよう」
(-_-)「僕は、三十七歳だよ」
(*゚ー゚)「なるほど……」
僕にはしぃの意図が全くわからない。
ただしぃの、謎を解いた名探偵のような笑顔はとても印象的だった。
233 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:08:29.74 ID:SBh/PKqY0
やがて、ドアが開く。
( ∵)「つれてきましたよ」
ξ゚听)ξ「ヒッキー先生……」
(-_-)「やあ、ツン。元気だった?」
ξ゚听)ξ「……う……ぅ」
涙を見せまいとしているのか、頬を紅潮させたツンさんは先生から顔を背ける。
一方のブーンは、そんなツンさんを心配そうに見つめていた。
( ^ω^)「ツン、大丈夫かお? おなか痛いのかお?」
ξ゚听)ξ「違うわよ! ……バカ」
( ∵)「さて、約束どおりつれてきました。よろしく頼みますよ」
そう吐き捨ててビコーズは再び扉の向こうに消えた。
何かを嫌悪するかのように。
234 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:09:08.40 ID:SBh/PKqY0
(-_-)「話はまだ聞いてないよね」
かくかくしかじか……と、先生はツンさんたちに経緯を説明する。
時折目を丸くしたり、視線を宙に彷徨わせたりしながらツンさんはその話を聞いていた。
(-_-)「……つまり、ブーンを使いたいんだ。彼にはまだ、アンドロイドとしての機能が残っている」
ξ゚听)ξ「でも、もうブーンは引退を宣告されてたから……」
( ^ω^)「やるお」
ξ゚听)ξ「ブーン」
( ^ω^)「そうしないと、世界がおかしくなっちゃうお」
(-_-)「いつまでも停滞させているわけにもいかない。
そのうち、バランスが崩れて再構成できなくなる可能性もあるからね」
心配そうに、ツンはブーンを見やる。
それは製作者としてだろうか、保護者としてだろうか、それとも。
ξ゚听)ξ「……ブーン」
( ^ω^)「お?」
ξ゚听)ξ「頑張ってね」
235 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:09:54.65 ID:SBh/PKqY0
ブーンは先ほどまで別のアンドロイドが座っていた椅子に座る。
その彼にツンさんが、実に手際よくコードを取り付けていく。
さすが本職。
ξ゚听)ξ「……終わりました」
(-_-)「ありがとう。それじゃ、ブーンから離れて」
名残惜しそうにツンさんはブーンから離れる。
ブーンは静かに目を閉じた。
「再構成プログラム起動……」
その声が生身の人間の声なのがなぜか痛々しく思える。
236 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:10:29.26 ID:SBh/PKqY0
(-_-)「ああ、そうだツン」
ξ゚听)ξ「はい?」
先生がポケットから、先ほどビコーズから渡された写真を取り出す。
そしてそれを、ツンに手渡した。
ξ゚听)ξ「あ……」
(-_-)「これ、もういらないよね?」
その声は別に嫌味たらしくない。
まるでツンさんの答えが予想できているかのようだ。
はたして、ツンさんは頷いた。
ξ゚听)ξ「もういらないです」
(-_-)「だよね。必要にしていたらこんなところに忘れていくはずがない」
ξ゚听)ξ「悲しいけど、もう彼は戻ってこないし」
237 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:10:55.10 ID:SBh/PKqY0
(-_-)「ツン」
ξ゚听)ξ「はい?」
(-_-)「僕がしたことは、余計なことだったかな」
ξ゚听)ξ「そんなこと……うん、そうかも」
ツンさんはいたずらっぽく呟く。
本気ではない。
ξ゚听)ξ「でも感謝はしてる。過去を忘れることができたから」
(-_-)「……本当に、忘れ去ることができたの?」
ξ゚听)ξ「どうなんだろ……だって」
ツンさんは、すでに人間としての意識を閉じてしまっているブーンに向く。
そして、こめかみを手でおさえた。
ξ゚听)ξ「今の私には、あのブーンが必要だから……」
(-_-)「僕が歪めてしまったかな」
ξ゚听)ξ「自虐してどうすんのよ。私は大丈夫だからさ!」
そうして、ツンさんは先生の背中を平手で強く叩いた。
それはまるで、自分に対する喝のようだった。
238 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:11:24.68 ID:SBh/PKqY0
(-_-)「それじゃあ、始めようか」
先生がボタンを押す。
それと同時に、ブーンの身体が痙攣したかのように動いた。
「再構成プログラム開始準備……」
僕らはただそれを見守るのみだ。
コンピューターの画面が次々と切り替わっていく。
「準備完了……起動開始……」
異変が起きたのは、まさにその時だった。
扉の向こうから、誰かの怒声が聞こえてきたのだ。
239 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:16:00.19 ID:SBh/PKqY0
あの人……ジョルジュだ。
だが足音は二つある。
足音が迫る。
恐怖のようなものが身体をせりあがる。
緊張感が包む。
そんな中でも、再構成のプロセスは着実に進行する。
瞬間、鉄扉が蹴り開けられた。
( ゚∀゚)「お前、やめろ!」
遠くからジョルジュの叫び声。
入ってきたのは、まぎれもないアンドロイドだった。
そしてその手に……銃。
240 :嫁と初詣:2006/12/29(金) 22:17:13.01 ID:SBh/PKqY0
( ,'3 )「……」
(-_-)「!」
アンドロイドは無言で銃を、まさに再構成を進めているブーンに向けた。
止めようとツンさんが走る。
だが、間に合わない。
銃声が響いた。
そしてその銃弾はしっかりと、ブーンを貫く。
( ω )「ピー……」
( ,'3 )「……しゃっとだうん……」
そんな電子的な声と共に
アンドロイドは地面に伏した。
刹那、ツンの絶叫が轟いた。
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